「ワーキングメモリ」を使いこなす脳の作業領域がミスの鍵を握るワーキングメモリとは、いわば「脳の作業領域」です。イメージ的には理解できたと思いますが、「ワーキングメモリの低下」はミスの4大原因の1つでもあるので、もう少し詳しく説明しておきましょう。たとえば、朝、通勤の途中でコンビニに寄ったとします。左手のコンビニは、レジ2台態勢でそれぞれのレジに5、6人の行列ができています。右手のコンビニは、レジ4台態勢で、ほとんど列はありません。あなたは、どちらのコンビニに入りますか?朝の急いでいる時間帯ですから、レジ4台態勢の明らかに回転率がいいコンビニに入ると思います。列に並んだお客さんの精算をして、次々とさばいていく。まさに、このコンビニのレジこそが、ワーキングメモリと考えていいでしょう。脳に入ってきた情報を、要領よく処理する場所がワーキングメモリですから、コンビニにおけるレジに相当するわけです。コンビニのレジが少ないと、明らかに時間がかかるし、処理できる情報も少なくなる。レジ打ちの店員さんも、いっぱいいっぱいになって接客も手薄になり、打ち間違えなどのミスを起こす可能性もあるでしょう。ワーキングメモリの容量が多いほど、情報は速く、的確に処理されます。コンビニで稼働しているレジが多いほど、お客さんの流れがスムーズであるように、ワーキングメモリも多いほど、情報処理のスピードが速くなり、仕事をスピーディーにこなせます。その結果、仕事の流れも速くなり、ミスも少なくなります。脳内で、情報を最初に迎える入口でもあるワーキングメモリがいっぱいになると、先ほど述べたインプット・ミスが起きるのです。「ど忘れ」といったインプット・ミスを防止するための最も重要な対策が、ワーキングメモリを高めることなのです。ワーキングメモリのキャパシティそれでは、私たちのワーキングメモリのキャパシティは、どのくらいあるのでしょう?つまり、私たちの脳の中には、何台のレジが稼働しているのか、ということです。一昔前は、「マジカルナンバー7」ということが言われていて、「7」という数字が注目を集めていました。電話番号のような、数字の羅列を記憶する場合、7桁か8桁までは覚えられるものの、それを超えると、記憶があいまいになると思います。たとえば、あなたの奥さんから携帯に電話がありました。「今日の夜、すき焼きをするので、牛肉、シラタキ、卵を買ってきて」と言われました。電話を切って、メモ帳を開いてメモをとるまでに3個の品物を忘れる人はいないでしょう。では、次のような場合はどうでしょう。「今日の夜、すき焼きをするので、牛肉、シラタキ、白菜、長ネギ、豆腐、春菊、卵を買ってきて」と言われたとしたら……。電話を切って、メモ帳に書こうと思い出そうとしても、7個すべてを復唱することはかなり難しいと思います。ワーキングメモリの容量は、実験するときの課題の負荷のかけ方によって変化するものです。たとえば「物品の名称」を記憶する場合などのように、脳への負荷が大きくなると、私たちの記憶できる量は、7よりかなり少なくなります。最近の研究では、ワーキングメモリのキャパシティは、「3」前後、と言われています。「3」まではほとんどの人が確実に記憶できますが、「5」を超えると途端に記憶が怪しくなり、頭が真っ白になる人も出てきます。電話番号も、●●●××××■■■■のように11桁を記憶しているようで、「●●●」「××××」「■■■■」のように、3つのチャンク(かたまり)ごとに記憶しています。私たちは、このように無意識のうちに、実は「3」というワーキングメモリを使って記憶しているのです。研究者の間でもいくつか説があり、また人によって個人差もあるものの、ワーキングメモリのキャパシティが「3」というのは、とても説得力があるように感じます。そこで、もろもろの学説はありますが、本書では以下、ワーキングメモリのキャパシティは「3」という数字で統一します。つまり、私たちの脳の中には3台のレジが稼働していて情報処理をしています。これは、平均して「3台」ということですから、「ミスが多い」人は、「2台」の可能性もあります。仕事を他の人よりも要領よくこなせる人は「4台」かもしれません。普段は「3台」態勢でも、脳疲労の状態になると、「2台」態勢に減ってしまいます。「うつ病」の状態では「1台」態勢となるので考えがまわらず、堂々めぐりばかりするようになるのです。わかりやすく整理しましょう。絶好調→4台、健康→3台、脳疲労→2台、うつ病→1台。こんなイメージです。あなたが、今、健康な状態、つまり3台態勢であるならば、4台態勢にして、仕事効率をアップさせるべきです。あなたが今、もしも脳疲労の2台態勢の状態であるならば、疲労回復して「健康」状態の3台態勢に持っていくべきです。レジの台数を増やしたいとき、実際のコンビニでは、「鈴木さん、レジに入ってください!」という店長の一言で、レジの稼働台数は瞬時に増えます。しかし、脳内レジの台数を簡単に増やすことは可能なのでしょうか?答えは「YES」。あなたの脳内レジ数が仮に2台だとしても3台、4台に増やすことは可能です。ここからは、インプット・ミスを減らすためのワーキングメモリを増やす方法、あるいは、ワーキングメモリを増やさずとも、既存のワーキングメモリをフル活用する方法を、紹介していきます。ワーキングメモリを鍛える9つの方法ワーキングメモリを鍛える方法はいろいろとありますが、それらの中でも科学的根拠に基づいた実践法を厳選して、9つのメソッドをお伝えします。(1)睡眠
