はじめに──これは「パワハラ」になりますか?◆ほとんどの人が「知っているつもりで実は知らない」?「これは、パワハラになりますか?」長年、労働行政や企業での人事・労務管理に携わる中で、こういった問いを何度も受けてきました。昨今、ほぼ毎日のようにパワハラに関するニュースが世の中を騒がせています。実際、日本の3分の1以上の企業でパワハラ問題が発生しているかもしれないという数字もあり、誰にとっても、そしてどんな企業にとっても、パワハラは他人事ではありません。一方で、「パワハラ」という言葉が本来の意味を離れ、独り歩きしてしまっているという懸念もあります。業務上、必要な指示や指導、あるいは教育が、「パワハラ」という言葉によってできなくなってしまうようなケースです。「ちょっと厳しく指導したらパワハラと言われる。いったい、どのように部下指導をしたらいいのか」現場のマネジャークラスの方々からは、そのような声も多く聞こえてきています。こうした問題の最大の原因は、多くの人がパワハラについて「知っているつもりで、実はよく知らない」ことにあると思います。パワハラという言葉はもちろん知っていても、実はその正しい定義を知らない。だから、いざというときにどう判断すればいいか迷ってしまうのです。◆2020年、ついに「パワハラ防止法」施行ただ、それには無理からぬ理由がありました。実はつい最近まで、「パワハラ」に関して直接取り扱う法律は存在せず、「パワハラとは何か」についても、法律上の明確な定義は存在しなかったのです。2019年はその意味で、画期的な年になりました。通称「パワハラ防止法」の成立により、ついにパワハラが法律上で定義され、企業にパワハラ防止対策が義務づけられることになったのです。この法律は2020年6月1日より施行されることになります。2020年は「パワハラ防止元年」と言えるでしょう。本書はこの通称「パワハラ防止法」の内容を紹介するとともに、それによって定められた「新しいパワハラのルール」を解説するものです。ところどころにクイズを入れるなど、豊富な事例を用いてわかりやすく説明することを
心がけました。そのため、専門家から見ると説明が不十分なところもあるかもしれませんが、あくまで「現場で働く人が使える1冊」を目指しました。また、本書では今回の法改正により一部内容が変更になった「セクハラ」や「マタハラ」「ケアハラ」などのルールについても扱っています。パワハラとこれらの各種ハラスメントは密接に関連しているからです。◆パワハラへの風当たりは、今後ますます強くなること必至パワハラの一番の被害者は、言うまでもなくパワハラを受けた本人です。パワハラによるメンタルダウンの問題は深刻であり、早急に対処しなくてはなりません。しかし一方で、正しいルールを知らないために、善意の指導のつもりが「パワハラ」になってしまった上司もまた、被害者と言えるかもしれません。また、パワハラ問題を起こした会社は「パワハラ企業」のレッテルを貼られ、採用などに深刻な影響が出ることになります。言うまでもないことですが、パワハラは誰にとっても「百害あって一利なし」なのです。法律の施行により注目度が増すことで、世の中のパワハラに対する風当たりはますます強くなるはずです。国も本腰を入れて取り締まりを強化してくることでしょう。そんな中、パワハラについて「知っているつもり」のままでいることは、極めて危険です。ぜひこの機会に「パワハラ」についての正しいルールを知っていただき、一人ひとりが安心して働くことができる職場を実現していただければと思います。2020年3月布施直春
「パワハラ防止法」対応!「職場のハラスメント」早わかり目次はじめに──これは「パワハラ」になりますか?序誰もが「職場のハラスメント」を無視できない時代に第1章知らないではすまされない!「パワハラの大問題」深刻な社会問題化する「職場のパワハラ」パワハラが企業の屋台骨を揺るがす時代に上司もまた「部下への接し方」に困っている!?ところで、パワハラって本当に増えているのですか?「セクハラ」は今、どうなっているのかcolumn「昔はパワハラなんてなかった」──では、そのさらに昔は?
第2章ついに成立した「パワハラ防止法」。そのポイントは?
