お客様の要求を満たすことは、面倒臭く、能率が悪く、経費がかかることを肝 に銘じ、ただひたすらお客様の要求を満 たすことこそ″正しいサービスであり、 会社のつとめである。
正しいサービスを行うことにより、正 しい報酬をいただかなければならない。さもないと、事業を継続し、さらに発 展することができないからである。
サービスとは心である
信越線の横川駅のク峠の釜飯クは、全国の駅弁の売上高で一〜二位を争って いる。
この駅弁は、今はなき先代女性社長が、ご主人の遺志を継いで昭和三十二年頃 に開発したものである。
女性の温かさと、優しさはク温かい駅弁クの提供となったのである。
それも、 あらかじめ作って保温器に入れておくのではなくて、列車の到着に合わせて作る . のである。
これが如何に大変な努力であるかは、言わずとも明らかである。
料理 は作りたてこそ本当の味がある。保温器に入れておいたのでは温かいだけで味は 落ちてしまう、というのである。これこそ本物のサービスである。その心がお客 様に通じたからこその人気なのである。
さらに、列車が出発する時には、売り子全員が直立不動の姿勢で列車を見送る のである。
私は、たった一度であるが、先代社長にお目にかかったことがある。
丁度夏の ことで、社長は紹の着物を召され、手に数珠を持っておられた。
その時のことを 忘れることはできない。
先代社長は「私は女の身で、事業の経営など何も分かりません。
私にできるこ とは、せめて温かいお弁当をお客様に食べていただくことだけです。お客様のお 陰で、私たちはこうしてご飯を食べることができ、社員に給料を払うことができ るのです。有難いことです」と。そして、合掌である。
私は、はずかしくて生れて始めて脇の下から冷汗が流れ 出たのである。
オス鮎を捨てろ 京都嵐山の料亭″錦クは桜宿膳という会席料理専門で、いろいるの雑誌に″京 都のうまいもの料理クとして紹介されている。
私の見た限りのいくつかの例では、 常に最初の欄に、しかもカラー写真で紹介されていた。
桜宿膳は月替りの献立で、季節色豊かなものである。
ある年の九月に、私がお手伝いに伺った時に、昼食はいつものように社長室で 社長と二人でとった。料理のチェックでもある。
その時の献立の中に ク子持鮎ク があった。
社長は一口食べた瞬間に箸を置いて受話器をとりあげた。相手は調理 長である。
「献立と違ってオス鮎なのは、どういうわけか」というのである。
調 理長は「今年は雨が少ないために鮎の育ちが悪く、市場にはオス鮎しかなかった ので仕方なかった」というのである。
社長は、すぐに養殖場に問合わせを指示した。
答えは「メス鮎を先に売ってし まうと、オス鮎だけ残ってしまうので、まずオス鮎から出荷している」というの である。
「オス、メス同数を買うのなら文句ないだろう。すぐ買いつけて、明日からは 必ず子持鮎とせよ」と調理長に命じた。
調理長は「オス鮎はどうしますか」と社 長に指示をあおいだ。社長は、「捨てろ」という。
調理長は「それではコストが高くなります」というと、社長は言下に「いつお 前は社長になったのだ。利益のことは社長が考える。お前に利益責任を負わした 覚えはない。お前の責任は、最高の食材を揃え、最高の料理をつくることだ」と。
次に女将を呼びだして「オス鮎のことは、献立と違って申し訳ありません、と お客様におわびせよ」と指示した。
その次は貼紙をもってこさせ、このことに関するおわびの言葉を書いて、玄関 口に貼らせた。
一通り処置を終ったところで、社長は私に次のように語った。
「鮎を一口食べてオス鮎だと分かった時に、背中がゾッとしました。これはお 客様にウソをついていることだ。錦はウソツキだとお客様に思われ、お客様の信 頼を失ってしまったら、錦はつぶれてしまう、という思いがしたからです」と。
永久保証
N電機は家電の小売店である。今は会長になっているN氏が社長の時に、次の ようなことを私に話して下さった。
「私は、私の会社で売る商品については、夕永久保証クをするつもりです。これ は、論理的にはおかしい。
自分の会社で作ったのではない商品を、永久保証といっ たって、売ってから十年たった商品が具合が悪いといわれた時にも無料交換するのか、ということになってしまうからです。
しかし、私のいうのは、我社の基本的な姿勢のことをいっているのです。
十年 使ったテレビを、具合が悪くなったから無償修理せよというお客様はいないで しょう。もしも、このようなテレビの修理を要求されたら、誠心誠意修理をし、 適正な修理代をいただく、ということです。言を左右して逃げることはしたくな いのです」と。
タクシー会社で固定給を
福岡県の大野城市にあるクータクシー帥クは固定給である。
赤字会社を引受けたI社長は、車の整備を徹底し、運転手には濃紺の立派な制 服を着用させ、お客様第一主義とエチケットを繰り返し教育した。
車の整備を徹 底するだけでもエチケットはよくなるのに、その上に態度、言葉づかい、お客様 の荷物をお持ちすることなどなどである。
これは、たちまちお客様の評判を高めた。
小さな町なので、流しはせずに、ハ イヤー式にご用命を待つのだが、地元の会社などでは、大切なお客様の送迎には自分の会社の車を使わずにIタクシーの車を使うようになったのである。
運転手も固定給なので、ノルマ消化に気をつかうことは全くなく、お客様サー ビスに専念する。
そして、お客様にお礼をいわれることもシバシバだというが、 これが運転手にとっては仕事のやり甲斐になる。
お客様が増えたので赤字は解消し、運転手の収入もよくなるという好循環を生んでいるという。
お客様、会社、運転手の三題話は、好ましい人間関係のもとにすべて順調なの である。
卵一個でもお届けする 東京のA社は米穀業である。
A社長は徹底したお客様第一主義である。
同社の方針書の中に「卵一個でもお届けする」という一項がある。
その卵は、 すべて生みたてである。
お客様は生みたてを好むからである。
毎朝、前日に予約を受けた卵を、朝早く出発して秩父山中の養鶏場まで、往復 三〜四時間かけて取りにゆく。
養鶏場の社長は、はじめ、「何と原価意識のない社長だろう。どの会社でも、 大型トラックで運ぶのに、毎日その日に売れる数だけ取りにくるとは……」と思っ ていたというが、A社長の考えが分かった時に「何と立派な社長だろう。ョシッ、 我社でも応援するぞ」と、最も新しく良質の卵を特別に用意してくれるようになっ たという。
数力所ある営業所は、毎日閉店すると一カ所残した夜間営業所に転送電話を セットして帰る。
米屋だというのに、ANAの航空便で北海道の食品を取りよせてお客様に提供 魚類は特に好評で、お客様はスーパーのものを食べる気がしないという。
A社 長いわく、「一倉さん、うちは米屋だか魚屋だか分かりませんよ」と。
ある年の社長セミナーでお目にかかった時には「私は、懸命になってお客様サー ビスをやっていたつもりでしたが、まだ私の横着が残っているのに気がついて 愕然としました。
それは、米は鳩きたてをお届けしていますが、褐いてから二週 間以上たつと水分が飛んでまずくなるのに、 一カ月分をお届けしていました。
二週間分はまずい米をお客様に食べさせていたのです。
あわててお客様におわびを するとともに二週間分ずつの配送に切換えました」と。
お客様は「そこまでサービスしてくれるのか」と喜ぶというより感激である。
このようなサービスは評判となり、同業者との関係もあって、テリトリーを守っ ているのだが、テリトリー外からA社を希望する人が多くなり、ついには断わり きれずにお受けしなければならなくなる。
これは、お客様に見放された同業者の転廃業につながってゆくのである。
それ は、それらの業者自身の自業自得なのである。
一日三回の予定変更を
