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第5章 究極の数値化仕事術・ソフトバンクの「3次元経営モデル」―どんなビジネスにも応用できて効果抜群!

「数値化仕事術」の達人と言えば、何といっても孫社長です。

天性の勘とセンスで成功した天才的経営者と思われていますが、孫社長の経営や仕事には、必ず数学的思考や数字の裏づけがあります。

この章では本書の総まとめとして、ソフトバンクの経営戦略をケーススタディに、数値化仕事術がどう活用されているかを見ていくことにしましょう。

なかでも、私が深く関わったADSL事業「Yahoo!BB」の話を中心に解説していきます。

約二十年前にこの事業を立ち上げた時、メンバーは私を含めて三人。

そこに司令塔として孫社長が加わり、都内の小さな雑居ビルの一室でプロジェクトがスタートしました。

それからわずか四年強で、「Yahoo!BB」の加入者は五〇〇万人を突破。

この成功を足がかりに固定電話事業や携帯電話事業へ参入し、ソフトバンクは一気に飛躍を遂げます。

その裏では、あらゆる場面で数値化仕事術が活かされていました。

当時、ソフトバンクの知名度や世間の信用度は今とは比べものにならないほど低く、まだまだベンチャーの域を超えていませんでした。

会社のブランド力が低くても、お金や人などのリソースが十分でなくても、数値化仕事術が大きな成果をもたらすことをソフトバンクは証明したのです。

きっとあなたの事業やビジネスでも、このケーススタディが大いに役立つはずです。

ソフトバンクの経営に数値化仕事術はどう活かされているか第1章で説明した通り、孫社長およびソフトバンクの経営の基本にあるのは、次の五つの数字です。

・顧客数・顧客単価・残存期間(顧客でいてくれる期間)・顧客獲得コスト・顧客維持コスト会社の長期的な売上は、「顧客数×顧客単価×残存期間」で計算できます。

そこからコストを引いたものが利益なので、営業利益は次の数式で表せます。

「(顧客数×顧客単価×残存期間)−(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)」とてもシンプルですが、これこそがビジネスにおいて最も重要な数式です。

売上や利益が思うように上がらないのは、五つの数字のいずれかがうまくコントロールできていないからです。

「顧客数」「顧客単価」「残存期間」を最大化し、「顧客獲得コスト」「顧客維持コスト」を最小化すれば、会社の利益は最大化します。

ソフトバンクは常にこの状態を目指して、五つの数字を上げたり下げたりしながら、経営を行っているのです。

私はこれを「ソフトバンクの3次元経営モデル」と名づけました。

そのフェーズを大きく分けると、次のようになります。

・第1段階:顧客数を増やす・第2段階:顧客単価を上げる・第3段階:顧客獲得コストと顧客維持コストを下げる・第4段階:残存期間を延ばすでは孫社長とソフトバンクは、具体的にどうやって五つの数字の最大化および最小化を実現しているのでしょうか。

また、そのために本書で紹介してきた数値化仕事術がどのように活かされているのでしょうか。

それについて、私自身が立ち上げから深く関わったADSL事業「Yahoo!BB」の事例を中心に見ていくことにします。

時価総額一〇兆円企業となった現在は、当時より精緻にシステム化・仕組み化されているものもありますが、基本的な考え方や戦略は今も変わっていません。

まさに今この瞬間、五つの数字に関する問題を抱えている企業や事業でも、この数値化の事例は間違いなく役立つはずです。

まずは「顧客数」を増やすことに集中し、一気にナンバーワンになる「3次元経営モデル」の第1段階は、「顧客数を増やす」です。

顧客単価やコストは度外視して、最初はとにかく顧客数を最大化するというただ一点に集中します。

最悪、収支は赤字になっても構いません。

事業の立ち上げ期は、たとえ大きなコストをかけてでも、そのビジネスでナンバーワンになるまで一気に顧客数を増やす。

これが、孫社長のスタートダッシュのかけ方です。

最近では、QRコード決済の「PayPay(ペイペイ)」がまさにこのやり方でした。

サービス開始の数ヶ月後に、「100億円あげちゃうキャンペーン」を展開。

これが大きな話題となったことで利用者が爆発的に増加し、一気にトップシェアをとったことは記憶に新しいところです。

「Yahoo!BB」の時も、もちろんこのやり方を実践しました。

しかも、桁外れの顧客数を目指したのです。

「モデムを一〇〇万台発注するぞ!」その言葉に私たちは耳を疑いました。

ソフトバンクが参入する以前も、ADSL事業を手がける会社は少数ながら存在しました。

しかし、どこも顧客数は数万人程度。

一〇〇万台となれば、数が二桁違います。

それでも孫社長は、サービス開始前にモデムの発注書に自分でサインし、あとには引けない状況を作ってしまいました。

なぜ、そこまでして顧客数にこだわるのか。

一つめの理由は、顧客数を増やせば増やすほど、製品やサービスの単価を下げられるからです。

モデムを一〇〇万台発注したのも、それが大きな狙いでした。

既存のADSL事業者が発注するのは、せいぜい年間で一万台ほどでした。

その一〇〇倍の台数を大量発注すれば、単価は劇的に下がります。

だから「Yahoo!BB」は、モデムのレンタル料を合わせて月額二八三〇円という、当時では考えられないほどの低価格でサービスを提供できたのです。

それまでADSLは、月額六〇〇〇円前後が平均的な価格でした。

同じサービスをこれほど安く提供すれば、競争する上で圧倒的優位に立てます。

そして「Yahoo!BB」は、サービスの受付開始から三ヶ月も経たないうちに、申込数が一〇〇万件を突破したのです。

こうしてソフトバンクは、あっという間にADSL事業でナンバーワンの顧客数を獲得することに成功しました。

このケースに限らず、現在は圧倒的な顧客数を獲得しなければ、競争には勝てない時代になっています。

特にITやデジタル機器の業界では、それが顕著です。

背景にあるのは、技術の進歩により、単一の商品を安価で大量に製造できるようになったことです。

リソグラフィーとも呼ばれるプリント基板の技術が発達したことで、半導体製品なども版下にあたる回路さえ設計してしまえば、あとはプリンターで印刷するがごとく、原価をかけずに膨大な量を生産できるようになりました。

その結果、ITやデジタルの世界では、「原価をできるだけ下げて、数をばらまいた者が勝ち」という競争原理が成り立つようになったのです。

「少しずつ広げましょう」と進言した私に孫社長が激怒した理由顧客数にこだわる二つめの理由は、圧倒的ナンバーワンになれば、競合がその地位をひっくり返すのは事実上ほぼ不可能となるからです。

これは、ネットオークションを例に考えてみるとわかりやすいでしょう。

出品者が一番多いサイトには、入札者も多く集まる。

入札者がたくさん集まれば、出品者はさらに増える。

このように、ナンバーワンのサイトには人やモノ、お金がすべて集まり、他を寄せ付けない〝一強〟の地位を築くことができます。

これは「ネットワーク外部性」と呼ばれる現象で、「同じ財・サービスを消費する個人の数が増えれば増えるほど、その財・サービスから得られる便益が増加する現象」を意味します。

顧客数を一気に獲得してナンバーワンになると、このネットワーク外部性が働き、さらに顧客数が増えるという好循環に入れるのです。

これはつまり、「一位以外は生き残れない」ということでもあります。

孫社長は、この厳しい事実をよく理解しているので、顧客数にこだわるのです。

ソフトバンクが日本で「Yahoo!オークション」(現・ヤフオク!)のサービスを始めた時も、当時世界最大手だった「イーベイ」に勝って何が何でもユーザー数で一位になるため、無料でサービスを提供するという戦略をとりました。

その結果、当初は有料だったイーベイを押さえて「Yahoo!オークション」が利用者数を急速に増やし、日本では圧倒的にトップとなりました。

そしてイーベイは、二〇〇二年に日本市場から撤退せざるをえなくなったのです(注:その後二〇〇七年、イーベイはショップエアラインと海外通販サイト「セカイモン」を設立。

ヤフーとも提携し、現在もサービスを続けています)。

「Yahoo!BB」のプロジェクトが始まった当初、私はまだ顧客数で一位をとることの意味を理解していませんでした。

だから孫社長に、こんな進言をしたことがあります。

「いきなり一〇〇万件規模で全国展開するのは無謀です。

まずは都内限定でサービスを始めて、品質や運用に問題がないか確認しながら順次拡大していくほうがいいんじゃないですか」そう言った途端、孫社長は怒り出し、即座に私の意見は却下されました。

その時は呆気にとられましたが、今ならその理由が納得できます。

私の提案はごく常識的な考え方ですが、孫社長にしてみれば「そんな悠長なことをしていたら、この競争が激しい時代には生き残れない」と言いたかったのでしょう。

そして、孫社長の判断は正しかったわけです。

やるからには「ADSLといえば『Yahoo!BB』」と言われるくらいの状況を作り、他の会社が新規参入する前からギブアップするくらいの圧倒的優位に立つこと。

それが孫社長の戦い方なのです。

シェア七割をとれば、逆転は不可能になる「ランチェスター戦略」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これは様々な解説書が出ていますので本書では説明を割愛しますが、これをビジネスに当てはめた時に導き出される法則の一つに、次のようなものがあります。

「市場シェアの七三・九%を確保すれば、すべての競合他社を足しても二六・一%にしかならず、約三倍の差をつけることができて、圧倒的な強者として振る舞うことができる」要するに、シェアの七割以上を占めれば、他社がひっくり返すことは実質的に不可能となり、自社が一人勝ちできるということです。

