大切な人を禁煙させたい人へ生命保険会社が喫煙習慣のある家族のいる同居家族に対して行ったアンケート調査があります。質問は「タバコを吸う家族に禁煙してもらいたいかどうか?」です。結果は、喫煙する配偶者に対しては87・0%、喫煙する子どもに対しては84・8%と8割以上の家族が、タバコを吸う家族に禁煙してほしいと希望していました。一方、同じアンケート調査で喫煙習慣のある家族のうち「禁煙するつもり」と答えた人は15・5%に留まりました。「やや禁煙したい」と答えた人が32・8%いたものの、禁煙を望む家族の割合との間には大きな開きがあります。今日もどこかの家庭で「タバコをやめてほしい」「やめたくない」という不毛な論争が起きていることでしょう。第5章では、そんなやりとりに疲弊する前に試す価値のある「喫煙者を禁煙に導く説得術」を紹介していきます。ただし、了承していただかなければいけないことが1つあります。それはタバコを吸っている本人に「やめたい」という動機がない限り、どれだけ心理学の知見を投入しても禁煙に導くことはできないということです。メンタリストはメンタリズムを使って、洗脳するかのように人を変えられると信じている方には申し訳ありませんが、本人の願いを効率的に後押しすることはできても、「やめたくない人」の喫煙をやめさせる力はありません。つまり、これから紹介する説得法は「パブリック・コミットメント」を済ませた家族、恋人、友人を支えていくためのテクニックです。受動喫煙防止対策をめぐり、厚生労働省案と自民党の対案について行われた議論の中で、「私はもう50年、タバコを吸い続けています。そしてわが家でも、自由にタバコを吸い続けておりまして、子どもが4人、孫が6人、いっさい誰も不満は言いませんし、みんな元気に頑張っております」というものがありました。こう言い放った衆議院議員のようなタイプには、残念ながら家族の働きかけは届きません。しかし、チャンスはあります。タバコをやめる気がなかった人が禁煙を考え始めるタイミングには、共通項があります。それは「環境の変化」です。1つ目は身体的なトラブルの発生。咳や痰、息苦しさといった自覚症状に不安を感じ、禁煙を考え始めるパターンは少なくありません。2つ目は、子どもや孫が生まれたなど、生活環境の変化によって、家族や周囲の受動喫煙へ配慮し始めるパターン。そして、3つ目は、重要な疾患が見つかり、医師などから喫煙を止められるパターンです。もし、「タバコをやめてもらいたい」と願っている人がかたくなにタバコを愛煙しているとしても、この3つの環境の変化で禁煙を考え始めるタイミングが訪れます。そのときはぜひ、この後お伝えする説得術を試してみてください。ちなみに、禁煙に成功した人はタバコを吸う習慣から解放され、ストレスが低下。精神的幸福度が向上することがわかっています。
禁煙開始3日後がピークであることを知る具体的な説得術に入る前に、禁煙中の人がどんな状態にあるかを知っておきましょう。タバコが吸えずに八つ当たりしてきたとしても、そのイライラの原因がわかっていれば、ある程度は鷹揚に受け流すことができるはずです。ニコチンの禁断症状(離脱症状)とは?喫煙者の1日の気分の変化を調べた研究によると、タバコを吸っている人が感じるストレスは喫煙する直前が最も高くなることがわかっています。そして、一服した直後に低下し、次の喫煙までの間にじわじわと増加していきます。この結果だけを見ると、喫煙にストレス軽減効果があるように見えますが、そうではありません。喫煙直前のイライラは、ニコチン切れによる禁断症状(離脱症状)。タバコを吸うことで、それが緩和されるのはニコチンが補給されるからです。ただし、ニコチンの体内での分解速度は早く、喫煙30分後には血中濃度が半分に、1時間後には4分の1に低下してしまいます。その結果、喫煙者は1日に一定量のタバコを求め、「吸うことがストレス解消になる」と言いながら、じつは喫煙そのものが次のストレスを作り出す原因になっていることに気づいていません。当然、禁煙を始めるとニコチン切れによる禁断症状が出ます。諸説ありますが、基本的には禁煙を始めてから2、3日目にピークがやってきて、概ね1週間続き、3週間ほどでなくなります。ニコチンへの依存はアルコールや薬物などの依存に比べて、依存度は低いと言えます。禁煙をサポートする人は、「イライラのピークは2、3日目」「禁煙が3週間続くと、ニコチンを求める反応からの吸いたい欲求はゼロに近くなる」と覚えておきましょう。
