MENU

第5章 社員を「数字」で育てる

社員からの報告を「営業利益」ベースにしたらどうなった?社長が勉強して決算書の読み方を覚え、数字を分析することで会社の問題点を把握。

それなのに業績がよくならない——。

そうなら、原因ははっきりしています。

それは、社長の成長に、幹部社員がついてこれないから。

社長ひとりが賢くなって、社員がおいてけぼりになっています。

こういう場合、現場では作業効率向上のための数字が必要です。

社員からカイゼンのアイデアを募る会社は多い。

ところが、カイゼンによって生産性がどう高まったのかという客観的な数字がないと、単なる思いつき大会になってしまう。

工場ならリードタイムやひとりあたりの生産額、営業なら移動時間とお客様滞在時間と売上、事務なら時間あたりの作業量など、社員が客観的な数字の意味を理解して初めてカイゼンのアイデアが生まれたり、それを実行するモチベーションが高まったりします。

課長以上は、自部門のP/Lを理解していないと仕事になりません。

わかっていない課長はたくさん売りますが、その分、赤字も出す。

株式会社東伸(岐阜県、産業機械)の藤吉繁子会長は、かつてこうぼやいていました。

「取引先の大手さんの社員はみんな頭がいい。

だから、うまく丸め込まれて、設計が一度決定した製品について仕様変更を認めてしまうんです。

本来、仕様変更で原価が変わるなら料金も変えるべき。

ところが、うちの社員はP/Lの感覚がなく、同じ価格で受けてしまう。

そのため粗利益でかろうじて黒字でも、営業利益では赤字になる受注が少なくありませんでした」(藤吉会長)その後、藤吉会長は社員からの報告をすべて〝営業利益〟ベースに切り替えた。

