従業員1人につきどれだけの売上げがあったかを示す指標で、企業全体における従業員の生産性を捉えることができます。一般に、同業他社よりもこの数値が高ければ、従業員の生産性が高く、効率よく企業活動を展開していると判断できます。事業部や部署単位にも援用できますが、その場合は間接部門(他部門や他部署と共用している従業員)の人員数をどう割り振るかが問題となります。この指標も、営業担当者1人当たり売上高と同様、商材によって高低があります。粗利率の低い流通業(特に卸売業)の場合、この数字は高くなくてはならず、次いで製造業、サービス業の順になるのが一般的です。したがって1人当たりの粗利額とあわせて見るのがいいでしょう。この指標は、従業員1人当たりの人件費や、1人当たりの経費額(1人の従業員が使ってもいい経費)、1人当たりの投資額など、企業活動や事業の大枠の在り様を規定する数字ともなります。例えば試算した結果、この指標が2000万円/人、1人当たりの粗利が800万円/人の場合、その中で人件費や経費、先行投資を賄わなければならないということです。もちろん、ベンチャー企業などで資金を投資家から順調に調達できている場合などはその限りではありませんが、通常、黒字を前提にするのであれば、この指標以上に費用・投資は発生させないようにします。この指標も、業界比較や時系列比較が重要となります。通常は前年の数字を見ながら設定することが多いです。リーマンショックやコロナショック級のトラブルがない場合は、期初は昨対比でプラスに目標設定するのが一般的です(もちろん、PDCAを回す中で下方修正することはあります)。ただし、新事業を始めるなどの理由によって一気に従業員数を増やすような場合は、昨年度から多少のマイナスの数字を期初から設定するケースもあります。このKPIが時系列で見て低下している場合は、その変動要因を明らかにする必要があります。その際、まず見るべきは、売上げが足りていないのか、従業員が多すぎないかという点です。例えば経営環境から見て売上げは順調なのにこの数字が下がっている場合は、間接部門が肥大化しているなどの可能性があります。社内における部署間の比較も大切です。例えば多店舗展開をしている量販店や飲食店などでは、この指標を店舗比較の材料の1つにし、店長やスーパーバイザーの評価や報酬管理などの経営管理に活用することがあります。この指標も分母の「従業員」の定義次第で数字が変わってきますので、それを正しく捕捉しておくことが必要です(分子の売上高は、定義による差異はあったとしてもごくわずかです)。同業他社と比較する際には、その企業の事業のポートフォリオに意識を向ける必要があります。同じ製造業であったとしても、モノ売りがメインの企業と、メンテナンスサービスのような粗利の高い事業を手掛けている企業では、見た目の数字が大きく変わることもあるからです。特に近年は連結決算重視になっていますので、ベンチマークする企業にどのような関連企業が連結されているかということも、詳細な分析を行う際には把握しておきたいところです。関連KPI営業担当者1人当たり売上高、従業員1人当たり人件費、従業員1人当たり経費額
この指標を特に気にするのは経営者や人事部、あるいは事業部長などです。人件費は給与・賞与だけではなく、各種手当、退職一時金や退職年金の引当金、社会保険料や法定福利費、福利厚生費、通勤定期券代や社宅の費用なども含まれます。業界にもよりますが、通常、これらの費用は給与・賞与の20%から30%程度を占めるとされます。この数字の多い企業は従業員に報いている企業といえます。この指標は、ウェブなどで手軽に手に入る「1人当たりの年収」とは右のように少し異なりますので、まずはそれを意識する必要があります。一般に、この指標の高さは、通常、採用においては人材獲得力の高さにつながります。日本においては通常、業界ごとに「相場」的なものがあり、さらにその中で大手企業になるほどこの指標が高くなるのが一般的です。「相場」が高い業界としては、総合商社や金融、ディベロッパーなどがあります。なおこの数字は、いまだに年功的な報奨制度が色濃く残る日本企業においては、従業員の平均年齢が上がると上昇する傾向があるので、そちらも同時に見るのが一般的です。人件費は費用という側面もありますので、業績がさえない割にこの指標が高い場合、利益が圧迫されている可能性もあるので、利益も同時に見るのが一般的です。この数字は総人件費と従業員の数で決まってきますから、一般にはそれとあわせて検討します。実際には総人件費が決まり、従業員数が決まれば自ずと決まるというパターンが多いです。また、「無い袖は振れ」ませんから、翌年度の売上げや粗利などの利益の見込みなどもあわせて勘案します。通常は、前年の数字を基に、業界他社との比較をしたうえで決める企業が多くなっています。外資系の企業は一般的に雇用が不安定な分、数字が高くなる傾向があるので、日本企業の場合はそれも勘案して決めることが多いです。この数字はさらに「1人当たりの給与」「1人当たりの賞与」「1人当たりのその他人件費」に分けることもできます。この中で一番コントロールしやすいのは1人当たりの賞与です。それゆえそれが利益の調整弁として使われることも少なくありません。1人当たりの給与は下方硬直性が高く、容易には下げられないため、経営が厳しい局面では昇給をしない、あるいは新しく人を採用しないことで総人件費を抑えるという手段が用いられます。この指標は、正規、契約、派遣など、雇用の在り方が多様化する中、経年比較やライバルとの比較がしにくくなっている指標でもあります。近年は組織の壁を超えてフリーランスの方々を必要に応じて「オンデマンド的」に調達して仕事をすることもありますが、それは外注費となってしまい人件費には含まれないため、「真の人件費」を正しく捉えるのは必ずしも容易ではないのです。関連KPI従業員1人当たり売上高、従業員1人当たり粗利額
