MENU

Ⅱご挨拶の法則を実践する

【 PART 1】心を込める

目次

○言葉の意味を意識すると力が備わる

本章からは、ご挨拶の贈り物をいただくための、具体的な方法について述べていきます。

まずは、ご挨拶に心を込めることからです。ご挨拶に心を込めることで、それが相手に伝わり、また、自分自身にもプラスに作用していくというのは、ここまで見た通りです。

では、具体的にどのようにして、心を込めればよいのでしょうか。

私は、サービスなどの研修では、相手をご自分の家族など、大切な人だと思うようにして接すれば、心を込めることができるということを申し上げています。

これが、ホスピタリティ・マインドです。このホスピタリティの精神を身につければ、いつ、いかなる場合でも、心のこもった挨拶をすることが可能になります。

本書を読まれている方には、ぜひ、このホスピタリティ・マインドを身につけていただきたいと思いますが、反面、この方法は、一朝一夕でできるものではないことも事実です。

そこで、もっとやりやすい方法をご紹介しましょう。

大変シンプルですが、とても効果があります。

それは、挨拶の言葉の意味を意識して、挨拶をしてみるということです。たった、これだけのことです。これを実行するだけで、心がこもり、伝わる挨拶になります。

私たちが、普段何気なく使っている言葉の一語一語には、時の経過の中で薄れていった意味や、本来備わっていた精神、それが使われていた背景というものが存在します。

これを知り、意識して使うだけで、発せられる言葉の重さは、まったく違うものになっていきます。ご挨拶の言葉であれば、おのずと言葉に心がのり、ご挨拶を受ける相手に伝わっていきます。それによって、周囲と自分自身に、変化が訪れるのです。

「ありがとう」

「ありがとう」という言葉は、もともとは「有り難し」という言葉に由来します。「有り難し」とは、滅多にないほどのことを相手の方からしていただいた状態だと言えるでしょう。それに感謝するのが、「ありがとう」「ありがとうございます」という言葉です。

「本日は、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます」と言うときには、「このような、ありえない(有り難い)ほどの貴重な機会に巡り会えて、本当にうれしく思います」ということを意識しながら、その気持ちを「ありがとうございます」という言葉に込めてみると、感謝の気持ちが伝わります。

お店に勤めている人であれば、「他にもお店はたくさんある中から、うちの店を選んでくださったというのは、本当に有り難いことです」という気持ちを持つことができれば、自然に心のこもった「ありがとうございました」という言葉が出てくるでしょう。

儀礼的に「ありがとうございます」「ありがとうございました」と言うのではなく、「滅多に起こりえない、有り難いことが起こったんだ」と思ってみると心がこもってくるのです。

「お世話になります」「お世話になっております」「お世話になりました」

「お世話になります」あるいは「お世話になっております」「お世話になりました」は、仕事の電話やメールの冒頭などで、よく使われている言葉だと思います。

この言葉の意味を、もう一度思い起こしてみましょう。

基本的には、人から自分のために何かをしていただく、いただいている、あるいはいただいたときに、感謝の気持ちを表すのが「お世話になります」「お世話になっております」「お世話になりました」です。

そこで、「お世話になっております」という言葉を使うときには、「自分は一人で生きているのではなく、皆様の力を借りて、そのおかげで生きている、本当に感謝しております」という気持ちを込めてみてください。

人は、周りの人のおかげで生きています。

よく「人はみな生かされている」と言われますが、「お世話になっております」という言葉はまさに生かされていることへの感謝の気持ちを表したものだと言えるでしょう。

ビジネスの世界では、「お世話になっております」という言葉は、今や形骸化してしまっている感があります。

感謝の気持ちもないのに「お世話になっております」という言葉を使っている人も少なくないようですが、相手に気持ちが伝わらない挨拶を繰り返してみてもあまり意味はありません。

言葉の意味を再度思い起こしてみることが必要です。

「皆様のおかげで、私は生きているんです。生かされているんです」という意識があれば、「お世話になります」「お世話になっております」「お世話になりました」という言葉を多用してもいい、いや、むしろすべきだと私は思います。

そのような言葉は、本当の意味での感謝の表れとして、受け取ってもらえるはずです。

なお、「お世話になっております」と「お世話さまです」という言い方は、ニュアンスが異なりますので、使い方を変えなければなりません。

取引先に対して感謝の気持ちを伝える場合は、「お世話さまです」ではなく「お世話になっております」のほうが適切です。

一方、社内の他部署の人が書類を届けてくれたような場合に「お世話になっております」と言うのは、違和感を持たれる場合があります。このようなときには、面倒をおかけしておりますという意味で、「お世話さまです」と言ったほうが自然です。

もちろん「ありがとうございます」という言い方でもいいでしょう。

「おはようございます」

「おはようございます」という言葉は、「お早い時間から、ご苦労さまです」「お早い時間から、大変ですね」「お早い時間から、ありがとうございます」というような意味から始まっていると思われます。

朝、管理職の人が職場に来ると、部下が先に出社していたとしましょう。

このようなとき、部下たちに「おはよう」と声をかける場合には、「私より早くから来て、仕事の準備をしてくれて、本当にありがとう」という気持ちを込めてみると心が伝わりやすくなります。

なお、「お早い時間」とは、必ずしも「朝」だけを意味しているわけではありません。

例えば、バーやスナックなどの飲食業や、テレビ局などで働いている方々は、夕方や夜でも「おはようございます」と挨拶をします。

これは、仕事が始まる前の早い時間から準備をしていることに対するお互いの敬意の表れであり、感謝の気持ちを表しているのだろうと思います。

「こんにちは」「こんばんは」

「こんにちは」には、もともと「今日は、よい日ですね」「今日は、お元気ですか」という意味が、「こんばんは」も、同様に「今晩は、よい日ですね」「今晩は、お元気ですか」という意味が込められていました。

あるいは、英語で考えてもよいでしょう。

Good morning! Good afternoon! Good evening! です。

「あなたにとってよい朝になりますように」「あなたにとってよい昼になりますように」「あなたにとってよい晩になりますように」と、そこには相手のことを思う気持ちが表れています。

職場や家庭などで「こんにちは」と言うときには、「今日は(も)、お互いにいい日にしましょうね」「今日は(も)、いいことがあるといいですね」という気持ちで挨拶をしてみると、その日一日がきっとうまくいくでしょう。

職場の人たちに「こんにちは」と言いながら、自分の心の中では「今日はいい日にしましょうね」とつぶやいていれば、自分自身の気持ちもパッと明るくなり、それによっていい出来事がやってくると思います。

挨拶することで、自分にポジティブなメッセージを送るのです。そのような意識を持てば、挨拶することが嫌でなくなってくるのではないでしょうか。

周りの人からも「あの人は楽しそう」「あの人はいつも周りを明るくしてくれる」といった評価をもらい、豊かなご縁に恵まれるはずです。

このようにして、言葉の意味を意識しながら「こんにちは」と挨拶をすれば、挨拶をするたびに、自分の中のポジティブな気持ちを、呼び起こすこともできるのです。

「さようなら」

「さようなら」は「左様ならば」という言葉からきています。「左様ならば、私はここで失礼します」という意味だったのでしょう。

そこには、「今日お会いできたことは、とてもうれしかったです。本当にありがとうございます」という気持ちが含まれています。

また、一期一会の気持ちで接するならば、もしかしたらこれが人生一回きりのお会いできる機会かもしれないと考え、「今日はとてもよい貴重な機会をいただきました。お会いできて本当によかったです。あなたにとって、今後がすばらしい日々となりますように!」という思いを込めて、「さようなら」と言ってもよいでしょう。

