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第2章ついに成立した「パワハラ防止法」。そのポイントは?

第2章ついに成立した「パワハラ防止法」。そのポイントは?本章でお伝えしたいこと●「何がパワハラになるか」が明確に定義された●企業にはパワハラ防止対策が求められる●「パワハラ防止」の流れは加速度的に強まる

5分でわかる!「パワハラ防止法」の要点◆「パワハラ防止法」という法律はありませんが……法律は、時代に応じて変化していくものです。セクハラに関する法規制が最初に行われたのが1997年。そして2019年5月、ついに職場におけるパワハラについての法律が成立しました。これがいわゆる「パワハラ防止法」です。誤解されがちなことですが、今回「パワハラ防止法」という新しい法律ができたわけではありません。今ある法律に改正が加えられたのですが、その法改正の通称として「パワハラ防止法」という名称が使われているのです。ちなみに、この点は2019年4月1日より施行された「働き方改革関連法」についても同様です。働き方改革関連法という新しい法律ができたわけではなく、労働基準法など従来の法律に加えられた改正の総称が「働き方改革関連法」と呼ばれています。今回、ハラスメント関係で改正されたのは以下の4つの法律となります。1労働施策総合推進法2男女雇用機会均等法3育児・介護休業法4労働者派遣法このうち「パワハラ防止法」と呼ばれるのは1の「労働施策総合推進法」の改正ですが、それに加えて他の法律を改正することにより、パワハラをはじめとした各種ハラスメントへの対応強化を図る。これが今回の法改正の全体像です。◆ざっくり言えば要点は5つだけでは、何がどう変わったのか。まずはざっくりと要点だけをお伝えしたいと思います。1すべての企業に対して、職場におけるパワハラの防止や相談についての対策の実施が義務づけられた2法律とそれに基づく大臣指針により、「どのような言動が職場のパワハラになるのか」が明確に定義された3国に対して、パワハラを含むすべてのハラスメントへの対策を、国の施策として行うことが義務づけられた4従来から法律で規定されていたセクハラ、マタハラ、ケアハラ等について、労働者が「そのことを会社に相談したこと」によって、会社がその労働者に対し不利益な取り扱いをすることが禁止された5パワハラ問題の解決に「個別労働紛争解決制度」の「調整委員会による調停」が利用できるようになった

他にも細かいことはいくつかあるのですが、「ざっくり言えば」この5つになります。◆パワハラ対策がすべての企業の義務に中でも大きなポイントが、職場におけるパワハラが法律で定義されるとともに、パワハラ防止対策が国と企業に義務づけられたということでしょう。前述したように、パワハラ問題がもたらすリスクを考慮し、独自のパワハラ対策を進めてきた企業もあります。ただ、それは全体の一部にすぎませんでした。これが義務化されたことで、企業は否応なしに対策を進めなくてはならなくなりました。この法律は2020年6月1日から施行されます。ただし、中小企業のパワハラ対策の実施については、2022年3月末日までは「努力義務規定」、つまり「できるだけ実施に努めてくださいね」ということになります。2022年4月1日からは大企業と同じく「実施義務規定(強行規定)」となります。中小企業は大企業に比べ多少猶予があるとはいえ、早め早めの準備をしておくに越したことはありません。◆知っておきたい「パワハラの定義と6類型」そして、もう一つのポイントが、「何がパワハラかの大臣指針が示された」ことです。実はこれまで、「何がパワハラに当たるのか」について、法律の条文による明確な定義はありませんでした。では、何をもって問題になるかどうかを判定していたかというと、過去の裁判例(判例)がその役割の一部を果たしていました。たとえば、前述で上司が部下に対し、侮辱的なメールを本人だけでなく他のメンバーにも送信した保険会社のケースを紹介しました。この事案の判決の中で、裁判所が損害賠償責任を認めたことで、「叱咤激励のためとはいえ、侮辱的な文面を社内の周りの人にまで送るのは法律的にルール違反となるのだな」と判断できるわけです。しかし、そもそも裁判になるようなケースは、パワハラによって自殺に追い込まれてしまったりといった、極めて深刻かつ悪質なケースがほとんどです。それを判断基準にしたところで、パワハラ全般についての根本的な防止にならないことは明らかです。そこで今回、パワハラとは何かを法律の規定により定義するとともに、厚生労働大臣による「指針」という形で、「具体的に何がパワハラに該当するのか」が明確化されることになったのです。法律の条文では、以下の要素をすべて満たすものが、職場におけるパワーハラスメントであると定義されました。●職場において(社長・取締役・管理監督者等の上司・同僚・部下による)●優越的な関係を背景とした言動であって●業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより●(その事業主の雇用する)労働者の就業環境が害されるもの(身体的もしくは精神的な