「Yahoo!オークション」が日本市場をほぼ席巻し、イーベイが追い出されることになったのも、この法則を知れば納得できます。

孫社長がどこまで意識していたかはわかりませんが、一九九〇年代頃にランチェスター戦略に関する本を読みまくっていたのは事実です。

そこで「三倍の敵は倒せない」という理論に出会い、確信を得たのでしょう。

孫社長がとる戦略を見れば、ランチェスター戦略を踏まえていることは間違いありません。

孫社長の経営が単なる勘やセンスではなく、しっかりとした数学的思考や理論に裏づけられていることが、このエピソードからもおわかりいただけるのではないでしょうか。

「発表経営」で認知度を引き上げ、まずは潜在顧客を増やす「顧客数を増やせばいいのはわかった。

だが、ソフトバンクはなぜそれができるのか?」それを説明するには、「顧客」には三つの段階があることを理解する必要があります。

①潜在顧客(知ってはいるが、利用はしていない)②試用顧客(無料で試している)③契約顧客(お金を払って利用している)商品やサービスを購入する顧客は、大半が①→②→③と段階を踏みます。

ビジネスで利益を出すには、最終的に「契約顧客」の獲得が目標となりますが、そのためにも入り口となる「潜在顧客」を増やすことが不可欠です。

では、潜在顧客を増やすために何をすべきか。

それは「認知度を上げること」です。

第4章でも話した通り、これこそ孫社長の得意技です。

記者会見や新商品発表会を大々的に行い、新聞やテレビのニュースで取り上げてもらうのが、孫社長のやり方です。

いわゆる「パブリシティ」と呼ばれる手法でマスメディアを通じて広く発信し、あらゆる層に商品やサービスに関する情報を届けて、一般の認知度を上げるのがソフトバンクの必勝パターンなのです。

とはいえ、ただ記者会見をするだけでは、メディアに取り上げてもらえません。

そこで孫社長は、ニュースバリューを高めるため、常にインパクトのある数字や仕掛けを用意します。

しかも、たいていはサービス開始の三ヶ月前には発表してしまうのです。

「Yahoo!BB」の発表も、このセオリーに沿って記者発表が行われました。

会見が開かれたのは、二〇〇一年六月。

実際のサービス開始は九月だったので、それに三ヶ月先駆けてのタイミングです。

しかも、「ADSL接続料が月額九九〇円」という衝撃的な数字を用意していました。

前述した通り、モデムのレンタル料やISP利用料を含めれば月額二八三〇円なのですが、そこからADSL接続料だけ切り出した数字も発表することで、ニュースバリューを高めたのです。

ちなみに、この記者会見に登場した孫社長は、ユニクロのシャツを着ていました。

これも「低価格で良質」というユニクロのイメージにかけた演出です。

これだけ材料を揃えれば、ニュースにならないはずがありません。

記者会見を受けて、新聞やテレビは「Yahoo!BB」について一斉に報道しました。

しかも、新聞の隅に小さく載るのではなく、何段にもわたって大きく取り上げられたのです。

その結果、「インターネットユーザーの間では知らない人はいない」というくらいの認知度を獲得できました。

こうした派手な発表を孫社長はしょっちゅうやるので、ソフトバンクは「発表経営」だと揶揄されたこともあります。

しかし、同じだけの効果を広告やCMだけで得ようとしたら、とんでもないお金がかかります。

新聞の一面に広告を出せば、それこそ数千万円単位で費用を払わなくてはいけません。

先ほど私は、3次元経営モデルの第1段階は、「顧客数を増やす」だと話しました。

でも実は、その前の「フェーズ0」とでも呼ぶべき段階に、「認知度を上げる=潜在顧客を増やす」というプロセスがあります。

だからソフトバンクは、初期段階で圧倒的な顧客数を獲得できるのです。

「ブランド」「行列」をうまく活用する認知度を上げるために、孫社長が活用しているものがもう一つあります。

それは「ブランド」です。

ご存じの通り、もともと「Yahoo!」というブランドは、米国のディレクトリー検索サービスとして誕生しました。

よって日本でビジネスを展開するにあたっても、検索サービス以外でこの名前を使うことは想定されていませんでした。

しかし孫社長は、ADSLサービスにこのブランドを使い、「Yahoo!BB」という名前で提供することを決めたのです。

その時点ですでに、検索サービスの「Yahoo!」というブランドは、日本でも高い認知度を獲得していました。

それを使えば、一般の人には耳慣れないADSLというサービスでも、一気にメジャーに打って出られるという判断をしたのです。

これもすでに述べましたが、当時のソフトバンクは、まだまだ一般での知名度や信用度は低いベンチャー企業に過ぎませんでした。

これがもし「ソフトバンクBB」というサービス名だったら、これほど一気に顧客数を増やせたかはわかりません。

さらに、孫社長は「行列」もうまく利用します。

iPhoneが日本で初めて発売された二〇〇八年七月十一日、ソフトバンクショップに長蛇の列ができている様子をテレビのニュースは繰り返し報道しました。

実はここにも仕掛けがありました。

他のショップは正午の発売でしたが、ニュースで取り上げられた表参道店だけは朝七時にオープンし、iPhoneを先行発売すると事前に告知したのです。

こうなると、Apple製品のファンや新しいもの好きの人が開店前から行列を作るのは目に見えています。

実際この時は、数日前から泊まり込みで表参道店の前に並ぶ人が続出しました。

ニュースとして、これほど絵になるものはないでしょう。

孫社長はそれをわかった上で、マスメディアが大騒ぎしてくれる状況を意図的に作っているのです。

「キャズム」は一気に越えるのが孫社長流こうしてビジネスの初期段階から一気に認知度を上げ、潜在顧客を増やして、「キャズム」を一気に越えるのが孫社長の必勝法です。

実はADSLも、一歩間違えれば、第4章で紹介したブラックベリーと同じ末路を辿る可能性がありました。

当時、通信業界では「ADSLは一部のマニアだけが使うもの」と考えられていました。

料金が高額で、自分でモデムの設定などもしなくてはいけなかったので、インターネットに詳しい人でなければ使えないサービスだと思われていたからです。

「物好きを相手にしたニッチなビジネス」というのが、ADSLに対する一般の共通認識でした。

イノベーターやアーリーアダプターなら、料金が多少高くて操作が難しくても、「新しいものが好きだから」という理由で買ってくれます。

でも、そのままでは市場規模は拡大しません。

ユーザー数が少なければ、発注単位も少ないので、単価は高いままです。

新しいものへの感度がそれほど高くない人にも、「使ってみようかな」と思わせるまでには至らずに終わっていたでしょう。

ソフトバンクは、最初からその壁を突破するつもりでビジネスを始めます。

イノベーターやアーリーアダプターだけでなく、アーリーマジョリティやレイトマジョリティまでターゲットにする。

その目標があるから、孫社長も迷いなくモデムを一〇〇万台発注できたのです。

このやり方は、「ペネトレーション戦略」と呼ばれます。

これは、ビジネスの初期段階で思いきった低価格を設定し、市場シェアを獲得することに注力する戦略です。

獲得コストを考えるのは、そのあと。

とにかく顧客数(=販売数)を増やせば、単位あたりのコストは自然に下がっていくことを前提としています。

ソフトバンクとは正反対なのが「スキミング戦略」です。

新しいものが好きな人たちに高価格帯の商品を売ることで、利益を得ようとする戦略です。

ニッチなビジネスで生き残るなら、その選択肢もあるでしょう。

しかし、孫社長は「キャズム」を一気に越える戦略をとりました。

だからソフトバンクは、他と比べものにならないくらいの急成長を遂げたのです。

ソフトバンクに「キャズム」は存在しない──。

そう言われるくらいの圧倒的なスタートダッシュを切ることが、ソフトバンクの強さの秘訣なのです。

「無料化」で心理的ハードルを下げ、試用顧客を増やす認知度アップで潜在顧客を増やしたら、次は「試用顧客」を増やすことが必要です。

この段階では、「いかに顧客の心理的ハードルを下げるか」に集中します。

新しい商品やサービスが世に出ても、イノベーターやアーリーアダプター以外の一般の人たちは、「本当にいい商品なのか」「いざ使ってみたら、何か問題が起こったりしないか」といった不安や懸念を抱くのが普通です。

それを払拭するには、商品やサービスを試しに使ってもらうのが一番です。

しかも、顧客にとってノーリスクで試せることが重要です。

顧客が金銭や手間を少しでも負担することになれば、たとえ〝お試し〟であっても心理的なハードルは上がってしまうからです。

「Yahoo!BB」の時は、ノーリスクのお試し戦略として、「モデムの無料キャンペーン」を実施しました。

モデムを顧客に無料で貸し出し、ADSLに接続した後も二ヶ月以内ならいつやめても料金は発生しないという内容です。

しかも利用料をタダにするだけではなく、モデムの取り付け費も無料にしました。

マニアの人なら、こうした設定作業も自分で難なくやれますが、一般の人は「自分でやるなんて面倒だな」という心理が働きます。

だからお金の面だけでなく、手間や労力の面でも、ハードルを下げなくてはいけなかったのです。

それまでのADSL事業者は、一万円近い月額料金でも平気で払うような一部のマニアだけをターゲットにしていたので、一社あたり多くても三万人ほどのユーザーに留まっていました。

しかし、ADSLを一般大衆にまで広め、初期段階で一気に一〇〇万人規模の顧客を獲得するには、「言葉で商品の良さを説明して、納得したら使ってもら

う」という従来のやり方では時間がかかりすぎます。

だったら、お金や手間を含めたユーザーコストを最小化し、実際に使ってみてもらうのが最も手っ取り早いということです。

「無料」と言うと怪しい商法のように思われがちですが、試用顧客を増やすのに、これほどスピーディーかつ確実な方法はありません。

「お試しには一円もかからないし、お客様のお手間は一切とらせません」そう言われれば、警戒心が強い人でも「それなら使ってみようかな」と思うものです。

初期のコストは売り手が負担してでも、顧客にまず使ってもらうこと。

これがソフトバンクの顧客獲得戦略において、極めて重要な第一歩です。

「プロセス分析」でコールセンターのクレーム数が激減認知度アップと無料キャンペーンが功を奏し、「Yahoo!BB」は先行予約の受付開始直後から申し込みの予約が殺到しました。