せっかくお会いできたのに、一期一会ではさみしいと思う人は、英語の「 see you again!」のように考えてみてもいいかもしれません。

「またお会いしましょう!」「ぜひまたお会いしたいです」という気持ちを「さようなら」という言葉にのせてみましょう。

どのように解釈していただいてもかまいませんが、出会えたことに対する感謝の気持ちや、相手の人のこれからのことを思う気持ち、再度お会いしたいという気持ちを意識することで、「さようなら」とひと言発するだけでも、心のこもった挨拶になります。

「お先に失礼します」

終業後に、部下が上司に対して挨拶をするときや、後輩が先輩に挨拶をするときには、「お先に失礼します」という言い方が一般的です。

「お先に失礼します」という言葉は、「私が先に帰るのは、大変失礼なことですが、本日は、お先に帰らせていただきます」という意味になるのでしょう。

上下関係、先輩後輩の関係を大切にした気遣いの言葉です。職場では、自分が帰るときに、上司や先輩がまだ仕事をしていることも少なくありません。

終業時間が来たのですから、帰ることは悪いことではありませんし、上司や先輩より遅くまでいなければならないというルールもありません。

ただし、心のどこかで、「先輩方が仕事をしていらっしゃるのに、私が先に帰るのは気が引けますが、今日はここで終わらせていただきます」と、少しだけ、上司や先輩を思いやる気持ちを持ち、「お先に失礼します」と言葉にすることで、その気持ちは相手に伝わっていきます。

反対に、上司が先に帰るときには、「お先に」とか「お先に失礼させてもらうよ」という挨拶をしますが、本来これは、「みんな遅くまで頑張ってくれて、本当にありがとう。申し訳ないけど、私は先に帰らせてもらうよ」という部下たちに対する感謝の気持ちが込められた言葉なのです。

「いただきます」

食事をする前には「いただきます」という言葉を使います。

これは、次のような感謝の気持ちを表している挨拶です。

  • ●食事をつくってくれた人に対する感謝
  • ●食事のお金を払ってくれた人に対する感謝
  • ●食材をつくってくれた農家の人などに対する感謝
  • ●命を頂戴する動物や魚に対する感謝
  • ●自然の恵みに対する感謝
  • ●食事ができることに対する感謝
  • ●ここまで生きてきたこと、生かされてきたことに対する感謝

これらのさまざまな感謝の気持ちが「いただきます」という言葉には込められています。ご存じのように、世界には飢餓で苦しんでいる人たちがたくさんいます。食事をできることは本当にありがたいことです。私たちは、さまざまな恩恵によって「生かされている」のだろうと思います。

そのような感謝の気持ちを持って「いただきます」と言えば、常においしく感じられるのではないかと思います。

* 今、ご紹介した言葉の中には、語源があいまいなものも少なくありません。そこで、私なりの解釈をまじえて解説をさせていただきました。大切なのは、正確さよりも、言葉の意味を掘り下げて、自分のものにするということです。

それによって、言葉に心がこもるのです。他にも、「お疲れさまです」「いってきます」「ただいま」など、さまざまなご挨拶の言葉があります。

それぞれの意味や由来などを、ご自分で考えたり、調べたりして、理解し、日々のご挨拶で実践していただきたいと思います。

【 PART 2】形を整える

○動作の意味を意識すると力が備わる

ご挨拶の所作にも、言葉と同様、その動作が持つ意味があります。これを理解しておくだけでも、挨拶に心がこもります。

例えば、お辞儀は、もともとは相手に首を見せることで、首を切られてもかまわない、敵意がないということを示す意味で始まっていると言われています。それが転じて、相手に敬意を示すことにつながっています。

余談ですが、握手にも同様の意味があります。日本では、握手は、お辞儀よりも挨拶の所作として一般的ではありませんが、欧米で、挨拶と言えば握手のほうがポピュラーです。

これも、手のひらを見せ合い、握ることで、自分は武器を持っていない、敵意がないということを示していることに由来します。

いずれにせよ、「敵意がない」を現代風に言い換えれば、「私はあなたと親しくなりたい」ということになるのではないでしょうか。

お辞儀をするときには、敬意とともに「あなたとより親しくさせていただきたいんです」という気持ちを込めて、お辞儀をしてみましょう。

その気持ちは、所作に表れて相手に伝わっていきます。もちろん、お辞儀をする場合には、単に心を込めればいいのではなく、「形」についてのマナーも必要と言えます。

会釈をする場合と、敬礼をする場合では、お辞儀の仕方が変わります。お客様などに対して、きちんとした挨拶をする場合には、体を三〇度ほど前に傾けてお辞儀をします。

自分にとってとても重要な方であれば、四五度くらい傾けて最敬礼をするのが一般的です。一口にお辞儀と言っても、いくつも種類がありますので、状況に応じて使い分けなければなりません。

そして、お辞儀をするときには、「あなたと今後もお付き合いさせていただければうれしいです」という気持ちを込めて、頭を下げると心がこもったご挨拶になっていくのです。

○一期一会の本当の意味とは?

ここで「出会い」が持つ意味について、確認をしておきましょう。人と人が出会うことの意味を確認しておくことで、おのずと挨拶が深みのあるすばらしいものに変わっていきます。

茶の湯の世界には「一期一会」という言葉があります。一期一会とは「茶会に臨む際には、その機会は一生に一度のものと心得て、主客ともに互いに誠意を尽くせ、の意」(『大辞林』より)です。

つまり、どんな出会いでも、一生に一度しかない出会いのつもりで、相手の人に心を尽くし、その瞬間を大切にしなさい、ということを教えているのです。世の中には、一生のうちに一度しか会わない関係になる人たちはたくさんいます。

おそらく、皆さんがお付き合いされている人の中にも「あのとき一度だけしかお会いしていない人」が何人もいるのではないでしょうか。

もしかすると、会ったことすら忘れてしまっている人もいるかもしれません。ご自分の名刺ホルダーを見ていただくと、この「一度だけしかお会いしていない人」が案外たくさんいることに気づかされると思います。

「一期一会」というのは、観念的な意味合いではなく、現実の出来事なのです。

実際に、「一度だけしかお会いしていない人」が、名刺ホルダーの中でどれくらいの割合を占めるのかを、計算してみてもいいかもしれません。

新しい人に出会っても、その人と二度と会えない確率は決して低くはないと思います。また、いつも会っている人でも、また次に会えるという保証はどこにもありません。

ですから、人と出会うとき、「この人とは、私の人生の中では、もう二度と会えないかもしれない」と考えてみるのです。そうすると、その人と会っているその瞬間をもっと大切にしたくなるはずです。