P社は、事務什器のメーカーである。社長の徹底した「お客様第一主義」のために、不況を知らない会社である。
業 界全体が売上げ不振で苦しんでいる中にもである。
普通、メーカーというのは我社の生産第一主義で、お客様の要求は無視される 場合が多いのであるが、P社は全く逆である。
お客様のご注文を受けた品物で、タマタマ品切れの場合があるが、その時には 製造部長は即座に予定を変更して品切れ品をつくる。
それが一日に三回にも及ぶ ことがあるという。
一事が万事、P社の生産は常にお客様の要求を中心にして回転しているのであ る。
P社の製造部長も、当初は生産第一主義だった。
それを、社長の方針によって、 お客様第一主義の実践のためには、まずお客様のところを回ってお客様の要求を 知らなければならないという会社の方針にもとづいてお客様回りをしたのである。
これで、製造部長は、いままで自分が如何にお客様の要求を無視して製造部の 都合ばかり考えていたか、を思い知らされたからである。
それにしても立派な製 造部長である。
お客様の要求を知りながら、なおかつ自らの都合ばかり考えてい る人が少なくないからである。
社長も立派、製造部長も立派、というべきであろう。
湯灌場のある斎場
平塚市のS社は、ホテル、結婚式場、斎場、そしてコンピューター学校という 多角経営を行っている。
いずれの事業も非常に順調である。
その原因は、社長T 氏の夕お客様第一クの姿勢にある。
斎場は、祭壇の上の屋根に一メートル四方ほどのガラスが張ってある。
魂が昇 天する時の通り口だということである。
あまり見かけない作りである。
湯灌場の中央には、特製の湯灌槽が置いてある。
湯槽の下部は、遺族が遺体に なるべく近づけるように、靴の当る部分が内側にくびれていて、身体がピタリと 湯槽に密着できるようになっているという細心さである。
湯灌をしている人は、黙っているのではなく、絶えず遺体にいたわりの言葉を かけている。
床ずれの跡、手術後のキズ跡を注意深く洗いながら「痛かったでしょ う」「苦しかったでしょう」というようにである。
この光景に、遺族は泣きだしてしまうこともあるという。
このような湯灌をしているうちに、遺体の苦しげな表情が次第にゆるんで、安 らかな顔になってゆくということである。
これが仏様がよろこび、満足していると遺族には感ぜられるのであろう。
再び涙をさそわれるという。
ある時、急死された娘さんの湯灌依頼があった。
急なことで、湯灌をする女性 が間に合わず、困っていたところ、斎場の受付で案内をしている女性社員二人が、 「私たちでよかったら湯灌をさせて下さい」と申し出たという。
文字通り会社ぐ るみのサービスである。
S社の、結婚披露宴の料理の献立は実にユニークである。
お客様は、和食党、中華党、洋食党とあり、そのどちらのお客様にも満足して いただく献立はないか、ということを研究した結果、 一食の中に和食、中華、フ ランス料理の二つを組込んだ料理を開発した。
こうした料理は、それぞれの料理が中途半端になるか、中途半端にならないよ うにしたら一食分として量が多くなりすぎるかのどちらかになる危険がある。
そ れを、様々な苦心の結果、量は一人前でありながら、和、中、洋のそれぞれの味 と特徴を立派に出した献立を開発した。
それぞれやや少な目ながら四〜五品あり、 和食はご飯、中華は餞頭、フランス料理はパンがつく。
こうしてそれぞれをピシ リと締めている。
これは大好評で、残す人は殆んどいないという。
S社長は、「そのためにコス トが安くつきます」という。
どういう意味か分からないので、S社長にきいて見たところ、我社の料理のコ ストのことではなく、お客様から見た場合に、安くついて満足して下さるという 意味です、食べ残しがありませんからというのである。
S社長の「お客様第一主 義」の思想はかくの如くなのである。
針に糸を通しておく
京都嵐山の観光旅館渡月亭は観光客と地元の会社の両方に固定的なお客様を確 保している。
地元のお客様に密着していることは、観光のオフシーズンをカバー している。
全館、なめたような素晴らしい環境整備に加えて、 一階ロビーのトイレには香 をたきこめてある。
客室のトイレにはニオイ袋を置いてある。
食事はすべてルームサービスで仲居さんのお給仕つき。
一人に浴衣と寝巻の両方が用意されており、枕はソバ殻である。
居室と浴室の備品は旅館とは思えない。
一流のシティホテル以上である。
朝は小鳥の鳴き声をバックグラウンド・ミュージックで流す。という至れり尽 せりである。
テレビの上には、その日のテレビ番組と天気予報のコピーがおいて ある。
しかし、何といっても圧巻は各部屋に備えつけの文箱の中身である。
美しい模 様色紙が貼られたもので、外国人のお客様には、よく所望されるという。
中身は、 メモ用紙一冊 ボールペン一本 アンケート用紙数枚 観光案内―嵯峨野めぐり(嵐山、清滝、高尾) 観光カレンダー一部 ぽすたるガイド一部(郵便番号簿) バンドエイド三枚 安全ピンニ本ホック十個 ボタン十個 黒糸と白糸を針に通したもの、それぞれ一本、外に予備の針と糸 絵はがき五枚(切手を貼ったもの) 駅レンタカー案内 である。
切手を貼ってある絵はがきなど心憎い気配りである。
しかし、何といっても立派なのは、針に糸を通しておくことである。
これには、 次のようなことがあった。
ある日、老夫婦が宿泊した。
ところが、奥様のほうが着物の裾のほうをカギざ きにしてしまっていた。
旅先では針も糸もない、困っていたところ、文箱の中の 糸を通した針があり、早速これで応急修理ができた。
ご主人は、帰りに丁重なお礼の手紙を置いていかれた。
それには、「今回の旅行の最大の印象は、糸を通した針であった。
家内は老眼 で目が衰え、針に糸を通すことができなかった。
ところが、糸を通した針があったために着物の応急修理ができた。
こんなにも心のこもったサービスを受けたこ とを最大のみやげとして帰る」という意味の文面だった。
サービスとは心であるというのは、こうしたことであり、これが老夫婦を感激 させたのである。
またある時には、 一人の若い女性が予約なしで泊めてもらいたいと来られたこ とがある。
そのお客様に対して、フロントでは、空いている部屋が三つあり、それぞれの 料金を申しあげてお客様のご意志で部屋を選んでいただいた。
この時にも、この女性は丁重なお礼の手紙を置いていった。
それには「予約な しで飛込んだ時には、どこでも高額な部屋しか空いていないといって、これを押 しつけるのが普通なのに、そして、それを覚悟して飛込んだのに、こんなにも親 切な案内をいただいて心を打たれた。
この次には、友達とともにもう一度泊まり にきたい」ということだった。
ただひたすらサービスをする、というサービスの権化のような旅館である。
お客様の要求に合わせて混乱する
一日二十四時間のサービス体制
L社は建設機械の短期リースと土木工事を行っている。
社長は、心からのお客様第一主義者である。
その誠心誠意からのお客様サービ スは、お客様の絶大な信頼を得ている。
経営計画書の方針書の中の冒頭に近い部分には、次のような一文がある。
「我社が今日あるのは、我社が創業以来とり続けてきた″お客様第一主義クを、 お客様が必要としている証拠である。故に我社は将来とも自信をもってこれを貫 いてゆく」 と。
そして、その文の少しあとに、 「お客様の要求に答えて混乱し、混乱の中から新しいサービス体制をきずく」 という一文がある。
私は、これを読んだ時に胸にジーンと熱いものがこみ上げてきたのを感じた。
これ程お客様第一主義の真髄をいい表わした言葉があろうか。
これは、文字通り実践されている。
