神話▼シングルタスクは、周囲の人たちを失望させる。
現実▼シングルタスクは、接している相手に完全に集中することを意味する。
人中にいるときは一挙手一投足に周囲への敬意をこめるべきだ。
——ジョージ・ワシントン「シングルタスクって、つまりはすごく自分勝手な行為だよね。
まわりを切り捨てて自分のことしか考えないわけだろう?」と、これまでに何度も問われてきた。
その答えは「ノー」……断じて「ノー」だ。
シングルタスクは利己的なものではないし、高慢なものでも、無礼なものでもない。
シングルタスクは人のためになり、あなたのためにもなる。
それはよき手本を示すことであり、さらには「いまここ」に集中することで結局は人の役に立てるのだ。
「目の前」に意識を集中させる先日私は、ニューリーダーを育成する研修の進行役を務めた。
目的は、ある企業の幹部に就任したばかりのリズが、前任者から引き継いだ総勢30名のチームとの信頼関係を深めることにあった。
リズが私に研修の依頼をしてきたのは、自分がリーダーとして率いるチームと意思疎通をはかりたいと考えたからだ。
そこで彼女は、わざわざ時間と人的資源を投入し、オフィスとはべつの場所で一日がかりの研修をおこない、部下たちと強力な信頼関係を築くことにしたのである。
研修は午前9時きっかりに始まった。
ところが当のリズが、45分遅刻した。
彼女は息を切らして会場に到着し、「オフィスをでようとしたところで、トラブルが発生したもので」と言い訳をした。
それが不吉な前兆だった。
研修がおこなわれている時間の半分以上、リズは会場の外にいた。
研修に丸一日拘束されると考えれば、たしかに8時間は長く感じられるかもしれない。
だが真剣に取り組めば、8時間などあっという間だ。
「ニューリーダー」であるリズは、自分にマルチタスクをこなす能力があることを自負していた。
そしてチームとの信頼関係を築くプログラムを達成するたびに(すなわちその日のスケジュールを消化するたびに)チェック項目を消していった。
それと同時に、オフィスにしょっちゅう連絡をいれては、あれこれ指図をしていた。
そんな真似をしなくても、オフィスに戻ってから指示をだすほうが効率的だろうに。
オフィスで生死にかかわる問題が生じているわけではないはずだ。
なにも手術中の脳外科医にちょっとでてきてもらい、チームの問題を解決してもらっているわけではない。
結局、リズは多くの時間と人的資源を投入しながら、研修を無駄にした。
そして、当初の目的とは正反対の結果を招いた。
「チームのために本気で尽くしていない」という事実を身をもって部下たちに示してしまったのだ。
言葉より「行動」のメッセージが強い当然、研修の成果はあがらなかった。
たしかに社員同士は絆を強めることができたし、有益なコミュニケーションのスキルを習得することもできた。
だが研修終了後におこなったアンケートには、「そもそも、なぜチームリーダーが席を空けていたのか?」といった疑問が数多く書き込まれていた。
リズが研修に集中しなかったせいで、「こんどのリーダーはチームのことを本気で考えていない」という印象を強めてしまったのだ。
その日の研修でチームは、リーダーへの不信感をつのらせたのである。
企業幹部のご多分にもれず、リズも多忙をきわめている。
だが、忙しそうにしているだけでは、部下に「あなたたちのことを心から気にかけている」という印象を与えることはできない。
そうした印象をもってもらうには、心身とも「いまここ」にいることが肝要となる。
リズは、チームメンバーに「私はあなたたちのことを最優先に考えています」と言っていたが、行動でその言葉を裏切った。
研修のあと、ある参加者から私のもとにメールが届いた。
そこには、元国務長官ルイス・カスの「発言を疑われても、行動で示せばかならず信じてもらえる」という言葉が引用されていた。
この名言は真実をついている。
行動は言葉より多くのことを物語る。
あなたはこの事実を有効活用したほうがいい。
そのほうが、リーダーシップ研修によってほかのスキルの習得に投資するよりもはるかに大きな見返りを期待できる。