[★20]この指標はどのくらい付加価値から従業員に還元しているかという指標ともいえますし、人件費として費やさざるを得なかった数字と見ることもできます。企業によっては売上高人件費率(売上高に占める人件費の比率)の方を重視し、労働分配率そのものはあまり重視しないこともありますが、マクロ統計的には大事な指標でもあります。また、かつて組合が力を持っていた頃は、組合側がこの数字を上げるように経営側に迫ったという歴史もあります。中小企業診断士のような人の中にはこの数字の方を企業の健全性の分析上、重く見る人もいます。まずこの指標の計算に用いる「付加価値」は、何通りかの計算方法があることは理解しておきましょう。その中でも代表的なものの1つは「控除法」と呼ばれるものです。業界によって控除する費用項目は異なりますが、概ね売上高から売上原価を引いた粗利益と同じと考えておいていいでしょう。もう1つは「加算法」と呼ばれるもので、付加価値=人件費+営業純益+支払利息等+租税公課+動産・不動産貸借料の式で求めます。議論をする際にはどちらを用いているかをよく確認しましょう。実務的に企業として使いやすいのは前者ですが、内閣府が出すような資料などは加算法を用いているケースが多いです(日銀が使っている方法でもあるため)。一般に、設備投資などを積極的に行う製造業やインフラ系企業ではこの数字は低くなり、「人」の要素の大きいサービス業では高くなります。また、資本金の大きな企業の方が労働分配率は低くなる傾向が見られます。これは、大手製造業やインフラ企業が大企業であるといった業態の違いや利益率の差などに起因します。この数字が高すぎる場合は粗利額が小さいことが多く、逆に低すぎる場合は利益が多く出ているにもかかわらず従業員に還元していないと見ることができます。この指標は現場レベルではそれほど意識はされず、気にするのは経営者や人事部などです。現場ではコントロールしにくい数字だからです。また、先述したように組合などがKPIとして見ることもあります。この指標は、目標とする売上高人件費率や売上高総利益率などの数字も勘案したうえで目標設定されます。通常は期中で意識されることはそれほど多くはなく、やや長いスパンでPDCAを回します。先述したように、数字の大きさそのものだけでは良い解釈も悪い解釈もできてしまう指標なので、業界平均との比較や経営の実態を踏まえて用いることが必要です。例えば極めて粗利率の高い新製品(例:アップルのiPhone)を市場導入してヒットした場合は労働分配率が下がりますが、従業員の給与が十分に上がっていれば、それでも問題はないのです。労働分配率は昨今のIT化、ロボット化の影響を受ける数字でもあります。例えば金融業においてそれまで人に任せていた仕事を機械で置き換えることができればトータルとしての労働分配率は下がります。しかしそれで従業員が不満かといえばそうでもありません。生産性の低い人員が退出し、1人当たりの人件費が上がれば、個々には高い満足度を示すかもしれないのです。関連KPI売上高人件費率
一般的に、平均年齢が低い会社の方が、若い人材が活躍する場があり、企業としての活力がある傾向にあります。この指標は、企業の設立年数や業績、業種、採用方針などに大きく影響されます。例えば、若者をターゲット顧客とするベンチャー企業では、当然若い人材が多く、この指標は下がります(一方で、1人当たり人件費も下がる傾向があります)。一般には企業全体で見ることの多い数字ですが、もちろん社内的に部署ごとに用いることもできます。企業の平均年齢はウェブなどでも簡単に手に入る数字です。老舗の上場企業の場合は40代のケースが多く、若いベンチャー企業では20代ということもあります。老舗であっても45歳を超えるようだとかなり「老化」が進んでいるといえます(2020年現在)。ただし逆にいえばシニアに優しい会社ともいえるわけで、内容は後述するようにもう少し精査する必要があります。人間の年齢そのものに優劣があるわけではありませんが、業界の平均などと比べて明らかに自社が特異点(外れ値)にある場合、その妥当性は検証しておく方がいいでしょう。建前的にいえば年齢を理由とした採用の可否や強い退職勧告などはコンプライアンス違反ですので(外資企業の場合、履歴書に生年月日や年齢の記入欄がないこともあります)、この数字を目標として明示的に設定するかどうかは微妙な問題といえます。また、「人生100年時代」に向けてあまり若さにこだわるのは得策ともいえません。とはいえ通常、平均年齢が右肩上がりに上がることが好ましいとはいえませんので、部署のリーダーや人事関係者であれば、この指標は参考情報程度には見ておきたいところです。平均年齢は、男女別、役職別などに分けて調べたり、単に平均値ではなくヒストグラム(度数分布表)で見たりすると、自社や自部署の特徴や課題の理解により役立ちます。例えばバブル期には大量に採用し、就職氷河期には一気に採用を手控えるなどすると、非常にいびつな人口ピラミッドになることがあります。実際にそうした企業は多いです。数年後の経営を担うべき年齢層(これも一概にはいえませんが、通常は50代程度)が極端に不足しているなどの問題点が把握できれば、今後の中途採用計画や能力開発プログラムの設計に活かせるでしょう。従業員の平均年齢はまた、役員の平均年齢ともあわせて見るといいでしょう。これも企業風土や企業の活力に影響を与えるからです。一般的に、社歴の浅い会社や外資系の会社では若い役員が多い傾向があります。最近は減りましたが、平均年齢が低い理由に、女性の平均年齢が低いケースがあります。いわゆる一般職として彼女たちを採用してきた企業では、一般職の女性社員が結婚や出産を機に退職することで、全体の平均年齢が見た目以上に下がってしまうのです。今後は、定年や定年を前に会社をやめ、同じ会社に契約社員や属託として勤務するケースが増えることが予想されます。高齢化が進む中で、シニアがどのように扱われているのかも重要です。関連KPI従業員1人当たり人件費、役員の平均年齢
成長中の組織は売上げだけではなく従業員数も増えるのが一般的です。この数字が高いということは旺盛に採用活動を行っていることを意味しますが、一方で、従業員増加率が高すぎることは往々にして組織に混乱を招く可能性もあります。目指すべき成長スピードも勘案したうえで、コントロールできる範囲に収めることが必要な数字でもあります。まずは数百人くらいの中堅企業のケースで考えてみましょう。この場合、合併などによる突発的な要因を除けば、10%従業員数が増えると「かなり新しい人が増えたな」という印象が増すものです。これがさらに20%にもなると、「会社はものすごいスピードで伸びているな」という感じになります。従業員増加率は、もともとの従業員数や純増数とあわせて見ることも大切です。例えば40人の従業員数が50人になったのと、400人が500人になったのとでは、率は同じですが、純増数が10人と100人では人事部にかかる負担などもずいぶん違うからです。一般に大きな会社ほど従業員増加率の大きいことは組織管理を難しくします。業界による差もあります。オペレーショナルな仕事の多い組織は比較的人を増やしやすいのに対し、専門的な知識を要する業務、例えばコンサルティング営業や研究開発などは人員の育成に手間暇がかかる分、急激な増加は難しいのが一般的です。従業員増加率は、想定する売上成長率とあわせて考えることが多い数字です。