「一年二百六十五日、 一日二十四時間のサービス体制」となって、休日でも必 ず交代で社員が出動し、その日のお客様の要求はすべて承り、翌日の朝の打合せ 会に持ちだされて対応策をとる。
朝から社内に混乱が起るのである。
「始業三十分前には必ず現場に到着していなければならない」という方針は文 字通り守られている。
その仕事ぶりは、どのゼネコンも舌を巻いて称賛をおしま あるゼネコンの現場監督者は「あなたの会社の請負価格をみてビックリした。
こんなにも立派な仕事ぶりでは安すぎる。
この次には私が会社に交渉して価格を あげてもらうから、今回だけは我慢してもらいたい」と。
L社長は「別に安すぎ る価格ではない」と。
その証拠には、L社の社員一人当り経常利益は何と一千万円である。
高賃金の 上にである。
こういう会社は、社外のすべての人々に対して親切である。
「我社を訪れた人は、たとえ乞食であってもお客様である」という方針である。
郵便配達の人には、冬は熱いオシボリと熱いお茶、夏は冷やしたオシボリにつ めたい麦茶を出す。
そのために、この会社への年賀状は前年の暮のうちに届く。
L社のもう一つのお客様第一の方針を紹介しよう。
「我社は、日本中の会社が週休二日制になっても、絶対に週休一日を維持する」 というのである。
お客様が働いているのに、我社で休むことなどできない。
週休二日ではお客様 にご迷惑をおかけする、というのである。
これを、社員は当然のこととして受けとめている。
不満などどこにもかけらも 見当らないのである。
手書きの黒板
静岡市のI興業は、黒板が主力商品の一つになっている。
I社長は徹底した″お 客様第一主義クである。
すばらしい高業績を誇っているが、それは、お客様第一 主義だからこそである。
同社では、特定用途(月間行事予定表とか在庫一覧表とかの特定用途に使うも ので枠や文字が書きこんであるもの)の黒板を特注品として、すべての注文を、 年間を通じて休みなく受注し、製作― といっても線と文字の書込み――をしている。
これは、実に面倒くさい。
しかも全部手書きである。
むろん、予め型を作って おいて吹付けで行うことができるけれども、こうすると線や文字にツヤが出ない ので、やっていない。
面倒くさいがために、同業他社では仕事の少ない夏場だけしか受けないのであ る。
これは我社の都合だけを考えて、お客様の要求を無視しているのだ。
黒板は事務用什器なので、もっとも忙しいのは冬から春にかけてであるcその 時期は、年度末、新年度、新学期用の需要が殺到する。
そのためにどのメーカー でもこの時期には特定用途の面倒くさい手書きの黒板は受付けないのである。
ところが、事務器、文房具の業者は、この時期の受注は物件受注として、さま ざまな器具、什器類を一括受注している場合がかなりある。
その中に特定用途の 黒板もあるのだ。
そのために、この特定用途の黒板一枚が未納のために、物件全部の請求書が書けない事態が起るのである。
多くのメーカーでは、このようなお 客様の困ることなどいっこうに関心がない。自分の会社の都合だけしか考えない のである。
I興業に発注すれば、このようなことはない。いざという時のことを考えると、 平素からI興業の商品を仕入れておく必要があるのだ。お客様に頼りにされるI 興業の業績がよいのは、こういうところにあるのだ。
I社長のお客様第一主義は、単なるこれだけのことではない。
お客様の都合に 合わせて、 一日に二回も三回も生産予定を変更するのである。しかも、これは社 長がいちいち指図するのではない。
製造部長が文字どおり社長の分身となってい て、製造部長が自らの意思で行うのである。
この製造部長は、 一週間のうち三日はお得意様のところへ行く。お客様から聞 いたいろいろな希望は、直ちに生産に採り入れてゆくのである。
お客様にとって は、こんなに有難いことはないのである。
ある時、お得意先の文房具店で、陳列替えをしたいけれど、女手ばかりで困っ ているということを知り、直ちに社員四名を手伝いに派遣した。
我社の仕事の遅れなど気にしないのである。お得意先では大喜びした。
以後、この文房具店は、 I興業の上得意となったのである。この文房具店では、I興業の競合商品はいっ さい買わなくなったからである。
特寸の襖 K社は襖のメーカーである。襖のメーカーは、どこでも規格品だけしか作らない。特別寸法は能率が悪いか らである。
しかし、お客様の立場からすると、これははなはだ不便である。住宅 というのは、特寸の襖の需要は非常に多いからである。
家具問屋では、仕方がな いので、表具師に頼んでいるのである。ここにメーカーのお客様無視があるのだ。
K社では、この特寸を全部受ける。その結果、あちこちの家具問屋から注文が 集中する。
そのために、特寸が特寸ではなくなってしまって、規格品と製作工数 はほとんど変わらなくなってしまっている。
しかし、値段のほうは割高である。
K社の高収益の秘密はここにあるのだ。
他社は、規格品なるが故に値段は叩かれ放題で、低収益に泣いているのである。
我社の都合ばかり考えて、お客様の要求を無視している報いを、こうして受けて いるのだ。
しかも、それさえも知らずに、能率とコストの理論のとりこになって、 もがき苦しんでいるのは、まさに自業自得というものである。
建築中に売り切れ
東京都のH市にある0ハウスは、中級住宅の建売りをやっている。
他社には比 を見ない高業績を上げ続けている超優良会社である。
社長とは、もう十年来の付き合いである。
私の「社長セミナー」には頻繁に参 加して勉強に怠りない。
ある時のセミナー会場で、0社長は私に「一倉さん、うちでは困ったことがあ ります。
それは、建築中に全部売れてしまって、完成した時、売る住宅がないの です」と。
何が困ったことか、こんな結構なことはないのである。
その次のセミナーには、「一倉さん、今期も目標経常利益を大幅に突破してしまいそうで困りました」という。
全く困った社長である。
その次に会った時には、「あまり調子がよすぎて、これでいいのかと思う」と いうのである。
こんなにもすばらしい会社になったのは、0社長の姿勢である。
その姿勢とは、 「すべてお客様のために」ということである。その姿勢をもっともよく表わしているのが、フォローである。
住宅というものは、いかに入念な工事をやっても、不具合箇所が出るものであ る。
お客様からクレームがつくと、次の瞬間に0社長自らお客様のところへ駆け つける。
これにはお客様の方でビックリしてしまう。
そして、二つのことを言う。
一つは「こんなに早く来てくれるとは思わなかった」であり、もう一つは「社長 さんが来てくれるとは思わなかった」である。
そして、費用はいっさい無視して、 お客様の満足する修理をする。
それは、自社で建てたものだけでなく、他社が建 てたものでも修理に応ずるのである。
フォローを完璧にするために、テリトリーはH市に限定して、 一歩も外に出な いのである。
社長の話は、いつもお客様へのサービスに関することばかりである。
お客様の 満足のためには、家を一棟建て替えることも辞さないというのである。
昭和五四年の二〇号台風では、H市は大突風に見舞われて、多数の家が破損し た。
お客様の破損した家を、0社では全能力をあげて無料修理をした。
お客様の 満足は当然のこととして、他社から家を買った人々が「うちも0社から買えばよ かった。
うちの建築会社はいくら頼んでも来てくれない」という声が多く聞かれ たのである。
先年、私の「社長のための海外セミナー」に0社長も参加した。
帰路の飛行機 で、0社長の隣りに座ったのが、これまた私のお手伝いしているT社の社長だっ た。
その機中でT社長は0社長から話を聞き、その立派な姿勢に深く打たれた。
ちょうど、家を新築したいと思っていたところなので、0社長に「私の家を建て てくれませんか」と頼んだところ、0社長いわく「それは、どこにお建てになる のですか。
