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第5章 「広告(会社)」「マーケティング」という呼称定義が常に拡張している

事業解釈の拡張から派生する新しいマーケティングの概念目に見えているようで、見つけられていなかった変化に気づくのは、事業運営において大きな変数価値をもたらします(変数が見つかると楽しくなります)。第3章においては、その変化を「医療事業の側面」から片鱗を紹介しましたが、本章においてさらに身近な「コンテンツ」や「通信(配信)」における変化を紹介します。「変化探し」という視点ではなく、現在の産業同士が互いに干渉し合ったり融合したりしていく様子から「次の一歩」を考えてみる材料とします。寡占のクラウド事業で発生するねじれ現象広告ナシの番組配信を行っていたネットフリックスが2022年11月から広告付きのベーシックプランを開始しました。この「広告なし」のサブスクリプション・モデルから「広告付き」モデルを登場させた衝撃だけでなく、ネットフリックスが「広告配信モデル」のビジネスパートナーとして選択したのがマイクロソフトであるのは次なる変数の予兆に思えます。その背景として、世界で視聴されているネットフリックスの番組コンテンツを、アマゾンのAWSが配信インフラとなって世界各国へ届けている事業構造を例にして紹介します。ネットフリックスは世界のクラウドサービスの「二強」のひとつであるアマゾンのAWSに映像コンテンツ配信を依存しながら、一方で別競合のマイクロソフトに広告データと配信をAWSの回線に乗せてくる「ねじれ」のような構造を作り始めました。ネットフリックスの番組配信に限らず、Eコマース(EC)事業に代表されるD2C事業などのオンライン基点の事業は、「クラウドサービス」という世界規模のインフラに依存しています。この世界インフラは、アマゾンとマイクロソフトの2社が世界の過半シェアを担っていて、あのグーグル(アルファベット)やアリババのクラウド事業ですら、足元にも及ばない領域です。日本企業によるクラウド事業のシェアは極小で、日本市場の中だけに限ってもその存在は小さく、グローバルシェアでの依存度が進んでいます。この大きなインフラ土俵の寡占の傾向を理解した上で、ネットフリックスが「新」広告配信事業のパートナーとしてマイクロソフトを指名した「巨人同士のねじれ」の様子は、新たな「変数(要素)」を生む可能性を秘めています。テクノロジーが深めていく「水平から垂直へ」の事業展開テスラ社のCEOイーロン・マスク氏がオーナーである「スペースX/スターリンク」は、既に3600基以上(2023年2月末現在)の通信衛星を軌道に走らせ、上空からのネット回線の提供を開始しています。日本でも2022年11月から、月額1万円程で利用が可能です。この通信回線を受けられるマスク氏の事業傘下であるテスラ社の車とは、EV走行車としての数百万円の価値よりも、「路上の安全情報」の収集のためのデバイスとして、世界中の数百万台が命に関わる「重い価値」を持つ、人の安全データを毎時毎分アップロードして、「AI解析」に積み上げています。上空で集計されるAI解析による安全(運転)が保証されるサブスクリプションのシャワーは、グーグルの地図情報や、アップルやサムスンのスマホからの位置情報の程度を超えた「命に関わる重い価値」を持つサービスになりえます。さらにアマゾンやマイクロソフトのクラウド事業の座がテスラ/スペースXがAI知能のチップを開発し、その解析英知を通信回線から必要な電力に至るまで、AI脳から電力エネルギー、末端デバイスにまで「垂直融合」を行えば、これまでの事業の考えから根本的な(サービスの、マーケティングの)構造が変わる可能性があります。これらのクラウド事業におけるコンテンツの視聴や利用の変化の事象と、衛星も含めた人々の行動変化や産業のつながりの変化の事象について、次節から紹介します。

アマゾンにコンテンツ配信を頼るネットフリックスが、広告配信はマイクロソフトへ依頼する「変数」ネットフリックスの番組配信を担うのはアマゾン/AWS皆さんがご覧になっているネットフリックスのコンテンツのビデオ配信は、AWSからのクラウド配信であるのはご存じでしょうか。身近で「目に見えない、手に取れない」ので気づきにくい側の、デジタル起点の事業の例として詳しく紹介していきます。ネットフリックスは、コンテンツ(番組)を世界190カ国、約2・2億人に向けて配信しています。その画面への「ラストワンマイル」をつなげているのがアマゾンのAWSであり、視聴者はネットフリックスの番組を、アマゾンのAWSの配信サーバーや海底ケーブル経由で受け取っているのです。