例えば、もし劇的なビジネスモデルの変化がないのであれば、売上げを15%伸ばそうとするのであれば、生産性は何とか現状維持と考え、従業員数も15%増やそうと考えることが多いものです。もちろん、生産性を5%上げつつ、従業員数も10%増やすという目標設定も可能ですが、新人が戦力になるには時間がかかりますから、通常は難しいものです。この指標は部署レベルで考えることもあります。売上げ成長を20%期待されているのであれば、やはりそれに見合った人員増を要求しようと考えるのが一般的です。ただし、大きな組織になるほど余剰人員が出たりするものです。そうした人材がすぐに他部署で戦力になるかどうかは一概にはいえませんが、彼らを有効活用できれば全社的に人件費をあまり増やさずに人員を補充することも可能です。従業員の正味の増加は、「新たに入社した人-やめた人」であることには注意が必要です。500人の会社が550人になったのは同じでも、A社は「100人採用して50人がやめた」、B社は「55人採用してやめたのは5人だけ」では全然意味合いが違ってきます。前者の方が組織的な混乱が起こりがちなのはいうまでもありません。人を増やす努力の一方で、(特に優秀な人には)やめられないようにする努力も必要です。関連KPI従業員数、離職率、売上高成長率
離職率は、通常、従業員の職場に対する満足度と関連の深い指標とされています。企業がどれだけ従業員の働きやすさに配慮し、オフィスの物理的環境をはじめ、金銭的報酬、評価の制度、福利厚生などの面で働きやすい環境を提供しているかによって、この数値は大きく変わってきます。この数値は一般には低い方がいいといえます。指標の数値が高すぎる場合(例:20%)は、離職者が多いために、新しい人材の採用や教育、配置の調整などに多大なコストが発生している可能性があるからです。一方で、あまりに低すぎる場合は、本来は去ってほしいモチベーションの低い従業員や職場の生産性を下げるような従業員がいつまでも社内にとどまることを意味するケースもあります。したがって、高すぎるのは問題としても、いたずらに低くすることを目指すのではなく、ある一定範囲に収まるようにすべき数字ともいえます。この数字は、平均在職年数とあわせて見るといいでしょう。これは厚生労働省「雇用動向調査」のデータなどより業界ごとに把握できます。ただしこの数値は、ベンチャー企業や合併して生まれた新会社などではかなり低く出ることがあります。例えば設立から2年の会社に、2年以上在籍している従業員はいませんから当然です。そうした点に注意しながらクロスチェックをするといいでしょう。この数値は平常時には、過去の数字の延長で設定します。例えば過去10年間、離職率が概ね3%から5%の間で推移しており、それで大きな問題がなかったのであれば、今期もその数字をめどにしておけばいいでしょう。注意が必要なのは、この数字が急激に上がったときです。その場合はその原因を早急に検討し、つぶす必要性があります。先に記した点の評価が下がっただけではなく、採用すべき従業員の要件をここ数年間違えていた、あるいは競合が一気に引き抜きを始めているといった事情がわかるかもしれません。企業の業績が悪いときには、いわゆる「肩たたき」などをしたり早期退職を募ることでこの数値を高く設定することもあります。ただし、その数値が達成できたから良しというわけではありません。よく聞くのは、例えば退職金を割り増しして早期退職を促したところ、人材市場での競争力のある良い人材ほどいち早くやめてしまい、今の会社にしがみつかざるを得ない人ほど残ってしまったというものです。そうした緊急時には、固有名詞レベルで誰がやめたかに意識を向けることも必要です。このKPIが急に上がってから対策をとるのでは遅すぎるともいえます。通常は退職率の向上には必ず予兆があるともいえるからです。マネジャーとしては従業員の声を愚直に聞いたり、勤務態度に大きな変化がないかをしっかりウォッチし、マネジメントと共有することが大事です。関連KPI平均在職年数、従業員満足度
本社部門とは、人事部門、財務部門、総務部門、経営企画部門、社長室などの俗にいう間接部門を指します。「コーポレート」や「(社内向けの)サービスカンパニー」などと呼ぶこともあります。そのコストが売上げに対してどの程度の比率になっているかを見るものです。この数値は特に経営陣が気にする数字です。この数字が低ければコストが小さいので一見良さそうですが、その分、事業部に対するサポートが手薄になっている可能性もあります。絶対的に適切といえる数字はなく、企業ごとに最適な数字を模索する必要があります。ちなみにグロービスでは概ね10%程度をめどにしています。なお、本社オフィスに特定の事業部が所属している場合、厳密には本社オフィスの維持費などはコーポレート部門分だけをカウントするのが適切です。この数値は似たような業界であっても経営陣の意思によって変わってくることがあります。例えば「強い人事」や「強い経営企画」などを経営陣の身近に置きたいという企業では、当然本社費率も上がります。逆に、事業部門や事業部長にそれらを大きく権限移譲しようとする組織ではこの指標は下がります。だからこそ適切な数値を企業ごとに模索していく必要があるのです。また、この指標は財務諸表に出てくる数字のような、明確な基準があるわけでもありません。それゆえ、他社と比較しにくいという側面もあります。気をつけなくてはならないのは、この数字は往々にして組織が大きくなるに従って、増えないまでも、想定以上には下がらないことがあるという点です。有名なパーキンソンの第一法則では「官僚組織は肥大化する」と喝破しました。これは往々にして本社機能(官僚機構と似たような性格を持つ)は、「ためにする仕事」を増やし、業務が拡大するためです。例えば、本来であれば、組織全体の規模が3倍になったからといって、経営企画部門の人員数も3倍になる必要性はないはずです。ところが、3倍とはいわないまでも、倍以上に増えてしまう企業はやはり多いのです。それゆえ本社費率を設定する際には、事業部に対する必要なサービスができているかということも踏まえつつ、本社機能が自ら肥大化を進めていないかを慎重に見極め、適切な数字を設定する必要があるのです。最近は持株会社という形態も増えました。その結果、単体の企業では一見本社費率が低くても、グループ全体としては実はそこまで低くないというケースもあります。同様のことは外資系の企業などでもいえます。外資系の企業の場合、日本は「販売代理店」的な位置づけとなり、それ単体では本社費率が低く見えても、グローバルに見ると標準的ということも多いのです。関連KPI本社人員比率
