第7章OKR導入事例インタビュー
組織の状態、目的、戦略が違えば、当然OKRの運用も違ってきます。違ってくる中でも、「わくわく」「巻き込み」「振り返り」の3つのポイントを外さず、自社に合わせて磨き上げていかなければいけません。本章では、OKRを組織風土に合わせたうえで磨き上げていった実例をご紹介いたします。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社は、OKR運用ツール「HITOLinkパフォーマンス(ヒトリンクパフォーマンス)」を開発、提供しています。本プロダクト開発チームのマネジャーである浅沼氏は、多くの企業のOKR導入を支援すると同時に、自部門でもOKRを運用しています。多くの会社のOKRに関わりながら、自社のOKR運用を磨き上げている氏の経験は、OKRの運用に苦戦している方、OKR導入を検討される方にとって大きなヒントとなるでしょう。***
OKRありきではなかった奥田御社がどういう会社で、浅沼さんがどのようなことをされているのかを初めにお聞かせいただけますでしょうか?浅沼パーソルプロセス&テクノロジーは、人材派遣や人材紹介、アルバイト求人情報サービスなどを手がける総合人材サービス、パーソルグループの「ITOセグメント」中核会社です。事業内容としては、システム開発から運用、プロダクトソリューションなどを提供するほか、顧客課題に応じたビジネスプロセスのアウトソーシングやコンサルティング、RPAの導入支援を行っています。私が担当しているのはHITOLink(ヒトリンク)というHRTechサービスです。もともと、採用の応募者管理や選考管理を行う採用管理システム・HITOLinkリクルーティングというサービスを展開していたのですが、入社後の目標管理までサポートしていくためにOKRに着目して、HITOLinkパフォーマンスというプロダクトをリリースしました。私は、2018年4月に、HITOLinkパフォーマンスのプロダクトマネジャーに着任して、主にエンジニアのマネジメントを行っています。奥田採用管理から始まって、入社後の目標管理をやっていく中でOKRというものに着目されたというわけですね。OKR以外にもさまざまな手法が選択肢にあったと思いますが、OKRに着目された理由はどのようなところにあるのでしょうか?浅沼当時、グローバル企業がパフォーマンスマネジメント、つまり内発的動機づけによるパフォーマンス向上にフォーカスし始めていた頃で、これまでの目標管理制度や人事評価の弊害が注目されていました。サービスの企画に取り組み、ユーザーインタビューを重ねていく中で、何度かOKRというワードに触れることがあり、目標管理だけでなく、目標を通じたコミュニケーションやフィードバックを促進できるような仕組みであることが分かってきたため、OKRに振り切ってプロダクト開発を行いました。奥田OKRありきで始めたのではなく、目標管理の理想の形を描いていった中でOKRに出会ったということなんですね。浅沼はい。私たちの会社も、6か月ごとに目標設定をして評価をするという一般的な人事評価制度なのですが、エンジニアにとっての目標が、タスクを追うだけのものになりがちで、顧客に提供している価値や目的の共有、社員の成長という点がないがしろになっているのではないかと考えるようになりました。そのため、私たち自身も利用して効果的であるという視点を持ちながらユーザーインタビューを重ねました。OKRはボトムアップ型で設定奥田御社でも今OKRを運用されているということですが、実際に運用してみて何が変わりましたか?浅沼今までは、トップダウンで上から情報や目標が降りてくる形が多かったのですが、OKRの運用を始めることによって、ボトムアップ型になり、社員からの提案が多くなってきたと実感しています。HITOLinkパフォーマンスというプロダクトの新機能開発でも、1on1の対話の中で出てきた改善案を取り入れたりと、ボトムアップで上がったアイデアが採用されたという経緯があります。チームメンバー一人ひとりの、プロダクトを良くしよう、価値を深めていこうという意識がとても高まったと思います。奥田OKRの設定は、実際にはどのように行ったのですか?浅沼上の階層から順番に設定しています。HITOLinkの事業部→各プロダクト→プロダクトごとのセールス、マーケティング、CS、開発のそれぞれのチームでOKRを設定していきます。奥田具体的には、プロダクトマネジャーがプロダクトごとにOKRを作り、それを理解・把握したうえで、各チームがボトムアップで作ってすり合わせる、という進め方でしょうか?浅沼はい。全員で2時間くらいのOKR設定のワークショップを開き、横のつながりを確認しながら精度を高めていっています。プロダクトのOKRを担うのは私ですが、その際も自分一人で決めるのではなく、セールスやCSなど、すべてのチームの意見を集約して、プロダクトのOKRを作っています。