第2章なぜ5Sが継続できないのか?5Sを導入するとなったとき、社内で反対する声はあまり聞かれません。
しかし、いざ実行となると、1ヵ月、2ヵ月と経つうちに、いつの間にやら……というところが大多数です。みんなが「いい取り組みだ」と評価し、なおかつ取り立てて難しいこともない5Sが、続かないのはなぜなのでしょうか。その理由を探っていきましょう。
◎たかが5S、なのにできない
○……いつの間にかやらなくなる、が大多数
第1章では、5Sのメリットばかりをお伝えしてきました。
しかし、正直なところとしては、「5Sが大切なことだとは十分認識しているのだけれど、なかなか徹底できる状態にまでたどり着かない」という悩みを抱えているリーダーが多いことも事実です。ただ、私にしてみれば、これは極めて不思議な現象です。
私がコンサルティングの現場、講演など、数多くの場面で「5Sに取り組みましょう」という話をした際に、「5Sなどやっても意味がない」という異論や反論をいただくことは全くと言ってもいいほどありません。
つまり、ほとんどの方に「5Sに取り組んだほうがいい」という話にはご賛同いただいていると考えられます。それにも関わらず、いざ5Sに取り組み始めると、どうでしょう。
まさに“三日坊主”という言葉通りに、取り組み自体が時間の経過とともに雲散霧消していき、いつの間にか誰も5Sという言葉すら発しなくなってしまう事例が散見されるのです。これは、決して少数のダメな組織を指している話ではありません。
正確な数字を把握しているわけではないので、あくまでも経験則になりますが、どちらかというと継続できない組織のほうが多数派なのではないかと感じます。
○……原因は組織特有のウイルスにあり
とはいえ、誤解を恐れずに言ってしまえば、たかが5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の話です。
あえて「たかが」という表現を使いましたが、要するに、実行することが難しくとても継続することができない、といった類いのものではないということです。
そう考えると、このたかが5Sを徹底できない組織が意外にも多いのは、組織特有の要因があると考えるほうが理に適っているのかもしれません。思い返してみると、5Sに限らずともよく耳にするコメントがあります。
「ウチの会社は、ほかの会社でうまくいってる活動だと聞くと、早速自社でもやってみようと飛びつくんだけど、どれもこれも全く続かないんだよね」「最近流行の経営手法、考え方がすごく斬新だということで導入に踏み切ったんだけど、ちょっとウチの会社には合わないみたいだな」よかれと思って始めた新たな取り組みが「続かない」、「ウチの会社には合わない」、と頓挫してしまう状況は、まさしく5Sにも通じるところがありますね。
このように、新しい取り組みになかなか馴染むことができないのは、多くの組織が知らず知らずのうちに感染してしまっているウイルスのようなものがあるのではないかと、あるときから思うようになりました。

○……取り組みが進む・進まないの違いはどこに?
