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第7章継続する方法——24時間「いまここ」にいつづける

第7章継続する方法——24時間「いまここ」にいつづける神話▼シングルタスクは職場で実践することだ。

現実▼シングルタスクは生活のあらゆる場面で実践することだ。

「自分にはこれだけできる」と思っていることより1つ少ないことをするよう心がけなさい。

——バーナード・マネス・バルークみなさんには職場で、やりがいがあり有意義な仕事に没頭し、充実した時間をすごしてほしいと願っている。

また、オフのときは、本当にリラックスしてオフの時間を満喫してほしいとも願っている。

そのために、家でもシングルタスクを実践してほしい。

大半の人は、タスク・スイッチングの悪影響をどれほど受けているか、その実態を理解していない。

もしかするとあなたは「自分は気が散らないようにうまくやっている」と思っているかもしれない。

だが周囲の人はあなたに対して「日々の習慣を見なおすべきだ」と思っているかもしれない。

あるいは自分でも内心、「1つ、2つ習慣を変えれば、ずっとよくなるかもしれない」と、すでに気づいているかもしれない。

そう考えているのなら、ぜひ〈オフの時間の「シングルタスク度」自己評価表〉に答えてもらいたい。

居心地のいい場所に腰を下ろし、楽しみながら答えていこう。

オフの時間の「シングルタスク度」を測定するあなたのオフの時間のすごし方について質問する。

それぞれの質問に対する頻度を考え、0〜3まで、あてはまるスコアを選んでほしい。

0から3までのスコアは、次の頻度を参考にすること。

0=まったくない、1=まれにある(めったにない)、2=ときどき(月に1〜3回)3=よくある(週に1回以上)オフの時間の「シングルタスク度」自己評価表1.家族があなたに話をしているのに、ちゃんと聞いていなかったせいで、相手を怒らせることがありますか?2.自宅に仕事を持ち帰りますか?3.同時に複数のデバイスを使用しますか?4.家族や友人と外出した先でも、もっぱら手元のデバイスをいじって時間を費やしていますか?5.顔と顔を合わせて話すかわりに、SNSでコミュニケーションをとっていますか?6.有意義な会話をいっさいせずに、家族との夕食をあわただしくすませたり、心ここにあらずの状態で夕食を終えたりしますか?7.ほかのことを考えて食事の支度を中断し、そのまま忘れてしまうことがありますか?8.用事があってその部屋に入ったのに、なぜその部屋にきたのか、思いだせないことがありますか?9.パソコンを操作しながら電話で話すことがありますか?10.歩きながら、運転しながらなど、ほかのことをしながら食べ物を口にし、その食べ物にまったく注意を払っていないことがありますか?「スコア」を評価する各項目のスコアを足していこう。

その合計により、あなたが私生活でシングルタスクを実践できている度合いがわかる。

・スコア0〜10の人〈レベル1〉おみごと!すばらしい。

よく頑張っています!・スコア11〜16の人〈レベル2〉いい線いっています悪くないですよ。

・スコア17〜23の人〈レベル3〉夢をあきらめないでもっと「いまここ」に目を向けよう。

いまの時間に集中しよう!・スコア24〜30の人〈レベル4〉みごとに気が散っています本書を信じ、シングルタスクの手法をいくつか実践しよう。

努力は結果にあらわれる!食事も会話もつねに1つに「集中」する1つのことにどれほど没頭できるかは、あなたの健康や対人関係に影響を及ぼすうえ、どれだけ生きがいを感じられるかということにも関わってくる。

たとえば食事の際には、食材の噛み方にまで影響が及ぶ。

食事をしながらマルチタスクを試みると、過食や消化不良をひき起こす。

食生活や健康の専門家は、食事のあいだは食べることに意識を集中させれば満足度が高くなると述べている。

よく噛むだけでなく、噛むあいだに間を置けば、カロリー摂取を抑えることもできる。

「シングルタスク・イーティング」で減量も可能になるのだ!だれかと一緒にいるときに、ソーシャルメディアでほかの人と交流していると、目の前の相手に「あなたのことなど、どうでもいいと思っている」というメッセージを無言のうちに送ることになる。

