31相手の話をよく聴く真剣に「聴く」姿勢が大切「聞く」というより「聴く」という姿勢で、真剣に相手の話に耳を傾けている人は、話し相手に安心感を与えますし、好意を持たれます。必然的にホウレンソウの機会が増え、いろいろな情報が集まり、仕事にもよい影響が出ます。逆に、相手の話をよく聴かない人には、周囲の人たちはホウレンソウするのも嫌になり、近づこうという気にさえなりません。義務的な報告・連絡はあっても、それ以上のものは期待できません。視線や表情にも心遣いを話をする時は相手の目を見るのが礼儀ですが、話を聴く時、相手の目をじっと見たほうがよいかというとそうとは言い切れません。見つめすぎると相手に圧迫感を与え、話がしにくくなることがあるので、話の内容や相手の様子によって、ときどき視線をはずすとよいこともあります。たとえば、相手が自分の失敗を打ち明けた時、あるいはつらい話、悲しい話をするような時は、わざと視線をはずして聴いてあげると、相手は話しやすいものです。また、話を聴く時は相手の感情、気持ちに合わせた表情で対応すると、相手は安心して話ができます。話し手がうれしそうな表情を浮かべて笑顔で話す時は、聴き手もそれ以上の笑顔で話を聴くと、相手は自分が理解してもらっている、共感してもらっていると感じるのです。逆に相手が沈痛な顔つきでつらい話をしたら、聴き手も同様に悲しそうな表情を浮かべて聴きます。そうすることによって話し手は、自分の話をしっかり受け止めてもらっていると感じ、信頼が生まれます。もっと話したいという気持ちにもなるでしょう。相づちとうなずきで話を引き出す自分が熱心に話しているのに、何の反応もないのは、とても話しづらいものです。反対に、話の合間に適当な相づちがあったり、うなずきがあると話しやすくなります。相づちにはいろいろあります。代表的なものは、「うん」「はいはい」「あっそう?」「なるほど」「ほう」「へえ」「ふーん」などです。聞き上手と言われる人は、びっくりするような話であれば「へえ!」と驚いたり、「ほう」と感心したり、相手の話に聞き入っているときは「ふーん」「なるほど」と納得したり、話の内容に合わせて相づちを巧みに使い分けています。このように、適度に相づちを打ってもらえると、話しているほうは、この人は自分の話を真剣に聴いてくれていると安心することができ、どんどん話しやすくなります。また、相づちと一緒にうなずくようにすると、さらに、真剣に聴いていることが伝わります。話し手はますます饒舌になり、さまざまな話を引き出すことができるでしょう。
32言葉だけでなく「アクション」を入れる気持ちを態度で表す人は言葉だけでコミュニケーションをとっているのではなく、言語以外のさまざまな手段(ボディランゲージを含む非言語的要因)を通じて意思の疎通を図っています。言葉の果たす役割は重要ですが、非言語的要因はそれ以上に重要です。非言語的要因の代表的なものは身振り、手振り、顔の表情、声のトーン、相手との距離や座る位置です。私たち日本人は欧米の人たちと比較するとシャイなところがあり、あまり大げさな身振り、手振りをしない傾向がありますが、自分の気持ち、思いを率直に表した言葉にジェスチャーを加えると、こちらの思いはさらに強く相手に伝わります。ありがたいと思ったらそれなりの表情を浮かべて、相手に近寄り、相手の手を握り、頭を下げ、そして心からの感謝の言葉を大きな声で伝えます。迷惑をかけて謝らなければならないようであれば、申し訳ないことをしてしまい心から反省しているという表情を浮かべて、お詫びの言葉とともに深々と頭を下げます。多弁をろうするより、むしろ自分の思いを正直に表した表情や態度のほうが相手の心を動かします。体裁にこだわらず、多少不格好でも自分の気持ちを率直に表現したほうがよいでしょう。電話で謝罪する場合も同じです。