これまでのアマゾンといえば、「目に見えて、手にできる」EC事業(物販)が主軸事業と思われていました。これに対してAWSというクラウド事業は、「目に見えにくい側、気づきにくい側」の事業として成長しています。既にアマゾン全体の事業の柱そのものが、目に見えにくい側の「クラウド事業」を主とした事業構造にシフトしています。その証しとして2021年7月に創業者のジェフ・ベゾス氏がCEOの役割をアンディ・ジャシー氏に譲り渡しました。新CEOのアンディ・ジャシー氏はAWS(クラウド)事業をここまで成長させたリーダーであり、アマゾン事業全体はその背景を持つ人物に舵取りを任せたことになります。ネットフリックスの例は、このAWS上で展開されるさまざまな企業の事例のほんの一部です。この他にもアマゾン/AWS上のエコシステムではさまざまなB2Bでの「目に見えにくい側」の事業支援として、多くの企業利用が進んでいます。ネットフリックスがマイクロソフトからの広告配信を行う「ねじれ」ネットフリックスのこれまでの映像番組事業は、視聴者が月額サブスクリプションを支払って購読し、番組内には広告挿入なしで映画などを視聴できる環境を提供している事業モデルでした。DVDビデオの郵送レンタルで拡大したネットフリックスは、2007年から映像サブスク配信事業にシフトし、このモデルを約15年継続していました。ところが、2022年7月13日に「広告付き新サブスクリプションプランでマイクロソフトと提携」として、広告テクノロジー・営業のグローバルパートナーとして、マイクロソフトと提携することを発表しました。広告事業とは、収益を広告出稿主からいただくB2B事業モデルです。同年11月から開始されたサービスは、日本では月額790円、アメリカでは6・99ドルでスタートさせました。ここで考えたいのは、ネットフリックスのこの手のひらを返したような事業シフトには、何やら大きな「変数」がありえるのではということです。単純にネットフリックスの事業が「サブスク型の収益軸(D2C)と広告型(B2B)の『ミックス』を始めた」とか、「新しい収益の柱を作り始めた」だけの観察では「目に見えた」結果に過ぎません。目に見えていない広告事業の難しい部分を考えられる視点がありそうです。

似て非なるネットフリックスとディズニープラスの広告配信モデル前節でも述べたように、もともと広告なしのサブスク配信モデルだったネットフリックスが、2022年11月から世界で割安価格での広告付きでの配信メニューを加えました。「コネクテッドTV広告(CTV広告)」の配信事業から見れば、優良な(有料な)番組枠のネットフリックスの広告枠が(ディズニープラスとともに)増えて華やかになります。似て非なるこのOTT(オーバー・ザ・トップ:ネット回線経由のテレビ映像放映)2社の広告ビジネスの特徴を整理してみます。ディズニープラスはB2B広告配信ありきでユーザー数のパイ獲得を目指すディズニープラスの映像事業は、そもそもが広告を事業の柱として構築されたブランド企業からの収益を期待するB2「B」モデルです。まずはアカウント数を巨大に伸ばして広告リーチの価値を引き上げてB2B広告収入の土台を作ります。そのアカウント土台の上にB2Cユーザー側へもアップセルメニュー(や値上げ)で、後に利潤を上乗せできる構造です。広告収益を前提としたコンテンツ(制作)やサブスク契約を進めているので、ユーザーの広告露出に対するがっかり感は少なく抑えられます。ディズニープラスのアドテクパートナーはTheTradeDeskなど、DSPと組んで広告を多売しています。ネットフリックスはB2Cの配信から出発してB2Bを混合させるディズニープラスのB2Bモデルに対して、ネットフリックスは個人ユーザーのお財布からの収益で採算を合わせるB2「C」サブスクモデルが起点でした。ネットフリックスのユーザーは、「私の」B2C契約に慣れており、突如広告主がB2Bで割り込んだメニューを月額が割安とはいえ、ダウンセル・オプションとして選択を迫られるがっかり感が少し残ります。さらに広告が差し込まれる前提がないはずのコンテンツ制作者との契約が多いので、対コンテンツ制作者との調整事項(番組の途中に突然広告が挿入される許可が取れていない)が世界中で発生しています。新アドテクパートナーとしてマイクロソフトが選定されたことは既に述べましたが、マイクロソフトはテレビ広告配信DSPの「Xandr」を、テレビ配信事業を手放したAT&Tから買収しており、さらにこのXandrがアドテクDSP(老舗)の「AppNexus」を吸収している構造は、あまり知られていません(マイクロソフトがいつの間にか、番組配信に添える広告配信技術を獲得していた様子です)。ネットフリックスの経営モデルは、非常に理解が難しいモデルです。「価格と離脱率の相関」や、「製作費用に対する減価償却の比率」など、事業の舵取りが非常に複雑に入り組みます。たとえば、営業キャッシュフロー(貯金箱の残高の増減)は、2020年の撮影延期時期(支払いが延期できる)までは、ずっと赤字を続けていました。上場企業としては「黒字経営」だったのですが、貯金箱に入れる営業上でのキャッシュフローはずっと「増えずに減り続けている(赤字)」という経営手法でした。この「黒字決算なのに赤字キャッシュ」だったカラクリは、コンテンツ制作費(番組制作費)を単年度丸々でコスト計上せずに、未来へのツケ(P/L計上せずにB/Sで資産計上しておいて、未来の5年で分割して減価償却)とすることで、会計上の黒字を保つ経営手法です(「減価償却」という手法も、マーケティング・プロセスの重要事項として、第9章で紹介します)。番組が完成して配信されてから何年も視聴されるネットフリックスの番組特性を考えると、コスト計上方法として「分割」は理にかなった方式ですが、経営操舵は複雑です。実際に2022年の単年度だけでも、番組を制作して増やしたコンテンツ資産に約2・2兆円(168億ドル)を投下していますが、コストとして計上した減価償却額(過去に制作した番組の年度分割での償却コスト)は約1・8兆円(140億ドル)です。繰り返し、理にかなった真っ当な計上方法ですが「2・2兆円を番組制作で踏み込んで、1・8兆円(だけ)をコスト計上する」操舵です。この操舵方法は、加入者の増加や、それに伴った株価の資産上昇を前提とした経営手法です。この上昇前提が止まった2022年後半のタイミングに、「新たな広告収入の柱」を発表した時期が重なって見えます。ネットフリックスの事業モデルは成長時期から収益回収の時期に転換したとも考えられます。