5分でわかる!「パワハラ防止法」の要点「大企業」と「中小企業」で異なる点とは?もし、違反したら……。意外に大きなダメージが今回の法改正が示す「本当の重要性」とは?御社は大丈夫?「パワハラの起こりやすい職場」チェックリストcolumnパワハラが発生しやすい職場の「ある共通点」
第3章これはアウト?セーフ?──知っておきたいパワハラの判定ルール
すべてそろって初めて「パワハラ」に──パワハラの要件そもそも「職場」ってどこを指す?「パワハラか、そうではないか」を分けるものとは?言うまでもなく「暴力は禁止」類型1「身体的な攻撃」ミスは指摘しても、人格は否定しない類型2「精神的な攻撃」「仲間外し」がパワハラになる!?類型3「人間関係からの切り離し」高すぎる目標はパワハラになるか?類型4「過大な要求」「仕事を干される」こともパワハラに類型5「過小な要求」プライベートには踏み込まない類型6「個の侵害」column増え続ける「ソーシャルメディアハラスメント」
第4章セクハラ、マタハラ、ケアハラの新ルール
改めて「セクハラ」って何か説明できますか?これはどうなる!?セクハラの「セーフ」「アウト」マタハラはもちろん、「パタハラ」「ケアハラ」も禁止ですcolumn「カスハラ」対応への第一歩
第5章「パワハラゼロ」の職場を実現するために
企業が必ずやらねばならない「対策」とは?「トップの宣言」が不可欠!アンケートを行うことで、実態を把握するパワハラを「埋もれさせない」ために「トラブル発生!」そのとき、どうする?本文イラスト◆齋藤稔編集協力◆スタジオ・チャックモール
いきなりですが、クイズです。
これってパワハラ?Q1何度言ってもなかなか仕事のやり方が改善しないA君。多分、上司である私の言うことを軽んじているからだろう。きつくお灸をすえるべく、今日は朝から晩まで一日中説教をした。あくまで仕事のことで説教したわけだから、問題はないはずだ。
Q2とにかく仕事ができないB君。こんな社員が近くにいたらチームの士気に関わる。ということで、別室にて待機させることに。足を引っ張られるよりいいでしょ。
Q3部下には厳しいのに、上司にはいつもペコペコしているA課長。あまりに頭にきたので、チーム全員で仕事をボイコットしたり、わざと聞こえるような声でA課長の悪口を言ったり……。A課長は困り果てているけど、このくらい当然の権利ですよね?
Aどれも「パワハラ」になる可能性が高いです。いくら仕事上の指示や指導でも、それが度を越したものになってしまっては、パワハラとなるのです。また、パワハラというと「仕事を強要する」というイメージが強いと思いますが、「仕事をさせない」ことや「人間関係から切り離す」こともまた、パワハラになり得ることに注意が必要です。そして「上司から部下に」とは限らない、ということにも注意すべきでしょう。詳しくは本書にて徐々に解説していきますが、パワハラの概念は意外と広いということを、まずはご理解いただければと思います。
序誰もが「職場のハラスメント」を無視できない時代に
◆パワハラって、つまりなんですか?冒頭から質問で恐縮ですが、あなたは「パワハラとは何か」と質問されたら、迷わず答えることができるでしょうか。パワハラが「パワーハラスメント」の略であることは、多くの人がご存じだと思います。そもそもパワハラという言葉が生まれたのは比較的最近のことで、2000年代初めくらいから使われるようになったとされています。それ以前から、異性(特に女性)に対して性的な嫌がらせをする「セクシャルハラスメント」という言葉はあったのですが、性的な言動ではない、上司から部下へのいわゆる「いびり」「いじめ」のような言動を指す言葉がありませんでした。そこで、「パワーハラスメント」という言葉が使われるようになったのです。ハラスメントというのは、他の労働者への言動により、法律で保護されている他者の権利や利益を侵害することです。パワーとは「権力」の意味で使われており、つまり、権力や立場などの優越性を背景にしたいじめや嫌がらせが「パワーハラスメント」ということになります。もう少し正確に言えば、職場において権限を持った人や立場が上の人が、仕事とは関係のない、あるいは仕事を進めていくために必要な指示や指導を明らかに超えた言動により労働者の就業環境を害することが、パワハラの定義となります。つまり、単なるいじめや暴力はパワハラではなく、あくまでも、職場における優越的な権限や立場を背景にしたものが、「パワハラ」となるのです。パワハラが一般的に上司から部下に対して行われるとされるのは、上司が部下に対する権限を持っているからです(ただし、「部下から上司へのパワハラ」も存在します。詳しくは後述)。◆ついにパワハラも法律によって規制される時代に職場における各種のハラスメント行為の中でも、特定の内容や相手に対して行われるものに関しては、それぞれ別の名前がついています。セクハラ、つまり「セクシャルハラスメント」は「性的な言動によるハラスメント」ですし、「マタハラ(マタニティハラスメント)」は、妊娠、出産や育児に関するハラスメントのことです。育児休業等を取得する男性に対する「パタハラ(パタニティ=父性ハラスメント)」という言葉もあります。また、介護に関するハラスメントは「ケアハラ(ケア=介護ハラスメント)」と呼ばれています。その他、昨今はいわゆる性的少数者を指す「LGBT」へのハラスメントも問題視されています。これらのハラスメントについては、以前から法律によって規制されていました。ただし、最も代表的と言ってもいい、職場における「パワハラ」については、これまで法律上の定義がはっきりしていませんでした。そこで、2019年の法改正により、