それには、次のような理由があります。
日本でもM&Aが盛んになってきた時期に合わせて、企業再生や組織変革といったテーマのコンサルティングがかなり増えました。
そういったテーマでお呼びいただく企業の状況は、少し間違えばたちまち倒産してしまうほどに悪化していることも少なくありません。
よって、そのような状況下にある企業で働いている社員の皆さんは、もちろん高い危機意識を持っています。
「何とか会社がいい方向に向かって欲しい」、「そのために自分ができることがあれば、積極的に取り組むことで会社に貢献したい」、個々人と話をすると、多くの方がそんな思いを抱いているのです。
だからこそ、スタートの段階では、「必ず再生できる」、「きっと変われる」というイメージを持ちながら改革に着手していきます。ところが、どうでしょう。
現状を打破するために実行しようと決定した新しい取り組みの中には、もちろん順調に進むものもありますが、一方でほとんど進まないものも出てきます。
しかも困ったことに、進まない取り組みのほうが、より重要度の高い取り組みとして位置づけられているものであることが圧倒的に多いのです。そして、この進まない取り組みには共通する特徴があります。
それは、「今までの仕事のやり方とは異なるやり方をしなければならない」ような取り組みです。
○……担当顧客を手放せない営業マン
1つ事例を紹介しましょう。
再生案件としてコンサルティングに携わった中堅の食品卸D社は、営業マン1人当たりの生産性を平均で1.2倍に高めなければ、なかなか営業利益を出すのが難しい状況でした。
コンサルティングに入る以前に、コスト削減として考えられるあらゆる打ち手を講じてきており、もはや売上を上げる以外に手はない、というイメージです。
ほとんどの営業マンは、月間の取引額が決して大きくない小規模な顧客を数多く抱えていました。
営業マンは、受注活動はもちろん、納品、集金といった一連の役割を全て担っており、取引額の多寡に関わらず全ての取引先に同様のサービスレベルを提供していたため、結果として非効率な活動に陥っていたわけです。
そこで、一定以上の取引規模が見込めない顧客に関しては、営業マンの担当先から外す流れを推進することになりました。
受注業務に関しては事務担当が電話フォロー等でカバー、納品や集金に関しては、専任のアルバイトや外部業者へ移管など、現場の従業員にとってはかなり大きな変化です。
狙いは、営業マンが受注のために顧客と接触する時間を確保し、インストアシェア(取引先内での自社製品の取扱金額)を向上させることであり、これらの一連の取り組みが営業利益の増加につながることを誰もが理解していました。
つまり、総論では誰からも異論の出ない取り組みだったのです。ところが、いざ具体的に行動に移そうとするとなかなか前に進みません。
「この顧客は自分が面倒を見ないと取引がなくなる可能性がある」という理屈で、自らが担当し続けようとする営業マン。
営業マンの立場で考えると、たとえ取引額が小さくても、自分の営業成績に上積みされてきたものです。
よって、自分の担当顧客を手放せば手放すほど、(すでに見込んでいた)数字がいったんなくなってしまうことになり、それは避けたいという意識が、本来の目的とは異なる行動へと向かわせることになります。事務担当も同様です。
「今までやってきた業務をこなすだけでも手一杯なのに、電話フォローとはいえ新たな負担が多くなってしまうととても手が回らない」
という意識が先に立ってしまい、担当する顧客を最小限にとどめておこうという行動になってしまうのです。結果はどうなるでしょう。
当然、推進しようとした取り組みは中途半端なものになってしまい、狙っていた成果は望むべくもありません。
このD社のケースでは、再生案件ということもあり、そういった状況を早期に把握し、全国の営業拠点を回りながら、「移管すべき顧客が着実に移管されているか」を細部までチェックし、半年近くの期間はかかりながらも、強引に推し進めました。
○……真犯人は、“形状記憶ウイルス”
しかし、ここまで財務的に追い詰められていない通常の状態の企業の場合、同じようにはいかない可能性が極めて高いのではないかと思うのです。
このことを肝に銘じておくためにも、先ほど「ウイルスのようなものが」という表現をしましたが、総論賛成の新しい取り組みが、各論に落とし込む中でもとの木阿弥に戻ってしまうことを、“形状記憶ウイルス”と呼ぶことにしています。
形状記憶ウイルスはどんな組織にも潜んでおり、5Sが徹底されにくいのも、まさにこのウイルスが原因になっていると思わざるを得ない場面に遭遇します。
よって、本章では、5Sという総論賛成の新しい取り組みに対し、この形状記憶ウイルスが発症してしまう理由を、深堀りしていきたいと思います。
成果に反映されるまで時間がかかる
○……つい“お金になる”業務を優先しがち
さて、「5Sを徹底できている会社はすべからく儲かる」というのが本書の主張です。すでに第1章を読んでいただいた皆さんであれば、ある程度は理解していただいていることかと思います。
ところが一方で、「5Sを徹底できない会社は儲からない」という理屈は、一見すると当てはまりそうな気がするものの、必ずしもそうではないと考える方々のほうが多いのではないでしょうか。
実際、5Sが徹底できている会社と比較すると、ごくごく一般的なレベルしかできていない会社であっても、利益を上げている会社はたくさんあります。
世に出てくる会社のほとんどが、ほんのわずかな期間で倒産してしまっているという環境下で、生き残っている会社には当然理由があり、1番大きな理由としては、利益を上げるビジネスモデルがあるかどうか、にあるでしょう。
もちろん、得られる利益の大小はありますが、いずれにせよ利益を上げられるビジネスモデルであることは確かです。
つまり、利益を出している会社であれば、そのビジネスモデルの一端を担う業務こそが、利益につながる業務だということです。
○……オフィスで5Sは効果があるのか?
