第5章段取りで未来をつくる──やりたいことを実現していく秘訣
51〝究極の段取り〟はこれだ!やりたいことを成し遂げる〝流れ〟のつくり方52チェックリストは必須アイテム
チェックリストの効果的な使い方53失敗辞典をつくろう過去の失敗から学び、繰り返さない方法54やるべき最低限を見極める「必要」と「不要」の判断のコツEPILOGUE「20年後の緑川君」おわりに〝仕事の段取り〟から〝人生の段取り〟へ本文デザイン齋藤知恵子(sacco)イラスト・図版瀬川尚志カバーデザイン村﨑和寿
第5章段取りで未来をつくる──やりたいことを実現していく秘訣
51〝究極の段取り〟はこれだ!緑川君の憂鬱「はあ」緑川君のため息を聞いた藍川さんが声をかける。
「どうしたの」「いや、困ったことになってね。
今度の企画会議で提案しようと思っていた内容だけどダメになりそうなんだ」「あ、半期の売り込み強化商品の設定の件ですよね?どうしてダメなんですか」「いやね、僕は製品Bを課長に提案していこうと思っていたけど、実は青柳君が別の提案を出すらしくて」「そんなにすごい提案なの?」「内容は知らないけど、どうやら製品Aを推薦するらしい」「でも、緑川さんは製品Bを以前から強化商品にするべきだって言っていましたよね」「まあ、そうなんだけどね。
でも、青柳君が言っていることももっともだと……」藍川さんはキッと緑川君を睨んで言った。
「緑川さん、いつまで青柳さんに巻き込まれているんですか。
私だったら、製品Bを強化商品にしなきゃいけないという流れをつくりますよ」「流れをつくる?いやあ、無理だよ。
どうせあいつの思い通りになるのだから」「そんなことないわ。
流れを変えるように段取りすればいいのよ」「流れを変える段取り?」やりたいことを成し遂げる〝流れ〟のつくり方よく流れには逆らえないといいます。
私もその通りだと思います。
世の中の流れに乗らなければ、いかに素晴らしい製品やサービスであっても売れませんし、以前は大丈夫だった発言が世の中の変化によって、いまはNGということも多々あります。
仕事において流れを読むことは当然大事ですが、究極の段取りは、自分の夢ややりたいことが叶うように流れをつくることです。
優先順位設定をしっかりしても、仕組みをつくっても、それが自分のやりたいことでなければそれは楽しくない仕事だと私は考えています。
自分に流れなんかつくれないと思われる方もいるでしょう。
私もそのうちの一人でした。
前職のスーパーでは、現場は本社の指示を確実にこなすことを求められていました。
しかし、そのうちに私は本社の指示に戸惑ったり、不信感を持ち始めました。
お客様の求める商品を売るのではなく、バイヤーの都合のいい商品を売っているような気になったからです。
そこで、タイミングを見計らって自分の思う企画を成功させました。
あるとき、上層部から「地場商品」と呼ばれるその地域だけで圧倒的な支持を得ている商品に力を入れるようにと通達が出たのです。
私はその機会に、いままで溜めていたお客様のニーズ票やレジから上がってくるデータをまとめて商品部に要望を出して、ある商品を仕入れました。
それは「塩昆布」です。
私が担当していた地域は古くから昆布工場があり、その影響で塩昆布がほかの地域よりもよく売れていたのです。
その地元の塩昆布を仕入れて販売したことで大きな売り上げができました。
この結果を会議で報告すると、全店に地場商品の拡販が徹底されるとともに、お店からの要望が本部に通りやすくなったのです。
「塩昆布」の成功が会議で水平展開され、全社に広がったときは、広い湖に一石投げ入れたような気持ちよさを感じたものです。
このときに自分にも流れを変えることができると感じました。
仕事とは自分のやりたいことを実現させる場です。
そのためには流れをつくらなければなりません。
逆にいえば自分のやりたいことをやるための流れは時間をかけて溝を掘り、開通させるタイミングを待つような状態です。
何度もいいますが、究極の段取りは自分の夢ややりたいことを叶える流れをつくることです。
確かに組織にいる以上、会社の流れを変えるのは難しいことかもしれません。
しかし、難しいが不可能ではありません。
流れを変えるには現状の流れに問題点を見つけ、それに対して行動を起こすことです。
ただ闇雲に行動をするわけではなく、流れをつくるには、三つポイントがあります。
まず、影響力を持つこと。
インフルエンサーと呼ばれる方が発信した情報が世の中の流れに大きな影響を与えます。
