「自己洞察力」を鍛えてミスをゼロにする根本的にミスをなくす方法「PART1」では「入力」、「PART2」では「出力」という切り口で、実際に仕事や勉強、作業の実践の場において、ミスを減らすためにすべき具体的なノウハウについて説明してきました。ここまでの内容を実践した方は、次のように言うかもしれません。「いろいろとやったけど、まだ仕事のミスはなくならない」「入力」や「出力」の場面でミスを減らすことは、即効性があり、今日から効果を発揮できる実践的なノウハウなのですが、「もともとミスが多い人」の場合は、やはり少しでも気を抜くとミスを犯してしまいます。こうした「ミス体質」から脱却することは、簡単ではありません。「入力」と「出力」レベルでのコントロールは、医療で言うところの「対症療法」です。即効性はありますが、根本的な原因に働きかける治療ではありません。本章、「思考」でお伝えするのは、「ミス体質」とも言える、ミスしやすい思考パターンを根本から治療する、「根治療法」ともいうべき方法です。「ミスをしない思考」を身につければ、ミスをする確率が極限まで減り、仮にミスをしたとしても、簡単にリカバリーできます。すると、自分自身に圧倒的な自信を持つことができるようになり、ミスや失敗も怖れないようになります。「ミスをしない思考」は、「一生ものの力」としてあなたの頼もしい味方となるのです。「最近ミスが増えてきた」人ではなく、「以前からミスが多い」という方は、是非とも本章の内容を実践して、「ミスをしない思考」を徹底的に身につけてほしいと思います。「自分の状態に気付く思考」が鍵を握るイントロダクションにおいて、ミスが起きる4つの原因について説明しました。「ワーキングメモリの低下」「集中力の低下」「脳疲労」「脳の老化」の4つです。この4つの原因をすべて取り除くことができれば、論理上、ミスをする確率は「ほぼゼロ」になると言っていいでしょう。そして、それは可能です。(1)自分のワーキングメモリは高いのか、低いのか?(2)今の自分の集中力は、高いのか、低いのか?(3)今の自分の脳は疲れていないか?(4)最近、脳の老化は進んでいないか?以上の4つのポイントを自分で正しく評価できれば、「ミスしやすい状況」を回避することができます。「最近、睡眠不足で疲れているし、今日もぶっ続けで仕事をしてかなりお疲れモードになっている。だから、1円でも間違えてはいけない重要な決算書のチェックを今、やるのは危険だな。今日はゆっくりと睡眠をとって、明日の午前中に終わらせよう」あるいは、「今は、3時間もぶっ続けで作業して集中力が落ちているから、書類の最終チェックは少し休憩して、弁当を食べてからにしよう」といったように、自分が「ミスしやすい危険な状況にいる」ことを正確に把握できれば、その状況を避けることができるのです。このように自分をモニタリングする能力を、私は「自己洞察力」と呼びます。心理学では、自分自身の心の働きや状態を省みることを「内省」と言います。自分自身を省みる能力が高い人のことを「内省傾向が高い」と言ったりします。ちなみに、メンタル疾患になる方の多くは「内省傾向の低い」方です。「内省」という言葉は一般的ではなく、わかりにくいと思いますので、ここでは「自己洞察力」という言葉を使います。「内省」と言うと、どうしても「心」や「メンタル面」について省みる能力を指しますので、ここで言う「自己洞察力」は、「心」と「体」の両方をモニタリングする能力、と理解してください。「ミスをしない思考」は、次の3つのステップで行います。【ステップ1】自己洞察「今の自分は元気なのか?疲れているのか?」「今の自分の集中力は高いのか?低いのか?」「今の自分のコンディションは、仕事をするのにベストな状態か?」「今、起きうるミスや失敗には、どのようなものがあるのか?」【ステップ2】原因究明「今回のミスはなぜ起きてしまったのか?その原因は何なのか?」「原因は『集中力低下』『ワーキングメモリの低下』『脳疲労』『脳の老化』のどれか?」「もし、今、疲れているとすれば、何が原因なのか?」