社員が変わるまで3年かかったが、いまは営業利益が赤字での受注がなくなりました。

幹部になると、B/Sがわかっていないといけません。

B/Sを勉強してキャッシュの重要性を理解した社長は、B/Sをよくする指示を出します。

しかし、社長の意図がわからない幹部はズレたことをやってしまう。

これでは社長がいくら勉強しても会社はよくなりません。

5年間で165%成長した会社の盲点社員が数字を理解していないと、各階層で様々な悲劇が起こります。

では、これらの悲劇は数字を理解しない社員のせいでしょうか。

違います。

社員が数字を理解しないのは普通のことです。

経営サポート会員になった社長自身、7〜8割は決算書を見ていなかった。

社長がそのレベルだったのに、「うちの社員は……」と嘆くのは筋が通らない。

この社長にして、この社員ありです。

社員が数字を理解しない原因は、むしろ社員に勉強させなかった社長にあります。

株式会社マイプレジャー(三重県、OA機器販売)の河内優一社長は、何でもできてしまうスーパーマンです。

しかし、それがよくなかった。

どこかの部門の数字が悪くなれば、自分が直接乗り出して原因を分析して幹部に指示。

幹部に自分の頭で考えさせる機会を与えなかったので、いつまで経っても幹部が成長しなかった。

何でも口を出さなければ気がすまないワンマン創業社長がやりがちなミスです。

会社をそれ以上成長させるつもりがないなら、別にワンマンのままでもいい。

しかし、会社を大きく成長させたいなら、幹部を育てて権限委譲を行い、社長は自分にしかできない仕事に集中する必要があります。

河内社長は会社を大きく成長させる道を選んで、1年前から「実行計画アセスメント」の合宿に幹部3人を連れてくるようになりました。

「昔はせっかくつくった実行計画が〝ポスター〟になっているのに、誰も見ていませんでした。

私が『どうなっているのか』と怒っても、どこ吹く風です。

しかし、幹部と一緒に合宿に出たら、彼らの意識がガラッと変わった。

もともと現場のことは幹部のほうがよく知っています。

『うちの実行計画は、ココが足りなかった』と実行計画に積極的に関わるようになり、私が気づいていないことも指摘するようになりました。

それまで幹部に当事者意識が欠けていたのは、私が勉強の機会を与えていなかったから。

幹部の変わりようを見て、大いに反省しました」(河内社長)数字を理解し始めると、計画に対する当事者意識が芽生えます。

幹部が本気になれば業績も上がる。

マイプレジャーは5年間で165%成長していますが、今期(2017年度)はさらなる成長が期待できます。

社員が数字を理解し始めると、もうひとついいことがあります。

「うちの社長はこんなに難しいことをやっていたのか」と尊敬される。

自分よりキャリアの長い古参幹部にてこずっている2代目社長がその幹部を連れてくると、一発で言うことを聞くようになる(笑)。

社長ひとりで勉強して、危ういワンマン経営を続けるのか。

それとも幹部や社員と一緒に勉強して、より強い会社にしていくのか。

決めるのは社長自身です。

〝能力〟不足ではなく〝回数〟不足うちは中小企業で、高学歴社員はひとりもいない。

元がよくないから、数字に強くするのは無理——。

そう考えている社長がいたら、自社の社員を侮りすぎです。

会社の数字に学歴は関係ない。

誰だってやることをやれば数字のエキスパートになれます。

そもそも人間の脳みそに大して違いはありません。

パソコンで言えば、ハードディスクの容量はみんな同じ。

東大生だろうと、中卒だろうと、社長だろうと、一般社員だろうと、性能はみんな似たようなものです。

違うのは、ハードディスク内に入っているデータ量と、データをつなぎ合わせて加工するスキルです。

パソコンもデータ量を多く持ち、それを加工するプログラムがあれば、より正しい答えを導けます。

幸い、データ量と加工の技術はあとからどうにでもなります。

データ量は、いわゆる「知識」。

勉強すればそれだけ増えます。

一方、加工の技術は「体験」の量に比例します。

様々な体験を重ねることで、「このときはこうなる」というパターンが積み重なり、たくさんのデータを処理できるようになる。

東大生が頭がいいのは、たくさん勉強して脳に「知識」が詰まっているからで、社長が一般社員より本質を見抜くことに長けているのは、様々な体験を重ねてきたから。

学歴の低い一般社員でも、勉強して経験をさせれば、誰でも国立大生並み、社長並みになる。

数字についても同じです。

社員が数字に弱いのは、能力不足ではなく〝回数〟不足。

数字の扱い方を知識として教えたうえで、数字に触れる回数をこなせば、学歴に関係なく数字に強くなれます。

数字のスの字と聞けば、スーッといなくなる飛山と大森いい実例がわが社にもあります。

同じ高校の先輩、後輩である飛山尚毅部長と大森隆宏部長です。

飛山は数学の成績がからきしダメで、入社後も根性だけでのし上がってきたタイプ。

ダスキン事業ならそれでも結果を残せますが、数字を扱う経営サポート事業ではやっていけません。

武蔵野の方針書には、経営サポート事業の部長以上は、長期事業計画書のチェック講師ができるレベルになる、と書いてあります。

飛山は、とても講師ができる水準ではなかった。

なにしろ飛山は、ダスキン事業から異動するまで決算書を見たことがなかった。

異動後、初めて「B/S」という言葉を耳にして、「ダスキンで扱うBS(ベーシックモップのSサイズ)のことですか?」と真面目に質問をしたほどです。

後輩の大森もひどかった。

大森は理系なので、数字そのものにアレルギーはありませんが、知識や経験がないことはわからない。

経営サポート事業の営業は、お客様が経営計画書を作成する合宿に参加

して、来期の教育予算がわかったところで、「こんな研修もありますよ」と提案します。

しかし、大森は途中の1〜3日目にはまったく顔を見せずに、最終日にだけ顔を出した。

経営計画書の作成途中でお客様と顔を合わせると、「この数字は何か?」と質問されます。

それがイヤで逃げ回っていました。

飛山も大森も、数字のスの字と聞けば、スーッといなくなる。

武蔵野の社員には多かれ少なかれその傾向がありますが、この2人の逃げ足はとくに速かった。

それでもいまは2人ともチェック講師ができるほど数字に強くなった。

飛山にいたっては「社長の決定ソフト」(経営計画作成に使うオリジナルソフト)の講師まで立派に務めています。

2人が数字に強くなったのは、知識と回数を増やしたからです。

簿記や決算書を勉強するために外部の研修を受けたければ、その費用は全額会社が負担します。

大森はそれで知識を手に入れた。

回数をこなすために、チェック講師も義務づけました。

講師は半期に2回、その事前勉強会2回を含めて、計4回の経験を積む。

