定期的な人事異動は、「赤字」という病気を防ぐ特効薬
人事異動をしない会社の「5つ」の弊害
わが社は、定期的に人事異動を行います。5年以上、同じ部署で働くことはありません。
営業系の若手社員は、ひとつの職場での在籍期間を3年、事務系は5年として他の部署に転属させ、多くの経験を積ませます。
事務系の部長クラスは、一度、営業の体験をさせる。とくに経理部長には、営業課長を経験した人を登用しています。
どうして頻繁に人を動かすのか?同じ仕事をさせ続けると、次のような弊害が起きるからです。
【人事異動をしないことによる弊害】
①無理・無駄・ムラが放置される
同じ仕事を長く続けていると、新鮮味が薄れ、すべて「風景」になり客観性を失います。結果として、無理・無駄・ムラに気づかず放置してしまう。
②仕事が属人化する
「属人化する」とは、「ブラックボックス化する」と同義です。「この件は○○さんに聞かないとわからない」「あの仕事は△△さんでないとできない」と、「人に仕事がつく」と、モンスター社員に育ったり、仕事がブラックボックス化して不正の温床になりかねません。また、その人が病気で休んだり退職をしたら、仕事が回りません。
③ひとりの上司の固定的な評価から逃げる
ことができない無能な管理職が幅を利かせることになります。長くその部署に置いておくと、「幹部」が「ガン部」になる。
④組織が「赤字病」にかかる
数年に一度の組織変更は、会社を「赤字」という病気から守る最良の薬です。組織をつくるときは、はじめに「病気にならない組織」を作成して、あとから人を割り振るのが正しい。人を見て組織を変えると、帯に短したすきに長しで、何もできない。
⑤新しいことに挑戦しなくなる
同じ部署に長くいると、自分は仕事ができると錯覚してしまう。また、過去の体験にしがみつき、変化や失敗を恐れるようになる。会社の「業績が良いとき」は、どうしても、社員の気持ちは緩みます。
2015年、わが社は、過去最高売上、最高利益を達成し、賞与は前年の120%増し、残業も「76時間」から「35時間」に減りました。
すると社員は、「うちの会社は、大丈夫だ」と安心して、スピードが落ちてしまう。そこで私は、幹部の危機感をあおるために12月の繁忙期に50%を「人事異動」しました。
この1年間で、「本部長」と名前が付く人は、ひとりの例外もなく、全員、異動です。すると、新しい職場と今の職場の引き継ぎをしなければならないから、真剣になる。
「うちの会社は、大丈夫だ」という気の緩みがなくなります。大規模な人事異動を断行すると、一時的に現場は混乱します。ですが、組織を活性化させるためには、人事異動によって会社を変化させることが重要です。変化とは、人を変えることです。
人事の最終決定は「社長」が行う
わが社は、いわゆる「人事部」はありません。20年以上前に廃止しました。新卒・中途採用や、昇給・昇進などにまつわる事務手続きや各種査定は、人事部の代わりに「総務部」が担当しています。
人事部がまだあったころ、仲が良さそうに見えた「TくんとSくん」を同じ部署に配属したことがあります。
2人は卓球仲間で、休みの日も一緒に卓球をしていました。そこで当時の人事部長が、「2人はコミュニケーションも取れているし、一緒にしたら業績が上がるのではないか」と考え、私も承認しました。
ところが実際は、その逆。このコンビの成績は、ズルズルと落ちていったのです。よくよく調べてみると、実は「さほど仲が良かったわけではない」ことがわかりました。
「仲が良さそう」と「仲がいい」は違う。2人が一緒にいたのは、「卓球の相手をしてくれる社員がほかにいなかった」から。
人事部は、会社全体・社員全体を把握することができず、良くも悪くも社員の表面的な部分しか見ることができない。
そのことに気がついた私は、人事部を廃止しました。現在は、幹部数名に「人事異動案」をつくらせ、彼らの意見を踏まえながら、最終的には社長の私が決定します。
「案」は幹部がつくり、最終決定は社長がする。これがわが社の人事異動の基本的な考え方です。
「成績の良い人」を中心に人事異動をする
「仕事ができる人」ほど頻繁に異動させる
人事異動は、「職場のナンバーワン、あるいはナンバーツー(成績の良い人、昇格した人)」を動かすことが慣例です。武蔵野の管理職の新人は、ダスキンホームサービスの課長です。
そこでA評価を取って勝ち上がると、ダスキンビジネスサービスの課長になります。ダスキンビジネスサービスでA評価を取ると、次は、「経営サポート事業本部」の課長です。