ディズニーの巨大赤字覚悟の腕力ネットフリックスが(地道に)約15年をかけて、(ようやく)世界で2・2億人のD2Cサブスクユーザーを獲得したのに対して、ディズニーは、最初からスケール化を狙い、B2B広告課金を収益モデルとして、サービス開始からわずか2年の2022年8月にはネットフリックスの総数を抜いたと発表しました。このトップラインの数値は「ディズニーの腕力」を発揮させた赤字覚悟の「販促キャンペーン祭り」の成果です。次の図を見ればわかるように、ディズニー傘下のHuluとESPNプラスの数字を(重複を含めて)足し合わせて、ネットフリックスよりもわずかに上回ったという形(何か歪みがありそう)でした。

「赤字覚悟の販促キャンペーン」とは、ディズニーの「テレビ事業のサブスク(D2C)」セグメントの営業収支は2022年の1年間で、約5200億円(40・4億ドル)の赤字である状態を意味しています。21年の約2200億円(16・8億ドル)の赤字幅の「倍以上」に広がっています。この赤字覚悟の販促とは、日本での月額990円どころか、アジア(特にインド)では驚きの月額99円(1アカウント当たりの広告収益を含む)級のバラマキ度合いでの拡張でした。これによってアジア(特にインド)で約6千万件を積み上げての、世界合計2・2億件(ネットフリックス超え)の達成なのです。今後、ディズニーは広告の出稿量と単価を引き上げたり、広告なしのアップセルなどのメニューを用意したりして採算向上を図り、早期に年間5千億円の赤字という収益構造を改善させなければなりません。

2年前に引退したボブ・アイガー氏をCEOに再登用サブスクユーザーをどれだけたくさん集めようとも、年間約5千億円にものぼる赤字は、ディズニーという巨大企業でも非常事態です。ディズニーは2022年12月に、2年前に引退した元CEOのボブ・アイガー氏を再登用する決定をしました。彼こそが「ディズニープラス」の起案者であり、メディア(番組/広告)とエンターテイメント業界において顔の利く大物を再登板することになりました(アイガー氏の前CEO期間は2005~21年の15年)。このことは、何やら「大きな」変数が発生しているシグナルを示しています。「ディズニープラス(Hulu、ESPNプラス)とTheTradeDesk(広告配信企業)」のチームと、「ネットフリックスとアマゾン(コンテンツ配信事業)とマイクロソフト(広告配信企業)」の超大手企業の参入と、ボブ・アイガーの返り咲きで、「CTV広告」が花盛りとなる第二章が始まったのかもしれません。少なくとも視聴者側には月額の安い視聴プランの選択肢が増え、広告出稿側(ブランド)もブランドに寄与するプレミアム番組枠が増え(る実験が続く)、何より広告会社は笑いをこらえている(収益機会が増える)状況でしょう。