これで多くの社員が伸びました。

セミナーでチェック講師を務めている武蔵野の社員に、学歴を尋ねてみてください。

華々しい学歴を持っている社員はひとりもいません。

それでも、そこらの社長よりずっと数字に強い。

やり方次第で誰でも数字に強くなれる証拠です。

全社共通の言語・道具で社員に数字について教えるときのコツをいくつか紹介しましょう。

まず、概念で教えてはダメです。

私は小学校低学年のとき、100まで数が数えられませんでした。

10や20ならいいですが、70とか80になると現実的にイメージできなくて、頭がパンクしました。

その反省に立って、娘には硬貨を使って数を教えました。

1円玉10枚と5円玉2枚、10円玉10枚、50円玉2枚を用意して、100円までの金額を硬貨で示した。

目に見える具体的なモノを使ったので、娘はすぐに出し方を覚えました。

最初は丸暗記に近い。

しかし、しばらくすると自分で法則性を導き出して、応用を利かせるようになります。

100円玉や500円玉、さらにお札を出して、「1240円は?」と聞いても難なく対応します。

私は具体的なモノを飛ばして、いきなり抽象的な概念として数を理解しようとしたからいけなかった。

人間は、具体的に想像できないものは理解できません。

抽象的な概念を理解する必要があるとしても、まず具体的な事例を知り、そこから抽象的な概念を導き出す手順でないとダメです。

会社にまつわる数字を教えるときも同じです。

帳簿上の概念を先に覚えさせようとしても無理です。

「あなたの給料は経費から支払われる」「あの材料を10%高く仕入れると、利益がこう変わる」と、社員の具体的な仕事と絡めて教える。

社員教育には、全社で共通の言語、共通の道具が必要です。

ある概念を理解させるとき、日本語と英語、あるいはほかの外国語で教えた場合では、伝わり方や解釈に微妙なズレが生じます。

数字についても同じです。

会社で統一した用語を使わないと、それぞれが独自の解釈をしてしまい、誤解やミスの原因になる。

武蔵野では、一般社員にもマネジメントゲーム(MG)の研修を受けさせます。

マネジメントゲームでは、売上を「PQ」、粗利益を「MQ」と会計用語をアルファベットで示します。

社員は全員この研修を受けているので、社員間は「PQはいくらだった」で話が通じます。

Pはプライス(価格)、Qはクォンティティ(数量)、Mはマージン(利ざや)を意味しますが、そこまで頭に入ってなくてもいい。

みなさんは普段、日本語で会話をして意味が通じていますが、言葉の由来まで理解して日本語を使っているわけではない。

数字に関係する言葉も、由来は二の次。

とにかく共通の言語を使うことが大事です。

個人個人に合わせた指導を一方、教え方については全員統一ではなく、個人に合わせて柔軟に変えていく必要があります。

武蔵野は、社員全員にEG(エマジェネティックス)のテストを受けさせています。

これは個人の特性を分析して数値化するツールで、その人の思考タイプを青(分析型)、緑(構造型)、黄(コンセプト型)、赤(社交型)、の4つの要素で表現します。

青が優位な社員は、論理的です。

だから数字も理論をきちんと教えてあげたほうが頭に入る。

一方、緑が強い社員は定型業務をきちんとこなすことが得意。

数字に関しては、意味よりも、「この業務では、毎回、この数字をココに書く」というように具体的な手順で教えてあげると覚えが早い。

黄や赤が強い社員は、楽しければいい気分屋タイプで、どちらかというと数字は苦手。

意味を理解しようとしないし、細かい手順も苦手です。

だから数字はアバウトでいい。

方針を示して、「いまだ、行けー、営業利益を増やせ!」とやったほうが、早く数字になじめます。

このように、人にはそれぞれに合った教え方があります。

これを無視して、論理的な人にアバウトな教え方をしたり、気分屋の人に数字のマニュアルを押しつけたりしてもうまくいかない。

ひとりひとりの適性に合わせて、指導方法も変えます。

武蔵野ではEGを使って社員の適性を数値化していますが、そこまでできない社長も、普段のコミュニケーションを通して社員の適性をある程度見極められます。

「自分はこうやって覚えたから、社員も同じでいいはず」と自分基準で考えるのではなく、教わる側に合わせて指導してください。

社員の数字力がアップする2つの条件社員を数字に強くしたいなら、社員がいつでも自由に会社の数字を見られる環境を整えておく必要があります。

多くの会社は会計の数字を非公開にして、社長や幹部だけが見ている。

これは野球で言えば、スコアボードを隠して選手に試合をやらせているようなもの。

監督がスコアボードをひとりじめして選手に隠すのは間違い。

スコアボードをみんなに公開すると、社員もやる気になります。

モチベーションの問題だけではありません。

1点差で勝っているときと5点差で負けているときでは、打席や塁に出たときの行動が変わります。

1点差で勝っているときにバントをするのはいいですが、9回に5点差で負けているのに送りバントをするのはありえない。

いまこの状況に必要とされる行動は何か。

その判断力を養うためにも、スコアボードの公開が必須です。

わが社では、ほとんどの数字がガラス張り。

私の役員報酬も公開されていて、社員も知っています。

自分の給料がバレると、社員に「もらいすぎだ」と妬まれる?社員に妬まれるとしたら、もらいすぎなのではなく、社長にふさわしい働きをしていないからです。

私の役員報酬は1億円ですが、私の「かばん持ち」の研修プログラムだけで年間8000万円の売上があります。

「かばん持ち」を差し引いて社長業が2000万円なら給料は安いものです。

そこも含めてガラス張りなので、誰からも文句は出ません。

月末には、各部門別のP/L(損益計算書)を経理が公表します。

経費の内訳も公表されるので、部門長は「今月は交通費が多い」と感じたら、自分で内訳をチェックできます。

ときどきよその部門の交通費がついていることがあり、放置すると自部門の利益が減って賞与に悪影響が出る。

だから部門長は自ら進んで数字を見に行きます。

このとき大事なのは、数字も〝環境整備〟しておくことです。

社内システムのどこにアクセスすれば、どの数字を見られるのか。

それが明確になっていないと、見たいときに数字を見られずにストレスが溜まり、しまいには数字を見なくなります。

会社の数字は、包み隠さず公開する。

公開した数字は整理整頓して、社員がいつでもアクセスできるようにしておく。

この2つさえ揃っていれば、社員は数字を身近に感じられます。

数字はそれだけで言葉——1分間で3テーマを報告できる理由「どうだ?仕事は順調か?」「はい、頑張ってます!」社員の働きぶりを確認するとき、このやりとりで安心してしまう社長は危ない。