「パワハラ」についても法律によって明確に規定されたのです。◆「スメハラ」「アルハラ」ってご存じですか?本書で扱うのは、これらのいわゆる「法律で対処できるハラスメント」ですが、ハラスメントという言葉はさらにいろいろな分野に広がってきています。たとえば「スメルハラスメント」(スメハラ)というのは、職場でのにおい、たとえば体臭や強すぎる香水のにおいなどで周りに迷惑を与えることだそうです。「エイジハラスメント」(エイハラ)は、仕事ができない中高年社員に対する嫌がらせ。「アルコールハラスメント」(アルハラ)は、飲めない人に無理やり酒を飲ませたりすることによる迷惑行為を指す言葉です。なんでもかんでもハラスメントと名づけすぎという気もします。しかし、これらもその発言内容や状況によっては当然、パワハラやセクハラになります。◆「ステレオタイプの押しつけ」が許されない時代にそれにしても、なぜこれほどまでに「職場におけるハラスメント」が増えてきたのでしょうか。その背景にはやはり、「自分らしい生き方」「多様な働き方」を望む人が増えてきたことがあると考えられます。自分の邪魔をされたくないし、他人の邪魔もしたくない。だからこそ、それを阻害する要因を「ハラスメント」と感じるのではないでしょうか。価値観が多様になっている現在に比べ、高度成長時代はある意味、誰もが同じような価値観を持っていた時代でした。モノ不足により、とにかくモノを作って売れば売るほど儲かる。だからこそ長時間労働が推奨され、自分の意思よりも、会社や上司に言われたとおりに働く人が重宝されました。また、女性は20代で結婚して寿退社して家庭に入り、子供を作って専業主婦になる。そして、男性は家庭を女性に任せて長時間労働をしてお金を稼ぐ。このステレオタイプこそが幸せだと信じて疑わない人が大多数だったのです。今は違います。経済が右肩上がりではなくなった現代、長時間労働をしてひたすらモノを作ったところで、モノが余るだけ。結婚しない人も子供を作らない人も増えており、それぞれの価値観だとして認められています。そうした意識の転換に、人も組織もついていけていないことが、ハラスメントの増加につながっていると言えるのかもしれません。◆そもそも職場でパワハラが起きるのは必然!?ただ、そもそも職場というものは本質的に、パワハラの起こりやすい場所だという側面もあるのです。そもそも社員、すなわち「従業員」は法律的には雇用労働者と呼ばれ、使用者(会社)に雇用され、その指揮命令に従って働くことによって賃金をもらうわけです。つまり、いつ・どこに出勤するのかといったことから、どの部署に配属されてどんな仕事を行うのか、誰の指揮命令に従って働くのか、どのような仕組みで賃金が支払われるの
かといったあらゆることについて、その決定権を会社側が握っています。この使用者と雇用労働者との関係を、労働法では「使用従属性」といいます。会社が持っているこうした権限を、役員や部課長といったいわゆる「上司」が部下に対して行使し、仕事を進めていくことになります。こうした権限がなくては誰もが好き勝手なことをしてしまいかねませんから、それは当然のことです。ただし、言い方を換えれば、部下は上司に使用され、従属させられている存在だということです。もし、これが趣味の同好会なら、横暴な人は他の人に注意されるでしょうし、行きすぎれば排除されることになります。ただ、職場は同好会とは違い、上司の権限は明確であり、それに逆らっては給料がもらえなくなってしまう。だから、どうしても我慢する人が出てきてしまう。それでも、かつては我慢していれば、いつかは自分も管理職になれるという希望もありました。頻繁な飲み会により、上司がフォローする機会もあったでしょう。ただし、現在は誰もが管理職になれる時代でもなければ、飲み会などのコミュニケーションも取りにくい。そのため、以前は誰もが我慢してきたパワハラがクローズアップされてきた側面があるのではないでしょうか。◆ルールを覚えればいい、というわけではない本書は2019年5月に成立したいわゆる「パワハラ防止法」の内容をもとに、「パワハラやセクハラのルール」を紹介するものです。重要なのは「何をしてはいけない」というルールを丸暗記することではありません。そもそも職場での上司と部下との間では問題が起こりやすいということを踏まえ、上下関係があるとはいえ相手の立場や人格を尊重すること、相手をパートナーだと考えることが重要なのです。そして、「多様な働き方や人生観を認める」ことで、より良い職場を作っていこうという意図を持つことこそが一番のパワハラ防止になるということを、まずはご理解いただければと思います。
第1章知らないではすまされない!「パワハラの大問題」本章でお伝えしたいこと●パワハラは意外と多くの企業で起きている●「ブラック企業」認定されることは大きなリスク●「指導」と「パワハラ」の境界線を知る