まず、自分が持っているワーキングメモリが100%の力を発揮するためには、必要な睡眠時間(7時間以上)がきちんととれていることが必須です。医師を対象にしたある研究によると、睡眠不足の医師は、十分な睡眠をとった医師と比べて、業務を完了させるのに14%長く時間がかかり、ミスをする確率は20%以上高かった、という結果が出ています。睡眠が不足すると、ワーキングメモリ、そして注意力・集中力、記憶力、学習機能、実行機能など、多くの認知機能が低下してしまい、きわめてミスを起こしやすい状態に陥ります。そうした、認知機能の低下は、睡眠時間が6時間を切っただけで現れると言いますから、注意が必要です。(2)運動運動は、ワーキングメモリを強化します。ワーキングメモリに限らず、注意力・集中力、記憶力、学習機能など、多くの脳の働きを活性化し、認知症を予防します。つまり、運動は「最強の脳トレ」と言っていいでしょう。脳のパフォーマンスが上がる運動は、筋トレではなく、有酸素運動です。中でも、ランニングや、やや早足のウォーキングなどがおすすめです。脳を活性化するには、週に2時間以上の有酸素運動が推奨されています。ワーキングメモリについての研究では、たった30分のランニングで、ランニング直後にワーキングメモリが向上しているという報告もありますから、運動はとても即効性のある方法と言えます。もちろん、何時間かすると元に戻りますが、有酸素運動によって脳の神経を育てるBDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌され、脳のネットワークを強化されますので、継続的な運動がワーキングメモリの基礎力を高めてくれます。(3)自然に親しむ「運動をする場合、どういうものがいいのか?」という質問はよくありますが、最新の研究では「木登りなど自然の中で運動する」「自然の中を裸足でランニングする」「山道を走るトレイルランニングをする」などが、ワーキングメモリを高める効果や、脳を活性化する効果が高いと注目されています。自然の中を走れば、石ころがあるかもしれないし、木が倒れているかもしれない。そうした「危険」を素早く察知して、飛び越えたり避けたりするという判断や行動を瞬時に行わなければいけないことを意味します。このように、考えたり、判断したりしながら運動することが、脳のさらなる活性化につながるのです。あなたが毎日ランニングする場合、同じ舗装された道を走る場合でも、自然豊かな道や、緑豊かなコースを選ぶことで、脳をより活性化させる効果が期待できます。また、ランニングでなくても、自然の中を歩いたり、散歩したりするだけでも、脳を活性化させる効果やストレス発散効果、リラックス効果などが得られることがわかっています。自然の中にいるだけで脳のトレーニングになるのですから、是非、自然と親しむ時間を増やしてほしいと思います。(4)読書日本のワーキングメモリ研究におけるけん引役である、大阪大学・苧阪満里子教授の、大学生50名を対象とした研究によると、ワーキングメモリの容量が多い学生は、「高い読解力」を有し、文章全体の論旨を把握する「文脈をとらえる能力」に長けていることがわかりました。読書をするとワーキングメモリが鍛えられる、ということは以前から言われていますが、この研究から、実際にワーキングメモリと読解力は相関関係にあり、読書をして読解力が鍛えられれば、ワーキングメモリの鍛錬にもなる、ということが明らかになったのです。(5)記憶力を使う何かを記憶したり、暗記したりする場合、否応なく、ワーキングメモリが使われます。ですから、何かを意識的に暗記する。「記憶力」を使うということが、そのままワーキングメモリのトレーニングになります。英語を勉強している社会人はとても多いと思いますが、たくさんの新しい単語を暗記しなくてはいけない「外国語の習得」は、格好のワーキングメモリのトレーニングと言えるでしょう。しかしながら、社会人の場合、最近はスマホで検索すれば何でも瞬時に調べることができますから、「記憶力」を使う機会が、ものすごく減っていると言えます。ですから、自分から積極的に資格試験や昇進試験、あるいは趣味の「検定」を受験するということも重要です。大人になっても勉強は続けていかなくてはいけません。「大人の勉強法」については、こちらで詳しく解説します。(6)暗算16+59の答えは何でしょう?暗算で計算してみてください。1の位は、「15」で、「1」が10の位に繰り越される。10の位は「6」なので、6+1で7。「75」が答えということになります。この計算の過程で、いくつかの数字が脳のスペースに、「仮置き」されていないと計算することはできません。この数字が「仮置き」されている場所がワーキングメモリですから、暗算によってワーキングメモリが鍛えられます。しかしながら、最近のスマホには「電卓」という便利な機能がついています。昔ながらの暗算ではなく、電卓に頼りたくなります。できるだけ電卓に頼らず、暗算でできるものは暗算するようにしないと、脳の老化はどんどん進んでいく危険性があります。(7)ボードゲームチェス、将棋、囲碁などのボードゲームは、認知トレーニングとして非常に有効であることが知られています。ワーキングメモリのトレーニング効果もありますし、認知症の予防にも効果があるという研究もあります。将棋をする場合、1手先、あるいは2、3手先を読むことが必要になります。「この手の次は、相手をこの手を打つだろう」というシミュレーションを頭の中の「将棋盤」で行っているはずですが、その過程でワーキングメモリが使われます。将棋やチェスなどでは、高い集中力を必要とされますので、集中力のトレーニングにもなります。(8)料理パスタをゆでながら、野菜の皮をむいて、みじん切りにする。次にフライパンを加熱してソースを準備する。というように料理は、複数の作業を同時進行でこなしていく必要があります。次はこれ、その次はこれということで、複雑なプロセスと火加減などを同時に把握して、火をとめるタイミングなども判断しないといけません。ワーキングメモリがフル稼働で使われます。
