01ゴールを決めるプロセスを確認するOKRを活用する際には、2つの大きなプロセスがあります。1つは「ゴールを決めるプロセス」です。OKRでは、チームメンバー自らが「ワクワク」するようなゴールを作ります。もう1つは、「ゴールに向かうプロセス」です。メンバーの力を合わせ、自ら決めた「ワクワク」するゴールに向かって、チーム一丸となって進んでいきます。この章では、最初のプロセスである、ゴールとなるOKRを決めるプロセスをご紹介します。ゴールを決める(=OKRを設定する)には、「チームの境界を決める→チームのミッションを決める→マイルストーンを決める(3カ月単位のObjective)→モデルを作成する→目標を決める(Objectiveに対するKeyResult)」というプロセスを踏みます。OKRでは、1つのObjectiveに対して、3つ~5つ程度のKeyResultを決めることが推奨されています。このObjectiveとKeyResultを決める流れとも言えます。
02チームの境界を決める最初に対象とするチームを決めます。チームメンバーの全員が、そのチーム専任であれば、簡単にチームの境界を決められることでしょう。また、特別なミッションのために新たに作成されたチームであれば、境界を決めるのに悩むことはありません。しかし、多くのチームでは、これまでのさまざまな歴史的な事情によって、現在のチームとなっているのです。メンバーの中には複数の業務を掛け持ちしている人もいるかもしれません。理想は組織上のチームにいる全員で1つのOKRを使ってゴールを設定することですが、業務があまりにも異なっていると、同じOKRは使えません。最初の導入では、この後に決めるミッションを念頭に、対象となるメンバーを定めてください。うまく回せるようになってきたら、メンバーを増やして、チームを拡大していきます。次の図は、6人のメンバーで4つの業務を担当している例です。線の太さは、業務への注力度を表しており、太いほうがより注力度が高いとご理解ください。
業務Bに携わっている人が最も多いので、この業務を中心としてOKRを導入することとし、次のステップでミッションを考えていくことにします。Bさん、Cさんは他の業務を兼務していないので、確実にこのチームのメンバーとします。Aさん、Dさんは他の業務と兼務していますが、業務Bへの注力度が高いのでメンバーとして問題ありません。Eさんは、業務Bにも関わっていますが、他の業務のほうへの注力度が高いので、まずはメンバーから外して考えます。Fさんに関しては、業務Bとの関わりがないので、当面はメンバーとして考えないようにします。これで、OKRの適用対象となるチームの境界が決まりました。
03チームのミッションを決めるミッションはチーム全員で決めていくOKRを適用するチームを決めたら、そのチームのミッションを決めます。リーダーが「えいやっ」で決めて、それをチームメンバーに伝えるというようなトップダウン式もありますが、正直なところそのやり方はおすすめできません。メンバーが思っているミッションはそれぞれ少しずつ認識が異なっていることが常です。これまで長く続いてきた職場のチームであれば、当初のミッションがぼやけてしまったり、個人の認識の違いが大きくなっていたりするかもしれません。個々の認識が違う状態で、上から押しつけるのは避けるべきです。時間を取って、チームのミッションは何かをすり合わせていきます。ただし、最初にミッションを持った人だけがいて、そのミッションのもとにメンバーが自主的に参加したというのならば、この限りではありません。最初からミッションが揃っているとみなしてもよいでしょう。ミッションの決め方ミッションを決めるときは、まず、みなさんのチームがあることでどのようなメリットがチームの外に影響するのか、もしくはチームが機能しなくなることでどのようなデメリットがチームの外に影響するのかを明文化しましょう。たとえば、社内のセキュリティを守っているチームは、セキュリティ事故を起こさないことが求められます。事故が起きなければ素晴らしいチームとして評価されるべきですが、周囲からは目立たないため評価される機会が少なく、チームとしてのモチベーションが低くなることがあります。しかし、セキュリティを守っているチームが機能しなくなってしまえば、事故が増えるでしょうし、事故後の対応で社内の多くの業務が止まってしまえば、企業として大きな損害となります。ミッションを言葉にするのが難しいと感じる場合は、このように、チームがチームの外側に対してどのような影響を与えるかということから考えてみてください。