もしも、そこが私どものサービスエリア外だったら、十分なフォロー ができないのでご辞退するより外ありません」と。
結局は断わられたのであるが、断わられたT社長も立派であった。
T社長は、その話のあとで「一倉さん、僕はまだまだダメです。0社長に教わっ たように、経営計画の方針書を全面的に書き替えます」と。
T社長とて、0社長の話を聞くまでもなく、顧客第一主義で、そのために売上 げも業績も大きく伸びていたのである。
その立派なT社長が、0社長をお手本に するのである。T社長も0社長に劣らず立派である。このような立派な社長を友人にもっていることは、私の幸せであり、そして誇 りでもある。
台風の中をお客様回り
鹿児島市のY社は建売住宅をやっている。
創業数年にして、地場のトップクラ スに躍進したその秘密は、やはりY社長の「顧客第一主義」である。
社長の誠心を込めた建築だけではない。そのフォローが実に立派である。
Y社の経営計画書の中には、お客様への定期訪問計画がのっている。
社長はお 客様が入居後三カ月以内に訪間、そして、 一年以内にもう一度。
社員はお客様が 入居後三カ月間は毎月、以後は三カ月ごとに一回である。
修理依頼には即座にサー ビス係が飛ぶのはいうまでもない。
鹿児島は台風銀座である。
台風情報が入ると、社長は会社に詰めっきりであるc 台風が来ることが分かると、手分けしてお客様のところを回る。
それだけではな い。
いよいよ台風が来ると、その土砂降りの中を、社長がお客様回りに出かける のである。
社員は社長が何も言わなくとも、社長を見習って飛び出す。
Y社長の話によると、雨が漏っている家にお伺いしても、お客様は怒らないと いうことである。
社長の誠意がお客様の心を打つからである。
そのY社長がある時、私に次のような話をしてくれた。
「私はお客様に対する フォローを十分やっているつもりだったが、実はそうでないことが最近分かりま した。というのは、暑中見舞を往復ハガキとしてお客様のご意見を伺ったところ、 かなり厳しい意見や不満があった。お伺いしても、面と向かっては言いにくいこ とがあるのがよく分かりました。これからは訪問だけでなく、年に二回は書面でお客様のご不満を聞くことにしました」と。
Y社には、セールスマンが一度もお伺いしたことのない人から、問合せがかな りある。
聞いてみると、Y社のお客様から話を聞いたというのである。
Y社のお客様は、満足しているが故に、自らがY社の社外セールスマンの役割 を知らない間にやっているのである。
お客様のククチコミクは、それを無条件に他のお客様が信用するのだ。
ククチコミク ほど強いPRはないのである。しかも、費用は一円もかからないのである。Y社の正しい姿勢は、社外にクお客様というセールスクを多く作り出している のである。
販売促進をやめて売上げ増大
G社はプロパンの販売業をやっている。
創業以来、遅々として業績は伸びなかった。
社長は、プロパンの売上げだけでは足りないので、高額なガス器具の販売に力を入れていた。
またプロバンについ ては、新規得意先の開拓に力を入れていたが、いずれもこれといった効果は見ら れなかったのである。
悩みに悩んでいた時に、私のセミナーに参加して、自らの考えの誤りを悟った のである。
その誤りとは、お客様へのサービスを忘れていたということである。
社長は、我社としてお客様へのサービスは、プロパンの提供以外に何をしたら いいかを考えた末に、新たな方針を打ち出した。
それは、ガス器具の売込みはやらない、お客様からの注文だけを受けるという 消極販売とし、プロパンの新規開拓はやめる、そして、ガス器具のメンテナンス・ サービスに力を入れる、というものであった。
いままでの方針とは様変わり、全く消極的な方針のように見える。
しかし、結果は全く逆だった。
ガス器具のメンテナンス・サービスをやってみると、手入れや修理をやらなけ ればならない器具が、予想をはるかに上回る程あった。
これは、お客様に喜ばれ ただけでなく、ガス器具の保有リストができ上がった。
これによって、計画的な販売活動が可能になってきた。
そして、ガス器具の注文が徐々に上がりだしたの である。
また、お客様から、「知り合いの家でガス器具が故障して困っている。いくら 業者に頼んでもやってもらえないから、あなたの会社のお得意先ではないけれど、 修理してもらえないか」という依頼が次々と出てきたのである。
さっそくお伺いして修理すると「こんなサービスのよい会社なら、プロバンは あなたの会社から買うようにする」ということになって、新規得意先が増えだし たのである。
自分の会社の都合だけを考えて、販促をしていた時には、効果は少しも上がら ず、自らの会社の都合はいっさい無視して、ひたすらお客様のサービスをしたら、 自然に売上げが増大したのである。
メーカーが店舗フォローを
D社は菓子のメーカーである。
D社長の悩みは、売上げの伸び悩みであった。
売上げ増大のための決め手は新 商品の開発であるとして、新商品を次々発売したが、期待した程の売上げ増大は できなかった。
D社長の悩みに対する私の勧告は、「社長自らが小売店を回ってみる」という ことだった。
小売店を回った社長の見たものは、社長がいままで頭の中で考えていたものと は全く別のものだった。
それは、我社の商品は、間屋が十分のフォローをして、 小売店の店頭には我社の商品がちゃんと陳列してあるものと思っていたのに、実 際には、売切れの補充が極めて悪く、D社の商品の影は薄かったのである。
何の ことはない。小売店の店頭に我社の商品の陳列が少ない、ということである。こ れでは売れるはずがないのだ。
それと同時に、D社の主要得意先の一つで、売上げが急増しているT社(問屋) の小売店フォローの立派さである。
特に大手スーパII社に対するフォローは完 璧に近かった。
在来店はもちろん、急増するI社の店舗に対しても、フェーシン グから商品補充まで、すべてT社でやるのである。
この事実を見せつけられたD社長は、「自らの商品は自ら売らなければダメだ」 ということを痛感し、間屋と相談のうえ、D社で小売店巡回による商品補充を行っ たのである。
効果は直ちに現われた。
それだけではない、不思議な― ‐実は当り前なことで はあるが― ‐現象が現われた。
D社の主力商品である甘納豆は、夏場には売上げ が急減するのであった。
ところが、この甘納豆が夏場に売れ出したのである。
む ろん、冬場と同じではないが、いままでは全く考えられない程の売上げ急増なの である。
その理由は極めて簡単である。
いままでは、「甘納豆は夏場には売れない」と いう先入観によって、夏場には小売店もD社も甘納豆には関心がなく、売切れれ ばそのままで補充をしなかったのである。
それを、小売店フォローをするようになってからは、甘納豆の補充も行うようになって、店頭に甘納豆が陳列されるよ うになった、という極めて単純な理由なのである。
D社はこうして、フォローの費用をはるかに上回る売上げと収益を確保するこ とができるようになった。
そして、そのうえ小売店との間が親密になり、新商品 を持ち込むと、すぐに買ってくれるようにさえなったのである。
食品、日用品雑貨等、その他、小売店の店頭で売れるものは、店頭に陳列して ないものは売れない、という単純明快な法則を忘れて、カッコイイ特売や、宣伝 広告のみに憂き身をやつしている会社が大部分である。
店頭に常時陳列してなければ、何をどうやっても売れないのである。
そのこと をご存知ない社長が多すぎる。