料理をすることでワーキングメモリは鍛えられますが、料理のレシピを頭に入れておいて、料理中はレシピを見ないで料理すると、より脳のトレーニングになると言います。「最近、料理ができなくなった」「鍋を焦がすことが多くなった」「最近、料理の味付けがおかしくなった」といった行動から、認知症が発見される場合もあります。料理は簡単そうで、複雑な「段取り」作業ですから、料理自体が脳のトレーニングになるのです。認知症のデイケア施設でも、「料理」は作業療法の最もポピュラーなメニューの1つとなっています。脳トレという意味だけではなく、料理は楽しいし、夫婦や家族で一緒にやればコミュニケーションがとれるだけでなく、ストレス発散にもなるので、おすすめです。(9)マインドフルネスあのGoogleが社内研修に取り入れたことで、注目を集めているマインドフルネス。マインドフルネスとは、「今この瞬間」の自分の体験に注意を向けて、現実をあるがままに受け入れること。ストレス対処法の1つとして医療、ビジネス、教育などの現場で実践されています。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究では、48人の学生を対象に、マインドフルネスのトレーニング、もしくは栄養学の授業のどちらかを2週間受けてもらいました。実験が終わったとき、マインドフルネス・トレーニングを受けた学生は、ワーキングメモリに関する項目の得点が増加していました。そればかりか、実験後に受けた読解力テストの点数が、実験前の自身の点数だけでなく、栄養学を受講した学生と比較して、平均16%も伸びていたのです。マインドフルネスについては、ストレスホルモンを抑制する効果や、前頭葉を活性化させる効果、そして、脳内物質・セロトニンを活性化させる効果なども報告されています。
「同時進行」がミスの元ミスを減らすためには、ワーキングメモリを鍛える努力を続けていくことが重要です。運動や読書などさまざまな方法で、ワーキングメモリは鍛えられますが、短期間で目覚ましくワーキングメモリの容量を高めることは簡単ではありません。そのため、当面は今の自分のワーキングメモリを効率的に使っていくことが、インプット・ミスを減らすための重要な課題となります。これは、脳に負荷をかけない、脳のリソースを有効活用する、ということです。そのためには、「マルチタスク」をしない、ということが重要です。最近のパソコンは性能がいいので、このようなケースは少なくなりましたが、昔は、ソフトウェアを3つ立ち上げると、途端に処理速度が遅くなり、4つ目のソフトを立ち上げた瞬間に、画面がフリーズしてしまう、ということがよくありました。それと同様のことが、私たちの脳でも起こります。一度に、複数のことを処理しようとすると、脳の処理速度が遅くなり、余計に作業に時間がかかるだけではなく、脳の情報処理の許容度を超えた瞬間、ミスが発生してしまうのです。同時に複数の仕事をこなすことを「マルチタスク」と言います。「マルチタスク」とは、「仕事に関するメールを打ちながら、大切な得意先との電話連絡をする」「企画書を作成しながら、部下から重要なプロジェクトの進捗具合の報告を聞く」などといったように、複数の仕事を同時進行する行為です。最近の脳科学研究では、「人間の脳はマルチタスクができない」ということが明らかになっています。たとえば、「ながら勉強」。テレビを見ながら、勉強するというようなケースです。この場合、「テレビを見る」のと「勉強する」という行為を同時進行しているわけではなく、すさまじいスピードで脳内のスイッチを切り替えながら、2つのタスク処理を行っているにすぎないのです。こうした「切り替え」を何度も行っていると、脳に猛烈な負荷がかかるとともに、脳の処理能力も低下してしまいます。たとえば、ロンドン大学の研究によると、作業中にメールや電話を確認するなどのマルチタスクを行うと、IQが10ほど低下する結果となりました。なお、この数値は、マリファナを吸引したときの約2倍に匹敵する、と報告されています。その他にも、こうしたマルチタスクを続けると、ストレスホルモンが分泌されるという研究もあります。ストレスホルモンは、脳内で記憶を司る海馬に対して著しい悪影響を及ぼし、記憶障害の原因となります。長期にわたってストレスホルモンが盛んに分泌されると、海馬の萎縮が起こります。そして、ストレスホルモンが増えると、不注意やど忘れの原因にもなります。また別の研究によると、1つの課題に集中して取り組めない場合、その課題を完了するのにかかる時間は50%も増えるということがわかりました。加えて、間違いをする確率も、最大50%も高くなるのです。2つの似たような作業を同時に行わせた場合、効率の低下は50%ではなく、80~95%も低下した、という研究報告もあります。つまり、マルチタスクをする場合、2つのことを別々に行う場合よりも時間がかかってしまうのです。さらに間違いやミスをする確率も1・5倍に跳ね上がります。私たちが日頃「早く終わらせよう」「効率的だ」と思って、ついついやってしまいがちな、マルチタスク。しかし、仕事が早く終わることはなく、結局、余計に時間がかかってしまうのですから、時間の無駄としか言いようがありません。脳に負荷をかけるマルチタスクは、それ自体がミスを引き起こす重大な原因になると同時に、ストレスホルモンを分泌させて脳疲労の原因にもなります。仕事は同時にやらない、ひとつひとつ順番に片付けていくことが、結局のところ最も効率がよく、ミスを減らすことになるのです。音楽を聞くと仕事がはかどる?「マルチタスク」は仕事の効率を下げる、と言うと、「音楽を聞きながら仕事をするのもダメなんですか?」という質問を必ずされます。「音楽を聞きながら仕事をしたほうが、仕事がはかどる」「勉強するときは、必ず音楽をかける」という人も多いでしょう。仕事と音楽についての約200もの論文を分析した研究があります。それによれば、「音楽を聞くと仕事がはかどる」と結論付けている研究と「音楽を聞くと仕事の邪魔になる」と結論付けている研究の数はほぼ同じだったそうです。それらの内容を細かく見ていくと、記憶力、読解力に対してはマイナスに作用し、気分や作業スピード、運動などに対してはプラスに作用することが多い、という結果になっています。特に「歌詞」のある音楽は、言語情報として脳に認識されます。言葉同士がぶつかりあうので、学習、記憶、読解といった私たちの言語機能を妨害する可能性があります。外科のドクターに話を聞くと、「手術中は自分の好きな音楽をかけたほうが集中できる」と言う人が少なくありません。それは、手術が「作業」という面も持っているからかもしれません。「流れ作業」のラインで音楽をかけて、作業効率をアップさせている会社もあります。手や体を動かす「作業」「運動」に関しては、音楽はプラスに働くようです。音楽は、「学習」「記憶」「読解」などにはマイナスに、「作業」「運動」にはプラスに働きます。あなたの仕事がどのような内容なのかによって、音楽の効用は変わるのです。