苦痛を与えること)それに加えて、厚生労働大臣指針(告示)によってパワハラの「6つの類型」がより詳しく定義されました。●身体的な攻撃(暴行・傷害)●精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)●人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)●過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)●過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)●個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)詳細は第3章でご説明しますが、この指針の内容は、従来から「これはパワハラになる」と考えられてきたものと、それほど大きな差異はないというのが正直なところです。ただ、こうして国の指針として定められたことに、意味があると言えるでしょう。◆少々わかりにくいセクハラ・マタハラのルール変更一方、すでに法律が存在しているセクハラやマタハラに関しては、今回の法改正によって何が変わったのか、少々わかりにくいかと思います。セクハラやマタハラに関しては以前より、「男女雇用機会均等法」などによって、会社に措置義務が課されていました。たとえば育児休業を取ったことに対してその社員が解雇されるようなことはもちろん、上司や周りの従業員がその人に対して嫌がらせなどをすることが禁止されていたわけです。今回はそれに加えて、もしセクハラやマタハラを受けた社員が会社に相談した際、そのことを理由として、会社が不利益な取り扱いをすることが禁止されたのです。

また、事業主に対して新たに「男女雇用機会均等推進者」を選任する努力義務が規定されました。派遣労働者を受け入れて使用している派遣先事業主についても、その派遣労働者を雇用している事業主とみなしてパワハラ対策を実施することが義務として課されました(セクハラ、マタハラ等についてはすでに規定あり)。こうした説明だけではわかりにくいところがあるかと思いますが、ざっくり言えば「以前から存在していたセクハラやマタハラについての法規制の実効性をより一層高める」ことが、今回の法改正の狙いと言えるでしょう。以上が、今回の法改正の「ざっくりとした」全体像です。これを受けて、「事業主側」つまり経営者や役員、人事・労務担当者、そして管理監督者(上司)は、早急にパワハラ防止法を理解し、その対策を講じることが求められます。一方「労働者側」、つまり働く一般社員も、パワハラのルールを理解して、パワハラ防止に努める必要があります。そうしないとお互い、大きなリスクを背負うことになる。それが今回の法改正の目的でもあり、目指すところでもあるのです。

「大企業」と「中小企業」で異なる点とは?◆意外と広い?大企業の定義「パワハラ防止法」の施行により、すべての企業にはパワハラ防止措置を実施することが義務づけられました。詳細は第5章で述べますが、就業規則等においてパワハラ禁止の方針を明記するとともに、違反した社員への懲戒処分規定や相談窓口を設ける、といったことが必要となってきます。この法改正はまず、大企業について2020年6月1日から施行されます。つまり、大企業はこの日までに具体的な対策を立て、実施する必要があるということです。中小企業に関しては、「2022年3月末日までの間は、努力義務とする」とされています。つまり、その間は「できるだけ努力する」でいいことになります。とはいえ、2022年4月1日には義務づけられるということで、それほど多くの時間があるわけではありません。一見、大変そうではありますが、すべてを一から作る必要があるわけではありません。企業にはすでに、男女雇用機会均等法において、セクハラやマタハラの防止措置が義務づけられています。つまり、すでに存在しているはずのセクハラ等の防止措置に、パワハラも加えればいいということ。そう考えれば、いくぶん気が楽になるのではないでしょうか。ちなみに、大企業と言うと「社員数が数千人の巨大企業」を思い浮かべる人も多いと思いますが、ここで言う大企業と中小企業の定義とは中小企業庁が定めるもので、一般的なイメージとはかなり乖離しているので注意が必要です。具体的には次の図のようになります。この定義だと、世の中的には「中企業」くらいの認識の企業も大企業に含まれるということがあるはずです。