○出会いを成長のチャンスと捉える

人間は、異なるものとの出会いによって、成長し、磨かれていきます。新しい人との出会いは、自分を成長させてもらえるチャンスでもあります。

新しく出会った人は、きっと自分の知らないことをたくさん知っているはずですし、自分とは異なったものの見方、ものの考え方をする人のはずです。中には、自分と正反対の見方、考え方をしている人もいることでしょう。

「この人とは考え方が合わない」と思って、相手を受け付けないのも一つの生き方ですが、「この人とは考え方が合わないから、学ぶべきところがある」と考えて、何かを吸収していくのも生き方です。

どちらが望ましいかと言えば、やはり後者の生き方ではないでしょうか。たとえ考え方は合わなくても、一人の人間としてうち解けられる場合もあります。

世の中には、「いつも激論を交わしているのに仲がいい」という人たちもいるくらいです。異質の人と出会い、お互いの違いを認め合い、そこから何かを学んでいくことができれば、知識も心も磨かれていき、さらに成長していくことができます。

それは、仕事の成功につながり、人生の成功にもつながっていくでしょう。

○すべての成功者がやっていること

一つの出会いによって、その後の人生が変わったという経験を持つ人は少なくありません。事実、世の中で、成功している人たちの多くは、「あそこで、あの人と出会えたから、今の自分がある」と語っています。

それは、学校の先生の場合もありますし、友人の場合もあります。

一人の上司との出会い、一人のパートナーとの出会い、一人のお客様との出会いが、成功につながったと言う人もいます。また、一人の異性との出会いで、その人が自分を支えてくれて、成功できたと言う人もいます。

成功者と呼ばれる人たちは、その一つひとつの出会いを大切にし、生かしている人たちなのです。また、人脈の多い人も、出会いをとても大切にしています。まめに連絡をとり、何度も会い、人脈を固めていっているのです。

そして、そのような強固な人脈から、新しいチャンスが生まれ、人生が拓けていきます。どのような出会いが生まれるかは、運に左右されるところもあるでしょう。

ですが、出会いを生かせるかどうかは、その人の心がけ次第です。そして、この心がけを象徴するものがご挨拶なのです。

○形から心をつくる

ご挨拶を実践するときに、「形から入る」のも一つの方法です。慣れていない人にとっては、こちらのほうが取り組みやすいかもしれません。

「心を込めたご挨拶」であれば、本来、形は二の次と言ってもいいでしょう。

しかし、初対面の人、あるいは、今まで折り合いが悪く、あまり話もしていなかった人に対して、「心を込めて挨拶をしなさい」と言われても、なかなかできるものではないと思います。

そのようなときは、形から入ることも決して悪い方法ではありません。昔から、「心をつくるには、形から」と言われます。武道の世界でも、茶道、華道の世界でも、伝統芸能の世界でも、形がとても重視されます。

徹底的に形を整えることで、心をつくっていくのです。挨拶の場合も同様です。形から入ることによって、心が磨かれていくのです。

このパートでは、「形から入る」場合のさまざまなテクニックをご紹介します。ご自分のやりやすいところからでかまいません。できるものから、実践していきましょう。

○とにかく声を出す

挨拶をしても、その声が相手に聞こえなければ、それは挨拶とは言えません。恥ずかしがらず、ハッキリとした声で、「おはようございます」「こんにちは」「いらっしゃいませ」と言ってみましょう。

しかしながら、単に大きな声を出せばいいというわけではありません。例えば、ホテルにいらっしゃるお客様の中には、ホテルに落ち着いた雰囲気を求めていらっしゃる方もいます。落ち着いた雰囲気を醸し出すためには、大きな声は適していません。

お葬式の場で、大きな声を出す人はまずいません。

入院している人を病院にお見舞いに行ったときにも、大きな声を出す人はまずいないでしょう。一方、子供を相手にしている幼稚園の先生は、「おはようございま〜す」と大きな声を出しています。子供たちを元気づけるには、そのほうがよいからです。

このように、その場の状況にふさわしい挨拶のトーンというものがあります。今、自分は、どのような声を出したらよいかを考え、適切な大きさの声を出すようにしましょう。

もし、落ち着いた雰囲気を醸し出したいのであれば、元気のいい声よりも、少し声量を抑え、やや低いトーンで声を出せば、相手に伝わる声になります。

ポイントは「相手は、今、どんな気持ちなんだろう」と考えてみることです。そうすることで状況に合ったご挨拶の声が出しやすくなりますし、そのような気持ちは相手に伝わっていき、よい印象を与えることになります。

○声に表現力をつける方法

挨拶では、声の表現力も大切です。事務的な声とイントネーションをつけた声では、挨拶を受ける人の印象がまったく変わってくることは、理解できると思います。相手を思う気持ちを伝えようとするときには、言葉に温かみがないと伝わりません。

状況にもよりますが、平板な言い方で、 「○ ○さん、こんにちは」 と言うよりも、「あぁ、 ○ ○さん、どうも、こんにちは〜」 と抑揚をつけて挨拶をしたほうが、歓迎している気持ちを強く出せるでしょう。

心を込めて言葉を発しているときには、おそらく平板な声にはならず、何らかの抑揚がついているだろうと思います。持って生まれたものもあるでしょうが、この表現力は、練習によって身につけることができるものです。

ご家族など気のおけない人を相手に、いろいろな言い方をして、自分の場合は、どのような声の出し方をすると、人に好まれるイントネーションになるか、研究してみましょう。

実際、 NHKのアナウンサーは、例えば「おはようございます」という言葉を、声のトーンを変え、いろいろな抑揚をつけ、表情やジェスチャーも変えて、何十種類もの言い方ができるようトレーニングをしていると聞いたことがあります。

何十種類とまではいかなくても、いろいろな「おはようございます」「ありがとうございます」という言い方ができれば、場面に応じた、最適なご挨拶をすることができるのです。

○相手の目に入るものすべてに手を抜かない

挨拶で重要なのは声だけではありません。対面して挨拶をする場合、目に入るものすべてが、挨拶とセットになり、情報として相手に伝わります。ですから、身だしなみを整えることは、いい挨拶に不可欠な要件です。

例えば、もし、総理大臣に挨拶をすることになったら、誰もが身だしなみに気を配ると思います。

なぜ、そうするかと言えば、人によっていろいろ理由はあると思いますが、それが自分にとって大切な機会だと感じるからです。自分にとって大切なときには、誰もが身だしなみを整えるのです。

反対に身だしなみを整えずに挨拶をすると、その人がその場を大切にしていないということを表明することにもなりかねません。

このように極端な例で考えると、挨拶をするときに身だしなみが重要だということを理解しやすいのではないでしょうか。

身だしなみで大切なことは、相手に不快感を与えないことです。不快感を与えないポイントは、清潔感を保つことです。クリーニングした清潔な服装をしていれば、不快感を与えずに済みます。髪は、きれいにまとめておいたほうが好印象を与えます。

現在は、ファッションとして髭を生やしている人も多くなっていますが、まだまだ違和感を覚える方もいらっしゃいますので、 TPOに応じて、剃るほうが無難です。

爪もきちんと切っておきましょう。見落としがちなのは、靴です。場所に適した靴というものがありますし、靴が汚れていると、服装が清潔でも不潔な印象を与えてしまうことがあります。

きちんと磨いておくなどして、靴の清潔感にも気をつけましょう。なお、服装に関しては、職業や年齢に応じた服装がよいと思います。

若い人があまりにも立派な服装をしていると、不釣合いな印象を与えてしまうことがあります。反対に、一定の年齢・地位にある人の場合は、それなりの身なりをしていないと、信頼してもらえない場合があります。

また、相手がお客様の場合は、お客様よりもはるかに高い服を着ていると、あまりよい印象を持たれません。少し控えめな服装がよいでしょう。

状況や年齢・地位などに応じて、その場に適した服装をしていれば、相手の方から不快感を持たれることはないと思います。

○表情の基本とは?

