自分で競合相手のプランを作成したのでない限り、 あなたが将来を予測することはできない。
たいていのマーケティングプランにそれとなく含まれているのが、未来についての 仮説である。けれども、未来予測に基づいて立てられたマーケティングプランは、た いがい失格である。 何百というコンピュータを駆使し、大勢の気象学者を動員しながら、 一人として三 日先の天候を予測できない。それなのに、どうして三年先の市場が予測できると思う のだろうか。 IBMは、同社の大型コンピュータにすべてのパソコンをつなげるという壮大なマ ーケティングプランを打ち立てた。同社はこれを「オフィスビジョン」と呼んでいた。 ところが、サン・マイクロシステムズやマイクロノフトなどといった会社の動向のせ いで、この計画はお流れとなった。言ってみれば、オフイスビジョン計画はすべてを 見通していながら、競合の動きだけは見落としていたのである。 競合各社の反応を見通せないことが、 マーケティングで失敗する主な理由である。 南北戦争当時、南軍の将軍ピケットは、ゲチスバーグの戦いで敗れた責任は南部連邦 指導者のだれにあるかと聞かれて、次のように答えた。「北軍にも一部責任があると、
私は常々考えている」 しかし中には、アメリカにとっての大きな問題は長期的視点の欠如であり、アメリ カの経営者は考え方が余りにも短期的に過ぎる、と言う人たちもいる。長期計画を排 除したら、事態をいっそう悪化させることになるのではないだろうかというのだ。 一見、こうした懸念は真実をついているかに見える。しかし重要なのは、長期対短 期という対比の意味するところを理解することである。アメリカ企業が抱える問題点 の多くは、 マーケティング上の短期的考え方に関係したことではない。問題はむしろ、 財務上の短期的考え方にある。 たいていの会社は、四半期毎の決算報告書をひと区切りとして生きている。これこ そ問題の発生源なのだ。数字によって生きる会社は、数字によって減びる。名門IT Tのハロルド・ジェニーンは、最近においてそのことを端的に実証してくれた一人で ある。彼は派手に事業を拡大し、絶えぎる利益の増大を求め部下のマネジャーたちの 尻をひっぱたいた。 ジェニーンの努力は結局、砂上の楼閣を生み、楼閣はやがて崩壊した。今日のIT
Tは、かつてのITTの抜け殻である。優れた財務、悪しきマーケティングの実例だ。 ぞネラル・モーターズも、財務畑の人間が経営の実権を握り、ブランドではなくて 数字に焦点を当て始めるまでは、素晴らしい業績を上げていた。彼らは、アルフレツ ド・P ・スローンの作成したブランド差別化計画がばらばらになるのにまかせた。ど の事業部の責任者も、短期的な数字を上げるために市場の中心部だけを狙うようにな ったのである。 優れた短期計画は、あなたの商品なり会社なりを差別化する優れた切り日、ないし は表現アイデアを提示してくれる。そのあとで一貫した長期のマーケティングロ標を 立て、そうした表現アイデアや切り口を最大に効果あらしめるプログラムを作ればい い。これは長期計画ではなく、長期目標である。 ドミノ・ピザでトムoモナガンが着想した短期的な切り回は、「宅配」アイデアを煮 詰め、素早く、効率的にピザを配送するシステムを作ることであった。そして彼の長 期目標は、初の全国的な宅配チェーンをできるだけ速やかに築き上げることだった。 モナガンは、全国的な広告を打てるだけのフランチャイズを整備するまで、「宅配」という言葉を定着させることはできなかった。彼は二つの目標をともに達成した。今 日ドミノは売上高二六億五〇〇〇万ドルの会社となり、宅配ビジネスで四〇パーセン トの市場シェアを確保している。モナガンは、 一〇年計画といったややこしい計画な しに、何もかもやってのけたのである。 では、私たちにはいったい何ができるだろうか。予測不能という現実にどうしたら うまく対応できるのだろうか。将来を予測することはできないが、トレンドをつかむ ことならできる。そしてこれこそが変化を利用する方法なのである。トレンドに関し て一例を上げれば、アメリカ人の高まりゆく健康志向がある。このトレンドは数多く の新製品、とりわけ健康食品に対して門戸を開放してくれた。最近、冷凍調理食品の 「ヘルシー・チョイス」が収めた鮮やかな成功は、この長期的トレンドに乗じた端的な 事例である。 コンアグラ社がヘルシー・チョイスを市場に導入したのは、 一九八九年二月だった。 しかしながら、その何年か前から、低塩分、低脂肪、あっさりしたブランドがかなり 市場に出回っていた。とはいっても、 これらの健康アイデアは、広がった製品ライン
