satoruyuzawa. onsya no pawahara mondai subete kaiketu si masu atto odoro ku 5 tu no saikyou yobou senryaku (Japanese Edition) (p.77). DNA paburissingu. Kindle 版.
目次はじめに第1章世の中のパワハラ対策5つのウソ1.「法令順守を徹底させる」のウソ2.「パワハラ問題が年々増えている」のウソ3.「最新のパワハラ判例を学ばせる」のウソ4.「研修のロールプレイングが重要」のウソ5.「部下には優しく指導することが大切」のウソ第2章パワハラ『対策』から『予防』へ思考をシフトさせよう1.『パワハラ予防』は会社そのものの体質を変える!?2.「モグラ叩き化」するパワハラ対策の実態3.無自覚のまま『行為者』になると、どれだけ成果をあげても評価されない4.目に見えない大きな損失(コスト)をゼロにする5.パワハラを起こす可能性のある管理職に自然に注意喚起・行動変容を促すことができる6.最終的にコンプライアンスが推進される第3章5エッセンスでパワハラを完全に予防するエッセンス1.『パワハラは拡散される時代』へエッセンス2.いい雰囲気が生まれる土壌づくりからはじめるエッセンス3.曖昧な言葉が問題を引き起こしているエッセンス4.自分たちの言葉の定義を整えるエッセンス5.無自覚なパワハラを自覚化させるパワハラ振り返りシート第4章世の中からパワハラを根絶させるために
1.パワハラ予防における正しいゴールの設定方法2.世の中からパワハラを根絶させる3.絶対的な上下関係から、応援しあう上下関係へあとがき
まずはこちらをご覧ください。これは、一般的によくみられるパワハラ対策の一部です。・法令順守を徹底させる・パワハラの問題が増加傾向にあることを認識させる・最新のパワハラ判例を学ばせる・研修ではロールプレイング重視(会話の型を詰め込む)・上司が部下に対して優しく指導をするパワハラ対策に取り組んでいる8割以上の企業が、これらの対策を講じているのが現状です。あなたの会社でも、これらのうちいずれか、または複数のパワハラ対策を講じてきたのではないでしょうか。この機会に思い返していただきたいことがあります。これらのパワハラ対策を講じたことで、成果はあったでしょうか?おそらく何の成果にもつながらず、同じことを繰り返してきたはずです。なぜ、そのようなことが起きてしまうのか。それは、これら5つのパワハラ対策は、間違った対策方法だからです。そこで第1章では、「世の中のパワハラ対策5つのウソ」と題し、具体的にどのような点が「間違ったパワハラ対策」なのか、お伝えしていきたいと思います。1.「法令順守を徹底させる」のウソ1つ目のウソは、「法令順守を徹底させる」です。なぜ、法令順守を徹底させることがウソになるのでしょうか?「はじめに」で少し触れたお話を思い出してください。パワハラに関する法律が施行されたのは、2020年6月1日です。つまり、法令順守を徹底させるといっても、まだ法律がなかったわけですから、法令順守という言葉を使用することは適切ではありませんでした。
また、実際にパワハラをしている人からすると、「法律で罰せられるわけじゃないんだから、別にいいじゃん!」と開き直ることができる状況にありました(勿論、暴行罪、傷害罪、侮辱罪に該当するケースは別ですね)。たとえ社内で作ったルールを徹底させたとしても、このような状況では適切なパワハラ対策ができているとはいえません。それから、もう一つ触れておきたいことがあります。企業で何らかの不正・不祥事が発覚するたびに、マスコミでは「コンプライアンス」という言葉を用いて、センセーショナルなニュースを報道してきました。コンプライアンスは、法令順守と和訳される傾向にあります。そのためか、コンプライアンスと聞くと「法令を守ればいいんでしょ?」と捉える人が多いのですが、そもそもコンプライアンスと法令順守は全く異なる言葉です。コンプライアンスとは、世の中や社会の要求や期待に応えることを指します。法令順守は、世の中や社会の要求や期待に応えることの中の1つにすぎません。ですから、パワハラ対策を講じる際、「法令順守を徹底させる」という言い方は誤りです。「じゃあ、言葉の意味を正しく理解して、労働施策総合推進法(以下、「パワハラ防止法」といいます。)が施行されてから法令順守を徹底させればいいんじゃないの?」と感じたかもしれませんが、果たしてそれで本当に社内からパワハラはなくなるでしょうか?例えば、法律が施行された後、その内容に基づいて社内でルールを作り、社員に厳守させることになったとしましょう。ルールを守らせようとした場合、「あれをやってはいけない、これもやってはいけない」と、常にブレーキを踏んだような状態になりがちです。これだけでは業務に支障をきたすようになります。ルールを守ることは大切なことです。しかし、もう1つ忘れてはならないことはムード作りだといえます。ルールは縛るものですが、ムードは解き放つものです。ワイワイガヤガヤと、楽しく過ごせる組織を作るにはどうしたら良いのか。社員全員が楽しいことを持ち寄って仕事をしていけば、自然と良いムードは出来上がっていきます。
パワハラ対策のルールを作って徹底させることも大事ですが、まずはムード作りを行うことの方が先決ではないでしょうか?このような意味からも、法令順守やコンプライアンスを徹底させることだけでは、適切なパワハラ対策ではないと言えるのです。2.「パワハラ問題が年々増えている」のウソ2つ目のウソは、「パワハラの問題が増加傾向にあることを認識させる」です。厚生労働省が発表した「令和元年度個別労働紛争解決制度施行状況」(※1)によると、平成26年度から令和元年度にかけて、パワハラ問題は増加傾向にあります。具体的な相談件数は次のとおりです。・平成26年度63,191件・平成27年度66,566件・平成28年度70,917件・平成29年度72,067件・平成30年度82,797件・令和元年度87,570件特に平成29年度から平成30年度にかけて、一気に増加していることがわかります。これらの相談件数だけを見ると、「パワハラ問題が増えているんだな」と捉えてしまいますが、実際のところパワハラ問題が増えているわけではありません。パワハラ問題が『発覚』する割合が増えているのです。なぜ発覚する割合が増えているのかというと、社内に相談窓口があったり、SNSなどですぐにバレてしまったりするケースが増えているからだといえます。このあたりのことは第3章でさらに詳しく触れますが、ようするにパワハラをやっているとすぐにバレてしまうということです。つまり本来、社員に伝えるべきことは、・パワハラが発覚する割合が増えていること・潜在的に問題が発生している可能性があると認識させることこの2点です。