「目は口ほどにものを言う」と言うように、表情からもその人の心が伝わっていきます。挨拶をするとき、この点にも気をくばるようにしましょう。

外資系の企業では、お客様と接するとき「スマイル」をつくるよう徹底的に教育します。外国の方は、コミュニケーションにおいて、笑顔でいることを非常に重視するからです。

私自身、今でも鏡の前に行き笑顔をつくる練習を欠かしていません。

私たち日本人は、あまり感情を表に出さないほうがよいという土壌で育ってきたため、表情をつくることがどちらかというと苦手です。練習をしないと、よい表情はなかなかつくれません。

ぜひ、毎日一回は鏡の前に行き、笑顔をつくる練習をしてください。最初は、ぎこちない笑顔でも、一カ月もすればいい笑顔ができるはずです。人生というのは、私たちにとって、一種のステージです。

俳優や歌手の方が、ステージに上がる前に笑顔をつくる練習をしているように、私たちも朝起きたら、鏡の前で笑顔をつくってから一日を始めてみましょう。そうすれば、朝、道で会った人に対しても、自然に笑顔で「おはようございます」と言えるのではないかと思います。

○お辞儀の前後に気をつけること

姿勢も、挨拶では大切な要素です。挨拶をするときには、体を三〇度前に倒して、頭を下げます。相手が重要な人である場合は、四五度体を倒して最敬礼をしましょう。

一方、友達同士の挨拶の場合には、少し頭を下げる程度の会釈でかまいません。そのほうがフレンドリーな印象を与えることができます。なお、お辞儀は、単に頭を下げればいいというものではありません。

お辞儀をする前後には、必ずアイ・コンタクトをしてください。相手の目を見ないで、頭を下げても相手はお辞儀をされたとは思いません。

例えば、部下が上司に挨拶をしたときに、上司が手元の書類を見ながら「うん、おはよう」と言っていたのでは、部下は挨拶をされた気にはならないでしょう。

そのような挨拶では、「私は、君のことよりも、この書類に関心があるんだよ」というメッセージを伝えてしまいます。

お辞儀をする前に相手と目を合わせ、お辞儀をし、お辞儀が終わったらまた相手の目をきちんと見る。

そのように挨拶をすることによって「私はあなたのことに関心を持っています。あなたを大切な人だと考えています」というメッセージを相手の人に送ることができるのです。

○立ち止まりの挨拶をする

皆さんは、挨拶をするときに、立ち止まって挨拶をしているでしょうか。

例えば、会社の廊下で誰か知り合いとすれ違うときには、そこで一歩止まって、挨拶をするようにすべきです。歩きながら会釈だけをするのは、丁寧な挨拶とは言えません。

特に、相手がお客様の場合、立ち止まらずに挨拶をすることはマナー違反と言えます。お客様とすれ違うときには、立ち止まってお客様のほうをきちんと見てお辞儀しましょう。

小笠原流の礼法では、お辞儀というのは、頭を下げ、体を元に戻すまでの間、ずっと心を入れて、その場に心を残すことが求められるそうです。これを「残心」と言います。

頭を下げて挨拶をしている間、ずっと相手に対する敬いや親しみの気持ちを持ち、体を起こすとき、その気持ちを残すのです。

そのような心の持ち方をしなければ、本当のお辞儀にはならないと言います。もちろん、頭を下げながら、別のことを考えていたり、次の動作のことを考えていたりするようでは、お辞儀とは呼べません。

このことを意識してみるだけでも、挨拶によって得られるものが変わってくるはずです。

○会話が続き、ご縁が生まれるご挨拶

挨拶をするときの言葉遣いは、相手に合わせたものを選ぶようにしてください。会話を続けていくためには、ある程度の敬語はマスターして、適切な言葉遣いができるようにしておかなければなりません。

また、お客様に対しては、丁寧な言葉を使うべきですが、親しい友人などに対しては、無理に丁寧な言葉を使う必要はありません。

このとき忘れてならないのは、挨拶というのは、それによって相手の人との関係を深めるためにするものだということです。

「おはようございます」と挨拶をしてそれで終わりでは、あまりよい挨拶とは言えません。挨拶は、出会いの最初のステップであり、そこからコミュニケーションが始まることが大切だからです。

具体的には、できる限り相手の人が反応をしてくれる挨拶をすることが大切です。

例えば、お店に行ったときに店員さんが「いらっしゃいませ」 と言ったとしましょう。これに対して、あなたは何か言葉を返すことができるでしょうか。「いらっしゃいませ」という言葉に対しては、まず無理ではないかと思います。

そこで、私はホテルマン時代には、「いらっしゃいませ。おはようございます」「いらっしゃいませ。こんにちは」「いらっしゃいませ。こんばんは」 と、一言を添えるようにしていました。

そうすると、たいていのお客様は、「ああ、おはよう」「こんにちは、お世話になります」 などと言葉を返してくださり、そこから会話を続けていくことができました。

「今日は、本当に暑いですね」「いやあ、本当ですね」「暑い中、お越しいただきありがとうございました」 こうして、会話が続いていけば、相手の方との人間関係もできていきます。

挨拶は、そこからどれだけ会話を続けていけるかということも重要なのです。相手を無言にしてしまう挨拶の仕方ではなく、相手が反応をしたくなるような挨拶を工夫することも大切です。

○絶対にお名前を呼ぶ

挨拶するとき最も大切な点は、お名前を呼ぶということです。相手の方のお名前がわからないときは別ですが、すでにお名前がわかっているときには、必ずお名前をお呼びしましょう。これは、リッツ・カールトンでは基本中の基本とされていることでした。

ご予約の段階で、お名前はわかっているのですから 「○ ○様、ようこそお越しいただきました」 とご挨拶をすることができます。

初めていらっしゃったお客様の場合、お名前がわからないこともありますが、二回目以降であれば、顔を覚えておけばお名前をお呼びすることができます。多くのお客様は「私の名前を覚えてくれたんだ」と驚かれます。

お名前を呼ぶことは、ホスピタリティを大切にするホテルや旅館、レストランなど多くの場所で行われていることです。

もちろん、その前提としてお客様のお名前は覚えなければなりません。日常生活においても、挨拶で、相手の名前を呼ぶことはとても大切です。名前を呼ぶことは、その人の存在を認め、その人を大切にしていることに他なりません。