禁煙には3カ月かかることを知るでは、3週間タバコを吸わなければ禁煙はその後も続くと安心していいかと言うと、話はそう単純ではありません。本書でも繰り返してきたように、喫煙者はタバコを吸うことが習慣化されているからです。体がニコチンを求めなくなっても、喫煙トリガーのある環境に身を置くと、習慣的にタバコを吸いたくなってしまいます。では、新習慣が身につくまでには、どの程度の時間が必要になるのでしょうか。1つの目安になるのが、ロンドン大学のフィリッパ・ラリー博士らの研究です。博士らは、平均27歳(21~45歳)の学生96人(男性30人、女性66人)を対象に1日1回新しい習慣を繰り返させ、どのように定着するかを調査しました。結果、新習慣が身につくまでの平均時間は、66日。新しい習慣は、約2カ月で生活習慣として根ざしていったのです。ただし定着までの日数には、18日から254日までと個人差がありました。これは単純な習慣は定着期間が短く、複雑な習慣は長くかかったからです。例えば「毎朝コップ1杯の水を飲む」というようなシンプルな習慣に比べ、「毎日、運動をする」という習慣づけには時間がかかります。実際、運動の習慣を選択した参加者と飲食に関する習慣を選択した参加者を比較すると、身につくまでに約1・5倍の時間差がありました。したがって禁煙をサポートする人は、「新たな習慣を身につけるには平均で66日かかる」「禁煙のような複雑な新習慣を定着させるには、平均値よりも長い時間が必要である」と覚えておきましょう。仮に66日の1・5倍とするなら、約3カ月。つまり、イライラのピークがやってくる3日目、ニコチンを欲しなくなる3週間目、タバコを吸わない習慣が定着し始める3カ月目が、禁煙にとって重要な節目になるということです。では以上を前提に、具体的な説得術の紹介に入っていきましょう。
禁煙説得術①「BYAF(ButYouAreFree)法」1つ目の説得術は「BYAF法」です。「BYAF」は「ButYouAreFree」の略。日本語にすると、「~ですが、あなたの自由です」となります。アメリカの西イリノイ大学が過去に出た説得術に関する研究から質が高い42件をまとめ、およそ2万2000人のデータをメタ分析。説得の効果を高める魔法の言葉として見つけたのが、「ButYouAreFree(~ですが、あなたの自由です)」でした。例えば、こんなふうに使います。「オススメはこちらになります。ただもちろん、どれを選ぶかはあなたの自由です」「明日、◯◯に行きませんか?ただ行くかどうかはあなたの自由です」「引っ越しを機にタバコをやめてみませんか?ただやめるかどうかは、もちろん、あなたの自由です」西イリノイ大学の研究では、相手に説得したい内容を伝えた後、最後の1行に「ButYouAreFree(~ですが、あなたの自由です)」を加えるだけで、「イエス」と答える確率が2倍になったと報告されています。ポイントは、「最後に決めるのはあなたです」と相手の意志を尊重しつつ、突き放しているところです。日本語においては、「ButYouAreFree(~ですが、あなたの自由です)」にこだわらず、「あなたにお任せします」「最後は好きなように決めてください」「自由に選んでください」など、決定権を相手に委ねる方向であれば問題ありません。私たちには、自由意志を尊重されると提示された選択肢を試してみたくなる性質が備わっています。「◯◯をしてくれたら、うれしい」「でも」「どうぞ、あなたの自由に」と言われると、「◯◯」を実行する、しないにかかわらず、少なくとも一度は「◯◯をする自分」を想像してしまうのです。例えば第2章で、私は、一緒に旅行に行った愛煙家の友人から「パブリック・コミットメント」を引き出し、禁煙を始めてもらったエピソードを紹介しました。じつはあのときも、冒頭で「BYAF法」を使い、「とはいえ、本当にやめるかどうかは◯◯さんの自由だけどね」と言うことで、彼にその気になってもらいました。