それ自体は孫社長の目論見通りでしたが、問題はソフトバンク社内にそれだけ大量の申し込みに対応する体制が整っていなかったことです。

実は孫社長が大々的に記者会見をした時点でも、実際に事業を開始するにはまだまだ多くの課題が山積みになっていました。

ADSL事業に新規参入するには、NTTの回線や局舎を借りてネットワークを作る必要があり、そのためにはNTTとの交渉や申請作業といった面倒な手続きが必要です。

しかも、「ISDNのエリアでは利用できない」「自宅に電話回線を使った警備システムが入っていると利用できない」など、ユーザーごとに使える条件が異なるというやっかいな代物でした。

あまりにも乗り越えるべきハードルが多かったため、多くの申し込みをもらったにもかかわらず、ADSLの開通工事や手続きは遅れに遅れていました。

その結果、「申し込みしたのに開通できない」というクレームが大量に押し寄せたのです。

この非常事態を受けて、コールセンターは完全にパンク状態に陥りました。

無料キャンペーンで心理的ハードルを下げたにもかかわらず、すぐに利用できない上に、コールセンターに電話してもなかなかつながらないのであれば、ユーザーは「だったらもういいや」と見切りをつけてしまいます。

せっかく集めた試用顧客が「契約顧客」に至らなければ、ソフトバンクは一円の利益も得られません。

社内がまさに火を噴いたこの時、例のごとく私は孫社長にこう言われました。

「三木、お前が行って何とかしてこい!」早速コールセンターに乗り込んだ私が問題解決に使ったのは、第3章で紹介した「プロセス分析」でした。

「申し込んだのに利用できない」ということは、「申し込み」から「開通」までのプロセスのどこかで、業務が滞っているということです。

その答えは、業務フローをプロセスに分けて歩留まりを出せば、すぐわかります。

私は「申し込み」「NTT申請」「NTT局内工事」「顧客の宅内工事」「開通」といったプロセスに分け、プロセスごとに業務が止まっているNG件数を調べました。

その結果、特に業務の滞留が多かったのが、「NTT申請」のプロセスでした。

原因を調べてみると、電話回線の名義人が間違っているために、NTTへの申請が通らないケースがかなりの割合で発生していることが判明しました。

一人暮らしを始める時に、親の名義で電話回線を申し込んだのに、それを忘れて「Yahoo!BB」の申し込み時に自分の名前を書いてしまう。

そんなユーザーが多かったために、申請を突き返されてしまったのです。

ここまでわかれば、次のアクションも見えてきます。

申し込み時に営業担当者が正しい回線名義人を確認するのを忘れないよう、チェックリストを作成する。

回線名義人に誤りがあった場合は申込数にカウントせず、代理店へのインセンティブの支払いを停止する。

それでも記入に誤りがあった時のために、本人から電話で知らせてもらえるよう専用のコールセンターを設置する……。

こうした手を次々と打った結果、開通までの平均日数は短縮し、それに伴ってクレーム数も激減していきました。

「歩留まり管理」で試用顧客を確実に契約までもっていくプロセス分析を使ったのは、クレームや問い合わせを減らすためだけではありません。

試用顧客を契約顧客につなげる確率を高めるためにも、プロセスごとに数値化して歩留まりをチェックしました。

先ほどは開通までの業務フローで説明しましたが、実際はさらにその先にもプロセスがあります。

「申し込み」→「NTT申請」→「NTT局内工事」→「顧客の宅内工事」→「開通」→「保守運用」→「課金」この最終プロセスまで来てようやく、ソフトバンクにお金を払ってくれる「契約顧客」になるわけです。

私はプロセスごとに歩留まりを計測し、数値が低い場合は即座に改善策を打つと同時に、販売を委託している代理店ごとに分けた数値も出しました。

A社は申し込み数の七五%が課金に至っているが、B社は五〇%で留まっているなら、後者には改善すべき何らかの問題があると考えられます。

こうして代理店や販売チャネルごとの数値も出して、問題があればすぐに発見し、改善策を実行できる仕組みを作ったのです。

課金に至る顧客を増やさなければ、ソフトバンクの3次元経営モデルの第1段階である「顧客数を増やす」という目的を達成したことにはなりません。

プロセス分析による管理を徹底し、歩留まりの悪さを解消することは、次の第2段階へ移れるかどうかのカギを握る非常に重要なポイントと言えるでしょう。

付加価値の高い追加サービス・オプションで、「顧客単価」を高める「顧客数を増やす」というフェーズをクリアしたら、次の第2段階は「顧客単価を上げる」です。

最初こそ顧客数を優先し、「無料でも構わないからできるだけ数を集める」という一点に集中しましたが、この段階では顧客一人あたりの単価を上げることに注力します。

第2段階を数式で表すと次のようになります。

「顧客数×顧客単価=売上」長期的な売上には残存期間が関わってきますが、この段階での「売上」は、単年度あるいは短い一定期間の数字と考えてください。

顧客単価を上げることにより、この売上を最大化することが、3次元経営モデルの第2段階における目的となります。

では、どのように顧客単価を上げていくのか。

ソフトバンクがとる戦略は、「付加価値の高い追加サービスやオプションの提供」です。

皆さんも「フット・イン・ザ・ドア」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

これは、セールスマンが訪問先でドアをいったん開けさせ、足を入れて閉まらないようにしてしまえば、相手は商談を拒否できなくなることに由来しています。

つまり、最初は「ちょっとドアを開けてもらえますか」という小さな要求から始めて、相手が承諾しやすい状況を作れば、あとは少しずつ大きな要求をしても、相手から承諾を得やすくなるということです。

これでわかるように、一度何らかの商品やサービスを購入した人は、それに関連するものを追加で購入することへの心理的ハードルが下がります。

特に「セットで使えばお得になる」「組み合わせればより便利になる」といったメリットを提示できれば、抵抗感はさらに小さくなり、「だったらそれも買おうかな」という心理が働きます。

その結果、関連商品の購入を促すクロスセルがやりやすくなるのです。

「Yahoo!BB」の顧客に対しても、「フット・イン・ザ・ドア」によるクロスセルを行って、顧客単価を上げていきました。

ADSLのサービスを始めた当初、顧客単価は二〇〇〇円台でした。

それが五年後の二〇〇六年には、ほぼ二倍の四三九五円にまで上がったのです。

これを可能にしたのが、積極的なセット販売の提供でした。

「Yahoo!BB」のサービス開始から約一年半後の二〇〇二年末、ソフトバンクは「Yahoo!BB12M+無線LANパック」の提供を始めました。

これはADSLの「Yahoo!BB」とIP電話「BBフォン」に、無線LANサービス(月額使用料九九〇円)を組み合わせたサービスで、月額料金は諸費用を合わせて四五三三円でした。

すでにサービスを使っている人が、「あと九九〇円ほど追加するだけで、無線LANが使い放題になりますよ」と言われたら、「だったらお得だな」と思うはずです。

新規顧客を獲得する時も、営業現場の販売員たちは「今からADSLを始めるなら、無線LANもあったほうが便利ですよ」という勧め方ができるので、新たに申し込むユーザーの顧客単価も上がりやすくなりました。

さらにこの時も、「新規申し込みをした人は、最大二ヶ月分の無線LANパックの利用料を無料にする」というキャンペーンを実施して、新しいサービスへの心理的ハードルを下げるのを忘れませんでした。

今でこそ無線LANは一般家庭にも広く普及していますが、当時はまだ有線でつないでいるユーザーが大半でした。

そんな人たちにとって、家の中のどこでもパソコンがネットにつながって、さらにゲーム機など他のデバイスにも使える無線LANは、それまでのライフスタイルが一変するほどの便利さを実感できるサービスだったはずです。

いったんその快適さを知ってしまったら、わざわざ有線LANに戻ろうと思う人はいません。

よって、無料キャンペーンさえ申し込んでもらえば、そのまま契約顧客になるユーザーがほとんどでした。

こうしてADSLというメインのサービスを軸に、顧客に追加購入の意思決定を促す戦略で、ソフトバンクの顧客単価はどんどん上がっていったのです。

「クロスセル=ついで買い」は利益率の高い〝儲かる商売〟こうしたクロスセルは、ソフトバンクに限らず、多くのビジネスで実践されています。

例えば、車を買った顧客には、「コーティングをすると、車体が汚れにくいですよ」「もしもの時に備えて、カーセキュリティもつけませんか」などと、営業が追加のサービスを勧めます。

顧客は車という一〇〇万円単位の大きな買い物を決断した直後なので、数万円程度のコーティングやセキュリティ機器なら「ついでにお願いしようか」と承諾しやすい心理状態になっています。