相手に表情や態度は見えませんが、心から申し訳ないという気持ちを態度で示して頭を深々と下げれば、不思議なもので、こちらの気持ちは電話の向こうの相手に伝わるものです。歌手の和田アキ子さんが以前、新聞紙上で、ホリプロの創業者である堀威夫さんのエピソードを次のように語っています。「堀さんはすごく怖かった。事務所で、マネジャーが机の上に足を乗せて電話していると、『その態度が声に出るんだ』と言って、受話器で殴りつけた」堀さんの言われる通り、相手に見えないからといって電話口で不まじめな態度をとっていると、相手に見破られます。言行一致を心がけましょう。話す距離・座る位置相手との距離についてはあまりにも接近しすぎても話しづらいものです。話の内容にもよりますが、通常の場合は、約1メートルの距離を置いて話し合うのが適切です。また、話をする際、相手がどの位置に座るかによって話がしやすかったり、しにくかったりします。状況にもよりますが、真正面に位置して向かい合うより、互いの横顔が見える斜めに座ったほうが話がしやすいといわれています。話があると言って相手が来た時は、斜め右側に座ってもらうのがよいでしょう。
33人を見て法を説く理解のレベルに合わせる昔の人は、「人を見て法を説け」と言いました。実にその通りで、相手に合った話し方をしなければ自分の意図は伝わりません。相手がどんな人なのか、どんな思いがあるのかをじっくり見極めて、どのような言葉遣いをしたら相手の心に届くか十分考えてから話し始めましょう。そうすれば、間違いなく相手にこちらの思いは正しく伝わるはずです。相手の理解のレベルに合わせて話せば、その人の心を惹きつけることができますが、その逆だと相手はただ聞いているふりをするだけか、場合によってはあなたに反感を抱きます。自分が理解できないような言葉がぽんぽんと出てくると、いらだってくるのかもしれません。「伝わる」話し方を心がけて以前、あるシティホテルで若いフロントマンとご高齢の夫婦が次のような会話をしているのを目撃しました。「チェックアウトですか?」「はぁ、出かけるので鍵を返したほうがいいかなと思ったんだけど……」「チェックアウトでしたら料金を精算いたしますが……」「金はもちろん払うが、私たちは近くの公園に行ってみたいんです」「それでしたらチェックアウトではなくて、お出かけなんですね?」「チェックアウトが何かがわからないが、鍵を返したらもう一度こちらに戻ってくることはできないんですか?」「そんなことはございません。ただ、私どもとしてはチェックアウトなのかどうかを確認したかったんです」チェックアウトという言葉を、誰もが知っているとは限りません。この時、フロントマンがお客様の反応を見て、「お帰りですか?」「お部屋は引き払われますか?」「しばらく外出されて、またこちらに戻られるのですか?」などと相手がわかるように言い換えていれば、もっとスムーズに会話ができたと思います。NHKの名アナウンサーであった山川静夫さんは以前、次のようなことを語っています。「放送の仕事に長年たずさわってきた自分が、今ごろになって不安に思うのは、電波を通じていろいろな情報を伝えてきたものの、それが視聴者のみなさんにしっかり伝わったかどうか、ということである。『伝える』と『伝わる』では大違いで、いくら伝えたつもりでも、相手に伝わらなければ意味がない。(キャッチボールでいえば)こちらの投げた球を捕球してもらえたかどうかが問題である。捕球する相手は気に入らなければジャンプしてまで捕ってくれない。『捕れない』のでなく『捕らない』のである。たとえ自信のある球でも、相手が捕ってくれなければ、キャッチボールにはならない」山川さんの言われるようにどんな素晴らしい内容の話であっても、相手の心に入っていかなければなんにもなりません。相手に合った話をするように心がけましょう。