会社で挨拶をするときも、名前を添えて、 「○ ○さん、おはようございます」 「○ ○くん、おはよう」 「○ ○さん、お疲れさまでした」 と言ってみましょう。

さらに上の挨拶を目指すのであれば、 「○ ○さん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」 「○ ○くん、おはよう。今日もいつものように頼むよ」 「○ ○さん、お疲れさまでした。今日はいろいろ教えていただいてありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」 と、一言加えることで、心がこもった挨拶になると思います。

○相手を褒めるご挨拶

挨拶をするとき、相手のよいところを見つけて褒めてみましょう。これは、お世辞を言うということではありません。相手のよいところを見ようとする態度が必要だということです。褒めることとお世辞は、その本質において、異なります。

褒めるとは、相手と相手の長所に対する敬意の気持ちから出てくる行為です。一方、お世辞というのは、自分にとって有利な状況をつくりたいがために行っているものと言えるでしょう。相手への敬意か、自分中心の発想かという点で、両者には天と地ほどの差があります。

そして、そうしたことは、必ず、相手に伝わります。そのため、「この人はこんなところがすごい」と思えなければ、敬意の気持ちを込めた挨拶はできません。

まずは、相手のよいところを見つけようとしてください。そうすると、相手への敬意が少しずつ生まれてきます。

もっとも、相手がいくら優しそうな人でも、初対面でその人柄を褒めるのは、不自然かもしれません。このような場合は、持ち物や服装を褒めてもいいでしょう。

「メガネが似合っていますね」「髪型が素敵ですね」「素敵なお召し物ですね」「とてもいい声ですね」など、外見でかまいませんので、相手のよい点を見つけて褒めるようにしましょう。

人は褒められると、自然に心が開きます。心を開いてくれると会話が続いていきます。

「ネクタイが素敵ですね」「これは、妻が選んだネクタイなんですよ」「いや、奥さんはセンスがいいですね」「いいカバンですね」「いやいや、それほど高いカバンでもないですよ」「いや、素敵なカバンですよ。どちらでお求めになったんですか」 等々。

「こんにちは。よろしくお願いします」と挨拶をするだけでは、人によっては話のきっかけをつかむことが難しいかもしれません。褒めることも挨拶のうちだと考えてみてください。

○挨拶をしないご挨拶がある

挨拶はいつも丁寧にすればいいというものでもありません。相手が忙しそうにしているときには、簡素な挨拶で済ませることも思いやりの一つです。相手が今どんな状態であるかをよく見極め、忙しそうなときには、あえて声をかけないことがあってもよいでしょう。

例えば、お客様が重たい荷物を持って来店されたとしましょう。

そのようなときには、「いらっしゃいませ」と言って丁寧に頭を下げるよりも、まずお客様の荷物をお持ちする行動に出てもよいと思います。その際、「いらっしゃいませ」という挨拶ができなかったとしても、お客様は不快な印象は持たないはずです。

挨拶をすることよりも相手にとって重要なことがある場合には、それを優先すべきではないでしょうか。相手の状況を見て、挨拶するタイミングを見計らうことが必要です。

また、取引先の担当者と打ち合わせをしなければならないことがあるとき、相手がどのようにして椅子に座るかで、そのときの状態をある程度読みとることができます。

深々と座っているときには時間を確保してくれているでしょうが、椅子に深く座っていないときには、きっと忙しいはずです。

このような場合は、「お忙しいところ申し訳ございません。五分だけお時間をいただいて……」 と簡略に挨拶を済ませて、本題に入ることも必要です。

「いつも本当にお世話になっております。お忙しいところ、私どもに貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。○ ○様のご活躍の様子は、いつもうかがっております……」と長々と挨拶をするのは、よい挨拶とは言えません。

こういったときは、挨拶もそこそこに本題を始めてもいいくらいです。もし、打ち合わせが長引いて、相手が時計を見始めたら、相手には次の予定が入っていることが想像できます。

「お時間を頂戴してありがとうございました。ご予定もあるでしょうから、本日はこのあたりで失礼させていただきます」 と挨拶して、打ち合わせを終えることも心のこもった挨拶です。

場数を踏まないと、なかなかわからないことかもしれませんが、まずは、その場の空気をよく読んで挨拶をするよう心がけてください。

○自分から声をかけて伝わること

挨拶をする場面では、相手よりも先に、自分のほうから声をかけましょう。一般的には、先に挨拶をした人のほうが、より積極的で、よりホスピタリティ・マインドの高い人であると判断されます。

また、相手に対する好意の表れが、先に挨拶をするという行為になります。ご自分のことを考えてみればわかりやすいでしょう。

皆さんが自分から挨拶をする人は、いったいどのような人でしょうか。おそらく、自分にとって大切な人だろうと思います。こちらから挨拶をすれば、そのような好意が相手に伝わります。

うれしくならない人はいないでしょう。ビジネスの世界では、普通は、部下や後輩、目下の人が先に挨拶をするのが一般的です。

しかし、部下のことを大切に考えているのであれば、上司が自分のほうから進んで挨拶をするくらいの器量も必要だと思います。

先輩から後輩に挨拶をすることも、後輩との関係づくりにおいて大きな役割を果たしてくれます。

激励の意味もありますし、これからの関係をよくするためにも、ときには、上司から部下に、先輩から後輩に、先に挨拶をすることがあってもよいのではないかと思います。

○お出迎えのご挨拶

職種によって、一概に言えませんが、ホテルの場合だと、お客様をお迎えするときには、玄関前で一〇分前くらいからお客様を待つことが基本とされます。

お客様がいらっしゃって、後から出て行くよりも、先に玄関でお待ちしているほうがより「ウェルカム」の気持ちを表すことができます。

一般の会社の場合には、すべてのお客様を玄関前で待つ必要はありませんが、会社にとって極めて重要なお客様をお迎えするときには、幹部以下何名かの人が入り口で一〇分くらい前からお待ちしていると歓迎の意がよく伝わるでしょう。

そして、お客様が到着されたら、必ず一歩前に出て、「ようこそお越しいただきました」と声をかけます。その場から動かずにいるよりも、足を一歩前に踏み出したほうがより歓迎する気持ちを伝えることができます。声をかけるときは、感謝の心と気くばりが必要です。

単に「こんにちは」と言うのではなく、ひと言二言付け加えましょう。

「ご多忙の中、お越しいただき……」「遠いところからわざわざお越しいただき……」「暑い中、わざわざお越しいただき……」「寒い中、お越しいただき……」「雨の中、お越しいただき……」「朝早くからお越しいただき……」 など、相手の苦労を思いやるような言葉を入れるとよいと思います。

このようなご挨拶は、ご自宅などでお客様をお迎えするときも同様です。なお、その際、最低限のマナーとして、お部屋の掃除はしておきましょう。

お客様をお迎えするのに、部屋の掃除や片づけがされていないと、相手を大切に思う心が伝わりません。お迎えする前の準備として片づけをしたり、掃除をしたりしておくことも、挨拶に含まれると考えてください。