そう考えたときに、5Sがビジネスモデルの一端を担う業務として意識されているのは、工場、あるいは一般消費者が来店する店舗、といった職場環境に当てはまりそうです。
工場や店舗といった職場における5Sは、ビジネスモデルというよりも最早ビジネスを行なう上での大前提という意識が定着しています(とはいえ、実行段階におけるレベルの差は当然ありますが)。
しかし、オフィス業務という職場環境になると5Sへの意識は大きく異なります。
なぜならば、工場や店舗といった職場と比較すると、5Sを徹底することが利益につながるというイメージが持ちづらい業務がほとんどですし、そもそも大前提だと言ったところで、その必然性も考えづらいというのが実態だと思います。
基本中の基本である整理・整頓を例に考えてみましょう。
まず、整理とは「不要なものを捨てること」です。「不要なものを捨てると儲かる」と直接的につながればいいのですが、それはかなり無理がある話ですね。
不要なものを捨てることで不要なものが占めていたスペースが空き、ちょっとオフィスが広くなる、ただそれだけの話です。
仮に、結果として、賃貸で借りているフロアが1つ不要になるくらいのインパクトがあれば、コスト削減=儲かるという図式にはなりますが、あくまでも理屈上の話であり、現実的には無理があると言わざるを得ません。
次の整頓とは、定物定置、つまり「決められた場所に決められたものがある」状態を維持することです。必要なものを使うときに、それがどこにあるのかがわかる状態になっているため、探しものをする無駄な時間が省略できます。
たとえば工場のラインやファストフードの厨房等の業務であれば、わずかな時間でも無駄な時間を削減できれば、次の工程に早く取りかかれ、結果としてアウトプット(製品や商品)が増える、つまりダイレクトに儲かるイメージにつながりますよね。
ところが、一般的なオフィス業務においてはどうでしょう。省略できた時間を、利益につながるような業務に振り向ければよいという理屈は理解できるものの、やはり明確に利益につながるイメージは持ちづらいものですね。

○……5Sは利益に直結しない=優先順位が低くなる
そもそも5Sは、業務における大前提だと考えられているような工場・店舗といった職場でさえ、徹底できていないところも多々見受けられるのが実態です。
整理、整頓に限らず、清掃、清潔、躾、いずれにしても、それが直接的な利益につながるような活動とは言い難いのが現実です。
どう考えてみても、ビジネスモデルの一端を担っている、つまり通常行なっている業務のほうが優先順位の高い業務であり、5Sにはそこまでの価値を見出せない、これが普通の認識になってしまうわけです。
そのように考えると、成果を出したいと真面目に考えている従業員が多ければ多いほど、「成果に直結する仕事をしよう」ということになるのかもしれません。
本来、ビジネスにおいて成果を出すことは決して単純ではありません。「これをやれば必ず成果が出る」「これをやればすぐに成果が出る」といったうまい話などないことも誰もがわかっていることです。
ところが、5Sに限らずとも、「これをやるとよさそうだ」という総論賛成の新しい取り組みに対しては、大きな期待を抱いてしまいたくなるのです。
成果がすぐに表れないと、この期待は「やっぱりそんな簡単にはいかない」という失望めいた思いに変わりやすいものです。
ここに、“形状記憶ウイルス”がはびこる余地が出てきてしまい、結果として5S活動が雲散霧消してしまうという残念な事態を引き起こすのです。
会社内の温度差が5Sを阻む
○……全社員で実行してこそ意味がある
5Sが直接会社の利益に結びつくイメージができないからこそ、続かない。これが1番大きな理由ではありますが、加えて、組織全体を挙げて取り組まなければ、大きな効果を得られないことも5Sを妨げる大きな壁です。
「今日から5Sを始めよう!」と声をかけて、一部の気がきく人たちだけが実行したところで、何の意味もありません。
もともと親から厳しく躾けられて育った人は、「5S活動」などとわざわざ言われなくても、当たり前に実行できる素養を持っているものです。
そのような人は、5Sに関する指示が特にないような環境下であっても、自分の身の回りに関しては整理・整頓します。
ただ、そうなってくると、自分から進んで掃除できるか、自分の周囲を綺麗に保てるか、ということになり、もはや組織のパフォーマンス向上とは関係のない話になってしまいます。
5S活動の対象は、当然、オフィスの職場環境全体でなければなりませんし、実行するのはそこで仕事をしている全員でなければなりません。
○……気がきく人が損をする!?