【ステップ3】対策「もし、疲れているなら、回復するためにできることは何か?」「起こりそうなミスを防ぐために、今、何ができるのか?」「万が一そのミスや失敗が起きた場合には、どのように対処すべきか?」「被害やダメージを減らすために、今できることは何か?」「今回のミスを二度と起こさないために、今後、何を改善するべきなのか?」以上が「ミスをしない思考」のステップです。このような自問自答が常に頭の中でできるようになると、ミスが怖くなくなります。なぜなら、ミスはほとんど起こりませんし、もし起きたとしても事前に決めた対処法にしたがって、粛々と処理すればよいだけなので。さて、この「ミスをしない思考」の流れ作業を適切にこなすために必須の能力が、「自己洞察力」ということになります。自己洞察がきちんとできないと「自分は疲れていないか?」「集中力は高いか?」といった「ミスをしない思考」のステップの最初の一歩でつまずいてしまうからです。最初の「自己洞察」が間違ってしまうと、そこから先の「原因究明」も「対策」も、すべて間違ってしまいます。「自分の状態は、自分が一番わかっている」は大間違い患者さんに、「自分の精神状態や体調を把握しましょう」と言うと、「自分の状態は、自分が一番よくわかっているから大丈夫です」という返事が返ってきます。「自分の状態は、自分が一番よくわかっている」というのは完全な思い込みです。自分の心と体の状態を、自分で正しく把握するのは、不可能です。もし、自分の心と体の状態を正しく把握できるのなら、「うつ病」になることなどないでしょう。「健康」から「脳疲労」に一歩足を踏み入れた瞬間、「ああ、少し疲れているな」と休養を意識する。たったそれだけのことで、「脳疲労」が進行して「うつ病」に突入することを防ぐことができます。私が出会った患者さんの例で言うと、初診で奥さんと共にやってきた40代の男性Aさんがいます。Aさんと1時間ほど面接したところ、意欲低下、抑うつ気分など典型的なうつ症状を示し、程度で言えば中等度~重度。まだ入院の必要はないものの、このまま放置すると入院も必要なレベルになりそうです。状態としてはよくありませんでした。私は言いました。「典型的なうつ症状が出ています。仕事を続けるのは難しいので、しばらく会社を休んで療養しましょう。1カ月の自宅療養の診断書を書きますね」。すると、Aさんは言いました。「いえいえ、大丈夫です。明日も仕事に行きますので、診断書はいりません」。「入院の一歩手前」の精神状態を、Aさん自身は「まだ大丈夫」と自覚していたのです。また、職場でこんな話もよくあります。B課長は、非常に几帳面だったはずの部下のCさんが、最近、書類の書き間違えが多いので心配していました。そんな矢先に、Cさんは取引先との重要な会議をすっぽかしてしまいました。B課長はCさんを呼んでこう言いました。「会議をすっぽかすって、どういうことだ!先方はカンカンになって、契約を解消するって言っているぞ。最近、書類のミスも多いし、少し疲れてるんじゃないか?」Cさんは言いました。「大丈夫です。全然疲れてなんかいません。ちょっとうっかりしていただけです。今後は、絶対に同じようなミスはしません」こうしたCさんの状態をどう見るべきでしょう。私の診断ですと、重度の「脳疲労」か、軽度の「うつ病」を疑います。精神科で一度診察をしてもらうべきレベルです。しかし、本人の自覚症状は「大丈夫」なのです。なんというギャップでしょう。明らかに、自己洞察力に不具合が生じています。このように「大丈夫」という方は、たいていの場合、「大丈夫」じゃないことがほとんどです。精神科に来る患者さんのほとんどは、実際の症状よりも、「はるかに軽い状態」だと思っています。全然大丈夫じゃない患者さんが、「大丈夫です。入院の必要はありません」「大丈夫です。通院も薬も必要ありません」と平気な顔をして言います。つまり、自己洞察力の低い人は、自分が「無理」をしていることにまったく気付いていないのです。ですから、深刻な状態に陥ってもそれに気付かず、メンタル疾患になってもまったく気付かない。さらに、メンタル疾患になることで、自己洞察力はより一層低下しますから、余計に自己洞察できなくなる、という悪循環に陥ってしまいます。「自分の状態くらい、自分で判断できます」と言う方もいますが、それもまた大きな間違いです。ある研究では、実際の「睡眠時間」と本人が「眠れている」かどうかの自覚症状との相関を調べました。そうすると、睡眠時間が不足している人ほど「眠れている」と答えたそうです。このように、睡眠時間が不足すると、自己洞察力に不具合が生じます。自己洞察力が正常に機能しなくなってしまっているために、睡眠時間が明らかに足りていなくても、自分自身に対して「眠れている」「睡眠不足にはなっていない」と誤った判断をしてしまうのです。「絶好調」や「健康」の状態においては、「自分自身の状態」をある程度は正しく把握できます。しかし、「脳疲労」に一歩足を踏み入れた瞬間、自己洞察力が低下するので、自分が疲れているかどうかもわからなくなります。ブラック企業に勤めて、睡眠不足と疲労の蓄積で「うつ病」の状態に足を踏み入れても、本人は「仕事が忙しいから」くらいの認識で、その状態を放置してしまいます。