深刻な社会問題化する「職場のパワハラ」◆社会を揺るがした「パワハラの事件簿」「社員のパワハラ自殺により、会社が謝罪」「パワハラ疑惑によって辞任」昨今、こうしたニュースが頻繁に報じられています。中でもここ数年、特に印象に残った事件をいくつか挙げてみましょう。●大手広告代理店でのパワハラ自殺事件2015年、大手広告代理店D社で勤務する新人女性社員が自殺した事件。自殺の原因は長時間労働によってうつ病を発症したこととされたが、「上司から女子力がないと言われた」「休日返上で作成した資料をボロクソに言われた」といった彼女自身のSNSへの書き込みもあり、長時間労働だけでなくパワハラ・セクハラが問題視されることに。最終的には、労働基準法違反の疑いで当時の上司が書類送検され、社長が引責辞任するに至った。世間的にも「ブラック企業」として大いに騒がれ、企業ブランドが大きく損なわれることになった。●国会議員のパワハラ事件2017年に発覚した、自民党の女性衆議院議員であるT氏が、自身の秘書に対して暴言を繰り返し、ときに手を出すこともあったという事件。秘書が録音していた、「このハゲー!」「違うだろー!」といった音声が公開され、大きな話題となった。議員は世間からの大バッシングにあい、自民党を離党。直後の衆議院議員選挙には無所属で出馬するも落選した。2019年末にも、ある電機メーカーでのパワハラ自殺事件が話題となりました。20代の男性新入社員が自殺したもので、上司からのパワハラの存在をうかがわせる書き置きが残されていたそうです。弁護士が公表したこの書き置きは、以下のような内容だったといいます。教育主任から言われた暴言として、同19日に「おまえが飛び降りるのにちょうどいい窓あるで、死んどいた方がいいんちゃう」、21日には質問に答えられなかった新入社員に「自殺しろ」との内容も記されていた。(日本経済新聞HP2019年12月18日)
もし、本当にこんな言葉が使われていたとしたら、これはもう明らかなパワハラと言えるでしょう。◆ニュースになるような案件は「氷山の一角」こうしたニュースを見た人の多くは、「さすがにこんなひどいことを言うわけがない」「うちの会社はここまでひどくない」と考えるのではないかと思います。確かに、直接的に「死ね」などという言葉が使われるようなケースは、そう多くないかもしれません。ただ、注意すべきは、こうしてニュースになるような事件は、被害者が自殺をしてしまったりといった「最悪のケース」ばかりだということです。実際にはここまで露骨ではなくても、パワハラと認定されるケースが全国の企業で多数発生しているのです。「こんなんじゃ辞めてもらうしかないよ」「君は部門のお荷物だ」このレベルの言葉は、一昔前のサラリーマンにとっては「厳しい叱責」くらいのイメージだったかもしれません。こうした言葉は、今ではパワハラ扱いとなる可能性が高いです。「君には期待していたのに、残念だ」「なぜ本気を出さないんだ」聞きようによっては「愛のムチ」と言えるようなこうした言葉も、状況によってはパワハラと認定されてもおかしくありません。厚生労働省が約4500社の企業を対象に行った調査によれば、過去3年間で49・8%もの企業でパワハラに関する相談があり、そのうちの72・8%で実際にパワハラに該当すると判断された事例があったという結果が出ています。労働問題の解決を図る「個別労働紛争解決制度」には、年間8万件を超えるパワハラに関する相談が寄せられています。つまり、誰にとっても、どんな会社にとってもパワハラは「他人事」ではないのです。
◆「愛のムチ」として許されるとは限らない「俺が若いころは、こうした叱責は日常茶飯事だった」と考える人もいるでしょう。ただ、社会や職場のルールは日々刻々と変化しています。かつては「美徳」とされていた残業も、昨今では「仕事が遅い」「人件費の無駄遣い」とされる時代です。こうした変化に対し「俺は認めない」と言ったところで、時代遅れの人材として排除されるだけでしょう。そもそも、「自分がかつてやられたことは、部下にやってもいい」という考え方は、極めて危険です。パワハラ上司を再生産することになるからです。厳しい指導がときに、部下の成長を促すことは否定しません。ただ、それによって成長した人がいる一方で、心を病んでしまったり退職してしまったりした人もいたはずです。働き手が豊富だった高度成長時代には、それがあまり問題視されていなかっただけではないでしょうか。厳しい指導や叱責が当たり前だとされていたスポーツ界ですら、昨今はパワハラ問題が噴出しています。つまり、「世の中のルールが変わった」のです。言いたいことはあっても、そう割り切って、今日の職場の「パワハラのルール」に従うしかないのです。
パワハラが企業の屋台骨を揺るがす時代に◆誰もが恐れる「ブラック企業」のレッテル職場のパワハラの問題がこれほどクローズアップされるようになった背景には、企業にとってパワハラが極めて大きなリスクであることが明らかになってきたことがあるでしょう。パワハラ行為が明るみに出た企業は「ブラック企業」というレッテルを貼られ、社会的な糾弾を受けることになります。それによる最も直接的な影響は、社員の採用活動でしょう。とりわけ昨今の求職者は、職場環境に対して敏感です。口コミサイトには「社内の雰囲気が良くない」「面接官の態度が悪い」などという書き込みがあふれ、そうした情報が大きな影響力を持ちます。また、企業に対する不買運動や社内の混乱などで、売上や利益への影響が出ることも必至です。◆「百害あって一利なし」それがパワハラそうでなくても、パワハラは百害あって一利なしです。パワハラを受けた当人は、仕事への意欲が失われるだけでなく、メンタルや体調への影響が出てくることもあります。その結果、うつ病を患って休職したり、辞職したりするに至っては、その人の人生設計に大きな影響が出てしまいます。