第5章OKRの始め方
覚悟するOKRを始めるに際し、「なぜOKRを導入するのか」ということにきちんと答える必要があります。OKRは、シンプルでありながら多くのメリットを提供してくれます。ただし、それが組織が現段階で抱えている課題を解決してくれるかどうかはきちんと見ておくべきです。どのような課題を解決しようとしているのか、それは本当に優先度の高いことなのかをしっかりと検討するのです。間違っても、「グーグルやメルカリが導入しているから」「ベンチャー企業に向いているらしいから」といった理由で始めようとしてはいけません。今抱えている課題、今後向かう未来にとってOKRが不可欠であると具体的かつ明確に言えることが、OKRを始めるときの正しい態度です。そして、導入するのが適しているとなれば、リーダーが導入の決断をしなければなりません。OKRは、組織を大きく変える力を持っていますが、どんな優れた仕組みであっても、これまで使い慣れた仕組みから変更するとき、戸惑いや反発が起こります。OKRを導入することで、これまでの目標管理を含めた何らかの制度や運用に影響が出てきます。もちろん、その導入は丁寧に行っていく必要がありますが、多少の戸惑いや反発があったとしても、リーダーにはやり切る覚悟が必要です。さらに言うと、導入してすぐの四半期で高い効果を実感することは、あまり期待できません。OKRは、原則を守りながらも組織に合わせて柔軟にチューニングしていってこそ強固なツールとなります。半年から1年かけて設定と運用を繰り返し、自組織に合った仕組みに磨き上げていくものなのです。リーダーには、すぐに効果が出ないからと簡単にあきらめず、ブラッシュアップし続ける覚悟も求められます。ミッション、ビジョン、バリューを浸透させ、戦略に落とし込む組織には「共通の目的」が必要であると何度もお伝えしていますが、「共通の目的」を語るときによく使われるのが「ミッション」「ビジョン」「バリュー」です。まずはそれぞれが何を意味するか、簡単に押さえておきましょう。ミッションミッションとは「使命、任務、役割」などと日本語で訳されるものです。リーダーは組織が果たすべき「使命、任務、役割」を明確にする必要があります。なぜなら、果たすべきと考えているミッションが組織外の誰からも必要と感じられないものであるならば、組織は存在することができないからです。そのため、ミッションは組織の「存在意義」とも言われます。ビジョンビジョンは「夢、未来像、将来像」などと日本語で訳されるものです。組織を語る際には、長期的な目的、組織が目指す将来の理想の姿を意味するものになります。ミッションに基づいた活動を行う中でどこを目指すのかを示すものがビジョンになります。バリューバリューは、「価値、評価、価値基準、価値観」などと日本語で訳されるものです。ミッションに基づいてビジョンを目指すうえで、組織として大切にすべき価値観がバリューです。バリューは、メンバーが行動するうえで持つべきものであることから、行動指針として示されることもあります。ミッション、ビジョン、バリューを繰り返し発信する組織に不可欠な共通の目的を分化して示した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」ですが、当然ながらこれらを決めただけでは何も起こりません。組織の隅々まで浸透させ、実際の活動に反映させてこそ価値を生みます。これらを浸透させるために、トップはしつこいと思われるくらい繰り返し発信を続ける必要があり、現場リーダーは、そのトップの言葉を現場に落とし込む「翻訳」をしたうえで発信していくことが求められます。つまり、組織全体のミッションを果たしていこうというときに、必要な役割ごとに分けられた各部門・チームは、果たすべき役割を明確にしていかなければならないということです。そして、その役割こそ、部門・チームのミッションとなります。「翻訳」というのは、部門・チームのミッションを明確にしてメンバーに伝えていくことを意味します。自分の率いる部門・チームが目指す方向の先に組織の共通の目的があることをメンバーがしっかり理解し、ベクトルを揃えて行動できるようにすることが現場リーダーの役割になります。ミッション、ビジョン、バリューを実現するのが戦略経営戦略とは、組織の目的をどのように達成するのかという手段を示したものです。つまり、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の下位概念として戦略は位置づけられます。事業戦略や機能戦略(物流戦略、人事戦略など)も同じことで、それぞれの目的をどのように達成するのかという手段を示しています。どのような戦略であっても、目指すべき目的のない状態で立案することは不可能です。また、経営資源には限りがあるため、実行できる戦略も限られます。「やったほうが良い」ことがたくさんあるからこそ、「やらなければならない」ことを明確にして決断することが戦略となります。
