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第5章国家公務員と地方公務員の職場はどうなるか

第5章国家公務員と地方公務員の職場はどうなるか公務員の種類と数前章までの法律の説明の補足として、本章では公務員の職場でのパワハラについて、法律的な見地からの解説を加えておきたい。民間企業の方にとっては関係ないと思われるかもしれないので、先を急ぐ方は第6章にお進みいただいてもよいが、民間とどう異なるのかという点は知っておいてもよいと思う。一口に公務員と言っても、さまざまな公務員がいる。公務員が国家公務員と地方公務員に分かれているのはほとんどの人が知っているだろう。しかし公務員がそれぞれどれくらいいるかはあまり知られていない。人事院の令和元年度年次報告書によれば、公務員の正規職員は全部で約333万人おり、そのうち国家公務員は約59万人、地方公務員は約274万人いるということである。公務職場のパワハラも増えている公務職場でのパワハラの現状はどうだろうか。国家公務員で見てみよう。人事院は一般職国家公務員を対象に苦情相談窓口を設置して人事管理上の苦情を受け付けているが、ここ最近パワハラの苦情相談が急増している。2019年度では苦情相談事案数1124件のうち27・6%にあたる310件がパワハラ相談だった(人事院「令和元年度における苦情相談の状況」)。これは相談内容のトップである。この傾向は民間での労働相談の傾向と同じである。公務職場でのパワハラが多いことは別のデータからも言える。人事院が2018年に実施した30代の職員(本府省に勤務する行政職俸給表[一]が適用される職員)約6300人を対象とした意識調査は非常に興味深い(人事院平成29年度年次報告書)。まず、入省時から今までで強い不満を感じた上司がいるかどうかについて、78・2%の職員がいると答え、その不満の理由のトップは上司の態度が高圧的というものだった。不満な上司がいるという答えが多いのはわかるとしても、その理由が高圧的というのは上司によるパワハラにつながるだろう。次に、過去数年間で上司から厳しい指導を受けたかどうかについて、あったという職員が62・5%いた。その内容は、「理不尽な指示をされた」「大声で叱責された」「能力を否定された」「机を叩くなど感情的な言動をされた」「人格を否定する発言をされた」「長時間叱責された」などというものだった。この内容はどれもパワハラに該当する可能性が高い言動である。さらにこの上司から厳しい指導を受けたという職員のうち、これらの言動をパワハラと

感じたとする者は38・3%、パワハラとまでは言わないが、不満を感じたとする者が56・9%であった。これらのデータからすると、上司から受けた厳しい指導をパワハラと感じたとする職員の割合は全体で見れば23・9%、つまり約4人に1人はパワハラを受けたと感じたことがあるということになる。人事院公務員研修所の高嶋直人教授は、公務職場でハラスメントが起きやすい理由として、公務職場は同質性が高く、「おかしいことをおかしいと言えない」という風通しの悪い組織になりがちで、「長いものに巻かれる」体質になりやすいと指摘している(高嶋直人『公務員のためのハラスメント防止対策』ぎょうせい・2018年)。管理職はこわがって指導を躊躇この意識調査では、管理職である課長級職員に対し、部下に対する指導についての調査もしている。課長級職員が部下に指導すべき場面で指導を躊躇したことがあるかどうかについて、44・3%があると回答した。その理由として、「部下がかえってやる気をなくす不安があった」(65・9%)、「人間関係に悪影響を及ぼす不安があった」(28・0%)のほか、「ハラスメントと受け止められないか不安があった」という回答が24・3%あった。公務職場でも、ハラスメントと言われるのをこわがって指導を躊躇する管理職が多いことがわかる。またこの調査で、パワハラを受けたと感じた職員を役職ごとに見たデータでは、役職が高いほどパワハラを受けたと感じる割合が高いという結果が出ている。このことは地位が低いほどパワハラ被害が増えるのではなく、逆に地位が高くなるにつれてパワハラを受けることが増えることを示している。知事や市町村長は事業主パワハラの定義や、事業主がパワハラに適切に対応すべき義務、研修実施義務などは、国家公務員は適用が除外されているが、地方公務員は適用除外とはなっていない。ということは、知事や市町村長は、大企業の事業主と同じように、パワハラ防止法とその定義と指針に従った対応をしなければならない。そのため総務省は、パワハラ防止法の指針が出たあと、自治体に対し、この法律と指針についての通知を出している(令和2年〈2020年〉1月17日付け総務省通知)。さらに地方公務員の仕事は文字通り公務なので、国家公務員向けに出している人事院規則や通知にも配慮しなければならない。地方公務員はパワハラ防止法に従いつつ、公務員として人事院が指示することを取り入れなければならない。しかし、地方公務員は、紛争解決のための都道府県労働局長の助言、指導、勧告や調停申請などの適用は除外されている。そのため苦情の行先はそれぞれの人事委員会などということになる。人事院規則の制定人事院は、パワハラ防止法制定の動きに合わせ、「公務職場におけるパワー・ハラスメ