正社員比率が高い企業では、企業活動の主な担い手は(長期雇用の)正社員ということになります。正社員という安定した身分や一定の待遇を保証することにより、社員の長期的なコミットメントが期待できる一方で、経営環境の変化に応じて柔軟に雇用調整を行うことが難しくなるというデメリットもあります。企業の柔軟性を維持するためにも適切な範囲に移行させたい指標といえるでしょう。この指標を出す際、非正社員として契約社員やパートタイマーなどは含みますが、派遣社員や外部委託のフリーランスの方などは含まないのが一般的です。また、通常、テンポラリーなアルバイトは除くのが一般的です。この指標の数値は近年下がり気味にあります。これは企業側の柔軟性を担保したいという思惑と、従業員側の「特定の企業に縛られたくない」「自由度の高い働き方をしたい」という思惑が一致した結果ともいえます。一方で、まだまだ雇用の安定した正社員のポストを求める人々は多いのが現状です。特に新卒の新入社員の多くは正社員を目指すことが多く、新卒時に正社員になれたか否かが生涯賃金の差につながるという現実もあります。被雇用能力[★21]のある人材や、家庭の事情で正社員が難しい人などを除けば、やはり正社員という待遇は魅力的なのです。したがって、同業他社に比べこの指標が明らかに低い企業は、柔軟性を手に入れた代償として、正社員希望の求職者から見ると魅力度が低いともいえます。ベンチャー企業などでは、最初はリスクを下げるためにも固定費となる正社員は少なめにし、契約社員や外注を利用し、事業が軌道に乗ってから徐々に正社員比率を上げることが多いです。それに対して大企業では、この数字を下げることでリスク対応力を高めようとします。業種によっても正社員比率は千差万別です。この指標はそうした状況を総合的に勘案して設定します。この数値を以前より下げて設定する場合には、どのような施策をあわせて打つのかも同時に検討します。例えば、定型化できる業務や付加価値の低い業務は正社員以外の人員に任せ、正社員は企業戦略上重要な部門や業務に重点配置するなどです。なお、この数字は昨対比で下げつつも、パートタイマーや契約社員が正社員に転換する道も同時並行で残す企業もあります。一方的に非正社員化を図るのではなく、優秀な人材については正社員に登用することでより組織として生産性や採用面での競争力を高めようという狙いです。この数字は意外に正確な測定が難しい数字でもあります。例えばグループ内の別組織で兼任で仕事をしているような場合、従業員として何日以上(あるいは何時間以上)働いている人を分母に入れるのか、出向者の扱いをどうするのかなどです。少なくとも社内では時系列の比較ができるよう、定義をしっかり定めておくのがいいでしょう。関連KPI正社員採用数、売上高人件費率
人材の流動化が遅れたといわれる日本でも、新卒で就職した企業をやめ、別の会社で新しいキャリアを模索する人が増えました。こうした流れを受けて、厚生労働省も従業員数301人以上の大企業を対象に、正社員の中途採用比率の公表を義務づける案をまとめました。転職希望者が情報を得やすいように、企業のホームページなどで開示することを目指しています。大企業でこの数字が新卒採用に比べて高い企業は、即戦力の人材に対する採用意欲、あるいはダイバーシティに関する感度が高い企業であることが推定できます。この数字は、新卒採用人数とのバランス、あるいは既存の従業員数に対する比率、既存社員に占める中途入社社員の比率などとあわせて見ることが多い数字です。新卒採用者との比率についていえば、中途採用者の比率が高くなるのは創業からまだ時間の浅いベンチャー企業や、国内での採用力の弱い外資系企業などです。一般の中小企業も中途採用の比率は高くなります。また、コンサルティングファームなどの特殊な能力を求めるプロフェッショナル企業なども中途採用数は多くなります。一方、老舗の大企業はいまだに新卒採用にこだわる傾向があり、国内の採用に関して20%を超える企業はそれほど多くありません(海外事業は自ずと中途採用が増えるのでここでは捨象します)。逆にいえば、先述したように、大企業にもかかわらずこの数字が高い企業は、新事業創造や組織変革[★22]のために即戦力となる外部の血を欲している企業といえるでしょう。この数字は、企業による熱意のあるなしが大きく反映される数字でもあります。大企業でこれまで新卒採用で十分回ってきた企業であれば、この数字はそれほど意識されません。実際にそうした企業も多いでしょう。一方で、即戦力あるいは即戦力に近い人材を欲している企業にとっては、この数字は事業部にとってはもちろん、人事の採用担当者にとっても極めて重要な意味を持つようになります。例えば我々グロービスは基本的に中途採用でしか採用を行わない企業ですが、常に供給力不足、人員不足に悩んできました。それゆえ、中途採用数は、人事の関係者はもちろん、全社を挙げて達成したい重要な数字となっているのです。この数字も、数字だけではなく質の面が重要です。せっかくの中途採用が全く戦力にならないようではやはり困ります。新卒採用ほどスタートラインが揃ってはいないので簡単ではありませんが、「戦力化するまでに要した期間」や「入社〇年以内の離職率」「退職理由ごとの人数」などもあわせてウォッチしておくとよいでしょう。また、階層ごとの採用に目を向けることも重要です。経営陣レベルはヘッドハントできても、中堅が採れないというのではやはりバランスを欠くからです。関連KPI正社員採用数、新卒採用数、全従業員数
一般に大企業ほど階層数は増える傾向があります。これは1人の人間のスパン・オブ・コントロール(管理できる直属の部下の数)に限界がある以上、仕方がない面もありますが、階層が多くなることは通常、意思決定のスピードを削いだり、経営陣と現場の温度差を広げることになってしまいます。理想論でいえば、管理できる人員を増やし、階層数は減らす方向が望ましいといえます。企業によって呼称や定義は異なりますが、「部長」「課長」といった役職(ポスト)がどのように設けられているかによって、その企業の文化や体質を推測することができるものです。階層数役職数が多く、何階層ものピラミッド構造からなる組織は、安定的で確実な業務遂行を重視する場合には効果的な反面、報告や了解の取り付けなどの根回しが必要となり、迅速な意思決定が行いにくくなります。また、役職は程度の差はあれ、社内での個人のステータスを示すため、細分化されていればいるほど上下関係が発生し、ピラミッド構造を強化する方向に働きます。これはフラットなコミュニケーションを防ぎ、イノベーションの芽を摘む間接的な原因にもなります。一方でフラットすぎる組織は、スピードや変化への対応力、イノベーションを起こす力は増しますが、一方で、中間管理職の業務量が増えたり、部下の数が増えることにより、一人ひとりとの密接なコミュニケーションや部下育成が十分に行き届かないなどの問題が生じる場合もあります。