振り返ってみると、彼の場合も「健康のために、いつかはタバコをやめたい」という秘めた思いを「BYAF法」でしっかりと意識させ、「パブリック・コミットメント」に導いたのが、スタート地点でした。家族に「BYAF法」を使うときの注意点「BYAF法」を使う相手がタバコを吸っている家族(親、夫、妻、子ども)の場合、注意していただきたいポイントがあります。それはお互いの距離が近いため、「BYAF法」の一番大事なところ「~ですが、あなたの自由です」が、うまく作用しないことが多い点です。これは関係性が近い分、感情のコントロールが難しいことと関係しています。例えば家族の場合、「私がこれだけ子どものことを心配しているのに」「私がこんなに迷惑しているのに」「タバコをやめてくれたら、家計が助かるのに」等々、長年にわたって積もり積もった苛立ちや怒りの感情が、言葉の端々に出てきてしまうのです。すると、「禁煙をしてくれたら、うれしい」「でも」「どうぞ、あなたの自由に」という言葉にたどりつくまでが長くなり、「~ですが、あなたの自由です」の言葉を聞く前に「BYAF法」を使われる側の心が閉じてしまうのです。私と友人のように、生活を共にしているわけでもなく、一定の距離感があれば腹も立たない事実の指摘も、夫や妻から言われるとムッとしてしまいます。人は他人にコントロールされるのを本能的に嫌います。そして、その相手が近しい人であればあるほど、反発心を持ちます。だからこそ「やめさせたい人」には冷静さが求められます。最大のNGワードは、強い口調での「やめてください!」です。仮に喫煙者が心のどこかで「いつかタバコをやめたい」と思っていたとしても、近しい人からストレートに「やめてよ!」と迫られると、反発し、人によっては目の前でタバコをふかすような行動にも出ることでしょう。待っているのは、不毛な夫婦喧嘩かもしれません。禁煙を自分で決めさせるカウンセラーが「自分の家族のカウンセリングはできない」と言うのは、相手の話に共感しながら耳を傾け、内容を受け止めながら、質問を重ね、本人に問題を整理してもらい、解決の方法を考えるよううながすことができなくなるからです。その原因は、近しいからこそ聞いているうちに、カウンセラー側の心が乱れてしまうところにあります。「そうじゃない」「言っていることとやっていることが違う」「本当にやる気があるの?」「前にもそう言ったけど、やらなかった」「問題をすり替えているじゃないか」など、邪魔な感情が湧き上がり、本人が問題を整理する前に「だから言ったでしょう」「前にも言ったけど」と割り込んでいってしまうのです。同じことは、家族間で「タバコをやめてほしい」というメッセージを伝えるときにも頻発します。例えば、あなたが夫に禁煙してもらいたいと願っている妻だったとして、こんなふうに言われたら冷静さを保てるでしょうか。「俺はストレスを解消するためにタバコを吸っている。そのストレスをなぜ避けられないかって言えば、俺は家族を養うために仕事をしているからだ。だから、俺がタバコを吸うのは家族のせいだ」話がすり替えられている!と腹立たしく思うに違いありません。
これはアルコールや薬物の依存症の人にも共通することですが、ヘビースモーカーもまた、習慣化されている喫煙の原因を他のものに結びつけ、強引に責任を転嫁する傾向があります。ですから、「BYAF法」を使うときには、「やめさせたい人」「やめたいと思っている人」の双方が冷静でいられるように対策をする必要があるのです。大切なのは、タバコを吸う行為にフォーカスして、簡潔かつ具体的に希望を伝えることです。長々と説教したり、感情的に語りかけるのは逆効果です。「子どもも生まれるし、そろそろタバコをやめてほしい。でも、どっちにするかはあなたの自由です」「健康診断の結果で要再検査と出ていたよね。私としては心配だから禁煙してほしい。でも、どうするかはあなたに任せます」「俺もタバコをやめるから、一緒に禁煙しないか?もちろん、好きに決めてもらっていいのだけれど」こんな感じで、「事象」+「希望」+「~ですが、あなたの自由です」でまとめましょう。こうすれば、少なくとも感情的な衝突から目の前でタバコをふかされるような展開にはならないはずです。禁煙の動機は喫煙者本人の心の中にしかありません。あなたの働きかけによって、「いつかタバコをやめたい」が「今からやめてみようか」に変化し、「パブリック・コミットメント」にたどり着けば、そこからが本格的な禁煙の始まりです。人は「自分で決めた」という自己コントロール感が自覚できると、決定事項を「重要なこと」だと認識します。「BYAF法」に強い説得効果があるのは、本人に「自分で決めた」という感覚が強く残るからです。