事実、心理学者ダニエル・ゴールマンがリーダーシップに関する調査を実施したところ、すぐれた管理能力を発揮するには、対人関係の能力が、知能(IQ)や技術的熟練度の2倍、重要であることがわかった。
短い時間でも「全力」で取り組むこの「リズ事件」の数か月後、私は同様のリーダー育成プログラムをある組織でおこなった。
そのときも、幹部のリカードが遅刻した。
とはいえ、彼は事前に電話で遅刻する理由を説明した。
仕事で緊急事態が生じたという納得のできる理由だった。
そして開始時刻から20分ほど遅れてやってくると、謝罪し、すぐさま全力で研修に取り組んだ。
そして職場から離れた会場にいるあいだ、オフィスに連絡をいれるだけのもっともな理由があったにもかかわらず、目の前の作業に没頭した。
リカードはまた、自分の性格で改善したい点を率直に認めた。
組織の力を伸ばしたいという願望があってのこととはいえ、ミーティングの最中につい熱くなり、冷静さを欠いてしまうところがあると自己分析もした。
とはいえ、人は相手に完璧さなど求めない。
ただ相対したときには互いに胸襟をひらき、率直に意見交換をしたいと思うだけだ。
プログラムを終え、アンケートを実施したところ、「今回の研修でよかったと思う点」としてもっとも称賛されたのは、リカードが本気でプログラムに取り組み、周囲とオープンに関わったことだった。
その結果、幹部と中間管理職のあいだの溝を埋めることができそうだという希望が、組織のなかに生じた。
シングルタスクを実践するリーダーは、仕事にもチームにも責任をもって関わっていることを、身をもって示す。
いっぽう、どんな言い訳があるにせよ、マルチタスクに腐心するリーダーは、傲慢で部下を軽視していて、チーム統率に無関心だと誤解される。
そうなれば、組織崩壊を招きかねない。
相手を「尊重」していることを示すクライアントのサミュエルから、元国務長官ヘンリー・キッシンジャーと出会ったときの興味深い話を聞いたことがある。
30年ほど前、サミュエルが暮らす町で開催された講演会に、キッシンジャーが招かれた。
ところが旅行鞄が紛失し、キッシンジャーの着替えのシャツがなくなってしまった。
そこで、当時はまだ若く、講演会でボランティアを務めていたサミュエルが、あわててシャツを買いにでかけた。
サミュエルは、そのときの体験をこう話してくれた。
「買い物から戻ってくると、キッシンジャーは礼を言い、ぼくが選んだシャツを受けとった。
彼はそのあいだずっとぼくの目を見つめつづけていた。
一度もほかのところに注意をそらすことなく、ぼくだけに意識を向けてくれた。
すべてのことを排除し、ぼくだけに集中するという努力をしてくれた彼のことを、ぼくは一生、忘れないだろう。
キッシンジャーは、まるでぼくが宇宙で唯一の人間であるかのように思わせてくれた。
もちろん、一緒にすごした時間は短かったが、あのときの強烈な印象は
いまも鮮やかに残っている。
キッシンジャーは、さまざまな責務を負った偉人という言葉では表現しつくせない人物だ。
彼には、ぼくに礼を尽くし、きちんと対応する必要などなかった。
それでも、彼はぼくのことを思いやってくれた。
あの能力が、世界を相手にする外交家としても大いに役に立ったのだろう」この光栄な出会いがあった当時、サミュエルはまだなんの権限ももたない若者だった。
それでもキッシンジャーは、一緒にすごしたわずかな時間、注意をすべて目の前の若者に向けた。
これによって、サミュエルはキッシンジャーが自分に謝意を示し、敬意をもって接してくれたことをずっと覚えているというのだ。
尋常ならざる多忙な日々を送る人間でも、目の前の相手に完全に集中できることを、キッシンジャーは体現したといえるだろう。
マルチタスクだと「信頼できない」と思われる「聴く」と「聞く」とでは、意味合いが異なる。
「聴く」という姿勢には、相手への敬意があり、信頼関係を築こうとする意志がある。
だから本気で相手の話を「聴く」にはエネルギーが必要であり、真摯に取り組まねばならない。
