コネクテッドTV広告の爆発力コネクテッドTV広告という概念は、先行する欧米市場の動きが日本市場にも及ぶことは確実です。本書の読者の方ならば、既にコネクテッドTV(広告)という単語を聞いていたり、事業に取り組まれていたりする方もいるかと思います。ところが、日本での2023年時点でのコネクテッドTVへの理解の現状は、どうやら「スマートテレビ画面への動画広告配信(含むユーチューブ)」という広義の解釈に留まっているように思えます。その理解もまったくの間違いではありませんが、今後のコネクテッドTVの成長事業の意味合いを踏まえてあえて単語の背景を書き加えると、「コネクテッド(された)TV画面に登場する、ネット経由で送稿されたテレビ局番組の広告(CM)」と称するのが適切かと思います(なお、コネクテッドTVを「CTV」と略すこともありますが、コネクテッドTVにはスマートテレビ受像機のハードの連想も含んでしまうため、本章では「CTV広告」と「広告」までを添えることでハードと区別することにします)。さらには、ユーチューブのようなソーシャルコンテンツだけではない、むしろそれらのSNS動画は除いた「テレビ局番組(巨大資本の制作番組、含むネットフリックスやディズニー、在京テレビ局)」と連動する、プレミアムなコンテンツと連動する広告(CM)の意味合いを強調しておきます。次図での仕分けも、「CTV広告」と「動画広告(除くCTV広告)」の数値を区分して発表されている様子がわかります。
CTV広告に向けて大資本が動き始めた既にアメリカでは、CTV広告の分野はテレビ広告市場全体が約7兆円規模(657億ドル)で頭打ちしているのに対し、約3兆円規模(269億ドル・2023年予想、リニアテレビ放映広告を除く)にまで成長し、今後も毎年20%のペースでの成長が見込まれています。日本のすべての媒体の総広告費がおよそ6・8兆円規模なので、アメリカのCTV広告が3兆円規模の市場に成長したのには勢いが感じられます。CTV広告をDSPとして扱い、事業の波に乗ったTheTradeDeskは時価総額が世界五大広告グループを追い越して約4兆円に迫る勢いです(次図参照)。
さらには、広告なしでの番組サブスクモデルだったネットフリックス(アカウント数は世界で2・2億件)に対して、2年でアカウント数2・21億件のサブスクライバーを世界で一気に集めたディズニーが、同時にCTV広告市場に参入してきました。ネットフリックスが広告配信のテックパートナーにマイクロソフトを連れて来たことからも、大手資本がCTV広告市場に目を向けていることがわかります。米テレビ局側(NBC、ABC、CBSやFOX)は、視聴率調査会社のニールセン(日本で置き換えるとビデオリサーチ社)だけに頼らず、ネット上を含めた自社番組の視聴数計測(CTV配信を含めた計測)に着々と乗り出しています。これも巨大な波であるネットフリックスとディズニーが、ついにCTV広告枠に同時に押し寄せて来ることを踏まえ、テレビ局の自社コンテンツの優位性を保つための準備といえます。このことは広告主目線で見ると、より好都合な状況が生まれます。自社が(広告を通じて)寄り添いたいと思える「超」人気番組がオンライン上で「爆発的に増える」ことを意味するからです。広告会社(エージェンシー)目線でも好都合で、「ブランドにとって都合の良い、高単価の広告枠」が急増する日の到来です。ネットフリックスの広告単価はCPM約65ドル(約9千円)ともいわれています。既にネットフリックス上での広告配信は開始されており、グローバルな大手広告主による広告投下に対して、データの検証(価格と補塡の調整)が行われています。