それを利用して、車の営業担当は顧客単価を上げていくわけです。

あるパーソナルトレーニング型のジムでは、利用者に販売するサプリメントが大きな収益源になっています。

このジムに通う人はシェイプアップが目的なので、トレーナーからエクササイズの指導を受けるだけでなく、食事の内容も制限されます。

そこで「普段の食事で摂れない栄養素を補うオリジナルのサプリメントがありますよ」と追加の購入を勧めるという営業手法です。

このサプリメントは一般に市販されているものより高額ですが、それ以上に高いジムの利用料を払っている人たちは、思わず「それも買います」と承諾してしまうのです。

車にしろトレーニングジムにしろ、高額な商品を買う決断をした人間は、追加購入に対する心理的ハードルが下がっていることがよくわかります。

売る側としても、初めて商品を買ってもらうまでにかかる多大なコストと苦労に比べれば、ついでに関連商品を買ってもらうほうがよっぽどラクです。

しかも、車体のコーティングやサプリメントは、非常に原価の低い商品です。

たとえプラスになる売上は数万円でも、会社にとっては利益率の高い〝儲かる商売〟と言えます。

これほどメリットの多いクロスセルですが、実践していない企業やビジネスも多いのが残念です。

もう一度おさらいしますが、「顧客数×顧客単価=売上」です。

もし「売上が上がらない」という問題を抱えているなら、「顧客数だけでなく、顧客単価を上げられないか」と考えてみてください。

あらゆる販売手法や販売チャネルを〝一気に、同時に〟試す第1段階の「顧客数を増やす」では〝線〟だったものが、第2段階の「顧客数×顧客単価」を実現したことで〝面〟を取れるようになる。

これが、3次元経営モデルの第2フェーズです。

この段階では、あらゆる販売手法や販売チャネルを試すのが孫社長のやり方でした。

「Yahoo!BB」でも、もちろんこの戦略を実践しました。

しかも、一つずつ試すのではなく、「一気に、かつ同時に」です。

販売を委託した代理店は、何十社にも上りました。

また、街頭でモデムを配る「パラソル」は、日本全国北から南まで数千ヶ所で実施しました。

いずれも当時の通信業界では考えられない規模や数での展開です。

余談ですが、代理店のスタッフを集めて、孫社長自らモデムの渡し方を指導したこともあります。

集まった数百人を前に、「道行く人と目が合ったら、こうやって渡すんだぞ!」と身振り手振りを交えながら熱演したほどです。

こうして孫社長自ら現場の旗振り役となり、販促キャンペーンを大規模展開したのも、ひとえに売上を最大化するためでした。

これが他の会社なら、代理店にしても、パラソルを出す場所にしても、「まずは少ない数で試してみよう」と考えるでしょう。

しかし孫社長は、「大きな数を一気に試し、その結果を数字で検証して、一番いい方法を見つける」というやり方にこだわりました。

理由の一つは、第4章で紹介した「鮭の卵理論」が念頭にあるからです。

新しい会社や事業が生き残る割合は、そもそも非常に低い。

だからこそ、できるだけ多くのくじを引かなければ、わずかな〝当たり〟には辿り着けない。

それを知っているから、一〇〇個よりは一〇〇〇個、一〇〇〇個よりは一万個の方法を試そうと考えます。

もう一つの理由は、比較検証のスピードと正確さが段違いにアップするからです。

一般の会社のように、「少数ずつ試して、その結果を検証し、それを踏まえてまた別の方法を試す」というやり方をしていたら、考えうるすべての方法を試し終えるまでにどれだけ時間がかかるかわかりません。

一つの代理店を試して、その結果報告が上がってくるまでに三ヶ月かかるとしたら、二〇社を試し終わるまでに五年かかることになります。

そんなことをしている間に、環境や条件はどんどん変わります。

iPhoneが携帯電話市場を一瞬で塗り替えてしまったように、突然まったく新しい商品やサービスが登場して、ビジネス環境が一変してしまうことも珍しくありません。

そうなれば今自分たちが試している方法がすべてムダになります。

のんびり時間をかけて試している間に、勝負がついてしまうのです。

また、試している間に、比較検証する前提条件が変わってしまうこともあります。

せっかく数値を計測しても、現時点と一年後では経済や景気の変動で消費者行動が変わっている可能性があります。

「代理店Aより代理店Bの顧客獲得数は少ない」という数字が出ても、その計測時期に数ヶ月や一年もの差があったら、「Aを測定した時期は景気が良かったから」「Bを測定したのは夏枯れの時期だから」などと、何とでも言い訳ができてしまいます。

つまり、その数値が有意なものであるかどうか、客観的判断がつかなくなるのです。

数値化して比較するなら、計測する条件を揃えることが大前提です。

そのためにも、孫社長のように「一気に、かつ同時に」試すことが重要なのです。

「大きな数を一斉に試したら、失敗の数も増えるのでは?」そう心配する人もいるでしょう。

しかし第1章でも述べた通り、ソフトバンクでは最初から失敗を織り込み済みで実行に移します。

成功も失敗も、すべて「実行の結果」であることに変わりはありません。

結果がたくさん手に入れば、数値化の精度も上がります。

その正確な数値をもとに、迅速に次のアクションに移れば、「売上を最大化する」という第2段階の目的を、より確実かつ最速で達成できます。

「成功か、失敗か」ではなく、「すべての結果は数値化のための材料である」と捉えて最大限に活用するのが、孫社長とソフトバンク社員に共通する考え方です。

「これからは多変量解析をしないやつの話は一切聞かない」では、あらゆる手法を試して結果を手に入れたら、何に着目して数字を検証すればよいか。

ここで登場するのが、基本となる「五つの数字」の一つ、「顧客獲得コスト」です。

第1章で説明した通り、最終的に会社の利益を最大化するには、どこかの時点で顧客獲得コストを下げなくてはいけません。

ソフトバンクの場合、最初はとにかく顧客数を増やし、続いて顧客単価を上げることに集中してきましたが、ここまで来たら次はコストを下げるためのアクションに着手します。

そのために使うのが、第2章で紹介した「重回帰分析」です。

「Yahoo!BB」のパラソルの結果も、重回帰分析を使って徹底的に分析するようにと、孫社長から指示されました。

私だけでなく、ソフトバンクの幹部たち全員に対して、「これからは、多変量解析をしない人間の話は一切聞かない」と言い放ったほどです。

こうして私たちは、「売り場面積」「パラソル前の道の通行量」「アルバイトの人数・熟練度」「駅からの距離」「天気」「曜日や時間帯」など、複数の要素がどのように関係しているかを重回帰分析で分析するのが習慣となりました。

重回帰分析をすれば、パラソルごとの顧客獲得数がどの要素によって影響されるのかがわかります。

そうすれば、より効率的に顧客を獲得する方法もわかるので、獲得コストを下げることも可能になります。

重回帰分析の結果、「パラソル前の道の通行量」が顧客獲得数に最も大きく影響していることが明らかになったとします。

だったら、通行量が少ない場所にパラソルを出すのはコストがムダになるということ。

こうした場所は撤退し、もっと人通りが多い場所を借りるための交渉に力を入れるのが、次にとるべき最善のアクションになります。

さらに重回帰分析なら、「どの地点にパラソルを出せば、どれくらい顧客獲得コストが下がるか」も数字で明確に出すことができます。

「一時間あたりの交通量が一〇〇〇人以上の場所での出店は現在一〇ヶ所だが、これを二〇ヶ所に増やせば、顧客獲得コストは二五%下がる」といった予測値が一発でわかるのです。

ここまで具体的に「次に何をすべきか」を教えてくれるのですから、孫社長が重回帰分析を使えと指示したのも納得がいきます。

もし重回帰分析をしなければ、複数の要素のうち、何が成果を左右しているのかがわからず、間違った方向に突っ走ってしまいかねません。

「顧客獲得数が伸びないから、もっとパラソルの数を増やしてみるか」と考えて、人通りの少ない場所にまでどんどん出店したら、出店コストや人件費は増えるのに獲得数は増えないという結果になり、顧客獲得コストはますます上がってしまいます。

重回帰分析をすることで、何を優先して改善すればいいかを正しくつ

かむことができるのです。

また、重回帰分析で「予測値」を出すと、「実測値」とのズレがあった時に、すぐに気づけるというメリットもあります。

あるパラソルの顧客獲得数が予測値と大きく食い違ったら、何らかの要素に変化があった証拠です。

もし予測値より数字が少なかったら、「近くに新しいショッピングモールができて、店の前の人通りが急に減ってしまった」といった環境の変化が起こった可能性があります。

その場合は、出店場所を見直したり、人の流れを呼び戻すためのイベントを検討するといった改善策をすぐさま実行する必要があります。

逆に予測値より数字が多かったら、「アルバイトがモデムの渡し方を工夫したら、受け取ってくれる人が大幅に増えた」といった秘策が隠れているかもしれません。

その場合は、同じモデムの渡し方を他の代理店にも伝えて横展開すれば、より効率的に顧客獲得数を伸ばすこともできるでしょう。

いずれにせよ、予測値と実測値の差をチェックする習慣をつければ、そこに隠された問題や良い事実に素早く気づくことができます。

数値化を徹底せず、これらの情報を見逃している会社とソフトバンクで大きな差がつくのは、当然と言えるのではないでしょうか。

一人あたりの顧客獲得コストを、販売手法・チャネル別に計算・分析する「顧客獲得コスト」については、重回帰分析で予測値を出すだけではなく、実測値の計測も徹底して行いました。

ここで使うのが、「分けて計測する」という数値化仕事術の基本です。

「Yahoo!BB」の時も、販売手法ごとや販売チャネルごとに分けて数字を計測する仕組みを作りました。

この時期に販売チャネルとなったのは、代理店だけではありません。

WEBでの受付や、アウトバウンドの電話営業、訪問販売まで、あらゆる販売手法を試しました。

ただしそのままでは、どのチャネルからどれだけの顧客を獲得できたのかが把握できません。

そこで申込書に代理店ごとのコードを振り、さらに「パラソル」「WEB」「電話営業」「訪問販売」などの販売手法ごとにもコードをつけて、必ず顧客獲得の経緯を記録する体制を整えたのです。