アマゾンは自社のオリジナル番組コンテンツを配信ネットフリックスの(世界)事業の拡大に大きく貢献していたアマゾン/AWSにとって、今回のマイクロソフトとの「広告部門での事業差し込み」提携は「ねじれ」「面白くない」「寝返り」の判断にも見えます。ところが、そもそもアマゾンはプレミアム番組枠の放映事業者で、いわばネットフリックスの競合事業者でもありました。アマゾン自身の事業で「プライムビデオ」のコンテンツ(番組)配信事業を行っている上に、映画コンテンツ企業のMGMを約1兆円で買収しており、さらにNFLの試合のストリーミング放映権も10兆円規模で投資する程の「ネット配信&広告事業モデル」を世界最大規模で投資、拡張するノウハウを持つ企業です。「ねじれを越えた、もつれの状態」です。番組コンテンツ配信に参加しきれていないアップル、グーグル、フェイスブック大手プレミアムコンテンツの配信企業(有名プラットフォーマー企業)の中に、アップル、グーグル(アルファベット)と、フェイスブック(メタ)といった企業がこの話題の周辺に登場していないことも注目すべき点です。アップルもアップルTVプラスで自社のオリジナル番組コンテンツを制作したり、配信したりしていることは知られていますが、アップルの年間のコンテンツ予算は約4千億円(30億ドル)程で、この数字はディズニーの約4・3兆円(330億ドル)やネットフリックスの約2・2兆円(170億ドル)とは桁違いの差があります。グーグルに至っては、ユーチューブという映像視聴の事業を抱えてはいますが、SNS上での「他人のコンテンツ」を放映して広告配信を事業コミッション(投下された広告額の約4割)として収益を上げるモデルであり、プレミアムなコンテンツ映像に「自己投資」を通じてD2Cで人々の「気持ち」とつながっている構造ではありません。今後、「プレミアムな」番組コンテンツに紐付く広告配信(CM配信)という市場側(例:ディズニー、ネットフリックス、テレビ局、アマゾン)と、映像コンテンツを自社で開発しない(少ない)SNS広告市場側(例:グーグル、フェイスブック、ティックトック)との綱引きが当然ながら始まります。実は日本市場は、(欧米市場と比較して)前者のプレミアムな番組放映側市場よりも、後者のSNS広告市場側の声(ユーチューブ動画やティックトック動画など)が大きく、あたかもこれらSNSプラットフォーマーが「CTV広告」を担うイメージが持たれているようです。さらに日本市場でSNSプラットフォーマーの声は映像事業周辺だけでなく、イオンなどの小売り流通や、みずほフィナンシャルグループなどの金融も含めて「グーグル側の声」が日本市場はアメリカ市場よりも大きいと筆者は感じます。今後ディズニー/ネットフリックス/アマゾンのような巨大コンテンツホルダーや、在京5局のテレビ局(番組制作会社)や、映画会社などの日本のプレミアムコンテンツ側の声が、単なるSNSプラットフォーマーの声よりも大きくなる(バランスが是正される)ことが期待されます。

COLUMNアマゾンの営業利益は「200%AWS頼み」の構造アマゾンの事業価値は、2021年のピーク時には200兆円超えの規模でした。トヨタ自動車の時価総額が最高で約30兆円規模ですから、その規模の大きさが理解できるかと思います。では、アマゾン全体の「営業利益(売上総利益ではなく経費計上後の実質利益)」に注目して、事業の主軸が「目に見える側(EC事業)」から「目に見えない側(AWS事業)」へ移行している様子を数字で見てみましょう。2021年(通年)時点のアマゾンの決算ではEC事業からの営業利益が約8200億円(63・55億ドル)に対して、AWSはその3倍の約2・4兆円(185・3億ドル)も稼ぐ「逆転状況」が年々進行していました。このアマゾンの事業における主軸の比率の逆転変化から変数に気づけば、同社の2023年以降の未来の「軸」がどのような構造に進むかも予想がつきそうです。その予想の変数(兆候)例として、本書執筆時の2022年通期(2023年2月発表)時点では、EC事業の営業利益は米国内と海外ともに大きな赤字に突入しています。いわば200%、アマゾン全体の営業利益はAWS頼みの構造に移ってきました。2022年は、EC部門の営業赤字が約1・4兆円(マイナス106億ドル)で、これを本業(柱)であるAWSのクラウド事業が約3・0兆円(228億ドル)の営業黒字で補う傾向が顕著になりました。

アマゾンの「目に見える側」は「目に見えない側」への客寄せ紙芝居このことは、アマゾンの看板であり主流であったEC事業が、現在では未来のクラウド事業のための「撒き餌」だったり、「お客を呼ぶための紙芝居」のようにも思えたりする程です。紙芝居と形容してみたアマゾン事業の全体は、主軸のクラウドをご利用いただける潜在ユーザーを開拓するために、まずはエントリーとしてEC事業をご利用いただく。そのEC事業運営が約1・4兆円の赤字なのだけれど、目に見えない側のクラウド(AWS)事業で約3兆円の営業利益を回収する。EC事業はいわばAWSの「販促費用」としてこの赤字を負担運営するという「新(マーケティング)モデル」に進化しています。このアマゾンにおける事業軸の変化は、既に「広告・販促・マーケティング」の事業の「概念(言葉の定義)」そのものが、アマゾン内部では異次元に発展しているかもしれないですし、その変数が社会全般にも及んで適応しているかもしれない、と考えるヒントとなります。