いざふたを開けると、期待どおりの成果が挙がっておらず、「話が違う」と落胆する可能性大です。

社員はウソの報告はしませんが、すべて正直に話すわけでもありません。

自分に都合の悪いことは黙っています。

トラブルが起きたり、さぼって計画どおり進んでいなかったりしても、その情報を上にあげないのが、社員にとっては〝普通〟、社長にとっては〝不通〟です。

本当のところを知りたければ、数字で報告させることです。

去年の数字が10で今年の数字が6なら、前年比で「▲4」です。

数字で報告させれば、どれだけ頑張っていたかがわかる。

「死ぬ気で頑張りました」と文学的な表現は不要。

数字は、それだけで言葉です。

武蔵野の会議は、発表の持ち時間が割り当てられ、数字の報告から始まります。

その次にお客様情報、ライバル情報やビジネスパートナー情報、そして最後に自分の考えを話す。

この順番は、重要度の順です。

自分が気づいたことより数字のほうが、ずっと真実を語っています。

数字で報告する利点はもうひとつあります。

話が長くならないことです。

リーダー会議で与えられた時間は1分です。

たくさん話したいことがあってもダメ。

総務が時間を測っていて、1分経ったら打ち切ります。

1分では足りないと考える人がいるかもしれませんが、わが社の部長は1分で3つ前後のテーマについて報告をする。

短時間でもきちんと報告ができるのは、まず数字で話すからです。

数字で表現すれば、ダラダラと言葉を重ねて説明する必要がない。

まさに、数字はそれだけで言葉です。

京都や大阪などで「お好み焼・鉄板焼きん太」などの飲食店を経営している株式会社テイル(京都府)の金原章悦社長は、8年連続で既存店前年売上を超えています。

今期(2017年度)は前年比108%成長です。

金原社長がとくに力を入れていることに、週1回の会議で「3つのテーマ」を報告する仕組みがあります。

①月末までの予測売上、予測利益の確認②人件費、シフトの確認人件費は、店長のさじ加減で変わります。

レベルの低い店長は、アルバイトスタッフを増員する傾向にあります。

また、人員不足のまま、店舗運営を行う店長もいます。

そこをチェックし、報告させています。

③ミツバチ作戦、推奨販売の確認季節メニューの販売状況の報告です。

推奨販売の結果は、店長の意気込みであり、その店長のやる気の表れです。

このように、数字をチェックするから意識が高まり、社長とスタッフがともに確認できる仕組みとなっています。

なぜ、社員に実行計画をつくらせるのか?武蔵野は、実行計画をすべて社員自身につくらせます。

大きな会社では経営企画部がつくったり、逆に社長が現場を見ている中小企業では社長自身がつくったりするケースがあります。

しかし、わが社に経営企画部はないし、私もつくらない。

社員がつくって発表して、私の承認を得ます。

どうして実行計画を社員につくらせるのか。

自分で計画をつくらないと、数字が右から左に抜けていってしまうからです。

お小遣いが足りなくなって当時高校生の娘が私に「1万円を貸して」と頼んできたとき、私は娘に借用書を書かせました。

口約束でも約束を破ってはいけませんが、「いつまでに返す」と自分で借用書を書けば、その約束がより重くのしかかってくる。

娘はプレッシャーに耐えかね、その後、私から2度とお金を借りなかった。

社員との約束も同様です。

社長や経営企画部が現場の計画を立てて上から渡して、「計画どおりやってください」「はい、わかりました」と口約束を交わすだけでは、社員は本気で取り組みません。

自分で数字を計算して書き込むから、その計画にコミットする。

自分で計画を立てたのだから、達成できなければ言い訳は通用しません。

達成できなかった理由はいろいろありますが、〝数字が人格〟で、結果が出なければ、どんな事情があろうとダメです。

達成できたのはたまたま神風が吹いたからでも、きちんと評価します。

1993年の話です。

全社の計画で、全社売上が30億円を達成したら、全員を社員旅行で上海に連れていき、おいしい中華料理を食べさせると約束しました。

しかし、未達成なら国内で野宿、しかも自炊の約束です。

結果はどうだったか。

30億円にあと100万円足りなくて、未達成でした。

わずか100万円の不足だから、社長はなんだかんだいっても中国に連れていってくれると社員は思っていた。

しかし、社員に約束を守ることを求めるなら、社長自身も約束を守るべき。

最初の宣言どおり、社員旅行は伊豆の大島に行ってバンガローに泊まった。

夕食は、自分たちで釣ったアジです。

社員が「アウトドアだ」と喜んでいたのは誤算でしたが(笑)。

翌年は見事30億円超えを果たして、約束どおりに社員を中国に連れていきました。

全社員で、売上に何の貢献もしていない新卒社員もです。

当時、新卒で入ったばかりの三根正裕部長は、テンションが上がったのか、万里の長城で私とかけっこをして、いい思い出になった。

わずか100万円の差だろうが、計画は達成したかどうかがすべてです。

シビアに判断するから、社員も目標達成に向けて本気で取り組みます。

そのために社員自身に実行計画をつくらせます。

現場を知る社員が、数字と格闘しながらつくる計画が正しい実行計画を社員自身につくらせる目的はもうひとつあります。

実行計画をつくること自体がトレーニングになるからです。

実行計画は、営業や部署の数字を理解しないとつくることができません。

どうすれば売上を増やせるのか。

そのために経費をいくら使えばいいのか。

そういった数字の基本をわかっていないと、現実味がなく整合性もない絵空事の計画になってしまう。

そういう実行計画は当然、承認がおりない。

やり直しです。

経営企画の人間に計画をつくらせても似たようなものです。

数字の整合性はあっても、現場を知らないから実現不可能だったり、逆に朝飯前の計画を立ててしまう。

現場を知る社員が、数字と格闘しながらつくるのが正しい計画です。

計画に対して実績がどうだったかを報告する毎月の部門長会も、社員にとってはいいトレーニングの場です。

会議で実績を報告するのは、課長職です。

その数字を調べるのも本人です。

普通の会社は経理からくる紙1枚で終わりですが、それをわざわざ本人にやらせます。

部門長会で報告者に与えられる時間は、20秒です。

ただ、その20秒以内に必要な数字を調べて正しいか確認するのに、結構な時間がかかる。

部門長会直前から5日前は、各部門がまるで嵐がきたかのように騒々しくなる。

現場は大変ですが、手間をかけることで数字を理解したり当事者意識が芽生えたりします。

自分で調べてくることができなかったら、努力文を提出させます。

努力文4枚で反省文に昇格。

反省文2枚で始末書になり、始末書2枚で賞与は半分です。

もう一度同じことをやると、賞与はゼロになります。

わが社には過去に賞与がゼロになった社員が3人います。

賞与がゼロになると家に入れてもらえないから、面倒でもみん

な必死にやる。

また、ダスキンの進捗会議は、報告者が会議に出席できないときは、部下の課長が代わりに報告をします。

昔はほかの部長の代読を許していたが、現在はアウト。

部下にピンチヒッターをさせるのは、上司の立場で数字を見ることによって部下が育つからです。

一般社員と課長、課長と部長では、普段見ている数字が違います。

上司のピンチヒッターを務めれば、いち早くひとつ上の階層の数字に触れることができる。

これも社員教育です。

データネイチャー大会の主人公は現場の課長武蔵野で社員を数字で鍛える場のひとつになっているのが、データネイチャー大会です。

データネイチャーは、データ分析ソフトです。

年1回、社員がデータネイチャーを使って生データを分析して、業績向上や業務改善のアイデアをプレゼンします。

参加するのは、各部門の課長を中心としたチームです。

データ分析を経営企画部がやる会社がありますが、現場の実務を知らない人間がやると机上の空論になる。

かといって、一般社員ではダメです。

一般社員がデータ分析して、営業成績を上げるヒントをつかんだとしましょう。

一般社員は気づいたことをひとりじめして、同僚に勝とうとする。

だからせっかくの気づきが横展開していきません。

その点、課長はアイデアを横展開しないと自分の部門がよくならない。

現場の経験も豊富だし、データ分析させるのに最適なポジションです。

年1回のデータネイチャー大会だけでは、スキルを保つことができないので、毎月行われるリーダー会議で順番に各部署に発表させています。

内容はウソつき・ホラ吹き大会ですが、使用されるデータは本物の生データです。

ココにヒントが隠されています。

「環境整備プログラム」を受けている会社ほど業績アップ?具体的にどのような分析が行われているのでしょうか。

個人のお客様宅に伺ってお掃除などの家事代行をするメリーメイド事業部チームは、新規顧客の獲得経路を分析しました。

分析前は、みんなインターネット経由が一番多いと思っていた。

しかし、実際に数字を分析すると、ダスキンクリーンサービス事業部のルートマンからの紹介が最も多かった。

新規のお客様を増やすには、増えているところを伸ばすことが鉄則です。

そこで私はメリーメイドにお客様を紹介してくれたルートマンにお礼のハガキを出すように指示した。

62円で紹介が増えるなら、ネットに広告を出すよりずっとお得です。

経営サポート事業部では、業績が伸びている会社と、その会社が受けているプログラムの関係を調べました。

すると、経営計画書を作成し、経営計画発表会を行ったあとに、「環境整備プログラム」を受けている会社の業績が伸びているという結果が出た。

では、どのような会社が「環境整備プログラム」を受けているのか。

深掘りしてみると、幹部社員向けの研修である「実践幹部塾」を受けている会社が、「環境整備プログラム」を受ける確率が高いとわかりました。

つまり、まず「実践幹部塾」で幹部を勉強させて、さらに「環境整備プログラム」で環境整備を会社に浸透させると、業績がアップする。

この流れがわかったので、サポート会員に「環境整備プログラム」より先に「実践幹部塾」を受けてもらうように仕組みを変えました。

「環境整備プログラム」は申込みが殺到する人気メニューのひとつですが、「社員の10%が『実践幹部塾』を受けないと、環境整備プログラムに申し込めない」という条件に変更しました。

これらのカイゼン策は、データネイチャー大会で課長が行った分析が発端になっています。

現場の数字力・分析力が、わが社やお客様の業績向上につながります。

データネイチャー大会で発表された分析結果は、具体策へと落とし込みます。

分析の目的は、業績を向上させ、業務をカイゼンすること。

「へぇ、おもしろい」「意外だね」で終わるなら、やらないほうがマシです。

数字によって具体的なアクションを変えることが大切です。

ボタンを押していなかったワースト社員ランキングを発表アクションを具体的に変えたら、その結果を検証することも大切です。

経理の平川智久は、データネイチャー大会で経理部門の残業時間を分析しました。

当時は月曜の残業が突出して多かった。

その原因を探るために、経理処理との関係を調べたところ、出張費の精算を金曜や土曜にまとめて行う営業社員が多く、月曜に振込処理が集中して残業時間が増えていることがわかった。