私は仕事でよく人材の「360度評価」(部下、同僚、上司の視点から評価をする方法)を実施する。
その結果を見ていると、経営幹部に対するもっとも辛辣なコメントに「信頼できない」といったものがよくある。
これは、その人物が腹黒だという意味ではない。
ただ、そう評価されるリーダーはたいてい、スタッフが望んでいることに十分に注意を払っていない。
相手に100パーセント集中できていないとき、たいてい人はマルチタスクを試みている。
だが、ほんの数分、目の前の相手に集中するほうが、複数の作業を試みながら1時間に及ぶコーチングの講習会を受講するより、よほど効率がいい。
先日、私はあるクライアントの男性と話をしていた。
彼は、新たに迎えた上司について、こんな話をした。
「新しい上司は、私のことを尊重してくれています」「尊重されていることが、どうしてわかるんです?」「私の話を親身になって聴いてくれるんですよ。
私も上司の話を真剣に聴いていますから、私が上司を高く評価していることが、本人にも伝わっているはずです」「ただ聴く」だけで信頼される相手の言葉の真意を汲みとろうとする「アクティブ・リスニング」(積極的傾聴)の有効性をセミナーで説明するにあたり、私はよく参加者のひとりに職場でのひとコマを演じてもらう。
私自身は、よくいるタイプの——あなたにも心当たりがあるはずだ——うぬぼれの強いマネジャーの役を演じ、参加者にはその部下の役を演じてもらう。
部下役の参加者がいま抱えている問題について、上司役の私に報告するのだが、私は話を聞きながらマルチタスクをしようとしている。
デスクを整理したり、メッセージに手早く返信したり、クライアントとのプレゼンの準備をしたりしながら話を聞いているのだ。
当然、部下からなにを尋ねられても、いいかげんに返事をするだけだ。
話が終わったところで私は、「いつでも好きなときに立ち寄ってね、歓迎するわ」と、部下役に声をかける。
こうして役を演じたあと、部下役を演じた参加者に、次の2つの質問を投げかける。
1.きちんと話を聴いてもらえたように感じましたか?2.なにか問題が生じたら、また私に相談したいと思いますか?どちらの答えも、例外なく「ノー」である。
さて、ここからが本題だ。
すっかり上司を信頼できなくなっているその参加者に、再度、部下役を演じてもらうことにする。
こんども参加者は、まったく同じ問題を上司に相談する。
ところが今回、上司役を演じる私は椅子に腰を下ろし、そばに座るよう参加者に声をかける。
私は話を聞いているあいだ、ずっとアイコンタクトを続け、話の内容についてよく思案する。
そして、相手の話に完全に集中する。
このパターンにはもう一つ、重要な変化をくわえる。
上司が大切なクライアントとの打ち合わせを控えているという設定にするのだ。
そこで私は事前に、部下の相談に乗る時間が「数分しかない」ことを告げる。
さらには相談されたあと、部下の問題をなに一つ解決しない。
ただ「問題解決に向けてこれまでどんな手を打ってきたか」「次のステップとして、これからどんな行動をとればいいと思うか」を尋ねるにとどめるのだ。
人の相談には「5分間」集中するこうして2つのパターンを演じたあと、「第1のシナリオと第2のシナリオでは、どちらのほうが時間がかかりましたか?」と、私は参加者たちに尋ねる。
そのとき部下が抱えている問題がどんなものであれ——問題の内容は参加者が決めるため、毎回異なる——きまって参加者は第2のシナリオのほうが時間がかからなかったと答える。
また、セミナー全体の振り返りをするなかで、私は部下役を演じてくれた参加者に「時間が少ししかないことを事前に告げられ、意欲が失せましたか?」と尋ねることにしている。
すると、その点について気にする人はいないことがわかった。
人は、相手が自分の都合にあわせてくれないからといって、侮辱されたように感じるわけではない。
たった5分でもよそ見をせず、話に集中してくれるほうが、長時間、ほかの作業をしながら話を聞かれるよりもよほどいいのだ。
同時に複数の作業をこなそうとしていると、相手にとっては、自分と会っていることよりも、ほかの作業の優先順位のほうが高いように見えてしまう。
