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第7章パワハラのパターン――仕事の取り上げ、本人にふさわしくない仕事の強要と退職強要

第7章パワハラのパターン――仕事の取り上げ、本人にふさわしくない仕事の強要と退職強要

H社事件:退職強要の手法前章では、言葉の暴力によるパワハラを見た。ただ、言葉の暴力は、不当な業務指示や退職強要とセットになっている場合が多い。したがって、被害者からパワハラの相談を受ける弁護士としては、そうしたセットの行為が不法性を帯びているかを検討することも多い。多くの場合、退職強要の手法として使われるのが、仕事の取り上げ、本人にふさわしくない仕事の強要である。本章では、その典型的な事例であるH社事件を見ていこう。Oさんは、当時40代半ばの男性である。平成16年4月に労働契約を締結してから平成21年3月25日に退職するまで、H社の従業員として働いた。H社は、旅客自動車運送事業者として、乗合バス事業や、福祉施設のバス運転の受託などを行う、従業員数100名ほどの中堅の会社である。平成19年4月1日からは、ある福祉施設の送迎車両運行管理を委託されていた。Oさんは、平成19年5月21日から平成20年2月18日まで、その送迎バスの運転手として従事していた。平成20年2月18日、Oさんは福祉施設の副所長との間でトラブルとなった。Oさんが自らの労働条件について、H社と福祉施設の契約書を見せてもらって確認したいと副所長に頼んだのだ。副所長はかねがね、「契約書を見たければ見せる」と言っていたので、Oさんはその言葉に甘えたのだったが、実際に頼んでみると、副所長はOさんの依頼に激高し、「おまえ、今日帰れ。帰っていいよ」などと言って職場から締め出した。施設から連絡が入ったH社では、即座に翌19日から派遣しないことを決め、Oさんに対し、会社に直接出社することを命じた。

「下車勤」の指示平成20年2月19日、H社はOさんに対し、「社内での内勤を命じる。別命があるまでは待機」と指示を下した。これは、バス会社やタクシー会社などで、「下車勤」と言われる、いわば制裁措置含みの業務指示である。運転手として採用されている者にとって、運転できないのに出勤しなければならないというのは極めて苦痛な事態である。会社は、問題ある行為をした運転手従業員に対して、あえて苦痛を強いることで自らの行為を振り返り、反省する時間を設ける。下車勤とは、そうした対応を指す。H社がOさんに命じた下車勤も、顧客先の不興を買うという、バスの運転手としてふさわしくない行為をしたことについて反省を促すという意味においては、正当性を有する可能性がある。Oさんにしてみれば、まさか怒られるとは思わなかった問題で、いわば「逆ギレ」されたわけであるから、反省する点はない。だが、H社としては、顧客対応に気をつけるべしとの戒めの必要性はあり得る話である。ただ、仮に正当性を有するとしても、やりすぎは問題だ。ここで、Oさんの下車勤の内容を見てみよう。Iまず、H社は下車勤の目的を、「同様の事態を再び起こさないために、Oさんに自発的で真摯な反省を促すため」としている。IIOさんに与えられた業務は、バスの清掃、及び社屋内外の清掃だった。これは必要性に乏しい、見せしめ的な意味合いの強い業務だった。バスの清掃業務は本来、運転手の担当する業務だった。また、社屋内外の清掃は、繰り返し同じ場所を清掃させる単純作業だった。IV指示のない時間帯では、Oさんをただ待機させるだけの状態に置いた。VOさんに対して具体的な改善指導をまったく行わず、福祉施設との間で起きた問題点について注意指導する、研修を受講させるといった措置は取られなかった。VIOさんに対する内勤業務は、平成20年2月19日から、Oさんが休職する前日の平成20年9月26日まで続いた。内勤業務について期限を設けず、「おまえ、どうすんの、本当に。これ、悪いけど、半年や1年は続くよ」と、Oさんの上司であるK部長は嫌がらせとも取れることを語った。この下車勤は、正当な業務指示だろうか。H社は、内勤業務を課し続ければ、Oさんが精神的に辛い状態に置かれ、病気になることもあり得ることを認識していた。K部長が、「君、精神的にそれこそ本当に病気になっちゃうよ」などと発言していたことからも、それは明らかだった。