というよりは、それは知っているけれども、「我社の商品は、常に十分な店頭 陳列を、問屋と小売店でやっている」というひとりよがり、つまリク天動説クの とりこになっているために、それが本当にそうなのかどうかを、社長自らの目で 確かめようとしないところに、根本的な誤りがあるのだ。
他社品を修理して
F社は梱包資材と機械の販売業者である。
F社長は、梱包機と結束機を重点商品として積極的に販促活動を行っていたが、 実績はサッパリ上がらなかった。
私の勧告は、「機械の売込みの努力は労多くして効少なしである。何となれば、 それは我社の立場を見込み客に押しつけているだけで、お客様の立場を無視し ているからだ。正しい姿勢は、クお客様の要求に応えるクことである。
お客様の 要求は、まだ使える機械を廃棄して新品を買うことではなくて、今使っている 機械が故障した時に、即時修理して、仕事に差し支えないようにしてくれる業 者にある。
日本中のほとんどのメーカーが、この修理サービスを忘れている。というより は、いったん機械を売ってしまえば、「あとは野となれ山となれ」式なのだ。
だからあなたの会社で本当にお客様のためを考えるならば、新規売込みはやらずに、故障修理サービスを徹底することだ。
そして、それはあなたの会社で売っ た機械だけでなく、他社の機械だろうと同様である。
その姿勢があってこそ、お 客様は買替え、増設などの際に、その会社に注文するのである」というものだっ た。
F社長は立派な方で、すぐ私の言うことを理解し、自らの姿勢を反省し、直ち に方針を切替えて、修理サービスに力を入れた。
幸いなことに、梱包機や結束機 は簡単な構造であり、パーツさえ取り替えれば、他社品でもほとんどの修理がで きるのである。
この、自社品も他社品もない修理サービスは、お客様に非常に喜ばれた。
そし て、新品の売上げも徐々に増え出した。
そして、このサービスを始めてから一年 半たった頃から、新品の売上げがうなぎ上りとなり、アッという間に三倍増であ る。
ビックリしたのは、F社の梱包機、結束機をD社に納めているメーカーである。
その突然変異の原因を調べた。そして、その事情を知った。
しかも、そのメーカー は私の「社長セミナー」の常連の一人であり、どちらの社長も「一倉セミナー」の同窓生だということが分かり、″同志″だということになったのである。
あちらでもこちらでも
公害処理装置の中で厄介なのが「水処理」である。大量のスラッジ(汚泥)が 出るからだ。
ところが、この公害処理装置の業者は、スラッジの処理について極 めて誠意がなく、お客様はどのくらい困っているか分からないのに、ほとんどの 業者が設置当初だけ申し訳的にスラッジの処理をするだけである。
これがお客様 の信頼を失って、更新の時には、まずその業者には頼まない。これでは、いつま でたっても会社の基盤は確立しない。いつも浮草稼業でいるのは、業者自らの責 任なのである。
論より証拠、I社では徹底的なフォローをやっているために、お客様の信頼は 絶大である。最近では、I社の商圏の四県下で、水処理装置業者は、I社だけに なってしまったのである。
自然に文字どおりの独占となったのである。建設業者も無責任業者が多い。いったん引渡しがすめば、あとは全く知らん顔 である。
ある建築業者は、お客様のクレームを聞くと「放っとけ」という指図を するのである。だから、いつまでたっても五流業者で、つぶれないほうが不思議 である。
その社長は「早く第一部上場会社になりたい。どうしたらいいか」とい う質問を私にぶつけてくる。お客様を無視して、何が第一部上場会社だ、と私は、社長自らが姿勢を正さな い限り、相手にはならないのである。
深夜のテレビ修理
N電機の社長N氏は徹底したお客様第一主義である。
小売店大型化の必要性を、いち早く察知して大型店新設と小売店のスクラップ ダウンを進めて急成長をしていたが、その中でお客様サービスの向上を重点的に 進め、売上げ増大と反比例して、お客様のクレームは急減していった。
急成長の場合は、それ以上にクレームが増大するケースを多く知っている私に とっては驚異であった。
これには、社長の異常な努力があった。
大型商品を買って下さったお客様には、 社長自ら筆をとった礼状は社長のサイン入りである。
それは、お買上げのお礼のあとに、商品とサービスについては、ご不満の点は、 「一年三百六十五日、 一日二四時間、いつでも結構ですから、社長あてのお叱り の電話又はお手紙を頂戴したい」という意味のお願い文がある。
社長自ら、お客 様のすべてのクレームを社長が直接知りたい、というのである。
これは並大抵の ことではないのはご理解いただけると思う。
これこそクレーム激減の根元である、 と私には思われるのである。
お客様への手紙は、様々な反響を起している。ある時、 一人の若いお客様からの手紙がきた。
その人は、特売の時に見切品のテレビを二万円で買ったのだが、売ったほうで は厄介者を追いはらったのだろうくらいに考えていた。
むろん、お客様もそれを 承知で買ったという。
ところが、思いがけなく社長さんから丁重な礼状をいただ いて恐縮している。そして社長さんを尊敬するようになった。
私は、これからは、 私の買う電機製品はすべてN社から買います、というような内容だったとのことである。
また、ある晩に会社の仕事で帰宅が遅くなり、風呂をすませてク一パイ″やっ ていたところ、十時半ごろ、あるお客様から至急修理依頼の電話があった。
そのお客様はラブホテルの社長であり、テレビが全部映像が映らないから、至 急修理してもらいたい、というご依頼であった。
社長は直ちに修理班長を伴ってお伺いした。全部映らないのだから、アンテナ が故障しているのだ。これを修理し終ったのは十二時半ごろだったという。その まま帰ったが無料修理である。
それから二週間程たった時に、ラブホテルの社長より電話があり、「全室の空 調施設を更新したい。値段は任せる」というご注文だったのである。
N社長いわく、「報酬を期待したわけではないがアフター・サービスは儲かり ますね」と。社長の誠意がお客様の心を打ったのである。
F社の「ホーキー」じゅうたんの掃除機、F社の「ホーキー」は、世界一の品質と性能を誇ってい る。
アメリカのトップメlヵl、ビッセル社の掃除機を使っていたアメリカの主 婦が、いったんF社の掃除機を手にすると、再びビッセルを使おうとはしなくなっ てしまうのである。
それというのも、発明者のF社長の精魂がこれに込められているからである。
円筒型のブラシの両端にローラーがついており、手押しによってこのローラー 付ブラシが回転し、ゴミをダストルームに掃き込むようになっている。
その性能 のよさは、電気掃除機をはるかにしのぐのである。
ブラシの毛は、中国の黒豚の毛を使っているが、これは、ブラシの毛として考 えられるあらゆる材料を使って、気の遠くなるようなテストに次ぐテストを繰り 返した結果の決定である。
これは、毛の質だけでなく、長さと植込み方によって 性能が大きく影響されるからではあるにしても、あくまでも最高性能を探求する 社長の姿勢によるものである。
ローラーはゴム製であるが、あまり硬すぎたら敷物をいためる。
人間の踵の硬さと同等以下ならば、少なくとも人間が踏む以上には敷物をいためないはずだ。
ところで、人間の夕踵の硬さクというのは、どうやって測ったらいいのだろうか。
というようなところから研究が出発するのである。
学校の教室の二つ分もある開発室の壁には、世界中の主なメーカーの主な製品 がズラッと一面に掛けてあり、それらはすべて精細なテストが行われている。
そ して、どのテスト項目についても、F社はそれらのものを上回らなければならな い、というのである。
耐用試験室では、クランク駆動による連続数力月の虐待試験が行われている。
ある日、社長を訪問した時に、社長はどこかのメーカーの掃除機を、自分で分 解して研究していた。