その結果、顧客獲得コストは格段に管理しやすくなりました。

例えば、代理店Aに一〇〇万円支払って、一〇〇人の顧客を獲得できたとしたら、一人あたりの顧客獲得コストは一万円です。

一方で、代理店Bは八〇〇〇円で、代理店Cは一万五〇〇〇円といった顧客獲得コストになれば、代理店ごとの成果を正当に比較できます。

同様に販売手法別でも、「電話営業は一人あたり一万二〇〇〇円で、パラソルは九〇〇〇円」といった獲得コストを計測しました。

ここまで何度も話してきましたが、必要な数字は自分から取りにいかなくては手に入りません。

特に新しいビジネスでは、社内に数字を集める仕組みがないので、意志を持ってそれを作る必要があります。

ソフトバンクでは、社員たちが常にそれを頭に置き、ビジネスのフェーズに合わせて必要な数値化の仕組みをどんどん作っていくのが当たり前なのです。

四年連続赤字から一気に黒字に転換できた理由こうして「どうすれば顧客獲得コストが下がるか」を検証し続けてきたソフトバンクですが、実際に会社の利益を最大化し、黒字に転換したのは二〇〇五年度のことでした。

実はADSL事業に参入した二〇〇一年度から、ソフトバンクは四期連続でずっと赤字だったのです。

もしも五期連続で赤字を出せば、上場廃止になるという瀬戸際でした。

普通の経営者なら青ざめる場面ですが、孫社長は違いました。

なぜなら、黒字にする方法はすでにわかった上で、あえてギリギリまで赤字を続けるという戦略

をとったからです。

そんな離れ技ができたのも、数値化の裏づけがあったからでした。

「Yahoo!BB」のパックが月額で約四五〇〇円なので、一人のユーザーから得られる年間の顧客単価は約五万四〇〇〇円。

会員数は順調に伸び続け、二〇〇三年半ばには三〇〇万人の大台に乗り、翌年の二〇〇四年三月には四〇〇万人を突破したので、五万四〇〇〇円にその時の顧客数を掛ければ売上が計算できます。

そこからコールセンターや本社費用といった「顧客維持コスト」を引けば、顧客獲得コストをどれだけ投入してよいかもわかります。

つまり、「黒字化するには、顧客獲得コストをいくらに抑えればいいか」が逆算できるということです。

なお「顧客維持コスト」については、第4章までに繰り返し紹介してきた通り、コールセンターの業務を効率化するなどして、すでに下げる手を打っていました。

あとは逆算した予算内で、獲得効率の高い販売手法やチャネルを選別していけば、狙ったタイミングで黒字化できます。

前述の通り、ソフトバンクでは重回帰分析や販売手法別・チャネル別で徹底した数値化を行っていたので、「どの代理店に絞ればいいか」「パラソルはどの場所に集中させればいいか」といった検証はほぼ済んでいましたし、販売チャネル別の平均顧客単価もすでに把握していました。

しかも、まずは顧客数と顧客単価を上げる戦略をとったので、売上高は毎年増えていました。

二〇〇一年度に四〇〇〇億円だったソフトバンクの売上高は、二〇〇四年度には八三〇〇億円に倍増しています。

だから本当ならもう少し早く黒字化することも可能でしたが、孫社長は赤字の期間を延ばしてでも、できるだけたくさんの方法を試すことを選択しました。

より多くの実測値を入手すれば、検証の精度も上がり、最終的に一番良い方法を選んで、会社の利益を最大化するという目的を果たせるからです。

こうして最良の方法に絞り込んだ結果、ソフトバンクは二〇〇五年度に見事黒字へ転換しました。

同年の営業利益は六〇〇億円、翌年の二〇〇六年度は二七〇〇億円と、その後も利益は伸び続けていったのです。

赤字続きの四年間は、外部からは業績不振にあえいでいるように見えたかもしれません。

でも実はその裏で、ソフトバンクは考えつく限りの方法を試し、確実に目標を達成するために数字の検証を続けていたのです。

ソフトバンクの事業計画と、普通の企業の事業計画の違い孫社長が自信を持ってギリギリまで赤字を続けられたのは、「数値化すれば未来が予測できる」と知っていたからです。

そして数値化を徹底すればするほど、予測の精度が上がっていくことも理解しています。

だから事業計画も、精度の高いものになるのです。

第2章で話した通り、ソフトバンクは最初の段階で綿密に計画を立てようとはせず、むしろ「DO」してから、その結果を受けて精度の高い「PLAN」に仕上げていきます。

必要であれば、いったん設定したKPIも実測値に合わせてどんどん見直します。

よって、数値目標そのものの精度も上がっていきます。

だからこそ、目標に向かって社員たちが努力し、頑張るだけの意義があるのです。

ところが多くの日本企業では、経営トップやマネジャーが単なる願望で何の根拠もない数値目標を掲げておいて、「どうやって達成するかは現場で考えろ」と放り投げるケースが少なくありません。

そんな目標を与えられて、社員たちが意味のない努力で心身をすり減らしたり、モチベーションを低下させている企業があまりに多すぎます。

さらに、いったん事業が動き出した後の数字の管理も、ソフトバンクと一般の会社では大きく異なります。

多くの会社では、事業が始まる前は時間をかけて綿密な計画を練り上げますが、実際にビジネスがスタートすると、その後は単なる予算管理にしか使われなくなります。

しかし事業開始前に作った計画は、あくまで机上のもの。

実際にやってみたら、予測とは違う数字が出て当たり前です。

だからソフトバンクの事業計画は、実行してからが本当のスタートです。

現場から上がってくる数字をリアルタイムで把握し、回帰分析などの手法で検証して、事業計画とすり合わせていく。

もし実測値が目標値と乖離していたら、どうすれば数値を改善できるか考え、高速でPDCAを回し続ける。

それを現場の社員からトップまで、全階層で実践します。

こうして事業計画そのものを変化させ続けるのが、ソフトバンク流PDCAです。

孫社長は、「ビジネスプランは千通り作れ」と口グセのように言っていました。

それはつまり、あらゆる数値を計測しながら数式に当てはめて、考えうるすべてのパターンで予測値を出しておけという意味です。

だから数値を比較して、「顧客獲得コストが一万二五〇〇円まで上がると、二〇〇五年度までに黒字化は無理だな。

やっぱり一万円以上の代理店は切ることにしよう」といった判断ができて、最適かつ正しい行動を選択できるのです。

それに対し他の会社では、事業が始まる前はむやみやたらとプランを作るものの、ビジネスが動き出してからはそれを見直す作業をしません。

バリエーションを作るにしても、せいぜい「楽観的なシナリオ」「普通のシナリオ」「悲観的なシナリオ」の三パターンくらいです。

だから結局、現場の社員たちが努力と根性で何とかするしかないという事態に追い込まれます。

しかし、事業計画を本当に意味あるものにするには、トップダウンでビジネスプランの変更をすることが必要になる場合もあります。

孫社長が経営者として優れているのは、その判断を必要に応じて瞬時にできることです。

LTVをセグメントごとに算出し、「取りにいくべき顧客」を明確にする黒字化してビジネスの基礎を固めたら、仕上げとして集中すべき数字が「残存期間」です。

これまでは単年度で営業利益を見てきましたが、この段階に入ったら、第1章で紹介した数式で中長期的な会社の営業利益を考える必要があります。

営業利益=(顧客数×顧客単価×残存期間)−(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)顧客数を増やして〝線〟を伸ばし、そこに顧客単価を掛けて〝面〟を取ったら、最後に残存期間という「時間軸」を加えて〝立体〟を作り上げる。

ここまで来てようやく、ソフトバンクの3次元経営モデルが完成します。

もともと孫社長は、本人いわく「牛のよだれのようなビジネス」を意図的に選択しています。

ライフタイムバリュー(LTV)を意識して、「一回売ったら終わり」ではないビジネスを戦略的に選んでいるのです。

ADSLにしても、携帯電話やスマートフォンにしても、いったん契約したらすぐに解約する人は少ないはずです。

とはいえ、それでも途中で他社に移る人もいれば、十年以上ソフトバンクを使い続けてくれる人もいます。

よってこの段階になったら、「一人が顧客でいてくれる期間=残存期間」をできるだけ長くする戦略を仕掛けて、将来にわたって会社の利益を最大化することが重要となるのです。

この「残存期間」も、一定期間ビジネスを続ければ、数字で把握できるようになります。

そこでソフトバンクでは、販売チャネルや販売手法、キャンペーンごとに分けて、残存期間を計測し続けました。

すると、「家電量販店でADSLとテレビをセットで購入した顧客は、残存期間が長い」といった実測値がつかめます。

テレビを買うついでに勧められてADSLに入る人は、もともとITについて詳しくない人が多いと想定されます。

だから無料で設置工事をして、いったん使えるようにしてあげれば、その後も他社に乗り換えようとはあまり考えないのでしょう。

反対に、WEBから申し込む人は、インターネットの操作に慣れている人が多いので、もっと安いサービスが登場すると、サッサとそちらに乗り換えてしまう。

よって、残存期間はそれほど長くないといった数値が得られます。

こうして残存期間がわかれば、「積極的に取りにいくべき顧客と、そうでない顧客」のセグメントが明確になります。

例えば、一年間に四万円を支払ってくれる顧客が三年間サービスを使い続けてくれたら、会社にもたらすお金は一二万円です。

この人に対しては、顧客獲得コストを八万円かけても、差し引き四万円の利益を得られます。

ところが、一年間に六万円を支払ってくれても、最初の年でやめてしまったら、その顧客が会社にもたらすお金は六万円です。

この人に八万円の顧客獲得コストをかけたら、二万円の赤字になってしまいます。

よって、このセグメントの顧客は取りにいかないほうがいいという判断ができます。

実際には、いったん商品を購入した人をキープするためのコストもかかるので、その人のライフタイムバリューは、次の数式で計算できます。

「(顧客単価×残存期間)−(一人あたりの顧客獲得コスト+顧客維持コスト)」これをセグメントごとに算出し、ライフタイムバリューがマイナスになる顧客は足切りして、ゼロになる顧客まで取り続ける。