禁煙説得術②「誰かのため」を意識させる2つ目の説得術は「禁煙が誰かのために役立つことを意識させる」ことです。ペンシルバニア大学の組織心理学者アダム・グラントとデビット・ホフマンは、医療関係者向けに手洗いの頻度を上げてもらうため、2種類の貼り紙を掲示する実験を行いました。「手の清潔はあなたを病気から守ります」「手の清潔はあなたの患者を病気から守ります」元々、手の清潔度に意識の高い医療関係者でしたが、後者の貼り紙をすると手洗いの頻度が10%、石鹼の使用量が45%アップしました。この実験からもわかるように、私たちは「自分の行動が他人にどんな影響を与えるか?」という視点を持ったとき、本来、取るべき行動を選択しやすくなる傾向があります。実際、禁煙成功者に禁煙のきっかけを聞くと、自分自身の健康への不安以外にも、こんな理由が挙がってきます。・結婚して子どもができたので、子どもにお金がかかるから・子どもが生まれ、喫煙に関するリスクを真剣に考えるようになったから・彼に「一緒に暮らすようになったら、やめる」と前から言っていたから・妊娠がわかった途端、吸いたい気持ちがなくなったから・副流煙がペットに悪影響を与えると知ったから人は「自分の大事な物=コアバリュー」に意識を向けると、他者からのアドバイスを受け入れやすくなることがわかっています。つまり、自分のためよりも、誰かのためを意識した方が禁煙成功率は高まるのです。特に、配偶者や子ども、愛犬、愛猫など、本人にとって本当に大事な存在にとって禁煙が役立つのだと理解すると、自己コントロール能力が高まり、誘惑への抵抗力もアップします。それを裏づけるのが、シアトルパシフィック大学で行われた研究です。同研究では、鬱と不安傾向のある参加者を集め、2つのゴールを設定してもらいました。①【セルフイメージゴール】自分が変えたいことを目標にする「自分のポジティブな側面を伸ばす」「他人に自分の美点に気づいてもらう」「自分の弱点を変える」などをゴールにする②【コンパッションゴール】他人への貢献を目標にする「人を助ける」「利己的な行動を抑える」「他人の人生によい影響をあたえる」などをゴールにする簡単に言えば、「自己目標」と「他己目標」という2種類のゴールを設定した上で、6週間ほど過ごしてもらいます。その後で心理テストを行うと、「セルフイメージゴール」のグループは鬱と不安の症状が悪化するとともに、人間関係にトラブルを起こす確率が高くなり、「コンパッションゴール」のグループは、鬱と不安の症状が軽減し、人間関係のトラブルを起こしにくくなったのです。この研究ではフォローアップの調査も行っており、参加者の家族、友人、配偶者などに話を聞いています。それによると、「コンパッションゴール」のグループは、周囲の人間から見てもメンタルが安定し、人間関係がよくなっていました。つまり、「誰かのために」を目標にしたグループは、主観的にも客観的にもよい効果が出ていたのです。身近な人が禁煙を始めると決意したとき、それが周囲の人にどれだけうれしく、役立つかを伝えてあげましょう。本人が大事にしている相手が喜んでいると知ることで、禁煙の継続率が向上するはずです。