見ていると、ブラシの毛の数まで自分で数えているのであ る。
全く頭の下がる思いであった。
品質とか性能とか信頼性というものは、技術力がモノをいうことはいうまでも ないが、それにも増して決定的な要因は、社長の魂がこめられているかどうかで あることを、私はF社長から学ぶのである。
鋏の夕庄二郎″
庄二郎刃物工業という会社が東京にある。
裁縫鋏の専門メーカーである。
この 鋏は創業者三浦庄二郎氏が命をかけて作りあげたもので、すばらしい品質を誇っ ている。
同社に伺った時に、私自身でこの鋏の切れ味を試す機会を得た。
幾重にも折っ て厚さ一センチにもなった布片を、世界的に定評のあるドイツ製の鋏と庄二郎の 鋏とで切ってみたのである。
ドイツ製は、僅かに切込みはできたが、それ以上の 食込みはかなりの力を入れてもできなかった。
庄二郎の鋏は、見事な食込みで切 断ができるのである。
その切片を私は記念の品にしていただいてきた。
切れ味だけではない。
その姿全体に何ともいえない気品が感じられるのである。
まさにク名品´である。
同社の工場を拝見する暇がなくて残念であったが、帰り際に検査室だけ拝見さ せていただいた。
検査室では、庄二郎氏ご自身が八十余歳の身で、自ら二人のベ テラン検査員とともに検査をされているのである。
しかも全数検査である。
庄三 郎の鋏は、一丁なりとも不良品があってはならないというのだ。
庄二郎氏の姿に、私は全く頭が下がってしまった。
創業者自身が文字どおり命をかけているのである。
日本刀の伝統が今私の目の 前にあるのだ。
私は深い感動を受けた。
その感動を胸にいだいて同社を辞した。
この日の庄二郎氏の姿は、私にとって生涯忘れることはないだろう。
信頼性は社長の姿勢そのものである
Ooニミリ芯のシャープペンシルは、本当のところ使いものにならない。
芯が ポキポキ折れるからだ。
私は、○・五ミリ芯までは我慢して使っていたが、○。
二 ミリ芯になってからは、 一本買ってダメと知り、以後は買わない。
時々使ってい る社長を見かけるが、折れて仕方のないシャープを、よく我慢強く使っているも のだと感心する。
感想を聞いてみると、「折れて困る」というのだ。
ホワイトボードという品物も使いにくい。
表面がツルツルで、ペンが滑るから である。
この世に生まれてから、二〇年くらいはたつと思うのだが、いまだに改
良されていない。
技術屋にいわせれば、技術的な理由をあげて、「ムリです」と 言うにきまっている。
こういうのをク疑術屋クという。
難しかろうと易しかろうと、商品として不完全であれば、これを完全なものに 近づけるのがク技術者クというものであることを知らないのである。
フェルト底のスリッパは、硬質の床の場合には滑って危険であることを、スリッ パのメlヵlは知らない。
無責任である。
知っていて売っているのならば、これ また無責任もはなはだしいといわなければならない。
私の乗っている自動車は、N社の四ドアのハードトップで、中型車としてはトッ プクラスの車なのに、顧客不在もはなはだしい設計である。
まず第一に、狭苦し い。
シートをやたらと厚くして、これが室内を狭くしている。
座り心地(これも、 あまりよくないが)ばかり気にして、というよりは、シートの厚さにばかり気を 使ったという感じである。
天丼は低くて、上からおされるような感じである。
格 好よくするために、センターピラー式よりも全高を低くしているためである。
冷房の時は足ばかり冷たく、暖房の時は頭の方ばかリムッと暖かい。
冷気は上 から、暖気は足元からホンワカということを全く無視している。
これも技術的な理由というのだろうか。
それに、ステレオのスピーカーが後部の座っている耳元から音が出るように なっているのは、いったいどういう神経なのだろうか。
このクラスに乗る人に、 ステレオなど騒音以外の何物でもないことを知らないのだろうか。
そのくせ、室内の蛍光灯やら、その他のアクセサリーでいらないものがたくさ んついている。
フロントシートの背についているポヶットは、ついているだけで 書物一冊入らないのである。
乗る人の立場など考えていない車を買わされて、この次は別の車にと思うのだ が、その後モデルチェンジした中型車は、いずれも大同小異、中にはなお狭苦し いものさえある。
いったい、自動車のメーカーは何を考えているのだろうか。
いままであげたいくつかの例に共通する点は、ユーザー不在ということであり、 社長の姿勢がいかに悪いかの実証である。
自らの商品であるならば、まず社長自 ら試乗してみるべきであるし、試乗したら、右のような欠陥は直ちに気づくはず である。
それを恐らくはやっていないのではないか。
社長たるもの、忙しくてそんなことまでやっていられない、というのなら、これこそ大間違いである。
会社というものは、お客様の要求する商品を提供するの が務めなのだ。だから社長の責任において「我社はこういう商品をお客様に提供 します」というのが唯一無二の務めなのだ。
社長が自らの会社の商品を使ってみ て、どんな商品か自ら確認することこそ、もっとも大切なことなのである。
もっ とも大切なことを、「忙しい」というほど間違った態度はないのである。
日本の無責任社長にくらべれば、ベンツの社長は立派である。
ベンツの設計思 想は「事故の時に、どうやってお客様の生命を守るか」ということである。そし て、それを実現しているのだ。
ベンツで事故に遭って、命びろいした人のことを、 私は幾つか聞いている。そして、その思想は、広くゆったりした室内、適度に硬 くて疲れないシート、ムダなアクセサリーなどなし。
そして、「六年間乗っても どこも悪くならない。売却益がでますよ」というある社長の言が、ベンツの姿勢 を物語っているのである。
我社の商品に、社長自らの魂を込めないのは、明らかに社長の無責任極まる態 度である。
この節であげた、F社、庄二郎こそ本物である。その外にも立派な社長は多い。
チェーンブロックの「キトー」は、創立当初からの「溶接部分が切れないチェー ン」という態度。
日本一といわれる伊勢の松阪の和田金は、もっとも美味な熟成 度の肉しかお客様に提供しない。
仙台の「島影アイスクリーム」の社長は 「うちのアイスクリームを、大企業 が買い求めて分析していますが、いくら分析しても絶対に分からないことがあり ます。それは、アイスクリームに込めた私のク心クです」と。
ローカルの中小企 業でありながら、立派に大企業に伍して高収益高成長を実現している島影アイス クリームの秘密は、社長の″心クなのである。
さきに例をあげた、京都の嵐山の「錦」の田中社長は「調理というものは、心 を込めなければ本当ではない」と私に語っている。
本田宗一郎は、「一二〇%の良品」といっていた。その意味は、「一万台に一台 の不良でも、お客様にとっては一〇〇%の不良である。いかなることがあっても、 お客様に不良品をお売りすることがあってはならない。そのためには、 一〇〇% の良品率では間に合わない。だから、 一二〇%の良品が必要である」と。これが「心」なのである。
クレーム処理に誠意を尽す
第一話 S社は牛モツの納入業者である。同社は、モツの鮮度保持にあらゆる努力を惜しまない。そのためにお客様の信 頼は絶大である。
ある時、大手のスーパーからモツの鮮度についてのクレームがついた。社長は 直ちにお客様のところに駆けつけた。現物を見ると、それは別の会社からの納入 品であった。
バイヤーは、「あなたのところは、クレームをきくやいなや直ちに社長が駆け つけてきた。それに反してクレームを起した会社は社長どころかセールスマンさ えも顔を出さない」と怒って、欠席裁判で出入り禁止として、S社長に「我社は三社購買が方針だが、事は衛生問題である。