そうなると、結果として「うつ病」はどんどん悪化して、最悪「自殺」という悲惨な結果になることもありえます。そうならないためには、日頃から「自己洞察力」を十分に高めておくことが必要です。そうすれば、調子が悪くなっても、自分の状態を客観的に観察できます。「疲れ気味」「睡眠不足」「あまり集中できていない」「最近ミスが増えている」といった、脳疲労のごく初期の症状を自分自身で気付き、いち早く対応できるようになるのです。「疲れています」と言える人は健康前項の全然大丈夫な状態ではないのに、自分は「大丈夫です」と言ったAさんとCさんの心理状態を、心理学用語では「否認」と呼びます。否認とは、誰かに正しいことを言われたときに、思わず否定したくなる心の働きのことです。本当は、自分は疲れているにもかかわらず、「それを自分で認めたくない」「人に知られたくない」という心理から、思わず「全否定」してしまいます。これが否認です。たとえば、いろいろな検査をした結果、主治医から「あなたは、がんです」と告知された患者さんが、「私はがんではありません。この病院は信頼できないの
で、もっと大きな病院で調べてもらいます」と言うのも、否認の心理の表れです。心の病気や体の病気の状態に陥ると、モニタリング能力が正常に機能しなくなります。こうして、正しい自己洞察ができない状態となるのです。では、もし、AさんやCさんと同じ状況が自己洞察力が高いDさんに起こったとしたら、どうでしょう?B課長「会議をすっぽかすって、どういうことだ!先方はカンカンになって、契約を解消するって言っているぞ。最近、書類のミスも多いし、少し疲れてるんじゃないか?」Dさん「大変申しわけありません。最近、残業続きで睡眠時間が足りておらず、スケジュール帳に記入ミスをしていました。今後は、同様のミスはしないよう注意します」自己洞察の高いDさんの場合は、状況を否認するのではなく、「自分が疲れている」ということを認めるのです。「大丈夫」を連発する人は、まったく「大丈夫」ではなく、「疲れています」と素直に認められる人が健康な人なのです。ここからは、「自己洞察力を高める思考術」を筆頭に「原因探求思考」「確認思考」「数値化思考」など、「ミスをしない思考」を手に入れるための実践法を紹介していきます。書くことで自分の状態を客観視する自己洞察力を高めることの重要性は、ご理解いただけたと思います。では、自己洞察力を高めるには、具体的に何をすればいいのか?ずばり、日記を書くこと。これが最も効果的だと思います。「日記を毎日つけるなんて大変そう……」と思うかもしれません。そんな皆さんに、3分でできる日記療法をご紹介します。今日あった出来事の中から「辛かったこと」と「楽しかった」ことを3つずつ書いてください。ただそれだけです。「辛かったこと」というのは、「苦しかったこと」「残念だったこと」「不快だったこと」「仕事での失敗」など、ネガティブな感情を引き起こした出来事のことです。他方で、「楽しかったこと」というのは、「楽しかったこと」「うれしかったこと」「喜び」「楽しみ」「笑い」「仕事での成功」など、ポジティブな感情を引き起こした出来事のことです。たとえば、次のようなものです。【辛かったこと】・朝の電車がいつもより混んでいた・書類のミスで上司に叱られた・仕事の調子が上がらなかった【楽しかったこと】・ランチで初めて入ったラーメン屋があたりだった・新規の契約を受注できた・レンタルで借りたDVDの映画が意外と面白かったこのように「苦しかったこと」を先に書いて、「楽しかったこと」をあとに書いてください。書き終わったときに、「楽しかったこと」のポジティブで明るい気分でワークを終了するためです。「苦しかったこと」をあとに書くと、ワーク終了後もネガティブな感情が続いてしまいます。最初は、1項目1行程度の簡単な記録でかまいません。1個1行ですから、「辛かったこと」3個と「楽しかった」3個の6行でいいのです。長く書くよりも、毎日続けることのほうが大切です。今日1日を振り返り、どんな出来事があったのかを思い出し、自分自身と向き合う習慣。この作業が、自己洞察力を鍛えるのです。最初のうちは、「辛かったこと」は3つ書けても、「楽しかったこと」がなかなか出てこないかもしれません。そうした場合にも、どんなささいなことでもいいので、「楽しかったこと」は必ず3つ、絞り出してでも書き出してください。「ぐっすり眠れた」「朝の目覚めが爽やかだった」といったことでいいのです。自分の体調やメンタルの状態をチェックして、「調子がよかった」のか「調子が悪かった」のかを思い出すと、いろいろ書けると思います。