9.1 躾とは
9.1躾のねらい
躾(しつけ)とは、決められたことをきちんと守ることである。
躾の漢字 は「身を美しく」と書く。
人が身につける美しさが躾とはとてもよい漢字 だと思う。
決められたルールをキチンと守れる人(身)は、心が美しい人で あろう。
ちなみに躾の元々は礼儀作法を身に付けさせるという用語である。
躾の目的はものづくりの企業風土づくりである。
企業風土とは、社員が 共有する価値観や信念、思考プロセス、これらに基づく行動などのことで ある。
工場の文化といってもよいだろう。
工場の文化という抽象的な表現をしているが、例えばこんなことであ る。
道路の信号機が黄色に変わったとき、減速する地域と加速する地域が ある。
交差点を右折するときに直進車を待つ地域と直進車が発信する前に 右折してしまう(早曲がり)地域がある。
どちらがよいという話ではなく、 信号というルールに対して、行動に差があるという例えである。
同じ製品をつくっていても工場によって作り方が少し違うことはある。
それを工場の文化の違いという。
躾は工場の文化をよりよく変えていく活 動である。
悪いルールを直してよいルールを守らせる、よいルールをつ くって定着させるのが躾である。
9.1.2 管理職の心構え
躾の対象は人そのものである。
自分自身に対して、決められたことが無 理なく、自然に守れるように習慣としていく。
日常生活では、洗顔、歯磨き、入浴など考えることなく自然に行っている。
職場でも社員が4Sを自 然に行えるように管理職が導く。
躾は教えたからといってすぐできる、すぐ身につくというわけではな い。
何回も教えて、育つのを待たねばならない(教育)。
したがって、会社 で躾に取り組んだからといって、ただちによくはならない。
躾は時間がか かる。
だからといって、やらないわけにはいかない。
根気よく教育に取り 組んでほしい。
躾の対象は関係者全員である。
正社員はもちろんのこと、契約社員、協 力会社など躾の対象に例外はない。
「自分一人くらいチョイ置きしても大 文夫だろう」「ちょっと汚してしまったけどまあいいか」が積み重なって、 工場の文化が悪くなる(割れ窓理論)。
社員1人1人の心がけがとても大切 である。
特に管理職は自ら範を示し行動すれば自然に広がることを肝に銘 じる(率先垂範)。
躾は誰がするか。
一般的には、子供は親、学生は先生、新入社員は上司 が躾する。
大人が人から躾をされてはおもしろくない。
強制された躾は楽 しくない。
大人は分別がつく。
大人の躾は自分自身で行う(自律)。
本人が わがままをしなければ、周りに迷惑をかけない。
みんなで今一度会社の守 るべきルールを確認して自律する。
職場では新入社員、転職者、転勤者など入れ替わりは多い。
忙しい管理 職だけに教育を任せては管理職が多くの時間を取られてしまう。
状況に よっては教育されないこともある。
そのため、職場の入れ替わりの多い時 期に対象者を集めて5Sを教育するのが効率的である。
新入社員教育に5S を入れることは定例化すべきだ。
5S教育では「いつ」「誰が」「何を」と いったカリキユラムを作成しておく。
テキストは本書を活用してほしい。
座学と実習により教育を受けた後のほうが、管理職の実践指導は有効で ある。
ルールを守らない人、忘れている人に対して、管理職が躾をする。
躾は企業風土づくり。
だから、教えたことが守れなければ上司が叱ってよ い。
感情を愛情に変えて叱ろう。
その場で叱ろう。
諦めずに叱ろう(図表

9.2守るべきこと
9.2.1 躾の3原貝」
躾では工場で必要な安全、品質、納期、環境などに対して、決められた ことをきちんと守れること、あるべき行動を自然にできるようにすること を目指している。
いくら指導しても、受ける側に問題あると「暖簾に腕押 し」である。
そこで、社員の器づくりから始める。
教育哲学者の森信三(も り のぶぞう)氏が提唱する「躾の三原則」がお勧めである。
人として基 本的なことであるが、きちんとやるのは意外と難しい。
(1)挨拶 顔を合わせたとき「おはようございます」と自分から自然に出る。
外来 のお客様が来社されたときに「いらっしゃいませ」と挨拶できる。
挨拶 は、人からではなく自分から。
「謙虚」な気持ちを養う。
他人に何かやってもらったとき「ありがとうございます」と自然に出 る。