仕事もこれと似ています。
少しでも高い立場につき、
自身が動かせる人の数や予算の額を増やすことが、自分自身の流れをつくる要素の一つになります。
もう一つは大きな方向性を決める場に同席することです。
いわゆる戦略や方針を立てる際には必ず出席し、自分の意見を積極的に発言します。
もちろん、周りを巻き込むためにはその根拠やプレゼン力なども必要です。
最後はルールをつくる立場になること。
私たち日本人が弱いのは、契約書や決まったルールには従わなくてはいけないと感じ、相手がつくった契約書やルールのうえでビジネスをしてしまいます。
しかし海外ではそうではありません。
ルールや契約に関して自分の主張をし、自分に有利なようにつくり替えようとする行動は当たり前と取られています。
それはルールや契約はつくったほうに分があるようにつくられているからです。
つまり、元締めは損をしないということになるのです。
ですから、ルールや契約などはつくる側に回り、戦う土台を自分のやりやすいように変えることがルールメイキングと呼ばれ、私たちも流れをつくるにはこの思考が必要になります。
究極の段取りは自分のやりたいことを成し遂げる流れをつくることです。
決してあきらめず、自分の流れをつくりましょう。
今回の緑川君のケースで、B商品を売りたいという流れをつくるためには、三つの段取りが必要です。
まず問題定義が必要です。
問題定義とは、みんなが解決しなければならないと考えるその悩みを確認することです。
例えば、このままではライバル社にシェアを奪われる、などとみんなが受け入れる問題を提案するイメージです。
「じゃあ解決しなければならないね」という流れを先につくることでB商品の提案が受け入れられやすくなるわけです次には大儀名分を得ることです。
B商品を売ることで〇〇を得ることができる、という論理的な理由です。
例えば、ライバル企業に比べて優位な立場を得ることができるとか、会社の利益に対して貢献できるなどと誰もが納得する理由を立てることです。
最後にキーパーソンの同意を事前に得ておくことです。
先に述べた地場商品の展開も、結構な時間をかけて商品部や各店の店長に根回しをして味方をつくっておきました。
いくら正論であっても、主張は通らないことがほとんどです。
だからこそ、自分のやりたいことを実現する流れをつくっていく必要があるのです。
結果を出す人へのステップ28夢や自分のやりたいことが叶う流れをつくる
52チェックリストは必須アイテム緑川君、プレゼンに成功する商談の帰り、課長は満足そうに緑川君に言った。
「今日は完璧だったな。
よくやった、緑川」「えへへ、ありがとうございます」「前回は、資料の部数が足らずに叱りつけたが、今回は本当に完璧だった」緑川君はスマホを取り出した。
「実はこのアプリを使っているんですよ」そう言って課長に見せた。
「なんだこれ」「チェックリスト・アプリです」「ほう、そんなものがあるのか……何なに、書類の枚数確認……並びの順番確認……人数分あるか確認……」「ええ、この通りやると間違いが防げます」「なるほど、こいつは便利だな。
わしも使おうかな」「わかりました。
えーと」緑川君は自慢げに自分のスマホを課長に見せた。
チェックリストの効果的な使い方チェックリストは段取り上手には必須のツールです。
たかがチェックリストかと思われる方もいますが、実はやりたいことをやり遂げたいと思うのであれば、まずマイナスになる部分をなくすべきです。
つまり失敗やミスを少なくすることが、やりたいことができる未来をつくるのです。
だからチェックリストは必須アイテムなのです。
チェックリストにはやるべき項目が細かく書いており、その項目をやり終わったときにチェックを入れていきます。
私自身講演の前には手帳に記したチェックリストを利用します。
パソコンとプロジェクターの接続などから、ホワイトボードマーカーのインクがきちんと出るかまで。
また、出席者のリストを確認することも欠かせません。
実は、これらは過去私が失敗したことがそのままリストになっています。
同じ失敗をしないようにリスト化して確認しているのです。
よくチェックリストを使うと考えなくなるので使わないという声を聞きます。
しかし、人間はミスをする動物です。
特に私のチェックリストにある項目は、一度犯したミスであり、見落としやすい事柄の可能性が高いので再発性は高いと思われます。
ですから、このようにリスト化し、チェックしてミスを防ぐのは有効な方法です。
