数字の裏読み1平均と分散「平均的な人」なんて存在しない日本では一般的に、データを取り扱う際に「平均値」を使って分析することがよくあります。
私も報告データで、平均値をベースにした分析に何度もお目にかかっています。
自分自身も平均値をよく使います。
ただし、平均値を利用する場合には注意が必要なのです。
図18をご覧ください。
こちらは本書でこれまで分析してきた営業組織の売上データのうち、問題が少なかった(全国平均のデータより高かった)首都圏組織の詳細データです。
5月の月間平均売上は380万円でした。
この平均値は、大きく2種類のケースが想定できます。
図18の右側のグラフは、首都圏の営業担当それぞれの売上が平均値の380万円の前後に集中しているケースです。
具体的には月間売上300万円から400万円に集中しています。
この場合、平均売上380万円という数値は全体を代表していると言えるでしょう。
一方、図18の左側のグラフではどうでしょうか?平均売上380万円と比較すると半分以下の月間売上100万円から150万円に半分弱の人数の営業担当が存在しています。
そして、残りの半分強は平均売上380万円より2割程度多い450万円から500万円に存在しているのです。
そして、この2つのグループを平均している380万円にはだれ一人該当する営業担当がいません。
つまり、平均値としての380万円は数字的には正しいのですが、月間売上380万円の営業担当は存在しないのです。
もちろんこの380万円という平均値は、首都圏の営業担当を代表している数字ではありません。
実在しない「平均的な営業マン」をイメージして分析するのには無理があります。
今回のケースには関係ありませんが、同様に「都心在住の20代の平均的な女性」をターゲットに想定して施策を検討しても効果は見込めません。
こんな人、いないのです。
これは何も特殊な話ではありません。
かつて戦闘機のパイロットにとって最適な座椅子や最適な操縦桿を決めるという、プロジェクトがありました。
座椅子の大きさ、高さや操縦桿や計器の大きさ、それらの場所や操縦桿までの距離などを決定するプロジェクトです。
そのために多数のパイロットのデータが収集され、分析されました。
その結果、最適(だと考えられた平均値)のデータが選択され、その平均値データをもとに、椅子の大きさ、座面の高さ、操縦桿の大きさ、距離などが決定されました。
ところが、不思議なことにパイロットからの不満が続出しました。
不満が出るだけであれば、問題は限定的でした。
しかし、戦闘機が敵機と戦闘して負けてしまい墜落するのです。
これは大問題です。
そこで原因究明のプロジェクトが立ち上がりました。
原因はとてもシンプルでした。
このプロジェクトでは、様々なパイロットの身体データの平均値を採用して、戦闘機の機器の大きさやコックピット内の位置を作成しました。
つまりパイロットの身体情報の平均値から座面の高さ、操縦桿までの距離、操縦桿の大きさを画一的に決めていったことです。
ところが、これらの平均値をすべて満たしているパイロットは、全パイロットのうち数パーセントしかいなかったのです。
ということは大半のパイロットにとっては、「少し椅子の位置が違う」「操縦桿までの位置が違う」など違和感や不具合が残ります。
そんな状態で戦闘機を操縦していたわけですから、勝てるわけがありません。
詳しく知りたい方は『平均思考は捨てなさい』(トッド・ローズ著)をお読みください。
先日テレビで大物芸能人がA社のイヤホンについて不満を言っていました。
世界共通の平均数値で作成しているそうですが、彼の右側の耳からはよくイヤホンが落ちるそうです。
これも「平均だったら何でもOK」が間違っている例の一つでしょう。
平均のもとになっている分散の数値を確認することで、現象のリアルに迫ることができます。
ぜひ、平均値を見たら、分散を確認する習慣をつけてください。
数字の裏読み2想像力数字の偏りから事実を見抜く平均値が威力を発揮するのは、図19のように分散のデータで平均値を中心に左右対称になっている、いわゆる「正規分布」の場合です。
ただし、データの分散は、必ずしも左右対称の正規分布ばかりではありません。
たとえば、図20の上のグラフのような顧客の取引額別の分散データと平均値データがあります。
このケースでは、一般に「パレートの法則」といわれる顧客数の上位20%で売上の80%程度を占めていることが多いのです。
これをさらに顧客別の営業利益で見ると、図20の下のグラフのように取引額上位20%の顧客で利益の120%を稼ぎ、取引額下位の80%の顧客では利益は赤字だということも少なくありません。
「売上が高くても利益がゼロ」を防ぐには余談ですが、みなさんの組織は顧客別の営業利益を把握していますか?営業利益ですので、顧客別売上−顧客別原価−顧客別一般管理費という計算式で出すことができます。