「苦しかったこと」は、無理して3つ書く必要はありません。なければ、「なし」でもいいです。「楽しかったこと」は、多ければ多いほどいいので、5個、10個と、できるだけたくさん書くようにしてください。最初は書けなくても、続けていくとたくさん書けるようになっていきます。たくさん書きたい場合には、1項目1行にこだわらず、5行でも10行でも、具体的に好きなだけ書いていただいてかまいません。患者さんに、この「3分間日記療法」をしてもらうと、最初の頃は全然書けない方がほとんどです。あるいは、「苦しかったこと」はたくさんあっても、「楽しかったこと」は1つもなかった、という方が多く見受けられます。しかし、1カ月、2カ月と続けていくと、次第にたくさん書けるようになります。たくさん書きたい場合は、好きなだけ長く書いてもらいます。不思議なことに、最初は1行も書けなかった患者さんが、3~6カ月くらい続けると、1日1ページ書けるようになります。自分自身と向かい合い、自分の思考、感情と向き合うようになると、書きたいことがたくさん出てくるようになります。1日1ページ書けるようになると、病気の方も、すごい勢いで治っていきます。これは書くことで、自己洞察力が飛躍的に向上し、自分の心の状態、体の状態を正確に把握できるようになるためです。
日記を毎日つけていると、今の自分の調子が「上向き」なのか「下向き」なのかが、明確にわかります。自分の思考や感情、「痛い」とか「だるい」とか「苦しい」といった、漠然とした体感も、「文字」として可視化できることで、自分に起きている「変化」に誰でも気付けるようになるのです。メンタル面の症状が改善してきている、病気が治っている、と自覚できるようになると、そこからの治りはものすごく速くなります。いかがでしょうか。最初のうちは「めんどくさいな」と思うかもしれませんが、この「3分間日記療法」は、自己洞察力を向上させる最も効果的な方法です。自己洞察力が向上すると同時に、思考がポジティブな方向へに向かいます。自分の人生の中にたくさんの「楽しい」を発見できるようになり、考え方も行動も前向きに変化していきます。短文日記で脳トレしようこの「3分間日記療法」は、続ければ必ず効果が出るのですが、「日記を続けるのは難しい」と言う方は多いです。そんな人は、FacebookなどのSNSを活用しましょう。1日の終わりに、今日の出来事から印象的な出来事を日記風にまとめて書く。最初は200文字程度の短文でスタートすれば十分です。慣れてくると、400文字以上書けるようになり、日記をつけるのが楽しくてやめられなくなります。Facebookの場合、あなたの友達から「いいね!」やコメントがつくので、モチベーションが維持しやすいです。周りの人たちから励まされることで、楽しみながら、日記を書き続けることができます。日記は「楽しいこと」を中心に書いたほうがいいです。悪口や誹謗中傷はやめましょう。ストレス発散のために、どうしても悪口を書きたいのなら、誰も読まない「ノート」に手書きで書くといいでしょう。SNSは誰が読んでいるかわからないので、基本ポジティブな内容を心がけることです。それが、「ポジティブ思考」のトレーニングにもなります。自分が思っていること、感じていることを言語化する。このことが、自己洞察力をアップさせることにもつながるので、必ずしも「日記」でなくてもかまいません。「自分の考えを書く」ことで、同様の効果が得られます。たとえば、私の場合は、本を読めば書評を書き、映画を観れば映画の感想をFacebookに投稿します。その本を読んで自分がどう思ったか、その映画を観て自分がどう感じたのか。しっかりと自分と向き合って考えをめぐらさないと、文章は出てきません。同様に、書評や映画評を書くというのも、格好の自己洞察力トレーニングになります。「5」を越えたら「チェックリスト」化私は、6年前から加圧トレーニングをしていますが、ジムに通い始めた当初、ときどき、「忘れ物」をしていました。なぜならば、ジムに行くときは、「トレーニングシューズ」「Tシャツ」「短パン」「運動用ソックス」「スポーツタオル」「着替え用の下着」「シャワーセット(シャンプー、リンス、せっけん)」「バスタオル」「水(ペットボトル)」「サプリメント」の10品をすべて持っていく必要があるからです。トレーニングの予約時間が迫り、あわてて出かけると、ついつい何か1品、忘れてしまいます。「トレーニングシューズ」「Tシャツ」「短パン」などはレンタルもしてくれますが、1品500円もかかってしまいます。この忘れ物をゼロにする方法はないか、と考えたすえに、次のような「持ち物チェックリスト」を作って、壁に貼り出す方法にたどりつきました。