ここが極めて難しい点でもあります。なぜならば、言葉としての5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、普通に教育を受けてきた日本人であれば誰でも理解できますが、実行段階における善し悪しの判断基準は、個々人で大きく異なるからです。
たとえば、デスクで缶ジュースを飲みながら仕事をしていると、デスクに缶を置いた跡の水滴が残ることは誰にでもわかっています。しかしながら、その対応方法は人によって様々です。
目についた水滴の跡をすぐに拭き取る人もいれば、そもそもそれ自体を防ぐためにコースターを用意する人もいます。
あるいは全く気にならないか、気にはなるけど平気でいられるのかはわかりませんが、何も対処しない人もいるわけです。
この判断基準の違いは、いわゆる気がきくタイプの人に、より大きなストレスがかかってしまいます。
「5S活動を全員でやろう」というかけ声でスタートするものの、自分が気になるところを全く気にしない人もいるわけですから。
真面目に取り組もうと思えば思うほど、自分がやる作業は自ずと増えていき、気にしない部類の人が何もしないのが目につくようになってしまいます。しかも、気にしない部類の人は、普段の行動も気がきかないものです。
「あとで掃除することになるんだから、なぜその都度片づけられないの?」「なぜ、使ったものをもとに戻さずに、そのまま放置しておけるの?」そんな突っ込みを入れたくなるような場面に、多々出くわすことになります。

○……評価制度に5Sを組み込み、ウイルスを予防しよう
そもそも、組織における個々人の評価を、5Sの取り組み度合いによって行なうケースは決して多くはありません。
ましてや、「これから5Sを徹底しよう」と始めたばかりの組織であれば、まだ手探りの段階であることから、評価にまで反映されるのは稀でしょう。
だから、気がきく人たちは、だんだん馬鹿馬鹿しくなってしまい「自分だけやっても損だ」と思うようになってしまいます。
このように、「向こうは得してる」、「こちらは損してる」といった損得が表面化してしまうような段階になると、“形状記憶ウイルス”にかかりやすくなっています。
損得にストレスを感じるくらいなら、何もやらずに何も感じていなかった以前のほうがまだマシだということで、もとに戻ってしまうわけです。
一口に評価と言っても、正式な評価制度のもとで行なわれる評価だけではなく、普段の行動を褒め称えるような評価もあり、そのほうがよほど効果的なケースも多々あります。
そういったコミュニケーション上の評価にまで気が回っていれば、ウイルスに侵されるリスクも減少するはずなのですが、そもそも気がきかない人が放置されているような組織に対して、「気が回らない」と指摘するのも酷な話かもしれません。
しかし、このようなことで5S活動が頓挫してしまうのだとしたら、それは非常にもったいないと思いませんか。
手段の目的化による“やらされ感”
○……イヤイヤやっても効果は上がらない
5S活動でもっともあってはならない、というよりもその状態で続けても意味がないと言ったほうがいいのが、取り組んでいる現場に“やらされ感”が漂ってしまって、誰もがイヤイヤやっているような状況です。
ここで言う“やらされ感”とは、「何のためにやっているのかわからない」、「こんなことをやっても意味がない」という思いを持ちながらも仕方なくやっている状態で、要するにやる気を持って前向きに取り組んでいない、ということです。
“手段の目的化”という言葉をよく耳にされると思いますが、“やらされ感”が蔓延する組織では確実に“手段の目的化”が起こっています。
特に、「5Sを徹底できる会社はすべからく儲かる」という主張をそのまま鵜呑みにして、「5Sは、きっと利益につながる活動のはずだから、ぜひ取り組もう」といった打ち出し方で拙速に始めてしまうと、“手段の目的化”を引き起こしてしまう可能性が高いでしょう。