番組コンテンツの「プッシュ配信」から「ゲーム」を筆頭とした「双方向」へここまで説明してきたことから、単なる映像番組の配信やそれに向けた広告配信の分野だけに閉じられていない「変数」がありえそうな雰囲気が感じられます。さらにマイクロソフト側からネットフリックスにすり寄る「縁組」の動機として、まことしやかにささやかれる背景が、マイクロソフトによるゲーム企業の「ActivisionBlizzard(以下、Activision)」の買収発表(2022年1月、当時のレートで約7・9兆円=約678億ドル)との関連です。これまでのネットフリックスの事業は、モニターという「二人称」の枠に向けて完パケ番組の一方通行の放映が主体でした。ところがモニターの前のサブスクユーザーからすれば、「受け身で見る番組」ばかりで、インタラクティブな参加ができる、たとえば「ゲームコンテンツ」「eスポーツ」「ショッピング」などが圧倒的に少ないのがネットフリックスのアカウントでした。このゲーム産業の事例も、「目に見えにくい」事例に含まれます。「ゲーム」そのものは目に見えると思うかもしれませんが、このActivisionの買収に関して「次がどうなる」などの期待について、日本市場では「見えていない(関心がない)」状態のようです。単なる「NintendoSwitch」や「PlayStation/SONY」との比較座標の外も含めて、次のステップを考えておきたいところです。ネットフリックスにとって「ゲーム(利用)市場」は、これまでの有名映画(番組)を制作して、一方的に平面スクリーン上(二人称の画面)でサブスク消費(視聴)してもらうだけでなく、仮想空間市場での「体験・体感」を踏まえた双方向にてアカウント契約ユーザーとのパイプを太く(一人称として)できるはずです。新たな「(顧客との)パイプの使い道」として双方向コンテンツとなりえる「ゲーム」は何とかしたいのに弱い分野でした。一方、「Xbox」事業を傘下に持つマイクロソフトは、Activisionを買収することで「ゲームのネットフリックス」と呼ばれるサブスクリプション課金の「GamePass」を展開中です。この事業がネットフリックスとの合わせ技になれば、広告リーチや収益が上げられることは予想できます。ゲームが入り口となるビジネス(仕事)プラットフォームの融合とはいえゲーム市場でのシェア分析(『CallofDuty』や『WorldofWarcraft』などの人気ゲームの獲得でも市場の約10%程度)や、シミュレーション市場(アメリカ国防総省による『HoloLens』での訓練など)に閉じた視野では、さらに向こう側の「マイクロソフト365(旧オフィス)/ビジネス市場」「クラウド事業」への入り口を見落としそうです。マイクロソフトのActivisionの買収理由はゲーム事業の強化だけではなく、ゲームに没入している世界と、マイクロソフト365の利用でのビジネス環境の境界が薄くなり、ゲームユーザーが(いつの間にか)オフィス/ビジネスユーザーとして「クラウド上で」利用が進む(進化する)ような、入り口として期待されます。この上記の「仮説」や覚悟の「想像」への判断への大きな配慮事項が時間軸です。2022年12月現在、アメリカ当局であるFTC(連邦公正取引委員会)は、反トラスト法の見地からActivisionの買収に関してマイクロソフトを提訴しており、公聴会が始まるのが2023年8月であるので、Activisionの買収が着地するのは2023年後半からであり、まだ長い準備の様相です(裏返せば、この期間こそ承認後に向けた仕込み期間です)。マイクロソフトはこの数十年、何かと当局から目を付けられる存在であり、ましてやこのような大きなM&Aとなれば多角的な審査の必要性は当然覚悟の上です。当のマイクロソフト自身は、こうしたことは見越しており、最終的には着地の方向に進む可能性はかなり大きいと考えられます。何かが起こると何かに応用ができる未来「変数」の発見以上の「コンテンツ配信」「広告配信」「ゲーム市場との融合」も、「目に見える側」「軽いデータ側(命に関わる程ではない)の事業範囲」としておきましょう。実際にはさらにその向こう側が存在した上での、次の10年に向けてのグローバル企業の動きです。本節で紹介した例は、配信インフラを含めた「垂直融合」の可能性が、変数として存在しそうなイントロとして取り上げました。たとえば配信インフラを持つマイクロソフトが「ネットフリックスを買収すれば」と考えてみれば(現行のネットフリックスがアマゾンのAWSを外注する関係をひっくり返して)、「垂直融合」が出来上がる可能性は想像できるでしょう、マイクロソフトの企業体力ならば、ネットフリックスを買収できる資本は十分にあります。2023年3月に発表されたアベマ(TV)とネットフリックスとの提携発表も、番組コンテンツの協業に閉じた話題に惹かれるだけでなく、アベマの親会社であるサイバーエージェントの営業利益の8割がゲームコンテンツであることを踏まえれば、別シナリオも描けます。サイバーエージェントがネットフリックスを経由してマイクロソフトとゲームコンテンツでつながれば、大きな資本関係や新エージェンシーが生まれてもおかしくありません。