またチェックリストを使ってチェックし終わると安心感が生まれます。
「よし完璧だ」という状態で講演をスタートしたいので、チェックリストには精神的な支えの側面もあります。
ただし、依存しすぎるのもリスクになります。
例えばチェックリストをつくることが目的になると、無駄なリストばかりが増えて結局使われなくなります。
また、チェックリストでリスト化された項目はミス率が減りますが、リストが用意されている分、掲載されていない項目は見逃しがちになります。
例えば「出張の持ち物チェックリスト」をつくってはいても、季節が変わればそのリストに載っているもの以外の準備が必要となるかもしれません。
チェックリストはあくまで同じようなミスを起こさないためのツールの一つであり、完全なものではありません。
またダブルチェックも欠かせません。
チェックリストをつくっても、チェック漏れが起きることがあるからです。
ダブルチェックをする際に気をつけなければならないのは、同じ方法でチェックをしないということです。
同じ人が同じ方法でチェックをしても、同じことを繰り返す確率が高いものです。
落とし物をしたとしましょう。
歩いてきたルートに沿って探してみたが見つからない場合は、逆に歩いてみるのが得策です。
同じ方向で歩いて
探しても同じ視点なので見つかりにくいですが、別の方向から歩くと視点が変わるからです。
このようにダブルチェックは違った角度からするように心がけましょう。
チェクリストを使ってミスを未然に防ぐのは当たり前、段取りの達人は使い方が違うのです。
だから洗練された仕事ができるのです。
結果を出す人へのステップ29ミスは誰にでも起きるという前提でチェックリストを使う
53失敗辞典をつくろう緑川君、青柳君の秘密を知る緑川君は青柳君と焼き鳥を食べている。
青柳君が誘ってきたのだ。
「どうしたの。
珍しいね、青柳君が誘ってくれるなんて」「実はね。
今日、大失敗したんだよ」「ええっ。
君が?珍しいね。
どんな失敗をしたんだい」青柳君は今日の失敗を緑川君に話した。
「えっと、その失敗って、確か3カ月ほど前にも同じ失敗をしたよね」緑川君の指摘に青柳君はうなだれながら返事をした。
「ああ、だから余計落ち込んでしまうんだよ。
どうしてこんなことを繰り返してしまったのか」緑川君は青柳君の肩を叩きながら言った。
「いい方法教えてあげるよ。
ほらこれ」そう言ってカバンの中からノートを取り出した。
「なんだいこれは?」「失敗ノートさ」青柳君は目を丸くして緑川君に聞き返す。
「失敗ノート?」「ああ、いままでした失敗をノートに書いているんだよ」「へえ、すごい量だね」「ああ、失敗の数だけは誰にも負けないよ」緑川君はどや顔をして言った。
「どんな効果があるんだい」「まず読み返すことで過去の失敗から学んだことを思い出すんだ。
そして自分がどんな失敗をしやすいかを知っておくと失敗の数が劇的に減るんだよ」青柳君は緑川君の手を握って真顔で言った。
「頼む、緑川君、そのノートの書き方を教えてほしい」過去の失敗から学び、繰り返さない方法私たちは成功するためにはどうすればうまくいくかに興味が集中し、成功事例から多くのことを学ぼうとします。
また、失敗した直後は反省をして、そこからの教訓を学ぼうとしますが、一方ですぐに失敗したことを忘れようとしたり、学んだことを実行しないなど、また同じ失敗を繰り返してしまう傾向があります。
失敗は成功のもと、といいますが、このような学び方をしていると失敗は失敗のもととなり、致命的な失敗をしてしまいます。
ですから成功から学ぶよりも、失敗から学ぶことが「仕事のサラダ」を実践する秘訣なのです。
さらにいうと、自分自身が失敗した経験から学んだことがその人の成長に一番影響力を持つわけです。
そこで失敗辞典をつくりましょう。
過去の失敗を記録し蓄積するのです。
私も失敗辞典をつくっていまも活用していますが、学ぶことが多いですし、大いに役立っています。
書き方ですが、大きく4つの項目にします。
まず事象です。
ここは主観を交えず起きた事実を書きます。
例えば、「商談で取引先に渡した提案書の宛名が、別の会社名になっていた」などと事実だけを書きます。
そして次に原因を書きます。
「前回使った提案書をそのまま流用し、社名の修正を忘れていた」原因は明確に究明されなくてもOKです。
その時点で考えられる原因を予測でもいいので書きます。
原因が明らかになったら追加で記入すれば
いいのです。
次に起きえたリスクを書きます。