なぜならば、本章の1項でも触れましたが、5S活動そのものがダイレクトに利益につながるというイメージは、頭ではなんとなく理解できても、実感を伴わないからです。
○……本来の目的を忘れてしまうと、やらされ感が漂い出す
選択した手段で目的に近づきそうなイメージが持てない場合、(決して5Sに限った話ではないですが)“手段の目的化”に陥ってしまいがちです。
たとえば、営業日報や業務日報のようなレポートがうまく運用されていないケースを考えてみましょう。
日報の本来の目的は何でしょうか。1日のやるべきことを、事前にスケジュールに落とし込む過程の中で、優先順位を確認しながら特に重要な業務を滞りなく進めるという目的がありますね。
また、1日の業務が終了した際には、予定通り進んでいるもの、遅れているものを明確にしてその対応を考えることも目的だと言えるでしょう。
営業日報であれば、クライアント別の営業進捗状況、受注の成功事例や失注の失敗事例を報告し、メンバー間で共有することも大切な目的の1つです。
3つほど挙げてみましたが、いずれの目的についても誰もが重要だと考えるものではないでしょうか。ところが、うまく運用されていない組織の日報を見ると、「予定と実施したことのみが記入されており状況がわからない」、運用に関しては「日報の提出率が低い」、結果、「多くの社員は、日報など意味がないと考えている」といった状況に陥ってしまっています。
つまり「日報を書かされている」という認識、“やらされ感”があるというわけですね。
○……必要だとわかっていても、できないのが人間
なぜ、このような状況に陥ってしまうのでしょうか?「日報を書く」ことは、目的を達成するための手段であり、当初は誰もが「やるべきこと」だと合意しています。
それにも関わらず、時間の経過とともに、いつしか「日報を書く」ことが目的と化してしまうのです。
書くことが目的になってしまった結果、「意味のない日報を書く」習慣がついてしまい、それを続けるうちに、「日報など意味がないけど業務命令だから仕方なく書く(書かされている)」、あるいは「意味がないから提出もしない」、という悪循環に陥ります。
意味のないものにしてしまっているのは自分自身であるにも関わらず、そこには気づくことができずに会社や上司の責任だと考えてしまう、これも“形状記憶ウイルス”発症につながりやすい状態です。
この日報のケースは、「5Sを徹底すれば儲かる」と比較すると、よほどその必要性をイメージしやすい目的が設定されているにも関わらず、“手段の目的化”が起きてしまうというのが、実に興味深いところですね。

一見、全く異なる部類の取り組みだと感じるかもしれませんが、「5Sを徹底すれば儲かる」、「日報でスケジュール管理や情報共有をする」、いずれにも共通するポイントがあります。
それは、目的を達成するための手段はほかにも色々あるということです。そして人は、もっとも効果的で、もっとも簡単に目的を達成する手段を選択するものです。決して「それが悪い」ということではなく、当然そうなるという話です。
日報で言えば、スケジュール管理は、普段から慣れ親しんでいる自分の手帳、あるいはスマホ等のツールのほうが使いやすいでしょうし、情報共有は会議やミーティングの場で直接話をするほうが手っ取り早いと考える人も多いでしょう。
このように、組織全体のパフォーマンスを向上させるための取り組みとして定着させたかったものであるにも関わらず、いつしか個々人の都合が優先されてしまうことで滞ってしまうのも、“形状記憶ウイルス”の発症例です。
みんながいいね!と言うことこそ続かない
○……やり始めてから対処しても「時すでに遅し」
以上のように、“形状記憶ウイルス”は、組織のちょっとした隙をついて、新しい取り組みが推進されることを邪魔します。