イーロン・マスクが描く「垂直融合」とは?実は「映像」や「広告」(を通じたマーケティング)という一方向の配信データ(例:ウェブ1・0)は、さらにそのやりとりが「双方向のデータ(例:ウェブ2・0)」に広がるとしても、まだまだ狭い、「二人称」の画面に閉じた小さな事業(市場)かもしれません。既に「送り手(企業)が主体で、ユーザー(利用者)が受け身」の関係ではなく、ユーザー自身が主体になる業態(例:ウェブ3)が登場しつつある状況が見えています。本節では第3章で紹介したユーザーが主体になる「一人称」データに向けて、パイプの役割を持つ「インフラ」すらが変化している様子を紹介します。「テスラ」がアマゾン/グーグル/アップル/マイクロソフトの事業領域に参入前節にてクラウド事業や映像事業を例に「目に見えていないかもしれない、事業変化」を紹介しました。これらに加えてさらにスターリンク/スペースX/テスラ/オープンAIについても見てみましょう。本節ではスターリンク/スペースXの事業を事例アンテナとして、イーロン・マスク氏が一連で展開する「人工知能・AI、データ」「スーパーコンピュータ、半導体」「電力の供給」「テスラ車というデバイス」「安全、保険」などを「垂直融合」にて束ねていると考えてみます。

「垂直融合にて束ねる」意味合い旧来のマーケティング(や広告)の主要な活動は、「スケール化させる(とにかく広く)」「パイを広げた次は、コンバージョン(刈り取り)の効率を上げる」という方程式で成り立っていました。横へ横へと網の面積(リーチ)を広げておいて、その網の中でキャッチできる魚の数(濃度や効率)を引き上げることが、事業収益としての基軸だったように思えます。メディア取引の扱い高を「売上(※)」と称してその規模を競い、定額15%のコミッションはその広げた網の広さに比例して利益(魚)が取れるビジネスでした(※第9章の「『売上総利益』と『売上』の違いを区分して経営しているか?」でこの単語の区分価値を紹介します)。近年のフォロワー数や再生回数の多さを求めるのも「広さ」「回数」が増えることに比例して利益が創出される規模重視のモデルのままです。このことは、既に拙著『広告ビジネス次の10年』で指摘した旧来モデルの変化でしたが、次なる新しい事業構造でのマーケティングの意味合いにおいて、これらに「垂直につながる」「ゼロパーティ・データ」「信用と呼ぶ価値の基盤が何か」の事業視点を加えたいと思います。上記の「横へ」「広く」のモデルが消滅するわけではなく、新たにパラレルで(同時進行で)形作られる垂直モデルに注目してみます。この「垂直につながる」の意味合いは、これまで「横へ横へ」と水平に広げて収益を上げていた(広告リーチ価値を上げていた)概念とは真逆の方向かもしれず、少し理解しづらいかもしれません。「スケール化しない(できない)」という愚痴にも近いセリフを耳にするのは、水平拡大こそが収益と思い込んだままの「過去の延長発想」です。その理解へ、新しい事業形態として日本でもサービスが開始された「スターリンク/スペースX/テスラ」の例を使って「垂直とは」を紹介してみます。アマゾンやマイクロソフトのプラットフォームを超える「基盤」が垂直融合されている可能性を知れば、「変数」として応用できそうです。既に衛星が上空に3600基、数年で1万2千基が世界を覆うイーロン・マスク氏といえば、ツイッターの買収が「目に見える側(広告事業、水平事業)」の表面的な話題として真っ先に浮かびます。けれども、メディアで騒がれている目に見える部分よりも、むしろ氏が手掛ける「根底」事業(群)が構想しているのは、さらにその深部である「インフラの構造転換」と、その向こう側の「事業の垂直融合」の「目に見えにくい部分」にこそあります。マスク氏がオーナーである「スターリンク/スペースX」は、既に3600基の通信衛星を上空500キロに飛ばし、上空からのネット回線が日本でも個人利用なら月額6600円(2023年2月現在)というサービスが始まりました。