そして潜在的な問題に気づき、対策を講ずることが何よりも重要となります。決して、「パワハラの問題が増加傾向にある」とだけ認識させることではないのです。3.「最新のパワハラ判例を学ばせる」のウソ3つ目のウソは、「最新のパワハラ判例を学ばせる」です。最新のパワハラ判例を学ばせることが、ダメだと言いたいわけではありません。歴史的背景、社内の人間関係、事件の発端、事件の経緯など、細かなところまで詳しく取り上げるのであれば、ある程度の効果を期待することはできるかもしれません。しかし多くの場合、そこまで真剣に学ばせることはなく、「こういう言葉遣いはダメですよ」などと一部分だけを切り取り、最新の判例として解説するだけです。これでは、最新の判例を学んだことにはなりません。「そんなこと言う奴いるのかよ?自分はそんなこと言わないよな!」などと、自分には関係がない話として聞き流されるのがオチです。「それはあくまでもA社の話でしょ?だったら、A社で起きた問題ですよ。でも、うちの会社は業界も業種も従業員の人数も違うし、全然違う話だよね」となってしまうこともあります。このような状況に陥ってしまっては、パワハラ対策を講じたことにはなりません。4.「研修のロールプレイングが重要」のウソ4つ目のウソは、「研修ではロールプレイングを重視する」です。なぜ、研修でロールプレイングを重視することが、パワハラ対策のウソになるのかというと、会話の型を詰め込むだけで終わっているケースが多いからです。例えば、あなたの会社で行われている研修を思い返してみてください。講師が事例を作成し、「パワハラをしている人」「被害を受けている人」に分けて、型
通りの会話をさせるだけになっていませんか?研修ですので、社員は講師に言われたとおり、ロールプレイングに取り組むと思います。しかし、会話の型だけしかやらないと、その内容しか覚えていないため、現場で応用が利きません。そもそも、現場には様々なタイプの部下がいます。いくつかの会話の型を詰め込んだところで、そのとおりに会話が進むことはほぼないですよね。ですから、結局のところ講師の満足で終わってしまい、ロールプレイングの効果が発揮されることはないのです。どんなに完璧に会話の型を覚えたとしても、現場で使えないのであれば、パワハラ対策が出来ているとはいえません。5.「部下には優しく指導することが大切」のウソ最後の5つ目のウソは、「上司が部下に対して優しく指導をする」です。結論から言いますと、ただ単に優しく指導したところで、パワハラがなくなることはありません。そもそも、パワハラ対策に限らず、近年は「指導は優しくすべき」という風潮があります。これは、「指導」の意味を誤って捉えていると言わざるを得ません。「指導」とは、『指し示す、導く』ことを意味します。例えて言うなら、カーナビのようなものです。明確化したゴールを共有し、そこへ部下を導くこと。それが指導です。そして、実際に指導をするときは、時と場合に応じて厳しく対応する必要があります。なんでもかんでも厳しくする必要はありませんが、「ここだけは」という箇所は、厳しく指導しなければならないのです。
例えば、部下がやってはいけない悪いことをしたとしましょう。そのようなとき、「〇〇さん、何やっているんだ!ルールを違反しているぞ!」と厳しく指導すべきです。やってはいけない悪いことをしたにもかかわらず、優しく指導してはいけません。なぜなら、然るべきタイミングで厳しく指導をしないと、部下は開き直ってまた同じことを繰り返す可能性があるからです。優しく指導をすることも大切ですが、常に優しく指導をすれば良いものではありません。ようするに、指導にはメリハリが必要です。ところで、なぜパワハラ対策の一環として、優しく指導するという考え方が出てくるのかというと、パワハラの定義を正しく理解していないからだといえます。とはいえ、パワハラの定義とはどのような内容なのでしょうか。参考までに、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」における『パワハラの定義』をご紹介します。職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。右記の定義は3つに分類することができます(ここでは指針の用語を使いますね)。・パワハラの背景①「優越的な関係を背景とした」言動とは※当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。
・職務上の地位が上位の者による言動・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの・パワハラの基準「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、※社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。・業務上明らかに必要性のない言動・業務の目的を大きく逸脱した言動・業務を遂行するための手段として不適当な言動・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動・パワハラの結果「労働者の就業環境が害される」とは、※当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。ようするに、背景、基準、結果が組み合わさることで、はじめてパワハラとなります。背景、基準、結果のうち、どれか1つでも欠けてしまうとパワハラにはなりません。ですから、単純に定義を認識するだけでなく、背景、基準、結果を正しく見ていくことが重要です。話を戻しますが、上司が「優しく指導している」つもりでも、その指導がパワハラの定義に該当していれば、それはパワハラになります。
逆に、然るべきタイミングで厳しく指導したとしても、パワハラの定義に該当しない場合、パワハラにはならないのです。以上のことからも、パワハラ対策の一環として、上司が部下に対して優しく指導をしても対策にはなりません。本来の指導の在り方、パワハラ防止法が提示しているパワハラの定義を正しく理解し、行動に移していくことが重要なのです。以上が、世の中のパワハラ対策5つのウソでした。「言われてみれば、確かにそうだよね」「あ~、それ、うちの会社のことかも?」そんなふうに感じたかもしれませんね。パワハラ対策のウソがわかったところで、第2章ではパワハラを予防すると、どのような良いことが起こるのか詳しく見ていきます。ここでのポイントは、「対策」ではなく「予防」するということです。ほとんどの場合、パワハラ対策ばかりに注力し、「予防」は一切行われていません。そこで本書では、なぜ「予防することが大切なのか?」「予防することで、社内の人事担当者にどのようなメリットがあるのか」に絞って解説しています。