また、どうでもいいようなことに私生活の多くの時間を割いてしまうと、生きがいを感じにくくなるし、人生に充実感を覚えられなくなる。

心理学者アブラハム・マズローなら、「そんな真似をしていると、自己実現に成功する確率が低くなる」と言うだろう。

もてる能力を最大限に発揮できなくなるのだ。

〈オフの時間の「シングルタスク度」自己評価表〉の質問は、大きく2つのカテゴリーに分けられる。

あなた個人に関する質問と、対人関係がからむ質問だ。

10問のうち5問は「あなたがやるべきことにきちんと取り組めているかどうか」を、残りの5問は「対人関係のよしあし」を評価している。

次の表で、どちらに関する質問かを確認してもらいたい。

表を見ながら、質問を振り返ってみよう。

タスク・スイッチングは、あなたの対人関係に悪影響を及ぼし、あなた個人の目標達成の邪魔をしているはずだ。

「帰宅直後の1時間」の工夫〈オフの時間の「シングルタスク度」自己評価表〉の結果に不満があるのなら、どうにかして状況を改善しなければならない。

どうすれば前向きな変化を起こせるだろうか。

ちょっとした隙間時間を利用し、とても大切な人——自分自身も含め——と心を通わせよう。

たとえば帰宅した直後の1時間はスマホを玄関に置いておくなどの工夫をしよう。

また毎週短くてかまわないので、自分が興味をもっていることに専念する時間を設けよう。

あなたの家族のシングルタスクはどうなっているだろう。

車で旅行にいくとき、家族はそれぞれが自分の携帯をいじっていないだろうか?こうした移動時間を利用して家族関係を良好にするにはどうすればいいだろう。

家族心理学者によれば、家族が有意義な会話をするのに車内は理想的な場所だ。

アイコンタクトをする必要がないので、ティーンエイジャーの子どもたちもそれほど居心地の悪い思いをせず、心をひらいて話ができる。

方法はほかにもある。

同僚が次のような話をしてくれた。

「もう10代後半になった子どもたちがいる家族がいてね。

その家族はすごく仲がいいんだよ。

だから、その秘訣を訊いてみたんだ。

そうしたら、仲良しの秘訣は風呂だっていうのさ。

毎晩、家族と——全員とではなくても——一緒に入浴するそうだ。

湯に浸かると、リラックスして、浴槽からでたくなくなる。

おまけに、そうした気分を邪魔するものはない。

その家族は風呂場でずいぶん深い話までする。

だから一緒に夕食をとるより、一緒に風呂に入るほうがずっといいと、かれらは結論をだした。

だって食事中は、塩をとってくれと頼む程度の会話しかしないし、たいていだれかが料理を取り分けたり、皿洗いをしたりしているからね」このやり方にはさまざまなバリエーションが考えられる。

朝、あるいは夕方、家族と一緒に散歩にでかける。

ピクニックにでかける。

毎週、家族で話す時間を設け、近況を報告しあう。

戸外で一緒に腰を下ろす。

暖炉やろうそくを囲み、マシュマロを焼く。

家族との食事を楽しみたい人は、スマホをそばに置かないこと!私はこれまで、家族一緒に食事をとりながら、それぞれがスマホの画面とにらめっこしている光景を、いったい何度目にしてきたことか。