これまでの通信衛星(例:スカパーの衛星)はおよそ上空3万6千キロ(地球の直径の約3倍の遠さ)を回る概念でした。スターリンクは地球の表面近く(約500キロ)を網羅して走るので、これまでより地表の約72分の1の近距離にグイッと近づくことにより、通信速度が実用レベルで格段に速くなります。この距離感覚をたとえれば、これまでの衛星と地球との通信は「36メートル先の人と会話する」状態だったが、スターリンクならば「50センチの目の前の人」と会話するほどの近さです。通信容量が多くなり、遅延が格段に小さくなるのが想像できるでしょう(次図参照)。

このスターリンクの通信回線を受けられるイーロン・マスク氏傘下のテスラ社の車の近未来とは、「環境にやさしいEV走行車」としての数百万円の価値よりも、「命に関わる路上の安全情報」「ゼロパーティ・データ」を、ドライバー顧客とともに作る関係に発展します。「毎時毎分」「世界中から」「情報を集積、双方向送信するデバイス」としてデータ価値を「スターリンク」経由で、テスラ社のAI上で積み上げることが可能です。2022年時点でも、地球上で走り回るテスラ(ユーザーの)車は約300万台を超えています。これらのユーザーは、テスラ社と「前向きに、合意の上の」安全のためのデータ=ゼロパーティ(の関係の)・データを収集するデバイスと考えられます。その300万台のデバイスは今後も増え続けることが予想され、さらに地上の毎分毎時のデータを上空経由で集計されて、「AI解析」によってどんどんと安全(運転)に向けて強固になるサブスクリプションのシャワーを作ります。マスク氏の一連の事業を、新しい「垂直融合」の例としたのは、単なるパイプでのつながりのような手足の連動だけでなく、コンピューティング機能である「AIの知能蓄積とその処理能力」という「脳」に相当する部分への巨大な投資が見え始めたからです。この「脳」に相当する知識や学習(車の場合なら命を守る安全)のデータが新しいコンテンツとして膨らんできます(マスク氏はオープンAIコンソーシアムの共同創設者という立場)。これらのデータや学習された知識は、アップルのiPhoneやサムスンのスマホからの位置情報程度(軽いデータ)を超えた「命に関わる、重い価値」を持つサービスになりえます。さらに、世界のクラウド二強とされるアマゾンやマイクロソフトの海底ケーブル(パイプ)と現行サーバーを使った事業の「パイプ機能」が衛星経由でひっくり返るだけでなく、サーバーの脳部門も垂直融合で丸々、イーロン・マスクのグループに追い越される可能性があります。

ニューラルネットワーク=脳を衛星経由でテスラ・デバイスへスターリンクが通信衛星3600基を上空に走らせようとも、これも通信パイプであって「手(手段)」に過ぎません。その「手」の向こう側にある「脳(ニューラルネットワーク)」であるデータやコンピューティングによる解釈(新・コンテンツ)が価値を生みます。テスラによる脳部門への投資状況も紹介しておきましょう。前述の通り、テスラの車は情報をキャッチするデバイス(端末)側に過ぎないと位置付けてみます。その向こう側に「脳」であるAIによる安全判断のデータを「超高速処理」「管理・コントロール」「提供するデータの上で、新たにユーザーが活躍し」「さらにそのデータが還元される(安全運転にお戻しする)」というループ価値を生んでいる様子です。テスラは、AIを鍛える「道場(Dojo)」を持っているテスラは「Dojo(日本語の「道場」が由来)」という名の機械学習のために、ゼロからテスラ独自のカスタム・スーパーコンピュータ・プラットフォームを構築しています。