○訪問時のご挨拶

ご挨拶には、こちらが、相手のところを訪れて行うものがあります。訪問するときの礼儀としては、きちんと時間を約束してから訪問することです。相手の都合も考えず、突然訪問するのは、好ましいことではありません。

突然訪問するような場合でも、電話をかけて、相手の都合を伺ってから、訪問するかどうかを判断してください。また、アポイントメントをとっていても、再度、事前に確認することが大切です。

相手の都合が急に悪くなることもありえますので、アポイントメントの確認をしておくことが望ましいでしょう。当日は、約束した時間に遅れることは絶対に避けましょう。余裕を持って、早めに出かけることは、基本中の基本です。

五分遅れて着いて、「ずっと、お会いしたいと思っていました」と挨拶をしても、気持ちは伝わりません。一分でも遅れたら、こちらの心は伝わらないと思ってください。

また、約束した時間が一時間であれば、できるだけ一時間で話を終えるようにしましょう。ダラダラと、一時間半も二時間も話しているのは、マナー違反です。

○心を形で表すご挨拶

訪問のご挨拶では、心を形で表すことも一つの方法ですから、手みやげを持っていくということも考えてみましょう。なかなか手に入らない物を買って持っていくと相手を思う心が伝わりやすくなります。

何時間も待たなければ買えない店で手みやげを買って持っていけば、相手の人は喜んでくださるでしょう。もちろん、相手の好みを優先することが大切です。どんなに高価なものを持っていっても、相手の好みと合わなければ意味がありません。

相手の好みをよく考えながら、手みやげを選んでください。こちらがお見送りするときにも、何かちょっとしたものがあれば、おみやげとしてお渡しするといいでしょう。「お荷物になりますが、もしよろしければ……」 と言って、お菓子や品物をお渡しするのも、一つのご挨拶です。

お菓子などは、よく厳選して、季節感溢れるものなどを用意しておくとよいでしょう。品物をお渡しする場合も、相手の負担にならないものを用意しましょう。

自社の宣伝となるような品物をお渡しするのはあまり好ましいことではありません。自分たちの都合ではなく、相手の気持ちを優先して考えることです。

○出会いのご挨拶 ① 感謝の気持ちを伝える

初対面のときの挨拶で、重要なことはどんなことでしょうか。初対面の挨拶では、「あなたに会えてうれしい」「あなたに会えてよかった」 という気持ちを伝えることが一番大切なことです。

言葉で表すケースもあるでしょうが、態度で表したり、表情で表したりすることも大切です。表情が硬いと、「お会いできてよかった」という気持ちは伝わりません。笑顔で挨拶をすれば、その気持ちが伝わるでしょう。

アイ・コンタクトや声も、自分の気持ちを伝えるための重要な要素です。そして、このとき大切なことは感謝の気持ちを込めることです。

初対面の人に感謝の気持ちは持ちづらいものですが、もしかすると、その人との出会いが、将来自分の人生を左右することになるかもしれません。

そう考えれば、出会えたことだけでも感謝に値するのではないかと思います。また、先述したように、一期一会の気持ちを持てば、おのずと感謝の気持ちが湧き上がってくるでしょう。出会えたことへの感謝の気持ちを込めて、「初めまして」と言えば、相手に伝わるものがあるはずです。

○出会いのご挨拶 ② 出会って二四時間以内にお礼のご挨拶をする

出会いを大切にしていくためには、お会いしたときだけではなく、その後の挨拶も欠かさずに行うことが必要です。まず、お会いした翌朝にお礼の挨拶をすることが大切です。できるだけ、二四時間以内にお礼の挨拶をしましょう。

電話をしてもかまいませんが、相手がお忙しい場合もありますので、私がホテルに勤務していたときは、手書きで一筆添えてファックスを入れさせていただきました。

今なら、メールでお礼の言葉を伝えてもよいでしょう。お店でお客様に何かを買っていただいたときには、「昨日は、お買いあげいただき、まことにありがとうございました。使い方等おわかりにならない点がございましたら、遠慮なくお申し付けください」 というようなご挨拶をするといいと思います。

メールアドレスがわかっているならメールでもいいでしょう。できるだけ二四時間以内にお送りしてください。せっかく出会っても、時が経つと相手のことを忘れていくのが人間です。記憶に残るには、二四時間以内にお礼のご挨拶をすることが大切なのです。

○出会いのご挨拶 ③ 定期的にご挨拶する

翌日にご挨拶するとともに、定期的なご挨拶も欠かさず行いましょう。年末、年始にご挨拶をすることもいいでしょう。

私の場合、年賀状では多くのハガキに紛れてしまうのではないかと考え、年末の終業日までに届くよう、一年のお礼のハガキを出させていただいていました。折りあるごとに、ご挨拶をしておくと、相手との関係をいつまでも続けることができます。

「お元気ですか? お変わりありませんか? またお会いしたいですね」 など、ご挨拶の手紙やメールをお送りしてみましょう。こちらのことを覚えていてくださる可能性が高くなります。

出会いを大切なものと考えるのであれば、定期的なフォローアップのご挨拶はとても重要です。

○出会いのご挨拶 ④ 名刺を大切にする

何度か述べたように、挨拶を大切にすることは、人を大切にすることと同じです。人を大切にするという意味では、いただいた名刺を大切にすることも重要だと思います。

名刺をすぐにホルダーにしまって、二度と見ないという人は、せっかくお会いした人のことを大切に考えていない人と言ってもいいでしょう。

「一期一会」という気持ちを持っていれば、いただいた名刺は、おのずと大切なものになるはずです。名刺を見ながら、その方のお顔を思い出し、会話を思い出し、お名前を確認しておきましょう。

お会いした日にきちんと挨拶をしたら、それで終わりではなく、次回にお会いしたときの準備をしておくことも大切なのです。

なお、自分の名刺ホルダーに同じ名刺が何枚も入っているようであれば、それは挨拶の仕方を見直したほうがいいというサインです。同じ名刺が二枚以上あるのは、こちらが相手のことを覚えておらず、同じ人と二回名刺交換をしたことを意味します。

「一度出会った人は忘れないようにする」という姿勢が大切です。特に、「この人にもう一度会いたい」と考えているのであれば、相手の名前をしっかりと覚えてください。

名前を覚えるのは、次回お会いするときのための最大の準備になります。また、名刺をいただいたら、その人の好みやそのとき話した内容などをどこかにメモしておくといいでしょう。

名刺というのは、その人そのものです。相手の人を大切にするつもりで、いただいた名刺も大切にし、活用していきましょう。

○出会いのご挨拶 ⑤ 二度目のご挨拶でするべきこと

一度お会いした人については、極力名前を覚え、二度目にお会いしたときには、 「○ ○さん、こんにちは」 「○ ○さんでいらっしゃいますよね。先日 □ □でお会いしました △ △です」 と声をかけられるようにしましょう。

相手の方は、一度しか会ったことがないのに名前を覚えていてもらうと、驚いたり、喜んでくれたりします。相手の名前を呼ぶことは、相手に対して好意を伝えることにもつながります。