これが、その事業が生み出す利益を最大化する方法であり、ソフトバンクが目指す究極の勝ち方なのです。

LTVを意識しているか否かで、大きな差がつく時代ライフタイムバリューを意識すれば、顧客獲得コストに対する考え方も変わります。

一定期間の損益だけ見ていると、「一年間で払ってくれるお金は顧客一人あたり四万円か。

だったら、顧客獲得コストはそれ以下に抑えなければ」と考えます。

しかし、ライフタイムバリューで数字を見ていれば、「このセグメントの顧客は平均で三年の残存期間がある。

だったら、四万円×三年=一二万円までなら、顧客獲得コストを投入できる」と考えます。

そうなれば、どちらが勝つかは明白です。

顧客獲得コストに四万円かける会社と一二万円かける会社があれば、後者のほうがより多くの顧客をつかめるのは間違いありません。

販促や宣伝にもお金をかけられるので、コストをかけただけの成果は確実に得られるからです。

ライフタイムバリューで数字を見ている会社とそうでない会社では、素手で戦うのか、それとも戦車で戦うのかというくらい、攻撃力に差がついてしまうということです。

ソフトバンクが多くのビジネスで圧勝できる理由が、これで納得していただけるのではないでしょうか。

「Yahoo!BB」のサービス開始当初は、パラソルを立てて無料でモデムを配る様子を見た人たちから、「あんな安っぽい販売所を作るなんて」「子どもや高齢者にまでモデムを配ってどうするのか」などと批判を受けたこともあります。

モデムの入った赤い袋が駅のゴミ箱に捨てられるという、悲しい光景を目にしたこともありました。

それでもあらゆる方法を実行し、大量の数字を取りまくったからこそ、ソフトバンクは今日のような数値化による精緻な3次元経営モデルを作り上げることができたのです。

いまやソフトバンクグループ全体の時価総額は一〇兆円規模に達し、孫社長は「二〇四〇年までに二〇〇兆円企業になる」と豪語しています。

無謀に思えるこの目標も、きっと宣言通りに達成してしまうことでしょう。

私がそう確信できるのも、孫社長の言葉の裏には常に、本書で紹介してきた数値化仕事術の裏づけがあると知っているからです。

数値化メタボがより深刻に。

「バニティメトリクス」も急増皆さんは、「バニティメトリクス」という言葉をご存じでしょうか?バニティメトリクスを日本語に訳すと、「虚栄の指標」という意味になります。

バニティメトリクスとは、一見するとポジティブで見栄えよく見えるものの、成果やパフォーマンスの実態を語ってはおらず、実態把握の本質から外れた意味のない指標のことです。

例えば、WEBマーケティングでは、「ページビュー数」がバニティメトリクスになりやすいものの典型です。

「ページビュー数が増えた」というと、何かいいことのように思えますが、ページビュー数が増えたからといって、必ずしも成果(申し込み、購買など)につながっているわけではありません。

冷静に考えれば当たり前のことですが、ビジネスの現場では「あれこれ頑張って『ページビュー数がこんなに増えた!』と喜んでいたら、肝心の申し込み数が全然伸びていなかった……」なんて悲劇がしばしば起きています。

バニティメトリクスは、第3章の「『間違った数値化』パターン③」で述べた、「目標達成の役に立たない数字」「ゴールに結びつかない数字」とほぼ同じ意味と考えてください。

なぜ、ここでバニティメトリクスの話をしたのか。

本書の元となる単行本を発刊したのが約四年前のこと。

あれから数字を取り巻く環境は大きく変わりました。

当時と今の最大の違いは、このバニティメトリクスが爆発的に増えたことです。

いったい、どういうことなのでしょうか。

今、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行しているように、デジタル化の波がさまざまな業界に押し寄せています。

特にコロナ禍以降、企業のDXの取り組みが一気に加速しました。

デジタル化とは、すなわち数値化のことです。

例えば、営業の現場ではマーケティングオートメーション(MA)ツールの導入が進み、見込み客の発掘から成約までの各プロセスを数値化し、分析することが当たり前になっています。

他にも、WEBツールをはじめとするさまざまなデータ解析ツールが世の中に出回っていて、数字を集めようと思えば、いろんな数字を安価に集められるようになっています。

また、ビジネスパーソンが自ら集めなくても、データ解析ツールを提供する会社や代理店が増え、それらのツールを使えば簡単に数値化できるようになっています。

その結果、第3章で警鐘を鳴らした「数値化メタボ」が、この四年間でさらに深刻化しているのです。

かつては数字そのものがなかったため、どうやって数値化するのか、というところから始まりました。

私自身、この数年間、数値化の重要性を機会あるごとに説いてきましたから、「数字で考える習慣」自体はだいぶ広がってきたと感じています。

そして今、ビジネスの現場に数字はあります。

しかも大量に。

その一方で、先ほども指摘した通り、数値化メタボが多くの企業を蝕んでいます。

これが私の危惧する現状です。

具体的には、データ解析ツールや外部委託により数字が簡単に手に入るようになったことで、その数字を見て「なんとなくわかった気になっている人」が増えてしまっています。

その数字は問題の本質をあぶり出しているのか、その数字を使ってどのように問題を解決していくのか、こうしたことには無頓着です。

本当に問題を解決しようと思ったら、手元にある数字をさらに細分化するとか、それ以外に必要な数字を作り出すとか、自分なりに問題解決のフレームワークを持って、もう一段深いレベルで数字を扱う必要があります。

しかし、そうした吟味や熟考はなく、与えられた数字を確認していることで安心してしまっている。

これは単なる思考停止です。

数字があることで、逆に思考停止に陥っているのではないでしょうか。

数字を使っているつもりで、実は数字に「使われている」数値化は本来、問題解決や改善・変革のためのツールです。

ですが今は、それが逆に現状維持のために使われている気がしてなりません。

例えば、何かの業務を外部委託すれば、たいていは〝いい数字〟を見せられることになります。

「ページビュー数がこれだけ増えています」「問い合わせ数がこんなに増えています」などと、自分たちのサービスを利用することによっていかに数字が上がっているかをアピールされるはず。

ただ、それが申し込みや購買といった「本来求める成果」につながっているかは別の話です。

ところが、その〝いい数字〟を部下から見せられ、「この数字を見てください。

こんなにうまくいっていますよ(だから現状維持で大丈夫です)」などと報告されると、上司もなんとなく納得してしまい、「そうか、じゃあこれまで通りで大丈夫だな」と思ってしまう。

実はその数字はバニティメトリクスで、本来は改善・変革のために早く別の手を打たなければいけないのに、実態が数字によって覆い隠されてしまい問題解決が遅れてしまうのです。

このように、提供される数字を吟味せずに、鵜呑みにしてしまうと、問題の本質は見えてきませんし、問題はいつまで経っても改善されません。

これでは数字を使っているつもりでも、実は数字に「使われている」。

もっと言えば、数字に「騙されている」のです。

第1章のポイント①でも書きましたが、「数字は与えられるものではなく、自分で取りにいくもの」です。

数値化してくれるツールが増え、数字が以前よりも容易に手に入るようになった今、この教訓がより重要な意味を持つと考えています。

リーダーだけでなく、誰もが数字を使えるようになる必要あり数字さえあれば、それをもとに自分の頭で考えられるし、その数字がバニティメトリクスだと感じたら、自ら新たな数字を取りにいく──。

リーダーやマネジャーとして活躍している人の中には、このように考える癖がつき、日々当たり前に実践している人も少なくないでしょう。

そして、こう思っているはずです。

「今の時代、これだけ数字が揃っているのだから、チームメンバーもこれらの数字を使って、現状の問題点を明らかにし、自分で解決策を考えるだろう」ところが、実際にはそうでもないようです。

リーダーやマネジャーは数字を使いこなし、成果に結びつけられるようになってきていても、チームメンバーはまだまだ数字を見てわかった気になったり、数字に使われたりしているケースが多い。

そしてその事実に、もどかしさや苛立ちを感じているリーダーやマネジャーも多いはずです。

「結局、リーダーやマネジャーが数字をチェックするのだから、メンバー一人ひとりはそこまで数字を使えるようにならなくてもいいのでは」という考え方もあります。

でも、それではこれからは勝ち残っていけないと私は思います。

というのも、ビジネスの環境変化が目まぐるしい今、あれもこれもリーダーやマネジャーの判断を仰いでいるわけにはいかないからです。

現場の一人ひとりが数字をもとに正しく分析・判断をし、自らスピーディーに問題解決をしていけるようにならなければ、この変化スピードに対応していけません。

ですから、やはり組織として数字を正しく扱えるようになる必要があります。

「数字を使える組織」にするために、チームメンバーに最低限これだけは身につけさせたいという、基本的な「数字の使い方」があります。

その三つのポイントを紹介しましょう。

ポイント❶「DIKW」に分けて考えさせる一つめのポイントは、「DIKWに分けて考えること」(次の図を参照)。

これをチームメンバーに徹底させることが、数字を正しく扱える組織を作るための最重要課題と言っていいでしょう。

「数字で考える」といっても、いろいろなレベルがあります。

それ自体は何の意味も持たない数字の羅列から、現状を的確に把握できるレベルの数値化、さらには問題解決や改善につながる数値化もあります。

数字の使い方を、それが持つ「付加価値」レベルで分類したものが、DIKWモデルです。

DIKWとは、Data(データ)、Information(情報)、Knowledge(知識)、Wisdom(知恵)の四つの頭文字をとったものです。

そして、これらを付加価値の低い順に並べると、Data<Information<Knowledge<Wisdomとなります。

このDIKWモデルを活用して、単なるDataレベルから、Information、Knowledge、Wisdomレベルへと付加価値を高めていくことで、より効果的で、成果につながるデータ分析が可能になります。