「トレーニング持ち物チェックリスト」□1トレーニングシューズ□2Tシャツ□3短パン□4運動用ソックス□5スポーツタオル□6着替え用の下着□7シャワーセット□8バスタオル□9水(ペットボトル)□10サプリメントジムに行く前に、この「持ち物チェックリスト」の1番から順番に、デイパックに入っているかどうか必ず確認するようにしたところ、「忘れ物」が完全になくなりました。なぜなら、「持ち物チェックリスト」に、必要な持ち物はすべて含まれており、それを確実にチェックすれば、「うっかり忘れる」ということは絶対にありえないからです。先ほど述べたように、人間の脳は、「3個」までの物品名は確実に記憶できますが、5個を越えると、かなりあやふやになってきます。この場合、「10個」もあるので、記憶に頼ると、ワーキングメモリのキャパシティから考えて、ミスが起きるのは必然と言えます。
そのため、「持ち物」や「準備する物品」などが、5個を超える場合は、記憶に頼らずすべて紙に書き出して記録しましょう。チェックリストを作ることです。とはいえ、最悪の場合「チェックするのを忘れる」こともありえますから、部屋の目立つ場所、壁などに「チェックリスト」を貼り出しておくのもいいでしょう。そうすれば、「忘れ物」をする確率は限りなくゼロに近づきます。私はセミナーや講演会を月に数回、実施しています。ほとんどは、招待型セミナーではなく、自社開催のセミナーなので、セミナー開催のための物品を自分で持参しなくてはいけません。必要な物品は、筆記用具、ポインター、参加者リスト、アンケート用紙、配布用チラシ、おつり(小銭)、領収書、名刺、テーブルタップ、延長コードなど、25品にも及びます。最初の頃は、記憶だけを頼りに準備していたので、毎回、必ず1品くらい忘れ物をしていました。そこで私は、「セミナー持ち物リスト」を作成し、セミナーの当日、家を出る前に、印刷した「セミナー持ち物リスト」を1項目ずつチェックして、準備されているものはボールペンでチェックを入れる、という確認作業を行うようにしました。そうすると、やはり「忘れ物」をすることが完全になくなったのです。25種類もの物品を、「持ち物リスト」を作らずに、自分の記憶だけに頼るというのは無理な話です。あなたの仕事、ビジネス絡みで何か準備をする場合でも、こうした「チェックリスト」を作らずに、空で準備している、ということはありませんか?5個を超える場合は、必ずリスト化して、直前に確認(チェック)作業を行う。これが習慣化できれば、確実に「忘れ物」をゼロにすることが可能になります。「ミス2回」がチェックリスト作成のサインこのチェックリスト活用法は、「忘れ物」に限らず、すべての業務に応用できます。たとえば、あなたが会社で「納品」の担当で、「納品」に関してのミスを何度か繰り返した場合、ミスしやすいポイントをリスト化して自分専用の「納品チェックリスト」を作るのです。「納品」前には、必ずそのチェックリストで、ひとつひとつボールペンでチェックしてから、商品を発送することを習慣化すれば、「納品」に関するミスを限りなく減らすことができます。もし、同じ作業や1つの仕事に関して、似たようなミスを2度犯したとすれば、それは相当に「ミスしやすい仕事」「ミスしやすい業務」と言えるでしょう。3度目のミスを引き起こさないためにも、「ミスを2回した段階で自分用チェックリストを作る」ことをルールにしましょう。自分の記憶に頼ったり、なんとなく確認したつもりになっているからこそ、重要な見落としや、ミスを引き起こすのです。それらを防止するには、まずチェックリストを作成し、それを印刷。そして、1項目ずつ確認し、OKであればチェックボックスにボールペンでチェックを入れる、という「紙」と「書く」を組み合わせて手作業で確認をすれば、ミスをする確率をほぼゼロにすることができます。「ミスしたらどうしよう」を取り除く本書を手にした方のほとんどは、「ミスしたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」といった不安を抱えていると思います。それを解消するために、本書を読んでいるはずです。不安とは、脳科学的に言えば「扁桃体の興奮」です。慢性的な扁桃体の興奮は、脳を疲弊させて、注意力や集中力を低下させます。つまり、「ミスしたらどうしよう」といつも考えることが、ミスを引き起こす最大の原因になるのです。では、どうしたら「ミスしたらどうしよう」という雑念を消すことができるのでしょう。その方法は、簡単です。「ミスしたらどうしよう?」を「ミスしたらこうしよう」に置き換えればいいのです。