これは、自分の行動を「意識」して「選択」するという問題だ。

「しぶしぶ」の行動を排除する「完璧な子どもを育てる完璧な親」であることの重要性を強調するタイトルの本が、巷には溢れている。

ブラッド・サックスの『ほどほどの子ども(TheGoodEnoughChild)』(未邦訳)は、そうした作品とは一線を画している。

「ほどほどの親」というタイトルの章では、とにかくできるだけよい結果につながりそうな選択をすることを勧めている。

この子育ての手法は、職場を含め、どんな場所でも通用する。

この本には、フルタイムで働くワーキングマザーが登場する。

彼女は子どもを寝かせる前に、本を1章分、かならず読み聞かせることにしていた。

ある晩、彼女はくたくたに疲れきっていて、子どもたちに本を読んでやるだけの気力が残っていなかった。

それでも、子どもたちを失望させたくなかったため、彼女は読み聞かせを始めた。

だがすぐに彼女はいらいらして、子どもたちをきつく叱ってしまった。

なんだか自分が負け犬になったような気がした。

よかれと思ってしたことなのに、事態は悪くなるいっぽうに思えたという。

このエピソードを紹介したあと、著者は基本的な、だが深遠な教訓を示している。

それは、次のようにまとめられる。

あなたが本を読みたいのなら、読めばいい。

読みたくないのなら、やめればいい。

どちらのやり方を選んでも、まったく問題はない。

ただし、けっして選んではならない方法がある。

それは、本を読む気力など残っていないのに、しぶしぶ読み聞かせをした結果、いらだって負け犬のような気分になることだ——。

つまり、意思決定のポイントは2つだ。

〈選択する。

そしてブレずに実行する〉次回はべつの行動を選んでもかまわない。

頑固になる必要はない。

ただ、ある行動をとると決めたら、真剣にその行動を続けよう。

そのほうが、ああすればよかった、こうすればよかったと後悔しつづけるよりよほどいい。

いま自分にとっていちばん大切なことはなにかを考え、それに誠実に取り組もう。

このことは、本書で何度か述べてきた。

とにかく、頭に叩き込んでもらいたい。

呪文のように唱えよう。

自分はいま、本当はなにをするべきなのか?自分にとっていちばん大切なものはなにかをよく考え、決定しよう。

たとえば、あなたがソファに寝転がり、「ザ・シンプソンズ」のアニメをのんべんだらりと観たい気分になっているとしよう。

だが、きょうは友人の誕生日で、彼女の好きなスイーツを買いにでかける予定を立てていた。

そんなときは、いちばんラクな道を選ぶのではなく、大切なものを尊重する道を選ぼう。

そうしつづけるうちに、「より大切なこと」を選べば、結局は「満ちたりた気分になる」ことがわかるようになるはずだ。

私はなにも、つねに自己犠牲をともなう道を進むべきだといいたいわけではない。

ただ、いまこの瞬間、自分にとってどんな選択がまっとうだと思えるかを、そのときの状況に応じて自問してもらいたいのだ。

そうするうちに、やがてほとんど迷わずに良い選択を重ねていけるようになるはずだ。

いま、あなたはなにをおいても、「とにかく寝たい」と感じているかもしれない。

四六時中そう思っているのでなければ、これもまた健全な願望だ。

仕事より、一家団欒より、とりあえずいまは睡眠を優先するからといって、あなたが家族や仕事のことをないがしろにしているわけではない。

むしろ、その反対だ。

きちんと自己管理をすることで、周りに対してもっと貢献できるようになるのだから。

いま——あるいは今夜——することをいったん決めたら、同時にほかのことにこそこそと手をだして脱線してしまったり、やっぱりほかのことをすればよかったと後悔したりしてはならない。