懲戒処分の乱発Oさんは、「いつまでこんなことが続くのか」「自分にはこんな目に遭う覚えはない」「一度清掃したのに、また同じことを繰り返さなければならないのか」とK部長に尋ねた。K部長は、Oさんの態度を反抗的だととらえた。そして、自分の指示に従わないのは業務命令違反にあたるとして、Oさんに対し懲戒処分を乱発した。それは、次のようなものであった。1平成20年4月28日、清掃業務の拒否と勤務態度が悪いという理由で譴責処分。2平成20年5月1日、仕事をさぼって休憩室にいた、業務中に新聞を読んだという理由で譴責処分。3平成20年6月1日、出勤しても何もしない、清掃を行ったとはいえないという理由で譴責処分。4平成20年6月1日、出勤しても何もしない、厳重注意しても前向きな姿勢が見られないとして、譴責処分。5平成20年7月9日、出勤しても何もしない、厳重注意しても前向きな姿勢が見られないとして、譴責処分。6平成20年7月10日、態度の改善が見られないとして、7日間の出勤停止処分。7平成20年8月28日、度重なる業務指示無視等を理由に、7日間の出勤停止処分。指示を受けた作業に誠実に従事していたOさんにとって、この一連の処分は不誠実極まりないものだった。また、「出勤しても何もしない」という理由で譴責処分が下されているが、Oさんは、例えば6月1日は休日で出勤していなかった。また、7月10日の場合、譴責処分を下した翌日に、「態度の改善が見られない」としているが、「態度の改善」についてH社が具体的な検討をしていないことは明白だった。

違法なトイレ清掃作業への従事、退職、提訴Oさんは、H社の執拗な嫌がらせにもかかわらず、内勤の業務に耐えて従事し続けた。しかし、ついにOさんの堪忍袋の緒が切れる事態が起きた。H社は平成20年9月16日、Oさんに「トイレ清掃を含む清掃作業に、一日中、従事しなければならない」という内容の業務指示文書を手渡したのだ。トイレ清掃はもともと別会社に委託していて、わざわざOさんに命じる必要性のないものだった。H社は、あえて屈辱的な業務を命じたのだ。やむを得ず、Oさんは平成20年9月16日から25日までトイレ清掃に従事した。これまで耐えに耐えてきた上に、この屈辱的措置である。Oさんは次第に精神的に追い込まれていった。心療内科で診察を受けたOさんは、「適応障害」と診断され、休職の必要性があるとされた。平成20年9月26日から休職となり、半年後の平成21年3月25日、就業規則に基づいて退職となった。Oさんは、H社の責任を裁判で訴えたいと、私のもとに相談に訪れた。私は事実関係の複雑さから本裁判で争うことを勧め、平成22年2月、H社に損害賠償の支払いを求めて提訴した。

「下車勤」の不法性H社は、Oさんに直接「辞めろ」とは言っていない。また、辞めることを何度も求めたという実態もない。しかし私は、H社の行動は退職強要であったことは明白であると考えていた。Oさんに到底耐えられないような下車勤や懲戒処分を繰り返すことで、Oさんが自主的に退職して職場を去るという流れに持って行こうとしていたことは明らかだった。だが、本人から本来の仕事を取り上げ、「下車勤」という業務指示をしたことが不法行為にあたると、どのように言うことができるか。業務指示がパワハラにあたるとするには、その業務指示自体が不法性を帯びていなければならないというのが実務の考え方だ。業務内容を限定しない労働契約の場合、原則として、使用者には業務の配置に関する広範な裁量権があるとされる。その裁量権に例外があるとされる場合は、業務上の必要性とは別個の不当な動機・目的で配置が行われた場合や、配転命令がもたらす労働者の職業上、ないし生活上の不利益が不釣合に大きい場合は、権利濫用となって違法になるという考え方が一般的である(東亜ペイント事件、最高裁昭和61年7月14日判決など)。そこで、本件の場合も、この例外の考え方に該当するか否かということで考えていけばいいように思われるが、下車勤については、参考になる裁判例もあった。神奈川中央交通(大和営業所)事件(横浜地裁平成11年9月21日判決)である。この事件は、接触事故を起こしたバス運転手が下車勤を命じられた事件である。その内容は、バス運転手が約1ヶ月間、営業所構内の除草作業を命じられたというものだった。裁判所は、下車勤として除草作業を命じること自体は適法という認識を示したが、期限を設けなかったことを問題視した。また、病気になっても仕方がないとの認識のもと、終日にわたる炎天下での除草作業という過酷な作業に従事させることは、労働者の人権侵害の程度が大きく、下車勤の目的からも大きく逸脱している。さらに、恣意的な懲罰の色彩が強く、安全な運転をさせるための手段としては不適当な場合で、業務命令の裁量権の範囲外となる、との判決を下した。この神奈川中央交通(大和営業所)事件の考え方は、東亜ペイント事件の考え方をさらに具体化したものといえる。本件の場合も、この考え方にのっとって、次のように判断できる。Oさんをバス運転乗務以外の業務に就かせること自体に違法性はないが、清掃業務に就かせ続ける必要はなく、これは人権侵害の程度が大きいと言わざるを得ない。下車勤の目的から大きく逸脱し、H社の取引先から嫌われたことに対する恣意的な懲罰の色彩が強く、強制的な反省、謝罪を強いることは、安全な運転をさせるための手段としては不適当であり、H社の業務命令の裁量権の範囲外となる。したがって、本件下車勤の業務指示は違法である、と。