会社に貢献してくれることを期待して採用した人材がこのような形で能力を発揮できなくなることは、本人はもちろんチームにとっても、会社にとっても不幸なことです。パワハラは、社内的にも社外的にも大きなリスクとして、企業の前に立ちはだかっているのです。◆企業のパワハラ対策が5割にとどまっていた理由とは?これまで、企業にはパワハラ問題防止対策が義務づけられていませんでしたが、企業側もこうした状況に対応し、自主的にパワハラ防止のガイドラインを作るなどの措置を講じるケースが増えてきていました。ただ、ここで一つ問題がありました。これまで「パワハラ」という言葉には、法律上の明確な定義がなされていなかったのです。もちろん、過去の裁判例から「これをやったらパワハラ」という基準はある程度示されていたのですが、そもそも裁判になるようなケースは相当悪質な場合が多く、判例がない場合もあります。そのため、企業側も対応策を取りにくい、という側面があったのです。それもあってか、企業側の対応は十分とは言えない状況が続いていました。前述の実態調査によると、回答企業全体の82%が「パワー・ハラスメントの予防・解決
のための取組は経営上の課題として重要」だと感じている一方、実際に予防・解決に向けた取り組みをしている企業は52・2%にとどまっています。特に、従業員99人以下の企業においては、26・0%と3割を下回っている状況です。2019年5月に成立した「パワハラ防止法」では、「職場におけるパワハラとは何か」が法規定で定義づけられるとともに、企業にパワハラ対策が義務づけられました。この法律は企業に対して義務を課すものではありますが、企業のパワハラ対策を後押しするという側面もあるのです。
上司もまた「部下への接し方」に困っている!?◆実は一番怖がっているのは「現場のマネジャー」?パワハラは企業にとってはもちろん、会社員にとっても大きな関心事です。上司からパワハラ被害を受けるかもしれない社員はもちろんです。しかし、「パワハラ」の問題を最も恐れているのは、むしろ「どうやって部下に接すればいいのか」に悩む企業のマネジャークラス(管理監督者)の人かもしれません。チームの業績アップのためには、部下に動いてもらわなくてはなりません。そして上司には、部下に対して指揮命令する権限も与えられています。ただ、誰もが言われたとおりに動いてくれるとは限りませんし、その際、厳しく言いすぎると、「パワハラ上司」というレッテルを貼られてしまう。いったい、どのようにチームをマネジメントすればいいのか……。しかも昨今、職場のパワハラに対する社会的な批判が高まるにつれ、パワハラを行ったとされる人への厳罰化が進んでいます。「業績を出していれば、会社だって大目に見てくれるはず」というのは、甘い考えでしょう。もし、企業が「パワハラ隠し」に加担していたとなると、世間からの批判はより大きなものになるからです。そもそもネットやSNSがこれだけ発達した昨今、パワハラを隠すことは極めて難しくなっています。もちろん、最初から悪意を持ってパワハラ行為を行っているような人は論外であり、厳しく罰せられるべきでしょう。ただ、本人としては心の底から良かれと思ってやったことかもしれません。前述したように「自分はこの会社でそのように育てられた」ということで、それが当然だと思っている人もいるでしょう。そんな誤解を持ったまま罰せられる上司もまた、見方によっては被害者と言えるかもしれません。「パワハラ」という言葉の広がりとともに、マネジャー層の人々から「どのように部下を指導したらよいのかわからない」「何を言ったらいいのかわからない」という悩みが聞かれるようになってきました。その結果、本来は指導すべきときに何も言えなかったり、注意すべきことを注意できなくなったり……という人もいるようです。この問題は、「パワハラとは何か」をきちんと理解していないからこそ生じるものだと言えるでしょう。◆これは適正な指導なのか、それともパワハラか?さて、ここで一つのケースをご覧いただきたいと思います。あなたはどう考えますか。ある保険会社での事例。実績が伸び悩む部下に対して上司が、「やる気がないなら、
会社を辞めるべきだと思います。当部署にとっても、会社にとっても損失そのものです」「あなたの給料で業務職(契約社員)が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を上げますよ。これ以上、当部署に迷惑をかけないで下さい」というメールを送信し、同じ職場の職員十数名にも送信した。これを読んで、多くの人は「辞めるべきという表現は問題だし、当人以外にもメールしたというのはやりすぎでは?」と思ったのではないでしょうか。ただ一方で、「会社の経営や部門の数字を預かる人間として、会社全体の損失や人件費を気にするのは当然のこと」と考えた人もいるかと思います。裁判所の判決でも、メール中に退職勧告とも取れる表現や、人の気持ちを逆撫でする侮辱的な表現があること。そして職場の同僚十数名にも送信したことは、本人の名誉感情をいたずらに毀損するものだとしました。叱咤督促しようとした目的が正当であったとしても、表現が許容限度を超え著しく相当性を欠いているとしたのです。そして、上司のメールを送付した目的は部下の業務指導であり是認できるが、部下は名誉感情を損なわれたとし、上司に対し不法行為による損害賠償責任を認めました(A保険会社上司〈損害賠償〉事件)。