1.『パワハラ予防』は会社そのものの体質を変える!?第1章の最後でも触れたとおり、パワハラは「対策」ではなく「予防」することが大変重要です。その理由に関しては、このあと詳しく触れますが、予防すると人事担当者にとってどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。代表的なメリットは3つあります。メリット1:社員の定着率が改善される社員の定着率が非常に良くなるとは、ようするに退職者が減るともいえます。なぜなら、楽しく働くことができるため、「この会社から離れたくない」と考える社員が増えるからです。メリット2:採用コストを下げることができる退職者が減少すれば、辞めていく社員を引き留めるための防止策を講じる必要はなくなります。それよりも、「この会社と出会っていない人たちに対し、どのようにアピールして優秀な人材を採用するか」ということに集中できるのです。また、近年はSNSなどの影響で、様々な情報があっという間に拡散されるようになりました。社内風土、ムードが改善されていけば、SNSなどの力で良い評判が自然と広がっていくでしょう。そして、それらの情報を見た人たちが、自然と集まってくるようになります。つまるところ、頻繁に求人広告を出したりする必要はなくなっていくため、採用コストを大幅に下げることにつながるのです。メリット3:社内風土、ムードが作れるようになる
パワハラ予防ができていると、働いている社員は社内風土に関して悪く言うことはほぼなくなります。ですから、新たに人材を雇用する際、「なんだか面白そうな会社だな」「自分も一緒に働きたい」と感じてもらいやすくなるのです。また、一体感を持って、みんなが楽しくワイワイガヤガヤとできるような組織、風土、ムードが作れるようになっていきます。つまり、パワハラ予防に力を入れることで、・社員の定着率が非常に良くなる・採用コストを下げることができる・社内風土、ムードが作れるようになるこれらのことを、一切費用を掛けずに行うことができるのです。人事担当者だけでなく、企業にとっても大きなメリットとなりますよね。だからこそ、予防に力を入れることが大切なのです。「そうはいっても、対策だけで十分なんじゃない?うちの会社では、予防するほどパワハラは起こっていないよ」そのような声が聞こえてきそうですが、対策ではなく予防の方が重要です。なぜ、パワハラ予防が重要なのか、予防することでどのような利点があるのか、次項でより詳しく見ていきましょう。2.「モグラ叩き化」するパワハラ対策の実態私が、「パワハラ『対策』ではなく『予防』が重要」とお話することには理由があります。例えば、頻繁に風邪をひいていたとしましょう。「風邪をひいたときにどうするか?」という対策だけ講じても、頻繁に風邪をひくことから抜け出すことはできません。しかし、食べ物に気をつけたり、休みの日はゆっくり休んだりなど、風邪の予防を心掛けていれば健康体で過ごせるようになっていきます。パワハラ予防も全く同じことです。対策に力を入れると、「問題が起きました」という報告を受けてから「じゃあ、なんと
かしよう」と、対処することになります。これは例えていうなら、モグラ叩きをしているようなものです。モグラが出てきてから慌てて叩いていたのでは遅すぎます。モグラが出てくる前に、「ここには、モグラはいないよな?」と、予防することが重要です。話を戻すと、つまりパワハラ問題を起こしてから対処するのではなく、パワハラ問題を起こさないためにはどうすれば良いのか、そこに意識を向けることが非常に重要となります。予防に全力を傾ければ、結果的にパワハラをやる人は出てこなくなるはずです。ですから私は、「パワハラ『対策』ではなく『予防』が重要」と、日頃からパワハラ研修などでお伝えしているのです。3.無自覚のまま『行為者』になると、どれだけ成果をあげても評価されないパワハラの予防が出来ていると、行為者になるリスクは当然に低くなります。ここでいうリスクとは、信用の低下、信用の失墜、信用の喪失という3つの痛みのことです。信用の低下とは、社内での評価が下がることを意味します。どれだけ会社に貢献していたとしても、「あなたは、部下にパワハラをした」という理由から、信用が低下してしまうのです。次に信用の失墜についてですが、「自分のブランドに傷がつく」といっても良いかもしれません。最後に信用の喪失ですが、これは簡単にいうと「もう会社では面倒を見ることはできないから、この会社から出ていきなさい」と言われてしまうなど、信用を失うことを指します。会社の場合、懲戒処分という罰があり、パワハラ行為の内容によって、けん責、減給、出勤停止、降格・降職、諭旨解雇、懲戒解雇のいずれかです。パワハラの行為者という立場になると、これらの罰から免れることはできないのです。
しかし、パワハラの予防ができていれば、全員がこのようなリスクから解放されます。社内評価は下がらない、個人ブランドに傷がつかない、会社から出ていきなさいとは言われないのです。ですから、安心して自分のキャリアについて考えながら、働くことができるようになります。4.目に見えない大きな損失(コスト)をゼロにする目に見えていない経費と損失がなくなる点に関しては、人事というよりも会社のメリットになります。具体的に、まずは目に見えていない経費がどのくらい掛かっているのか、事例を用いながら見ていきましょう。例えば、年収900万円の管理職の人がいたとします。年間の労働時間は1,800時間、時給は5,000円。部下の時給は3,000円としました。仮に部下の失敗を叱責し、高圧的、威圧的、感情的、侮辱的な指導に1時間費やしたと想定します。そして、これを部下に対して1回1時間、月10回行っていた場合、実際にはどのくらいの経費が発生しているのか計算してみましょう。(1)部下の時給3,000円×1時間×1ヶ月10回=30,000円(2)管理職の時給5,000円×1時間×1ヶ月10回=50,000円(3)(1)+(2)=80,000円/月→960,000円/年1カ月あたりで計算すると、それほど大きな金額ではありません。しかし、これが1年間続くと、約1,000,000円もの金額になるのです。これは会社にとって、多額の経費に他なりません。このような数字は、普段仕事をしながら意識することはありません。しかし、実際に数値化・可視化してみると、パワハラを行う上司が社内に1人いるだけで、多大な損害を被っていることがよくわかります。繰り返しになりますが、だからこそ、パワハラ予防が大変重要なのです。パワハラ予防を講じていれば、これらの経費や損失が発生することはありません。むしろ生産性が上がって、自然と業績は上がっていきます。