それゆえ、経営陣としては、そのメリット・デメリットを見極めたうえで階層数を設定する必要があります。このKPIは短期的に用いられることはほとんどなく、経営陣が中長期的な観点からベストの在り方を模索していくものです。組織が若い段階では、ある程度までは増やすことが多いですが、7段階を超える階層が必要かは要検討でしょう。7段階の典型的イメージは、「社長‐事業本部長‐事業部長‐部長‐課長‐係長‐一般社員」です。仮に平均のスパン・オブ・コントロールを7人とした場合、この階層でもおよそ13万7000人の組織は運営可能です。スパン・オブ・コントロールが平均4人の場合でも、およそ5000人まではこの階層で事は足ります。10以上の役職があったり、稟議書に10個以上の判子欄がある企業は一度この階層数を見直してもいいかもしれません。階層数の多さは、見た目の昇進の機会を増やしやすいことも意味します。副部長や部付部長、部長代理といった一見よくわからない役職も、そうした階層をあえて設けることで「昇進した」ということを明示的に見せる役割もあるのです。それゆえ、階層を減らすことが難しいという場合もあるのです。関連KPIスパン・オブ・コントロール、意思決定スピード
一般的に、従業員の満足度が高いことは、活気のある職場や提供する製品・サービスの品質の高さにつながるとされます。なお、サービス・マネジメントの世界では「サティスファクション・ミラー」という考え方があり、従業員の満足度が高いとサービスレベルが上がる→顧客が満足し、従業員に対して好ましい態度をとってくれる→さらに従業員満足度が上がり……というサイクルが回ることが知られています。この指標は通常、アンケートで数字を集め、平均を出します。その際、トータルとしての満足度のみを見るのではなく、項目ごとのバランスを見る必要があります。例えばオープンワークという転職サービスサイトでは、「待遇面での満足度」「人事評価の適正感」「法令順守意識」「人材の長期育成」「20代の成長環境」「社員の相互尊重」「風通しのよさ」「社員の士気」といった項目で現・元従業員の評価を集め、企業ごとのスコアを出しています。他にも独自の調査結果を出しているサイトはあり、業界他社と比較する際の参考情報となります。一般的に、5点満点で4点以上あれば、従業員の満足度としては大きな問題はないとされます。逆に3点を切るような場合は、満足度は低いと考えていいでしょう。この数字を意識するのはまずは経営者や人事部門ですが、企業によっては事業部や部署ごとにこの数値を調べ、問題がないかを確認するケースもあります。経年変化や、先述のようなサイトにおける情報を参考に設定されます。先述したように総合の数字だけを見るのではなく、企業ごとに要素を細分化し、満遍なく高くなることを意識します。レーダーチャート[★23]にした場合、でこぼこの少ない広い面積の多角形となっていることが理想です。この指標は多くの場合、「働きやすい会社」の指標とも高い相関を示します。それゆえこの数字が高いことは採用などでも有利に働きますし、企業イメージの向上を通じて消費者にも好印象を与えることがあります。一般消費者に身近な消費財メーカーやサービス業では特にその傾向が強くなります。そこで積極的に外部に公表する企業もあります。部署間で比較する場合、通常、同じ企業の中で報奨制度やオフィス環境に大差があることは少ないので、通常は事業部長以下、マネジャーの力量を反映することになります。満足度が低くなっている原因を特定し、つぶすことが必要です。その際、年代や役職ごとなどにブレークダウンしてみると問題点の特定が容易になります。一般にこの数字は高い方がいいのですが、ある程度のレベルはクリアしていても問題があるケースがあります。例えば通常、高い報酬は高い満足度につながりますが、「働かなくても高給をもらっているシニアな社員」が多いと、企業としての中期的な競争力は小さいわりに、見た目の満足度はそこそこの数字になってしまったりするのです。関連KPIカルチャーサーベイ、従業員1人当たり人件費、福利厚生費、従業員エンゲージメント指標
良き組織文化は良き組織の必要条件といえます。それが浸透していれば、いちいち上司に指示を仰がなくてもよくなるため意思決定のスピードも上がりますし、求心力も高まります。また、通常はモチベーションも上がっていきます。人々の意識や行動を自ずと導くものが組織文化ともいえます。そこで企業としては適宜カルチャーサーベイを行うことにより、望ましい組織文化が実現されているかをチェックするのです。企業にもよりますが、少なくとも十数項目、多い場合は50を超える項目についてアンケートを行い、チェックします。前記のように、項目数は企業によって大きく異なってきます。ただし項目数が多すぎると(例:150項目)、答える方も適当に答えるようになる比率が増しますので、本当に重要なものに絞り込むことが必要です。アンケートは通常5段階評価で行うことが多いようですが、そうするといわゆる中心化傾向で「3」につける人が増えます。そこであえて6段階評価にして中間点の「3・5」がつかないように工夫している企業もあります。企業にとっては、当然ですが、より重視したい価値観を反映している項目の点数に注目をします。例えばベンチャー精神を重んじる企業であれば、「積極的に新しいことにチャレンジしている」の項目の方が、「いつも慎重に考えている」よりも重要度が上がるということです。逆に銀行のような業界であれば「ミスや法令順守違反に対してシビアに捉えている」といった項目がより重視されるべきでしょう。なお、アンケートは定量的な数値測定だけではなく、定性コメントも記してもらうとより多面的な対策が可能になります(ただし、声の大きい不満を持つ人間の意見が増幅される可能性もあります)。この指標は企業間比較はそれほど意味がありません。同じ業界であっても実現したい組織文化は違うことが多いですし、そもそも他社の情報は通常手に入らないからです。そこで重要になるのが時系列の比較や部署間での比較です。実際、同じ企業内であっても、5点満点で部署によって1点近く差がつくといったケースもあります。時系列の変化については、回答者の属性などとあわせて細分化するとより実態が見えてきます。例えば「フレンドリーなコミュニケーションが行われている」という項目について、マネジャー層や在籍年数が長い人間ほど点数が高いのに、一般従業員や社歴が短い人間は点数が低い場合、そこに大きな見解の相違が生じていることがわかります(なお、属性についてはあまり細かくとりすぎると、回答者が、個人が特定されるという懸念を抱く可能性がありますので、必要以上に細かく属性をとることは避ける方がよいでしょう)。通常のKPIはそれに基づいてスピーディにPDCAサイクルを回していくことが必要ですが、企業文化はそう簡単に変わるものではありません。もちろん経営陣や管理職は、何か問題ありと判断した項目については何かしらのアクションをとるのですが、効果が出るのが遅いこともあり、なし崩しになることも少なくありません。問題があると判断したものについては、しつこくそれを解決するアクションをとること、そしてそれを社内に発信することが必要です。関連KPI従業員満足度