チームのミッションの決め方の例をご紹介します。付箋紙を使って意見を集め、その内容をもとに文章化するという方法です。①付箋紙に「我々の顧客」を書く→1人で何枚書いてもかまいません。顧客とは、チームの成果を嬉しいと思う人、喜ばせないとと思う人です。セキュリティチームなら、社内の全従業員や、取引先も含まれるでしょう。販売をしているチームなら、買いに来るお客様です。②各人が書いた「我々の顧客」を貼り出す。貼る際に同じものがあれば、重ねて貼る③「我々の顧客」を選択する→候補が2つならば単純な多数決で決めます。候補が3つ以上あるならば、1人2票や3票で候補を選択するという、複数投票権方式を採用します。1つに決めないほうがいい場合(複数の顧客がいる場合)は、無理に選ぶ必要はありません。④③で決めた顧客を対象として、付箋紙に「顧客が我々に望んでいること」を書く→実際の顧客に会うことができるならば、望んでいることを直接聞くのが一番です。会えない場合は、過去の経験などから想像で挙げます。⑤②~③と同じ手順で、「顧客が我々に望んでいること」を3つ以内に絞り込む⑥「顧客が望む状態を実現すること」を対象に、付箋紙に「我々が提供すること」を書く⑦②~③と同じ手順で、「我々が提供すること」を3つ以内に絞り込む⑧これまでに挙がったキーワードをつなげて文章にする「我々セキュリティチームは、セキュリティリスクを徹底的に排除し、社内のIT利用者にセキュリティを意識させずに、安心して効率的に業務を行えるようにする」「我々セキュリティチームは、社内のIT利用者のITリテラシーを向上させることで、セキュリティ事故を未然に防ぐ」「我々営業チームは、お客様の課題に対して、自社製品を組み合わせた解決策を最短時間で提供する」
04マイルストーンを決める(3カ月単位のObjective)ミッションのタイプを確認するミッションには大きく2つのタイプがあります。1つは、新たなモノ・コトを作り出す、クリエイティブに重きを置いているタイプ。もう1つは、現状を維持したり、よりよい状態へ少しずつ改善したりすることに重きを置いているタイプです。新規ビジネスの立ち上げや、新製品の開発は前者です。社内のITセキュリティを守るといったものは後者です。営業に関しては、提案型ならば前者ですが、ルート営業であれば後者になります。このミッションのタイプによって、マイルストーンの考え方が変わります。クリエイティブなミッションの場合、現状が0だとすると、新たに1を生み出したり、1のものを1年かけて100にするようなイメージです。一方で、現状の維持や改善に重きを置いているミッションの場合は、現状が100だとするとそれを100のままずっと維持していくか、1年かけて100を120にするようなイメージです。数値的に見ると、パッとしません。しかし、何かしらの活動をしなければ、1年後には100が50になるなど、状況が悪化してしまいかねません。ただ、1年という期間は、現在のビジネスサイクルでは長いので、3カ月や1カ月といった短い期間で区切ります。3カ月で区切るならば、3カ月後にどうなっているかを、定性的な表現で表します。これがObjectiveになります。「O(Objective)」はワクワクする内容にする英語を勉強する方の中には、「TOEICで600点を取る」といった目標を立てたことのある人も多いでしょう。ただ、数値だけだとちょっと無機質に感じます。それよりも「海外出張で現地の方と商談をまとめられるようになる」「海外旅行でショッピングの際に値切れるようになる」といった、なりたい自分を強くイメージして勉強に臨んだほうが、モチベーションが上がる気がしませんか?OKRでもこれと同じように、やる気を鼓舞するような内容をObjectiveとします。繰り返しになりますが、Objectiveを決めるときにもう1つ大事なポイントは、「野心的(Ambitious)」であることです。計画時点でその達成確率が60~70%であると思えるような内容を設定します。このときに競合他社の情報を参考にするかもしれません。そのとき、「競合他社が○○だから、我々は□□にする」というような、競合他社を強く意識した目標は決めやすいですが、ワクワクしません。それよりは、まだ「この業界で1番になる」のほうがワクワクするのではないでしょうか。