自分の会社はどちらに入るのか、改めて確認しておきましょう。

もし、違反したら……。意外に大きなダメージが◆「企業名が全国にさらされる」ことのダメージは想像以上さて、企業がこれらの法律に違反したらどうなるのでしょうか。たとえば、相談窓口を設ける義務を怠ったり、事前に「パワハラに関する相談内容は口外しない」という約束だったものが上司に伝わってしまい、それによってさらにパワハラがひどくなってしまった、といったケースです。2019年に施行された「働き方改革関連法」では、年次有給休暇取得義務に違反した企業に罰金刑などが科されることになり、大きな話題となりました。それに対してパワハラ防止法においては、法違反した企業に罰金刑などが科されることは、今のところありません。その代わり、違反した企業の名前が公表されることになります。より具体的には、問題が発覚した場合、まずは厚生労働大臣、または都道府県労働局長による勧告が行われます。そして、それに従わなかった場合、その旨を公表することができるという「法違反事業主名の公表」の規定が設けられたのです。また、厚生労働大臣は、事業主から「パワハラ防止・相談等の措置義務」及び「不利益取扱いの禁止」の法規定の施行に関し、必要な事項について報告を求めることができる規定が設けられました。その際、報告をしなかったり、あるいは虚偽の報告をした場合、「20万円以下の過料に処する」とされています。はっきり言って企業にとって、このくらいの罰金が経営にダメージを与える、ということはないでしょう。むしろ、勧告に従わなかった場合に「会社名が公表される」ということのほうがダメージが大きいと思われます。これはいわば「パワハラ企業」というレッテルが貼られることと同義だからです。◆「指針」が事実上のルールになる理由では、先ほど述べた厚生労働大臣指針(告示)に照らし合わせ、明らかに「パワハラ」だという事案が発生したときには、企業や上司はどうなるのでしょうか。これについても、「指針に違反したから即有罪!」といったことはありません。指針とはあくまで「ガイドライン」のことであって、事業主に対しての強制力を持つものではないからです。ただし、企業がパワハラを受けた社員からの申し出に対して適切に対処することができず、裁判となった場合、この指針が根拠とされることが予想されます。つまり、パワハラ被害を受けた労働者が訴えを起こした場合、上司は不法行為を、そして企業も安全配慮義務(就業環境保全義務、労働者の健康保全義務)不履行などにより損害賠償を請求されるということです。また、個別労働紛争解決制度による勧告やあっせん、調停の際の判断基

準にも用いられます。だからこそ、強制力がないとはいえ、指針が事実上の「パワハラのルール」となるのです。

今回の法改正が示す「本当の重要性」とは?◆法律は徐々に「労働者を守る」方向に今回の法改正により、「パワハラが法律で定義されるようになった」と聞いて、今さら感を持つ人もいたかと思います。法律が世の中の流れに合わせて作られるものである以上、時代の流れより常に一歩、二歩遅れがちになるというのは、やむを得ない部分もあります。それでもこの数十年、労働関係の法律は徐々に「労働者を守る」方向へと動いてきているのは、紛れもない事実です。たとえば、2019年4月に施行された通称「働き方改革関連法」ですが、この法律の肝の一つが、労働時間の上限の設定および、年次有給休暇の取得の義務化でした。そして、それらの法規定を守らない企業には罰則を与えるということで、企業に対してより強制力を高めているわけです。まさに、労働者を守る方向の法改正だと言えるでしょう。今回のパワハラ防止法も、「労働者を守る」という流れに沿った法改正であることは明らかです。◆誕生から20年でついに「法律」にパワハラ防止法の成立は2019年5月、施行は2020年6月1日ですが、ここに至るまで、パワハラについての対応は徐々に進められてきました。たとえば2009年4月に、「労働者災害補償保険法」に基づく労災認定の基準が改正され、パワハラなどを表す「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が追加されました。さらに2011年には、心理的負荷による精神障害の労災認定基準が策定され、この認定を受ければ労働基準監督署から各種の労災給付が支給されることになりました。これらは、パワハラなどの各種ハラスメントによってメンタル不調をきたした人への救済措置です。一方、2011年度には、厚生労働省主催で「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が行われ、パワハラの定義が設けられました。この定義は、今回の法改正の基本的な考え方となっています。また、2017年度には、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」が開かれました。こうした動きを踏まえ、2019年になってついに「パワハラ防止法」の成立に至った、という流れになります。パワハラという言葉が生まれてから約20年かけてようやく法律化された、ということになります。◆見逃されがちだけれど実は重要な「国に対する義務づけ」今回の法改正に関して、「つまり、従来から問題視されていたパワハラについて、やっとルールが決まったわけだね」と考えられるかもしれません。確かにそのとおりではあります。ただ、「たったそれだけのこと」だと考えると、その