顧客別の売上は把握しているでしょう。
顧客別の売上から原価を除いた粗利益までは見ている会社も多いと思います。
その粗利益から一定のルールで配賦(部門や製品を横断して発生する費用の配分処理)した一般管理費を引いた営業利益まで管理している企業は少ないのではないでしょうか。
顧客別の営業利益を見ることができれば、顧客別の営業戦術を検討する際に示唆を得ることができます。
たとえば売上は多いはずなのに、特定の顧客に営業やスタッフが異常に工数をかけていて、実は工数まで配賦した営業利益では、利益率はもちろん、利益額でも小さいケースに気づくかもしれません。
あるいは極端かもしれませんが、特定の大口顧客などでは、関係者の工数も多いことに加えて、値引きが大きいために結果として営業利益が赤字の場合もあるのです。
赤字だとするならば、何のためにその顧客に特別対応しているのか分かりません。
しかし、売上しか見ていない組織ではよくあることなのです。
また、新規顧客を獲得しても、最初の収益は小さい、もしくは赤字であるケースがあります。
これは、既存顧客の営業効率は新規顧客と比較して3倍ほど効率的であることが多いことと、同じく1回当たりの取引額も3倍程度多いからです。
結果、既存大口顧客と新規顧客や少額取引顧客を比較すると営業効率が3×3倍の約10倍程度異なるのです。
取引大顧客と新規や少額取引顧客の両者に対して、同じ営業体制、同じサービス体制であれば、下位顧客や新規顧客の合計が赤字になることも納得がいくのではないでしょうか。
営業利益までの数字で分析した結果、赤字になるということは、過度な値引きや過度な工数がかかりすぎている可能性がある、と想像してみる。
あるいは、営業利益まで見られないとしても、特定の顧客に関して、数字でこのように分析すれば検証できると想像してみる。
この習慣を持てると数字での分析レベルが向上します。
前述の平均と分散の話も、その例です。
度々ケースで取り上げている営業組織の分析の話を続けましょう。
首都圏の5月の平均売上が380万円でした。
これを、平均値はこうなのだけれど、2種類の可能性がある。
すなわち、図18の左のグラフのように2山に分散しているケースと図18の右のグラフのように平均値が全体を代表しているケースが想定できます。
もし左のように2山であれば、月間売上が高いグループのノウハウを低いグループに移管できれば、さらに売上を上げることができます。
一方で右のグラフのように平均値前後に数値が集中しているとするならば、営業経験やノウハウにかかわらず、この商品が売りやすい商品となっている可能性があります。
商品企画側の支援状況やツール、体制を確認し、他の商品拡販に活用できるかもしれないのです。
数字をもとに事実を「想像してみる」とは、このような考え方です。
これ以外にも、あなたが日ごろ見聞きしている現場の話と数字の間に違和感を持ったら、その違和感を大事にして、想像力を働かせて、確認する習慣をつけてください。
これが定性データを加えるという考え方で、分析のレベルを向上させる重要なポイントの一つです。
数字の裏読み3選択肢を増やして絞り込む仮説力をアップさせる2ステップとは応用編の最後は、シナリオ(仮説)をレベルアップさせるスキルです。
良いシナリオを作るにはどうすればよいでしょうか?図21をご覧ください。
シナリオ作成を因数分解すると、①たくさんの選択肢を見つける、②適切な選択肢1つに絞る、に分けられます。
実は、この2つのステップは、シナリオ作成であろうと、企画立案であろうと、営業方法であろうと、様々な仕事に応用可能な考え方なのです。
逆説的に表現すると、上手なシナリオを作れない人=仕事ができない人は、このステップが身についていないかもしれません。
たとえば、1つだけシナリオを見つけて、それに固執するのです。
当然ですが、前述の2ステップを実行する人と比較すると、そのシナリオの品質は大きく異なります。
当然ですよね。
ちなみに、この2つのステップは、使う頭の筋肉が違います。
①たくさんの選択肢を見つける、というステップは、「拡散」する頭の筋肉を使います。
私は、このステップでは、次ページの図22のように両極端な案を作ることを心がけています。
両極端の選択肢を見つけてから、その間の選択肢を探すようにするのです。
人は選択肢をたくさん探そうとしても、知らず知らずのうちに制約条件を前提に考えがちです。
「拡散」が必要なステップ①では、その制約条件をいかにして外すかがポイントです。
制約条件とは、「人」「モノ」「お金」などの経営資源や「品質」「コスト」「納期」などのプロジェクトや仕事の制約条件が典型的です。
「予算がないから、納期に間に合わないから、人がいないから」。