05モデルを作成するOKRの「O」であるObjectiveが決まったら、次はこのObjectiveの達成に向かって進んでいることを示す目標値であるKeyResult(「KR」)を決めます。KeyResultは、Chapter1で述べた通り、数値で表せるものにします。チームの成果を上げるためにどのような活動があり、それがどのように影響し合っているかが理解できていれば、KeyResultはすぐに決められるでしょう。しかし、そうでない場合は分析的にモデルを作成するのをおすすめします。特に、新しく何かを始めるときは、その領域の知識が乏しいでしょうから、チームメンバーで意見を出し合いながら、仮説を組み上げていきます。Webシステムを用いて商品を販売しているチームが、販売数を増やすことを例にとって考えてみます。ここでは、次のような因果ループ図で表現します。黒く塗りつぶした矢印は、矢元の値が増えると、矢先の値が増えるということを表します。白抜きの矢印は、矢元の値が増えると、矢先の値が減ることを表します。2本線は遅れを表します。遅れとは、矢元の変化が起きてから、矢先に変化が出るのに時間がかかるという意味です。
①の因果ループ図では……・販売数を増やすには、Webシステムを利用する会員数を増やす必要があります。・会員数を増やすには取扱商品数を増やす必要があります。買いたいものがなければ、会員にはなろうとはしないという考えが根底にあります。・取扱商品数を増やすには、販売数を増やす必要があります。②の因果ループ図では……・悪い評判が増えると、販売数は減るはずです。③の因果ループ図では……・取扱商品数が増えるとシステムの処理が遅くなっていき、システムの使い勝手が悪くなり、次第にシステム品質が落ちてしまいます。・システム品質が落ちたことが認識されるようになると、悪い評判が増えてきます。このようなモデルを、チームメンバーの知見を寄せ集めて作っていきます。ここで注意が必要なのは、詳しい識者がいると細かな情報に目が行ってしまって、図が複雑になってしまうことです。図が複雑になると理解しにくくなるので、適宜抽象的な表現を使ってまとめていって、シンプルになるように描きます。ここで描いたモデルはあくまでも仮説ですので、このモデルに縛られすぎないようにしてください。ちなみに、このようなモデルを描く際には「ベゾスのペーパーナプキン」などが参考になるでしょう。
06目標を決める(Objectiveに対するKeyResult)どの指標に注目するかを決めるモデルが描けたならば、どの数値に注目するかを決めます。モデルから3つほど指標として選択するとよいでしょう。前述のWebシステムによる販売のモデルであれば、要素が5つ(販売数、会員数、取扱商品数、悪い評判、システム品質)しか挙がっていませんから、すべてを指標としたくなりますが、指標が多いと集中できません。また、それぞれの指標の状況を評価する際に、時間がかかってしまいます。多くても3つ選べば十分です。「販売数」と「会員数」は最低限選びます。今後のことを考えると「システム品質」も選びたくなりますが、Objectiveをどのようにしているかで判断します。会員数がこの3カ月~6カ月で、1万倍になるようであれば、システム品質を指標として数値を追いかけていく必要があります。しかし、すでに安定しているようであれば、そこにリソースを費やすべきではありません。具体的な数値目標を決め、「KR(KeyResult)」とする指標を決めたら、現時点の状況とマイルストーンから、具体的な数値目標を決めます。これがKeyResultです。KeyResultが3つほど決まったら、優先順位をつけます。高中低といった優先度ではなく、優先順位です。すべてのKeyResultを達成するべく行動をしていきますが、その際にどの順番で注力するべきかを判断する際の判断基準となります。環境が複雑な場合は、モデルを描くのに時間がかかってしまいます。指標を決めるのに長期間かけてしまい、肝心の行動ができないというのはナンセンスです。時間がかかりそうな場合は、ひとまず直感でKeyResultを決めるという方法でも問題ありません。
07KeyResultはSMARTで考えるKeyResultを決める際は、多くの目標設定手法で活用されている「SMART」と呼ばれる考え方が参考になるので、ご紹介します。S(具体的に)、M(測定可能な)、A(達成可能な→野心的な)、R(関連した)、T(期限がある)です。S:Specific(具体的に)チームの誰が読んでも認識の齟齬が生じないように、具体的な言葉で書き表します。前項の例で言えば、「販売数」や「会員数」などはわかりやすいですが、「システム品質」は曖昧です。「検索の時間」「会員からの問い合わせ数」といった数値にします。M:Measurable(測定可能な)マイルストーンまでの間、KeyResultで達成の程度を確認します。