もともと、武蔵野では株式会社メディアラボ(東京都、ソフトウェア業)の長島睦社長に開発を依頼した「スピード決裁」という申請システムを利用していました。

「スピード決裁」は、社長や上長が社内にいなくても、iPhoneやiPadで専用アプリを使って、簡単に出張精算や有給休暇申請を承認できる仕組みです。

このシステムを導入することで、稟議の50%が1日で通り、25%の振込処理が当日中に完了し、翌日には社員の銀行口座に振り込まれるようになりました。

いままで社長や上長が社内に戻ってくるまで止まっていた決裁承認のスピードが飛躍的に上がるため、武蔵野以外の企業にも広がり、現在180社の会員企業で8000IDが利用されています。

ただ、「スピード決裁」を使って出先でできるのは承認だけ。

当初は出先から申請できず、それが経理の月曜残業の原因になっていました。

そこで平川は申請のシステムを改良して、出張先からも簡単に申請ができるようにした。

次のデータネイチャー大会では、その結果を発表させます。

出張先でも申請できるシステムにしたら、目論見どおりに申請が平日に分散して、経理の月曜の残業時間も減った。

これでめでたし、めでたしです。

ただ、この話には後日談があります。

カイゼン後はいったん残業時間が減ったものの、しばらくすると、また元のように月曜の残業が増えていったのです。

そこで平川は、申請と承認のフローをさらに細かく分析して原因を探りました。

その結果、申請自体は平日に分散されたものの、承認後に本人が押すべきボタンをさぼって押さない社員が多いことがわかった。

さぼる社員はボタンを押すだけの作業を面倒くさがって、週末に一度に押していた。

わが社の社員は、さぼることにかけては天下一品です。

3回目のデータネイチャー大会でこのことを発表した平川は、カイゼン案も合わせてプレゼンした。

ボタンを押していなかったワースト社員ランキングをその場で発表したので、みんなの前で名指しされた社員は立つ瀬がなかった。

恥をかかされた社員が本当にボタンを押すようになるのか。

それは引き続き検証をやらないとわかりません。

次のデータネイチャー大会でどのような報告があるのか楽しみです。

〝ホラ吹き大会〟でもいい以上、データ分析の成功例を紹介しましたが、社員が最初からこのような分析ができるわけではありません。

新人課長はそれまで生データを扱った経験がないので、分析結果はほとんどデタラメです。

しかし、私はホラ吹き大会でいいと言っています。

デタラメでもホラでも、まず発表すると決めてデータに触らないと、いつまで経っても分析スキルが上達しない。

とにかく発表させて、ダメならやり直せばいい。

最初からハードルを上げすぎるのは社員が及び腰になるからよくない。

データネイチャー大会で優勝すると、3万円の賞金が出ます。

その賞金は、たいてい部門の飲み会に使われます。

優勝は社員による投票で決定します。

投票権はひとり2票で、2票を同じところに投票するのは無効。

ひとり1票、あるいは2票で同じところに投票しても可だと、みんな飲み代ほしさに自部署に投票してしまうからです。

2票で別々になれば、1票は自部署、もう1票は本当によかったところに投票する。

私はプレゼンを聞いて、深掘りややり直しを命じますが、優勝の選定に関しては特別な権限を持っていません。

みんなと同じように投票します。

なぜ社長が優秀なものを選ばないのか。

社長や幹部が経営者目線で選ぶと、レベルが高すぎるからです。

データ分析によって導かれたカイゼン策は、現場で実行できるものでないと意味がありません。

現場で実行可能かどうかは、私より社員のほうがよく知っている。

だから社員による投票で決めることが正しい。

役職によって相対評価と絶対評価を使い分ける数字は人格——この言葉が重い意味を持つのは社長だけではありません。

社長にとって決算数字がすべてであるように、社員にとっても数字が評価の対象になります。

社員の賞与評価はプロセス評価、業績評価、環境整備の点数、部下との面談、残業減の組合せで行います。

プロセス評価は定性的評価ですが、業績評価は定量的評価、つまり数字による評価です。

プロセス評価と業績評価のバランスは、職責によって異なります。

一般社員はプロセス評価と業績評価が80対20。

課長になると50対50になり、本部長になると10対90になる。

職責が上に行くと、どんなに定性的にすばらしいことをやっても、数字を出せなければ評価がボロボロになる。

部長以上はまさに、〝数字が人格〟です。

課長以下は、決められたことをやって成果を出せばいい。

しかし、部長以上は違います。

新たな稼ぎをつくることが条件で、去年と同じことをやって数字が上がっただけなら評価されません。

また、部長以下は相対評価、本部長以上は絶対評価にしている点も特徴です。

メンバー5人、みんな優秀な数字をたたき出しても、全員をA評価にせず、上からS・A・B・C・Dと差をつけて評価するのが相対評価です。

相対評価のいいところは、同僚の間でライバル意識が芽生えて、社内が活性化することです。

自分が100を売り上げていても、同じ課のライバルが110なら、ライバルより評価は下。

「よし、あいつを超えよう」と競争が始まり、お互いに切磋琢磨するようになります。

また、絶対評価にすると、プロセス評価で上司の採点が甘くなります。

「えこひいきしたと思われるのがイヤだから、みんなBでいいか」とテキトーな点数をつけてお茶を濁してしまう。

本当は差があるのに同じ評価を与えるのは、悪平等・不公平です。

公正な評価をするために相対評価は必要です。

ただし、本部長以上は「絶対評価」です。

どの部門も業績が悪化して会社が赤字になったのに、相対評価でSやA評価をもらう部門長がいたらおかしい。

低いレベルで争っていたら会社が傾く。

本部長以上は、他部門に関係なく業績をアップさせないと高い評価をしません。

本部長は数値データで半期の自己アピールを提出し、役員会の独断で決めると経営計画書に明記してあります。

社員が勝手に頑張り始める仕組み絶対評価といっても、売上や粗利益といった数字を単純に評価するわけではありません。

評価の対象になるのは、前年同期と比べた数字です。

前期の営業利益が100で今期が110だったA部門と、前期がマイナス30で今期は5になったB部門があれば、評価されるべきはどちらでしょうか。

多くの社長は利益が大きいA部門をトップと評価してしまう。

しかし、それは間違い。

会社への貢献が大きいのは、前年比で35増加したB部門です。

利益は小さくても、30の赤字をなくしたのだから大したものです。

最近の武蔵野では、ホームインステッド事業の赤字を大幅に減らし、あと少しで黒字のレベルにした由井英明本部長がS評価を取りました。

ホームインステッドは訪問介護事業を行っていますが、ダスキン本部の方針で深夜もパック料金でやっていた。