「やってるけど、成果につながらない」「誰もやっていない(レベルが低い)から馬鹿馬鹿しい」「こんなことやっても意味がない」もう1度、1つひとつの事例を振り返ってみると、十分認識していただけることだと思いますが、どんな組織であっても普通に起こり得る話です。
そして、このウイルスの怖いところは、症状が出てしまってから対処をしようとしても、なかなか完治に至らないことにあります。よって、大切なのは、そもそも発症させないという考え方のもとに進めることです。
新しい取り組みを開始する前に、この取り組みを推進することを阻む障害があるとしたら、それはどんな障害なのかを全て洗い出した上で、それらの障害を克服する対応策をあらかじめ考えておかなければなりません。
もし組織に導入したいと考えた新しい取り組みが、賛否両論飛び交うことが予想されるようなものであれば、提案する担当者は、「どうやってこの提案を通そうか」ということにきっと頭を使うことでしょう。
さらには、賛否両論が飛び交うような提案だからこそ、提案が通った後の実行難易度も当然高いと考えて、円滑に推進する方法を事前に考え抜いた上で臨んでいるのではないでしょうか。
このようなスタンスが、難しい提案を通すときだけに限らず、新しい取り組みに関しては全て必要だと考えるべきなのです。
特に5S活動に関しては、前にも述べているように、そもそも総論としては反対されにくいものです。いざやりましょうという提案を出したあとに、「そんなことをやる必要はない」といった話になるケースは少ないと思われます。
ということは、容易に提案が受け入れられてしまっていることこそが、活動を開始したあと、“形状記憶ウイルス”によってもとの木阿弥になってしまう大きな要因なのかもしれません。
たとえ、すんなり通った提案であっても、頓挫してしまうリスクに対応しながら継続させるための工夫が必要だということですね。

○……ひとまず近いところに目的を定める
本章では、「なぜ5Sが徹底できないのか」をテーマに掲げ、主な要因である以下の3つを取り上げながら説明してきました。
「本当に儲かるのか、実感が得られない」「実践レベルの差から出る損得勘定によるモチベーション低下」「手段の目的化から生じる“やらされ感”」よく考えてみると、いずれの例を取ってみても、「当初定めていた目的をいつしか見失ってしまう」ことが、問題の根底にあるような気がします。
「5Sを徹底すれば、すべからく儲かる」はイメージとして合意できるかもしれないけれども、「5S=儲かる」になるとロジックとしては少し遠い、その遠さを埋めきれていないがゆえに、形状記憶ウイルスを発症させてしまう、ということではないでしょうか。
そうだとすると、「儲かる」という5Sから考えると少し遠い目的だけではなく、もっと近くに見える目的が明確になっているかどうかが、形状記憶ウイルスを予防する、つまり、組織全体で5Sを推進していくための肝になると思います。
次の章では、その点を考えていきましょう。
第2章「なぜ5Sが継続できないのか?」のポイント
- みんなが「いいね!」と言いながら実行できないのは、組織特有の原因があるから
- 今までとは違うやり方をする場合において、特に実行できない傾向がある。それは主に“形状記憶ウイルス”のしわざ
- 工場や店舗では5Sが業績に結びつくとイメージしやすいが、オフィスはイメージしづらいからこそ実行できない・続かない
- 成果に直結する仕事をしたい、というのが働く人の本音。5Sは優先順位が低く見えてしまう
- 社員全員でやらないと組織のパフォーマンス向上につながらない
- 個人の良識に任せたところで、不公平感を生むのみ。社内での評価基準の統一が不可欠
- 「何のために」が抜けると、やらされ感が漂う。「目的」を忘れないための工夫や心構えを
- 形状記憶ウイルスにも予防が1番効果的!取り組みを始める前に予防策を講じておこう
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