「増えたか、減ったか」ですべてがわかるB/Sの最低限の読み方を理解したら、次は「P/L(損益計算書)」です。
前章で私は、「社長はB/Sだけ見ていればいい」と指摘しました。
ならばP/Lを読む必要なんてないのでは?と疑問を持つ社長もいるでしょう。
じつはそのとおりです。
黒字が続いている会社なら、社長がP/Lを読み込む必要はありません。
経営で最も大切なのはキャッシュです。
キャッシュを生み出す方法はたった3つ。
「借入れ」「減価償却」「事業で利益を出す」事業が黒字で利益が出ているなら、社長がP/Lを読み込んで現場にあれこれ指示を出さなくてもいい。
むしろ現場の邪魔になる。
しかし、赤字の会社と、黒字なのに計画どおり利益が出ない会社は別です。
赤字が続くとキャッシュが減り、借入れなどほかの手段でキャッシュをカバーできなくなると、倒産にいたります。
計画どおりに利益を出すためには、社長も一緒に対策しなければなりません。
また、黒字が続いている会社も、利益が増え続けているか、最低限のチェックは必要です。
定期的にチェックを行い、異常値が見つかれば早めに手を打つ。
傷が浅いうちに対策できれば、リカバリーは容易です。
チェックの方法は、じつにシンプル。
ひたすら「増えたか、減ったか」をチェックするだけです。
まず毎月、月次でP/Lを出して、前年同月と比べて増えたか、減ったかを調べます。
難しい計算はいりません。
増減のチェックだけなら、誰でもできます。
前年同月で比べるのは、季節の変動があるからです。
アイスクリームは夏に売れるし、企業向けの商品は決算前にかけ込みで売れる。
こうした変動要因があるのに、同年前月と比べて増えた、減ったはナンセンス。
去年の8月は暑かったのに、今年の8月は雪が降るなんてことはほとんどない。
前年同月と比べ、増減傾向を正しく見極めます。
売上に惑わされずに「利益」に注目比較するのは、粗利益(売上総利益)と営業利益です。
真っ先に売上を気にする社長が多いが、売上は会社の収益力を示す数字ではない。
売上は、市場における会社の存在感を示す数字。
会社の実力=事業で儲けているかは、粗利益と営業利益に表れます。
売上100億円で粗利益5億円の会社と、売上30億円で粗利益10億円の会社があれば、稼ぐ力は後者が上。
売上に惑わされず、まず利益に注目することが大切です。
利益を前年同月と比較した結果、プラスなら何もしなくてかまいません。
マイナスなら異常発生で、原因を究明して対策を指示する。
社長がやるのはそれだけです。
利益がマイナスの原因は2つ。
売上が減ったか、原価や経費が増えたかです。
売上減が原因なら、さらに売上に関係する数字を前年同月と比べます。
客数が減ったのか、客単価が下がったのか。
具体的にどの商品の売上が下がったのか。
それらを調べることで次の手が見つかります。
原価や経費が増えたケースも同じです。
原価が増えたのは、仕入値が上がったのか、それとも数量を仕入すぎて売り逃したのか。
増えたのは固定費か、変動費か。
このように、「増えたか、減ったか」のチェックを繰り返せば、利益が減った原因が明確になる。
あとは原因を取り除くだけです。
「財務会計」ではなく「管理会計」でP/Lは、事業部門ごと、営業所や支店ごとに出します。
株主など外部の人や関係者に開示するための会計を「財務会計」と呼ぶのに対して、社長が経営判断のために使う会計を「管理会計」と呼びます。
法律で求められているのは財務会計で、非上場企業なら年1回、全社ひっくるめて決算すればいい。
しかし、それではザルすぎて実務で役立ちません。
A事業が赤字、B事業が黒字で、全社で黒字の場合、財務会計では問題点に気づけない。
A事業の赤字が膨らみ、全社の利益がマイナスになって初めて異常に気づくのでは遅すぎます。
社長がチェックすべきは管理会計です。
毎月、事業部門や営業所、支店ごとに行うと、きめ細かいチェックができます。
P/Lの〝逆算〟で会社を守る方法社長は普段、P/Lをじっくり読まなくていい。
利益が「増えたか、減ったか」だけをチェックすれば十分です。
しかし、経営計画を立てるときだけは別です。
年1回は、穴のあくほどP/Lを見なくてはいけません。
経営計画作成は、来期の利益を決めることからスタートします。
ポイントは、利益は結果として「決まる」のではなく、社長があらかじめ「決める」こと。
「売上がいくらで、経費がいくらだから、来期の利益はこうなる」ではなく、「来期は利益がこれくらいほしいから、売上をいくらにして、経費をいくらにする」と考える。