デュアルタスクで能率アップ「複数の仕事を同時進行するマルチタスクは脳に悪い」と述べてきましたが、一方で「有酸素運動」と「脳トレ」を一緒に行う「デュアルタスク」に関しては、きわめて高い脳トレ効果が得られると、最近、精神科医の間でも注目を集めています。デュアルタスクは、認知症や認知症予備軍である「軽度認知障害」のトレーニングとして高い効果を上げています。具体的には、ウォーキングマシンや踏み台昇降をしながら、100から3を引き算し続ける計算をする方法や、2~3人でしりとりをしながらウォーキングする方法などが推奨されています。この場合、デュアルタスクの課題としては、頭を抱えてしまうような難しい問題ではなく、「簡単な課題」のほうが効果があるそうです。一方で、運動量としては「中等度」、つまり「やや、きつい」と感じるくらいが、高い効果を得られます。国立長寿研究センターでは、軽度認知障害の100人に対して、「運動+頭を使う」グループと「健康講座だけを受ける」グループに分けて半年間観察しました。すると、「運動+頭を使う」グループでは脳の萎縮を防ぐことができ、さらに記憶力が改善したという結果が出ました。2003年から大分県宇佐市安心院町で行われた認知症予防活動「安心院プロジェクト」では、デュアルタスク能力を上げる活動を定期的に行うことで、参加者の9割で脳血流量が上がり、軽度認知障害から正常に戻った、という効果が得られています。軽度認知障害から認知症に進行する率は、対照群の5分の1と、高い認知症予防効果も得られました。つまり、「運動」+「認知課題」のデュアルタスクを行うと、前頭葉の血流が増えるのです。前頭葉というのは、注意力・集中力、先ほど述べたワーキングメモリとも関連する脳の部位です。ですから、デュアルタスク・トレーニングは、認知症や軽度認知障害になった人だけではなく、健康なビジネスパーソンにとっても、効果的な脳トレといえます。たとえば、スポーツジムでウォーキングをしている人の中には、スマホで音楽を聞いたり、テレビを見たりしている人が多いのですが、さらに脳トレを考えるなら、「英会話の音声を聞く」というのもいいでしょう。最近では、歩きながら会議をする会社もあるそうですが、歩きながら考えごとをすると、非常にいいアイデアが浮かぶ、というのもよく言われることです。私はよく、ジムでウォーキングマシンで歩きながら原稿をチェックしますが、非常にはかどりますし、机に向かっていては、出てこないひらめきも得られます。皆さんの中にも、30~60分のウォーキングやジョギングを習慣にしている人は多いと思います。単に運動するだけでも脳トレ効果は得られるのですが、そこに「頭を使う」(認知課題)を加えることで、さらに「脳トレ」効果が高まるのですから、デュアルタスク・トレーニングを活用しない手はありません。書くことで脳の司令塔を活性化インプット・ミスをゼロにする方法があります。それは、話を聞いた瞬間に、それを正しく「記録」する、ということです。人が言ったことを、3秒後にその内容を再生する。繰り返して言うことは、誰でもできるはずです。しかし、30秒後になると、その内容はかなり怪しくなり、3分後になるとかなりおぼろげで、30分後にはほとんど忘れているかもしれません。人間の記憶は、あいまいで不確かなものですが、そのあいまいさは時間とともに増幅していきます。つまり、「言われた直後」は最も正しく記憶している可能性が高いので、その情報をきちんと書き残しましょう。こうした「記録」の作業をしっかりと行うことで、インプット・ミスを限りなくゼロに近づけることができるのです。「ミスを減らすために、メモを使おう!」というのは、昔から言われている方法です。しかし、その脳科学的根拠は何なのでしょうか?「メモに書いておけば、あとから見直して、確認することができる」。確かにその通りなのですが、実はもう1つメモの重要な効用があります。メモを書くことで、集中力が高まるので、その瞬間の「聞き間違え」の可能性が減ります。加えて、記憶力も高まるので、メモを見なくても、そこに書いた内容を長い期間にわたって覚えている確率が高まるのです。「メモを書くだけで集中力が高まる」と聞いて驚く方は多いかもしれません。その理由は、「書く」ことによって、脳幹の網様体賦活系(RAS)が刺激されるためです。RASとは、いうなれば、私たちの脳内における「注意の司令塔」です。RASから大脳皮質全体にノルアドレナリン系、セロトニン系、アセチルコリン系神経が投影され、注意と覚醒をコントロールしています。東海道新幹線、東北新幹線、長野新幹線の始発駅である東京駅のようなものとたとえれば、RASの重要性がおわかりいただけるでしょう。このRASは、私たちが処理する膨大な情報の中から、積極的に注意を向けるべきものと、そうでないものを区別するフィルターとしての機能を持っています。たとえば、次回の会議の日程として「6月15日、14時から」と書くことによって、RASが刺激されます。RASは、「それは重要な刺激なので、注意しなさい!」という指令を脳全体に行き届かせます。つまり、「6月15日、14時から」は、重要な情報として脳内で強調され、他の情報と比べても、より記憶に残りやすくなるのです。新聞記者が取材をするときに、相手の話を聞きながら、メモ帳にキーワードを走り書きしている姿をよく見かけます。新聞記者であれば、当然、ボイスレコーダーもまわしているでしょう。あるいは、インタビューなどでは、動画も撮影されます。これらの中で、「正確に記録する」という意味では、メモよりも音声や