そこで揉まれながら、既存営業部門でA評価を3回取ると、ダスキン事業部の部長に栄転します。普通の会社は、「仕事ができない人」を動かします。
しかしわが社では、「仕事ができる人」ほど頻繁に異動させます。専務取締役の矢島茂人は、「入社後の10年間で9回」移しました。
仕事ができる人は、何をやらせてもすぐに習熟する一方で、同じことを長く続けさせていると、飽きてしまう。
彼らのモチベーションを下げないためにも、定期的な人事異動が必要です。私は「ダメな人は何をやらせてもダメ、できる人は何をやらせてもできる」という考えです。
世間の多くの会社は、「ダメな人」をなんとかしようとして、あっちこっちに動かしますが、それは時間とコストの浪費です。
ですが、ナンバーワン、ナンバーツーを動かすと、「2・6・2の法則(集団が形成されると、上位2割、中位6割、下位2割の割合で3つのグループに分かれる。
上位2割がいなくなっても、残りの8割に優劣が生じて、再び2・6・2の割合に分かれると考えられている)」によって、下の人たちが優秀になり、後ろにダメな人が入ってきて、常に組織が活性化します。
だから層が厚くなる。ナンバーワン、ナンバーツーを抜かないと下が伸びない。下を伸ばすためにも、上を異動させたほうがいいわけです。
社員に「失敗の経験」を積ませるのは、社長の仕事
成績の良い人は、高速配転がいちばんです。多くの部門を担当させ、多くの失敗経験をさせることで、10年後、花が咲いて実が穫れます。
人間は失敗からしか学ぶことができません。上司やお客様から叱られ、恥ずかしい思いをして、ようやく一人前になる。
学生時代は「記憶力」で勝負をしたが、社会に出ると、「経験」で勝負することになる。その経験をさせるのは、社長の仕事です。
成績が悪い人は、その場でずっと習熟させて、「5年に1度」ぐらいのスパンで異動すればいい。
若い人は、「つらい仕事はやりたくない。でも課長になりたい」と言います。それは、「勉強はしたくないけれど、いい学校に入りたい」と言うのと同じ。
そんなことは不可能です。人は、キツイ仕事をさせないと育ちません。だから私は、「新しい仕事」をどんどんさせています。
新しいことをやれば、必ず失敗する。でも、「失敗とは、自分のキャパシティーを広げること」であり、「実力とは、失敗の数」です。
新しい部署で新しい仕事をする。経験がないから失敗をする。「なぜ失敗したのか、どうすれば次はうまくいくのか」を考え、改善する。こうして人は成長します。
人の成長なくして、会社の成長はありえない。そして人の成長は、失敗なくしてありえない。だから私は人事異動を行って、作為的に、無理やり、失敗をさせています。
人事異動を拒否した場合は、評価を下げる
わが社は、人事異動の回数を評価しています。回数を評価しないと、人を動かせません。社員が、人事異動(または出張)を拒否した場合は、評価を下げます。
A評価を取った社員から、「何で僕はA評価を取ったのに一般社員なのですか?」と言われたときに、「おまえは動いていないからだ」と、人事異動の回数が少ないことを理由に昇進を見送ったこともあります。
「人事異動は社長の権限だから、社員は拒否できない。その代わり、人事異動に応じた回数が多いほど、評価する」人事異動に聖域はない。これが、私の考え方です。
人を動かすときは、早すぎても遅すぎてもダメ
元部下や同期を「上司」にすることも必要
私は意図的に、「同期の社員を上司」にしたり、「部下だった社員を上司」にすることがあります。
同期や元部下が自分の上司になれば、「悔しい」と思い、「早く成績を上げて別の部署に異動しよう」と頑張ります。
上田紗友美は、武蔵野史上、過去最短の5年で部長になりました。上田の部下には、同期入社の長妻圭一郎課長と、上田が経営サポート事業本部にいたときの元上司、雨倉浩彦課長がいます。
元上司の雨倉は、ホームサービス(ダスキン事業部)の課長の中では、いちばん実務経験があります。
真面目にやればA評価が取れるのに、「適当にやっていても、オレはCにならないから」と言って、手を抜いていた。
そこで私は、雨倉の上司に上田を異動させた。するとどうでしょう。上田が上司になったとたん、雨倉の目の色が変わりました。
「オレは絶対に違うところに行く!」と頑張り、A評価を取ると、同期の長妻も、「同期の上田が上司なのは、嫌だ」と言って頑張っている。
雨倉と長妻が成績を上げるのは、「上田には負けたくない」と思っているからです。高梨昌俊本部長が武蔵野に入社した当時、高梨の上司は、市倉裕二でした。