仕入部長には私が事情を報告して了 解をとるから、明日から全量を納入してもらいたい」と。
S社長いわく「クレーム処理は儲かりますね」と。
第二話 C社は、ラミネートの包材のメーカーである。ある時、アフリカのワインの会社から、C社の包材は通気性が不適だというク レームをつけられた。社長は直ちに経由している商社にかけつけた。先方の会社では、役員が来ていた。
そして「五百万円の損害賠償金を出せ」と いう要求である。
通気性についての明確な指示がなかったのだが、これを確かめ なかったこちらも悪いので、いさざよく全額賠償を回答した。
その途端に、相手の態度はガラリと変わり、ニコニコ顔で握手を求めてきた。
そして「いさぎよく責任をとってくれて嬉しい。実は以前にも、日本のある大手 のメーカーと同様のトラブルがあった時に、その会社は全く責任を認めようとし なかった。そのために、あなたの会社に変えたのだが、あなたの会社は立派である」と。
その晩は相手の招待で晩さんをともにし、帰りぎわに新たに二億円の契約をし たという。
C社長は「あの時は、よっぽど拒否しようと思ったが、それは間違っている。クレームは何がどうであれ、現物が不良なのだから、こちらの責任だと思い直し ました。お陰様でお客様との間によい関係が生れました。その上、二億円の契約 をいただき、この粗利益が八千万円です。
金額的にいえばクえび鯛クです。クレー ム処理に誠意をつくすのは儲かりますね」と。
第二話 R社は、M重工の納入業者である。
ある時、納入している原子力発電装置の部品にクレームがついた。
R社は取次 だけだから、これについての責任はないのにもかかわらず、これを受けて立ち、 メーカーとの間に真剣な交渉と対策をとらせ、これを立派に解決した。
これは、M重工の担当者を感心させ、「自分のところで作ったものではないからメーカーと直接交渉してくれ、と逃げ口上をいうのが当り前なのに、R社長は 自らの責任としてこれを立派に処置してくれた。
こういう会社こそ、我社は必要 としている」と信頼を高めた。
それ以後、R社にはM重工から大切な品物の注文が急増したのである。
R社長は「当り前のことをしただけなのに、これが会社の信用を高めた。有難 いことです」と私に語ってくれた。
第四話 前に述べた夕峠の釜飯クとして有名な荻野屋では、お客様からのクレームは必 ず社長と営業部長と店長の三名でおわびに参上する。
その誠意に感じたお客様は、必ずといっていいほど新しいお客様を紹介して下 さるという。
そのお客様は観光バス一台単位だとのことである。
第五話 N社は、月替りの大衆会席料理の専門店である。
大衆という意味はク大衆的価格″ということで、料理自体は本格的なものに近い。
常連のお客様には、毎月献立表をお送りしている。
ある月のご案内に一軒だけ 切手を貼り落してしまい。
そのお客様からクレームという程のものではないが、 電話で軽く注意された。
N社長は直ちに手土産をもって自動車で二時間かかるところをおわびにでかけ た。
そのお客様の住む町まで行ったが、住所が分からない。
公衆電話をかけて道順 をきいた。
奥様が電話に出られて用件を尋ねた。
切手を貼り落した案内状のおわびだと申 しあげたところ、どこの公衆電話からかけているのかとのお尋ねに、付近を見回 しながら見える建物を申しあげたところ、「分かったから、そこを動かずにいな さい。
迎えにゆくから」とのご指示であった。
間もなく来られた奥様の車の後についてお宅に参上した。
奥様は、社長を応接 間に招き入れて、心のこもった応対をされ、お土産までいただいて帰ったのであ る。
このようなお客様は、次回に来店される時には必ず手土産を持参して「皆様で 召しあがって下さい」とおっしゃるとのことである。
お客様との間に、心のかよ い合いができたのである。
第六話 M社はスーパーで、小店舗を七つ持っている。
専務がスーパーの最高責任者に なっている。
業績は順調というよりは、好調をずっと持続している。
専務の徹底したクお客 様第一主義´によるものである。
毎朝の朝礼時に、専務の話は″お客様サービスク 以外はやったことがない。
これを、繰り返し繰り返し徹底的に行っている。
専務 の言によると、社員は専務の方針どおりのことをやっているという。
また、店舗 を回り歩いてはお客様に接し、我社の悪い点をお客様から教わっている。
それも、 店内でお伺いしたのでは、お客様はなかなか本当のことを言わないという。
お客 様の後を追って、店からかなり離れたところでお伺いすると、痛烈な批判が聞か れるので、努めてそうしているという。
そのお客様の批判に基づいて、商品や陳列を直すのである。
この専務の誠意は、クレーム処理にも現われている。
クレーム自体の社員の責 任は追及しないが、クレームを報告しない責任を追及するのである。
スーパーのクレームは、商品やサービスだけでなく、釣銭の間違いがある。
お 客様から、十円釣銭を間違ったというクレームの電話があるという。
以前は「申 し訳ありません。この次にお買物にいらっしゃった時に、その旨おっしゃって下 さい」と、軽く聞き流してしまっていたのである。
これを来店時に言ってくれる お客様などあるはずがない。お客様の不快が、そのまま残ったのである。
それではいけないと悟った専務は、こうした時には、自らカルピス一本の手土 産をもってお詫びにお客様の家まで参上する。
これにはお客様の方で恐縮してし まい「たった十円のために、わざわざ専務が……」ということになる。
こうしたお客様とは親しくなり、店ではお客様の方から専務に声をかけるとい う。
こういうお客様は、絶対に他店へは行かないだけでなく、M社のことを、あち こち宣伝してくれる。
まさに無給の「社外宣伝員」をお客様自ら買って出てくれるのである。
業績好調の秘密は、専務の「誠意」にあるのだ。第七話 あるシンナー(塗装用の溶剤)のメーカーである。
私がお伺いした前年に、売 上げが一挙に三割落ちて赤字転落してしまっていた。その原因はクレーム処理に誠意をつくさなかったためである。
二年前に、その 会社の売上高の三割を占めるナンバーワン会社から、クレームがついた。
その時 に、社長はこのクレームを認めようとしなかった。
相手の使い方が間違っている というのだ。
「シンナーという溶剤は微妙なバランスがあり、そのために十分注 意して塗料と合うかどうかを確かめなければならないのに、それをしなかったか らだ」というのがその理由らしかった。
こちらは悪くないのだからといって、社長はお客様のところへお詫びにも行か なかった。
そのために、そのお客様から「出入り禁止」を食らってしまったので ある。
そのために、売上げは三割落ちて赤字転落してしまったというわけである。
技術屋タイプの社長(だけではないが)にこうした誤った姿勢をもった人が多 い。
「自分のやることは絶対に間違いない」という思い上がりである。
そのために、 クレームや批判はいっさい受け付けずに我を通そうとする。
しかし、世の中は自分だけ正しいと思っても通らない。
特に会社の商品という ものは、お客様が使って下さるものであり、そのお客様が「ダメだ」というのに、 これを突っ張れば、お客様は怒って買わなくなる。
こんなことがなぜ分からない のかと不思議に思うのである。
その報いは、自らの会社にハネ返ってくるのは間違いないことなのである。
正しいクレーム処理とは
大方の記憶に残る事件に、三洋電機のクファンヒーター事件クがあると思う。
ヒー ターの排ガス中毒で死人がでたのである。
事件が起ったのが一月。これが社長の耳に入ったのが五月だった。
死人の発生した事件が社長の耳に入るのに四カ月もかかったとは、驚くべきことだが、なぜ、 こんなことになってしまうのか、を考えてみよう。