なにかをすると決めたら、それがなんであれ、一心不乱に取り組もう。

さもなければ、あなたは自分に誠実に生きるチャンスを逃す。

アメリカの画家ジョージア・オキーフはこう述べた。

「じつは花のことをまともに見ている人なんていない。

花はあまりにも小さく、私たちには時間がない。

そして見るという行為には時間がかかる——友人をつくるのに時間がかかるように」この言葉を読むと、いまいる場所に真の意味で存在すべきだと、あらためて自戒させられる。

それに「よりよい決断をしなくては」という思いを新たにさせられる。

それでも、いつも迷ったりヘマをしたりしているのだが。

「ささやかな例外」が失敗を招く私は「一点集中術の伝道師」であると自負しているが、それでもときおり愚かにもタスク・スイッチングを試みてしまう。

そんな「犯罪現場」を目撃したら大声で注意してほしいと、家族や友人には頼んである。

確固とした信念をもっていても、長年の習慣を変えるにはやはり監視や警戒が必要なのだ。

これは「ささやかな例外」だと認めてしまう言い訳は無数にある。

「道に迷っちゃった」「途中で渋滞につかまっちゃって」「いいことをしたわけだし」「これくらいのことならどうにかなる」などなど。

べつにこれ以上、事態がよくなる(あるいは悪化する)わけじゃなし——本書を執筆中、私自身、何度もそう自分に言い訳した。

本書の編集作業をしていたとき、「ヨガのレッスンを受けながら原稿を見ればいいのでは」と考えたことがある。

そして章ごとに束ねた原稿を持ってレッスン

に参加した。

だが、このさもしい行為はほんの数日で終わった。

さまざまなポーズをとりながら原稿に目を通すなんて不可能だったからだ。

だから原稿を見るのはやめてヨガだけに集中した結果、私は十分にワークアウトの恩恵にあずかることができた。

そしてすっかりリフレッシュして仕事に戻り、能率よく編集作業もできるようになった。

どれほど新米のインストラクターでも承知しているように、本気でヨガに取り組むのなら、1時間のレッスンに心身ともに集中しなければならない。

そもそも、私がレッスン中に盗み見ようとしていたその原稿は——みなさんお気づきのように——シングルタスクをほめちぎっているのだ。

複数のタスクを同時にこなそうとすると、タスクを1つずつこなしていくよりも結局は時間がかかる。

以後、私はヨガのクラスに原稿を持参していない。

「いまを生きろ」という格言があるが、それは「生涯を通じてシングルタスクを続けなさい」という意味である。

1つに専心することで「幸福度」が高まるシングルタスクは、与えることをやめない贈り物だ。

それどころかデヴィッド・ゴールドマン博士によれば、「幸福になる鍵は、いまという瞬間にどっぷりとひたることにある」という。

シングルタスクと幸福には相関関係があるのだ。

科学者たちの説明によれば、人はなにかに専心しているときのほうが充足感を覚える。

シングルタスクにより能率が上がることは本書でさんざん述べてきたが、それだけでなく、シングルタスクを実践していると、人はより深い幸福を感じられるのだ。

2010年、ハーバード大学の研究者たちは成人の被験者2250人の機嫌のよさや、いまの作業にどのくらい集中しているかなどを、ランダムな間隔を置いて評価した。

すると、仕事に熱心に取り組んでいる人ほど、幸福を実感していることがわかった。

同様に、すぐに気が散ってしまう人ほど幸福を感じる度合いが低いことも判明した。

心理学者ヴィクトール・フランクルが生きていたら、この説になにかつけくわえたかもしれない。

彼は、「どんな状況に置かれていようと充実した人生を送れる人はなにが違うのか」を、生涯をかけて考えてきた。

そして、2つの心のはたらきと幸福のあいだに強い相関関係があることをあきらかにした。

その2つの心のはたらきとは、「人生の一瞬一瞬に生きる意味を見いだす能力」と「結果にとらわれて自滅する生き方を放棄する能力」である。

こんにち、快適な生活を謳歌している多くの人たちが、動画や写真などで楽しいできごとを記録することに夢中になっている。

と同時に、そうしたできごとをきちんと体感しそこねている。

あなたは「休日の一瞬一瞬を楽しむ」「人生の大きなできごとをしみじみと味わう」「五感をとぎすませて体験する」といったことより、「未来のいつかのためにスナップ写真をせっせと撮る」ほうを優先していないだろうか?そんなあなたの行動は、自らの信念にかなっているといえるだろうか?五感を澄まし、「特別な時間」に入る2007年、世界的に著名なバイオリニストのジョシュア・ベルは、ある実験に協力した。

彼はワシントンDCの地下鉄に乗り、ランファン・プラザ駅で下車すると、バイオリンケースを広げ、チップをもらえるように床に置いた。

そして数百万ドルもの価値のあるバイオリンを45分間、弾きつづけた。

足をとめて演奏に耳を傾ける人はほとんどいなかった。

ベルはチップで32ドル稼いだ。

とはいえ、よく立ちどまり、演奏に聴きいる世代がひとつだけあった。

子どもたちだ。

多忙なおとなたちは、場合によっては1分あたり1000ドル支払わなければ聴くことができない音楽家の演奏を無料で楽しむまたとないチャンスを逃したのである。

つねにあわただしくすごしていると、感動したりよろこんだりする能力が失われてしまう。

だがシングルタスクを本気で心がけ、「いまここ」に意識を集中させていれば、思わぬタイミングで意識を向けるべき現象が起こったとき、それに気づくことができる。

注意が分散した状態で周囲の世界を眺め、なにがあろうとさっさと通りすぎていると、人生に一度しかないような絶好の機会を逸するのだ。

脳科学者のグレゴリー・バーンズは、作家のピーター・カミンスキーと話した際、「ハイパーリアリティ」、すなわち次元を超えた現実について、カミンスキーが次のように説明したと綴っている。

「心から楽しんでいる時間は、ぼくにとって『特別な時間』なんだ。

そこにはべつの現実がある。

そのなかで、ぼくは生きることを満喫し、完全に集中している。

一瞬一瞬が、はじけて果汁をしたたらせる完熟した果物のように感じられるんだ」バーンズは「そうした状況では次元を超越した瞬間が生まれ、脳裏に焼きつく」と述べている。

いまという瞬間を心から味わう練習を重ねていけば、「生きることを満喫」できるようになる。

次元を超えた「特別な時間」を体験する能力を身につければ、幸せを実感すると同時に、もてる能力をもっと発揮できるようになる。

オリンピック選手の集中力2014年、ロシアのソチで開催された冬季オリンピックでは、至高体験を経験できるはずの状況で、心ここにあらずになるという恰好の例が見られた。