たとえそこまで進展しなかったとしても、起きえた最悪のケースを想定して書きます。
「他社の内部情報が漏洩することで、甚大な信用失墜の可能性」このように今回は大きな被害が出ていなかったとしても、最悪のケースを想定することが大事です。
そして再発防止策を書きます。
「提案書や見積書を使いまわさない」これが教訓となり、あなた自身のミスを減らす最大の手法となります。
あとは失敗辞典に定期的に目を通すことです。
これは個人だけではなく組織としても有効です。
当社では新入社員や中途採用の社員の教育の一環としてプログラム化してこの資産を活用しています。
失敗は資産です。
この資産を活用し、同じ失敗を繰り返さない。
この資産を活用することが素晴らしい未来をつくり上げるのです。
結果を出す人へのステップ30起きた失敗は記録してデータベース化する。
54やるべき最低限を見極める帰れない緑川君夜10時、課長は緑川君に声をかける。
「おい、緑川、いつまで仕事しているんだ」「はい、もう少し段取りを組んでから」「最近、君は確かに段取りが格段によくなったが……それはなんの資料づくりだ?」「ええ、明後日の大西観光様の打ち合わせのために準備をしています」課長はびっくりした。
「何?まさかこの書類すべてそうなのか」「ええ、大西観光さんは結構いろんなことを当日聞かれるので万全にしたいわけです」「それはわかるが、どうしてそんなにあるんだ」「えっと、リスト化しています。
まず、製品別の機能紹介を整理した書類と、来年以降の市場調査結果をアレンジ、あと中国の市場動向と日本の比較……」「おいおい、それは本当に必要なのか」「ええ、万が一のことを考えると必要です。
あ、そうだ、あの書類もあったほうがいいな」「必要」と「不要」の判断のコツ素晴らしい未来をつくるためには何をするべきかを考えることは大事です。
しかし、もっと大事なのは「何をしないのか」を決めることです。
段取り上手な人は最低限が何かを考えます。
逆にいえば不要な準備はしないのです。
例えば会議の際に資料をたくさんつくり持っていくとします。
しかし会議終了後に確認してみたら、その大半は使っていないとすれば、それは「無駄」となるわけです。
段取りを組むと不安が減ります。
だから完全な段取りを組みたい気持ちはわかりますが、段取りも度が過ぎると逆にミスの原因になりかねないわけです。
私はよく釣りに行きますが、釣りも段取りが大事です。
釣り場に行って、「あれオモリがない」ということになってしまうと魚を釣る時間がどんどん少なくなるからです。
しかし、だからといってあらゆる装備を持ちすぎると運ぶのも大変ですし、いざというときに必要なものが取り出せず、肝心な魚を釣る時間が減ってしまいます。
ですから「止めどころ」を知ることが大事なのです。
止めどころとは「できるけれどやらないという判断」です。
この止めどころとは「最低限必要である」ともいえます。
止めどころを決める際に私は「必要」と「願望」を分けて考えています。
必要とはそれがないと実害が出るもの、願望とはあると望ましいものです。
「あったほうがいいよな」と考えると不要なものも準備してしまい、生産性が低くなってしまいます。
このように素晴らしい未来を手に入れるには、「必要」か「願望」かを知り、何を手放すかを決めることです。
結果を出す人へのステップ31段取りは「必要」と「願望」を分けて組む
EPILOGUE「20年後の緑川君」「社長が社長になろうと思ったのはいつですか」秘書になりたての茶白まゆが緑川君、いや、緑川社長に尋ねた。
「僕が社長になろうと思ったのはいまから15年ほど前かなあ」アナウンスが日本への入国手続きについて説明している。
緑川社長はCAがきれいについだシャンパングラスを持ちながら言った。
「え……入社したときからだったんじゃないのですか」「ははは、入社したときどころか、あなたと同じ年齢のころは、とにかく叱られないようにとばかり考えていたよ」茶白は驚いた様子でさらに質問を重ねた。
「社長が叱られるなんて想像できません」「ははは、叱られるどころか、周り全員から『いらない』と思われているダメダメ社員だったよ」「でもいま社長をされていますよね」「ああ、なるって約束したからね」「約束……どなたにですか」「父だよ」茶白は笑顔で反応した。
「じゃあ、社長になられてさぞ喜ばれているでしょうね」緑川社長は答えた。
「残念ながら父は私が社長になったのを知らない。
15年前に亡くなったからな」茶白は頭を下げた。