この事例からわかるのは、「チームの業績を上げるため、メンバーを叱咤激励するのはマネジャーの仕事として認められる。ただし、そのやり方を間違えてはならない」ということです。だからこそ、パワハラについての正しいルールを知り、「何がOKで、何がNGなのか」を知らなくてはならない、ということです。◆「NGワード」という発想自体がNG!?「何を言ってはいけなくて、何を言っていいのかを知りたい」パワハラについての話をしていると、よく、こういうことを聞かれます。ただ、「何を言っていいのか、いけないのか」という発想は、少々危険です。2019年に成立した「パワハラ防止法」が定めている「職場のパワハラ」の定義は以下のとおりです。職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの。これを読めばわかるように、「何を言ってはいけないのか」ではなく、こうした条件にひっかかるような言動は何であれ慎まなくてはならないということなのです。
たとえば、業績が低迷する部下に「なぜ、目標が達成できないのか?」とその原因を問うのは、業務指導の一環として認められるでしょう。でも、同じセリフを大声で怒鳴りつけるように、一日に何度も何度も周りに聞こえるように言うことは、労働者の就業環境を害するものだと判断されても仕方がありません。本書ではところどころにクイズ形式で「これはパワハラかパワハラでないか」を取り上げていますが、本来、それは「状況による」というのが正解なのです。◆「いじめ」を指導だと勘違いしていないか一方で、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされています。つまり、業績不振や怠慢などを指摘したり改善指導したりすることは認められています。ただし、あくまでも適正にやってくださいね、ということです。では、適正な指示や改善指導とは、どういったものなのでしょうか。もちろん、これもケースバイケースではあります。ただ、大前提として一つだけお伝えしたいことがあります。それは「いじめは改善指導ではない」ということです。必要以上に長時間にわたって叱責する。人前でこれ見よがしに怒鳴りつける。ミスを繰り返す社員を無視する……。こうした行為を行う人は、無意識的であっても相手に精神的なダメージを与えようとしているのではないでしょうか。これは「いじめ」であり、「改善指導」ではありません。もちろん、同じ間違いを繰り返す人にはときに「叱責」が必要なケースもありますが、目的は行動を改善してもらうことであり、恥をかかせたり、精神的にいたぶることではありません。「精神的に苦しめてこそ、反発心で奮起するはず」という昭和のスポーツマンガのような発想は、非常に危険です。◆上司は部下の「コーチ」であれヒントとなるのは「コーチング」という指導方法でしょう。相手に対して一方的に指示するのではなく、相手に寄り添ったコミュニケーションを行うことで、相手自身に答えやすべきことを気づかせるというものです。たとえば、前述のように「業績不振の原因を聞く」場合、「なぜ目標を達成できないのか、一緒に考えてみよう」というスタンスで、相手の考えを聞く。そして、それをさらに掘り下げたり、アドバイスしたりすることにより、本人が自分でその改善策を見つけ出していくのです。上司が自分の考え方を、一方的に部下に押しつけることはありません。そもそも、自分のやり方を押しつけようとするから、それがうまくいかないことにいら立ち、パワハラとなる発言に至ってしまうのではないでしょうか。
何がパワハラになるかの細かいルールは後述しますが、大前提として「改善指導といじめは違う」「コーチングのアプローチ」を意識するだけでも、パワハラと言われることは少なくなるはずです。
ところで、パワハラって本当に増えているのですか?◆「パワハラの相談数」は氷山の一角かもしれない世の中では「増え続けるパワハラ」という表現が当たり前のように使われています。本書もまた、その前提で話を進めてきています。でも、本当にパワハラは増えているのでしょうか。先ほども少し触れましたが、厚生労働省が、平成28年度について行った職場のパワハラに関する実態調査では、調査企業のうち約半数でパワハラについての相談があり、そのうちの約7割、つまり全体の約3分の1の企業で実際にパワハラと判断される事例があった、ということになっていました。一方、従業員に対する調査(図2)では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した人は、回答者全体の32・5%に上りました。この数字からは、やはり全体の3分の1くらいの企業でパワハラが発生している、という実情が見えてきます。ただ、注目すべきは次の調査結果です。図2の下の図をご覧ください。同じく従業員に対する調査で、「パワハラを受けた後にどのような行動をしたか」について質問したところ、40・9%が「何もしなかった」、また12・9%が「会社を退職した」と回答しているのです。つまり、パワハラを受けても黙っている人が相当数いるうえに、そのまま会社を辞めてしまう人もいる。相談があったケースはあくまで氷山の一角かもしれず、実際にはより多くのパワハラが発生しているかもしれない、ということです。