SNS動画広告との区分ネット経由でのネットフリックスとディズニーらの番組コンテンツに連動する広告枠では、これまでの単なる「フォロワー数の多いユーチューバー動画やインフルエンサー動画」の広告枠どころの騒ぎではない価値が一気に生まれます。実は、この分野での日本での理解は制度やインフラの違い(遅れ)も手伝い、非常にのんびりとしています。現時点では、民放の地上波番組のオンライン配信が、ようやくティーバ経由でほそぼそと同時視聴されている枠に広告が挿入されている程度です。この負の状況を利用して、日本市場ではグーグル/ユーチューブ、フェイスブック/インスタグラム、ティックトックなどが中心となって自社誘導へ向けて啓蒙している様子がうかがえます。そのことを報じる記事やセミナーの量が格段に多いために、あたかもスマートテレビに配信されるSNS動画広告のことを「CTV」と安易に呼んでしまう状況です(「コネクテッド・テレビ局広告」と称するほうが、初期理解の浸透には役立つでしょう)。番組の視聴度データではなく広告出稿後の購買行動のデータが重要「テレビのD2C」ともいえる、ネットフリックスやディズニープラス(とアマゾンプライムビデオ)に代表されるプレミアムなコンテンツ配信企業は、地上波局の視聴データとは比較にならないネット経由のデータの蓄積と掛け合わせができます。ネットフリックスの年間のコンテンツ制作費は約2兆円規模ですし、NBCユニバーサルもディズニーも、グループ合算した年間のコンテンツ投下費用は同じく2兆円規模のプレミアムコンテンツが「CTV広告枠」に流れてきている状況です(1日換算で割り算すれば、ネットフリックスやNBCユニバーサルは約60億円を毎日プレミアムなコンテンツに投下している計算です)。一方で視聴データはスマートテレビ(デバイス)側からも技術的には収集可能です。受像機側(スマートテレビ)に組み込まれている技術のAutomaticContentRecognition(ACR)によるCTV経由視聴のデータが急増する時期が予想され、ソニーは日本市場で先回りした感があります。ソニーがアベマTVやシャープなどの受像機メーカーと提携している座組は、まだまだ「制作費の薄い」「ソーシャル」コンテンツ向けの広告をデジタル配信ばかりに束ねているSNS広告の延長のようです。2022年のソニーグループ(SMN)の調査によると、日本のコネクテッドTV広告の市場は650億円と試算されています。この規模の「小ささ」は、「ネットフリックスやディズニー、在京テレビ局」の大きな予算が入る前と捉えておきましょう。今後大手コンテンツ企業の投資によるプレミアムな番組と連動するデータが積み上がり、日本のCTV市場が拡大します。
コネクテッドTV広告は個人よりもデバイスターゲティングCTV広告に関しては、まだまだ日本での認知が少ないだけに、「広告配信の方法」「どのDSPから買い付けができるか」「プログラマティック配信」などの送信側のほうに関心が向いています。けれども、考えておきたいのは「データ」の部分であり、そのデータがどれほどブランド企業にとって(ユーザー自身にとって)役に立つか、役に立つデータを構築するかの部分です。デジタル&ネット回線配信のネットフリックスとはいえ、過去に積み上げていたデータは「より良い番組を作る」制作側都合のデータでした。そのデータをもとに、自動車の広告やCPGブランドの広告を出して、どれほどの売れ行きにつながるかとか、ブランド価値が上がるか、という視点のデータではありません。これらは今後新規で積み上げが始まります。「InnovidInvestorDay2022」のデータによると、アメリカではこれらの視聴データは、ACRからのシグナルでの広告配信をサムスン、VIZIO、Rokuなど(モニター機器を伴う事業)から集める方法が市場の多くを占めています。つまりCTV広告とは言い換えると、個別の人に向けての広告配信というよりも、世帯の中にあるデバイス(例:リビングの50インチのスマートテレビ)に向けての配信広告です。スマートテレビのチャンネルがサッカーの試合を選んだならACRが反応してピザの広告を配信するとか、地元チームのスポーツブランドの広告を配信するなどがその一例です。
広告配信の向こう側「ショッパブル(CTV広告とオンライン購買)」このデバイス(主にスマートテレビデバイス)に向けてShopNowボタンやQRコードを付けた「ショッパブル(Shopable)広告」の市場は、購買データとの掛け合わせからブランド企業側に注目されている分野です。モバイル広告やSNS広告でも既に存在しているショッパブル機能ですが、CTV広告の場合は、複数のデバイス(スマートテレビを見ながらスマホの操作)で視聴している点と、スマホやSNS上では見られなかったプレミアムなコンテンツとの協業という点で、大きくかつ新しい市場です。