動画の記録のほうが、圧倒的に優れています。それでも新聞記者は、いまだに手書きの「メモ」を重視しています。私からすると、それは、「記録する」という目的よりも、「集中力を高める」ためにやっているとしか思えません。おそらく彼らは、手を動かしているほうが脳が活性化することを経験的に知っているからこそ、デシタルでの記録が発達した今の時代も、手書きにこだわっているのではないでしょうか。このように、「書く」だけで集中力や記憶力が高まるのですから、インプット・ミスが減ります。だからこそ、「重要なこと」「間違ってはいけないこと」「忘れてはいけないこと」を見極めて、すぐにメモする癖をつけるべきなのです。緩急をつけてメモをとるセミナーや講演会で、「講師の発言を一言も聞き逃さないぞ!」という勢いでメモやノートをとっている人がいますが、「メモのしすぎ」には注意してほしいと思います。なぜなら、脳のリソースは限られているからです。ここで言うリソースとは、キャパシティ、容量のこと。脳が高い集中力を維持する時間は限られていて、コアな集中が維持できる時間は、15分と言われています。先に述べたように、「書く」ことによって、脳幹の網様体賦活系を刺激できますが、何十分も続けていると、私たちの脳は疲れてしまいます。注意、集中の司令塔である網様体賦活系が疲れる、ということは「不注意な状態」「集中力が低下した状態」になることを意味します。つまり、ものすごく「ミスしやすい状態」になる、ということです。ミスをしないために「書く」はずが、何でもかんでも「書く」ことによって、逆に「ミスしやすい状態」に陥るわけですから、これでは本末転倒です。つまり、メモをとる際には、「重要なポイントを見極めて書きとめる」ことが大切なのです。「重要なこと」というのは、日時や場所、締め切りの期限など、間違えるとあとで大変なトラブルが起きるようなことです。人の話を聞く場合、相手の言うことすべてに耳を傾け、記録し、記憶する、というのは不可能です。でも、なぜかその不可能をやろうとする人が多いように思います。無理に過剰なメモをとると、脳を必要以上に酷使するので、脳の疲労がすすみ、ミスが生じてしまいます。だからこそ、人の話を聞く場合は、緩急をつけて聞くようにしましょう。重要でない部分は聞き流すことも必要です。自分が知りたいこと、聞きたいこと、つまり、重要な部分だけ「メモをとる」ことによって、集中力は高まり、記憶に残りやすくなるのです。くれぐれも、何でもかんでもメモをとろうとするのはやめましょう。「デシタル」よりも「アナログ」を選ぶ「書く」ことで、集中力が高まり記憶に残りやすくなります。そして、ミスを減らすこともできます。セミナーの受講生などにこの話をすると、「デジタル機器への入力でも、『書く』効果が得られるのですか?」という質問が必ず出ます。メモをする場合、スマホのメモアプリを使っている人も多いでしょうから、気になるポイントなのでしょう。これについては大変興味深い研究結果があります。プリンストン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の共同研究によると、大学生を対象に、普段の講義で手書きでメモをとる学生とノートパソコンやタブレットでメモをとる学生を比較したところ、手書きでメモをとる学生のほうがよりよい成績を出しただけでなく、長い時間にわたって記憶が定着し、新しいアイデアを思いつきやすい傾向にあることが明らかになりました。その他、スタヴァンゲル大学(ノルウェー)とマルセイユ大学(仏)の共同研究では、手書きはタイピングよりも記憶に残りやすいことが示されています。この研究は、被験者を「手書き」群と「タイピング」群に分け、20文字のアルファベットの文字列を暗記してもらう、というものです。3週間後、6週間後に、被験者がその文字列をどれだけ記憶しているかテストしたところ、「手書き」群のほうが高い成績を収めました。また、手書き中とタイピング中の脳の働きをMRIでスキャンしたところ、手書き中の脳だけが、ブローカ野という言語処理に関わる部位が活性化していることも明らかになりました。つまり、タイピングでのメモ書きは、手書きの場合と比べて言語処理を行う脳の部位を活性化させない、ということになります。これらの研究結果から、「手書き」とパソコンの「タイピング」を比べると、手書きのほうが、脳を活性化させ記憶増強効果も高い、ということがわかります。結論として、「書く」場合は、デジタル機器を使うよりも、「手書き」のほうがより効果が高いと言えるのです。ミスをしないためのメモ、という意味でも、「手書き」がおすすめです。一元化してアウトプットする「Googleカレンダーを使っているので、いまさらアナログの手書きの手帳は使いにくいな」と思う人もいるでしょう。Googleカレンダーは、スマホとパソコンが連動していて、どちらで打ってもスケジュールに反映されますし、複数人でスケジュールを共有することもできて便利です。なのでデジタル派の方に、あえて「手書きに変えなさい」とは言いません。どのような方法で情報を記録してもかまいませんが、守っていただきたい鉄則が1つあります。それは、「いろいろな場所にいろいろな情報を分散してインプットしない」ことです。「プライベートはこのアプリを使おう」「仕事はこのスマホのアプリを使おう」「いや、仕事でも、プロジェクト別にカレンダーを分けたほうがいいかな……」そんなふうに、複数のカレンダーアプリを使っている人もいますが、記録場所が分散すると、それは間違いなく見逃しやミスの原因となります。紙の手帳でも、スケジュール管理ソフトでもかまいません。どれか1つに絞ることでインプットを一元化して、メモやスケジュールを管理するということが大切です。
スマホで調べた情報は記憶に残らない電車内では、多くの人がスマホを見ています。夜の電車ですと、10人中10人がスマホを見ていることもあります。さらに、最近は「歩きスマホ」をしている人も非常に多く見られます。このように1日何時間もスマホを使うと、どれだけすごい量の情報がインプットできるのでしょう?ちょっと実験をしてみましょう。ここ1週間であなたがスマホを使って得た情報を、思い出せる限り、書き出してみてください。ニュースサイトで見たニュース、ブログで読んだ記事などです。さて、何個書けましたか?おそらく、ほとんど思い出せないのではないでしょうか?せいぜい3~5個くらい思い出せればいいほうです。毎日3時間のスマホ利用で、1週間で3個しか覚えていないとすれば、7時間で1個の情報を得ていることになります。これほど効率の悪い情報収集術は他にないでしょう。しかし、あなたが1週間前に読んだ本や、見たテレビ番組、映画の内容などは、かなり詳細に記憶しているのではないでしょうか。