5.パワハラを起こす可能性のある管理職に自然に注意喚起・行動変容を促すことができるあくまでも一般的なお話となりますが、パワハラをする管理職の多くは無自覚です。自分では全く気づいていないケースが目立ちます。また、そのような人は、アグレッシブで成果を出している人に多い傾向にあるため、いち早く本人に気づかせるようにしなければなりません。早急に対応しないと、本人はもちろんのこと、会社にとっても大きな損失になるからです。とはいえ、どのように気づかせれば良いのか、頭を抱えてしまいますよね。そこで、私がおすすめしているのは、専用ツールを活用する方法です。詳しくは第3章で触れますが、このツールを活用すると、パワハラをしている本人が自らの盲点を認識できるようになります。つまり、自分の良いところ、悪いところがわかるようになるのです。その結果、パフォーマンスを発揮しつつ、無自覚のままパワハラをすることはなくなってきます。本当の意味での、ハイパフォーマーが生まれることになるといっても過言ではありません。そうなれば、業績が上がるだけでなく、尊敬に値する上司が出てくるようになります。6.最終的にコンプライアンスが推進される先に触れたとおり、コンプライアンスとは「世の中や社会の要求や期待に応えること」です。世の中や社会の要求や期待は時代と共に変化していきますが、近年は「人をいじめるな」「人を傷つけるな」というところにアンテナが立っています。例えば、ブラック企業に関するニュースが報道されるたびに、「もっと社員を大事にしろ!」などといった声が上がっていますよね。これは、「人をいじめるな」「人を傷つけるな」ということが、世の中や社会の要求や
期待になっていることの表れです。パワハラ予防を行うことで、活気があり働きやすい風土が出来上がっていくと、このような声が寄せられることはありません。つまり、世の中・社会から要求や期待されている、「もっと社員を大事に!」などの要求、期待に応え続けることができます。その結果、最終的にはコンプライアンスが推進されることにつながるのです。第2章では、パワハラを予防すると、どのような良いことが起こるのかお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。「パワハラ予防」と聞いても、最初はピンとこなかったかもしれません。しかし、第2章を読み終えた今、パワハラ予防の重要性、メリットを理解していただけたと思います。このあとの第3章では、パワハラを予防する具体的な方法についてお伝えしますが、内容は非常にシンプルです。難しいことは一切含まれていません。ですから、今日からすぐに取り組むことができます。それでは早速、詳しく見ていきましょう。
パワハラ予防には、5つのエッセンスがあります。1から順番に取り組んでいただくことで、誰でも無理なくパワハラを予防することが可能です。また、エッセンス1とエッセンス2は、パワハラ予防を行うにあたり、マインドセットとして必ず持っていただきたい内容となっています。5つのエッセンスの中でも、この2つのエッセンスは大変に重要です。2つのエッセンスを疎かにしてしまうと、効果的なパワハラ予防を行うことはできません。なぜなら、これから様々な予防策を取り入れていく上で、まずはパワハラ予防を行う必要性、意図を正しく理解しておくことが何よりも大切だからです。では、まずエッセンス1から見ていくことにしましょう。エッセンス1.『パワハラは拡散される時代』へ第1章でお伝えしたとおり、パワハラ問題は増加しているというよりかは発覚する割合が増えているのです。これは「ひとごと」ではなく、いつなんどき自分の会社でパワハラ問題が発覚しても、おかしくはない状況といえます。そして、社内でパワハラが発覚した場合、隠し通すことはできません。なぜ、隠し通すことができないのかというと、今まさに時代の転換点にあるからです。私が考える時代の転換点は3つあります。・価値観の変化「所有から共有へ」・コミュニケーションの変化「建前(論)から本音(論)へ」・忠誠心の変化「会社・組織から世の中・社会へ」3つの転換点は、「今の世の中の基準」ともいえます。「確かにそうかもしれないけど、今の世の中の基準と言われても……。該当しない人だってたくさんいるでしょ?」などと考えるかもしれませんが、そうは言っていられません。
なぜなら、この3つの転換点をもって言えるのが「パワハラが発覚すること」だからです。どういうことなのか、もう少し詳しく解説していきましょう。すでに触れたとおり、近年は社内に相談窓口があったり、SNSなどですぐにバレてしまったりするケースが増えています。そのため、パワハラが発覚しやすくなっているとお話しました。この話には続きがあります。昭和の時代、現在とは異なり正社員で働いている人が大半でした。そして、終身雇用が一般的だった時代でもあります。パワハラ問題が発生した場合、パワハラをやっている人、被害を受けた人、ともに問題を所有する(表に出さない)のが当たり前だったのです。なぜなら、どんなに理不尽なことがあっても「今は、踏ん張り時」と自分に言い聞かせ、定年まで我慢して働いていれば多額の退職金を受け取ることができたからです。今の世の中と比較すると考えられないことですが、「終身雇用=会社に守ってもらっている」という認識が強かったため、会社のために全てを捧げるという「会社・組織への忠誠心」がありました。そのため、パワハラ問題が発生しても、建前で対処することが普通だったのです。本音で話をしようにも、「そんなこと言ったらどうなるかわかっているのか?あなたは会社のことを考えているのか?」と言われるのがオチでした。しかし、令和の時代は違います。「価値観の変化」「コミュニケーションの変化」「忠誠心の変化」という時代の転換点を迎え、いとも簡単にパワハラ問題が発覚するようになったからです。つまり、真っ先に取り組むべきことは、パワハラの知識を身につけることではありません。「今の世の中の基準」に気づくことです。パワハラ対策のために有名な先生を招いて判例を学んだり、マニュアル通りのロールプレイングなどを行ったりしても、それらの対策は通用しません。部下たちは肝心なことを全て本音で話しますし、それらの情報はあっという間に共有、拡散されます。
だからこそ、時代の転換点であることを理解し、これらの現状を踏まえた上でパワハラ予防を行うことが第一歩となるのです。エッセンス2.いい雰囲気が生まれる土壌づくりからはじめる2つ目のステップは、「人も組織も心理的安全性を作り出す」ことです。ここでいう「心理的安全性」とは、「安心・安全・ポジティブ」の3つとなります。その逆は「危険・不安・ネガティブ」の3つです。なぜ、人も組織も心理的安全性を作り出す必要があるのかというと、これには理由があります。「危険・不安・ネガティブ」のままパワハラ予防の研修を行っても、全く意味がないからです。だからこそ、まずは「危険・不安・ネガティブ」ではなく、「安心・安全・ポジティブ」の空気感を作ってから、パワハラ予防の研修を行う必要があるのです。その上で、「こうやったら良いんじゃないか、ああやったら良いんじゃないか?」といったように策を打っていきます。なお、これは私だけが提示している考え方ではありません。ここで2つ資料をご紹介します。1つ目は、Googleが自社で運営するWEBサイト「re:Work」で発表した、「チームを成功へと導く5つの鍵」(※2)です。これは、Googleが「生産性の高い組織とは、どのような組織なのか?」について数年に亘って研究した結果、わかったことだと言われています。概要を簡単にまとめましたので、まずはこちらをご覧ください。1.心理的安全性チームで遠慮したり、戸惑うことなくチャレンジしたりすることができるか?2.信頼性より良い仕事をするためにお互いを信頼しているか?3.組織構造と明快さチームの目標、役割、実行計画は明確か?4.仕事の意味