プレミアムなコンテンツとは、ネットフリックスのドラマや映画だけでなく、テレビ局発の朝のニュースやお天気などの番組視聴も含みます。これらは毎日の行動であり刻々と変化する(プレミアムな)コンテンツです。さらには熱狂的なスポーツのライブ中継などもプレミアムなコンテンツです。これらの放映視聴の時間帯は、日々の生活の中に「一定量」存在していますが、これまでの広告出稿には事前予約(例:テレビ局広告枠のタイム買い、スポット買い両方)が必要でした。この部分をCTV広告配信は機動的な買い付け(送信)を可能とすることでシェアが拡大しています。さらにテレビ広告予約の変更(やキャンセルや、素材の差し替え)がデジタル上で可能であるCTV広告の特性は、企業予算が引き締めの時期(外出自粛の時期)において、一気にアメリカの広告主企業からの需要が引き上がりました。たとえば(旧)リニアテレビの広告ならば放映枠の事前予約の変更が難しいのに比べて、CTV広告の申し込みならばプラットフォーム上での自社主導での操作の幅が広がります。これは旧来のテレビ広告枠の「スポット広告」よりも、さらに細かい機動力の選択肢が出てきたイメージです。アメリカでの大手広告主は、「テレビ」という巨大インパクトを持つメディアに新たに登場したCTV広告へのフレキシブルな予算の割り振りを、急遽「マーケティング全体で根本的に」見直す程のインパクトがありました。CTV広告と「リテールメディア」との融合このCTV広告との相性が良い大きな事業分野はリテール部門です。ウォルマートやイオンなどの店舗リテール(小売り)業から、アマゾンやShopifyに代表されるオンラインリテール業に至るまで、自社をプラットフォーマー(RMN:RetailMediaNetworks)とたとえて、販売商品企業側に広告出稿を募る比率が高まっています。これらの店舗業が自社をプラットフォーマーとして「閉じて」しまうと、どうしてもグーグルやフェイスブックに代表されるウォールドガーデン以下の小さいリーチに留まる(スケール化しない)というやむをえない制限がありました。このリテールメディアが、巨大な数のデバイスを持つCTV広告と接続すれば、コネクテッド広告経由で物販につながる期待と、その新データが蓄積されることと重なって、大きな市場カテゴリーに成長することが予想されます。自社店舗や自社アプリに閉じていない、さらに広い売り場(買い場)を広げることになります。グーグルやフェイスブックが未進出のデバイス市場への広告リーチの可能性です。あるいはQVCやディノス、ジャパネットたかたに代表される通販・テレビショッピングの事業も、これまでは「チャンネル」や「番組」「アプリ」という固定枠に閉じていましたが、CTV広告という機動力のある枠に事業視野が広がるのも間もなくです。巨大な予算や資本が移動しつつあるCTV広告の分野については、配信の技術側やユーチューブなどのSNS側に左右されず、「テレビ局コンテンツとリテール業との関連データ」という目線で先行投資の例が待たれるところです。
COLUMN広告とAI本書では2030年の広告ビジネスを予測することも命題のひとつです。今とまったく違う景色が見えるとすると、それは広告ビジネスにAIが入り込むことでしょう。「売り先軸へのシフトに売り物の作り方改革はできるか」を論じた箇所で、従来の人による作業で広告主ごとに「密に擦り合わせての売り物(サービス)作り」では経営が成り立たないことに言及しました。「売り物作り」改革とは、広告プランニングと実施(エグゼキューション)の革命的省力化、および従来人間技ではできないことを実現する技術革命のことです。逆にいえば革命的な広告のプランニングとエグゼキューション改革が行われなければ、本書で述べているビジネスモデル移行はかなわないかもしれません。クリエイティブからAIが入り込む筆者はこれまでAIとまではいかなくても、RPA、機械学習による広告業務の省力化は想定していました。それの対象は最初、現在多くのオペレーション要員を必要としている運用型のデジタル広告の現場のはずでした。前述のように、自動入札システムは汎用として開発されましたが、各プラットフォーマーが自社サイト内の広告枠には専用のシステムを開発して公開するので、プラットフォーマーごとの対応になっています。