Yahoo!JAPANのミッション・ビジョン・バリュー具体例を一つ紹介しましょう。Yahoo!JAPANはインターネットの力で日本のあらゆる課題を解決する「課題解決エンジン」をミッションに掲げています。そして、「UPDATEJAPAN」というビジョンを持ち、それらを実現するための5つのヤフーバリューを定義しています。ミッション─Mission─Yahoo!JAPANは情報技術で人々や社会の課題を解決してきました。今後も、人々や社会にとっての「課題解決エンジン」として、さまざまな事業を通じて課題解決を行い、世の中に貢献します。ビジョン─Vision─インターネットの力で日本を希望あふれる社会に変えていくために、さらなるチャレンジを行ってまいります。バリュー─Value─日本のあらゆる課題をインターネットの力で解決し続けていくために、「従業員がどのような価値を大事にし、いかに仕事をすべきか」を5つのヤフーバリューとして掲げています。「AllYahoo!JAPAN」「個のチカラ」「発見・提案・改善」「圧倒的当事者意識」「やりぬく」ヤフーバリューを体現し、常にユーザーのために進化し続けていく存在でありたいと考えています。(https://about.yahoo.co.jp/info/mission/)
事業コンセプトを整理する「共通の目的」の理解を深めるには、自分たちが行っている事業が、どこの市場にいる誰にどんな価値を提供しているのかという事業コンセプトを理解することが欠かせません。コンセプトというのは「概念、構想」という意味で、事業の概念、構想の中核をなすものが「事業コンセプト」です。ミッション、ビジョン、バリューや戦略とも密接に関連してくるものなのですが、一言で言えば、自分たちが現在(もしくは近い未来)行っている事業を端的に表すものが事業コンセプトです。リーダーは、OKRに取り掛かる前に、事業コンセプトを整理してまとめておく必要があります。事業コンセプトは、どこの市場にいる誰にどんな価値を提供しているのかというものなのですが、価値を提供される側は、実際に利用するまで本質的な意味で提供価値を実感することはできないので、提供価値のベネフィットを信用してもらうことが必要です。さらに、信用してもらった価値を実際に提供するための方法や資源がなければいけません。具体例として、特徴的なコンセプトで急成長したライザップについて、筆者がまとめた事業コンセプトを紹介します。事業コンセプトは「結果にコミットするパーソナルジム」。ダイエット市場で、ダイエットに挫折してきた人に対して、確実に痩せられるという価値を提供しています。顧客は、体験者のビフォーアフターや結果が出ないと返金するという制度でその価値を信じます。そして、ライザップは、マンツーマンでの徹底指導と食事指導でその価値を届けていきます。これを、「事業コンセプトシート」としてまとめたのが次の表です。事業コンセプトを明確にすることで、たとえば現場のトレーナーが、きつい指導で戸惑っている顧客に対して「きついトレーニングはやめて軽い運動を楽しんでもらうこと」で顧客満足度をあげようと考えたとしても、それは結果にコミットしていることにはならないと思い直すことになります。つまり、事業コンセプトを明確にしておくことで、方向性のズレが起こらないようにできるのです。
「目的(O)」を設定する学生時代、授業を聞いて理解したつもりでも、いざ問題を解こうとするとまったく解けなかった。そんな経験はないでしょうか?OKRも同じで、内容を正しく理解したとしても、いざ自分たちで設定しようとするとうまく設定できないことがよくあります。こうすれば必ずうまくいく、という方法論はありませんが、OKRを設定しやすくするコツがいくつかあります。これまでのストーリーを全員で振り返るリーダーがこれまでの経緯や会社の歴史に関係のない目的を唐突に掲げたら、メンバーはどのように受け止めるでしょうか。リーダーの思い付き、気まぐれだと感じ、自分たちに関係あることだとは思わない可能性があります。そうなっては、「目的」を目指すパワーが出せないだけでなく、リーダーとの信頼関係にも悪い影響がでてきます。そうならないためには、これまでの経緯、組織の現状、市場の展望などに根差した一連のストーリーを振り返ってみることです。組織への加入時期が異なるメンバーからなるチームの場合、過去を共有することで一体感を醸成することもできます。