二度目のご挨拶では、「名前を呼ぶ」ことを最大の目標にしてみてはどうでしょうか。相手に会ったときに、すぐ名前を呼ぶことができれば、それだけで二度目の挨拶は成功と言ってよいと思います。

ほとんどの人は一回会っただけでは相手の名前を覚えることはできません。だからこそ、「名前を呼ぶ」というシンプルな行為だけで、こちらの、相手のことを大切に思う気持ちが伝わるのです。

○出会いのご挨拶 ⑥ 三度目のご挨拶でするべきこと

三度目の挨拶では、それまでに相手と話した内容や相手の好みなどを覚えておいて、それらの要素を少し会話の中に入れてみましょう。相手の好みを覚えておくことは、相手に喜んでもらうことにつながります。

リッツ・カールトンでは、初めていらっしゃったお客様の好みやリクエストをメモしておき、二回目以降のサービスに活用していました。

例えば、初めてご宿泊されたときに、バーで特定の銘柄のビールを何杯かご注文されたお客様がいたとします。そのお客様が次にご宿泊の予約をされたときには、お部屋の冷蔵庫のミニバーにはその銘柄のビールをご用意して、お客様をお待ちします。

バーにいらっしゃってビールをご注文されたときは、バーテンダーがさりげなく、その銘柄でよろしいか確認します。そうすると、お客様は「えっ、なんで私の好みを知っているんだろう」と驚かれるのです。

こうした個人個人のお客様に合わせたサービスは、「パーソナル・サービス」と呼ばれますが、挨拶でも、相手の方が喜んでくれるのは「パーソナル・サービス」の要素が含まれている挨拶です。

これを、三度目の挨拶の目標にしてみましょう。

例えば、パーティー会場のような場であれば、 「○ ○さん、こんにちは。確か、 ○ ○さんはビールがお好きでしたよね」と言って、ビールを持っていくのです。

このようなことができると、相手の人は「この人は一、二度しか会ったことがないのに、私のお酒の好みまで覚えていてくれたんだ」とうれしくなります。

これは、非常にレベルの高い挨拶であり、誰もが簡単にできるようなものではありません。相手の好みを覚えておくのは、大変な労力を要します。しかし、逆にここまでのことができると、本当に心のこもった挨拶として、相手の方にこちらの気持ちが伝わります。相手の好みを覚えておき、挨拶するときにひと言付け加える。これが、より高いレベルの挨拶です。

○お祝い、お礼で喜ばれるご挨拶とは?

相手の誕生日や記念日などがわかっているときには、それらの日には欠かさずに挨拶をしましょう。身内や友人であれば、関係をより深めることにつながります。

会社の社長さんの中には、社員の誕生日や家族の誕生日に、プレゼントを贈ったり、メッセージを添えた花を贈ったりしている人もいます。ちょっとした気遣いですが、いただいたほうはその気持ちをうれしく感じます。

日ごろの感謝の気持ちを込めて、誕生日や記念日に何か贈り物をするというのはとてもすばらしいご挨拶です。そして、その際には、ひと言でいいですから、必ず手書きのメッセージカードを添えるようにしましょう。

「日ごろの感謝を込めて」「いつもありがとう」 といった簡単な言葉でも、相手の人に伝わるものがあります。そこにもう少しオリジナルのコメントを付け加えれば、さらに感動していただけるでしょう。

知人や友人に対しては、全員に誕生日プレゼントをあげる必要はないかもしれませんが、誕生日にひと言「おめでとう」と言うくらいのことはできるのではないでしょうか。

当日が忙しければ、その前後に何かおごってあげるのもいいかもしれません。

おごってもらう友人にしてみれば、「誕生日だから。おめでとう」と言われれば、たとえコーヒー一杯でもうれしいものです。

また、知人や友人にお祝いごとがあったようなときには、手紙を書いたり、プレゼントとともにメッセージカードを送ったりしてもよいでしょう。

普段は気のおけない関係でも、節目、節目では、フォーマルな挨拶をしておくことが大切です。一方で、いただきものをしたようなときには、必ずお礼の手紙を書きましょう。

このようなときは、口頭でお礼を言うよりも、お礼の手紙を出したほうが心が伝わりやすくなります。特に自筆で書いた手紙は、感謝の気持ちが伝わります。

お中元、お歳暮をいただいたとき、お返しをするのも一つの方法ですが、お礼の手紙を書いて送るほうが相手の喜びが大きい場合もあると思います。

口頭でお礼のご挨拶をする場合は、恐縮するよりも、素直に喜びを表現したほうがいいでしょう。相手に喜んでもらうということを考えれば、丁寧なお礼のご挨拶よりも、素直に喜びを表したほうが、気持ちがストレートに伝わる心のこもったご挨拶になることもあるのです。

○この一行でメールに心がこもる

メールでのご挨拶については、どのように考えればよいでしょうか。前章で紹介した、葬祭会社のセレモアつくばでは、社長の辻正司さんが社員に対して次のように指示をしたそうです。

「メールで日報を提出するときも、心を込めて季節の言葉の一つくらい入れるようにしてください」 業務報告は簡潔なほうがよいという考え方もありますが、事務的な文章にはあまりにも潤いがなさすぎるのは確かです。

特に、亡くなった方のご親族と日々接している同社の社員にとっては、季節に対して敏感なほどの感性とホスピタリティが求められています。

メールに季節の言葉を入れさせるのは、おそらく社員に対する教育の意味合いが含まれているのでしょう。感性を豊かにしておくことも、心のこもった挨拶をするときにとても役に立ちます。

取引先にメールを送るときでも、「いつもお世話になっております」と書くだけではなく、「いつもお世話になっております。桜が満開になりましたね」「大変お世話になっております。こちらは雪が降っておりますが、そちらはいかがですか」「大変お世話になっております。暑い日々が続いていますが、お変わりありませんか」 と、ひと言季節感のある言葉を入れておきましょう。

○準備というご挨拶 ① 気くばりをする

挨拶というのは、相手の人と会ったときから始まると考えている方がいるとしたら、それは正しくありません。心のこもったご挨拶は、出会う前からすでに始まっています。

例えば、会社に取引先の方がいらっしゃるケースを考えてみましょう。取引先の方がいらっしゃって、受付を済ませ、応接室に通されます。

応対をする側は、受付から連絡を受けて、応接室に行き、ドアを開けて「こんにちは。いつもお世話になっております」と言ってご挨拶をします。これが、ごく一般的な挨拶です。

ですが、このようなご挨拶もできるのではないでしょうか。もし、自分が応対をするのであれば、あらかじめ、受付に連絡を入れておくのです。

「 ○月 ○日の ○ ○時にお取引先の ○ ○様がいらっしゃいますので、よろしくお願いします」と伝えておき、取引先の方が来社された際には、受付の担当者に「 ○ ○様ですね。□ □部の □ □から伺っております。お待ちしておりました」と言ってもらうようにすれば、丁寧なご挨拶になります。