1週間前にスマホで得た情報を、3個しか覚えていないとすれば、1カ月後には何も残らないでしょう。多くの人は、「スマホは有益な情報収集ツール」と思っていますが、よっぽど上手に使わない限りは、このように「時間の無駄使いツール」にしかならないのです。脳が疲弊する「スマホ認知症」に注意なぜ、スマホで得た情報はほとんど記憶に残らないのでしょうか。それは、私たちが情報収集を「欲張りすぎる」からです。ニュースサイトやブログなどを次から次へと読んでいく。たくさんの情報を脳内に入れて満足するでしょうが、レジ3台のコンビニに100人の客が殺到すると処理不能になるのと同様に、あなたの脳のワーキングメモリはいっぱいになってしまって、脳の中に情報が入ってこなくなってしまいます。つまり、情報収集をしているつもりでも、情報はただ右から左へと抜けていってしまい、結果的に記憶が定着しないのです。それに加えて、スマホの使いすぎは「脳疲労」の大きな原因になっています。つまり、「スマホを使えば使うほどミスをしやくすなる」というわけです。『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(奥村歩著、青春出版社)によると、30代~50代の方で、スマホの使いすぎによって「もの忘れ」「ど忘れ」につながる「スマホ認知症」が激増しているそうです。「スマホ認知症」とは、過剰な情報インプットによって、脳内の情報をうまく取り出せない状態に陥り、脳内が「情報のごみ溜め」のような状態になることです。結果として、記憶力の低下に加えて、思考力、判断力、集中力、感情コントロール能力、そしてワーキングメモリなど、多くの脳機能が低下します。さらに、スマホで検索すると何でもわかるので、自分で考えることがなくなり、脳の記憶に頼らなくなってしまう。つまり、脳の「考える機能」や「記憶する機能」が退化してしまうのです。本書の冒頭で、「誰でも何歳からでも脳は鍛えられる」と書きましたが、スマホの使いすぎは、脳を鍛えるどころではなく、まったく逆に「脳を退化」させてしまう危険性があります。実際、30代~50代で「スマホ認知症」になってしまった人は、20年後、30年後にアルツハイマー病などの本物の認知症を発症する可能性が高いのです。このように、スマホの使いすぎは「集中力を低下させる」「ワーキングメモリを低下させる」「脳を疲労させる」「認知症の原因になる」といったさまざまな悪い状況を引き起こし、結果としてミスの4大原因、すべてに対して悪影響を及ぼします。スマホの使いすぎで頭が悪くなる仙台市教育委員会と東北大学による「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」によると、スマホの使用時間が1時間増えるごとに、数学、算数の成績が約5点減るという結果が出ています。こうしたデータを見ると、「スマホを使う時間が長くなると相対的に勉強時間が減るから成績が下がるのではないか」という反論が出ますが、そうではありません。この研究では、勉強時間を「30分未満」「30分以上~2時間未満」「2時間以上」の3グループに分けて分析していますが、勉強時間が同じそれぞれのグループにおいて、スマホの使用時間が増えるほど成績の低下が認められました。また、同研究ではLINEと成績の関係を調べていますが、LINEを使用するとより成績の低下は深刻である、という結果が出ています。興味深いのは、勉強を2時間以上しているグループでも、LINEを4時間以上すると成績が著しく下がる、ということです。勉強時間2時間以上、LINE4時間以上の生徒の点数が約49点であるのに対して、勉強時間30分未満でLINEをしない生徒の平均は59点。LINEをしない生徒は、勉強時間が短いにもかかわらず、10点も高い成績を出したのです。要するに、スマホやSNSを長時間使用するといくら勉強していても成績が下がる。スマホやSNSの長時間の使用が、せっかくの勉強した効果を無効化することが示されたのです。この研究の監修者でもあり、脳トレの第一人者、東北大学の川島隆太教授は、テレビ視聴やテレビゲームを長時間行うと、そののちの30分~1時間、前頭葉が機能低下した状態が続き、それと同様の状態が、スマホの長時間使用でも起こり得る、と述べています。前頭葉の機能が低下した状態で必死に勉強しても、その間の学習効果が得られない、ということが、この実験結果からわかります。時間を決めて情報を集める「スマホは脳に悪いので使ってはいけない!」とは言いません。先の「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」で、スマホを「まったく使わない生徒」と「1時間未満使う生徒」を比べたところ、なんと「1時間未満使う生徒」のほうが成績が2~5点よかったそうです。つまりスマホは、時間を決めて上手に活用すれば、時間短縮や仕事の効率化にも役立つものなのです。利用時間としては、「1時間以下」が1つの目安になります。
「メモ魔」ほど理解が浅い私は、1カ月に数回、セミナーや講演会を開催しています。その受講生を見ていると、ものすごい勢いでメモをとっている方がいます。私の話を「一言も聞き逃さないぞ!」と言わんばかりの雰囲気で、すごい勢いでメモをとっています。セミナーの最後の質疑応答セッションで、誰からも質問の手が挙がらなかったので、私はその「猛烈メモ郎」さんを指名して、「質問はありませんか?」と直接、聞いてみました。あれほど必死に、そして詳細にメモをとっていたんだから、さぞかし「深い質問」をしてくれるのではないかと思ったのです。「猛烈メモ郎」さんは、言いました。「特にありません」ガクッ。あれだけ必死にメモしていたのに、質問の1つもないとは……。質問がないということは、「学びがなかった」のと同じです。学びがあれば、それに伴い疑問や質問が出てくるはずです。こういった人は、どこの会場にもいらっしゃいますが、懇親会などで直接話してみると、どなたもセミナー内容の理解度が低いのです。あなたの会社にも、会議で一言一句聞き逃すまいと、必死にメモをとっている人がいませんか?そうした人に限って、ポイントのズレた発言をしたり、言葉尻に引っかかって、上司の真意を理解していなかったりするものです。