一番労力のかかるところですから自動化のニーズは高いのですが、なかなか進みません。次にエグゼキューションということでは、マス広告の自動化、自動プランニングと自動送稿です。さすがにオンライン送稿は進みましたが、このオペレーションも基本人の手によるものです。プランニングに関しては初歩的なものはあっても代理店内の業務システムに過ぎません。これらを使うとかえって業務量は増える傾向にあります。代理店はクライアントへの説得力強化のためにデータに基づいたプランニングシステムを作ってきましたが、決して省力化が目的ではありませんでした。期待されるのはこのようなシステムの延長線上ではありません。広告人は自身の存在が危ぶまれるようなシステムを作ろうとはしませんから、現場に任せていては革命的な仕組みはできないでしょう。こういうものは代理店でも広告主でもないサードパーティが作り、直接広告主に提供しようとするときにやっと代理店が腰を上げることになるはずです。さて、そのニーズからまずは既に述べた業務にAI的な仕組みがスタートするはずでした。しかし、2022年になってからどうも様相が変わってきました。もしかすると、クリエイティブから革命が起こるかもしれません。「アート」の要素のあるクリエイティブにこそ先にAIが入り込むかもしれないのです。そう思わせるのは、イギリスのスタートアップのスタビリティAIが誰でも無料で利用できるように公開した「ステーブル・ディフュージョン」やアメリカのオープンAIの「ChatGPT」などの登場によるものです(ChatGPTの話題は、ここでは置いておきましょう)。これらは、「テキストを入力すると画像が生成される」というとても画期的なものです。誰でも使えるので試してみると楽しいです。しかし、こうして生成される画像の多くは、今まで人が作ってきたものとはまったく違うものです。人の手ではできないものといっていいでしょう。それがアートやクリエイティブの世界に多大な影響を与える可能性があります。広告クリエイティブも真っ先に影響を受けるかもしれません。それも、まずはノンバーバル(言語系ではない)ものからになるでしょう。ブランドのロゴやキービジュアルなど、ブランドを特徴づけるビジュアルをAIが創造することになるでしょう。この技術だけでも「アートをお金にするプロ」の広告人たちが指をくわえているはずもなく、AIクリエイティブファームが複数立ち上がることでしょう。AIによる自動化はマーケティングをつまらなくする?巨大なデータの中から、相関係数の強いものを見つけてくるのはAIが最も得意とするところです。しかし、これらは基本相関関係であって、因果関係ではありません。そしてAIは相関の強いところ(つまり効果が期待できるところ)に広告配信対象やクリエイティブメッセージを寄せていく自動化がなされるはずです。これは結果を最大化することを目的に広告運用をAIがすることです。こうなると、なぜそうなるのかを問うのはあまり意味がありません。因果関係が知りたかったら人間が分析してもいいのですが、そもそもAIが最適化していて、何かを見つけ出しても実行はAIがやっているので、人間が余計な手を出す余地はありません。その結果、人間がやるマーケティング領域はどんどん上流になります。しかしAIはその上流も浸食していきます。下流を最適化するにはマーケティングの上流を最適化しなければならないので、AIはエグゼキューションを最適化するためにマーケティングのほぼ全領域を支配するでしょう。はっきりいってマーケティングはマーケターにとってまったくつまらないものになるかもしれません。広告クリエイティブもまた人による創造の喜びを奪ってしまうかもしれません。それでもビジネスなので、ビジネスの最適化のために人の楽しみや喜びなどは意味がありませんから排除されるでしょう。広告やマーケティングにおけるAIの登場はかなり唐突であり、いきなり核心部分に入ってくるのではないかと筆者は考えています。そうなると広告代理店の中でもプランニングなどを行う比較的給与の高い人員を減らしていくことになりそうです。むしろ現場の実行部隊のほうがまだ必要とされます。筆者はそんな時代に現役でなくて良かったなと思うくらいです。
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