自分たちにとって最も意味ある、重要なことに取り組めているか?5.仕事のインパクト自分のしている仕事が重要な仕事だと思えているか?これら5つの質問に対し、全て「はい」と答えることができた場合、生産性の高い組織に所属していることになります。ここで注目したいのは、どれだけ「はい」と答えることができたかではありません。世界トップクラスのテクノロジー企業であるGoogleですら、「心理的安全性」というアナログ的な内容を重視していることです。次に2つ目の資料をご紹介します。こちらは、一般財団法人経済広報センターが2020年3月に発表した「第23回生活者の『企業観』に関する調査報告書」です。「企業の果たす役割や責任の重要度」を調査したところ、「安全安心で優れた商品・サービス・技術を適切な価格で提供すること」に対して、79%が「非常に重要である」と回答しているのです。これら2つの資料に共通しているキーワードは「安心・安全」です。とはいえ、なぜこれほどまでに「安心・安全」が叫ばれているのでしょうか。例えば、ある企業がなんらかのコンプライアンス違反をしていたとします。そのような企業が提供する商品またはサービスは、安全・安心を感じるでしょうか。正直なところ、消費者を傷つけるような商品やサービスは購入したくないですよね。そもそも、なぜ違反が起きるのかというと、組織風土が危険で不安だからです。このような組織風土の中には、「人を傷つけたり痛めつけたりしても、別に何も問題はない。自分には関係がない」と考える人が一定数存在します。このような組織風土で、いくらパワハラの予防研修を行っても、うまくいくことはありません。ですから、まずは意識を変えていくことが先決です。建築に例えると、建物を建てる前に土壌を整備する必要がありますよね。土壌が汚染されているのに、その上に立派な建物を建てることはありません。パワハラ予防も同じことが言えます。人も組織も心理的安全性を作り出した上で、はじめて「うちの会社からパワハラをなく
すには、どうやって予防していけば良いのか?」といったように対策を講じるのです。その方が、費用対効果は高くなります。これは人事担当者はもちろんのこと、会社にとっても大きなメリットです。あなたの会社では、どのくらい心理的安全性を作り出すことが出来ていますか?この機会にぜひ考えてみてください。エッセンス3.曖昧な言葉が問題を引き起こしている実は、定義が曖昧な言葉が飛び交っているせいで、それがパワハラにつながってしまっているケースが多々起きています。これは、私が実際にパワハラ予防の企業研修でお話している内容の1つとなります。だからこそ、安心・安全な組織風土ができたなら、次は言葉を定義していきながら整備していくことが大切になります。ポイントは2つあります。1つずつ見ていきましょう。ポイント1:「ボタンの掛け違い」をなくすボタンの掛け違いとは、「言葉の意味」「言葉の捉え方」が少しだけズレていることを指します。パワハラの議論でありがちなのは、問題が発生した当初まで話を遡った際、「ボタンの掛け違い」に気づくケースが多いことです。「言葉の意味」「言葉の捉え方」のズレというボタンの掛け違いをなくしていけば、パワハラを予防することはできます。具体例に関しては次項で詳しく解説しますので、そちらを参考にしてください。ポイント2:「専門用語、曖昧用語」を使わない専門用語、曖昧用語を使わないことも重要なポイントです。
例えば、入社したばかりの新入社員に対し、上司が専門用語を使って指示を出したとしましょう。しかし、新入社員は理解できるはずがありません。上司に「わかりません」と言うことができれば良いのですが、入社したばかりであれば言いづらいものです。とりあえず、「はい、わかりました」と答えてしまうでしょう。問題はここからです。上司がその後の成果物などを見たときに、新入社員が専門用語を理解していなかったことに気づきます。すると、「なんだよ、知らね~のかよ!」となりがちです。多くの場合、ここでパワハラになってしまいます。新入社員に限らず、部下が知らない専門用語があるのなら、上司は少し噛み砕いて話をしなければなりません。また、曖昧用語に関してですが、例えば「結構です」という言葉は伝わりづらい傾向にあります。「イエス」という意味もありますし、逆に「ノー」という意味もあるからです。このような曖昧言葉は、誰もが認識しやすい言葉に言い換える必要があります。今回の事例でいうと「結構です」という言葉は使わず、イエスなのかノーなのか、はっきりと伝えることが重要です。このように、・「ボタンの掛け違い」をなくす・「専門用語、曖昧用語」を使わないこの2つを押さえることで、言葉の定義を整えることができます。以上、言葉の定義を整えることについて詳しく触れてきましたが、そもそも、なぜ言葉の定義を整える必要があるのでしょうか?日本の経営品質の父と呼ばれ、日本製品の品質向上に多大なる貢献をした人物の一人に、W・エドワーズ・デミング博士という方がいます。W・エドワーズ・デミング博士は、次の名言を遺しました(※3)。定義できないものは管理できない管理できないものは測定できない
測定できないものは改善できないつまり、パワハラ問題を改善したければ測定しなければならない。測定したければ管理しなければならない。管理したければ定義しなければならないということです。定義とは、ここでいう言葉の定義のことを指します。言葉の定義が整えば、結果としてパワハラ問題を改善することができるのです。だからこそ、まずは言葉の定義を整えることに着手する必要があります。では、具体的にどうやって言葉の定義を整えていけば良いのか、次項で事例を用いながら詳しく見ていきましょう。エッセンス4.自分たちの言葉の定義を整える今回取り上げる2つの事例は次のとおりです。・上司・部下間のコミュニケーションを多くする・部下の責任を明確にするまずは、「上司・部下間のコミュニケーションを多くする」ことから解説します。事例1.上司・部下間のコミュニケーションを多くするパワハラをなくすことを掲げている企業では、「風通しが良い組織はコミュニケーションが良いから、まずはコミュニケーション良くしよう」などと言うことがあります。おそらく、あなたも一度は耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。これは、厚生労働省が発表した「平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(※4)からも見て取れます。具体的にいうと、「パワハラが起きやすい職場の特徴」に関する統計データが公開されおり、パワハラが起きやすい職場の特徴として、全体の45.8%が「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」と回答しているのです。とはいえ、そもそもコミュニケーションの定義とは何なのでしょうか?