ント防止対策検討会」を設置した。この検討会は、2019年3月から同年12月まで計8回の会議を開催し、2020年1月14日、報告書を公表した。人事院は、この報告書の内容を踏まえ、同年4月1日、「パワー・ハラスメントの防止等」と題する人事院規則10‐16を制定し、同年6月1日から施行した。また人事院は、人事院規則の制定にあわせてその運用についての通知と指針を出した。パワハラの定義の違いこの人事院規則とパワハラ防止法では、パワハラの定義が違う。人事院規則第2条は、定義として、パワー・ハラスメントとは、「職務に関する優越的な関係を背景として行われる、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であって、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなものをいう」と規定している。これをパワハラ防止法と同じように、3要件に分解してみよう。①職務に関する優越的な関係を背景として行われる(第1要件)②業務上必要かつ相当な範囲を超える言動(第2要件)③職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなもの(第3要件)パワハラ防止法の3要件は次のとおりである。①事業主が雇用する労働者に対して、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で(第1要件)②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(第2要件)③労働者の就業環境が害される(第3要件)この2つを比べると、第1、第2要件はほぼ同じである。違うのは第3要件である。ただ、人事院規則の第3要件の規定は立法技術としてわかりにくい文言の使い方をしている。この規定を普通に読むと、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与えること、職員の人格若しくは尊厳を害すること、職員の勤務環境を害することという3つが並列になっているように読める。しかし、この規則の元になったと思われる人事院の検討会報告書の「パワー・ハラスメントの概念」の箇所を読むと、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与えることによって職員の人格若しくは尊厳を害することと、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与えることによって職員の勤務環境を害することの2つが並列されている。この検討会報告書の内容のとおりであれば、規定の書き方としては、「職員に精神的又は身体的な苦痛を与えることにより、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害すること」と書くべきだろう。また、人事院規則のパワハラ第3要件では「となるようなもの」という文言を使ってい

るが、規制対象とする行為を定めるための定義においてこのようなあいまいな文言は普通は使わない。官民格差人事院規則が、検討会報告書の内容のものと理解したうえで比較すると、人事院規則では、精神的または身体的な苦痛を与えることによって職員の人格・尊厳を害することでパワハラとなるが、パワハラ防止法の方は、第4章で見たように、身体的苦痛か精神的苦痛によって就業環境が不快になるだけでなく、さらにそのことで就業上看過できない程度の支障が生じたときにパワハラとなるという違いがある。この定義を比べると、人事院規則の方がパワハラの成立範囲は広くなるだろう。このことをパワハラの「官民格差」と言う人もいる。この違いが生じた理由は、パワハラ防止法の定義は行政指導の基準なので要件を加えたが、人事院規則は行政指導の基準ではなく、会社のパワハラの定義と同じ性質を持つので、定義を広くしてパワハラ防止を図ろうとしたということであろう。もうひとつの官民格差パワハラの官民格差については、公務員のパワハラ行為に対して損害賠償を請求するときにも大きな官民格差がある。民間会社の社員の職務行為による損害であれば、その社員個人と、社員を雇用する会社に対して使用者責任として損害賠償請求ができる。しかし公務員の場合はそうはいかない。会社と同様に、国なり地方自治体に対して使用者責任としての損害賠償請求はできるが、公務員個人に対する損害賠償請求は認められないのである。これは国家賠償法という法律の解釈によって公務員は個人責任は負わないとされているからである。となると、例えば私立学校の教員が生徒に体罰を加えたというパワハラがあった場合、その教員個人とその学校法人が損害賠償責任を負う。しかし公立学校の教員が生徒に体罰を加えた場合には、学校設置者である自治体だけが損害賠償責任を負い、教員個人はその責任を負わない。同じ教育行為の中での違法行為なのに個人責任の点で官民格差があるのだ。国家賠償法という古い法律が公務員を過剰に保護しているということは以前から言われているが、改正の兆しはない。カスハラはどうなったか公務員に対する公務員以外の者からのパワハラとしてのカスハラや、公務員による公務員以外の者に対する就活パワハラやフリーランスに対するパワハラについて、人事院規則ではどうなっているだろうか。結論的に言うと、人事院規則では必ずしも職員間だけを対象にしているようには読めない。それは人事院規則のパワハラの定義に、「職務に関する」優越的な関係とあるが、規

則の運用について出された人事院の通知には、その典型例として職員間の言動だけを挙げる一方で、人事院規則第4条のパワハラに関する各省庁の長の責務としてカスハラ対応の必要性についても書かれているからである。しかし、公務員に対するカスハラや公務員以外の者に対するパワハラについても人事院規則に定め、その禁止を規定すべきだっただろう。この点では法律と同様に問題が残ったままである。もう一つ付け加えておくと、一般職の国家公務員の数からして、人事院へのパワハラ、いじめ・嫌がらせの苦情相談事案数が年間310事案(2019年度)というのは少なすぎるように思う。懲戒処分の基準も定められた人事院は人事院規則の制定に合わせてパワハラについての懲戒処分の指針を定めた。それは次のとおりである。①パワー・ハラスメントを行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は、停職、減給又は戒告②パワー・ハラスメントを行ったことについて指導、注意等を受けたにもかかわらず、パワー・ハラスメントを繰り返した職員は、停職又は減給③パワー・ハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させた職員は、免職、停職又は減給③のようにパワハラで懲戒免職になることもある。会社で言うと懲戒解雇である。この指針は、公務員だけでなく、企業での懲戒処分の量定の参考にもされるだろう。

 

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