想像してもらいたい。

あなたが人生をかけて取り組み、努力を重ねた結果、ついに報われる日がやってきた——オリンピックチームの一員に選ばれたのである。

そして、その瞬間がおとずれた。

開会式で光り輝くあなたの姿を見ようと、世界中が注目している。

ところが複数の国の代表選手たちは、この栄誉ある瞬間にひたってはおらず、観客に手を振りかえしてもいない。

かれらはただ手元のデバイスをのぞきこんだり、動画を撮ったり、自撮りをしたりしている——あとで、このときのことを「思いだす」ために。

いまという瞬間をとらえたいという願望は理解できる。

とはいえ、周囲ではプロのカメラマンたちが高性能の機材でその場をとらえているのだ。

あとで、そこから好きなものを選べばいいではないか!ソチの開会式での光景は、人が「いま」という瞬間を存分に味わうことができない状況を、如実にあらわしていた。

多くの選手たちが、目の前で起こっているできごとを全身で感じることなく、デジタル機器のほうに目をやっていた。

会場にいたオリンピック選手の半数以上が、至高体験を味わう機会を逸しているように見えた。

「いまここ」にいなさい、と禅の導師は私たちを諭す。

たとえ、皿洗いといった家事をしているときであれ(私にはなかなか実行できないが)。

なぜ、あれほど多くのオリンピック選手が、国を代表する誇りを覚えつつ世界中の精鋭に囲まれているという奇跡のような瞬間を慈しむことより、周囲の光景を撮影するほうを優先したのか、理解に苦しむ。