私は、パワハラ予防の研修などでグループワークをする際、「あなたにとって、コミュニケーションの定義とは何ですか?」と、質問をすることがあります。その際に出てくる答えは多種多様です。「意思疎通」「言葉のキャッチボール」「人の話を聴く」など、人によってコミュニケーションの定義は全く異なります。このように、人によってコミュニケーションの定義が異なると、ボタンの掛け違いが起こってしまいがちです。だからこそ、言葉の定義を整える必要があります。例えば私の場合、コミュニケーションの定義は「意見の違いを楽しむこと」です。そうやって言葉1つひとつの定義を整えていけば、ボタンの掛け違いは起こりません。1979年にノーベル平和賞を受賞したことでも知られるマザー・テレサさんは、次のように述べています(と、言われています)。(※5)思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから先に挙げたとおり、コミュニケーションという言葉1つとっても、個々によって定義は様々です。つまり、思考はバラバラ、使う言葉もバラバラな状態だといえます。マザー・テレサさんの言葉を借りて言えば、思考はいつか言葉になり、やがて行動になるのです。だからこそ、言葉の定義を明確化し、まずは思考と言葉を整える必要があります。そうすることで、おのずと「パワハラをする」という行動はなくなっていくのです。事例2.部下の責任を明確にする部下の責任を明確にすることについて触れる前に、上司と部下の責任とは何なのか解説したいと思います。
まず上司の責任ですが、一言でいうと「結果責任」です。この件に関しては、改めて解説するまでもないですね。世の中では、「結果の責任を取るのは上司」という定義がはっきりしているからです。一方、部下の責任については、上司の責任ほど明確になっていません。あなたは「部下の責任の定義とは何ですか?」と質問されたとき、何と答えますか?おそらく、すぐに答えは出てこないと思います。私が考える部下の責任とは、「業務遂行上の責任」のことです。その最たるが「報告・連絡・相談」だと考えています。では、「報告・連絡・相談とは何ですか?」ということになりますが、現場でよく使われる言葉ではあるものの、定義は人によって様々です。例えば私の場合、報告とは『過去』のこと連絡とは『現在』のこと相談とは『未来』のこととしています。ここでのポイントは、あくまでも私個人が考えた定義であり、人の数だけ定義は存在して構わないことです。ただし、一緒に仕事をする組織のメンバーが複数名いるのであれば、メンバー同士で定義を合わせる必要があります。定義を合わせていれば、部下は責任を果たしやすくなりますし、上司としても責任が取りやすくなるはずです。さて、あなたの会社では「報告・連絡・相談」をどのように定義づけますか?社員同士で意見を持ち寄りながら、考えてみてください。エッセンス5.無自覚なパワハラを自覚化させるパワハラ振り返りシート管理職教育用WEB適性検査「パワハラ振り返りシート」(※6)とは、パワハラをやる可能性が高い管理職に気づきを与えるツールの1つです。
本人が自覚していなかったリスクを数値で可視化し、「そのリスクがパワハラを引き起こす可能性があるよ!」と気づかせることができます。ポイントは、行動を変えさせる前に、気づかせることが重要だということです。なぜ、気づかせることが重要なのかというと、これには2つの理由があります。1つは、パワハラをやる管理職の大多数は無自覚だからです。「自分はパワハラなんかやらない。絶対に私がパワハラ行為者になるわけがない」と思っています。そのような人に行動を変えさせようとしても、変わることはありません。もう1つは、パワハラ行為者に対し、厳しく改善指導できる人がいないケースが多いからです。第2章で触れたとおり、パワハラをしている管理職の多くは、ハイパフォーマーだったりします。業績を出しているなど優秀な人が多いのです。会社としては、そのような人に辞めてもらっては困ります。特に営業職のように数字を持っていたりすると、経営に相当なインパクトを与えることがあるため、社長をはじめ他の社員はあまり厳しくあたることができません。では、どのように気づかせれば良いか。そこで登場するのが「パワハラ振り返りシート」です。例えば、家族から「最近、血糖値が高いんじゃない?」と指摘されたとしましょう。しかし、「いや、そんなことはない!」と、生活習慣を変えようとしないことがほとんどではないでしょうか。一方、病院での健康診断の場合、「あなた、血糖値が高いですよ。日頃の生活習慣を振り返ってみてください。何か心当たりがあるでしょう?」とドクターから指摘されれば、「えぇ~!でも、言われてみれば確かに……」と気にするようになりますよね。それと同じことです。「パワハラ振り返りシート」は、管理職自身に自らの行動・言動について客観的な視点から振り返りの機会を与え、専門的な知識のある第三者が診断結果を分析し、客観的な立場からパワハラの行為者になるリスクが高いことを指摘するツールとなります。ですから、無理なく本人に気づかせることができるのです。
「パワハラ振り返りシート」は有料サービスではありますが、このような便利なツールが世の中にあることを、ぜひ押さえておいてください。