◆パワハラ増加の証拠となる数字とは?この数字に関して、多いと感じた人もいれば、「そんなもんだろう」と感じた人もいるかもしれません。ただ、これだけでは「パワハラは増えているのか」はわかりません。世の中のニュースを追っていると、パワハラは増えているように思えますが、果たしてどうなのでしょうか。一つ、参考になる数字があります。「個別労働紛争解決制度」の状況です。個別労働紛争解決制度とは、労働者と事業主、つまり社員と会社との間の労働条件や就業環境などをめぐるトラブルを早期に解決するための制度です。パワハラに限らず、不当解雇の問題など、会社と雇用労働者の間で発生するあらゆる問題に対応しています。各都道府県にある厚生労働省直轄の労働局によって運営されており、相談に乗るだけでなく、助言や指導、勧告を行ったり、紛争調整委員会による「あっせん・調停」をすることで、問題の解決を図ります。企業におけるすべての問題がこの制度の下に持ち込まれるわけではありませんが、その増減から傾向を把握することは可能です。厚生労働省が発表した数字(平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況)によると、平成30年度における総合労働相談件数、助言・指導申出の件数、あっせんの申請件数は、いずれも前年度よりも増加となっています。中でも総合労働相談件数は111万7983件となっており、11年連続で100万件を超えました。相談内容のうち、パワハラを含むと考えられるのが「いじめ・嫌がらせ」の項目ですが、こちらは過去最高の8万2797件を記録しています。次が、自己都合退職(4万1258件)、解雇(3万2614件)となっていますので、この分野についての相談が圧倒的に多く、かつ、増加していることがわかるのです。◆「実はこれ、パワハラだったんだ!」も増えている?もう一つ注目すべき数字があります。労災保険の補償給付件数の推移です。労災保険とは、仕事中に発生した事故などにより従業員が負傷したり病気になった際、その従業員が所轄の労働基準監督署に請求し、要件を満たすことで、「労働災害」(労災)と認められ、国からの各種の給付が行われるというものです。身体的な怪我や病気だけでなく、業務を原因とする心の病、つまり精神障害(うつ病、適応障害、パニック障害など)についても認定が行われます。厚生労働省が発表した資料によると、職場での(ひどい)嫌がらせ、いじめ、暴行などにより、うつ病等の障害となり、労災保険による各種補償給付を受けるケースが徐々に増えているのです。もちろん、これらの数字をもってしても「パワハラが増えている」とは言い切れないと
思います。同様の行為はこれまでにもあったけれど、「パワハラ」という言葉が広まるにつれて「実はこれって、パワハラだったんだ」と気づいたようなケースもあることでしょう。とはいえ、社会的な認識が高まっているということも含めれば、「パワハラが増加している」と言ってもいいのではないかと思います。
「セクハラ」は今、どうなっているのか◆かつての流行語大賞「セクハラ」の今さて、ここまで「パワハラ」の話ばかりをしてきましたが、いわゆる「ハラスメント」は他にもあります。その第一が「セクシャルハラスメント」、いわゆる「セクハラ」です。そもそもパワハラという言葉自体が、セクハラという言葉から生まれたものでもあります。1989年には「流行語大賞」を受賞しており、すでに30年にわたって使われ続けている言葉だということがわかります。パワハラに先立って法整備が進められており、1997年には「男女雇用機会均等法」において企業にセクハラ防止に配慮する義務(配慮義務)が課され、2006年には「配慮義務」が、必ず会社が守らなければならない「措置義務」になりました。これほど長くセクハラ防止が叫ばれている以上、件数は減ってきていると思われそうですが、実際にはどうなのでしょうか。数字を見てみると、セクハラは増加こそしていないもののほぼ横ばいというのが現状のようです。平成29年度のセクハラに関する相談件数は6808件で前年よりは減っているものの、是正指導が行われた件数は4458件で前年より増えている、といった具合です(平成29年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況)。セクハラとは「セクシャル(性的な言動による)ハラスメント」という意味ですから、男性から女性だけではなく、女性から男性へ、あるいは同性同士のセクハラというものも存在します。少々古い数字ですが、平成26年度に都道府県労働局雇用均等室に寄せられたセクハラについての相談件数では、女性からのセクハラの訴えが6725件あったのに対し、男性からの訴えも618件あったとなっています。男性の訴えの数は女性の10分の1くらい、ということです。◆マタハラだけでなく、最近は「パタハラ」も「マタハラ」についても、ご存じの方が多いと思います。「マタニティハラスメント」、すなわち産休・育休を取得しようとする女性社員に対してのいじめ、嫌がらせ、不利益な言動や扱いのことです。セクハラと同じく男女雇用機会均等法によって企業に防止・相談等の措置義務が課されているものです。これも前述の数字によれば、平成29年度で約2500件の「妊娠・出産等に関するハラスメント」の相談が寄せられ、都道府県労働局により約5700件の是正指導が行われています。では、「パタハラ」はご存じでしょうか。パタニティ(Paternity)は、英語で「父性」を意味する言葉。育休など育児・介護休業法によって認められている、各種の育児支援制