この事件だけではなく、何か重大な事件が発生すると、社長は事件を引起した 人の責任を追及する、という全く間違った態度をとるからである。
宮仕え人種が上司から何等かの落度やミスなどを追及された場合には、ごく軽 いものなら話は別、ある程度以上に重大な過失は「一週間の減給なんてことでは 済まず、降格、左遷などの処罰を受けると、もうその会社では一生日の目を見る ことができない」ということにもなりかねない。
このような事態になるおそれのある過失は、社員が一人残らず結束してこれを かくす。
仲の悪いものといえども例外ではない。明日は我身かも知れないからで ある。
もしも、課長が部下の過失を知った場合は、課長はヒタかくし、知らんふりし て絶対に部長に報告しない。
部長がこれを知った場合は、これまた上司には報告 しない。
このようにして二重、四重のバリヤ(防御態勢)を張って、その間にモ ミ消しを行うのである。
事故が起ったのは一月だが、井植社長の耳に入ったのは、五月である。
事件が大きすぎて、かくし通すことができなかったのである。
「せめて、事件が起った時に私の耳に入っていたならば……」という社長の退 任時の言葉は、たしかにそうだが、何をいっても″後の祭クである。
こんな重大事故でさえ、これである。
もっと小さな事故やトラブル、クレーム などは殆んど社長の耳には届かないのである。
このことを知っている社長は極めて少ない。
社長の知らない間に多くの事故や クレームがヤミからヤミに葬られて、お客様に多くのご迷惑をおかけし、会社の 信用を落しているのである。
このような事故を未然に防ぐことこそ、社長の最も重要な役割の一つである。
私は、このことを経営計画書の方針書に、明記しておくべきだという主張を持っ ている。
それも、基本方針の中でなければならないというのが私の考えである。
それ程 の重要性を持っているのである。
それは、
1、クレーム処理は、すべての業務に最優先して処理しなければならない。
2、いかなるいい訳も絶対にしてはならない。「申し訳ありません、直ちに処 置します」とだけ申しあげる。
3、クレーム処理には、時間と費用を絶対に惜しんではならない。
4、クレーム自体の責任は絶対に追及しない。クレーム不報告の責任を厳重に 追及する。
というものである。
クレームは、責任云々の問題ではない。クレームを起そうと思っている人はい ない。みんな一生懸命やっているのだ。
しかし、人間である限り誤りを起すのは いたし方ない。大切なことは、 一刻も早く正しい処置をとることなのだ。それが、この方針で ある。
そのためには、クレームを即刻社長が知ることである。だから、クレーム報告 こそ最重要事である。これを怠ることは、お客様と我社への反逆である。だから 厳重にその責任が追及されなければならないのである。
報告責任者は、「一番先にお客様からクレームをきいた人」であって、クレー ムを起した人であるとかないとかは全く関係ないのだ。
報告は、即時口頭で行い、さらに文書によって報告する。
どのようにしたら社 長に最も早く知らせるかを工夫して明文化しておくとよい。
文書は、年月日、ク レームをつけられた得意先と役職、氏名、クレームを受けた人、クレームの内容、 とこれだけでよい。
クドクドと色々なことを書かないほうがよい。
社長は直ちに、まず電話でおわびし、必要があれば即時お客様のところへお伺 いするのである。
あとは、処置完了まで何をしなければならないかは、ここに書 く必要はないだろう。
クレームは広く解釈したほうがよい。
あるブティックのチェーン店では、毎日 クレームの数が店舗勤務者の数と同じ数だけあることを知って、社長がビックリ したということがある。
クレーム処理ほど、社長の姿勢が明らかに表われるものはない
お客様指向型組織
F社は、建材の総合間屋である。業績は順調で、安定的な成長を続けていた。しかし、F社長はこれに満足して いなかった。
お客様との間に何となしのシックリいかない点があり、それがどうも我社の組 織にあるのではないか、という疑間をもっていたからである。
果してそうなのか、 というのが私への相談である。
F社のお得意は、官公庁、ゼネコン(総合建設会社)、工事業者、建材店 である。
営業体制は四課に分かれており、 一課は生コンとサッシ、第二課は一般建材、 第二課は衛生陶器、第四課は住設機器であった。
この営業体制は、F社の商品管理の都合に焦点を合わせたものであり、お客様 の方からみると不便である。
それぞれのお客様は、サッシが欲しい場合は一課、 一般建材が欲しい場合は二 課というように、営業窓口が四つあるために、商談や交渉がわずらわしいからで ある。
これがお客様との間がシックリいかない原因である。お客様第一主義では なく、我社第一主義になっていたのである。
私の提案というのは、お客様との窓回は一本化し、第一課は官公庁、第二課は ゼネコンというように改めることであった。
こうなると、お客様との間はスッキリするが、今度は内部が厄介である。
会社 の全商品について、四つの課が扱わなくてはならないからである。
「あちらを立てればこちらが立たず」の状況が生れるからである。
これをどう 調整すべきか、ということになる。
答えは簡単に出てしまった。
売上高も利益も確実に上昇し、窓口一本化の正し いことが証明されたからである。
さあ、ここである。
我社の都合を第一にしてお客様に不便をおかけして低業績 を我慢するか、お客様の要求を第一に考えて内部は混乱しても優れた業績をあげ るか。これを決めるのは社長である。
社長の決定によって繁栄する会社とボロ会社とに分かれるのである。
「お客様の要求に合わせて混乱する」ことを拒否して低業績に泣いている会社 の実例こそ、本書の「サービス不在時代」にあげた多くの会社であり、お客様の 要求に答えて内部を混乱させているのが、本書にあげた「お客様の要求を満たす」 にあげた多くの会社である。
そして、我社の都合に合わせて低業績に泣く会社と、お客様の要求に合わせて 混乱し、高業績をあげている会社の数は、前者が圧倒的に多いのである。
人間は、本来「自己中心」である。そのために、多くの社長は自らの会社を自 己中心に考えて経営していることに気がついていない。
ごく少数の社長がこれに気がついてお客様第一に経営する。そして高業績を手 に入れているのである。そこには、過当競争など全く存在しない。無人の野をゆ くような状態しかないのである。
高業績経営を実現する根本原理はただ一つしかない。それは、「我社の事情は 一切無視し、お客様の要求を満たす」ことである。
お客様の要求を満たすため、社長は先頭に立って社内に 混乱をまき起せ。これこそ高収益を実現する道である。
著者 一倉 定(いちくらさだむ)氏について 事業経営の成否は、社長次第で決まるという信念から、社長だけを 対象に情熱的に指導した異色の経営コンサルタント。
空理空論を嫌い、徹底して現場実践主義とお客様第一主義を標榜。
社長を小学生のように叱りつけ、時には、手にしたチョークを投げつ ける反面、社長と悩みを共にし、親身になって対応策を練る。
まさに 「社長の教祖」的存在であった。
経営指導歴二五年、あらゆる業種・業 態に精通、文字通りわが国における経営コンサルタントの第一人者と して、大中小五〇〇〇余社を指導。
没後も、経営の本質を説く一倉社長学を求める人が後を絶たない。
著書に「一倉定の社長学シリーズ」全十巻と別巻二冊、「一倉定の経 営心得」をはじめ、「一倉定の社長学講話シリーズCD ・DVD」「一 倉定の社長学百講CD」「一倉定の中小企業の社長学CD」他多数。
一九一八年四月生まれ、 一九九九年二月逝去。
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