OKRには納得感が非常に重要だと感じているからです。奥田OKRを設定するとき、わくわくして挑戦的で魅力的な目的を決めるのが結構難しいと言われることが多いのですが、何か工夫していることはありますか?浅沼目的の設定には、ディスカッションを重ねるのが非常に重要だと思っています。私自身もまずは何個か案を出しますが、みんなで考えることでさまざまなアイデアが出てきて、それらを洗練することで、チームとしてわくわくするOKRができると思います。たとえば、私だと「競合製品に負けない」と表現するところを、「競合製品を駆逐する」というような強い言葉が出てくることがあったりと、言葉のチョイスひとつとっても、チームとして何が一番しっくりくるか、それは何故なのか、などディスカッションを重ねることで、魅力的なOKRが設定できると思います。奥田たしかに、目的を考える段階でメンバーを巻き込んでいくことは大切ですね。具体的には、どのような目的を設定しているのでしょうか?浅沼プロダクトのOKRでいうと、「パフォーマンスマネジメントのマーケットを創り、圧倒的なポジショニングを確立する」という目的を設定しています。先を見据えて、競合製品に負けない、という方向も考えましたが、私たちがまず行うべきはマーケットを創っていくことだろうということで、マーケットを創出するという野心的な目的を設定しました。(次図参照)
運用の鍵は、ウィンセッション奥田設定のあとは運用になると思いますが、御社ではどのように運用を行っていますか?浅沼運用は基本的に大きく3つです。四半期でOKRを設定すること、定期的に1on1を実施すること、ウィンセッションを設けることです。奥田1on1は具体的にどのように行っていますか?浅沼私たちは、プロダクトとそれに紐づく各役割(セールス、マーケティング、CSなど)のマトリクス型の組織運営をしています。役割ごとにリーダーがいるので、リーダーにはメンバーと週次で1on1を実施してもらっています。それとは別に、横串を通すような形の1on1を月次で行い、部署を横断したコミュニケーションが取れるようにしています。奥田ウィンセッションはどのように実施しているのでしょうか?浅沼ウィンセッションはプロダクトごとに実施しており、まずはOKRの進捗を振り返ります。その後、おそらくこれは私たちのオリジナルのやり方だと思うのですが、「いい仕事を発表し合う」ということを行っています。よくある話ではありますが、セールスなどのビジネスサイドと開発チームとが、お互いに実際には何をしているのか分からないため、相互理解が進まない、ということも初期にはありました。そのため、たとえばセールスが行った「いい仕事」を発表してもらって、開発側が「こういう仕事をしていたんだ」と知ることで共感が生まれたり、「こういうこともできるよ」といったアドバイスを引き出せたりしないかと、チーム内の相互理解とコラボレーションを目的に取り入れています。開発側は、実際に自分たちが作ったプロダクトをお客様がどのように感じているかなかなか分からないのですが、そういったVOCなどもフィードバックできて、コラボレーションが増えていくというのがOKRのメリットだと思います。また、承認・賞賛するときには個人にフォーカスを当てるというのも工夫している点です。奥田巻き込みと承認・賞賛は大切ですね。そうすると、ウィンセッションが運用の鍵になってきそうですね。浅沼はい。実は、OKRの運用を始めた当初は、ウィンセッションを実施していませんでした。しかし、OKRの浸透度が薄いままで、振り返りが形骸化してきているという課題があり、ウィンセッションを始めました。1on1という対個人の場以外に、定期的に全体で振り返る場を設けることは、チームとしてOKRを活性化するポイントになっていると思います。OKRはリーダーを育てる奥田OKRを導入することで、これまで目標だけを追いかけていた現場リーダーが目的を考えるようになり、リーダー自身が成長していくという効果も大きいと感じていますが、御社ではいかがですか?浅沼たしかにそうですね。OKRを導入したことで、実際に私自身もこれまで以上に目的や戦略を考えるようになりました。直近の四半期だけではなく、半年後、1年後にどのような状態になっていると楽しいかという観点で考えていこうとしたときに、OKRのフレームで考えています。奥田チームはこういう目的のためにがんばるんだというのを決めることは、チームはもちろんリーダー自身のモチベーションになります。次世代の経営者を育てるという意味でも、ミッションやビジョンを中間管理職や現場のマネジャーが考える習慣がつくという点で、OKRはすごくいいなと感じています。浅沼なるほど。そういった点には気づいていませんでしたが、たしかにそのとおりですね。個人OKRは設定しなくてもいい奥田運用面で苦労した点や、失敗したことはありますか?浅沼たくさんあります(笑)。最初は、マネジャーだけでOKRを決め、それをメンバーに展開していました。しかし、それでは、メンバー自身も納得感がなく、内発的な動機づけにもなりませんでした。結果、形骸化してしまいました。そのため、まずはすべての情報をオープンにして、メンバー一人ひとりを議論に参加させ、OKRの設