実際には相手に集中したほうが相手の満足度が上がり時間も短くてすむにもかかわらず、身をいれて話を聴かない人が使う言い訳の筆頭は「時間がない」だ。
相手の「本当のメッセージ」を見抜く身をいれて話を聴けば、相手が発する言葉以外のさまざまなシグナルに気づき、深いコミュニケーションをとることができる。
会話に没頭すれば、相手が無意識のうちに送っている本音のメッセージに気づくからだ。
ほんとうは心配していること、わくわくと胸を高鳴らせていること、怖気づいていることなどが伝わってくる。
なにげないしぐさ、口調の変化、ボディランゲージなどに、そうした本心が潜んでいる。
ふいに小声になったり、笑みを浮かべたり、不安そうな視線を送ったりしていないかどうか、注視しよう。
目の前の相手に集中するのは、いわば「レントゲン画像」を入手するようなものだ。
ぱらぱらと画像をめくり、相手が言葉で表現している気持ちより、もっと深い心の奥底までのぞきこむことができる。
このように、話を聴くときはつねに集中しよう。
その頻度が高まるにつれて、「あの人は私のことをほんとうによくわかってくれている」と思われるようになる。
問題解決に向けた明確な目標を念頭に置いて会話に没頭すれば、「職場の対人関係が改善する」「契約を獲得できる」「昇進できる」といった見返りが得られる。
そして「どんな言葉が人を動かすか」といった人間心理についても、深い洞察を得られるはずだ。
「敬意を感じるシグナル」をリストにするあなたが尊敬する人が、あなたやほかの人に敬意を示してくれたときのことを思いだしてみよう。
あなたはどんなシグナルによって「自分が尊重されている」と感じただろう?そうしたシグナルをリストにして、ノートなどに10個書きだしてほしい。
私のクライアントがリストとして挙げた次の例を参考にしてもらいたい。
1.アイコンタクトをしてくれた。
2.私に名前を尋ね、会話中、名前で話しかけてくれた。
3.私の居心地がいいかどうか、気にかけ、思いやりを示してくれた。
リラックスできるよう気を配ってくれた。
4.しっかりと手を握り、力強い握手をしてくれた。
5.こちらに意見を求め、「あなたに関心をもっていますよ」という気持ちを態度で示してくれた。
6.一方的に上から目線にならず、お互いに貢献し合える関係であることを明確に示してくれた。
7.謝意を示してくれた(「いい仕事をしてくれました、ありがとう」と礼を言ってくれた)。
8.私に関する知識を得て、覚えてくれた。
9.業績など、私が達成したことを覚えていて、褒めてくれた。
10.私に会えたことをよろこんでくれた。
このリストとあなたのリストに、共通点があるだろうか?こうしたシグナルを発することをつねに意識し、行動している人は、シングルタスクを実践している人でもある。
人の「期待」をコントロールするシングルタスクを実践すると、人に無礼だと思われるのではないかと不安に思う人もいるだろう。
「シングルタスクに集中するには、まわりを遮断しなければならない。
だが人からの要請にはすぐに応じないと相手に失礼だから、シングルタスクなんてできない」と。
シングルタスクを実践するには、自身の「習慣」を変えるだけでなく、ほかの人があなたに寄せる「期待」も変えていかなければならない。
ここが、一筋縄ではいかないところだ。
「目の前の仕事をやりとげるにはひとりになる時間が必要だ」と思うのであれば、そうした自分の欲求を尊重しよう。
「仕事中に邪魔が入るとむしろ刺激を得られていい」という人もいるだろうが、その反対に「干渉を受けずに仕事に取り組むからこそベストを尽くせる」という人もいる。
あなたの仕事スタイルが、邪魔を最小限に抑えたいタイプなら、そのスタイルを貫くことが自分の責務だ。
すべての質問や問い合わせに、即座に応じる必要などない。
そもそも、そんなことは不可能だし、そんな真似をしていたらすぐに燃え尽きてしまう。
人から連絡が入ったら、「ご連絡くださり、ありがとうございます」と応答したうえで、いつきちんと返信できるかを伝えれば、相手の「期待」をコントロールすることができる。