かれらは、いまという瞬間を心ゆくまで味わうという至福——いわば「シングルタスク・ハイ」——を感じるチャンスを逃したのだ。

エネルギーを1つに向ければ「失敗」も成功に変わるそんななか、ひとりの選手が逆境にめげることなく、見事にシングルタスクを実践してみせた。

フィギュアスケート全米選手権優勝者、ジェレミー・アボット選手は、男子ショートプログラムの最初の4回転トウループで転倒し、フェンスに激突した。

身体は負傷し、気持ちは大きく動揺していたが、アボットは必死の思いで立ちあがるとふたたび滑りはじめ、万感の思いをこめた表情で演技を終えた。

大喝采のなか、見事な演技を見せたアボットは、のちにこう語った。

「少しも恥ずかしいとは思っていません。

ぼくは立ちあがり、プログラムを最後までやりとげた。

自分の努力を、あの状況で自分がしたことを、誇りに思います」ジェレミー・アボットは、意志の力と人間の品格を体現してみせた。

なぜ彼はあのような気概を見せ、かつ平静に演技をやりとげることができたのだろう?彼は身も心も100パーセント、シングルタスクに集中させていた。

フェンスに激突したあの瞬間のことを悔やみ、心身のエネルギーを分散させていたら、そのあとのすばらしい演技をやってのけることはできなかっただろう。

同様のことが「いまここ」にいる技術を磨くプロセスにもあてはまる。

シングルタスクを実践したいのなら、いくつかのテクニックを習得し、練習を重ね、

滑っている最中にフェンスに激突したあと、すぐに立ちあがる不屈の精神をもたねばならない。

没頭しているときこそ「充実感」をもてる日々の生活に追われていると、つい基本を忘れてしまう。

本書ではこれまで、シングルタスクの有効性をひたすら主張してきた。

神経科学者や心理学者の言葉を引用し、さまざまな実例も紹介してきた。

とはいえ、もっとも説得力のある証拠は、あなた自身の体験にある。

イライラしたり、やる気がまったく起こらなくなったりするのは、一度にたくさんのことをしようとした結果かもしれない。

あなたがもっとも創造性を発揮でき、成果をあげ、自分を誇らしく思えたのは、どんなときだろう?そのときあなたは、目の前の作業に没頭していたはずだ。

「シングルタスクの原則」を、再度、掲載しておこう。

〈一度に1つの作業に集中して、生産性を上げる〉心配無用。

あなたには十分に時間がある。

問題は、どんな時間の使い方をするか、だ。

さあ、外にでよう。

そして、この美しい1日を楽しもう……一度に一筋ずつ光線を浴びながら。

Pointシングルタスクをいつまでも「継続」する自己評価表を使い、オフの時間の「シングルタスク度」を測定する。

食事でも人との会話でも、すべてにおいて「一度に1つ」の原則を徹底する。

帰宅直後の1時間は、スマートフォンを離れた場所に置いておく。

「いま、いちばん大切なこと」を明確にし、1つずつ誠実に「実行」する。

まわりにも注意してもらい、「ささやかな例外」を認めない。

「1つのこと」に専心すると、充足感が上がり、幸福度も向上する。

目の前の作業に没頭することで創造性を発揮し「最大の成果」をあげつづける。

「時間管理」「生産性」「対人関係」が変わるあなたの周囲には、頑固なマルチタスカーがいるかもしれない。

そんな人に、どうすればシングルタスクのよさを説明できるだろう?私の周囲にも、はなはだしい思い違いをしている愛すべきマルチタスカーの友人がいる。

そんな人たちと実際にかわした会話の例を次に挙げるので、参考にしてもらいたい。

最初に、そうした友人がいかにもいらだたしそうに、口早に言った不合理な主張が並んでいる。

その次に、それに対して、私がシングルタスクの効果を伝えようと返した言葉を挙げる。

これを見ながら、あなたならどんな気のきいた返事をするかを自分なりに考えてみてほしい。

マルチタスカーの不合理な主張いま11時15分。

なのに、昼までに終わらせなくちゃいけない仕事が2つもあるんだ。

一度に1つのことだけに専念なんかしていられるか。

シングルタスカーの合理的な反論人間は、一度に1つのことしかできないようにできている。

タスクの切り替えばかりしていると、集中力を保つのは無理。

それどころか、約束の時刻までに満足のいく成果をますますあげられなくなる。

マルチタスカーの不合理な主張目の前の相手の要望に応じたいからと、ほかの人を待たせるのは不作法だし自分本位だ。

シングルタスカーの合理的な反論目の前の相手への対応より、マルチタスクを優先するほうがよほど無礼だし、相手の時間を軽んじていることになる。

マルチタスカーの不合理な主張自分とは直接関係のないことが話題になっている退屈な会議中に、返信が必要なメールに対応すれば、仕事の能率が上がる。

シングルタスカーの合理的な反論さまざまな研究結果を見ればわかるように、とりわけエグゼクティブの人たちは、そうした行為を意志と自制心の欠如のあらわれと見なしている。

マルチタスカーの不合理な主張私のところには1日に100通もメールがくるんだ。

マルチタスクをしなくてはやっていけない!シングルタスカーの合理的な反論能率よく多数の用事をこなすには、一度に1つのことに集中するしか方法はない。

マルチタスカーの不合理な主張会議の最中にメッセージにすばやく返信すれば能率が上がる。

あとでやらなくちゃいけないことを、1つ減らせるだろう?シングルタスカーの合理的な反論それは、とんでもなくいい加減な行動。

メッセージにお決まりの言葉でとりあえず返信するのは相手に失礼だし、会議中に突然質問されたとき、なにも答えることができなければ、あなたは信用を失うことになる。

マルチタスカーの不合理な主張マルチタスクをこなせないなんて、でたらめもいいところだ。

だって私は音楽を聴きながらエクササイズをするほうが、身をいれることができるもの。

シングルタスカーの合理的な反論片方、もしくは両方の作業が意識的な思考を必要としないのであれば、脳は2つのタスクを同時に処理することができる。

でも、これはマルチタスクにはあたらない。

マルチタスカーの不合理な主張マルチタスクをしなくちゃ、やっていけないんだよ。

一度に1つの作業だけに集中していたら、これだけたくさんの用事をこなすのは無理だ。

シングルタスカーの合理的な反論私には複数の作業を同時にこなすことはできないし、あなたにもそれはできない。

多数の用事をこなすには、一点集中術を実践するしかない。

マルチタスカーの不合理な主張私たちの仕事では、マルチタスクをある程度こなすのが当然だと思われているんです。

シングルタスカーの合理的な反論あなたは誤解している。

あなたに期待されているのは、成果をあげられる有能なプロであることだ。

マルチタスカーの不合理な主張チームミーティングのあいだ、ずっと集中しているなんて無理だ。

注意を向ける先を分散させるのが、これからのやり方だ。

シングルタスカーの合理的な反論ミーティングに集中しないでいると、チームの団結力が弱まり、チーム一丸となって大きな成果をあげられなくなる。

マルチタスカーの不合理な主張若者は、マルチタスクをうまくこなせる。

シングルタスカーの合理的な反論人間の脳は例外なく、シングルタスクに専念するようにできている。

年齢による違いはない。

マルチタスカーの不合理な主張私は実際にマルチタスクをこなしているし、同時にすべての作業に集中できている。

シングルタスカーの合理的な反論マルチタスクをしていると、かならず気が散る。

そうすると、いま手がけている作業にも、いま対応している相手にも、部分的な注意を向けることしかできない。

マルチタスカーの不合理な主張私は、作業に没頭したくない。

没頭すると、自分のまわりに壁をつくってしまい、周囲で起こっていることに気づかなくなってしまう。

シングルタスカーの合理的な反論似たような不安に「ムキムキになりすぎるのがこわいから、身体を鍛えたくない」というものがある。

だがそんな心配は無用だし、そういう人たちはそれを言い訳にしてぐうたらしているだけだ。

もしシングルタスクがとてつもなく得意で、時間の流れをすっかり忘れてしまう危険がある人は、あらかじめ制限時間を決め、アラームを設定しておけばいい。

※ここで最後に、マルチタスク信奉者のどんな主張にも反論できる言葉をお教えしよう。

〈シングルタスクは「時間」を有効活用し、「生産性」を上げ、「対人関係」を改善する〉さあ、あとは実践あるのみだ!