リーダーがチームメンバーに「数字で考えさせる」時には、このDIKWモデルをしっかりと意識させましょう。

では、DIKWモデルを意識するとは、具体的にはどういうことでしょうか。

「マーケティング調査結果の資料作成」を例に、詳しく説明していきましょう。

リーダーがチームメンバーに、「この前のマーケティング調査結果を資料にまとめておいて」と頼んだとします。

「数字で考える」ことの本質を理解していな

い初心者のメンバーなら、調査結果で得られた数字をそのまま羅列した資料を作成するかもしれません。

例えば、「自社製品のユーザーに満足度を調査したところ、満足:15%、やや満足:10%、どちらでもない:35%、やや不満:25%、不満:15%の結果になった」という具合です。

この記述を読んで、あなたが資料作成を依頼したリーダーなら、どう感じるでしょうか。

問題解決や改善につながるヒントを得られるでしょうか。

これはDIKWモデルに当てはめると、最も付加価値の低いDataに該当します。

つまり、これだけでは何の意味も持たない、単なる数字です。

ビジネス経験の豊富なリーダーなら、「その数字で何が言いたいの?」と思わずツッコミを入れたくなるかもしれません。

ただ、数字で考えることの何たるかが理解されていない日本の会社では、データの羅列=資料作成と勘違いしている人が多いのも事実です。

数字が持つ意味合いを考えずに、ただデータを並べれば「なんとなく仕事している感じ」になっている。

これでは、本人にも組織にも成長はありません。

「ではどうすべきか」まで考えられたら数字使いの達人単なるDataを、Informationへとアップグレードするにはどうすればいいのでしょうか。

その前に、Informationとは何かを考えてみます。

Dataが単なる数字であるのに対し、「その数字がどのような意味を持つのか」という解釈をDataに付加すると、Informationになります。

つまり、Informationは「何らかの意味のあるデータ」と言い換えることもできます。

先ほどの資料作成の例でいうなら、その年の調査結果だけを見るのではなく、過去何年か分の調査結果を時系列に並べてみることで、見えてくることもあるかもしれません。

仮に、「やや不満」「不満」の割合が年々増加傾向にあることがわかったら、次のような推測が成り立つかもしれません。

「ユーザーの高齢化が進むにつれ、今の製品を『使いにくい』と感じる人が増えている。

それが『やや不満』『不満』の増加に表れているのではないだろうか」このように、Dataを「解釈する」ことで、「現状はどうなのか」をより的確に把握することができるようになります。

これが、Informationレベルで考えるということです。

さらに、思考のレベルを上げていきます。

Informationが現状把握に役立つ情報であるのに対し、「これからどうなるか」の示唆を含んだものがKnowledgeです。

例えば、「これからますます高齢化は進んでいくので、『やや不満』『不満』の割合も増えていくだろう」。

Knowledgeレベルで考えると、こうした考察が生まれてきます。

「これからどうなるか」から、さらにもう一歩踏み込んで考えてみます。

このままいけば、「やや不満」「不満」が一層増えていくと予測できるなら、会社としては何か対策を講じなければなりません。

「では、どうすべきか」。

このレベルで考えて導き出された答えが、情報として最も付加価値の高いWisdomです。

この例で言えば、「もっと誰にでも扱いやすい仕様にすれば、高齢者の人にも使いやすい製品になって、売上が伸びるのではないか。

例えば、このキャップ部分をこんなふうに変えてみてはどうか」。

このような提案も資料に盛り込むことができたら、その人は立派な「数字使いの達人」と言えるでしょう。

ここまで読んで、次のように考える人がいるかもしれません。

「Dataよりも、意味づけされたInformationのほうに価値がある。

だったら、自分の考えを述べていればいいんだな」いいえ、それは違います。

想像してみてほしいのですが、データの裏づけがないのに、「あの件はうまくいっています」とか、「うまくいっていないんです」と独りよがりの意見ばかりを述べる人がいたら、どう思うでしょうか。

「この人はアテにならないな」と疑いの目を向けるはずです。

「意見と事実はちゃんと分けろ」と指導されたことのある人も多いでしょう。

ビジネスパーソンが自分の意見を述べる際には、その根拠となるデータを示さなければ、周りに信用されません。

かといって、データばかり並べて自分の意見を示せない人も、「この人は自分の考えがないんだな」と思われて、頼りにされません。

大事なことは、Dataの裏づけをもとに、Informationを導き出すことです。

つまり、DataとInformationの両方を行き来できるようになることが、ビジネスパーソンとして最低限、求められることなのです。

それができるようになってから、「その先はどうなるのか」(Knowledge)、「これからどうすべきか」(Wisdom)といった付加価値の高い提案ができるように、少しずつ訓練していくとよいでしょう。

あえて「I」以上を言わないようにしている人も多い日本の会社では、あえてDataレベルで思考を止めている人も少なくありません。

つまり、データを並べるだけで、自分の意見をあえて言わないようにしている。

これは特に、大企業や役所で多い気がしています。

なぜDataレベルで思考を止めているのかといえば、単なる数字であるDataには、責任が伴わないからです。

「こんな結果が出ました」と報告するだけで終わり。

だから、責任を取りたくない人には都合がいいのです。

一方、その人の解釈が含まれるInformationには、責任が伴います。

自分の解釈を加えるということは、「自分はこう考える」と主張すること。

言い換えれば、「ポジションを取る」と同義です。

つまり、Dataを並べているうちはポジションを取らなくてもいいけれど、Informationを扱おうとした途端、ポジションを取らなくてはならなくなる。

自分の立場を明確にすれば、それに対する異論や反論にも対応しなくてはならなくなり、何かと面倒です。

さらに、Dataレベルに留まることには、こんなメッセージも隠れています。

「私の仕事はここまでです。

データの意味づけや今後の戦略立案はあなたが考えてください」。

Information以上の付加価値の高い仕事は上司に丸投げして、自分は傍観者のままでいられる。

そんなメリットもあります。

もし、このような振る舞いや考え方が職場に蔓延しているとしたら、それも大企業が停滞する理由の一つだと思います。

「自分は平社員だから、Dataを扱うだけにしておこう」と考える人が多ければ、数値化が進んでも成果は伸びていきません。

上司は常に「君の考えるIKWは何なの?」と聞くことDataレベルで足踏みしているチームメンバーに対しては、「あなたはこの数字をどう解釈するの?」とリーダーが問いかけ、Informationレベルで考えることを意識させることが大切です。

このように、組織全体で正しく数字を扱えるようになるには、常にチームメンバーに「DIKWのどのレベルで考えているのか」を認識させることが重要です。

そのためにはリーダーが、「今、DIKWのどのレベルで話している?」「この資料にあるのはData?それともInformation?」とメンバーに問いかけ続けることです。

聞くところによると、リクルートでは先輩が後輩に「あなたはどうしたいの?」と常に問いかけ、後輩に主体的に考えるよう促しているそうです。

チームメンバーに正しい数字の扱い方を身につけてもらうには、同じようなアプローチが必要です。

「あなたが示したいデータ(D)はわかった。

それで、あなたの考えるIKWは何なの?」とチームメンバーに質問するようにしましょう。

単なる数字の報告だけで、チームメンバーがなんとなく仕事している気になってもいけないし、報告を受けたリーダーも、それで納得してはいけません。

DIKWモデルの4つのレイヤーを行ったり来たりしながら、組織のメンバー全員がこのピラミッドを組み上げられるようになることが、数値化仕事術の真のゴールなのです。

ポイント❷プロセス思考で考えさせるチームメンバーが身につけるべき基本的な「数字の使い方」の二つめは、「プロセス思考で考える」ことです。

第1章のポイント③で触れた「プロセスに分けて考える」ことを、プロセス思考と呼んでいます。

例えば、自分の担当業務をいくつかのプロセスに分け、プロセスごとに数値化することで、どこに問題が潜んでいるのかが明らかになり、問題解決や改善のためにすべきことも見えてくる、というわけです。

すでに説明したことを、なぜここで改めて取り上げるのか。

そう疑問に思われるかもしれません。

それは、数値化を可能にするさまざまなツールの導入が進み、いろんな数字を簡単に手に入れられるようになった今、プロセス思考の重要性がさらに高まっているからです。

実は、WEBマーケティングやMAのツールを使えば、例えば見込み客の発掘から成約までの各プロセスを自動的に数値化し、分析することができます。

つまり、メンバーが自分でプロセスに分ける作業をしなくても、ツールが勝手にプロセスに分けてくれて、勝手に数値化してくれるのです。

ではその何が問題なのか。

ツールに組み込まれたプロセス分けに依存しすぎること。

これが問題なのです。

第1章のポイント①でお伝えした、「数字は与えられるものではなく、自分で取りにいくもの」という話を思い出してください。

最初からプロセスごとに数値化されるツールを使っていると、「なぜこの分け方になっているのか」「そもそもこの分け方でいいのか」を自分の頭で考えることなく、与えられた数字を使うことが当たり前になってしまいます。

「自らプロセスに分けて考える」という発想を持ちにくくなるのです。

もちろん、ツールに組み込まれたプロセス分けが自分の担当業務に合っていれば、それを利用すればいいでしょう。

その一方で、ツールが提案する分け方では、目の前の問題を可視化できない場合もあります。

「ここで分けたほうが自分の仕事の場合は管理しやすい」「この分け方で管理することで、全体の効率も上がるし、問題の解決にもつながる」など、自分の業務に適した分け方があるはずです。