従業員一人ひとりをいかに教育し、戦力化するかは、企業にとって永遠の課題です。この数値が大きいほど、従業員の能力やパフォーマンスを向上させるための人材開発投資を積極的に行っていることを意味し、人材開発に熱心な企業といえるでしょう。この数字が全くないのは大問題ですが、大きければいいというものでもありません。例えば研修ばかりやっていて本業に割く時間が減り、売上げが下がって見た目の1人当たりの人材開発投資が増しても本末転倒だからです。また、内容面でのブレークダウンも必要です。例えば、新卒採用者向けと中途採用者向けの研修や、若手社員向けと管理職向けの研修とでは、その目的や内容などは当然異なってくるでしょう。新人や非管理職層には手厚い一方、課長以上については自己責任に任せるというのではバランスが悪いといえます。難しいのは、業務外のいわゆるオフジェイティ(Off‐JT)の研修などの費用はわかりやすい反面、オンザジョブ(OJT)の人材開発については、その投資額も効果も測定しにくいという点です。また、オフジェイティにせよオンザジョブにせよ、本来は費やした時間などの機会費用(その時間があれば生み出せた別の成果)についても考慮する必要があるのですが、その測定は容易ではありません。この数字を気にするのは通常は人事部や経営陣です。絶対的にこれが正しいという数値を設定するのは難しいものの、過去の経験などを参考に目標設定することが多いようです。また、人事部は他社の人事部と横でのつながりが意外とあり、研修業者に関する情報共有なども結構なされています。そこで得た情報なども参考に、目標数字を極端にオーバーしない範囲で、さまざまな取り組みを行っています。例えば、かつては課長や部長など階層別に一律に研修を行うことが多かったのですが、最近では、計画的に将来の経営幹部候補を選抜して研修を受けさせる企業が増えています。この数字が高いことは、人材採用の際の武器にもなります。特に論理的思考力やコミュニケーション、マーケティングやアカウンティングなどに代表されるマネジメントスキルは、ポータブルスキル(企業が変わっても持ち運べるスキル)の代表です。企業を選ぶ人間にとって、そうしたスキルを会社のお金で身に付けることができるのは非常に魅力的なのです。より厳密にいえば、人事部の育成部門スタッフの人件費といった間接費も人材開発投資の一環ともいえます。時系列比較などを行う際には、どこまでの数字を含めるかをしっかり定義したうえで実施する必要があります。なお、人材開発投資は、マネジャーやリーダーの育成、さらには業績に効いてくることが理想ですが、必ずしもそうならないという難しさは常に付きまといます。例えばゼネラル・エレクトリック(GE)は人材開発に大きく投資する企業として知られ、実際に一時は時価総額世界一になりましたが、ここ数年間は株価も低迷し、業績は冴えません。優秀な人材育成のためにはお金や手間は必須ですが、それは必ずしも企業としての成功を約束しないのです。関連KPI社外研修比率
今やダイバーシティ、さらにはインクルージョン[★24]が組織の生産性を上げるうえで重要なカギとなることは衆目の一致するところです。一方で、日本では歴史的背景などさまざまな事情から女性の企業での活躍が遅れてきました。この数字が高いこと(あるいは上昇していること)は、一般には積極的に女性を登用しようとしていること、さらには多様性のある組織を実現しようとしている意図の表れと見ることができます。この指標が低すぎるのは問題ですが、単に高ければいいというものでもありません。例えば女性比率80%となっていても、その実は一般職的社員が多いからであったり、業務上の必要性から女性スタッフが多いだけ(例:アパレル販売、美容整形クリニックなど)で、マネジャー以上はむしろ男性が多いというのではあまり意味がありません。もちろん業態ごとに望ましい女性比率は変わって当然ですが、可能であれば一般社員層、管理職層、経営層でバランスよくこの数字が適切な範囲にあることが望ましいでしょう(筆者は以前、顧客の90%以上が女性であるにもかかわらず、役員会が男性ばかりの会社を見て「大丈夫かな」と思ったことがあります)。最近では、「管理職層以上の女性比率を30%以上にする」などの明確な数値目標を掲げ、あわせて人材育成や産休・育休、再雇用などの制度を充実させるなど、女性活躍を推進する企業が増えています。これは優秀な女性を採用するうえでも大きな武器となります。特にグローバル化が進む現在、海外の優秀な女性を採用するためにも、より上位ポジションでの女性比率向上が望まれます。この指標は右記でも少し触れたように、全体を見るだけではなく、階層別や部署別の比率にも配慮する必要があります。部署でいえば、外資系の企業であっても、いわゆる4R(Humanresources、Publicrelations、Investorrelations、Customerrelations)の部署に女性が多い傾向がありますが、そこで数字をかさ上げするのは好ましいことではありません。営業や研究開発といった男性が多くなりがちな部署でも、一定レベルの目標値を設定するといったことも必要でしょう(もちろん、機械系の開発職のように、そもそも女子学生が少なく、その会社だけの力では女性比率を上げにくいケースもあるため、人材市場の状況も勘案します)。この数字がバランスよく高いことは、先にも触れましたが、優秀な女性を採用するうえでの武器となります。実際にそれで躍進したのがかつてのリクルートです。また、同じ属性の人々が増えることは孤立感を低下させたり、いざというときに頼れる仲間を増やすことにもなります。それは彼女らの働きやすさを増すことにもつながりますので、「この部署では女性は紅一点Aさんだけだ」という状況はなるべく作らない方が望ましいといえるでしょう。管理職の女性比率を高めるために、アファーマティブアクション(ポジティブアクション)[★25]がとられることもありますが、これはやり方次第では本人を苦しめることになりますし、男性社員からの反発も招きかねません。女性比率を高めることの意義をしっかり全社に浸透させたうえで、適切なサポート体制があることが望ましいといえます。関連KPI外国人比率、女性の離職率