いざ返信する段になったら、その作業に集中しよう。
肝心なのは「質」だ。
「どう評価されているか」を意識する私たちはさまざまなかたちでテクノロジーの恩恵に浴している。
そのいっぽうで、24時間「接続している」文化が逆効果となり、多大な損失を生みだしているのも事実だ。
ソーシャルメディアに気をとられている時間が増えると、生産性が下がり、対人関係が悪くなり、時間が浪費され、重要なデータを取捨選択する能力が低下する。
社会的な地位が高く、高収入を誇るプロフェッショナルほど、ミーティングの場でテキストやメールを送受信したり、ネットを眺めたりしている者を「未熟で迷惑な存在」と見なす傾向がある。
南カリフォルニア大学マーシャル経営大学院の研究者たちは、次のような調査結果を報告した。
・エグゼクティブの86パーセントは「ミーティングの最中に電話にでるのは不適切だ」と、考えている。
・エグゼクティブの84パーセントは「ミーティングの最中にメッセージやメールを打つのは無礼だ」と、考えている。
・エグゼクティブの75パーセントは「ミーティングの最中にメッセージやメールを読むのは無作法だ」と、考えている。
・職業人の66パーセントは「ミーティングの最中にネットに接続するのは不適切だ」と、考えている。
また中高年の職業人は、ネットとつねに接続している者には次のような特徴があると考えている。
・「敬意」の欠如:ミーティングの出席者よりネットで接続している相手を重視している。
・「注意力」の欠如:一度に1つのことに集中できない。
・「聴く力」の欠如:真剣に話を聴いていることを、身をもって示せない。
・「自律心」の欠如:他者からの要求に抵抗できない。
ミーティングは、いわば「電子ウイルスの増殖を観察するシャーレ」といえる。
スタッフミーティングについて考えてみよう。
20年前のスタッフミーティングではどんな光景が見られただろう?細長いテーブルのまわりにずらりと椅子が並び、出席者が座っている。
かれらの前にはなにが置いてある?書類とペンだけだ。
なかには質問事項などをメモにとる者もいるだろう。
そしていちばん気が散っている出席者でさえ、紙にぼんやりといたずら書きをする程度だ。
ひるがえって、現代のスタッフミーティングではどんな光景が見られるだろう?タブレット、スマホ、ノートパソコン、メモパッド(もちろん、電子版)など、進化するいっぽうのデバイスが全員の手元にある。
そのどれもが、少し触れただけで、即座にオンになる。
そして出席者はメモをとるふりをしつつ、そうしたデバイスをいじりつづけている。
時間の「有効活用」とは?だが、そう簡単にだませるはずがない。
ちなみに、あなたの隣席のデバイスをこっそりのぞいてみよう。
賭けてもいい。
彼はメッセージを送っているか、ネットサーフィンをしているか、オンラインゲームをしているか、フェイスブックを見ているはずだ。
そして、ネットに接続している者はたいてい、目前でかわされている議論をろくに聞いていない。
電話会議となれば、もっと質が悪くなる。
あなたの前には電話会議用のスピーカーが置いてある。
だからマイクを手でもつ必要はない。
そのうえ、好きなときにマイクをミュートにすることもできる。
だから電話会議中に、ぶらぶらと歩いてきた同僚と雑談することも、メールに目を通すことも、フェイスブックやインスタグラムをチェックすることも、ツイッターでつぶやくことも、よく知らない人にハッピーバースデーのメッセージを送ることもできる。
見事に時間を有効活用している!……のだろうか?あなたがこうした誘惑に屈したとしよう。
そうなればもう電話会議でなにが論じられているのか、皆目、見当もつかなくなる。
そんなときに意見を求められでもしたら目も当てられない。
「自分はうまくごまかせている」と、あなたは考えているかもしれない。
電話会議に参加している連中は鈍いやつばかりだから大丈夫、と。
だが、ほんとうにそうだろうか?最近、あなたが電話で話した相手が、本気で話を聴いていないと感じたことはないだろうか?そんなときには、あなたが質問したあと、相手が答えるまでにほんのわずかな間があったはずだ。