「それは……失礼しました」「いや、いい。
当時私は、このままではダメだ、と思って、思い切って会社の新規プロジェクトに社内応募してシンガポールに赴任したんだ。
まあ、これが勉強になったね」「すごい抜擢されたんですね」「違う違う」笑いながら緑川社長は言った。
「逃げ出したというのが正直かな、何をやってもうまくいかず、段取りの悪い自分が嫌になって、やけくそになっていたんだ」茶白はうなずきながら聞いた。
「海外はね、日本と違い仕事の進め方がまったく違うんだ。
赴任して3日目に日本に帰ろうと思ったくらいだね」「でも帰らなかったんですね」「ああ、ここで帰ると負けるという悔しさもあったけど、日本で習った段取りが結構使えてね」「……」「あ、知らないかな。
仕事の順番を決めたり、仕組みをつくったり、根回しをしたり……」「なんだか難しそう」「難しいけど、これは仕事の基本なんだ。
私はもともと段取りが苦手だったので考えたのが、誰よりも早くから、そして多くの時間を段取りにかけることだった。
例えば、茶白さんは課長を命じられたら何を勉強するかな」「課長をしろって言われたら……課長になるための勉強をしますかね……」「うん、そうだと思う。
でも僕は考えたんだ。
それじゃ僕は間に合わない。
周りにも負けてしまう。
だから人より先にもっと勉強しなければならないと考えたんだ。
課長になったら次は部長の勉強、部長になったら取締役の勉強っていうふうにね」「すごいです」茶白は興奮気味に言った。
「運のいいことに海外に赴任すると、長時間働くこともなく、プライベートの時間も十分にあったしね。
あと海外赴任している他社の方が集まってる勉強会があってね。
そこに集まる連中もまた超一流だったね」「でも段取りができているだけで社長になれるって……信じられません」「ははは、そりゃそうだ。
でもね、段取りは仕事そのものなんだよ。
例えば限られた時間の中で何をするかを決めること。
これが意外とできていない人が多いんだね」「私も苦手です。
ついつい全部頑張ろうと思います」「うん、私もそうだった。
でも、ほんの少し考え方を変えると、仕事はサクサク進むし、仕事が楽しくなるし、さらに周りから評価される」
緑川社長は少しトーンを落として続けた。
「実は、私が社長になった理由はもう一つあってね。
そのころ、父が倒れたと連絡があったんだ。
急遽一時帰国して病院に行ったんだ」「はい」「父は案外元気そうではっきりと意識があった。
そこで父は私にこう言った」緑川社長は少し涙目になり言った。
「『いいか、信二、トップを目指せ、社長をな』。
こう言うんだよ。
もともと父は板前だったから、苦労して板長になった経験からそれはいつもの口ぐせだった」「そうなんですね。
お父様は料理人だったとは知りませんでした」「ああ、料理人だけに段取りにうるさい人でね。
逆に私は段取りが下手だったので、子供のころから叱られてばかりだったよ。
でも彼が言うには……」緑川社長は一息ついて言った。
「『調理場も事務所も変わりねえ、段取りができねえ奴はプロじゃない』。
まあ、頑固な職人だったからね」「社長はお父さんの後を継がなかったのですか」「そんな父親と一緒に仕事するなんて想像できなかったね。
でも、父が亡くなって母親が教えてくれたよ。
実は父は僕の包丁をつくってずっと置いていたということを」茶白は声が出なかった。
「父が亡くなったのは、私が日本からシンガポールに向かっている途中だった。
仕事の段取りがうまくいかず戻ることになったんだ。
あと1日いれば父を送ることができたんだけど……」茶白は両目から涙をポロっと落とした。
「段取りって無駄を取ることで。
無駄は大切なことをする時間を蝕むんだよ。
私は父の最後を看取ることができないという犠牲を払ってしまった。
段取りが悪い自分をこのときほど反省したことはなかったよ」「残念です」茶白はハンカチで目を押さえた。
「まあ、悪いことばかりじゃない。
私はおそらく父のそばにいたらきっとこう言っていたと思う。
『社長は無理だ。
とても約束できない』と。
これを言えずにいたから、きっと社長になったんだろうね」「はは……あまり笑えません」茶白は鼻をすすりながら笑った。
「社長になろうと思ったのはそのときだね。
幸い海外で仕事をしたから、日本の段取りの組み方とレベルが違う。
ついていくのが精いっぱいだった。
でも勉強になったよ」「私にはとても無理です。
段取りが悪いのは自覚していますから」緑川社長は言った。
「私も昔はそう思っていたよ。