昨今、「ブラック企業」という言葉がはやっています。ブラック企業の定義はさまざまですが、一般的には従業員の労働環境が明らかに劣悪である場合を指すことが多いようです。その逆のホワイト企業は従業員にとって働きやすい企業とされています。有給消化率は、企業のホワイト度合いを見る指標の1つといえます。日本企業は世界的に見ても有給消化率の低い国とされ、先進国の中では常に下位の常連でした。そこで政府も業を煮やし、年5日の有給休暇を確実に取得させることを罰則規定付きで法制化しました。それくらいしないと、日本の企業では有給が取得しにくいのです。現実の数字については、東洋経済オンラインが、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2019年版掲載の1501社のうち、有給休暇取得率を開示している1244社を対象とした有給取得率ランキングを掲載しています。それによれば、トップはホンダ、2位はホンダ系の部品メーカーであるショーワとなっており、いずれも99・5%の有給消化率です。ただしこのランキングは、基本的に働き方の改善に理解のある大手企業が対象となっているという点には留意すべきです。このランキング最下位の東北電力ですら、有給消化率が65・2%となっていることからもそれがうかがえます。一般にこの指標は余裕のある大企業の方が高く、また生産計画が立てやすいメーカーの方が高くなる傾向にあります。伸び盛りのベンチャー企業などでは仕事そのものを楽しんでいる従業員も多いため、この指標が低いからといって従業員の満足度が低くならないケースもあります。また、コンサルティングなどのプロフェッショナルファームではアウトプットの高さが強く期待されるため、従業員も最初から有給取得を期待しておらず、この指標にあまり関心がないというケースもあります。この指標の目標を設定する際には、まずは業界平均を意識します。実際にその数字が取りにくい場合もありますが、ネットの情報や関係者(他企業をやめた人など)の言葉などからラフな数字を推定することはできます。この指標はまずは会社で見ますが、部署ごとの比較も重要です。ある部署のみ実際の取得率が低いのであれば、経営側からの指導も必要でしょう。もちろん、新事業立ち上げ期にあるなどの個別の事情は斟酌する必要があります。業界平均に比べてこの指標が高い場合、リクルーティングの際の武器に使うことも可能です。特に近年は会社に縛られたくないと考える人や、ワークライフバランスを重視する人間が増えていますので、ホワイト度の高さは採用において有利に働くケースが多いのです。企業のホワイト度は他の指標とあわせて見ることも必要です。例えば有給消化率が高くても残業時間が多くては意味がありませんし、ましてやサービス残業が多いようでは失格です。また、ホワイト度を過度に高くすることはQCDに代表される企業の競争力を損ねる可能性もあるので、経営者としては高度なバランス感覚が求められます。関連KPI平均残業時間、従業員満足度
企業がゴーイングコンサーンとして活動を続けるためには、どんどん採用して新しい血を入れ続ける必要があります。採用は一般的に「応募→書類スクリーニング→面談→内定→入社」といったプロセスで進められます。内定の辞退率が高いことは、それまでのプロセスにかけた手間暇を無駄にし、採用効率が悪いこと、あるいは企業の採用に関する競争力が低いことを意味します。この数字は一般には公表されていませんから、社内で用いるKPIとなります。新卒採用と中途採用で意味合いが異なってきますが、まずは新卒採用について考えましょう。新卒の内定辞退率が高い理由は大きく2つに分けられます。1つはその企業の魅力度が低く「滑り止め」として使われてしまうということです。大学入試と同じ構造です。これは急に上がるものではないので、中長期的な視点で企業の魅力度を高める必要があります。もう1つは、本来魅力度はあるのにそれが十分に学生に伝わっていないというケースです。この場合は人事部や広報、リクルーターなどが魅力度を正しく伝える努力が必要です。中途採用のケースでは、こうしたことに加え、「本人はその気なのに転職そのものを行わなかった」といったケースも追加されます。古くは「嫁ブロック」という言葉が使われたこともあります。本人(この場合は男性。特に大企業勤務)は転職する気が満々なのに、妻(さらには妻の親)に相談して猛反対され、元の企業にとどまるというものです。近年では妻の転職に夫側が反対するという例も増えています。このように企業ではなかなかコントロールしにくい要素がさらに加わるのが採用の難しさです。この指標は競合と比べることは普通はできませんから、企業内の経年の数字を参考に設定されます。通常は人事部門が責任を持ちます。採用市場に大きな変化がないのであれば対前年並み、あるいはそれを少し上回るように設定するのが一般的です。新卒採用と中途採用では分けて設定することが多いです。この数字が比較的安定している場合は、必要な採用数とこの指標から逆算して内定数を決めることができます。難しいのは、大きな環境変化が起きたときです。例えば当該の企業の不祥事が報道された場合などは一気に辞退率が増える可能性があります。それを正確に予測するのは難しいですが、どうしても採用数を確保したい場合は、この指標を高めに設定し、内定数を決めることもあります。採用の際のプロセスの向上を図ることで内定辞退率を下げることもできます。その際のカギは、内定辞退しそうな候補者をプロセスの早い段階で落とすことです。これが適切にできれば、その後工程にかける手間暇を削減でき、全社的な生産性が上がります。質問に対する受け答えなど、そうしたノウハウをいかに組織内に蓄積するかが大切です。研究所の基礎開発や営業における「筋のない見込み顧客」の見極め同様、「失敗するもの」を早めに発見し、それにリソースをかけすぎないことは有効なのです。内定辞退率を下げる1つの方法に、「競争力のない候補者に内定を出す」というものがあります。つまり、自社以外内定が出ないと思われる候補者に内定を出すわけです。しかしそれでは中期的に競争力のない会社になってしまいます。当然のことではありますが、実際に採用した人材の質へのこだわりも必要です。それを重視する企業では、あえて高い内定辞退率を甘受してでも質の高い人材の採用にこだわることがあります。関連KPI内定数、従業員増加率