しかし、深夜はスタッフの人件費が1・5倍で、どう考えても利益が出ない。

由井はそこをカイゼンして赤字を減少させた。

そのカイゼン幅が大きかったのでS評価です。

こうした評価は、すべて公開されています。

また、どの評価になったら賞与がいくらになるのかという計算方法も公開されていて、社員に自分で賞与を計算させています。

自分で計算すると、評価がひとつ違っただけで賞与額が大きく変わることが実感できます。

最近、社員には自分の賞与に加えて、上司の賞与も計算させています。

上司がA評価を取ったときの賞与額は、自分がA評価を取ったときの賞与額の倍。

その事実を知ると、社員は目の色が変わる。

こちらが頑張れと言わなくても、勝手に頑張り始めます。

いくらお尻をたたいても社員が本気にならないと嘆く社長は、お尻をたたく以前にやることがある。

まず、給料体系をつくり、評価基準を明確にして、それが給料にどのように結びつくのかを本人に勉強させる。

下手な激励メッセージより、そのほうがずっと効果があります。

驚くべき新卒社員の定着率は、なぜ生まれるのか?武蔵野は社員220名(従業員808名)ですが、ここ9年間、上位100名はひとりも退職していません。

若手社員もここ数年、退職者が激減しました。

図表12が新卒社員の定着率と大学別在職率です。

一般に、全業種の新規大卒者の入社3年以内の平均定着率が68%程度、宿泊業・飲食サービス業が50%程度といわれていますが、武蔵野の新卒定着率は群を抜いています。

2015年度新卒15名のうち辞めたのは2名。

定着率は87%です。

2017年度新卒は20名ですが、現在ひとりも辞めていません。

また、説明会集客人数についても、2017年度新卒は433名だったのが、2018年度新卒は1020名と2・36倍になっています。

これは前述したJR新宿ミライナタワーの集客効果が大きい。

大学別在職率も、数年前に比べると劇的に高まっています。

社員のキャラを〝数値化〟して配属する定着率が劇的に上がった理由は明白です。

社員ひとりひとりの特性を数値化して配属に活かしたからです。

特性の数値化には、EG(エマジェネティックス)というツールを使っています。

簡単におさらいすると、4色で特性を数値化して、青優位は論理的、緑優位は定型業務向き、黄や赤優位は気分屋の傾向が強い。

青優位は論理的なのでプログラマー向き、感情に左右されにくいという面では仕入担当にもいい。

値切ると決めたら、非情になって粘り強く交渉します。

逆に社交的な赤優位は、業者との距離が近くて〝仲よし負け〟するリスクがある。

だから、仕入担当にはしません。

緑優位は定型業務向きなので、マニュアル化されたことをきちんとこなす事務仕事が最適です。

業種によりますが、たいていの会社は業務の半分以上が定型です。

武蔵野もそうなので、ここ2年は採用段階から緑優位の人が6〜7割になるように調整しています。

逆に黄や赤優位の人は飽きっぽいから事務に向きません。

状況に応じて変化を求められる企画職や営業職のほうが向いています。

私は元から適材適所を意識して社員の配属を決めていました。

勘の鋭いほうなので、判断には自信があった。

しかし、やはり人間の勘には限界がありました。

特性を数値で客観的に把握して配属に活かしたら、以前に増してミスマッチが起きにくくなり、退職者が減りました。

また、上司と部下が互いの特性を把握できるようになったことも大きい。

以前は上司が黄や赤優位で、部下が緑優位だと、部下の不満が溜まった。

「こっちは決まった仕事をきちんとこなしているのに、うちの上司は言うことがコロコロ変わる」という不満です。

しかし、EGを公開してお互いの特性を見える化したら、「上司はそういう人だから仕方がない」とあきらめるようになった(笑)。

上司と部下の組合せについては、以前から「エナジャイザー」というツールも活用していました。

これは人の適性や能力を測るツールで、おおざっぱに言うと情報処理能力、性格、モチベーションの3つを数値化できます。

上司と部下の組合せで意識しているのは、情報処理能力が同じレベルの社員同士を組み合わせること。

具体的には、能力差が20以内に収まるように組み合わせます。

部下と比べて上司の頭がよすぎると、「どうしてこんな簡単なこともわからないんだ」と部下を見下して、しまいには放置するようになる。

逆に部下の能力が上司より高すぎてもダメ。

「うちの上司はバカだ」と心のなかで舌を出して、指示を聞かなくなります。

能力の高い上司の下には能力の高い部下をつけ、それなりの上司にはそれなりの部下をつける。

そうすると、互いに敬意や親近感が生まれてコミュニケーションが活発になり、上司も部下も能力が伸びます。

このことはエナジャイザーの数値の結果としても表れています。

こうした配属方針は、社員の特性や能力が客観的に数値化されているから可能になりました。

これは「数字は人格」というより「人格を数字に」する話ですが、会社や社員を成長させるという意味ではこちらも重要です。

会社が若い人に合わせるのが正しい退職者が減った理由は、もうひとつあります。

残業を減らす取り組みが功を奏して、みんな早く帰れるようになったからです。

数十年前の武蔵野は長時間労働おかまいなし。

ピーク時の残業時間は月平均76時間にも達していました。

76時間は平均で、とにかく結果を出したい社員はもっと遅くまで働いていた。

当時は、それがあたりまえだとみんなが思っていました。

私自身もおかしいと思わず、ガムシャラに頑張ることを奨励していました。

しかし、時代は大きく変わりました。

若い世代はストレス耐性が低く、長い残業にとても耐えられない。

こう言うと若い世代を批判しているように聞こえるかもしれませんが、違います。

現実としてストレス耐性の低い社員たちが増えたから、会社がその現実に合わせることが正しい。

「昔はよかった」は甘えです。

現実から目を背けて変わろうとしない会社こそ批判されるべきです。

以前のやり方は通用しないと悟った私は、「月間残業時間45時間を目指す」と方針書に明記しました。

いつもなら「45時間にする」と書くところを「目指す」と書いたのは、残業削減は一筋縄ではいかないと思っていたからです。

残業時間3分の1、売上128・5%の謎しかし、様々な取り組みにより、2016年7月には月間平均残業時間が24時間台にまで減りました。

2017年10月現在、月間平均残業時間は13時間まで減り、残業ゼロの部署が2つあります。

以前、ワーストを誇っていた部署も19時完全退社です。

当初の目標を大きくクリアして、残業時間は3分の1以下になりました。

私の心配は、いい意味で裏切られました。

具体的な取り組みは『残業ゼロがすべてを解決する——ダラダラ社員がキビキビ動く9のコツ』(ダイヤモンド社)を参考にしていただくとして、ココでは最も効果的な方法をひとつだけ紹介しましょう。