ミッションを身近な言葉に置き換える組織にとって利益、業績はとても大切ですが、利益や業績だけが目的になってはいけません。社会の役に立っているなど自分たちの活動の意義を振り返ることで、やりがいを感じることができます。たとえば、大成建設株式会社のキャッチコピーである「地図に残る仕事。」は、まさに社会の役に立っていることを伝える言葉です。実際の仕事は、企画、設計、現場管理、購買、経理などさまざまだと思いますが、それらすべてが「地図に残る仕事。」につながっているのです。この言葉のように、目的や方向性に意義を感じることができれば、メンバーが全力で協力しあって目標の達成に向かっていきます。組織全体のミッションは多くの場合壮大で身近なものではありませんが、それを身近に感じられる言葉に置き換えてみることで、チームの「目的」を考えるヒントが得られます。何が実現されたら最高のほめ言葉をもらえるかを考えてみる「すばらしい!期待以上だ!」と顧客が大喜びしている状況を想像してみましょう。その際、顧客を具体的に思い浮かべ、「〇〇さんが○○と言ってくれた」と顧客のほめ言葉をリアルに想像してみて、そのときにいったい何が実現されているか、チームで考えてみてください。うまくいけば、「目的」が設定できるだけでなく、チームに前向きな姿勢も醸成されます。「○○するぞ!大作戦」など、作戦名を考える創造性を高めようとしたとき、ユーモアや遊び感覚が大きな力になります。そこで、「○○するぞ!大作戦」などの言葉をもとに考えてみることで発想の幅が広がります。「競合A社の弱点を攻めまくるぞ!大作戦」などと決めれば、「競合A社の弱点である中小企業を中心に、トップシェアを奪う」といった「目的」の設定が可能です。
「重要な結果指標(KR)」を設定する「目的をどのように達成するのか?目的との距離をどう把握するのか?」を示す指標が「重要な結果指標(KR)」で、①目的と結びついていること②計測可能であること③容易ではないが、達成可能であること④絞り込まれていることが求められます。安易に設定するとOKRを導入するメリットを奪い去ってしまいますので、次の点に注意しながら設定していきましょう。まず、何を目指したいのかを決める現場で仕事を行う際には「どのように」行うか手段を決めなければなりません。しかし、「重要な結果指標」を設定する際は「どのように」という手段からではなく、「何を目指したいのか」を考えます。たとえば、「新しいアプリの発売を大成功させる」ことを目的にした場合、「キャンペーンを行う」「SNSでバズらせる」といったことは「どのように」になります。そうではなく、「1日100件の無料ダウンロード」など「何を目指したいのか」を先に決めなければなりません。手段から考えてしまうとどうしても積み上げ型になってしまうため、新たなアイデアを生みにくくなってしまいます。挑戦的な水準で「何を目指したいのか」をまず決めることで、「どのように」達成するかについての新しいアイデアが出てきます。現在測定できているものを指標の前提としない「重要な結果指標」を、現在測定されているものの中から選ぼうとするのは、あまり良い方法ではありません。現在測定できているものを前提にすると、指標が現在の延長線上のものにしかならないからです。指標を測定する効率や是非は検討する必要がありますが、まずは本当に「目的」につながる指標は何かという視点で検討してください。ただし、測定することが目的ではありませんので、測定のためだけに労力をかけすぎないようにもしましょう。「結果指標」を中心に設定する本書では、KRのことを「重要な結果指標」と訳して紹介しています。その理由を説明しましょう。指標には「行動指標」と「結果指標」の2種類があります。行動指標とは、「100人に営業メールを送る」「毎週5本ブログ記事をアップする」など、どれだけ行動したかを表す指標のことです。これに対し結果指標とは、売上1億円、100万ページビューなど、行動した結果を測る指標です。結論から言えば、KRには、可能な限り結果指標を中心に採用することが望ましいです。なぜなら、最終的な「目的」は結果に基づくものであり、KRに行動指標を設定しても、目的に到達したか判断がつかないからです。また、結果指標を提示することは、メンバーの行動を縛ることなく、それぞれに創意工夫を求めることになります。行動指標をKRに設定すると、その行動をすること自体が目的化してしまい工夫が生まれません。KRに行動指標を設定する場合は、かならず結果指標とセットにすること、行動することのみが目的化しないようにすることに気をつけてください。