懲戒処分の不法性懲戒処分の不法性は、裁判例では、「使用者の懲戒権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き、または社会通念上相当として是認し得ない場合には、懲戒権の濫用として無効になる」としている。具体的には、同じ事由で二度の懲戒処分を下したり、事由の内容に対して懲戒処分が重すぎたり、懲戒処分を下される本人に対して弁明の機会を与えることをしなかったりといった行為が、懲戒権の濫用として無効とされる。もちろん、懲戒の事由そのものの事実が存在しないのに懲戒処分を下すのは論外である。本件の場合、前述の通り、Oさんがそもそも休日で出勤していないにもかかわらず、譴責処分を下したり、譴責処分が前日に出たばかりなのに、「態度の改善が見られない」などとしたりしていることから、懲戒処分の根拠となる事実が存在しない、したがって懲戒処分は不法にあたると判断できる。

トイレ清掃を命じた点の不法性トイレ清掃を命じた点は、そこまでの業務を命じる必要性が本当にあったのかが争点になる。ここで、参考になる裁判例を次に紹介したい。その労働者にとって、ふさわしくない仕事に配置すること自体の問題性を指摘した判例、バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件である(東京地裁平成7年12月4日判決)。この事件は、会社に勤続33年で課長職にあった男性労働者を、リストラ政策に消極的な態度を取っていることを理由に、通常であれば20代前半の女性契約社員が担当していた受付業務に配置転換したことの問題が争われた事例である。裁判例は、「元管理職を、その経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、行内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、自ら退職の決意をさせる意図のもとに取られた措置ではないかと推知される。(中略)配転は、原告の人格権を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、被告に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって、不法行為を構成するというべきである」と判断した。この裁判例の考え方に従ってH社事件を見てみよう。H社は、OさんがH社の思うようにはなかなか退職しないことに業を煮やし、Oさんを退職させようとして、H社の従業員が担当してこなかったトイレ清掃をあえて指示し従事させた。H社の措置は、Oさんをその経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、社内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、自ら退職の決意をさせる意図のもとに取られた措置ではないかと推知される。これらから、Oさんの人格権を侵害し、H社に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なもの、と判断することができる。