インプットしたはずなのに、記憶されていない。インプットしたはずなのに、間違って理解している。理解が表面的で、本質的な理解ができていない。これは、インプット・ミスの、よくあるパターンです。インプットは欲張らないなぜ、メモをたくさんとるほど、学びが少なく、理解も浅くなってしまうのでしよう?それは、「書くこと」に没頭しているからです。つまり、脳のキャパシティのほとんどを、「書く」ことで消費しているために、「理解する」「考える」に費やす余力が残っていないのです。ただ、講義内容を「書く」だけの、筆記マシンになっているということです。驚かれるかもしれませんが、「聞き漏らさないようすべてをメモしよう」と学びを欲張れば欲張るほど、学びは少なくなってしまうのです。そう、学びは、欲張らないほうがいいのです。私は、これを「舌切り雀勉強法」と呼んでいます。皆さん、『舌切り雀』という昔話をご存知ですか?昔々、あるところに、優しいおじいさんと意地悪なおばあさんがいました。ある日、ケガをした雀をおじいさんが助けたのですが、それに嫉妬したおばあさんが腹いせに雀の舌を切ってしまい、外に逃がしてしまったのです。おじいさんが山に雀を探しに行くと、雀のお宿があり、おじいさんは歓迎され、お土産に2つのつづら(かごの一種)を差し出されました。おじいさんは、自分は年寄りだから、と小さいつづらだけ持って帰りました。するとその中には財宝がたくさん入っていました。それを聞いた強欲なおばあさんは、雀のお宿に押し入り、大きなつづらを持って帰ります。開けると、中から怪物が出てきました……。そんなお話です。「強欲な人は、バチがあたる」これがこの物語の教訓なのですが、情報のインプットにも同じことが言えるのです。たとえば、コンビニに一度に100人のお客さんが押し寄せたら、レジ4台態勢で処理しても、レジに人が並びきれなくなって、店内はパニック状態になります。人間の脳は、一度に処理できる情報量に限りがあります。それを超えると、脳の交通渋滞が起きます。情報がまったく流れなくなるのです。「すべてを聞き逃さないぞ!」と意気込むほどに、脳の交通渋滞は激しくなり、何も学べない状態に陥ります。そのときに聞いた内容は頭に入ってこないので、重要なポイントでも「聞き漏らし」、や「あとから覚えていない」ということが起こり、深刻なインプット・ミスが発生するのです。くれぐれも、インプットは欲張らないようにしましょう。「3」を意識して学びを最大化欲張りすぎると、結局何も学べない、ということをお話ししました。では、どのくらい「欲張らない」のが、ベストなのでしょう?セミナー、講演で私がいつも使う、アンケート用紙があります。その一番上の欄には「今日、学びたいこと3つお書きください」と書かれています。これを、セミナー、講演の最初に、1分ほど時間をとって書き込んでもらうのですが、そうすると学びの効率が最大化するのです。アンケートの次の項目には、「本日の気付きを3つお書きください」と続きます。参加者のほとんどか「3つの気付き」を、しっかりとした自分の言葉で書いてくださいます。私が「3ポイントアンケート」を使い始める前は、「今日、学びたいことをお書きください」「本日の気付きをお書きください」という表現を使っていたのですが、ちっとも書いてくれないし、アンケート自体の提出率も低い。そこでなんとか、もっと書いてもらいやすいアンケートの形式はないのかということで、さまざまな試行錯誤の上で完成したのが、この「3ポイントアンケート」なのです。セミナーや講演は、「3つだけ、気付きを持って帰る」という姿勢で聞くと、学びは最大化します。たとえば、私の『神・時間術』(大和書房)出版記念講演会に参加されたAさんは、
1もっと、時間を効率的に使うヒントを知りたい2時間短縮だけではなく、「仕事の質」もアップさせる方法を知りたい3家族と過ごす時間を増やしたいと、3つの「目的」を書きました。このように、「3つの目的」を書いておくと、講演の中で、話がこの自分の「目的」にマッチした内容になったときに、「これは、自分が知りたかった内容だ!」と、集中モードに入り、しっかりとその内容を理解、記憶することができるのです。最終的に、「3つ」の気付きを確実に持って帰ることができます。2時間、3時間のセミナーや講演で、最初から最後まで集中力をフルで維持することは不可能です。「一言一句聞き逃さない!」という姿勢は、「最初から最後まで、集中力マックスで聞くぞ!」ということと同じです。それは最初から無理な話で、「全部学ぼう!」と思うほど、後半の最も重要なポイントにさしかかったときに、脳は疲労し、集中力が低下して、肝心なポイントを聞き逃すハメになります。すでにお伝えしたように、脳内のレジは3台です。つまり、それは人間にとって、同時に考えるものは3つが精一杯、ということです。それ以上のことに注意を向けると、ワーキングメモリはオーバーフローを起こしてしまい、「ミス」が発生します。ですから、「3つのポイント」だけを念頭に置きながら話を聞いていくのが、脳科学的にも理にかなった方法と言えます。今日の話から「全部持って帰ろう」「10個持って帰ろう」と欲張るほどに、脳は機能停止を起こします。「3つだけ、気付きを持って帰る」。これが、学びの効率を最大化する、脳がインプットの渋滞を起こさない「聞き漏らし」「インプット・ミス」を防ぐ勉強法と言えます。資格試験で脳が劇的に冴えるビジネスパーソンが、脳をフル回転させる習慣を身につけたり、ワーキングメモリや記憶力、集中力を鍛えたりしたいなら、強くおすすめしたいのが「資格をとる」ことです。実は私は、この3年間で「ウイスキー検定2級」「ウイスキー検定1級」「ウイスキー検定シングルモルト級」「ウイスキー・エキスパート」「ウイスキー・プロフェッショナル」という5つのウイスキーの試験に合格しました。近年はウイスキーブームということもあり、また以前からウイスキーが好きだったこともあって、最初は興味半分の受験でしたが、勉強して合格すると楽しくなってしまい、どんどん難しい試験に挑戦し、結果としてウイスキー資格の最難関である「ウイスキー・プロフェッショナル」にまで合格しました。