でもね、ある日、夢の中に仙人のようなおじいさんが出てきてね……」「おじいさんが……」「私は夢の中で当時のライバルがミスをするようにと願をかけていたら、ばかもんってね。
段取りに一番大切なことを教えてくれたんだ」茶白は笑った。
「私にも出てきてくれますかね」「いい仕事、そして楽しく仕事がしたいと思っているときっと出てくるよ」緑川社長はファーストクラスの白いシートに座り、沈みゆく夕日を見ながら言った。
おわりに〝仕事の段取り〟から〝人生の段取り〟へ私はインバスケットのトレーニングを始めたときに、初めて自分の段取りの悪さを知りました。
あと先を考えない仕事の進め方、とにかく数を減らそうとする処理の仕方、ぶっつけ本番でなんとかなるという怖いもの知らず……それらすべての気づきは「どうしたら限られた時間の中でよい仕事ができるのか」という疑問を持つことから生まれたものでした。
私たちは自分のやり方が一番いいと思って仕事や生活をしています。
でももっと欲を出していいのではないでしょうか?もっとラクになりたい、もっとスムーズに物事を進めたい……このような欲を持って初めて段取りが上手になるからです。
我慢したり、試練だと思うよりも、我慢しなくていい生活、試練よりもゲームのように楽しめる仕事のほうが、とても明るく素晴らしい人生になると思います。
本書は段取りについて書いてきましたが、私自身はいま人生の段取りを考え始めています。
まだ50歳にもなっていないのに、もう終活かといわれてしまいそうですが、デッドラインつまり締め切りを設定すると、無限に時間があるわけではないのです。
80歳をデッドラインに設定して自分の生活をサラダ的に送るにはどうするか?こう考えると、初めて見えてくることがあります。
50代のうちにできるだけ挑戦をし、体力が必要な海外旅行にも行っておき、後継者を育て、60歳になったら自分の好きなことに没頭したり、自分の可能性を再発掘したり……、こう考えるといまやるべきことが見えてくるのです。
つまり段取りを考えて人生を送ることで、自分の人生がデザインできて、理想の生き方ができるのではないかと思っているわけです。
いつか人生の段取り術のような本を皆さんにお届けできればいいですね。
さて、本書もそろそろ筆を置くころがやってきたようです。
最後になりますが、本書を企画、編集いただいた大和出版と関係者の皆さんに謝辞を申し上げるとともに、最後までお読みいただきましたあなたにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
ぜひ、頑張らないように頑張ってください。
株式会社インバスケット研究所代表取締役鳥原隆志
鳥原隆志(とりはら・たかし)株式会社インバスケット研究所代表取締役。
インバスケット・コンサルタント。
1972年生まれ。
大手流通のダイエーにて精肉や家具、ワインなどさまざまな販売部門を経験した後、10店舗を統括する店舗指導員(スーパーバイザー)として店舗指導や問題解決業務に従事。
昇進試験時にインバスケットに出合ったことから、研究とトレーニングを開始し、その経験を活かして株式会社インバスケット研究所を設立。
主に法人向けのインバスケット教材開発と導入サポートを行う。
講演や研修及びテレビや雑誌でも活躍中。
日本のインバスケット第一人者として、国内のみならず海外でも精力的に活動している。
著書は、『一生使える「仕事の基本」』『必ず結果につながる「思考の習慣」』『仕事は8割捨てていい』(大和出版)、『究極の判断力を身につけるインバスケット思考』(WAVE出版)、『たった5秒思考を変えるだけで、仕事の9割はうまくいく』(KADOKAWA)など多数。
累計80万部を超える。
トップ1%が大切にしている仕事の超キホン一生使える「段取り」の教科書著者:鳥原隆志©TakashiToriharaこの電子書籍は『一生使える「段取り」の教科書』(大和出版)二〇一九年六月三十日第一版一刷発行を底本としています。
電子書籍版発行者:瀬津要発行所:株式会社PHP研究所東京都江東区豊洲五丁目六番五二号〒1358137https://www.php.co.jp/digital/製作日:二〇一九年八月二十八日本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例外を除き、禁じられています。
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