「ミスしたらどうしよう?」と心配しても、キリがありません。なので、事前に「ミスした場合」「失敗した場合」を想定して、どのようにそれをフォローすればいいのか、「ミスに対する対策」を練っておくのです。たとえば、「明日、100人の前でプレゼンをしないといけない。本番で、頭が真っ白くなって、言葉が出なくなったらどうしよう」と心配になったとします。その場合は、・演台上の水を一杯飲んで時間を稼ぐ・次のスライドがわかるように、映写スライドの一覧を用意しておき、話に詰まったらそちらを見る・大きく深呼吸する・忘れた部分は無視して次に進む・小話的なエピソードを準備して、困ったらその話を挿入して時間を稼ぐなどといった対策を練ります。「ミスしたらどうしよう」と不安な気分になったときには、「対策してきた通りに実行すれば大丈夫」と心の中でつぶやいてください。そうすれば、それ以上不安な気持ちにはなりません。こうすると、漠然とした「感情」が「TODO(やるべきこと)」「対策」に置き換わります。ミスした場合、失敗した場合は、この「TODO」にしたがって、次のアクションを起こすだけでいいのです。「転ばぬ先の杖」ということわざがありますが、ミスに関してもこの方法で「転ばぬ先の杖」を用意しておけば、仮につまずいても大ケガを負うこと
はありません。私たちは、「ミスしたあとの対策」をきちんと考えておくことで、安心できます。結果として、ミスをしないで済むのです。「ミス対策」は、あなたのミスに対する「保険」「お守り」となって、あなたを助けてくれるでしょう。「いつもと同じ」で最高の集中を作り出す「ミスしたらどうしよう」という雑念は、「ミスしたらこうしよう」を「TODO」「対策」に置き換えることで消えてなくなる、と説明しました。この「転ばぬ先の杖」思考術は、実行すればかなりの効果が出ますが、とはいえ「ミスしたらどうしよう」の雑念を完全にゼロにすることは難しいものです。人間は、追い込まれると、扁桃体が興奮して「不安」が呼び起こされると同時に、自分の意思とは関係なく「ミスしたらどうしよう」という雑念がわき上がってしまうからです。しかし、それをきれいさっぱり消す方法があります。それが「ルーティーン」です。スポーツ選手が大舞台で外せないキックを決める、ここぞという場面でヒットが打てる。大事な場面で結果を出す彼らの裏に、「ルーティーン・ワーク(決まりきった所作、仕事)」があることに注目が集まっています。たとえば、2016年のラグビーワールドカップでは、日本代表のフルバック、五郎丸歩選手が、ペナルティーキックを蹴る前に、両手の人差し指を合わせる仕草が話題を呼び、多くの子どもたちが真似していました。また、メジャーリーグのイチロー選手は、バッターボックスに立ち、バットを手前に突き出して、左手で右の袖を引っ張る仕草をします。彼は、それに加えて、寝る時間や食べる時間などを試合時間から逆算して決めていたり、バットの置き方までこだわったりしているのは有名な話です。彼らのような一流選手が行う「ルーティーン」は、脳科学的に見ても集中力を高めて雑念を排除するのに効果があることは間違いありません。試しに五郎丸選手の動きをそっくりそのまま真似てみてください。ボールをセットして、両手の人差し指を合わせるポーズをしたあと、すぐにキックのモーションに入ります。さて、この五郎丸選手の真似をするときに、「ミスしたらどうしよう」「ミスしたらどうしよう」「ミスしたらどうしよう」と3回唱えてください。おそらく、不可能だと思います。「ミスしたらどうしよう」と唱えようとすると、ルーティーンの動作ができなくなってしまうはずです。逆にルーティーンの動作をするということは、「ルーティーンの動作をする」ことで、脳のワーキングメモリを占拠するということを意味します。「まずボールをセットする」「次にルーティーンの動作」「間髪いれずにキック」という流れが、脳内のワーキングメモリ(3つのトレイ)を占拠しますので、「ミスしたらどうしよう」という雑念が入り込むスペースがなくなるわけです。「一点集中タスク術」(こちら)のところで、「人間の脳はマルチタスクができない」と説明しましたが、「ルーティーンを行う」と「心配事を考える」という2つの作業を同時に行うことはできないのです。こうした「脳の限界」を逆手に利用することで、雑念や心配事が入り込む余地をなくすことができる、というわけです。緊張しやすい場面で、自分なりの「ルーティーン」を作っておけば、「ルーティーンの動作をする」に気をとられて、あなたの脳は不安や心配を考える余地がなくなるのです。自分なりの「ルーティーン」を作る場合、1つだけおさえておいていただきたいポイントがあります。