定に関わってもらいました。そこの意識ができてきたら、次は、自分たちがより多くの価値を提供し、かつ、わくわくするためにはどんなOKRだったらよいのかということです。OKRを改善していく感覚をつけるまでに、しばらく手探りが続きました。また、セールスとエンジニアなど、役割ごとに設定方法は工夫した方がいいと思っています。たとえば、エンジニア組織では、個人のOKRを設定しづらい、どうもフィットしない、ということに気づきました。エンジニア組織は、チームとして、コラボレーションの結果何を生み出すか、どんな機能を作ってリリースするのかを追っていかないといけないので、個人の役割ごとに達成度を測ってもあまり意味がなかったのです。奥田では、エンジニアの個人OKRはどのような形にしているのでしょうか?浅沼チームのOKRはありますが、個人のOKRは設定していません。チーム全体で同じ目標を追う、という形にしています。同じ運用は一つとしてない奥田OKRの仕組み自体はすごくシンプルなので、いかに運用していくかというのが大切ですね。最初は本に書いてあるとおりにやっていたかもしれないけれど、運用していく中で自分の組織にあったものに変えていく。その会社独自のOKRになっていく決め手は何だと思いますか?浅沼OKRというフレームワークの根底にあるマインドセットが非常に重要だと思っています。社員のモチベーションやパフォーマンスの向上にフォーカスしたときに、会社の文化やビジネスモデルに合わせて自分たちなりの運用スタイルを確立していくことが重要だと考えています。奥田そうですよね。最初のお話にあったように、OKRにたどり着くというのが本来の姿で、OKRを導入することが目的ではありませんね。まさに、運用をいかにカスタマイズするかが肝になってきそうですね。評価にはどう活かす?奥田多くの場合、目標管理がボーナスの査定や人事評価に使われていますが、OKRは人が成長して組織が成長していくことを主目的とした運用になってきますね。人事評価の部分はどのように行っているのでしょうか?浅沼人事評価は、MBOがベースになっています。弊社の中でOKRに取り組んでいるのは、おそらくHITOLinkの事業部だけなので、現状では全社の人事制度の枠組みの中で動いています。ただ今後は、OKRに対してどれだけコミットし、どれだけ行動できたか、という点は評価に組み込んでいこうと思っています。奥田OKRで人事評価をする際の納得感はどのようにしたら得られるでしょうか?浅沼フィードバックのログをきちんと残していくことと、直属の上長だけではなく、周囲からもリアルタイムにフィードバックしてもらうことだと考えています。人事評価をする際に一番重要なのは、評価者間での認識合わせ、つまり、どんなことがよかったか、次はどうコミュニケーションをとったらいいかなどの共通認識を、マネジャー間でも合わせることだと思います。導入の際、絶対外してはいけないポイントとは?奥田OKRを検討している、導入していく人たちへのアドバイスをお願いします。浅沼私たちも試行錯誤しながら運用してきましたが、OKRを設定して定期的に振り返るだけでは、単なるフレームワークになってしまうと思っています。OKRのメリットは社員同士のコラボレーションを創出したり、組織内のコミュニケーションを促進できることにあります。そういったところの楽しさや、働くうえで大事にしたいことなどを意識しながらOKRを導入してほしいと思っています。数字にこだわるだけではなく、ウィンセッションで承認・賞賛をして、どんな人が仕事をしているのか、どんな価値観を持っている人がいるのかを発表し合うことで仕事をする楽しさが生まれ、仕事以外でのコミュニケーションにもつながるので、OKRを導入して、そのあたりも感じてほしいと思います。奥田失敗しがちな点、気をつけたほうがいい点はありますか?浅沼やはり、MBO(達成率による人事評価)と直結させることは避けたほうがいいです。そして、ウィンセッションなどの場を使ってチーム全体で共有・賞賛し合うこと。この2つのポイントが非常に重要だと思っています。その他の部分は自分たちがやりやすい形やわくわくするようなやり方にカスタマイズして、自分たちなりのOKRを創っていただければと思います。