それが、注意散漫の明白な「証拠」だ。
そんな状況について多くの管理職が、「全員が出席した会議ですでに論じられた話題について、あとでまた総括しなければならないのは時間の無駄だ」といらだちを覚えていることが報告されている。
同時の用件のときは「いまここ」を優先する同僚と昼食をとっているときに、マナーモードになっている携帯電話のバイブレータがやまなかったら?部下とのミーティングの最中に、重要なメールを受信したら?家族と散歩中にメッセージが届いたら?いくつかの緊急な用事が同時に生じたら、どうすればシングルタスクを実践できるのだろう?その場合は「いまここ」にいる、目の前の相手を優先しよう。
先日、カフェに入ったときのことだ。
注文受付カウンターにはひとりの客もいなかった。
私は注文したい品が決まっていたので、カウンターに歩いていき、すぐに注文しようとした。
ところがそのとき、レジ横の電話が鳴った。
店員が受話器をとりあげた。
どうやら、電話をかけてきたのは異星人だったらしい。
エイリアンは、異星の住民全員分の注文を次から次へと並べはじめた。
私はなす術もなくひたすら待った。
右脚から左脚へ、そしてまた右脚へと重心を移動させた。
ついにレジ係が電話の相手に向かって「ご注文は以上でしょうか?」と言った。
するとエイリアンは、また長々とほかの注文を並べはじめた。
私は空腹で、急いでいた。
そして、目には見えない列に立たされていることにうんざりしていた。
もしあなたがサービスのプロなら(ある意味では、どんな人もサービス業に従事しているといえるが)、店にいる客を優先しよう。
その客は、あなたの店にわざわざ足を運んでくれたのだ。
誠意を見せよう。
電話をかけてきた客には「少々お待ちください」と言えばすむ。
それなのに、店員が電話をかけてきた相手を優先すると、客はこのうえなくイライラする。
「敬意」と「予定」をはっきり示して断る一点集中術の考え方はよくおわかりになったはずだ。
とはいえ、横から仕事を頼まれたときは、具体的にどう対応すればいいのだろう?不安がある読者は、次の例を参考にしてもらいたい。
〈シナリオ1〉あなたのスケジュールはぎっしり詰まっている。
そこに上司がやってきて、至急、仕事を頼みたいと言う。
だが、その仕事は時間がかかりそうだ。
・悪い例上司「リニューアルしたメニューバーの調査結果を報告してもらいたい。
遅くとも、午後3時までに頼む」あなた「きょうの3時ですか?」上司「3時15分に、電話会議で調査結果を発表したいんだよ」あなた「きょうは11時半まで新入社員の研修で講師を務め、そのあと11時45分から2時までランチミーティングがあります。
ですから、ええと、2時から3時までは調査結果をだす作業に専念できます。
あいにく、5人の部下の勤務評定を5時までに終わらせなければならないので」上司「だからなんなんだ?まったく、投資家連中がツイッターで騒いでるんだよ。
もう時間がない。
いいな、まかせたぞ」あなた「はあ、わかりました」・よい例上司「リニューアルしたメニューバーの調査結果を報告してもらいたい。
遅くとも、午後3時までに頼む」あなた「きょうは厳守しなくてはならない納期の仕事で動けないんです」上司「まいったな。
3時15分に、調査結果を電話会議で発表したいんだよ。
こっちの作業を優先してくれないか」あなた「わかりました。
私も3時20分には電話会議に参加できます。
それまでに進捗状況をまとめるよう、チームに発破をかけてみます。
それでよろしいでしょうか?」上司「ああ、助かるよ。
電話会議には投資家も参加予定でね。
要点だけでもすぐ私に送ってくれないか」あなた「すみません、きょうは部長が発案なさった研修プログラムの進行役をしておりまして。
数分後にまた次のプログラムが始まるんです。
ちなみに、こちらの研修は非常にうまくいっています」上司「そりゃよかった。
そういえばきのうも重役から、そのプログラムについて訊かれたところだよ」あなた「プログラムの結果については、週明けにご報告させていただきます。