昨今、あらゆる分野の専門家が、世の中からパワハラを根絶させるためにパワハラ問題に取り組んでいます。しかし、本書で繰り返しお伝えしてきたとおり、パワハラ問題の相談件数は増加の一途をたどる一方です。このような状況では、これまでどおり社内でパワハラ研修を行うなど対策を講じても、効果を期待することはできません。「人を人として大切にすること」という考え方をベースに、真の意味でパワハラを根絶させるためには、今までとは違ったアプローチが必要になってきます。それが、本書でお伝えしている「パワハラ予防に取り組むこと」なのです。第4章では、第1章から第3章にかけてお話してきたことを踏まえた上で、私が考える「パワハラ予防におけるゴール」とは何なのか、詳しくお伝えしたいと思います。1.パワハラ予防における正しいゴールの設定方法パワハラ予防における目指すゴールは2つあります。・パワハラ行為者のゴール・人事担当者のゴールパワハラ行為者のゴールとは、自分自身の行動特性を理解し、パワハラ行為につながる行き過ぎた言動を起こす前に、自らブレーキを踏めるようになり、パワハラ行為者にならないこと。そして、人事担当者のゴールとは、社員に自らの行動特性を理解させ、パワハラ行為者になり得るリスクを正しく認識してもらうことで、パワハラ行為者を生まないこと。最も重要なポイントは、「社員が自らの行動特性を理解すること」にあります。とても大切な箇所ですので、もう少し詳しく見ていきましょう。ここで1つご覧いただきたい資料があります。厚生労働省が平成30年3月に公表した「職場のパワーハラスメント防止対策について
の検討会報告書」(※7)です。この報告書の中で、大変興味深い統計データが紹介されています。平成22年度、6都道府県にある労働局が対応した「職場のいじめ・嫌がらせに係わるあっせん事案」のうち284件(その内、回答不明者100人)を調べた結果、97人ものパワハラ行為者がパワハラした事実を否定しているのです。また、行為のみ認めた人は63人、パワハラを認めた人はたったの17人でした。このデータからもわかるとおり、パワハラ行為者は「自らの言動がパワハラであること」をほぼ自覚していません。だからこそ、まずは「社員が自らの行動特性を理解すること」、そして人事担当者は「社員に自らの行動特性を理解させること」からスタートする必要があるのです。ここでいう「行動特性」とは、「長所、短所、強み、弱み」のことを指します。これらの行動特性は、「パワハラを引き起こすリスク」とも言えるものです。なぜ、「長所、短所、強み、弱み」が「パワハラを引き起こすリスク」となるのか、事例を用いながら解説します。そもそも、パワハラ行為者は対人共感力が低い傾向にあります。対人共感力が低いということは、相手に引きずられることなく、やるべきことを実行できる人です。これは長所であり強みといえます。一方、短所や弱みとしては、相手の感情や立場を無視して、強引にやるべきことを実行する冷たい人です。「私は私、相手は相手」というタイプですね。このような人が自らの行動特性を理解していない場合、本人は長所や強みの部分しか見えておらず、それを良いと信じ込んでいるケースが目立ちます。「短所や弱み」となり得ることを自覚していないばかりか、「短所や弱み」として捉えられるリスクがあるとは思っていません。これが、パワハラを生み出す原因の1つとなっているのです。先に触れた統計データを改めて思い出してください。パワハラをした事実を否定した人、行為のみ認めた人がほとんどでしたよね。
ようするに、世の中のパワハラ行為者の大多数が無自覚であり、その無自覚さがパワハラを引き起こしています。なぜ、無自覚なのかというと、自らの行動特性を正しく理解していないからです。例えば、「元気であることが長所」だと思っている人がいたとしましょう。自分では長所と思っていても、人によっては「うるさい」「暑苦しい」と感じることもあります。ですから、周りは「うるさい」「暑苦しい」と見ている可能性があることを認識し、受け止めることが重要です。「そうか、元気なところが良いっていう人もいれば、うるさい、暑苦しいって感じる人もいるんだな」と自覚できれば、相手から指摘される前に、自らの言動にブレーキを掛けることができます。これが、自らの行動特性を正しく理解するということです。では、具体的に「どのようにして、自らの行動特性を正しく理解していけば良いのか?」ということですが、ここが先に述べた人事担当者のゴールとなります。人事担当者のゴールとは、「社員に自らの行動特性を理解させ、パワハラ行為者になり得るリスクを正しく認識してもらうことでパワハラ行為者を生まないこと」でしたね。人事担当者や社内の人間が指摘しても、パワハラ行為者は聞く耳を持たないケースが大半ですので、第三者の存在が重要となってきます。第3章で触れた「パワハラ振り返りシート」のようなツールを活用する方法もありますし、行動特性を理解させることに重点を置いた、パワハラ研修を導入する方法も1つでしょう。もしくは、パワハラ行為者の身近な距離にいる人から、直接指摘してもらう方法も有効です。本音で話すことができる人が良いですね。指摘されたとき、すぐに受け入れることができなかったとしても構いません。大切なことは、まず「あぁ、そうか」と受け止めることだからです。そうやって、社員一人ひとりが自らの行動特性を自覚し、言動にブレーキを掛けることができるようになれば、パワハラは起こりにくくなっていきます。