その後、高梨は特別な功績が認められて抜擢され(社内で、日本経営品質賞の獲得を目指すプロジェクトの事務局長を務め、受賞に貢献したのが理由)、部長になります。
市倉は、高梨に先を越され、悔しがっていた。そこで私は、市倉をダスキン事業部から経営サポート事業本部に移して、「既存事業の課長と戦って3年間でA評価を3回取ったら部長にする」と伝えた。
すると市倉は、馬車馬のように頑張って部長に昇進した。現在、市倉はダスキンクリーンサービス事業部統括本部長で、高梨の上司です。
53年の歴史をもつダスキン事業の売上を更新中です。悔しさは、人を動かすエネルギー。だからこそ、社員に悔しい思いをさせることも必要です。
「カモ」を投入して、B評価社員のやる気に
火をつける武蔵野はグループ内の相対評価で、A評価の社員(成績が良い社員)が昇進していなくなると、B評価以下の社員はやる気を出します。
上がいなくなれば、「次は自分がA評価を取れるかもしれない」と思うからです。
ダスキンホームサービスの一般社員(2グループ)だった守屋篤が、A評価を取って課長(店長)となり、異動することになった。
すると、残った2グループの社員は、「守屋という目の上のタンコブがいなくなれば、次は自分がA評価を取れる」と思い、守屋の異動を喜びます。
一方、すでに3グループにいる課長たちも、守屋を歓迎します。
けれど、課長たちが守屋を歓迎するのは、守屋の昇進を素直に喜んでいるからではありません。「カモが来たから」です。新任の課長よりも「今いる課長」(つまり、自分たち)のほうが実力は上です。
しかも、3グループの中で優秀な課長が「部長」となって4グループに上がるとなれば、「強い課長がひとり減り、弱い課長がひとり増える」ことになる。
つまり、A評価を取るチャンスが増える。だから歓迎するわけです。配属を変えると、人のやる気が変わります。
だれを、いつ、どのように配属し、どのタイミングで昇進させたら頑張るようになるか。人を動かすときは、早すぎてもダメで、遅すぎてもダメです。
水をあげすぎると根が腐り、あげないと枯れてしまう。そのタイミングを見極めるのは、社長の力量です。
武蔵野が半数近い社員に「課長職以上」の肩書きを与える理由
石を投げたら課長に当たる。
投げなくても課長に当たるわが社は、社員・パートタイマー・アルバイト・外交員750名の組織です。社員210名中、「課長職以上」が80人以上います。
「石を投げたら課長に当たる。投げなくても課長に当たる」のが武蔵野です。この80人以上の中で、過去7年以内に辞めた人は、八木澤学、ただひとりです。
ですが、辞めた八木澤も今は戻ったので、実質ゼロ人です。昔、Oという常務が、「武蔵野の課長は、世間の係長以下ですよ」と皮肉った。
そこで私が、「おまえは常務だけど、普通の会社では課長だよ。うちの会社は人材の層が薄いから、おまえを常務にしているんだぞ」と言い返すと、Oは黙ってしまった。
他の会社で課長になれない人材でも、武蔵野なら「課長」の名刺を持てます。「課長」の名刺を持てば、本人の責任感が大きく増します。
それに、役職が高いと、まわりの見る目が変わるから、本人も気持ち良く仕事ができます。課長が増えれば、当然、管理職手当(グループ手当)を支払うことになり、多くの社長は、「人件費の総額が上がる」と考えます。
ところが、経験上、そうはならない。なぜなら、何年仕事をしても「C評価」以下の成績しか取れない社員が、いつの間にか辞めてしまうから。
では、辞めた社員はその後どうなるかというと、他の会社で活躍します。わが社でC評価だった社員も、武蔵野で鍛えられた経験は財産になる。
だから、他社で管理職として活躍している。2・5グループは、課長候補です。3グループの社員との相対評価になる。2年以内にA評価を1回取ると、課長になれる。考え方は、大相撲の入れ替え戦と同じ。
大相撲では、「十両上位の好成績者」と「幕内下位の成績不振者」が入れ替え戦を行いますが、わが社も、2・5グループが3グループを負かしたら、課長になれるしくみです。
更迭しても、すぐに復帰できると思えば、社員は卑屈にならないグループが下がることを「更迭」と呼びます(グループが上がることは「昇進」)。
4グループの部長が更迭され、3グループの課長になった。「更迭をすると社員のモチベーションが下がるのではないか?」と思われるが、そんなことはない。更迭されても、「3年以内にA評価」を取れば復帰できるからです。