それは、「3つ以上の動作が組み合わさっている」ということです。あまりにも単純な動作だと、ワーキングメモリに余裕が出てしまうので、雑念がわき上がってしまいます。先ほど紹介したイチロー選手のネクストバッターズサークルでのルーティーンは有名ですが、それを分解すると次のようになります。(1)軽くバットを振る(3回)(2)バットを大きく回す(2回)(3)膝を開いて屈伸(2回)(4)膝を閉じて屈伸(1回)(5)股を開いて肩入れ(2回)(6)軽くバットを振る(1回)こうして見ると、なんと、6個の動きが合計11回行われているという、きわめて複雑なルーティーンになっています。ここまで複雑だと、「雑念」が入る余地がなくなります。複雑な「ルーティーン」をこなすことで、「ミスしたらどうしよう」という余計な雑念は完全に排除され、集中力が高まり、最高のパフォーマンスを発揮することができるのです。医療現場で使われる心理戦略を応用する「ハインリッヒの法則」という有名な法則があります。損害保険会社の技術・調査部に勤務していた、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒは、ある工場で発生した5000件以上の労働災害を統計学的に調査し、「1対29対300」という興味深いデータを導きました。「重傷」以上の災害が1件あったら、その背後には、29件の「軽傷」を伴う災害が起こり、300件もの「ヒヤリ」もしくは「ハット」した傷害のない災害が起
きていた、ということです。「大きな事故」「小さな事故」「ヒヤリ・ハット事例」は、1対29対300の割合で生じます。つまり、「大きな事故」を減らすためには「小さな事故」を減らせばいい。そのためには「ヒヤリ・ハット事例」を減らせばいいのです。
「ヒヤリ・ハット事例」をたくさん集めて、それに対して1つずつ対策を講じていく。そうすると、「ヒヤリ・ハット事例」が減少し、「小さな事故」も減少し、結果として「大きな事故」が防げるというわけです。私は昔、ある病院に勤務していたときに、院内の「医療事故対策委員会」に所属していました。そこでは何をするのかというと、院内の「ヒヤリ・ハット事例」をとにかくたくさん集めるのです。あやうく事故になりそうな、ヒヤリ・ハットする事例が起きたときは、必ず報告するように、医師も看護師も義務付けられていました。そこは大きな病院だったので、1カ月何十件、年間で何百件というヒヤリ・ハットする事例が上がってきますが、似たような事例も多数報告されます。決まったパターンのヒヤリ・ハットが多いのです。そして委員会では、そのよくあるヒヤリ・ハットへの対策を考えて、「安全マニュアル」を作ったり、現行のやり方を変更したりします。状況把握→原因分析→対策。「ヒヤリ・ハット事例」や「小さな事故」が生じた場合、その原因を分析して、徹底して対策を行うことで、「大きな事故」は防げます。この「事故」という言葉を「ミス」にそのまま置き換えてみましょう。「大きなミス」「小さなミス」「ヒヤリ・ハット事例」は、1対29対300の割合で生じるのです。あなたの仕事に関して、「ミス」というほどには、誰かに迷惑をかけたり、ダメージを与えたりはしなかったものの、そのまま放置すると大きな失敗につながったかもしれない「ヒヤリ・ハット事例」を、普段から蓄積しておきましょう。ほとんどの方は、「ああ、危なかった」と思っても、次の瞬間にはそれを忘れてしまいます。ですから、「ミスにつながりそうなヒヤリ体験」をしたときは、必ずメモをとって記録に残すようにしてください。継続的に記録していれば、同じような「ヒヤリ」が繰り返されていることに気付くはずです。それに対して、「チェックシート」を作って確認したり、「貼り紙」をして注意をうながしたりするなど、ヒヤリ・ハットを減らすための対策を講じてください。ヒヤリ・ハット10回に対して「小さなミス」が1回起きる計算ですから、ヒヤリ・ハットを減らすことができれば、ミスは確実に減らせます。客観視する習慣で自己観察能力を鍛える映画『スター・ウォーズエピソード4/新たなる希望』の1シーンです。帝国軍の追撃を受けたミレニアム・ファルコン号は、小惑星帯に逃げ込みます。小惑星にぶつからないように、ファルコン号を必死に操縦するハン・ソロ船長にC3POは言います。「小惑星帯をうまく抜けられる確率は3720分の1です」あるいは、『スター・ウォーズエピソード5/帝国の逆襲』の冒頭シーン。厳寒の雪原で遭難し帰還しないルークを心配するレイア姫。C3POは言います。