の商品名の中に埋没していた。単純な商品名とコンセプトを使って何年も続いていた トレンドをうまく活用したのは、 コンアグラが初めてだったのである。 不幸なことにコンアグラ社は、調理食品を起点に製品ラインが大きく広がったせい で、すでに迷路に踏み込んでいる。同社は、犠牲の法則を犯しているのである。 トレンドに取り組む場合の危険は「推定」にある。あるトレンドがどのくらい続き そうかについて、多くの会社は、いきなり結論に飛びつく。仮に数年前の予測を信じ るとすれば、今日ではだれもが、焼魚とバーベキューチキンを食べていることになる (幸いにも、 ハンバーガーの売行きは好調だ)。 推定によるトレンド予測と同様によくないのが、未来を推定する場合に、しばしば 現在のソプレイになることである。あなたが将来何も変化は起こらないだろうと推定 する時、あなたは、何か変化が起きそうだと推定する時と同様に確信を持って未来を 予測しているのである。ピーターの法則を思い起こしていただきたい。常に予期せぬ ことが起こるのである。 トレンドを追うことは予測不能な未来に対処する有用な手段になりうるが、その一方、 マーケットリサーチは助けになるよりも問題を引き起こす場合が多い。ソサーチ が一番役立つのは、過去を測定する場合であり、これに対して、新しいアイデアやコ ンセプトについてはほとんど測定不可能である。だれしも便利な虎の巻を持っている わけではない。実際に意志決定の場面に向き合うまでは、自分がどんな行動をとるこ とになるか、だれにも分からないのである。 ゼロックスが普通紙コピー機を市場導入する前に行なったリサーチは、その典型的 な事例である。返ってきた結論は、 一枚一・五セントで感熱紙コピーが得られるのに、 普通紙コピー一枚にわざわざ五セント支払う人はいないだろうというものであった。 ゼロックス社はこの調査結果を無視した。その後の推移はご存じの通りぞある。 予測不能な世界に対処する一つの方法は、あなたの組織内に考えうる限りの柔軟性 を植え込んでおくことである。あなたの持つ製品カテゴリーに突如変化が生じた時、 以後長期にわたって生き延びるためには、あなた自身進んで、しかも素早く変化を遂 げなければならないのだ。 かつてゼネラル・モーターズは、小型車トレンドヘの対応に遅れをとった。その結
果、同社は多大な犠牲を払うことになった。 いままたIBMは、大型コンピュータを離れる新しいトレンドを認めることに手間 取っている。ひょっとして、同社も多大な犠牲を払うことになるかもしれない。 現在のところ、ワークステーションは大型、小型双方のコンピュータにとってまさ しく脅威である。それは、極めて安いコストで途方もない処理能力を発揮する。もし IBMがコンピュータ業界のリーダーシップを守ろうとするのであれば、同社は、サ ン・マイクロシステムズやヒューレツト・パツカードの支配するカテゴリーに真剣に 取り組まなければならない。 当然考えられる動きは、新しいゼネリック製品を導入することであろう。IBMに とっての最善の方法は、高い処理能力を有するワークステーションの新たな製品ライ ンに、「PM」と名付けることかもしれない。かつて見事な成功を収めたパーソナ ル・コンピュータ「PC」の例にならうのである。「PM」は、「パーソナル・メイン フレーム」の略称だ。この二つの一般的となった用語は、これら新しい卓上機械のス ピードとパワーを強烈に印象づけてくれるだろう。しかも、IBMがすでに顧客の心の中に植えつけている言葉でもある。両者があいまって、非常な威力を発揮するに違 いない。 こうしたコンセプトに対する唯一の問題点は、おそらくIBM自体の内部にあるは ずだ。「パーソナル・メインフレーム」という名称は、同社のパーソナル・コンピュー タ部門だけでなく、大型コンピュータ部門にも恐慌をきたすだろう。抗議の電話がじ ゃんじゃん鳴り、「パーソナル・メインフレーム」はこれら二つの重要な収益部門に悪 影響を与えるという訴えが、即座になされることは間違いないところだ。 パーソナル・メインフレーム製品がIBMの二つの主要収益源の足を引っ張りかね ない、というのは多分その通りだろう。しかし、そもそも会社というものは、新しい アイデアをもって自らに刃を向けるほどの柔軟性を備えていなければだめである。変 化を遂げることは決して簡単ではないが、しかし予測不能な未来に対処するただ一つ の方法なのだ。 最後に一つだけ言っておかなければならないことがある。それは、未来を「予測す る」ことと、未来に「賭ける」こととは違うということである。オービル・レデンバ
ッカーのグルメoポップコーンは、高級ポップコーンになら、人は二倍のお金を支払 うだろうという可能性に賭けたのである。今日の豊かな社会にあっては、悪い賭けで はなかった。 どんな程度にしろ、ある確度をもって未来を予測できる人はだれもいない。マーケ ティングプランにおいても、そんな予測を試みるべきではないのである。 *ピーターの法則 「階層社会にあって、その構成員は、各人の自分の器量に応じて、それぞれ無能のレベルに達する傾 向がある」とするL・J・ピーター博士が唱えた法則。米国では、組織や人材の無能化を防ぐ目的で、 組織管理、人材育成の視点から、 マーフィーの法則とともに知られている。 *ゼネリック製品(09o「一oo3aco詰) 全くブランド名をつけず、加工食品や日用雑貨等の家庭用品を中心として、その商品の一般的カテゴ リー名称のみをしるしただけの、製品内容が識別できるだけのノーブランド製品。 日本では、「無印良品」が代表的ゼネリック製品。
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