K部長をやりこめるH社側は裁判で、下車勤は、自らの行為に対してまったく反省するところのないOさんに反省を促すために行った。しかもOさんは反省するどころか、上司の見ていないところで仕事をさぼり、上司に対しても反抗的であった。その後に命じたトイレ清掃の業務もさぼっていたため、懲戒処分に処したなどとして、下車勤、トイレ清掃がいずれも正当な業務指示であった、懲戒処分も正当なものである、と主張した。私の仕事は、下車勤、トイレ清掃に正当性があるという主張が業務指示の裁量権の範囲を逸脱した違法性を帯びていること、懲戒処分の根拠となっている事実が存在しないことを明らかにすることだった。この裁判のクライマックスは、Oさんの上司だったK部長への反対尋問だった。証人尋問は、ある事実の存在を証明しようとして、一方の当事者から行われる尋問のことだが、反対尋問とは、その証人が本当のことを言っているかを確かめるため、もう一方の当事者から行う尋問である。H社は、Oさんが仕事をさぼっていて、上司にも反抗的であったということを証明するためにK部長への証人尋問を申請していた。私はOさんの代理人として、H社の言い分が噓だということを明らかにしようと、K部長を反対尋問したのである。業務指示や懲戒処分の違法性を争う場合、これまで述べてきたように、使用者側の指示の意図や内容が不当なものであることを明らかにすることになる。そのためには、使用者側が自らの行為を正当化していることに用いる事実は信用ならないものだということを明らかにする必要があるのだ。まず、トイレ清掃に関する、K部長への反対尋問を見ていただきたい。K部長は、事実そのものを否定していたが、しどろもどろの言い訳しかできなかった。笹山Oさんは、実際、トイレ清掃に従事してるでしょ。K部長いえ、拒否していましたから、していないと思います。笹山(紙の証拠を示しながら)これは、この日の業務確認書ですが、トイレ清掃が入っていますね。Oさんの仕事について、Yさんというのかな、その方が確認していますね。ここに押印がある。K部長はい。笹山(次の証拠を示しながら)これは翌日の分ですが、Nさんという方が確認していますね。K部長はい。笹山(次の証拠を示しながら)これはその次の日の分ですが、Mさんという方が確認していますね。K部長はい。笹山(次の証拠を示しながら)これはその次の日の分ですが、Iさんという方が確

認していますね。K部長はい。笹山(次の証拠を示しながら)これはその次の日の分ですが、Uさんという方が確認していますね。K部長はい。笹山これはトイレ清掃が行われたということではないんですか。K部長書類上はそうなんですが、実態は、これを持ってきてにらみつけたり、文句を言ったりするなど、Oさんの態度が反抗的で、そんなOさんと若い管理者とのいざこざを避けるために、ただ単に印を押しているだけという状況でした。笹山あなた、それ噓でしょ。そんなわけないじゃないですか。会社の業務として、確認できていないことに印鑑を押すなんていうのは、若いからとか、そんなこと関係ないじゃない。確認できなければ印鑑押さないで、業務指示として「清掃しろ」と言えば済むことじゃないですか。K部長はい。笹山印鑑が押されているということは、あなた方が業務として確認したということでしょ。K部長違います。これで、Oさんが「トイレ清掃をさぼっている」というH社の噓を明らかにできた。次に、Oさんが仕事をさぼっていることについての反対尋問である。H社の主張の根拠になっている、K部長作成の報告書に関するやり取りだ。笹山Kさんがこのような文書を作成したのは、Oさんがさぼるから、それが理由ですね。K部長そうです。笹山じゃあ、ちょっと確認しますが、この証拠を見てください。(証拠書類を示しながら)この書類は知っていますね。K部長はい、それは内勤日報といって、本人が当日、こういう仕事をしているというのを記入して会社に提出する書類です。笹山では、別のこの証拠、「まとめ表」を見てください。(証拠書類を示しながら)この書類は、あなたが、Oさんがいつ、どのように仕事をしなかったかについてまとめて書いた報告書ですね。K部長はい。笹山2月22日の欄を見ると、Oさんは体調不良で早退とありますね。K部長はい。笹山では、2月22日の内勤日報を見てください。(日報を示す)この日報では、Oさんは、この日、早退していますか。K部長いいえ、早退していません。笹山「まとめ表」の3月6日を見てください。10時20分の時点で、「Oさん、何も

していない」とあなたは書いていますね。K部長はい。笹山3月6日の日報を見てください。(日報を示す)この日報では、Oさんは、10時20分の時点では、清掃と車のワックスがけをしていますよね。K部長はい。笹山「まとめ表」の3月7日を見てください。15時半から、「Oさん、まったく仕事をせず休憩室で友人と話」とあなたは書いていますね。K部長はい。笹山3月7日の日報を見てください。(日報を示す)この日報では、Oさんは、15時半から、車のワックスがけをやってるんじゃないですか。K部長はい。そのように書いてありますが、この内勤日報は、Oさんが自分で書いたものですから、これが実態通りかどうかというのは、ちょっと、というのがあります。笹山だけど、こういうふうに書かれたものを会社は受け取っているわけでしょ。K部長はい。笹山もし事実と違うんだったら、書き直しを命じることもできますね。K部長命じますね。笹山あなたは、書き直しを命じましたか。K部長いえ、命じていません。笹山では、続けますよ。4月20日の「まとめ表」の記載ですが……。こうしたやり取りを延々と続けた後、次に見るように、Oさんが仕事をさぼるので仕方なく内勤を指示し続けたという根拠を突き崩した。笹山このように、「まとめ表」と、「作業日報」とでは、書いてあることがほとんど一致していないんですよ。わかりますね。K部長はい。笹山「まとめ表」によると、8月30日に、Oさんが上司に対して「ボケ」と暴言を言ったとあります。この上司とは、誰ですか。K部長私です。笹山8月30日、この日、Oさんは、出勤していないんですよ。(出勤停止処分の懲戒処分の通知書を示す)ほかならぬ、あなたから通告された出勤停止処分で、8月29日から、Oさんは出勤停止になっていますね。K部長はい。笹山あなたに対して「ボケ」なんて、言いようがないでしょ。つまり、あなたがこの「まとめ表」に書いてあることは、かなりの部分、噓ですよね。K部長違います。日付を間違えただけです。笹山だって、あなたは内勤日報を持っているわけでしょ。内勤日報を見ようと思え