大事なのは、「数値化に必要なプロセス分けは自分で考える」という感覚です。

さまざまなツールでプロセスごとの数値化が自動で行われる今こそ、与えられた区分を無条件に受け入れる思考停止には、十分に注意したいものです。

リーダーはチームメンバーに対し、プロセスに分ける際の必要な切れ目は自分で入れることを常に意識させましょう。

ポイント❸スループットとボトルネックを意識させるプロセスごとの数字を見る時に、気をつけたいのが「スループットとボトルネックを意識する」ことです。

これが三つめのポイントです。

数値化が容易になって、いろんな数字が乱立する中で、その一つひとつを見ていくとキリがありません。

重要なのは、たくさんの数字の中からボトルネックとなる部分を探し、全体のスループットを上げることです。

スループットとボトルネックの意味を改めて説明すると、スループットとは、単位時間あたりに処理できる量のことです。

例えば、通信回線の単位時間あたりの実効伝送量、工場で1日/1カ月で生産できる量などがそれに当たります。

ボトルネックとは、ワインボトルなどの瓶の首にあたる一番細い部分を指す言葉に由来し、ビジネスでは「スループットを決定する制約や要因」を意味します。

例えば、ある製品の製造工程がA、B、C、D、Eに分かれていて、その工場での1時間あたりの生産量は、B工程だけが50個、残りの工程では100個だったとします。

するとどうなるかというと、B工程以外では1時間に100個の生産能力があるにもかかわらず、工場全体の生産能力は1時間で50個に落ちてしまいます。

つまり、生産能力の最も低いB工程に全体の生産量が左右されてしまう。

このB工程こそが、この工場ではボトルネックになっているのです。

私の会社が運営する「TORAIZ(トライズ)」を例にとって説明しましょう。

英会話業界ではよくある話ですが、トライズでは毎年1月になると、受講のお問い合わせが殺到します。

新しい年を迎えて、「今年こそは英語を勉強しよう」と意気込む人が多いのでしょう。

トライズでは、お問い合わせいただいた方には無料カウンセリングを受けていただくのですが、毎年1月は、カウンセリングの予約が通常の1・5倍にも跳ね上がります。

「予約が殺到しているから、売上も大幅アップ!」になるかといえば、そうはなりません。

なぜなら、カウンセリングを提供するスタッフの数が変わらなければ、カウンセリングを希望する人が増えても、必要な人数分のカウンセリングを提供することができないからです。

スタッフの数は急には増やせません。

つまり、カウンセリング枠がボトルネックとなって、問い合わせが殺到しても売上にはつながらないのです。

もしボトルネックに気づかずに、問い合わせ数の増加に気を取られて喜んでいたら、どうなるでしょうか。

カウンセリング枠はそのままなので、問い合わせの後にカウンセリングの予約をしたくても、予約できない人が大勢出てきます。

1月の予約枠が埋まっていれば2月、2月の予約枠が埋まっていれば3月……と後ろにずれ込んでいきます。

そのうち、興味が薄れたり、他社のサービスに流れたりする人が出てくるのは想像に難くありません。

この場合、問い合わせ数だけに着目しても、現状を正しく把握できないばかりか、問題の本質が覆い隠されてしまいます。

このことからも、全体のスループットを制限している「ボトルネック」に気づくことの重要さが理解できると思います。

あまりコストをかけずにボトルネックを解決できる方法を探すボトルネックを突き止めたら、それをどう解消するかを考えます。

トライズの場合、カウンセリングの予約枠がボトルネックであると判明しました。

予約枠を増やせば全体のスループットを上げることができますが、ここで問題なのは、どうやって予約枠を増やすか、ということです。

スタッフを増やしたとしても、逆に繁忙期以外は人が余りますから、人件費に跳ね返ります。

そこで私たちが採った方法は、法人営業の担当者に個人向けのカウンセリングを兼務してもらうことです。

法人向け営業も個人向けのカウンセリングも共通するスキルが多くあります。

そこで、シフトを工夫して、法人営業と個人向けカウンセリングを両立できるようにしたのです。

このように、あまりコストをかけずにボトルネックを解消する方法を見つけることも重要です。

数字に「使われる組織」から数字を「使いこなす組織」へメンバーに身につけさせるべき数字の使い方のポイントを説明してきましたが、この三つのポイントをチームメンバーがちゃんと意識できているかどうかは、次のような質問をすればすぐにわかります。

「DIKWのどのレベルで考えてる?」「それはDなの?Iなの?Kなの?Wなの?」「プロセスの分け方はそれでいいの?」「各プロセスのインプットとアウトプットは何?」「スループットはどのくらいなの?ボトルネックは何?」これらの質問をして、メンバーが「う〜ん」と黙ってしまったら、まだよく意識できていないということ。

先の三つのポイントがメンバーに意識されるまで、リーダーは先ほどの質問を繰り返し行いましょう。

この三つを意識させることで、「数字に使われる組織」が「数字を使いこなす組織」へと変わっていきます。

数字を使いこなしている組織は、単にみんなでデータを共有するだけでなく、そのデータをもとに情報(I)や知識(K)、知恵(W)を組織全体で作り出すことができます。

逆に、そのような状態にならないと、数値化に取り組んでも意味がありません。

リーダーやマネジャーの皆さんはぜひ、数字を使いこなす組織を目指してほしいと思います。

おわりに──コロナで事業環境が激変した今こそ、数値化仕事術が役立つ!二〇一五年にスタートした、英語コーチング・スクール「TORAIZ(トライズ)」は、受講者が六〇〇〇人を超えるまでに成長しました。

まったくのゼロから始めた事業が、これほど短期間で軌道に乗ったのも、孫社長から教えられた数値化仕事術が経営者としての私の土台をしっかりと支えているからです。

コロナ前ですが、スタートアップの経営者何人かで、孫社長を訪ねたことがあります。

その際に孫社長からいただいた、「一人で見る夢はただの夢、みんなで共有できる夢は志」という言葉に、一同感銘を受けました。

事業を興す、すなわち「起業する」とは、世の中のヒト・モノ・カネ・情報を自分の志のもとに集めていくことでもあります。

例えば、創業の仲間を集めたり、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから出資を取り付けたり、人材を募集して採用したりするのも、「私にはこういうビジョンがあるから、一緒にやりませんか(応援してくれませんか)」という志の共有がベースにあります。

志を共有することで、ヒト・モノ・カネ・情報が集まってくるわけです。

ただ、これまでの起業家を見ていると、「志を共有して、事業を作る」ところで止まっていたのではないでしょうか。

志を共有して事業を興すことと、その志を実現させることは別の話です。

激しい環境変化の中で、企業を存続・発展させていくためには、やはり組織として数値を使いこなせることが重要です。

新しい事業にチャレンジするなら、なおさらです。

数字も何もないところから始める時に、現状把握や未来予測、次のアクションを導き出すために数字を使いこなせれば、強力な武器になります。

一からビジネスを作り上げていく場面でこそ、組織の中に数値化を取り入れて、事業の成長や発展に活用していただきたいと思っています。

これは、コロナ禍の今だからこそ、強く思うことでもあります。

コロナ禍で企業を取り巻く環境は一変しました。

「トライズ」も、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大した二〇二〇年三月上旬に、サービスの完全オンライン提供への移行をいち早く行いました。

それまでのリアル中心のサービスよりも学習効果を落とさず、むしろオンライン提供によって学習効果や受講者満足度を高めるにはどうすればいいか、今も日々改善を重ねているところです。

何が言いたいのかというと、環境の変化に合わせて、既存事業のあり方も変えていかなければならないということです。

つまり、環境が変われば、既存事業も「新規事業」と同じなのです。

であれば、当然、数字の取り方もこれまでと同じでいいわけがありません。

新しい事業のあり方を考えていく中で、数値化のやり方を全般的に見直す必要が出てくることもあるでしょう。

数字は、そのままでは単なる事実に過ぎません。

事実を事実のまま見るだけでは、ビジネスの現状はどうなのか、いいのか悪いのか、次にどういう手を打つべきなのか、といったことは見えてきません。

数字をどう解釈し、どのようにリスクを抑えながら新しいことにチャレンジしていくのか。

それは、組織を構成するメンバー一人ひとりにかかっています。

コロナ禍で事業環境が激変した今こそ、企業が存続し、発展していくためには「数字を使いこなす組織」になる必要があります。

そこで今回、新書化するにあたり、DIKWモデルといった「数字を使いこなす組織」づくりのポイントも追記しました。

より実践的な内容になったと自負しています。

このグレードアップした数値化仕事術を活用して、一人ひとりが主体性を持って仕事に取り組むことで職場に活気を取り戻し、コロナ後の既存事業の立て直し、生産性向上、そして新規事業への挑戦に役立てていただけたらと思います。

二〇二一年十二月三木雄信

三木雄信(みき・たけのぶ)トライオン㈱代表取締役社長三菱地所㈱を経てソフトバンク㈱に入社。

27歳で同社社長室長に就任。

孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。

2006年にトライオン㈱を設立し、2015年に英語コーチング・スクール「TORAIZ」を開始。

グローバルに活躍できる個人と組織を創出することを目指し、個人・法人に対して英語及びグローバル・コンピテンシー研修を提供している。

著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。

【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術著者:三木雄信©TakenobuMikiこの電子書籍は『【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術』二〇二二年一月二十八日第一版第一刷発行を底本としています。

電子書籍版発行者:永田貴之発行所:株式会社PHP研究所東京都江東区豊洲五丁目六番五二号〒1358137https://www.php.co.jp/digital/製作日:二〇二一年十二月二十七日本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例外を除き、禁じられています。

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