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第7章 パワハラ経営者、管理職にならないために

第7章パワハラ経営者、管理職にならないためにいくつかの傾向タイプどのような人がパワハラをするのか。パワハラ的な傾向を持っている人がパワハラをする、まずこれが典型的だろう。いくつかのタイプを挙げてみよう。①瞬間湯沸かし器型●A部長は、何か気に食わないことがあるとすぐにキレる。瞬間湯沸かし器と言われるほどだ。社員は報告に行く時は深呼吸して身構えてからいく。きょうはBがカミナリを落とされている。パワハラだと思うが誰も注意しない。会社の上の人たちもAがキレるのがこわいようだ。瞬間湯沸かし器のようにすぐにカッとなるタイプである。このタイプは感情の起伏が激しい。ただ、カッとしなければ沈着冷静で仕事ができることが多い。管理職の場合はいわゆる外面がよいことも多く、出世することも珍しくない。このタイプは、感情に任せて動いているだけでパワハラの自覚がないことが多い。その意味では、意図的ないじめ・嫌がらせはほとんどない。だが、みんながこわがって近付かないのでよけいに自覚する機会がない。周りは誰かズバッと言ってくれたらと思ってはいても、感情のままに対応されるのがこわいので会社の上の方も言いたがらない。こうしていつまでも部下はおどおどしている。これでは業務に支障が出るのは当然だろう。近頃は、瞬間湯沸かし器をあまり見なくなったが、A部長のようなタイプもあまり見かけなくなった。昔はともかく、世間でこれだけパワハラのことが言われていると、感情のまま怒鳴り散らすようなタイプは減っているように見える。そうは言っても、部下を怒鳴って会社を大きくしたというような、たたき上げのワンマン社長が今も社員を怒鳴り散らしているという例は時々見かける。もう一つよく聞くのは、若いころはそうでなかったが、年と共にすぐカッとなるようになってきたという話だ。キレる老人とか暴走老人とまではいかなくても、以前ほど寛容さがなくなってきたということはよく耳にする。それが仕事に出てくるとこのタイプになる。②鬼コーチ型

●営業所長であるAは、とにかく売り上げを上げるために必死である。新入社員のBに対しても、「残業なんて当たり前だぞ。オレの時代なんて2日間徹夜で新規のお客さんを開拓して上司にほめられたんだ」と言って平気でサービス残業をさせている。そのことを本社は知っているのに、ライバル会社に勝つという方針で何もしない。体育会系の部活の経験者なら、部の顧問とかコーチにこういうタイプがいたことを思い出すだろう。このタイプは、周りがどう思おうが自分のやり方が正しいと信じ切っている。体育会系の鬼コーチである。部下に熱血指導をする。それ自体は悪いことではない。それどころか熱血指導は必要な面もある。熱意のある指導でなければ部下はついてこない。怒鳴ったり、残業をさせたりと行き過ぎることが問題なのである。このタイプの上司は、自分もがんがん仕事をするので業績を上げる。会社はその仕事を評価するので少々の行き過ぎはわかっていても止めない。会社公認なので被害を訴え出た部下がかえって飛ばされることさえある。③オレが一番型●A部長は、怒鳴ったり、大声を上げたりするタイプではない。しかし自分が正しいと思ったことは絶対に曲げない。部下の指導についてもそうだ。あるとき部下のBに対して仕事の指示をしたが、そのときBが少し違った意見を言った。するとAにスイッチが入ってしまい、Aは、いかにBの考えが間違っているかを延々と意見し続けた。Bはすっかり疲れてしまい、やる気を失ってしまった。このタイプは、感情のコントロールを失うことはないし、熱血指導をするわけでもない。ただ何事も自分が中心にいて物事を動かしたい気持ちが強い。自分は優秀であるという意識が強いため、他人を悪く言うことに熱心である。また自分の考えと違うことに寛容さがなく相手を許すことがない。このタイプも仕事ができる。もともとの自信家が業績を上げることでますます自信を付け、頭が凝り固まってしまう。世界は自分中心に回っており、また回らないと気が済まないという性格なので、人の言うことを聞かないし信用しない。このタイプは延々と意見することが多い。それは自分が正しいということを相手へ言い聞かせるという形で、実際は自分が正しいことを自分に言い聞かせているのである。④好き嫌い型●A支店長は、今度支店に配属された若手のBが、飲みに誘っても適当な理由を付けて断るのでよく思っていない。あるときAは、まだ経験が乏しいBにわざと難しい顧客への営業の仕事を命じた。Aの思惑通り、Bは失敗した。Aはほら見ろと思いながらBの勤務成績の評価を低く付けた。