度を利用しようとする父親である社員に対するハラスメントのことです。男性社員の育児参加が増えるにしたがって、やはり増えてきているようです。◆「SOGIハラ」ってご存じですか?また、最近特に無視できなくなっているのが、「LGBT」へのハラスメントです。LGBTとは、いわゆる「性的少数者」を指す言葉で、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字を取った語です。レズビアン、ゲイ、バイセクシャルがいわゆる「性的指向」(どの性別の人を好きになるか)であるのに対し、トランスジェンダーはいわゆる「性自認」(自分の性をどのように認識しているか)に関するものです。身体の性は男性でも、心の性は女性、というようなケースです。こうした人々に対するハラスメントは、「SexualOrientation(性的指向)」と「GenderIdentity(性自認)」の頭文字を取り、「SOGIハラ(ソジハラ)」とも呼ばれますが、言葉としての浸透はまだまだのようです。ただ、言葉があろうとなかろうと、こうした人々は以前からずっといたわけで、当人は人知れず苦しんでいたはずです。「性的少数者」と言いますが、ある調査によれば全体の8・9%、つまり11人に一人はこれに当てはまるというのですから、決して「少数」とは言い切れないのです(電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018」)。ここまで、「職場におけるパワハラ」について述べてきたことは当然、これらパワハラ以外のハラスメントについても言えることです。すなわち、こうした問題が発生した場合、企業の内外に大きな問題が起こること。それを防止するためには、ルールをきちんと理解しておかねばならない、ということです。2019年の法改正では、パワハラだけでなく、これらのハラスメントについても改正が行われました。詳しくは後述しますが、この際、パワハラのルールとともに改めて確認しておくべきでしょう。
column「昔はパワハラなんてなかった」──では、そのさらに昔は?「最近はパワハラパワハラってうるさいけど、昔はこのくらいの厳しい指導なんて、当然だった」……いわゆる「昔気質」のビジネスパーソンの中には、内心、このように思っている人がいるのではないでしょうか。では、本当に昔はパワハラなんてなかったのでしょうか。パワハラは極めて現代的な問題である一方、有史以来、人類が抱えてきた普遍的な問題であるとも言えます。ブッダは、「愚かな人は他人に害を与えることを好む」と嘆いています。キリストは罪人を処罰しようとしている人に向かって、「自分に罪がないと思う人から石を投げよ」と諫めています。孔子の「己の欲せざるところ人に施すことなかれ」は、すべてのパワハラ上司に投げかけたい言葉です。こういう言葉が残っているということは、おそらく彼らの周りにも「パワハラの気がある人」がはびこっており、問題視されていたのではないでしょうか。2020年の大河ドラマの主人公である明智光秀が謀反を起こした理由は、一説によれば「織田信長からのパワハラ」。『忠臣蔵』では、浅野内匠頭は吉良上野介からのいびりに堪えかねて松の廊下で切りつけた、とされています。真偽はともかく、「権限がある人からいじめられてキレる」というパワハラの構図が、この時代から人々の認識の中にあったことがわかります。現在使われている交流電気方式の発明者であるニコラ・テスラは、「発明王」エジソンの電灯会社に入社後、「直流か、交流か」について意見が対立したことで、エジソンから「パワハラ」を受けたそうです。しかもエジソンはテスラの退社後も、彼に対するネガティブキャンペーンを続けたといいますから、あの発明王にして完璧な人格者ではなかったことがわかります。しかし結局、テスラの正しさが認められた結果、現在があります。結局、「パワハラが正しかった時代」など、どこにもなかったのではないでしょうか。
これってパワハラ?Q4毎月かなり厳しいノルマが課されるわが社。達成が厳しそうな社員はつるし上げられ、期末になると「明日までに注文100件取ってこい!」などという無茶苦茶な指示も……。確かにノルマが達成できていないことに責任は感じますが、どう考えても無理。これってパワハラになりませんか?
A「不可能なことの強制」としてパワハラになる可能性があります。もちろん、仕事にノルマや目標を課すこと自体に問題があるわけではありません。ただ、それがあまりに高すぎることは問題です。しかもこのケースのように、「明日までに100件」などというのは、普通に考えれば不可能な数です。
これってパワハラ?Q5毎日のように遅刻を繰り返すA君。それまで穏やかだった部長もついに爆発。「なぜ、定刻までに出勤できないのか」「会社員としての自覚が足りないのではないか」と大声で叱責。それに対してA君が「上司からパワハラを受けた」と会社に訴え、大問題に。
Aパワハラになる可能性は低いです。もし、部長が「キレた」のが一度きりだとしたら、「パワハラ」と呼ぶのは難しいかもしれません。そもそもこのケースではA君が遅刻を繰り返すという問題があり、それに対する叱責自体は禁じられているものではありません。ただ、強い叱責が「必要以上に長時間にわたる」場合はパワハラになる可能性があります。また、部長がここで人格否定的な言葉を発すると、パワハラになり得るので注意が必要です。
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