残業を減らすには何が必要か。

それは、残業を見える化することです。

ダスキン事業は年に数回、営業の社内キャンペーンが行われ、ルートマンが一定期間内に営業成績を競います。

営業成績は期間中、毎日更新されて公開されます。

ルートマンは自分やライバルの最新の数字を見て、「もっと頑張らなくては」「いまから逆転を狙うために大口のお客様を狙おう」と考える。

残業の削減も同じです。

とにかく減らそうと考えるだけでは、残業時間は短くなりません。

残業が見える化されているから、「このやり方は変えるべき」「新しいやり方は効果がなかった」と具体的に検証できます。

武蔵野は営業支援ツールを活用して、残業時間をポイント制にして各支店で競わせています。

19時までに全員が帰った支店は5ポイントが加算されます。

以下、30分経過するごとに加算されるポイントが1ずつ減る。

21時すぎに誰かが残っていれば0ポイントで、その日は加算されません。

ポイント制になると他店との競争意識が芽生えるし、自分たちの取り組みの成果が目に見えるのでやりがいがある。

ポイント制の導入後、残業時間がみるみるうちに減りました。

現在、残業時間の目標は、入社5年目までの社員は月40時間、それ以上の社員は十数時間です。

若い社員が緩めの目標になっているのは、経験を積ませるため。

練習しないでうまくなったサッカー選手がいないのと同じで、ビジネスパーソンも若い時期にある程度の量を経験しないと一人前になりません。

もちろん残業をしたくない社員は早く帰ってもいい。

ただ、上の世代はもっと量をこなして成長したので、少なくてもその半分程度の量をやらないと同じ土俵に立てない。

どちらを選ぶのかは本人次第です。

若い時期に経験を積んで力をつけたあとは、量より質の勝負です。

武蔵野の残業時間は、残業を減らし始めたころと比較して3分の1になりましたが、売上は逆に128・5%伸びている。

社員個人も、短い時間でたくさんの成果を挙げることを目指すべきです。

数字で仕事をすると心に響く

社員が働きやすい職場を測る指標は、残業時間だけではありません。

武蔵野は以前から職場のコミュニケーションを重視しています。

コミュニケーションとは、「情報」と「感情」をやりとりすること。

様々な情報がみんなで共有され、精神的にも支え合っていける職場なら気持ちよく働けます。

だから社員間のコミュニケーションのいい職場ほど人が辞めない。

ところが、多くの会社ではコミュニケーションの状態が客観的に見える化されていない。

職場を見渡して、「わが社はみんな仲がいい」「いや、ギスギスしている」というように漠然とした印象で語るだけです。

客観的に数値化すれば、足りない部分について具体的な対策が打て、効果も測れます。

ところが、印象だけで語る社長は、職場環境を見誤り、悪いところを放置して悪化させてしまう。

ガソリンスタンドを展開するヤマヒロ株式会社(東京都、石油製品販売)の山口寛士社長も、なんとなくの印象で判断していたひとりでした。

「うちはみんな仲がいい。

だからコミュニケーションに課題があるとは考えていませんでした。

ただ、日本経営品質賞を目指す取り組みの一環で社内アンケートを実施したところ、予想外の結果が出た。

うちは情報共有が進んでいると思っていましたが、実際は点数が低く、私の印象とはまったく違った」(山口社長)ヤマヒロが実施したのは、武蔵野が提供している「コミュニケーションアンケート」です。

それによると、「報告、連絡、相談」「意思統一」「情報の伝達スピード」などの項目は軒並みよい結果になったものの、「情報共有」だけは標準を下回る結果に(→図表13)。

じつは山口社長は、社内の情報共有に自信を持っていました。

10年以上前から各店にパソコンとグループウェアを導入。

最近もiPadを配布するなど、ガソリンスタンド業界では見かけないほど積極的にIT化を進め、スタッフがいつでも好きなときに情報にアクセスできる環境を整えていたからです。