これらの制約条件が選択肢を狭めるのです。
あるいは、読んだ本に書いていた内容や経験した内容、これまで見聞きしたことなどが影響を及ぼすこともあります。
これらの制約条件をいったん外して、選択肢を考えることができるかがポイントです。
たとえば、自分の「転職」の選択肢を広げて考える場合を想定してみましょう。
転職するかどうかを起点に考えると、一方の極端な選択肢は、結局転職しない、という選択肢が考えられます。
逆側のもう一方の選択肢は、「これをきっかけに次々に転職する」というのが考えられます。
こう考えると、2つの極端な選択肢の間に、「転職して働き続ける」という考えが浮かびます。
これで3つの選択肢を見つけることができました。
別の軸を考えてみると、そもそも1つの会社だけで働くのかという軸も考えられます。
副業や複業です。
そう考えると多数の企業の仕事やプロジェクトを行うという選択肢もあり得ます。
さらにこの考えを推し進めると「起業する」という選択肢も検討できるでしょう。
ポイントは、この選択肢を広げている時に、できるかできないか、あるいは選ぶか選ばないかをいったん忘れること。
できる限り選択肢を広げるのです。
後々に「他の選択肢があるのではないか?」とこのステップに後戻りしないで良いように選択肢を広げきるのがポイントになります。
たくさんの選択肢を考えられれば、次は、その選択肢を1つに絞るステップです。
これはいわゆる「決定分析」のスキルが求められ、「収束」する頭の筋肉を使います。
この決定分析は、一次予選、二次予選、最終決戦を通じて1つの最適な方法を選択する手法です。
そのステップを図23で説明します。
新規出店する場合に複数の候補地A、B、C、Dと4か所があるケースを考えます。
まず、選択肢を確認します。
選択肢は4つ。
A、B、C、Dです。
次に4つの選択肢から1つを選択するための「物差し」を確認します。
物差しとは、選択肢を決定する条件のことです。
この物差しは、一般的には複数あります。
たとえば、①家賃は100万円以下、②入居は〇月〇日まで、③店内工事は500万円以下、④集客見込みは平日100人、休日150人以上、⑤アルバイト時給1000円以下、⑥店舗閉店23時などです。
そして、この物差しを一次予選用の「MUST」の物差しと二次予選用の「WANT」の物差しの2つに分類します。
MUSTの物差しとは、必ず満たしていないといけない条件を指します。
今回のケースでは、①家賃は100万円以下、②入居は〇月〇日まで、③店内工事は500万円以下、の3つが一次予選用のMUSTの物差しだとしましょう。
選択肢A、B、C、DのうちDは、現状がスケルトン(内装工事や各種工事をテナント側が負担する)なので、店内工事、空調や水回り工事などの費用も私たちが負担します。
それが1600万円かかることが分かっています。
これではMUST条件の③店内工事は500万円以下を満たしません。
MUST条件①②③は、すべて満たさないといけない前提条件です。
結果、選択肢Dは一次予選で敗退、つまり選択肢の候補から除外します。
次は二次予選です。
ここでは「WANT」の物差しを使います。
今回は、①から⑥のすべての物差しについて優先順位を決めて、その優先順位の高い順に重要度で点数を付けます。
たとえば、集客が最も重要なので④10点、アルバイトの募集が次に重要なので⑤8点、家賃は安い方が良いので①6点、より早く入れる方が好ましいので②4点、残りの2項目については重要度が低いので③と⑥はそれぞれ2点とします。
一次予選を通過した3つの選択肢について、①から⑥の項目についての適合度としてスコアをつけます。
たとえば集客については、A>B>Cの順に高いとすると、それぞれ10点、8点、6点という具合につけます。
そして、この項目について重要度とスコアの掛け算をし、それぞれの選択肢の持ち点とします。
A=重要度10点×スコア10点=100点、B=10×8=80点、C=10×6=60点という具合です。
これを①から⑥のすべての項目について実施します。
続いて、それぞれの持ち点を合計して、選択肢AからCの総合評価点とします。
この総合評価点の上位2案、今回のケースでいうと選択肢AとBが最終決戦に残ります。
最終決戦では、リスクについて検討します。
リスク項目をピックアップし、それを「事前予防」と「発生時対策」によって軽減できるかどうかを確認します。
最終決戦では、二次予選の点数はあくまでも参考として、リスクをコントロールできるかどうかで判断します。
今回は選択肢Aが最終決戦を勝ち抜きました。
選択肢Aでの出店を最終化する方向で詳細化します。
この決定分析のスキルを習得できると、シナリオ(仮説)を決定する能力がアップします。
コラム今すぐできる!「数字で考える」トレーニング数字に苦手意識がある人に、簡単に苦手意識を克服する方法をご紹介しましょう。