「感謝」の気持ち持つ。
(2)返事 他人に名前を呼ばれたら、「はい」とまず応えられる。
この「はい」と いう一語によって、その人は意地や張りといった「我」を捨てる。
「我」 を捨てると、当の本人はもとより、まわりの人の雰囲気まで変わりだす。
(3)後始末 席を立ったら椅子を入れる。
履物を脱いだら、きちんと揃える。
履物の 締まりは心の締まり。
「前の動作の締めくくり」の気持ちを持たせ、自分 のしたことの後始末を徹底させる。
9.2.2 各種ル‐―ル
エ場では守るべき各種ルールがたくさんある。
細かなルールを全部覚え る必要はないが、知らなかったではすまないことはある。
最低限の知識は 会社から教育を受けてほしい。
(1)法令 交通法規:酒気帯び運転、スピード違反、駐車違反など。
飲酒運転によ り会社に重大な損害を与えた場合、解雇されることがある。
環境関連法規:水質汚濁防止法、大気汚染防止法など。
川や海、大気、 土壌に基準を超えた物質を放出してはいけない。
公害に つながる。
労働安全衛生法:健康と安全の確保。
高所作業では命綱をつける、騒音 職場では耳栓を着用するなど。
(2)社内規則 就業規則、安全規則、製造規格、作業標準など会社や工場で決められた こと。
近年、検査手順の省略や品質データの改ざんなどが発覚し、巨額の 改修費用や損害賠償を求められた会社が続出している。
工場の閉鎖まで発展することもあるので注意しなければならない。
(3)5SI基準 捨てる基準、線引き基準などの5S基準を守って会社に定着させてほし い。
また、社内規則や5S基準を補足するような、自職場独自の基準(休 憩の取り方、点検や終結の仕方など)があれば明文化しておくと新人への 説明漏れが防げる。
5S基準は各章で書いたが、必要な基準類を列挙して おく。
【5S基準の例】 整理:捨てる基準、書類保管基準 整頓:線引き基準、手持基準、表示基準、掲示物基準 清掃:塗装色基準、清掃基準 清潔:身だしなみ基準、イベント運営要領 躾:5S教育、5S時間 躾の3原則、会社の各種ルールといった決められたことが自然に守れれ ば、4Sがさらに進化する。
少しずつでかまわないから守るべきことを習 慣にしていこう。
9.3 躾の取り組み方
9.3.1 躾の位置づけ
整理、整頓、清掃、清潔はモノや場所に対して行うが、躾は人が身につ けることである。
モノと人で次元は違うが、同時に取り組んでいる関係が ある(図表9.2)。

躾の範囲は広いし、人が対象なので難しく時間がかかるため、最後のま とめとしての位置づけになっている。
経験的には一般的な工場だと5Sが定着するまで3年かかる(事務所は2年)。
図表9.3に5Sのステップを示 す。
また、以下に各年の課題を示す。
躾における1年目、2年目、3年目の課題 1年目:5Sを一通りまわす。
知る:5Sの知識がある、聞いたことがある。
習う:5Sの目的、手法、効果など理解した。
習得する:5Sを実践した。
まだ時間がかかる。
習熟する:5Sに慣れ、短時間でできるようになった。
2年目:もう一度5Sを回し、定着のための仕組みをつくる。
習慣となる:5Sが決まりのようになった。
まだ意識して取り組んで いる。
3年目:仕組みをチェックしつつ自立に向かう。
習性となる:ある程度、無意識に5Sができるようになった。
5Sが常 識、当たり前のようになりつつある。
5Sのレベルは躾のレベルといっても過言ではない。
そして、モノづく りは人づくり。
4Sを表面的に実行しても、社員に腹落ちしなければ定着 しない。
人づくりにより5Sレベルは上がる。
人づくりのための教育と訓 練は、空いた時間ではできない。
生産をにらんで、定期的な教育時間を確 保し、社員に5S活動する時間を明示することはとても大切である。
これ は管理職のマネジメントである。
社員の5Sレベルが低いのは管理職のマ ネジメントが悪いということも多い。
会社の5Sが進まない責任を社員だ けに押し付けてはいけない。

9.3.2 躾の仕組みづくり
(1)社内のルールを文書化する 9.2節「守るべきこと」を参考に基準を文書化する。
基準はISOか製造基準に盛り込んで、承認を受け正式に認められた形にする。
公式文書にす れば、ルールを守るよう指導しやすくなる。
(2)文書化したルールを定期的に教育する 文書化しても忘れることは多い。