行動指標を運用するときは、後述する週初めのミーティングで、とるべき行動を週次で行動指標に落とし込むようにします。そうすることで、行動指標に基づいて動いたのにもかかわらず結果指標が伴わなかった場合に、柔軟に行動指標を変更することが可能になります。現状を明らかにして、期限を切る何を「重要な結果指標」とするかが決まれば、次は具体的な内容を決めます。ここでありがちなのは、目標数値だけを決めることです。旅行の行程は、目的地だけでは決まりません。現在地があって初めてそこへ至る道筋がはっきりとします。「重要な結果指標」も同様で、現状の数値と目標数値の両方を明らかにしなくてはなりません。同時に、いつまでに目的地にたどり着きたいのか、つまり、期限を決めておくことも必要です。「なるべく早くお願いね」「大至急でよろしく」「できるときにやっといて」といった伝え方だと、締め切りについての解釈に差が生まれ、時間という経営資源を無駄遣いしてしまいます。指標の計算方法を明確にする「重要な結果指標」の解釈が人によって異なると、その意味が薄れてしまいます。そういった事態を避けるために、指標の計算方法を明確にしておく必要があります。たとえば、新規顧客数を指標とした場合、無料サービスの利用者は含めるのかどうか、別サービスの利用者は含めるのか、など細かく考えておく必要があります。一見解釈の幅がないような指標であっても、人によって捉え方が変わることがあります。計算方法は設定段階で明確にしておきましょう。目的達成に対する影響の大きさと影響を与えられる範囲で絞り込む「目的」に到達するためには3~5個に「重要な結果指標」を絞り込む必要があります。絞り込むときには、どの指標が最適であるかを考えていくのですが、「最適」には2つの側面があります一つ目は目的達成に対する「影響の大きさ」です。その指標を伸ばすことが、他の指標に比べてより目的に近づけるというものを選ぶのです。もう一つは「影響の範囲」です。たとえば、ある店舗の売上にもっとも影響するのが「新規顧客数」だったとします。しかしながら、その店舗の新規顧客数は、テレビCMの有無でほぼ決まります。このような場合に、CMに関与できない店舗の「重要な結果指標」に「新規顧客数」を含めても、対策を打つことはできません。こういった場合、たとえば「新規顧客リピート率」を設定するなど、影響を与えられる部分で何ができるかを考える必要があります。ただし、100%完全に自分の影響のみで左右できるものはほとんどありませんので、できるだけ多くの影響を与えられるものを選ぶようにしましょう。
COLUMNOKRの設定例ここまで解説してきたように、OKRは単体で成り立つものではなく、事業の性質、方向性が違えば当然違う設定になります。またメンバーがどういったものを魅力的に感じるかは組織文化やメンバー構成によっても変わるでしょう。そういった前提のもとではありますが、OKRの設定例をご紹介いたしますので、参考にしていただければと思いますOKRは、左図のような階層構造をとります。全社、部門、チーム、個人それぞれがOKRを持つというのが理想ですが、まずは一部にだけ導入するという方法もありますので、組織の状況に合わせて導入範囲を考えていってください。ここで大切なことは、最上位層から順にOKRを設定していくことです。全体の力を集中させるべきポイントである最上位層を固めておかないと、目的となるポイントが定まらず、下位層の進むべき方向がばらついてしまうからです。
全社レベルOKRO:大企業ユーザーを中心に攻略し、業界シェア〇位になるKR①:KR②:KR③:KR④:O:3年後のトップシェア獲得を目指して、基盤を確立するKR①:KR②:KR③:O:新発売する〇〇を大成功させるKR①:KR②:KR③:部課レベルOKR(営業部門)O:セミナー営業により大企業を徹底攻略するKR①:KR②:KR③:(インサイドセールス部門)O:業界最高水準のインサイドセールスを立ち上げるKR①:KR②:KR③:(調達部門)O:ゼロベースで見直して安定調達できる体制を築くKR①:KR②:KR③:(製造部門)O:製造工程見直しにより業界最低水準の原価率を達成するKR①:KR②:KR③:(開発部門)O:〇月正式リリースに向けたベータ版をリリースするKR①:
KR②:KR③:(人事部門)O:〇〇分野で成長できる人材を確保するKR①:KR②:KR③:(総務部門)O:オフィス環境を整備し、働きやすさを倍増させるKR①:KR②:KR③:(経理部門)O:経営陣にタイムリーな経営情報を提供するKR①:KR②:KR③:
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