〈自動車のナンバーを見たら、足し算・引き算してみる〉これは小学生にも有効なトレーニングです。
車のナンバーを見つけたら、3桁か4桁の数字が書かれています。
その前半分1桁か2桁の数字と後半分の2桁の数字を足し算、引き算します。
たとえば、「44−26」であれば44+26=70、44−26=18。
「23−38」であれば23+88=111、23−88=−65という具合です。
とても簡単な訓練なのですが、日々続けると計算のスピードがアップすることを体感できます。
何事も、成長感を持てると継続できます。
継続できると習慣になります。
「習慣の力」はとても強いです。
知らず知らずのうちに数字への苦手意識が減っていくのが分かると思います。
〈何時に到着するのか考えてみる〉これは因数分解と工数見積もりの両方ができる優れものです。
どこかに出かける際に何時何分に到着するのかを推定するというトレーニングです。
たとえば、車で私の自宅のある横浜から実家がある大阪に何時に到着するのかを推定してみましょう。
どのように分解すると良いでしょうか。
たとえば私は次のように因数分解して考えます。
全体距離はざっくり500㎞弱。
①自宅から最寄りの高速入口まで≒10㎞②高速出口から実家まで≒10㎞③高速道路上は平均時速80㎞で一定で走る④3回休憩すると仮定します。
市街地の平均速度は20㎞程度ですので、①、②はそれぞれ10㎞÷時速20㎞=0・5時間(30分)となります。
全行程500㎞から①②合計の20㎞を除くと残行程は480㎞。
③高速道路での所要時間は480㎞÷時速80㎞=6時間となります。
④は1回あたり30分休憩すると30分×3回=1時間30分となります。
合計すると①30分+②30分+③6時間+④1時間30分=8時間30分となります。
たとえば午前8時に出発すると、8時+8時間30分=16時30分に到着することが予測できます。
もう少し早く到着するにはどうすれば良いでしょうか。
方法は3つあります。
出発時間を早める、休憩回数もしくは休憩時間を減らす、高速道路での平均スピードを高める、です。
当然、これらの組み合わせもあり得ます。
たとえばで1時間早く出発し、で休憩を2回にし、で平均速度を90㎞としてみましょう。
①30分、②30分は同じです。
③480㎞÷時速90㎞≒5時間30分④30分×2回=1時間
よって、①30分+②30分+③5時間30分+④1時間=7時間30分となり、7時+7時間30分=14時30分になります。
これなら、当初の予測16時30分よりも2時間早く実家に到着することができます。
これが計画、シナリオ(仮説)です。
そして、実際の結果と比較します。
①~④のどの部分が、どの程度同じ、あるいは違ったのかをチェックします。
今回は、プライベートの話ですが、仕事でも同様に「振り返り」は大きな威力を発揮します。
具体的には、「工数見積もり」のセンスが高まっていくのが体感できるでしょう。
工数見積もりの精度が高まると、仕事全体の見積もり精度も高まります。
使うのは、四則演算だけですが、これを継続すると数字のセンスが高まっていきます。
経営者の視点を意識する儲けるセンスを高めるための最大のポイントは「経営者の視点を意識すること」です。
経営者といってもいろいろな方々がいるので、一概に「経営者」と括るのは無理があるかもしれません。
ここで言う経営者とは、「GoingConcern:ゴーイング・コンサーン」を考えている経営者を指します。
ゴーイング・コンサーンとは、会社が将来にわたって事業を続けていくという前提です。
企業には、顧客にサービス・商品を提供し続ける責任があります。
その責任を遂行するためには、提供した商品のアフターサービスをしたり、商品改良したり、新製品を開発したりしなければいけません。
これらを実現するには、優秀な人材・パートナーが必要。
そのためには、資金が必要です。
少し説明が長くなりました。
これらを実現するための資金を安定的に投資することが欠かせません。
つまり、利益を上げ続けないといけないのです。
会社経営を続けるためには、利益が不可欠だということです。
私がここでお伝えしたいのは、「経営者は利益で物事を見ている」という視点。
極論すれば、この1点が経営者かどうかを判断する大きなポイントです。
その観点でいうと、売上やコストでしか物事を考えていない人は、いかにその立場が役員や管理職であっても経営者ではないと判断できます。
さて第3章では、儲ける=利益を増やすために最も重要な3つのポイントに絞って説明します。
繰り返しになりますが、四則演算だけでいろいろなことが分かります。
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