つまり現状からの積み上げ式ではなく、ほしい利益から逆算してそのほかの数字を決めていく。
P/Lは、この逆算をするときに使います。
「経常利益」→「減価償却費」→「人件費」→「粗利益」→「経費」の順図表7を見てください。
最初に決めるのは「経常利益」です。
経常利益は、社長が好きに決めていい。
テキトーでいいから、まず決めることが大事です。
経常利益を決めれば、あとはP/Lを上へさかのぼって計算していきます。
営業利益は、「経常利益+営業外収益-営業外費用」で出せます。
営業外収益や営業外費用は、P/Lを見ればわかります。
次に「減価償却費」です。
B/Sを見て、有形固定資産の15%で計算します。
業種によって多少違いがありますが、経営サポート会員の95%はこれでだいたい合っています。
その次は「人件費」。
これは平均給料×人数で導けます。
「粗利益」に労働分配率を掛けたものが人件費になるので、人件費がわかれば必要な粗利益も逆算できる。
「人件費÷労働分配率」が「粗利益」です。
これらの数字が出揃えば、「経費」の計算も簡単です。
「粗利益-人件費-減価償却費-営業利益」が来期に使える経費になります。
一方、粗利益がわかれば、「粗利益÷粗利益率」で「売上」が決まり、「売上-粗利益」で「仕入」が決まります。
このようにP/Lを下から逆算することで、来期に稼がなくてはいけない売上が明確になります。
社長がほしい経常利益を決めると、来期の売上が自動的に決まることだけ覚えてください。
多くの社長は、利益は結果として生まれるものだと考えています。
しかし、ふたを開けるまでわからないのは無責任。
結果として利益が足りなければ、会社が傾きかねない。
利益は社長の意思で決定して、その利益を生むために必要な額を計画的に売っていく。
会社はP/Lの逆算で守ります。
赤字部門を黒字化する秘策ある事業の利益が赤字になったとき、テコ入れで新たに人やお金をつぎ込む社長は、経営がわかっていません。
赤字対策として正しいのは、むしろ人やお金を減らすこと。
社長が決断すべきは、事業の縮小です。
事業が赤字になる原因のひとつは、売上不振です。
だから営業マンを増やしたり販促費をかけたりして売上を増やすべきだと考える社長は少なくない。
たしかに、それで黒字転換できる可能性はあります。
ただ、数年続いている赤字事業に新たに人や金をつぎ込むのは愚策です。
赤字事業につぎ込むリソースがあるなら、黒字事業に人とお金を回す。
そのほうが全体の利益は増える。
売れ行きの悪い商品と、黙っていても売れる商品があります。
同じ販促費をかけるなら、売上の伸びが大きいのはもともと売れている商品です。
これは事業も同じです。
赤字事業と黒字事業に同じ人やお金をつぎ込んだら、黒字事業のほうが利益額の伸びは大きい。
会社としては、赤字事業の立て直しより、黒字事業の拡大にリソースを使うことが正しい。
では、黒字事業につぎ込むリソースはどこから持ってくるのか。
新たに人を採用したり借り入れたりしてもいいが、赤字事業を縮小して、そこに費やしていた人やお金を回せばいい。
とくに大事なのは人です。
赤字事業から人を減らせば、人件費が下がるので損益分岐点が下がります。
さらに、損益分岐点になるまで人を減らせば、その事業の赤字も解消される。
黒字事業に人を回せるうえに赤字もゼロに近くなるから、一石二鳥です。
お客様がいて事業を縮小できないなら、アウトソーシングしてもいい。
栃木県にある医療法人恭友会はせがわ整形外科クリニックの長谷川恭弘院長(理事長)は、元日本女子バレーボールチームで大林素子選手や吉原知子選手が活躍していたときのドクターで、院内だけでなく患者の自宅にも社員を派遣するサービスを行っていた。
社員は移動中もコストがかかるので高コスト。
このサービスは注文が入れば入るほど赤字でした。
経営的にはやめるべきサービスです。
しかし、困っている患者さんを見捨てるわけにもいきません。
そこで長谷川院長は、社員の派遣をやめ、個人事業主のあんまマッサージ師と契約を結んで派遣することにした。
個人事業主から手数料を取り、派遣すればするほど黒字になった。
派遣されていた社員も、別の黒字事業に従事できて万々歳です。
武蔵野もアウトソースを活用しています。
黒字でも、ダスキン事業で遠いエリアは、手数料を払って本部に配達を委託。
このエリアで頑張っていた社員約20人は、経営サポート事業部に異動させました。
経営サポート事業は20人補強してもすぐに不足するくらい成長し続けています。