課長(2グループから上がってきた課長)が部長になるには、「A評価を3回」取らなければいけない決まりです。
ですが、部長から更迭されて課長になった社員は、「3年以内にA評価を1回取る」だけで部長に上がれます。3回取る必要はありません。1回だけで復帰できます。
直近1年で4グループに復帰したのは、井上岳志・菊地富夫・上岡佳之の3人です。
更迭者を優遇しているのは、「腐らせないため」。次に結果を出せば、すぐに復帰できる。だから社員は更迭されても卑屈になりません。
八木澤学は、昇進と更迭を繰り返し、「3回課長に昇格して、3回降格した」社員です。それでも八木澤が腐らずに4回目の課長に復帰したのは、「復活するしくみ」が明確だからです。
昔の私の大失敗は、古参の課長をA評価がなくても下駄を履かせて部長に昇進させたことです。一人の例外なく退職をした。可哀想なことをしたと反省しています。
仕事ができる者同士、仕事ができない者同士で組織をつくる
頑張っているのに「A評価」が取れない「2つ」の理由
「4大卒」は「Ⅱ等級1グループ」で採用し、入社3年以内にA評価を1回取ったら、2グループに昇進させます(入社3年を超えた場合は、A評価を2回取らなければいけない)。
「短大卒・専門卒・中途社員」はA評価2回、またはS評価1回で2グループに昇進させます。
1グループから2グループへの昇進では基本給も手当も変わりませんが、グループが上がれば、社員の「嬉しさ」が違います。
1グループから2グループへの昇進はそれほどむずかしくありませんが、それでもなかなかA評価が取れない社員がいます。
「A評価が取れない」理由には、おもに次の「2つ」が考えられます。
①仕事が合っていない(その仕事に向いていない)
②上司と部下の実力差がありすぎる
①仕事が合っていない(その仕事に向いていない)単純な仕事ではA評価が取れないのに、複雑な仕事に変えたとたん、A評価が取れる社員がいます。
ダスキン国分寺支店ビジネスサービス課長加藤肇は経営サポート運営部でセミナーの運営をしていたが、なかなかA評価が取れないので、難易度の高い実践経営塾(社長が参加するセミナー)に変えたら、生き返ってA評価を取った。
人には得意・不得意があるから、一所懸命仕事をしているのに結果が残せないのは、不得意な仕事をさせているからです。そんなときは、人事異動を行って仕事を変えてあげる。そうすれば結果を出せる。
②上司と部下の実力差がありすぎる
上司が優秀すぎると、部下はやる気をなくします。同じように、部下の実力が上司よりありすぎても部下はやる気をなくします。
上司と部下の間に実力差がありすぎる場合、・仕事ができない部下は、仕事ができない上司の下に配属させる・仕事ができる部下は、仕事ができる上司の下に配属させると、個人も組織も活性化して業績が上がります。このことを多くの社長はわかっていません。
多くの社長は、「仕事ができない部下は、優秀な上司の下に配属させたほうが成長する」と考えます。しかし、これは間違い。
「優秀な上司には優秀な部下をつける。仕事ができない上司には仕事ができない部下をつける」ほうが正しい。なぜなら、同等の力を持っている人同士で組織を構成したほうが、切磋琢磨しやすいからです。
大相撲の番付を例に考えると、わかりやすいと思います。横綱と序二段が同じ土俵で相撲を取ったら、序二段はいっこうに勝てない。でも、序二段同士なら、勝てる確率が高くなるから頑張るのです。
営業所も、A評価以上の社員を集めた営業所と、B評価・C評価の社員を集めた営業所に振り分けます。
B評価・C評価を集めた営業所の中でも相対評価が行われるから、「自分も頑張ればA評価を取れるかもしれない」と希望を持ち、一所懸命に仕事に打ち込みます。
逆に、「A評価以上」の人ばかり集まった営業所では、それまで一度も挫折を味わったことがない若い社員に、苦い思いをさせ更迭の経験をさせることができます。
優秀な社員と力のない社員を戦わせても意味がありません。
優秀な社員は小さく固まるし、力のない社員は「どうせA評価以上は期待できないから、頑張ってもしかたがない」とあきらめムードに包まれます。
仕事が合っていないなら、「得意な仕事」ができるように異動させる。上司と部下の実力差がありすぎるなら、上司を変える。こうすることで、伸び悩んでいる社員の成長をうながすことができます。
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