このタイプは部下に対する好き嫌いの感情がはっきりしていて、自分が気に入らない部下にはいじめや嫌がらせをする。例えば、いつも自分の言うことを、はいはいと言って何でも聞く部下は大事にするが、そうでない部下に対しては、怒鳴ったり、腹いせに無理な仕事をさせたり、仕事を与えないというようないじめや嫌がらせをすることがある。この場合、意図的なハラスメントになることが多い。ただ、いじめや嫌がらせを見えない形ですることもあるので、されている方がすぐには気付かないこともある。どうも自分は嫌われているらしいということをあとから気付く。しかし確証がないので何もできないことが多い。⑤ストレスはけ口型●販売店のA主任は、ある日の朝、妻と大ゲンカをして、イライラしたまま出社した。Aは、部下のBがその日の仕入れにわずかなミスをしたことに腹を立て、机を叩きながらBを大声で叱責した。このタイプは、家で夫婦げんかをしたとか、ギャンブルで大損したとかの仕事と無関係なストレスのはけ口として部下を怒鳴ったりする。八つ当たり型と言ってもよい。このタイプはストレスがなければ何事もない。感情を表に出すこともない。しかしストレスの程度によっては暴力まで振るうことがある。⑥会社ぐるみ型●小さな会社を経営しているAは、仕事のことで何かにつけて文句ばかり言うBを辞めさせたいと思っている。あるときAはBの上司のCと相談して、Bのデスクを他の社員と離して誰も声をかけないようにした。会社の方針として、社長や管理職がある社員に対してパワハラをする場合である。退職させる目的でなされることが多い。新型コロナウイルスで会社が雇用を打ち切るというケースが相次いでいる。中にはパワハラになるものもあるだろう。退職の強要だけではない。会社全体が業績至上主義で長時間労働をさせるのは当たり前という場合も会社ぐるみと言えるだろう。傾向タイプはどうすればこのような傾向を持つタイプは、どうしたらよいのだろう。瞬間湯沸かし器型とストレスはけ口型の場合は、感情とストレスをいかにコントロールするかが課題となる。特に怒りの感情を抑えることが必要となる。アメリカの小説家マーク・トウェインは、「怒りを感じたら4つ数えろ」と言ってい

る。もっとすごいのはトーマス・ジェファーソン米大統領で、「腹が立ったら、10まで数えよ。それでも怒りがおさまらなかったら100まで数えよ。それでもダメなら1000まで数えよ」と言っている。1000まで数えていたら相手が待てずにいなくなってしまうかもしれない。いずれにしても冷静になれということだが、人によっては数えようと思っていても数える前に暴言が出てしまう。このようなタイプは、怒りの感情をコントロールすることが必要である。アンガー・マネジメントが提唱されているが、これも効果があるだろう。ある社長は会議のとき、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」の一節である「決して怒らず、いつも静かに笑っている」と書いたカードを置いているということだった。宮沢賢治は苦笑しているだろうが、効果はあるかもしれない。鬼コーチ型、オレが一番型、好き嫌い型は、「自分の指導方法に間違いはない。厳しくするのは当たり前だ」とか「どうしても好き嫌いはある」という考え方なので、その指導や指示のやり方を変えるしかない。そうは言っても、どのタイプでも今になって自分から性格を変えろとか、好き嫌いは持つなというのはまず無理だろう。変えられるのなら変えてるよと言われそうである。となれば、会社が研修などを通して自覚を促すしかない。その場合には、できれば職場のあり方として職場全体で話し合うことが理想である。このように会社全体が管理職のタイプを把握し、部下の働きやすさを真剣に取り上げる姿勢が大事だろう。意図的パワハラと無意識パワハラハラスメントには、はじめからいじめ・嫌がらせをする意図で相手に苦痛を与える意図的(intentional)パワハラと、そのような意図はなく、無意識に結果として行き過ぎた言動をしてしまうという無意識(unintentional)パワハラがある。意図的パターンが学校で起こるといじめになる。もちろん意図的な場合の方が悪質性は高い。ラグビーやサッカーで意図的な危険行為は一発レッド・カードで退場になる。意図的パワハラはパワーのある者が行うので被害が深刻である。学校でも集団というパワーによるいじめの被害が深刻なのと同じである。職場で会社や管理職がそのパワーを使って意図的パワハラをしたとき、被害者はなすすべがない。例えば、ある管理職が、気に食わない部下を辞めさせるという意図をもって過大な仕事を与えたり、逆に全く仕事を与えなかったりすると、部下の身体的・精神的苦痛は耐え難いものになる。ただ、この意図があったかどうかというのは、実際には見分けるのが難しい。判決例には、出勤しても何も仕事を与えられず机の前に座らされているだけにされたという仕事外しのケースがあるが、このような外形上から意図的パワハラであることがはっきりしている場合は白黒の判断は難しくない。しかし実際の例としては、意図的かどうかが明らかでないことが多い。というよりも、それをわからないようにすることが多い。