訳者あとがき仕事をしながら、人の話を聞きながら、子どもと遊びながら、スマホをチラ見する。

着信音が鳴ればすぐにメールやラインを確認する。

家では気がつくとパソコンを立ち上げていて、仕事や勉強をしようと思いつつも、気づいたらネットでさまざまなページを開いている……。

これでは1つのことに集中し、きちんと作業を終えられるはずがない。

生産性を上げることなど、夢のまた夢だ。

さらに相手の話をうわの空で聞いていれば、人間関係まで壊しかねない。

そんな状況の中でさまざまな情報の洪水に流されずに、日々の能率と生産性を大きく引き上げられる方法を説いたのが本書『SINGLETASK一点集中術』だ。

膨大な情報に悩まされ、やりがいを感じられない日々に焦燥感を覚えていた人がよほど多かったのだろう。

本書はアメリカ本国で出版されると一躍、話題の書となり、ドイツやスペインなど世界各国で翻訳され、大反響を呼んでいる。

マネジメントの世界的権威であるケン・ブランチャードは本書の方法について「ストレスが減り、能率が上がり、質の高い結果を得られる」と絶賛し、自己啓発の方法論で全米ナンバーワンとも評されるブライアン・トレーシーは、「本書は『時間管理』と『自己管理』についてあなたが生涯に読むものの中で最も重要な一冊になるだろう」とまで述べている。

そんな画期的な本を発表したのは、デボラ・ザックだ。

彼女はマネジメントや人間関係のスキルの専門家であり、コーネル大学ジョンソンスクール(経営大学院)の客員教員を15年以上にわたって務め、アメリカ教育省、メンサ、スミソニアン協会、ロンドン・ビジネススクール、オーストラリア・インスティテュート・オブ・マネジメントなど100を超える企業や団体に指導をおこなうなど八面六臂の活躍を続けている。

同時に複数のことをこなそうとする行為を「マルチタスクをする」と、世間では表現する。

でも、そもそも脳は複数のことを同時に処理できないので、2つ以上のことに注意を向けつづけているとむしろ脳機能が低下すると著者は説く。

とはいえ職場でも日常生活でも、私たちはマルチタスクをこなすことを期待されているし、こなして当然だと思われている。

自分の仕事を進めながらも、電話がかかってくればすぐに対応し、メールがくればできるだけ早く返信する。

締切りが同時のプロジェクトも複数並行して走っている。

日々、猛スピードで情報が渦巻くこのご時世、マルチタスクをせずに生活するなんて無理だ……そう思うのも無理はない。

だがこの状況を解決できる方法が1つある。

それがこの「一点集中術」だ。

一度に1つの作業だけに集中する「シングルタスク」によって、ストレスなく、最速で最大の成果を上げられる方法だ。

このシンプルな、けれどこのうえなく役に立つスキルを日本の読者が実践し、あしたから、いえ、いまこの瞬間から、日々の生活を変え、充足感を覚える一日をすごしてくださることを願っています。