「ウイスキー・プロフェッショナル」とは、ウイスキーのソムリエのようなものです。筆記だけではなく、テイスティングの試験もあり、日本で200人ちょっとしか合格者がいない、という難しい資格です。「ウイスキー・プロフェッショナル」を受験したとき、試験勉強は1カ月前から始めて、1週間前になると1日6時間、最後の3日間は1日あたり12時間勉強しました。暗記ものの勉強を、1日12時間もしたのは、大学を卒業して以来初めて。実に、25年ぶりのことでした。ウイスキーの資格をとって役に立つのか、というと、直接的には役に立っていません(笑)。しかし、数年にわたって、これだけの勉強をしてきたことで、自分の中で大きな変化が現れました。それは、「頭がよくなった!」ということです。IQ検査をしたわけではないので、あくまでも実感値ではありますが、試験勉強をする前と比べて、明らかに頭の回転が速くなり、集中力の持続時間も以前より長くなり、頭がキレキレの状態となって現在に至ります。「本当かな?」と思う人もいるでしょうが、私の自己成長は、私の本の売上が証明しています。私はそれまで20冊、本を執筆していましたが、最大の売上は3万部でした。2014年の12月にウイスキー検定2級を受験。そののちに執筆を開始した『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)は、自己最高を大幅に上回る15万部の大ベストセラーとなりました。さらに、そののちに出版された『脳を最適化すれば能力は2倍になる』(文響社)、『神・時間術』(大和書房)と、ベストセラーを連発できるようになったのです。私の『読んだら忘れない読書術』以後の本と、それ以前の本を読み比べていただければ一目瞭然ですが、文章のレベル、本としての完成度がグンと高まっています。この短期間の飛躍的な自己成長を自分なりに分析すると、ここ数年、ウイスキーの資格試験のために、定期的に猛烈に勉強していたことが、その大きな要因ではないか、と思うのです。それによって、集中力も高まり、頭がキレキレの状態で執筆できるようになり、結果としてわかりやすく、内容も深い本を書けるようになり、ベストセラーを連発できています。正直、以前の私は検定とか資格試験を、バカにしているところがありました。「検定といっても、主催者が儲かるだけなんじゃないの?」「留学する予定もないのにTOEICの試験を受けてどうするの?」といった調子でした。しかし、いざ自分で資格試験を受けてみると、その「資格」そのものはまったく活用できなくても、試験勉強による脳トレ効果によって、脳が劇的に活性化することを実感したのです。最近では、検定や資格試験の受験を、いろいろなところでおすすめしているほどです。特に、40代、50代、あるいはそれ以上の年代で、記憶力や集中力に衰えを感じる方に、検定や資格試験の受験といった、「大人の勉強」を強くおすすめします。暗記で認知症リスクが減少するある研究では、大人の勉強はワーキングメモリのトレーニングになることを報告しています。中でも特に語学の勉強などは、覚えることが非常に多く、単語の暗記などでは、ワーキングメモリを酷使しますから、格好のワーキングメモリ・トレーニングになります。40歳を越えると、脳の衰えを自覚します。ど忘れ、もの忘れなど記憶力の低下。あるいは、集中力の低下。脳の機能低下は、何もしないとどんどん進行してしまいます。しかし、記憶力や集中力が高まる「大人の勉強」をすれば、それらを防ぐことができるのです。「受験」という「制限時間」がつくことで、「受験日までに集中して勉強しなくてはいけない」というプレッシャーが、集中力を否応なしに高めます。この「大人の勉強」の効果は、他に脳科学的にも多くの根拠があります。認知症については昔から多くの研究がされていますが、認知症の危険因子の研究で、世界的に見ても「学校教育を受けた年数が短いほど、アルツハイマー病や、その他の認知症のリスクが増大する」という研究結果が数多く出ています。逆を言えば、「教育を受けた年数が長いほど、認知症のリスクは減少す
る」ということです。これは、「認知的予備能力」という考え方で説明されています。脳内で認知症に関連する変化(神経細胞の死)が起こった場合でも、認知的予備能力が高いと、脳がニューロン間の代替経路を使用することができるからです。今までの人生で蓄えてきた情報、知識、経験が豊富であれば、脳が多少ダメージを受けても、過去の経験値で補うことができるので、認知症を発症しにくいのです。「自分は高卒だから、認知症になりやすい」と落ち込む人もいるでしょうが、その心配はありません。教育といっても、学校教育に限ったものではありません。社会人になってから「大人の勉強」を通して、情報、知識、経験を増やすことでも、「認知的予備能力」は高まります。678人の修道女の人生と脳を対象に、老化を多角的に研究した「ナン・スタディ」という研究があります。この研究では、修道女(nun、ナン)たちの自叙伝にみられる青年期における語彙の豊富さと、60年後のアルツハイマー病の発生には密接な関係があると結論付けられています。また、100歳を超えたある修道女の脳を解剖して、病理的に調べたところ、アルツハイマー病に特徴的な病理所見が現れていたにもかかわらず、認知症の症状がまったく現れなかったケースも報告されています。彼女は生前、非常に知的能力が高かったのです。このことからもわかるように、大人になってもきちんと勉強して、「認知的予備能力」を高めておけば、100歳を超えても、脳をイキイキとした状態で保つことができるのです。近年の検定ブームで、さまざまな資格や検定が世の中にあふれています。お酒だけでも、ウイスキーからビール、ワイン、日本酒、焼酎、ラム、テキーラ。「食」に関するもので言うと、和食、パン、チーズ、デザート、野菜、フルーツ、寿司、カレーなど。その他、アロマやダイエット、漢字、英語を始めとした語学の試験など、すべて合わせると数百はあるでしょう。自分の趣味や興味の延長、「好き」「楽しい」と結びつけて勉強することで、楽しく継続しながら、記憶力、集中力を鍛えることができるのです。「大人の勉強」、是非、あなたもチャレンジしてほしいと思います。
コメント