本当にこわいのは無意識パワハラ無意識パワハラは、いじめや嫌がらせの意図はない。普通に仕事上の指示や指摘をしているつもりなのにとか、部下が喜んで仕事をしてくれるから頼んだのにといったときに、結果として行き過ぎたという場合である。パワハラ傾向のない誰もが気付かないうちに加害者になってしまう。本当にこわいのはこの無意識パワハラである。無意識パワハラをケースで考えてみよう。●管理職のAは、部下のBに新しく開発した商品の販売戦略をまとめるように頼んだ。Aとしては、Bは販売の経験が少ないがBにとって難しいとは思わなかった。ところがBには荷が重すぎた。Bは予定の日までにまとめられず、すっかり自信を失い会社を休みがちになってしまった。Aは感情的になってもいないし、瞬間湯沸かし器型でもない。普通の管理職である。AはBへの指示がパワハラになるという意識は全くない。しかし結果としてBに過大な負担を与えて苦痛を与えてしまっている。このケースで、AのBへの指示がBに精神的苦痛を与えることを全く予測し得なかったときはパワハラにはならないが、経験の少ないBにとっては過大であり、大きい精神的苦痛を与えることを予測し得たときはパワハラになる。「そんな甘いことでは人は育たない」という不満がAには残るかもしれないが、重要なのは「結果として」苦痛を与えたという点である。管理職は結果を求められるのだから、この点は改善の余地がある。単に指示を出すのではなく、「期待しているのでちょっと高いハードルを設定した。もしも難しいようなら早めに相談してくれ」といった言葉が添えられていれば、結果は異なっただろう。●部下のBは、仕事でちょっとわからないことがあるたびに上司のAに聞きに行ったりメールで尋ねたりする。Aは、Bが自分の頭で考えるようになってほしいという思いから、Bが質問してきても自分で気付くようにと考えて質問を無視するようになった。BはAが答えてくれないので毎日が不安になり、出社できないほどになってしまった。このケースで、AはBを指導しようとして質問に答えないでおこうとしている。Aにはパワハラという意識はない。Bのためを思ってのことである。しかし結果的にはパワハラになっている。これも無意識パターンである。Aが自分の意図をBにしっかり伝えないと、このようなことが起こる。放任というパワハラである。メンタル不調の部下にはメンタル不調というのは、心の病気の症状をきたしていることを言う。メンタル不調の危険性がある状態のことはメンタルヘルス不調と言う。職場での心の病は大きな問題である。昭和大学医学部の岩波明教授は、メンタルヘルス

ケアに取り組んでいる事業者は増加していても、対応が現場任せ、人事任せになりがちであると指摘している(岩波明『心の病が職場を潰す』新潮新書・2014年)。特に最近、経営者や管理職が、メンタルヘルス不調やメンタル不調の部下にどう対応してよいかわからないという声をよく聞く。メンタルヘルス不調の部下は、はじめはメールで「体調不良のため、きょう休ませてください」と連絡してくるのだが、体調不良が続き、メンタル不調となって会社を継続的に休むようになり休職するケースが多い。上司として大事なことはメンタルヘルス不調の段階で対応を間違わないことである。昔なら「少しくらい体調が悪くても出てこい」と言う上司がいたが、今はそうはいかない。休みたいというメールに、「ずる休みするな」などと返信したらそれでアウトである。上司として部下と面談をして症状を聞くときも、「この人手のないときに休まれると困るんだよ」とか「ゲームばっかりして寝不足なんじゃないの」と言うのもアウトである。部下がメンタル不調となり医師の診断書を持ってくることがある。このとき上司が驚いたあまりに「何だこれ。こんなのだったら早く言ってよ」と言うのもアウトである。そうではなく、「そうか、うつ病か。うつ病はしっかりと休むことが大切と聞いているので、無理せず治療に専念してくれ」「あとのことはオレに任せてくれればいいから」と対応すれば、部下は心置きなく治療に専念できる。難しいのは、部下がメンタルヘルスに問題がありそうなので休むように言っても休まなかったり、医師の受診を勧めても受診を拒否したりする場合である。休むように言っても休まないときに、会社が休職命令を出せるかというのは裁判にもなるほどの問題である。その労働者の職務を限定していない場合には、会社は配置転換など手段を尽くした上でなければ休職命令は無効になる。また医師の受診を拒否する場合に、業務命令として受診を指示できるかという点も争われることが多い。これについても受診を拒否しているというだけで出された命令は無効とされる。受診する医師の指定については、会社側の医師の指定が合理的で相当な範囲であれば労働者側の医師指定の自由を侵害しないとされている。発達障害の疑いのある部下には最近、発達障害という言葉を聞くことが多い。発達障害というのは、ASD(アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)などの総称である。かつて発達障害は子供の問題とされていたが、大人にも発達障害があることが最近指摘されるようになっている(岩波明『大人のADHD』ちくま新書・2015年)。職場では、相手とのコミュニケーションがとれない、相手の気持ちがわからない、人の話を聞かないで自分が言いたいことだけを言う、すぐにカッとなって怒ってしまうといった対人関係のトラブルがASDやADHDによる場合がある。発達障害というのはその言葉から否定的なイメージがあるが、早期診断と適切な教育・学習があれば改善すると言われている(河野俊一『誤解だらけの「発達障害」』新潮新書・2012年)。また、ADHDであることを仕事に生かした企業人もいる(立入勝義『ADHDでよかっ