34早呑み込み、早とちりをしない思い込みだけで行動しない相手の一言半句で何を言わんとしているか、何を欲しているかを察することは大切ですが、重要な事柄は勝手に判断せず、きちんと確認するべきです。上司やお客様から多少あいまいな調子で話があった時、恐らくこんなことを希望しているのだろうと早呑み込みして行動に移したとします。それが相手の意図とかけ離れたものであると、不興を買うことになってしまいます。また、人は自分の思っていることを言葉にしてはっきり言わないことがあるので、言外の思いを察することも必要ですが、この時も注意が必要です。相手の思いとこちらの解釈が一致しないこともときどきあるからです。相手の真意をよく確かめもせず、わかったつもりになってはいけません。言葉の意味がわからなかったら再確認するなりして、相手の思いの正確な把握に努めなければなりません。見た目で人を判断する「早とちり」にも注意早呑み込みと似たようなことですが、早とちりにも要注意です。相手の容貌、身なり、言葉遣いだけで、この人はこんな人だろう、こんなものを欲しているだろうと勝手に判断してしまうと、後で大変なトラブルに発展することもあります。私も以前、こんな経験をしました。アップルの創業者で、当時社長を務めていた故スティーブ・ジョブズ氏が、ヘリコプターで私の勤務していたソニーの工場に見学に来た時のことです。ヘリコプターからはアロハシャツにジーパン、スニーカーの若者と、スーツをビシッと着込んだやり手ビジネスマン風の男性が降りてきました。私は前を歩いてくるアロハシャツの男性には目もくれず、当然のように、後ろのスーツの男性に「ウェルカム」と言って手を差し出しました。すると、その男性は前だ、前だというジェスチャーをします。実は、スーツ姿の男性は当時副社長をしていたスカイリー氏で、前のアロハシャツ姿の若者が、社長のジョブズ氏だったのです。ジョブズ氏は若いと聞いていただけで顔を見たことがなかった私は、その容姿から、アロハシャツ・ジーパンの男性を社長のジョブズ氏ではないと判断してしまいました。私はこの時、「身なりや風体だけで、人を判断してはいけない」という貴重な教訓を得ました。身なりだけではなく、少ない情報から勝手に判断するのはとても危険です。外部から上司あてに電話が入った時、相手の名前がたまたま上司と同姓であったので、つい、早合点して、「課長、お身内の方からお電話です」と伝えてしまい、後で「身内なんかじゃなかったぞ!」と叱られることもあります。察し上手になって気を利かせることも大事ですが、早呑み込み、早とちりをしないように気をつけなければいけません。
35良好な人間関係を構築するまずは挨拶から社内におけるホウレンソウは上司、同僚、関係する部門の人たちとのコミュニケーションであり、このコミュニケーションは相互の人間関係が良好でないとうまくいきません。あの人は好きだからとか、嫌いだからということでホウレンソウをしたりしなかったりすることは、決して好ましいことではありませんが、人間は感情の動物であることも否定できません。職場で日ごろから親しい関係、信頼関係を構築しておくことは必要でしょう。職場で良好な人間関係を構築するには次の3つの点に留意すべきです。ひとつ目は日常の挨拶をきちんとすることです。毎日顔を合わせていると、ついめんどうになることもありますが、率先して元気よく、挨拶をしましょう。日ごろから挨拶もしない無愛想な人間に、誰もホウレンソウしようという気にはならないものです。朝夕の挨拶だけでなく、「ありがとうございます」「失礼しました」「すみません」は集団で仕事を進める上で不可欠な言葉であり、大きな声で元気よくこのような言葉を発していれば、職場の人たちから好意を持たれるはずです。誰にでも礼儀をわきまえた言葉遣いを2つ目は、礼儀を心得た言葉遣いをすることです。相手を傷つけるような言葉遣いをする人には、義務的な報告・連絡以外、積極的にホウレンソウしようとは思いません。立場が上の人には丁寧で、下の人にはつっけんどんな言葉遣いをしていると、誰かがそれを見ていて、その人の人間性の評価につながり、必要なホウレンソウがされないこともあるでしょう。