もう少し気くばりをするのであれば、受付の人に面会の概要を伝えておいてもいいでしょう。

「○月 ○日の ○ ○時にお取引先の ○ ○様がいらっしゃいます。○ ○様は、今うちの □ □プロジェクトでお世話になっていて、当日は大阪からいらっしゃいますので、よろしくお願いします」と伝えておけば、「 ○ ○様ですね。□ □部の □ □から伺っております。本日は、大阪からわざわざお越しいただき本当にありがとうございます。お待ちしておりました」と対応することもできるはずです。

また、応接室にお通しするときに、無言でご案内するのではなく、「 □ □プロジェクトの件では、大変お世話になっていると伺っています。ありがとうございます」といったような、ちょっとした会話をすることができるかもしれません。

その後に、担当者が応接室に入っていって「こんにちは。いつもお世話になっております」と言えば、その言葉に本当に感謝の気持ちがこもっていることが伝わります。

取引先の方は、「この人は、私が大阪から来ることを受付の人に伝えておいてくれたんだ。私の仕事内容まで受付の人に伝えておいてくれたんだ」と思って、その気くばりを喜んでくださるのではないかと思います。

挨拶の言葉としては、「こんにちは。いつもお世話になっております」という平凡なものですが、そこに感謝の気持ちを感じてくださるでしょう。

同じ言葉を使っていても、単なる儀礼的なフレーズとして受け止められるか、感謝の気持ちがこもった言葉として受け止められるかは、このご挨拶の準備によって異なってくるのです。

○準備というご挨拶②心くばりをする

前項のケースで、さらにホスピタリティ・マインドの高いご挨拶とはどのようなものでしょうか。

例えば、社内の人に事前に連絡しておくときに、「今度いらっしゃる ○ ○様は、コーヒーが苦手で紅茶がお好きなので、紅茶を用意していただけませんか」と伝えておいたとしたらどうでしょうか。

応接室でお茶をお出しする人が「 ○ ○様は、コーヒーよりも紅茶のほうがお好きと伺っておりますが、お飲み物は紅茶でよろしいでしょうか」と言って紅茶をお出しすることもできるはずです。

訪問先の応接室で自分の好みの飲み物を出していただけたら、これほどうれしいことはありません。

応接室に入っていった担当者が「こんにちは。いつもお世話になっております」とありきたりの言葉で挨拶をしたとしても、「私のために、この人は好みの飲み物を手配しておいてくれたんだ」と、感激してくださる場合もあるのではないかと思います。

これは、お迎えする担当者が心くばりのできる人だからこそ可能な対応です。心くばりとは、相手があたかも自分の家族の一員であるかのような気持ちで対応することです。

もし、自分の大切な家族が遠方に住んでいて、久しぶりに帰ってくるとしたら、どうするでしょうか。きっとその家族の好きな飲み物や食べ物をたくさん用意して待っているのではないでしょうか。取引先の人をお迎えするときも同じです。

取引先の人のことを家族の一員であるかのように心をくばれば、遠方から来てくださる人に、好みの飲み物を用意して待っているという対応が自然にできてくるはずです。

また、遠方から来てくださることがわかっているなら、会社の玄関のところまで出ていって、お待ちしているという対応も可能です。

会社の入り口に着いたときに、何名かの人が自分を待っていて出迎えてもらえば、相手の方は感激なさるかもしれません。

「こんにちは。本日はお越しいただき、ありがとうございました」と言うだけで、すべてが伝わるのです。やはり、自分の大切な家族が遠方から久しぶりに帰ってくるのであれば、待ちきれずに玄関前で出迎えても不思議ではないと思います。お客様のことを大切な家族の一員として考えれば、玄関前でお出迎えをするということが、ときにはあってもいいはずです。

「心を込めた挨拶」とは、挨拶の言葉に心を込めるという意味だけではありません。その人のことを思って「いかに準備をしておくか」ということも、とても大切なことなのです。

挨拶前の準備の段階から心を込めておくと、ありきたりの挨拶の言葉であっても、心のこもった言葉として響くのです。

○お見送りの形ですべてが決まる

ご挨拶で忘れられがちなポイントに、お見送りがあります。どんなに大歓迎されても、お見送りがなければ、その気持ちは伝わりません。

例えば、予約しておいたレストランに着いたときに、五名のスタッフが待っていて、みな口々に「お待ちしていました」「ようこそ、おいでいただきました」と歓迎の挨拶を述べたとしましょう。そのとき「私のことを待っていてくれたのか」と感激するはずです。

しかし、食事が終わり、いざ帰ろうとすると、スタッフの一人が「ありがとうございました」と言うだけで、後の人は無言で片づけをしていたら、せっかくの感激も冷めてしまうでしょう。

見送りもなく、何となく店を出たというのでは、感激の気持ちは一気に失せてしまいます。

会社を訪問した場合も同様です。訪問時には歓迎してくれても会合が終わるやいなや、「それではここで」と言って、担当者が会議室から去ってしまったら、歓迎されていた気分は吹き飛んでしまいます。

歓迎する気持ちを表したいのであれば、会社の玄関のところまで見送りに出るという姿勢が必要です。そして、来客の車が見えなくなるまで、頭を下げて挨拶を続けていなければなりません。

そこまですると、相手には「歓迎してもらった」という余韻がいつまでも残るのです。お迎えの時点でよい挨拶、よい対応ができても、最後にそれを台無しにしてはもったいないと思います。

挨拶というのは、始めよりもむしろ後が大切です。料亭の女将さんは、「お迎え三、お見送り七」で、お見送りのほうを大切にされると言われます。

相手の方とお会いするのは、もしかすると、これが最後の機会になってしまうかもしれません。そのように考えれば、お見送りの挨拶はとても重要なものと言えるのではないかと思います。

お見送りによって、相手の印象はずいぶん異なってきます。お見送りをいかに大切にしているかで、相手を大切にしている気持ちが伝わるのです。相手の心に余韻を残すためにも、最後のお別れの挨拶、お見送りの挨拶は特に重視すべきです。最後の最後まで心くばりをし続ける挨拶が、まごころのこもった挨拶なのです。

○見返りを期待せず繰り返そう

本章の最後に、ご挨拶を実践するときに、とても大切なことを申し上げます。それは、見返りを期待しないということです。

挨拶をしたときに、相手の人からの見返りを期待して、それがないと「なんだ、この人は」と相手に対して怒りを覚える場合があるかもしれません。

ですが、ご挨拶は、相手の人から見ると非常に小さな行為です。挨拶を少し変えただけで、相手の人から何かを期待できると考えるのは間違いです。

こちらは挨拶に心を込めなければいけませんが、相手が同じように心を込めて応じてくださるとは限りません。相手の人に対して過度な期待をしないことが大切です。

お礼がなくても、返信がなくても、気にしないようにしましょう。それが普通だと考えてください。とは言っても、相手の人の心の中に、確実に小さな変化が起こっています。

例えば、あなたに対する好感度はわずかでも確実に上がっているはずです。好感度が上がるだけでも、大きなメリットなのです。

もしかすると、誰かに「あの人はとても感じのいい人だよ」と話しているかもしれません。まわりまわってプラスに作用するのがご挨拶です。

相手に対する過度な期待を捨て、一期一会の機会を大切にして、心のこもった挨拶を続けていくこと。それがご挨拶からの贈り物をいただく最短距離なのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次