本書の訳出にあたっては、ダイヤモンド社編集部の三浦岳氏から的確なアドバイスを頂戴した。

三浦氏が「一点集中術」を実践し、編集作業に集中してくださったおかげです。

厚く御礼申しあげます。

2017年8月栗木さつき

推薦書次に挙げる本を読むことをおすすめする(ただし、一度に1冊ずつ読むこと!)。

・『アイデアのヒント』(ジャック・フォスター著、青島淑子訳、CCCメディアハウス、2003年)・『あなたはどれだけ待てますか——せっかち文化とのんびり文化の徹底比較』(ロバート・レヴィーン著、忠平美幸訳、草思社、2002年)・『アンスタック!——あなたの行きづまりを解決する本』(キース・ヤマシタ著、サンドラ・スパタロ著、熊本知子訳、ベストセラーズ、2004年)・『生き残るためのあやまり方——ビジネスや人生の失敗を成功に導く、最良の5ステップ』(ジョン・ケイドー著、上原裕美子訳、主婦の友社、2010年)・『MBTIタイプ入門——タイプとストレス編』(ナオミ・L・クエンク著、園田由紀訳、金子書房、2007年)・『希望の見つけかた』(アレックス・パタコス著、有賀裕子訳、日経BP社、2005年)・『サードプレイス——コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(レイ・オルデンバーグ著、忠平美幸訳、みすず書房、2013年)・『ザ・ワーク——人生を変える4つの質問』(バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル著、ティム・マクリーン、高岡よし子監訳、神田房枝訳、ダイヤモンド社、2011年)・『自分のタイプを理解すればマネジメントは成功する』(デボラ・ザック著、坂東智子訳、SBクリエイティブ、2013年)・『人類が知っていることすべての短い歴史(上・下)』(ビル・ブライソン著、楡井浩一訳、新潮文庫、2014年)・『優れたリーダーは、なぜ「立ち止まる」のか——自分と周囲の潜在能力を引き出す法則』(ケヴィン・キャッシュマン著、樋口武志訳、英治出版、2014年)・『少しの手間できれいに暮らす——あなたを変える77の生活整理術』(デニース・スコフィールド著、小谷啓子訳、PHP研究所、2000年)・『タオのプーさん』(ベンジャミン・ホフ著、福伸逸・松下みさを訳、平河出版社、1989年)・『タイムシフティング——人生が楽しくなる時間活用術』(ステファン・レクトシャッフェン著、高瀬素子訳、日経ビジネス人文庫、2001年)・『ドラッカーに学ぶ自分の可能性を最大限に引き出す方法』(ブルース・ローゼンステイン著、上田惇生監訳、井坂康志訳、ダイヤモンド社、2011年)・『なぜ、間違えたのか?——誰もがハマる52の思考の落とし穴』(ロルフ・ドベリ著、中村智子訳、サンマーク出版、2013年)・『人間性の最高価値』(A・H・マスロー著、上田吉一訳、誠信書房、1973年)・『ネット・バカ——インターネットがわたしたちの脳にしていること』(ニコラス・G・カー著、篠儀直子訳、青土社、2010年)・『脳が「生きがい」を感じるとき』(グレゴリー・バーンズ著、野中香方子訳、NHK出版、2006年)・『フロー体験喜びの現象学』(M・チクセントミハイ著、今村浩明訳、世界思想社、1996年)・『減らす技術新装版』(レオ・バボータ著、有枝春訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年)・『未来を創るリーダー10のスキル——不確実性の時代を生き抜く新たな人材の条件』(ボブ・ヨハンセン著、鹿野和彦監訳、伊藤裕一・田中良知訳、日本能率協会マネジメントセンター、2013年)・『夜と霧新版』(ヴィクトール・E・フランクル著、池田香代子訳、みすず書房、2002年)・『ユング自伝(1・2)』(C・G・ユング著、アニエラ・ヤッフェ編、河合隼雄・藤縄昭・出井淑子訳、みすず書房、1972‐73年)・『リフレーミング——心理的枠組の変換をもたらすもの』(リチャード・バンドラー、ジョン・グリンダー著、吉本武史・越川弘吉訳、星和書店、1988年)・『我と汝・対話』(マルティン・ブーバー著、植田重雄訳、岩波文庫、1979年)・DeFeo,Joseph,andJ.M.Juran.Juran’sQualityHandbook.NewYork:McGrawHill,2010.・Ferber,Richard.SolveYourChild’sSleepProblems.Rev.ed.NewYork:Touchstone,2006.・Fisher,Roger,andDanielShapiro.BeyondReason.NewYork:Penguin,2006.・Glennie,Paul,andNigelThrift.ShapingtheDay:AHistoryofTimekeepinginEnglandandWales1300‐1800.Oxford:OxfordUniversityPress,2009.・Homayoun,Ana.ThatCrumpledPaperWasDueLastWeek:HelpingDisorganizedandDistractedBoysSucceedinSchoolandLife.NewYork:TarcherPerigee,2010.・Kiefer,Charles,andMalcolmConstable.TheArtofInsight:HowtoHaveMoreAha!Moments.SanFrancisco:BerrettKoehler,2013.・Kunz,Gray,andPeterKaminsky.TheElementsofTaste.NewYork:Little,BrownandCompany,2001.・McCrossen,Alexis.MarkingModernTimes.Chicago:UniversityofChicagoPress,2013.・Sachs,BradE.TheGoodEnoughChild.NewYork:HarperCollins,2001.・Weingarten,Gene.TheFiddlerintheSubway.NewYork:Simon&Schuster,2010.・Wolke,Robert.WhatEinsteinToldHisBarber.NewYork:DellTrade,2000.・Zack,Devora.NetworkingforPeopleWhoHateNetworking.SanFrancisco:BerrettKoehler,2010.・Zona,Guy.TheSoulWouldHaveNoRainbowIftheEyesHadNoTears.NewYork:Touchstone,1994.

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