本質を見誤りかねません。先ほど、今回の法改正は「国と企業にパワハラ対策を義務づける」ものだと述べました。具体的には、労働施策総合推進法において、国の施策として「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること」が規定されました。また、すでに法律が整備されているセクハラやマタハラについても、法改正によってその実効性の強化が図られたと述べました。これはどういうことかというと、国全体として「ハラスメントをなくすこと」を目指すとともに、その体制が整ったということを意味します。これは、私のように長年、労働法令に携わってきた者からすると、非常に意義深いことです。まさに、国の姿勢が180度変わったことを意味するからです。◆今後、加速度的に「パワハラに厳しい時代」がやってくる?労働施策総合推進法はかつて、「雇用対策法」という名称でした。そのことからもわかるように、あくまでも国や企業の視点から、どのように労働力を確保するかに重点が置かれていた法律だったのです。その後、時代の変化に応じて、徐々に法律の重点が「働く人」のほうにシフトしていきました。そして今回、かつての雇用対策法である労働施策総合推進法において、パワハラの防止が謳われました。視点が180度変わったというのは、こういうことです。そしてそれは、国の姿勢にも大きく影響するものと考えられます。すでに数年前から厚生労働省はセクハラ・パワハラ対策に力を入れてきましたが、今回、法律的な裏づけができたことで、それに一層拍車がかかると思われます。それは、企業側からすれば取り締まりがより強化される可能性があるということであり、世の中全体として今よりさらに、パワハラに対する風当たりが強くなるということでもあります。現在は「名前を公表する」というだけの対応についても、今後見直されるかもしれません。そこを見誤ると、企業の死活問題にもなりかねない。そのことをぜひ、再認識していただければと思います。

columnパワハラが発生しやすい職場の「ある共通点」さて、チェックしてみていかがだったでしょうか?もし、あなたの職場が半分以上当てはまるようなら、少々気をつけたほうがいいかもしれません。このチェックリストは私自身の経験と、厚生労働省が発表している以下のデータを基に作成したものです。パワハラに関する相談があった職場の特徴についての調査結果です。上司と部下のコミュニケーションが少ない職場45・8%失敗が許されない/失敗への許容度が低い職場22・0%残業が多い/休みが取りにくい職場21・0%正社員や正社員以外(パート、派遣社員など)など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場19・5%従業員数が少ない職場13・1%様々な年代の従業員がいる職場11・9%他部署や外部との交流が少ない職場11・8%(資料出所)厚生労働省、平成28年度「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(抜粋)」これを見る限り、「普段からコミュニケーションが少ないこと」が、パワハラの起こりやすさに最も関係しているようです。確かに、同じことを言われたとしても、普段から気心がわかっている人同士とそうでない人とでは、受け取り方に大きな違いが出てきます。逆に言えば普段からきちんとコミュニケーションを取っておくことが、最大のパワハラ防止になるのかもしれません。また、失敗が許されない職場でパワハラが発生しやすいというのは、想像できることです。残業が多い、休みが取りにくい職場も含め、「会社の余裕のなさ」が、パワハラにつながってしまっているのでしょう。多様な人たちが一緒に働く職場でパワハラが起こりやすいという傾向がある一方で、外部との交流が少ない、いわば固定化されすぎている職場でもパワハラが起こりやすいという、両極端の傾向があるのは興味深い点です。組織の構成メンバーに適度な流動性を持たせつつ、多様な人材に十分に力を発揮してもらえるようにする「ダイバーシティ・マネジメント」の能力が企業経営に必要とされる。

そんなことが言えそうです。

Q6上司がこぼしたコーヒーで大やけど!わざとじゃないのはわかってるけど……これ、パワハラでは?

Aパワハラではありません。部下に殴りかかるなど、故意に身体的な攻撃をすることは明らかにパワハラですが、この例のように「ついうっかり」の場合は、パワハラとはなりません。ただ、故意でないとはいえ大怪我をさせてしまったり、何かモノを破損させてしまった場合は、それに対する損害を賠償する必要が生まれるかもしれません。

Q7同じ野球好きだけれど、好きなチームは異なる上司と私。野球の雑談をするうちになんだか険悪な雰囲気になり、上司が「〇〇ファンなど出ていけ!」などと大暴言を!これ、パワハラでしょ?

Aこのようなことが連日続くようなら、パワハラになる可能性が高いと考えられます。「業務上必要かつ相当な範囲」の発言ならばパワハラにはなりませんが、この話の内容はどう見ても業務に関係していません。そのうえで、他のパワハラの要件を満たしていると考えられるからです。雑談とはいえ、その内容には十分気をつけたいところです。

 

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