同社のサブスク契約の車群(世界の数百万台・毎時)から送られてくる、コンピュータ・ビジョン技術から収集される自動運転に必要なビデオ(映像)データを自ら解析したニューラルネットワークの学習トレーニング能力を「鍛え上げる(道場)」ために「超」ハード投資を牽引させてAIの構築を行っています。同社は単なる自動車メーカーを超えて、世界でも有数の性能(自社推定で世界5位の速度)を誇るスパコン企業と自分たちをたとえています。2019年版のスパコンではAMD社やNVIDIA社のGPUベースの大型スパコンを開発していましたが、とうとう「Dojoカスタムビルド」として、テスラが設計したオリジナルのチップとインフラ全体を使ってニューラルネットで鍛える場を育てています(そのテクノロジーの仕組みや超速については専門の説明にお任せしましょう)。本節でのポイントは、「垂直融合」の事業構造です。単に海底ケーブルが衛星通信に置き換わるだけでなくその向こう側このテスラの垂直事業の状況は、前節で紹介した「目の前に見える側」のテスラ&スターリンクのライバルであるはずのアマゾンのAWS事業を例として置き換えればわかりやすくなります。アマゾンのAWSがサーバーから海底ケーブルの向こうにあるテレビ端末に向けて、ネットフリックスのコンテンツを配信している構造と比較してみます。スターリンク経由のインフラの端末に路上のテスラの車が安全な自動運転機能を用いて走り、クラウド上でAIが路上データを解析指示する構造のほうが、現状のAWSのパイプ利用と比較して「知能(AI)」が「命に関わる重いデータ」を管理している超付加価値が備わります。単なる海底ケーブル&サーバーの設備サービスをはるかに超えた価値がありそうです。このテスラ/スターリンク/AIの状況は既に実用化されていて、さらに進化を始めています。ネットフリックス/AWSの例と、本節で紹介するテスラ/スターリンク/AIの大きな違いは、「データの主役」の部分です。ネットフリックスの映像コンテンツはネットフリックス(AWS)から(=企業が主役)の提供ですが、テスラ/スターリンク/AIの場合は、ユーザー側(テスラドライバー)からのデータ提供であり(ゼロパーティな関係)、上りと下りの双方向での情報交換だけでなく、AIによる「考えられた新しい安全」に昇華されて、常に互いに更新(進化)しています。さらにその(安全の)データの価値とは、「私」や「企業(テスラ)」だけでなくその他の人にも社会的価値を生みます。「視聴データの推量(覗き見かも)」の利活用や精度の上げ方ノウハウが異次元の価値を生むことがあるかもしれません。この超高速の判断と最新の安全(運転)につなげる解析の「AI:脳機能」をテスラ・デバイスやスターリンクインフラを経由して接続したり蓄積したりしている「垂直状況」すらも、既に旧来環境(インフラ)では追い着けない状況にあります。現在テスラが採用しているスパコンは、既存メーカー(AMDやNVIDIA)の提供程度のチップでは追い着かず、さらにその動力であるパロアルト(カリフォルニアのテスラが所在する住所)の発電所の電力でも足りない速さや容量が求められています。チップの開発や製造、そして新たな電力創出を含めたさらなる産業の垂直化が見え始めています。次なる「垂直」の矛先は高性能のAIに必要な「電力と冷却システム」前述のように、テスラ/AI/スターリンク程の構想の規模になると、その動かすエネルギーである「電力」という資源が必要になります。現在の世界情勢でのエネルギー状況をかんがみるとなおさら、エネルギーというカテゴリーは対岸の火事ではなく、垂直に自らの事業に影響する大きな要素として考えておきたい項目です。テスラ社は「テスラ車」と連動されるバッテリーや家庭用蓄電に関しての事業を広げています。日本のパナソニックがこの蓄電におけるバッテリー工場への投資で、日本市場でもなじみがあると思います。この蓄電(バッテリー)程度では間に合わないのが、このAIとスパコンの動力(=エネルギー)の「創出(発電)」という事業です。その動力の向こう側に「生きた(生命)データ」分野への投資が進んでいます(エネルギーを作り続ける役割を担い、生きたデータを育てる様子)。既にテスラの「Dojo」実験では、先に紹介したパロアルトの送電網を停止させるほど強力な電力が必要な事件も発生しているほどです。データセンターのAIやチップ開発やインフラ整備どころか、(並行して)電力のこれまでにない安定した電力密度の需要創出(テスラ事業への供給のため)と、さらには冷却システム開発、そのための負荷のサポートが自前で必要(命のデータの維持のため)になってきます。これらが垂直につなげる事業モデルのリスク(と未来リターン)の部分です。仮に、「蓄電バッテリー」の工場への投資に留まらず、「(既に予想される)逼迫する電力」の供給事業者が先回りして登場すれば、大きなリターンが考えうる事業に発展するでしょう。目に見えている部分と、気づきにくい「見えない部分」このテスラの事例は、マーケティングや(事業)コミュニケーションの流れの大きな変化を示唆しています。たとえばサービス価値を生む起点が、これまでの企業起点での「〝モノ〟作り」「サービス提供」「配信コンテンツ」などの「発信源が1つ→その発信源から消費者へ」「製造→配信」のリニア(線形)の流れではない、新たな形を示しています。テスラの例の場合、世界中の消費者からの提供情報によりAI学習されて「より安全な」「重いデータ側」の情報や世界が創作されて、大勢で共有する言語を超えたコミュニケーションの発生です。そうなるとたとえば「消費者」という呼称すらも、「消費をする受益者」のような受け側の意味合いが似つかわしくない気がします。まるで主役=アクター・演者・提供者として活動する土台(舞台・社会)の市場やルールが生まれる様相です。企業もベンダーもインフラも、それぞれが主役や脇役の演者で、さらに「一人何役も」こなすストーリーが生まれます(第4章で紹介した「一人十色」)。この状況を「波と波だらけの間を、互いに干渉し合ったり強め合ったりしながら、自由に泳ぐような市場」の始まりとして、本章の結論とします。

 

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