現在の状態がわかるように定量化するとともに、測定の方法も明確にしておきます。A:Achievable(達成可能な)→Ambitious(野心的な)一般的な目標管理手法であれば、理想を追い求めすぎず、「ちょっと」頑張れば達成できるようなレベルに設定することが推奨されます。しかし、OKRでは期限までに達成できるかどうか、感覚値で60~70%となるようなレベルで目標を設定します。Objectiveの達成確率が60~70%になるようにしていれば、自ずとKeyResultの達成確率も同じになるのですが、具体的な数値を見ると、「100%達成しなければならない数値目標」という考えについとらわれてしまいがちです。気をつけてください。R:Relevant(関連した)KeyResultは、Objectiveを達成するのに必要な内容となっていなくてはなりません。作成したモデルから指標を選んでいるならばこの「R(Relevant)」の項目は問題ありませんが、KeyResultを直感で決めた場合や、曖昧な指標を具体的な表現に直した場合は、ずれが生じることがないようにします。T:Timebound(期限がある)目標を達成する期限です。マイルストーンを3カ月で区切っているならば、3カ月後です。
08OKRの設定例OKRの設定例をいくつかご紹介します。【病棟の看護師チームの例】Objective働きやすい職場にするKeyResultA:患者からのクレーム0件B:ネガティブ理由による退職者0人C:残業時間を30%削減するD:各人の残業時間のバラツキ20%以下看護師不足が問題となっている病院での、病棟看護師のOKRの例です。現場の課題として、「独身の看護師に負荷がかかる」「新人が定着しない」などがあり、それらの課題からKeyResultを決めています。【オーダー式食べ放題チェーン店の店舗の例】Objectiveお客さんが笑顔で帰っていくお店にするKeyResultA:端末からの注文から配膳までの時間3分以内B:セルフコーナーの食材、食器不足のクレーム0件C:売上X円D:利益率Y%収益向上を大目的として、各チームに改善活動を始めた外食産業の、ある店舗でのOKRの例です。収益向上を大目的とすると、Objectiveに「売上」や「利益率」などを挙げてしまいがちですが、それだと「ワクワク」しません。そこで、店舗のスローガンとして「お客さんが笑顔で帰っていくお店にする」をObjectiveにしました。なお、このObjectiveも、当初は「最高のおもてなしをする」というものだったのですが、「おもてなしをする」というのはスタッフ側の自己満足に過ぎません。「おもてなしをした結果どうなるか?」という観点から、「お客さんが笑顔で帰っていくお店にする」に着地しました。KeyResultには、当初「おいしい食事を提供する」というものが挙がりましたが、これは飲食店として当たり前のことであり、また測定が難しいため、却下。「値段が高ければおいしいはず」という意見もありましたが、そうなると収益向上につながるとは判断できないというのも、却下の理由でした。【システムインテグレータの人材採用チームの例】ObjectiveWebマーケティング事業で一番になるKeyResultA:データサイエンティストを採用する→3名B:データサイエンティスト候補と面談する→20名C:データサイエンティストの職務が定義されているシステムインテグレータで新たな事業分野を開拓することになり、ふさわしい人材を雇用するために、人事部と担当事業部の代表で人材採用チームを結成。そのチームのOKR例です。当初は、Objectiveが「データサイエンティストを3名採用する」、KeyResultが「人材募集サイトに告知を掲載する→10サイト」「告知文を作成する」というものでした。これでは「KeyResultがタスクになっている」という、好ましくない兆候が出てしまっています。そこで、チームで「なぜ、データサイエンティストを3名採用する必要があるのか?」についてディスカッションをしてもらったところ、「Webマーケティング事業で一番になる」へとメンバーの意見が収束されていったため、それを新たなObjectiveとしました。このディスカッションの中では、「そもそもデータサイエンティストってどういう人なのか」という疑問も挙がりました。実は、誰しもぼんやりとしたイメージはあったのですが、言葉にしようとするとできなかったのです。そこで、それを決めるということを、最初のKeyResultとしました。
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