火曜の午前中はいかがでしょう?」上司「いいね。
8時半でどうだい?」〈シナリオ2〉あなたは150万ドルのプロジェクトの企画書の最後の仕上げに取り組んでいる。
企画書提出の締切りはあしただ。
この企画が通れば、社員の士気は大いにあがるだろうし、通らなければ意気消沈するだろうと思われる。
・悪い例上司のメール〈新部長を迎えるにあたり、戦略を立てる必要がある。
相談したいから、いますぐきてほしい〉あなたのメール〈了解しました。
すぐに、うかがいます〉(企画書を脇に押しやって即レス)・よい例上司のメール〈新部長を迎えるにあたり、戦略を立てる必要がある。
相談したいから、いますぐきてほしい〉あなたのメール〈現在、大型プロジェクトの企画書の締切りを目前にしております。
ご用のかたは、ご連絡先を残してください。
明朝までに、こちらから連絡いたします〉(自動返信)上司の内線「早くでろよ!いったいどこをうろついてたんだ?」あなた「いま例の企画書に取り組んでいるところです。
明日の午前中が締切りなので、追い込みをかけているんです。
締切りにはなんとか間に合うと思います。
ご用件はなんでしょう?」上司「例のって、なんの企画書だ?まあいい。
とにかく、いますぐこっちにきてくれ。
新部長を迎える戦略を練らなくちゃならん。
5分後にブレインストーミング開始だ。
こられるな?」あなた「申し訳ありませんが、行けません。
これでスキル開発プログラムの採用の可否が決まるということで、最優先にするよう命じられたあの企画書です。
きっとご期待に添えるはずです。
企画書ができしだい、ファイルをお送りいたします」上司「そうか。
そうしてくれ」あなた「承知しました。
企画書を仕上げるまでは、こちらに集中させていただきます」だが、この会話の最後で、上司に「間が悪かったな。
だが、こっちの用件を優先してくれ」と言われたら、どう対応すればいいのだろう?事情を具体的かつ明確に説明し、上司にアドバイスを求めよう。
たとえば「数分以内に、そちらのオフィスにうかがえばよろしいんですね?しかしそうすると、予定していたランチミーティングに出席できなくなります。
そちらにはどう対応すればよろしいでしょうか?」と尋ねるのだ。
以下が対応の秘訣だ。
・相手への敬意を示す。
・なにに同意するのか、同意した結果、なにが生じるのかを明確にする。
・これまで、あなたが期待を上回る成果をあげたときのやり方を伝える。
・いますぐは無理だが、都合がつき次第、対応することを提案する。
「複数の相手」にうまく対応する
では、「マルチタスク」を推奨する社風の職場に勤めている場合は、どうすればいいのだろう?ある専門職の人は、次のようなジレンマを明かしてくれた。
「きょう、上級職の候補者の面談をしたんだ。
すると、ある男性の履歴書の特技の欄に『マルチタスクが得意』と書いてあってね。
そのうえ会社側も、マルチタスクが得意なのは評価対象になりうるというんだよ。
実際、評価対象のリストにも『マルチタスク能力』が入っている。
マルチタスクを長所として評価したり、推奨したりするガイドラインがある場合、どう対処すればいい?」まず、胸に刻んでもらいたい。
「マルチタスク」という言葉はさまざまな場で使われているが、そもそも、その使い方が間違っているということを。
だからこうした場合、相手がマルチタスクという言葉を使っている、その意図をさぐればいい。
たとえば、ある職務に「マルチタスク能力」が求められているという場合、それは「目の前の客にも、電話をかけてきた客にも対応しなければならない」ことを意味するのかもしれない。
つまり「目の前の客にも、電話をかけてきた客にも、それぞれきちんと対応する」ことができればいいのであり、なにも「目の前の客と、電話をかけてきた客の両方に、同時に話しかける」能力が求められているわけではない。
同様に、履歴書の特技や長所の欄のトップに「マルチタスク」と誇らしげに書いてあったら、どんな行為についてそう表現しているのか、具体的に説明してもらおう。