禁煙説得術③褒めちぎる3つ目の説得術は、「責めない、叱らない、褒めまくる」というアプローチです。褒めることは説得につながります。家族、恋人、友人が、禁煙を始めたら、周囲の人は「褒めちぎる」ことを心がけるようにしてください。褒めの効果について、スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエック教授の言葉を1つ紹介します。教授は教育心理学、発達心理学の専門家で、同じ才能を持ちながら伸びる子、伸びない子の違いを研究。その差はマインドセットにあるとして、『マインドセット!「やればできる!」の研究』(草思社)などの著作を発表しています。実際、教授の教えを受けた子どもたちの9割が次々と難問に挑戦するマインドを持つようになるなど、「働きかけ次第で人は変われる」ことを立証してきました。そんなキャロル・S・ドゥエック教授が繰り返し発信しているのが、次のメッセージです。「まだできない。これからできるようになる」禁煙はしんどく苦しいものです。事故的にタバコを吸ってしまうなど、失敗することも多々あります。イライラを周囲にぶつけてくる場面もあるでしょう。そうした苦しさの渦中にある人をサポートする側にとって、常に心に留めておきたいのが、「まだできない。でもこれからできるようになる」というマインドです。先程、3日目、3週間目、3カ月目が禁煙を成功させる上での節目になると紹介しましたが、きりのいいタイミングは無視して、まずはとにかく少しでもタバコを吸わないでいられたら、褒めていきましょう。朝起きて一服するのが習慣だった人が、吸わずにいたら「すごいね」、食事の後にいつも吸っていた人が、おもむろにガムを嚙み出したら「あ、『ifthenプラン』実践している!」、行きつけの居酒屋で飲み友達に「禁煙を始めたから、タバコは勧めないでくれ」と宣言したら、「すごいね!私からもよろしくお願いします」。とにかく褒め倒しましょう。褒めることには禁煙を持続させる効果もあります。繰り返しになりますが、人は「自分で自分をコントロールできている」と感じられるとき、自信を持てるようになります。つまり、自己コントロール感が得られていると、取り組んでいることを継続できるようになるのです。禁煙に関して言えば、自分で宣言したこと(パブリック・コミットメント)、自分で計画したこと(ifthenプラン)などを周囲から褒めてもらうことで、自信が増し、自己コントロール感が高まります。すると、未来に向けても禁煙を継続できるという自分への信頼感が生まれるのです。整理をすると、こういうことです。自分で計画したことに成功する褒められる自己コントロール感が増す「自分は未来の結果をコントロールできる」という気分が育つ未来の自分を大事にする意識が強くなり、より自己コントロールが効くようになる禁煙成功率を高める効果的な褒め方とは?ただし、ただ褒めればいいというわけではありません。もちろん褒めないよりは褒めた方がいいですが、より効果的な褒め方があります。ポイントは、努力よりもプロセスと結果を褒めることです。例えば、タバコの代わりにガムを嚙んでいるのに気づいたら、「本当によくがんばっているね」ではなく、「あ、『ifthenプラン』実践しているんだ。さすがだね」といった感じです。努力よりも結果につながっているプロセスにフォーカスすることで、褒められている側の自己コントロール感が増すのです。仮に努力を褒めるときも、「真剣に『ifthenプラン』を書き出していたもんね」「本当にタバコやライターを捨てたときは、びっくりした。あの努力があったから、禁煙が続いているんだね」など、「あの努力が成果につながるプロセスになっている」という視点を大事にしていきましょう。すると、事故的にタバコを吸ってしまった後も「どうにでもなれ効果」が発生しにくくなります。というのも、単に我慢して禁煙していた人がその努力を褒められていたのと異なり、結果につながるプロセスを褒められた人は「今は失敗したけど、あの禁煙法に戻れば大丈夫」と立ち戻るべき場所があると思えるからです。我慢という努力の量を倍にしても事故的な喫煙は防げませんが、「喫煙リマインダーを消す」「喫煙トリガーを分析する」というプロセスを知っている人は、そのやり方を改善することで次の事故的な喫煙を防ぐことができます。これが、「まだできない。これからできるようになる」ということです。「誘惑の少ない環境」作りに協力する褒めることと並行して、「喫煙リマインダーを消す」ことには家族、恋人、友人も積極的に関わっていきましょう。例えば、本人がタバコやライター、灰皿などを捨てきれない場合は、あなたが預かる。禁煙開始日に合わせて、これまで本人がタバコを吸っていた場所を一緒