ばいくらでも見ることができますね。それなのに、どうして日付を間違えた書類を作成するんですか。そのことを説明できますか。K部長……。笹山あなたは自分で考えていることを適当に書いただけなんでしょ。K部長いいえ、日付を間違えただけです。ここでは、「Oさんが仕事をさぼっている」という事実はなく、トイレ清掃を追加で命じる必要性や、下車勤を継続させる必要性、懲戒処分の根拠となる事実が存在しないことを明らかにできた。さらに、懲戒処分についての反対尋問である。笹山7月10日付の懲戒処分についてです。「度重なる業務指示無視、業務拒否を繰り返し、かつ就業時間中業務怠慢な状態が頻繁にあり、まったく改善が認められない」とありますね。これはいつの出来事ですか。K部長それは、過去にさかのぼってという意味です。口頭注意してもまったく改まらないので、やむを得ず書類にしたということです。笹山注意しても改まらないということですが、7月10日付の懲戒処分の前の懲戒処分が下されたのは、7月9日ですよね。K部長はい。笹山7月9日に、改まらなかったということですか。K部長いいえ、違います。笹山10日に改まらなかったのですか。K部長10日ではありません。笹山では、いつ改まらなかったのですか。K部長前日改まらなかった、ということです。笹山(内勤日報の7月9日分を示しながら)この日は、Oさんは、大型バス3台の洗車活動をしています。結構忙しく働いているんですが、このとき改まらなかった。そういうことですね。K部長そうですね。笹山7月10日の処分は出勤停止処分で、それまでの譴責処分より重い処分です。9日に譴責処分を出しながら、翌日の10日にさらに重い出勤停止処分を下したんですから、よっぽどひどい行為があったということだと思います。どんなことがあったのですか。K部長ちょっと思い出せません。もう毎日のことのようでしたから。このように、K部長は具体的な事実を指摘できず、ここでも懲戒処分の根拠となる事実がないことを明らかにできた。

成立私は、反対尋問以外の場面では、一連の出来事に対してOさんに非はなく、指示された業務にもまじめに精励していたにもかかわらず、不当な言葉を浴びせられるなど、いかに辛い思いを味わわされてきたかを含めて立証した。ここでも、OさんのICレコーダーによる、K部長とのやりとりの録音記録が証拠として役立った。そして、これまで見てきたように、H社が下車勤を命じ、それを継続させたこと、懲戒処分を下したことに根拠がないことを反対尋問で明らかにした。この過程を踏まえ、裁判所では和解協議の議論が進められた。裁判官は、K部長は真実を述べておらず、H社は、Oさんが病気になってもかまわないという意図のもと、下車勤の目的に適合しない配置を期限を設けずに行ったばかりか、働いていない、あるいは反抗的であるといった、ありもしない事実を勝手に挙げて懲戒処分を乱発した、果ては、屈辱的な内容となるトイレ清掃を命じた、これらは不法行為、あるいは就業環境調整保持義務に違反するという心証を持ってくれたと思う。当方が要求する満額での賠償での和解に肯定的な態度を示した。裁判官は、渋るH社側をむしろ説得してくれた。最終的には、H社に対して請求した金額から多少減額した金額での和解となった。パワハラ、いじめだけが問題になっている事件としては、それまでの判例の水準からすれば、Oさんは十分に報われた形となった。

 

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