私がそうした説明を求めると、たいてい「プレッシャーがかかっても冷静でいられる」とか、「1日のうちに複数の作業をこなせる」とか、「柔軟に事態に対処できる」とかいった答えが返ってくる。
どれもすばらしい能力ではあるが、同時に複数のタスクをこなすから可能になることではない。
そんな真似をしようものなら、これまで見てきたように、むしろ能率は落ちるのだから。
「ノー」と言うほうが信頼される次の言葉を音読してもらいたい。
「ノーと言うからといって、無能なわけじゃない!」頼み事にいつでも応じるより、ときには応じないほうが断然いい。
四六時中、人の頼み事にイエスと応じていたら、自分の仕事など決してできない。
以下の4つのことをしっかりと覚えておいてほしい。
1.なにかを頼まれるたびに手元の作業を中断していると、仕事はめちゃくちゃになる。
2.人はあなたが「こちらの呼びかけにきちんと応じてくれる」こと、そして「信頼して仕事をまかせられる」ことを求めている。
そうした期待に応えるには、シングルタスクをするしかない。
3.目の前のタスクに集中するからこそ、責任感が強いことを証明できる。
4.重要な仕事の締切りがあって長時間集中したいときは、メールに自動返信を設定する。
その際、こちらから返信できるのはいつごろになるか、文面で明確に示す。
「いますぐには無理です」と「私には無理です」は、同じ意味ではない。
「いますぐには無理です」と言うことであなたが相手に伝えているのは「いま取り組んでいる職務に責任を負っている」という、ただそれだけのことであり、あなたは同様に、スケジュールに組み込まれている次の作業にも全力で取り組むはずだ。
そんな相手のほうが、途中までしか終えていない作業を山ほど抱えている相手より、ずっと信頼できる。
私たちの大半は、生死に関わる仕事をしているわけではない。
生死に関わる仕事に就いている人には、次から次へと生じる「緊急事態」に対応するための厳格なシステムが用意されている。
だが、それ以外の人にとっては、そのときどきは大変な緊急事態に見えても、それらの要請に即座に対応できないからといって、それで世界が終わるわけではない。
境界線をつくり、「1つ」に集中するシングルタスクにまつわる懸念として、もっともよく耳にするのは「職場の対人関係に悪影響が及ぶのではないか」というものだ。
だが現実には、つねにネットに接続して、いつでも周囲からの要請に対応できるようにしておくほうが、プロとしての信頼性をはるかにそこなう。
たしかに周囲の人たちは、自分の要求にすぐ反応してほしいと相手に期待するだろう。
そう思うのが当然だ。
私だって、いますぐあつあつのホットラテが飲みたい。
だれかが、いますぐ用意してくれるなら!だが、それとこれとはべつの話だ。
あなたは「地に足の着いた、熱意ある、創造力にあふれたプロ」と、周囲の人に認識してもらいたいはずだ。
そのためには、どちらの道を進むのがいいだろう——「明確な境界線を設け、1つのことに集中する」道と、「あちこちに注意を分散させ、まったく集中せずに進む」道と。
万人にいい顔をすることが、献身的に働くことを意味するわけではない。
それどころか、注意散漫な状態を続けていると、ぼんやりして頼りにならないという印象を与えてしまう。
シングルタスクに集中するからこそ、周囲の人とも良好な関係を築くことができるのだ。
Point人の要求に「短時間」で効率よく対応する1つのプロジェクトに取り組んでいる合間に「別の仕事」の確認をしない。
「管理能力」はIQやスキルの高さよりも、個々の相手を丁寧にケアできるかで決まる。
ほんの数分でいいので、部下や顧客に「完全に集中」して対応する。
会話に没頭して、相手が発する「真のメッセージ」を見抜く。
相手に敬意を抱いていることを示す「シグナル」を意識して使う。
すべての質問や問い合わせに即座に応じていたら、成果はなにもあがらない。
敬意を示しながらきっぱりと「ノー」を言うことで相手の信頼を獲得する。
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