しかし、数字はウソをつかない。

社員同士で情報共有ができていないと感じていたのは事実です。

そこで原因を探っていくと、次のことがわかりました。

「パソコンやiPad、グループウェアIDは各店舗にひとつ。

仕事中にパソコンやiPadを使うのは店長の許可がいるため、若手社員やクルー(アルバイト)は面倒になってグループウェアにアクセスしなかった。

私は経営者目線で『ツールを入れればみんな喜んで使う』と勘違いしていて、使う側の心理がわかっていなかった。

反省です」(山口社長)山口社長はアンケート結果を受けて、別のグループウェアに乗り換えて全社員と主要クルーにIDを配布するなどの対策を取った。

その結果、課題を把握して具体的な対策をしたことで、コミュニケーションを改善できたのです。

ヤマヒロ株式会社は2017年度「日本経営品質賞」の「経営革新奨励賞」を受賞しました。

「情」は回数に比例するでは、見える化した結果、コミュニケーションのレベルが低かったら、どのような対策を打つべきか。

先ほど、コミュニケーションは「情報」と「感情」のやりとりだと言いました。

どちらにも共通しているのは「情」です。

情は、回数に比例します。

大して好きでもない相手でも、会う回数が多いと情が移る。

コミュニケーションも回数を増やせば改善されます。

株式会社キンキゴム(京都府、ゴム・プラスチック販売)の長谷川哲也社長も、コミュニケーションアンケートで課題を発見しました。

とくに問題だったのは、幹部社員とパート社員の間のコミュニケーション。

対策として社長とパート社員のランチ会を毎月実施するようにしたら、次のアンケートでは数値がカイゼンした。

ランチ会は50分。

パート社員は5人で、ひとりあたり正味10分です。

しかし、短時間でも顔を合わせて会話することに意味がある。

武蔵野もコミュニケーションは回数重視です。

上司は最低毎月1回、部下と飲み会をすることが義務づけられています。

回数を満たさないと評価が下がって賞与も減る。

こうした仕組みがあるから、武蔵野は風通しがよく、社員同士の仲がいいのです(これは私の印象だけでなく、アンケートで裏づけられています)。

社員がパンクしない仕組みを世界中から良質なエンターテインメントを求めて多くの人がやってくるラスベガス。

大勢の観光客を収容するため、巨大なホテルが立ち並んでいます。

ただ、いくら巨大といっても大きさには上限がある。

客室数はおよそ3000室まで。

それを超えるホテルを建てる敷地があっても、必ず2つに分けて建てられています。

なぜ、ひとつにまとめて超巨大ホテルにしないのか。

部屋数が増えすぎると、人間の頭で管理できなくなるからです。

もちろん3000室レベルになると、ひとりの人間の頭ですべてを管理することは困難で、ITやほかの人間の頭が必要になります。

3000室を超えると、ほかの助けがあっても収拾がつかなくなる。

だから分割して管理する。

社長や社員も、ひとりで管理できる量には限界があります。

私は一度会っただけの人の名前をまず覚えません。

人間、顔と名前が一致するのはせいぜい1000人です。

若くて脳がフレッシュでも1500人が限界。

私の場合、社員が200人以上、経営サポート会員の社長が700人以上、それに昔からの友人を入れて計1000人以上。

すでにキャパシティがギリギリの状態で、たくさんお金を払ってくれる人でないと覚えないようにしている(笑)。

社長は社員のキャパシティを見極めて、それ以上の管理をさせない仕組みをつくる必要があります。

仕事量が多すぎて課長がパンクしたら、その課を分割して課長を2人にしなかった社長や幹部の責任。

適切な量にコントロールしてこそ、社員は能力を存分に発揮できる。

では、適切な量をどうやって見極めればいいのか。

私が注視しているのはボイスメールの受信数です。

ボイスメールが月1500件を超えたら、そのチームはもう大きすぎる。

有無を言わさず分割です。

ほかに部下の人数、売上金額などをモノサシにしてキャパシティを見極める方法もあります。

いずれにしても大切なのは、仕事量を数値化してモニタリングすること。

社員がパンクしてうつになってから対処するのでは遅い。

基準をつくって、それを超えたら何らかの手を打つべきです。

ひとつひとつコツコツやってみてください。

必ず成果は出ます。

健康を〝数値化〟して会社を守る会社を守るために数字で見える化してほしいものがあります。

社長の健康です。

社長が病気で倒れると大変です。

肺ガンのステージⅢだと、抗ガン剤治療を3週間×4回。

合計で約3か月間は仕事ができなくなる。

中小企業の最大の戦力は社長です。

社長が約3か月不在だと、ほとんどの会社はガタガタになる。

そうした事態を回避するには、ガン遺伝子の数を見える化することが大切です。

私は遺伝子検査を受けて、5個のガン遺伝子が見つかった。

2〜3個は前ガン状態、4個はグレーゾーン、5個以上は危険水域で、5個はいつガンが見つかってもおかしくない状態。

3回にわたって遺伝子治療を行い、2017年8月に、とうとうガン遺伝子がゼロになりました。

遺伝子治療をしてくれたのは、経営サポート会員でもある医療法人社団創友会UDXヒラハタクリニック(東京都)の平畑徹幸理事長です。

遺伝子治療は非常にお金がかかります。

私はゼロになるまで繰り返し治療したので、全部で約2000万円かかった。

それでも私がいなくなって会社が傾くことを考えれば安い買い物。

治療費は自腹ですが、本当なら会社に負担させたいくらいです。

できれば社員にも検査を受けさせて、リスクのある人は遺伝子治療してもらいたいところです。

しかし、費用を考えると現実的ではない。

その代わり経営計画書に、「ビジネスの持続可能性を高めるために、社員の健康に一歩踏み込む」と明記して、健康指導を行っています。

とくに口うるさく指導しているのは食事です。

株式会社関通(大阪府、物流サービス)の達城久裕社長と株式会社テイル(前掲)の金原章悦社長は若いころから不摂生をしていたので、心配になってガン遺伝子検査を受けさせた。

2人とも悪い結果が出ると思ったら、達城社長は3個で(のちに治療でゼロ)、金原社長はゼロでした。

不思議に思って金原社長の生活をヒアリングしたら、チーズやキムチや納豆などの発酵食品を毎日食べているとわかった。

以来、社員にも「発酵食品を食べろ!」と勧めています。

自分は元気だから大丈夫と過信してはいけません。

経営サポート会員のうち122人の社長に遺伝子検査を受けてもらったら、ガン遺伝子5個以上は14人もいた。

うち6人はガンと診断されましたが、遺伝子治療で全員が前ガン状態まで戻った。

忙しくて健康なんて気にしていられないという社長は失格です。

社長の健康は会社経営最大のリスクであり、社長の健康を守ることが会社やそこで働く社員を守ることになる。

社長の体は、自分ひとりの体ではない。

そのことを胸に刻んで経営にあたってください。

本電子書籍は2017年12月13日にダイヤモンド社より刊行された『数字は人格』(第1刷)を、一部加筆、修正の上、電子書籍化したものです。

[著者]小山昇(こやま・のぼる)株式会社武蔵野代表取締役社長。

1948年山梨県生まれ。

「大卒は2人だけ、それなりの人材しか集まらなかった落ちこぼれ集団」を15年連続増収の優良企業に育てる。

2001年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。

2017年にはJR新宿ミライナタワーにもセミナールームをオープンさせた。

現在、「数字は人格」をモットーに、700社以上の会員企業を指導。

5社に1社が過去最高益、倒産企業ゼロとなっているほか、「実践経営塾」「実践幹部塾」「経営計画書セミナー」など、全国各地で年間240回以上の講演・セミナーを開催。

1999年「電子メッセージング協議会会長賞」、2001年度「経済産業大臣賞」、2004年度、経済産業省が推進する「IT経営百選最優秀賞」をそれぞれ受賞。

日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、2010年度)。

2004年からスタートした、3日で108万円の現場研修プログラム(=1日36万円の「かばん持ち」)が話題となり、現在70人・1年3か月待ちの人気となっている。

『朝30分の掃除から儲かる会社に変わる』『強い会社の教科書』『【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる!』『1日36万円のかばん持ち』『残業ゼロがすべてを解決する』(以上、ダイヤモンド社)、『99%の社長が知らない銀行とお金の話』(あさ出版)、『仕事ができる人の心得【改訂3版】』(CCCメディアハウス)などベスト&ロングセラー多数。

数字は人格——できる人はどんな数字を見て、どこまで数字で判断しているか2017年12月13日プリント版第1刷発行2017年12月15日電子版発行著者——小山昇発行所——ダイヤモンド社〒150‐8409東京都渋谷区神宮前6‐12‐17http://www.diamond.co.jp/電話/03・5778・7232(編集)03・5778・7263(製作)装丁——————————石間淳本文デザイン・DTP——吉村朋子・佐藤麻美編集協力————————村上敬製作進行————————ダイヤモンド・グラフィック社編集担当————————寺田庸二

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次