昨今、企業統治(ガバナンス)の在り方に非常に注目が集まっています。ESG投資[★26]の人気の高まりなどもその文脈上にあります。また、日本でもスチュワードシップ・コード[★27]が定められ、ガバナンスが不十分な企業に対しては取締役の選任に関してNOを突き付ける機関投資家(特に海外投資家)も増えてきています。経営陣が暴走しないよう、適切なガバナンス体制を構築することは、特に大企業にとっては必須の要件であり、その代表的な指標が社外取締役比率なのです。この数字は、金融庁の通達によれば、上場企業の場合、可能であれば3分の1を超えることが望ましいとされます。実際に上場企業に関しては、2019年の段階で平均3割に達したというニュースがありました。上限については特に取り決めはありませんが、ソニーのように7割以上が社外取締役という企業もあります(ただし執行役員を含めればその比率はもっと下がります)。一般論としては、外国人株主の比率が高く、グローバル化を進めている企業ほど社外取締役の比率が高くなる傾向があります。上場企業に関しては、近年のトレンドを踏まえた場合、社外取締役の比率を3分の1以上に高めることはほぼ必須といえるでしょう。それを下回るようだと、代表取締役の選任にすら機関投資家からNOの意見が寄せられる可能性が高いからです。とはいえ、形だけの社外取締役を増やすことには問題もあります。社外取締役の本来の目的はガバナンスの強化であるはずですが、あまりに経営陣と近しい人材ばかりを選んでいては、チェック機能が働きません。一方で、識者ならいいかというとそれも難しいところです。というのも、経営者に対して時には「それはダメだ」といえるような人材はそれほど多くはないからです。事実、人気のある社外取締役は奪い合いの状況を呈しており、時間的に本当に社外取締役としての機能を果たせているのか疑問といえるケースも散見されます。企業としては、実力と胆力を持った社外取締役がいることが望ましいのですが、そうした人々を確保することは必ずしも容易ではありません。社外取締役のダイバーシティも大事です。先進的な企業においては、社外取締役のダイバーシティも多様で、外国人や女性も数多く含まれるのが一般的です。また、学識者など、通常のビジネスパーソンとは異なったバックグラウンドの人間も少なくありません。多面的なチェック機能やアドバイスが求められている時代にはこの観点も非常に重要です。関連KPI取締役数、女性取締役比率、外国人取締役比率
SDGsは持続して人類が環境などを守りながら発展するために世界的に取り組むべき課題を示したもので、具体的には17の目標と169のターゲット、232の指標より成ります。当面の目標は2030年までにこれらを達成することです。企業も地球市民の一員であり、社会や環境から多大な恩恵を受けている以上、それに適切な恩返しをすることは当然といえます。また、昨今の若者世代はこうしたことに関する企業の取り組みに敏感とされます。SDGsは範囲が広いため、一企業がすべてのテーマに関して貢献することは難しいものがあります。しかし、それでも多くの活動に貢献している企業は、地球や人類に優しい経営を行っているといえるでしょう。多くの企業がSDGsに関する取り組みを行っており、その取り組みを独自の方法で公表しています。大企業であれば今やホームページから「SDGsへの取り組み」といったページにアクセスできるようになりつつあります。ただし、共通の「モノサシ」があるわけではないので、その比較は必ずしも容易ではありません。このKPIに第一義的に責任を負うのは経営者です。それゆえ、経営者と担当役員が中心となって具体的な目標や取り組みの方向性を設定することが多くなっています。SDGsへの貢献の高さは、消費者や株主に対して好ましい印象を与えるだけではなく、採用力強化や従業員のモチベーション向上にもつながります。目標設定に当たっては、自社の経営理念や自社の強み、投資対効果、業界他社の動向などを考慮します。SDGsは今や経営マターですから、担当者に任せておしまいではありません。またアリバイ的に形を作ればいいというものでもありません。経営者の本気度を示すためにも、単に項目を並べ立てるだけではなく、それらに対する真剣度を示すことが必要です。COLUMNSDGsの問題に取り組む際には、単なるCSR(CorporateSocialResponsibility:企業の社会的責任)ではなく、CSV(CreatingSharedValue:共有価値の創造)の発想を持つことが大事です。これは、単なる慈善活動ではなく、企業の強みやそれを活かした活動を通じて社会に貢献するという発想です。例えば水資源の技術を強みとして持つ企業は、新興国においてビジネスを行いながら、それを通じて水質浄化を推進することにより、伝染病の低減や下痢等による子どもの死亡数低減などに貢献できるのです。関連KPI
CSR(企業の社会的責任)への取り組み、コンプライアンス違反件数
CHAPTER5用語解説[★20]フォロワー:これといった強みを持たないシェア中位の企業群。業界リーダーの戦略の模倣や低コスト戦略で戦うことが多い[★21]被雇用能力:特定の企業にだけではなく、広くさまざまな企業に採用されるだけの能力、あるいはそれを持ち合わせていること。特定の企業の内情に通じていることや、特定の企業でのみ生きる能力は、広範な被雇用能力に結び付かない[★22]組織変革:戦略はもちろん、そこで働く人々の意識や行動(言い方を変えれば組織文化)を変えることで組織を望ましい方向に向かわせること[★23]レーダーチャート:クモの巣状に360度に向けて棒線を書き、全体のバランスを見るグラフのこと。各項目の最高点は同じとし、項目間の間隔(角度)は等間隔とする。例えば8つの項目でレーダーチャートを書く場合には、項目間を45度ずつ開けてきれいなクモの巣状になるようにする[★24]インクルージョン:企業のすべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの強みが活かされ、また相乗効果が生じている状態を作ること。元の意味は「包含」[★25]アファーマティブアクション(ポジティブアクション):それまで不当な差別を受けてきた人々を積極的に登用したり選抜する制度。女性の登用やマイノリティ人種の登用などがその典型。北欧のように政治(国会議員)レベルでそれを実現している国もある[★26]ESG投資:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資[★27]スチュワードシップ・コード:他人の資産を運用する機関投資家の在り方に関するガイダンス
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