いつでもスマイルを心がけて3つ目は、職場ではいつもスマイル、ほほ笑みを絶やさないことです。いつもほほ笑んでいる人には、みんなが近づいてきます。その反対にいつも怒ったような、不機嫌そうな顔つきの人には近寄りがたく、ホウレンソウするのも躊躇してしまうでしょう。日本のプロ野球界が生んだ大スターといえば、元巨人軍監督の長嶋茂雄さんでしょう。長嶋さんがなぜ、そこまで人気を集めたかといえば、当然、抜群の勝負強さを発揮した現役時代の活躍もありますが、やはりいつも絶やさないスマイルにあるかと思います。脳梗塞で倒れて、右半身が不自由になった今日でも、いつもほほ笑みを浮かべて、にこやかに話すあの人柄に多くの人が魅了されるのだと思います。人間だから調子の悪い時もあるでしょうし、仕事がうまくいかない時もあるでしょう。でもそんな時でも、周りに気を使わせるような顔つきではなく、常にスマイルを心がけていれば、周囲の人との関係もよくなり、貴重な情報が寄せられるはずです。
ホウレンソウを受ける立場の留意事項⑨「狙いを明確に伝える」上司の指示・命令があいまいだと、部下は上司の意図の把握に時間がかかる。多少でも厄介な事柄を部下に依頼する場合は、どういう狙いがあるのか、達成目標・制約条件をあらかじめ説明しておく。ホウレンソウを受ける立場の留意事項⑩「監督責任を問われることも隠さない」部下から好ましくないことが起きたという報告を受けた場合も、それを隠そうとしないこと。その悪影響を最小限にするにはどうしたらよいかを重視して、自分が知り得た情報は関係部門に正直に報告を。ホウレンソウを受ける立場の留意事項⑪「自ら進んで挨拶をする」挨拶とは心を開くこと。上司が率先して、職場の人たちに元気に挨拶すれば、部下も必然的に心を開いてくれる。その結果、部下がホウレンソウしやすい人間関係ができる。ホウレンソウを受ける立場の留意事項⑫「礼儀を心得た言葉遣いをする」相手が部下や目下の者だからといって、人間としての誇りを傷つけるような言葉遣いをする上司には誰も積極的にホウレンソウをしようとは思わない。誰に対しても丁寧な言葉遣いを心がけて。ホウレンソウを受ける立場の留意事項⑬「スマイルを絶やさない」誰にでも調子の悪い時、仕事がうまくいかない時があるが、周りに気を使わせるような不機嫌な顔つきの上司だと、部下はホウレンソウを躊躇する。いつでもスマイルを心がけよう。
今井繁之(いまいしげゆき)株式会社シンキングマネジメント研究所代表取締役所長1965年明治大学商学部卒業。リコー、ソニーに勤務。ソニー在籍中に、論理的問題解決法であるKT(ケプナー・トリゴー)法の社内講師を務める。1990年に独立し、シンキングマネジメント研究所を設立。現在、研修講師として多方面で活躍。これまでに伊勢丹、INAX、NTTドコモ、オリエンタルランド、大阪ガス、アサヒビール、グローリー、コープこうべ、三重県庁、宮城県庁などの官公庁・企業・団体の管理、監督者対象に問題解決・意思決定強化研修およびホウレンソウの研修を実施している。著書に『ホウレンソウの基本』(日本能率協会マネジメントセンター)、『頭を使ったホウ・レン・ソウ』(日本実業出版社)、『気がきく社員50のルール』(三笠書房)、『問題解決のための思考力を鍛える』(あさ出版)、『ホウ・レン・ソウの基本これだけシート!(マジビジS02)』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「考え抜く力」が身につく本』(中経出版)などがある。・著者への問い合わせ先simai@tmi.co.jp・株式会社シンキングマネジメント研究所のサイトhttp://www.tmi.co.jp
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