おわりに日本の多くの企業で行われている目標管理は、組織の課題を解決していないばかりか、問題をより複雑にしている。このように私は考えています。複雑化した問題を解くためには、一つひとつ解きほぐしていくことが必要です。現状の目標管理は、「組織として成果をあげること」(共通の目的に向かうこと)と、「あげた成果を分配すること」(人事評価)という本来別々のものを、同じ仕組みで実施しようとしているのです。どちらがより重要な問題であるかはともかく、成果があがらないと分配することはできないので、まずは成果をあげることが先決でしょう。「組織として成果をあげること」をシンプルに考えると、共通の目的を達成する能力と意欲の高いメンバーを育て、相乗効果を強めて組織力を上げていくこと、と言い換えることができます。だからこそ本書では、「わくわく」する共通の目的に向かうこと、高い目標に挑戦することなどを繰り返し強調してきました。残念なことに、これらと人事評価を絡めようとすると、成果をあげることに集中できないということが起きてきます。だからこそ、成果をあげることと成果を分配することとは分けて考えることが望ましいのです。全社的に定められた人事評価制度は、報酬と直結するだけに現場リーダーが変えていくのは困難ですが、人事評価とは切り離されたシンプルな仕組みであるOKRは、シンプルであるがゆえに、リーダーが自分のチームに取り入れていくことが可能です。目的を決め、重要な結果指標を決めることは、OKRを導入しているかどうかにかかわらず、リーダーシップを発揮していくために求められることだと言えます。フィードバックを含めた運用も同様です。はじめにで紹介した宮崎駿監督の言葉を借りれば、OKRは「理想を持ちながら現実を動かす」仕組みであり、それこそが組織づくりの神髄とも言えます。本書を読んで興味を持っていただけたなら、ぜひ小さくてもよいので、OKRのエッセンスを取り入れたマネジメントに挑戦してみてください。ただし、OKRのどのエッセンスをどのように取り入れるかは、組織を取り巻く状況を考慮したうえでリーダーである「あなた」が決めなければなりません。「あなたの組織」にあった取り入れ方となるように試行錯誤を繰り返すことで、「あなたの組織流」のOKRに磨き上げられ、強い組織へと成長していけるでしょう。最後に、私なりの「リーダー」への想いにもう少しだけお付き合いください。経営者から中間管理職の立場に変わり、改めて感じたことがあります。それは、メンバーである自分がリーダーの言葉から多くを読み取っていたということです。心のこもっていない上辺だけのリーダーの言葉に不信感を抱いたり、上司を前に取り繕うようなリーダーの言葉に落胆した経験が、みなさんにもあるはずです。一方で、優れたリーダーの言葉は、メンバーを鼓舞する力を持っています。魂のこもった本気の言葉にメンバーは動かされます。決意を持った一貫性のある言葉で、信頼は深まります。職業柄、多くのリーダーにお会いすることがありますが、優れたリーダーは、必ず言葉に力があります。表現の巧拙ではなく、本気度が言葉に力を与え、メンバーだけでなくリーダー自身も突き動かしているのでしょう。私がOKRに最初に出会ったときに魅力を感じた理由の一つも、リーダーの言葉の力でした。組織づくりを行うためにさまざまなことを学びチャレンジしてきましたが、単なる数値管理ではなく、リーダーの言葉までも仕組みにするOKRに出会った瞬間、探し続けていたものにようやくたどり着いたという感覚に襲われました。リーダーが本気で「わくわく」する目的を言葉にし、その言葉を繰り返し続けるための仕組みとして、OKRは最適だと考えています。日本人は、言葉で表現することが苦手だと言われています。しかし、この仕組みを使えば、魅力的な言葉を一貫して伝え続けることができるでしょう。「わくわく」するリーダーの言葉に動かされるメンバーが増えれば、間違いなく組織は強くなります。ここまで本書にお付き合いいただいた読者のみなさま、本当にありがとうございました。本書では「組織」「戦略」「目的」「目標」など、誰でも知っている言葉の意味にこだわりました。本書の言葉でみなさまが少しでも心が動かされ、みなさまの組織が強くなるお役に立つことができれば幸いです。本書の企画をご支援いただいた株式会社VALCREATIONの藤村雄志さま、NPO法人企画のたまご屋さんの山本洋之さま、取材にご協力いただいたパーソルプロセス&テクノロジー株式会社の浅沼祥さま、大島亜衣里さまをはじめとするみなさま、そして、つたない執筆活動をご支援いただいた株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンの堀部直人さま、本当にありがとうございました。日本に「わくわく」する組織を増やしていくためにこらからもがんばっていきます。2019年4月株式会社タバネル代表取締役奥田和広
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