た』新潮新書・2017年)。上司としては、部下にそのような疑いがある場合には、医師のアドバイスを受けながら、できれば本人に専門医の診察を受けるように促すことが必要だろう。ハラスメントとの関係では、経営者や管理職として、部下の発達障害を理解することなく適切な対応をしないことが、パワハラになることがある。また部下の側からの上司への逆パワハラが発達障害による場合は、部下に対してそれが発達障害によるものとして対応しなければならないときもある。いずれの場合も産業医などの専門医のアドバイスを得ながら対応する必要がある。なお、専門医のアドバイスを受ける際に、個人を特定せず症状を伝えて相談することはプライバシー侵害にはならない。部下に言ってよい言葉・悪い言葉会社でパワハラについての研修をしたときに必ず出るのは、「これは言ってはいけないというような、パワハラべからず集のようなものはありませんか」という質問である。私は部下に言ってよい言葉と悪い言葉のべからず集を作っているのでその一部を紹介しよう。●部下に言ってよい言葉・「なぜミスしたか、一緒に考えてみようか」(この言葉があるかないかで部下が受ける印象は全く違う。叱責のときの必須語句である)・「オレはこうしてくれるとうれしい」(管理職研修で必ず出てくる、いわゆるIメッセージである。これがYOUメッセージになると「君はこうしないとだめだろう」と一方的なメッセージになる)・「君にはこんないいところもあるんだから」(叱責のときに欠点ばかりを強調すると部下は立ち直れない。といっても、いいところが見つからない部下もいる)・「君の得意なところから始めようか」(これは部下に自信を持たせるためである)・「どんなことがあっても君の味方だから」(叱責の最後に使われる決めゼリフである。こう言ったからには味方にならなくてはいけない)●部下に言ってはいけない言葉・「なんでできないんだ」(これはよい言葉の「一緒に考えてみようか」の裏にあたる。部下からすると、それがわからないから苦労していると言いたくなる)・「やるのが当たり前だろ」(こう言われては反発するだけである)・「もうオレは知らん」(このように突き放してしまうとコミュニケーションが断絶する)・「会社に入って何年になるんだ」(これもよく出るセリフであるが、言われた部下はむなしくなるだけだろう)・「あいつはこんなに営業成績がいいのに」(比較されると劣等感が植え付けられ、自信を失うだけである)

パワハラ経営者、管理職にならないための5つの心得この章の最後に、パワハラ経営者、管理職にならないための5つの心得をまとめておこう。1自分がパワハラ傾向タイプに当たるときは部下への言動に注意すること2グレーになることをこわがらず、必要なフォローを怠らないこと3叱るときには叱り方5原則(次章)を守ること4部下が喜んで仕事をするように指示指導の説明をすること5部下との良好な人間関係を作りコミュニケーションをとることこの5つの心得に付け加えたいことがある。経営者や管理職の方には、ハラスメントを普段は「広め」に捉えておくことをお勧めしたい。「この程度ならばパワハラにはあたらない」「法的な要件を満たしていないからパワハラではない」「取引先からなのでパワハラではない」といった捉え方は「狭く」捉える思考法である。こうした思考法は予防の観点では有益とは言い難い。予防あるいは危機管理の観点からは、「広め」に捉えた上で対策を講じておくことが望ましい。会社の方針や自身の言動を考える上でも、「広め」の思考法を実践するほうがリスクは下げられる。一方で、現実にパワハラが問題化した場合には、法的な要件、パワハラをより「狭く」捉えた定義を武器として戦うこともありうると思う。「これはパワハラだ。慰謝料を払え」といった主張に対して、「法的に見た場合に、そうとは言えないのでは」という理論武装が必要になることがある。もちろん、そういう事態にならないのが一番いいのだが。

 

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