半年~1年に1回は勉強会を行う。
そ うすれば、新たに学びなおせる。
また、おかしなルールは見直せるし、足 りないルールは足される。
全社員がルールを守ることを徹底させる。
(3)ルールを見直す 納得できないルール(昔からのしきたり、時代の変化にあってない、ム ダなルールなど)があったとしても、決まっている以上まず守る。
しかし、 納得いかないルールは放置せず見直すべきである。
納得できないルールを 見直せば、ルールは例外なく守られるようになる。
言いづらいことでも率 直に言える雰囲気は大切である。
そのためにも5S検討会や5S委員会な どルールを改定する場はつくっておく。
そして、ルールを改定したときは 関係者全員に改定理由と内容を周知徹底させる。
9.4 躾の実習と次回までの課題
以下に示す実習については、「その1」「その2」の内の一方だけでもか まわない。
9.4.1 実習その1(1時間)
(1)自職場独自の基準を確認する 躾は、決められたこと(ルール)をきちんと守ることである。
ルールが何 かわからないとルールは守れない。
会社には自職場独自のローカルルール (休憩の取り方、点検や終結の仕方など)があることが多い。
チームごとに 自職場のルールを再確認して、新人向けに文書化しておく。
ブレインストーミングの精神(批判禁上、質より量、自由奔放、結合 OK)でとにかく、たくさんあげてから削っていく。
普段当たり前のように 行動しているので、改めてルールを確認しようとすると出にくいかもしれ ない。
その現場では当たり前のことでもかまわないのでドンドン書き出し ていく(新人にとっては初めてのはず)。
着眼点として、一日の仕事内容を朝からなぞっていくと出やすい。
通勤、 身だしなみ、朝会、点検、休憩、昼休み、会議、安全、在庫管理、品質、 清掃など考えてみよう。
(2)チームごとに発表する チームごとに発表し、質疑応答を行う。
最終的にチームリーダーがあず かり、所属長と相談の上、公認された自職場ルールとするのが望ましい。
自分たちのルールは自分たちで決めよう。
9.4.2 実習その2(1時間)
(1)自職場の5S基準を再確認する(5S基準がある会社向け) 事務局から5S基準の説明を受け、5S基準をもらう(5S基準はファイリ ングして、すぐに確認できるようにしておく)。
現場で5S基準どおりでない場所をデジタルカメラで撮影する。
細かな 違いを直すつもりはない(趣旨があっていれば問題ない)。
5S基準と違う という認識ができれば十分である(5S基準を体にしみ込ませる)。
捨てる 基準、書類保管基準、線引き基準、手持ち基準、塗装色基準など、会社の ルールが守られているかバランスよくチェックしよう。
撮影場所は自分の職場とし、時間が余れば共通場所も撮影する。
他の職 場は撮影しない。
撮影者=発表者とする。
カメラ1台に3~ 4人がよい(人 数が多いと遊ぶだけ)。
実習は1時間とし、移動も含めて迅速にテキパキ 行動し、現場から指示された時刻までに帰ってくる。
(2)撮影結果を発表する 撮影した写真をプロジェクターに映し、現状の問題点や、こうすべきと いう意見を発表する。
9.4.3 自主活動計画立案
本章の内容に対する活動計画をメンバー自身で立てる。
次回(1カ月間 程度)までに自分達で「何をするかのリストをつくり、誰が、いつまでに」 を決める。
次会合の最初に進捗を報告してもらうので、チームリーダーは 進捗を把握しておくこと。
【自主活動計画における必須項目】 ・実習の写真をもとに定点撮影チャートを進める。
05S基準を作成する(見直す)。
9.4.4 12カ月日の進め方
年間の活動スケジュールで示した清潔、躾は下記のとおりである。
【清潔、躾における10月日、11月日、12月日のスケジュール例】 10月目 清潔:評価基準づくり、イベント企画、身だしなみ(第8章 参照) 11月日 躾:誰が、誰を躾け、何を守るか(第9章参照) 12月目 清潔・躾フォロー、清潔・躾の基準づくり。
報告会の構成、 来期に向けて(第10章参照) 12カ月日の集合教育はイベントの企画状況、各種基準の作成状況を確 認する。
その後、第10章に進む。
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