そして、安心、安全の組織感、ムードが作られていくことにつながり、最終的には社内からパワハラはなくなっていくのです。2.世の中からパワハラを根絶させる私のミッション、ビジョンについてお話する前に、なぜ私が「パワハラが起きない組織づくりの専門家」として活動しているのか、先に触れておきたいと思います。主なきっかけは2つありました。1つは、私の幼少期の体験が関係しています。亡くなった父は、理不尽な言動が多かったこともあり、母が父に対して何も意見できない姿を見ていて、自分も委縮して言いたいことが言えませんでした。昭和の大量生産、大量消費時代は、上の者が下の者に対して嫌がらせをしたり、価値観を押し付けたりしても、そのような光景は日常茶飯事だったように思います。ですから、身近な嫌がらせや価値観の押し付けなどがあっても、現代のように「パワハラだ!」などと騒がれることはほぼありませんでした。しかし、これからの令和の時代、ニューノーマルの時代、「人権を無視した信念」は一切通用しません。時代は転換期を迎えたのです。人それぞれ多様な価値観を持っていることを認め、人を人として大切にすることが、これからの時代のキーワードになってきます。先に述べた私の幼少期の体験ですが、これは例えば学校で起きると「いじめ」、会社で起きると「パワハラ」にあたります。このような人間関係は、いかなる場においても起こってはなりません。このような実体験や想いが、私が活動を始めたきっかけの1つです。もう1つのきっかけですが、こちらは「元々、高難度労務問題解決支援の専門家として活動していた」ことが関係しています。私がパワハラが起きない組織づくりの専門家として活動し始めた頃、社内でパワハラ問
題が起きると、弁護士に依頼するケースが大半でした。裁判によって解決を促すというやり方ですね。パワハラ予防は、ほとんど行われていなかったのです。それは、社会保険労務士の業界も同じでした。当時の私は、高難度労務問題解決支援を軸に社会保険労務士として活動していましたが、年々パワハラ問題の相談件数が増えていることに疑問を抱いていたのです。あらゆる専門家がパワハラ問題に取り組んでいるのに、なぜ相談件数は減らないのか?これは専門家の側にも、何らかの問題があるのではないだろうか。そこで私は、「ならば、自らが先頭に立って」日本からパワハラを無くすことを、一生涯の仕事としてやり抜く覚悟を決めたのです。以上が、私が現在の活動を始めたきっかけ2つです。この2つのきっかけを踏まえた上で、私のミッション、ビジョンをお伝えしたいと思います。◆ミッション相手の腑に落ちる言葉で自発的行動を加速させ、成果のプロセスに寄与する◆ビジョン社会的意義のある教育を通じて、日本の成長と利益の最大化に貢献する私は、パワハラ予防に関するお話をする際、専門用語や法律用語は、出来る限り使わないようにしています。難しく感じてしまうと腑に落ちないばかりか、自発的行動を促すことはできないからです。噛み砕いたわかりやすい言葉を用いて自発的行動を加速させ、行動変容につなげることができれば、確実にパワハラ問題はなくなる。そう信じて、私は「パワハラが起きない組織づくりの専門家」として活動を続けているのです。3.絶対的な上下関係から、応援しあう上下関係へこれまでの日本には、絶対的な上下関係意識がありました。
あらゆる面において上司は部下よりも優れている。つまり、部下は上司より劣っていると考えることが大前提だったのです。上司に異を唱えようものなら、「いいから、言うとおりにしろ!」と言われるのが当たり前。「上司と同じ視点(目線)に立ち、同じやり方で、同じゴールを目指す」ことを強制されていたともいえます。しかし、これからの時代は違います。応援しあう上下関係を作っていくことが重要です。これは企業において、「多様な視点(目線)、多様なやり方で、同じゴールを目指す」ことでもあります。視点に限らず、人によって長所や短所は異なるものです。その集合体が会社という組織なのですから、それぞれの長所でお互いの短所を補い合っていけば良いといえます。それこそが、応援しあう上下関係です。応援しあう上下関係を構築することができれば、そもそもパワハラが起こることはありません。では、応援しあう上下関係を構築するには、一体何から始めれば良いのでしょうか?すでにお気づきかと思いますが、パワハラ対策の研修を実施して知識を身につけ、その知識に頼って法律を学ぶことではありません。パワハラを根絶するには、「知識」ではなく「意識」を変えることが重要です。「意識」とは、これまで本書で触れてきた内容を把握し、パワハラ予防に向けて動き出すことを指します。「意識」を変えていかない限り、社内からパワハラがなくなることはないのです。これは本書を通じて、私が企業の人事担当者に気づいていただきたいことでもあります。日本の企業からパワハラがなくなり、「人を人として大切にする」ことが当たり前の世の中になることを願ってやみません。
パワハラを行っている、または見え隠れしている当事者意識のない管理職に、頭を抱えている人事担当者は少なくありません。いかにしてマネジメント上の問題に気づかせ、かつ行動変容を促すか。そのために重要となる視点は、より一層パワハラ研修に力を入れることではありません。過去の判例から法律を学ぶことでもありません。最も重要な視点は、自らの行動特性に対する理解を促し、自分自身の盲点に「気づく」「気づかせる」ことです。これまでの「知識重視型」の対策(研修)では、パワハラ問題を解決することはできなくなってきました。なぜなら、パワハラ行為者が「自分がパワハラをやっている」と全く自覚していないケースが多いからです。それは本書で触れた、厚生労働省の統計データからも見て取れます。つまり、「知識重視型」の対策(研修)だけでは、自覚させることは難しいのです。そのことは、実際に現場で働いているあなた自身も、痛感しているのではないでしょうか。私は「知識重視型」の対策(研修)自体を否定したいわけではありません。しかし、パワハラを根絶するには、いまこそ「パワハラ予防・防止策」の視点を転換し、意識を変える必要に迫られているのです。本書をきっかけに、ぜひ「パワハラ予防策」に取り組んでみてください。社内からパワハラ問題を無くすことは、難しいことではありません。あなたが、パワハラにまつわるネガティブな悩みから解放され、真の意味で人事としてのキャリアを構築し、さらに活躍していくことを心から応援しています。湯澤悟
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