「生存確率は725分の1です」このように、C3POが具体的な「数字」を言って、他の人をギョッとさせるシーンが、映画『スター・ウォーズ』には、何度か登場します。「数値化」すると、事実を端的に伝えられるので、自分自身を客観視するのに有効です。C3POのように、状況を「数字」で表現できると、自己洞察力は飛躍的にアップします。今の状態は100点満点で何点?こうした、「数値化」して自分を客観視する思考法の有効性を示す事例として、うつ病で通院中の40代女性のSさんの事例をご紹介しましょう。Sさんは、「具合が悪いです。最悪です」が口癖です。診察のたびに、毎回「具合が悪いです。最悪です」を繰り返します。あるとき、私は言いました。「今まで一番調子が悪かった状態を0点。今まで一番調子がよかった状態を100点とすると、今日の調子は何点ですか?」Sさんは、言いました。「35点です」「えっ?0点じゃないんですか?」「入院していたときは、本当にひどかったので0点でしたが、今はそれよりましです」「具合が悪いです。最悪です」を連発するSさんの今日の状態は、なんと0点ではなく、35点だったのです。それ以後、Sさんに「今日の状態は100点満点で何点ですか?」という質問を繰り返し聞くようにしたところ、「今日は40点です」「今日は50点です」と、点数が徐々に増えていったのです。「3カ月前は、35点だったので、だいぶよくなってきましたね」「そういえば、最近、少し調子いいかも」ある日Sさんは、自分の症状の改善を自覚できるようになりました。するとSさんからいつの間にか、口癖だった「具合が悪いです。最悪です」を聞くことはなくなりました。人生の中で最悪の気分の日は、そう何度もあるはずがないのです。自分の気分や症状を「数値化」できるようになったSさんは、明らかに「自己洞察力」がアップして、自分の病気がよくなっていることを自覚できるようになりました。それをきっかけに気分も明るくなり、前向きに物事をとらえられるようになり、一気にうつ病から回復していったのでした。私は、精神科の診療の現場で、「今の状態は何点ですか?」という数値化をよく使います。この質問に答えることで、どんなに具合の悪い患者さんでも、一瞬に自分の体調、心の状態を観察し始めます。過去の自分の状態と今の自分の状態を比較し始めます。一瞬で、「自己観察」モードに突入し、何度か繰り返せば、「自己洞察力」が向上します。
たった15秒の「自己診断」ワーク自分の状態を「数値」で把握するために、私が毎朝最初にやることをご紹介しましょう。それは、目覚めたときの気分を、100点満点で評価することです。「目覚まし時計が鳴る前にスッキリ目覚めたから、今日は100点!」「気力、体力ともに充実。95点!」「体が重たい。もっと寝たい。60点。ああ、二日酔いだ!」90点以上の日がほとんどですが、たまに、点数が低い日もあります。そんなときは、必ず「気分が悪い」「調子が悪い」理由を考えてみます。私の場合は、「前日にお酒を飲みすぎた」「寝る時間が遅かった」とわかります。「仕事の疲れがたまっている」「昨日、上司に叱られて落ち込んでいる」「最近、胃腸の調子が悪い」など、この他にもいろいろな理由が考えられるでしょう。調子が悪い日だけではなく、調子がいい日も、その理由を考えてみましよう。「昨日、ジムで運動したから」「昨日、ゆっくりお風呂に入ってリラックスできたから」など、調子がよい理由もいろいろと見つかるはずです。このように、朝起きたときに、気分、心身の状態を100点満点で評価し、その理由を考えましょう。30秒もかからないはずです。慣れてくれば15秒でできるようになります。また、その「点数」と「理由・原因」を簡単な表現でいいので、日記やノートに記録してください。長期の記録を見返すことで、「自分は日照時間が減る秋から冬に調子が悪くなる」とか、「夏場の暑い時期に調子を崩しやすい」といったように、自分がいつ「好調」「不調」かを知ることができます。こうした朝の「自己診断」ワークを習慣化すると、自己洞察力が飛躍的に向上します。そして、「疲れ気味だ」「調子が悪い」「睡眠が足りてない」「仕事が忙しくて、ストレスが多い」などといった自分の心身の状態を、いち早く察知できるようになります。すると「脳疲労」の一歩手前で、自分の健康をコントロールできるようになります。いつも心技体ともに充実した状態で、仕事に臨むことができるようになるのです。そして、今度は「健康」→「絶好調」になるように、コンディションを調整できるようになります。「絶好調」の状態を維持できれば、ミスは滅多になくなるはずです。
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