にピカピカになるまで掃除する。そんなふうに、タバコを吸いたくならない環境を整備していくのも禁煙成功率を高めるために周囲ができることです。科学的に証明された「誘惑に打ち克つ方法」は2つあります。方法の1つは「自己コントロール感」をアップさせることで、こちらは褒める説得術で後押し可能です。そして、もう1つが、「誘惑のない環境作り」です。禁煙で言えば、まさに「喫煙リマインダーを消す」が当てはまります。ちなみに、このどちらが「誘惑に打ち克つ率」が高いかについての実験も行われています。研究者たちは159人の参加者を募り、全員に「瘦せる」「外国語を学ぶ」などの目標を決めてもらい、その後、全員に実験用のスマホを渡し、定期的に次の3つのポイントを記録してもらいました。・今、この瞬間、どんな誘惑が目の前にあるか・誘惑に勝つために何をしたか・1日の終わりにどれだけ消耗したと感じたか実験期間は1週間で、最終的にすべてのデータをまとめたところ、以下のような結果が出ました。・自己コントロール能力を使って、目標にいどむよりも、誘惑が少ない環境に身を置いた方が、誘惑に打ち克つ率は高まった・ただし、同じように誘惑が少ない環境にいた場合は、もともと自己コントロール能力が高い人の方が誘惑に打ち克つ率は上昇する・誘惑が多い環境に身を置くほど、1日の終わりに強い疲労感を感じる・1日の終わりに強い疲労感を感じた参加者ほど、誘惑に打ち克つ率は低かったこの結果を受け、研究者たちは誘惑に打ち克ち、よりよい自己管理を目指すなら、なにより誘惑の少ない環境を作る方が有効だと指摘しています。もちろん、禁煙の成功には自己コントロール感が高いに越したことはありません。ただ、サポートする側は、並行して積極的に誘惑の少ない環境を作る手助けをすることでも、本人の禁煙プログラムの成功を応援していきましょう。
COLUMN運動で吸いたい欲求を抑えることができる!?禁煙の初期段階で起きるニコチン不足による禁断症状は、これまでニコチンが作用して脳内で分泌されていたドーパミンが減少することによって引き起こされます。その対処法となるのが「運動」です。運動すると脳内でドーパミンが分泌されるので、タバコを吸いたいという欲求を軽減させるという研究報告があります。激しい運動ではなくとも、10分程度のジョギングや筋トレでも効果があり、さらに日光を浴びながらであればドーパミンとともにセロトニンも分泌されるため、より高い禁煙効果を発揮します。ジョギングも筋トレもタバコを吸いながら行うのは難しいので、行動療法で言うところの「拮抗反応」(同時にできない行動によって悪い習慣を抑え込む)として吸いたい欲求を抑え込むことができます。つまり、「タバコを吸いたくなったらガムを嚙む」と同じように、「タバコを吸いたくなったら運動する」という「ifthenプラン」を立てておくことでも、ニコチンの禁断症状にも対抗できるようになるわけです。こうした手法は、「拮抗反応」を使った「習慣逆転法」と呼ばれていますが、これを10週間ほど続けると悪い習慣が改善されていくことがわかっています。研究者は、意識的に習慣の改善に着手した場合の改善率は10週間で18・5%、拮抗反応を使った習慣逆転法では10週間で52・5%の改善率になったと報告しています。これはじつに2・5倍の効能です。運動にはストレスを軽減する効果があることも、複数の心理学の研究から明らかになっています。例えば、ジョージア大学で行われた運動と脳の研究によると、20分の軽い有酸素運動をした後の3~4時間は、認知能力や行動力、考察力が高まることがわかっています。これは運動によって脳の血流が改善され、ドーパミンが放出されるからです。「ひと汗かいて気持ちがいい」というのは気のせいではなく、運動には人の感情をポジティブにする働きがあります。当然、禁煙によるストレスを緩和し、心を安定させる効果も期待できます。あなたの大切な人がタバコを吸いたくなったら、一緒に体を動かすことで、あなたのメリットも獲得できれば一挙両得になりますね。
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