遠いエリアを走り回らせるより、ずっと会社の利益に貢献しています。
この話には副産物があり、残業が激減しました。
遠いエリアに行かなくてよくなったので、22時退社が19時完全退社。
早い人は17時30分退社で、残業ゼロの部署が2つになりました。
事業撤退のコツは、ゆっくり、少しずつ赤字事業の立て直しが難しいので、いっそ事業をたたんでしまおうか——。
この決断は正しいが、やり方を間違えると赤字が拡大するので要注意。
黒字転換させるために様々な手を打ったものの、赤字が5年続く事業はどうやっても儲かる事業になりません。
5年経てば市場環境は激変します。
それでも黒字にならないのは、本質的にニーズがなかったか、時代遅れになった証。
撤退が正解です。
しかし、事業から撤退しても人は残ります。
人件費は払い続けなければならず、むしろ事業をやめたことで赤字が広がる場合がある。
これでは何のために事業から撤退するのかわからない(→図表8)。
この場合は、撤退時に黒字部門に人を異動させます。
ただ、売上の拡大余地のある黒字事業でないと人を吸収できません。
拡大余地のないところに人を投入すれば、逆に固定費が増えて黒字が減少しかねない。
では、ほかの人を吸収できる事業がない場合はどうするか。
人が自然に辞めるように、ゆっくり、少しずつ撤退します。
かつて武蔵野にはクリエイト事業部がありました。
2億8000万円を投資したが、売上は合計3000万円で、赤字が毎月400万円出た。
私の決断は、撤退です。
しかし、この事業で雇っていた150人のパート社員の行き先に困りました。
パート社員はクリエイト事業部の採用で、ほかの事業部に異動させても戦力にならないし、本人たちも異動をイヤがります。
かといって、パート社員の整理解雇は大変なエネルギーがいります。
解雇は恨みを買うので、会社の評判の面でもよろしくない。
悩んだ末に行ったのが、支店の統廃合です。
当時、クリエイト事業部はJR中央線沿線に東から吉祥寺、三鷹、武蔵境と3か所の支店を持っていました。
人数はバラつきがありますが、平均すると1支店50人で計150人でした。
まず、吉祥寺支店と武蔵境支店の遠いところ同士を統合して武蔵境支店に集約しました。
単純計算すると、新しい武蔵境支店は50人プラス50人で100人になります。
しかし、パート社員は地域密着。
吉祥寺支店で働いていた50人のうち半数は「武蔵境は遠い」と言って自分から辞めていきました。
新しい武蔵境支店は75人になりましたが、日が経つとポツポツ辞めていきました。
しばらくして三鷹支店と武蔵境支店を統合。
同様に通勤がつらいと思った人が辞めていき、新しい武蔵境支店は50人になった。
最後は、武蔵境支店を閉鎖して、東小金井本社に事業部を集約させました。
統合前に約50人まで減っていたパート社員は、とうとう十数人になった。
ココまで減ったので、ほかの事業部に異動させました。
撤退を決めてから、支店の統廃合を経て最終的に事業をたたむまで、約半年かかりました。
ただ、時間をかけた甲斐あって、150人の大多数は自然に辞めました。
撤退時の人件費の問題は、こうやって解決しました。
赤字部門の撤退は正しい決断です。
しかし、慌てて撤退すると傷口が広がります。
ダメージが最小になるように、計画的に事業をたたむことが大切です。
ひとつだけ、常に赤字事業を温存する理由P/Lに表れた赤字を放置すると、キャッシュが減ってB/Sも悪化します。
ただ、私はあえて赤字を放置することがあります。
赤字には赤字のよさもあるからです。
今期(2017年度)、武蔵野ではトンマなミスが相次ぎました。
あまりにひどいので、社員に向けてこう宣言しました。
「増収増益だろうが関係ない。
次の賞与は〝少与〟にするぞ!」どうしてつまらないミスが続出したのか。
事業が好調すぎて、社員が勘違いし始めたからです。
2017年度の春闘で、トヨタ自動車は1300円のベースアップをした。
武蔵野は3000円。
新卒の基本給も20万円台になった。
残業を減らす取り組みも順調で、上期は過去最高の賞与にしました。
すると、とたんに社員の仕事が雑になってしまった。
勝って兜の緒はしまらない。
凡ミスの連発です。
こういうときにありがたいのが赤字事業です。
赤字事業は人を育てます。
仕事を甘く見ている社員には、赤字事業で事業の厳しさをもう一度思い出してもらう。
兜の緒がしまるのは、やはり負けているときです。
社員に危機感を持ってもらうために、武蔵野は常にひとつは赤字事業を温存しています。
これは必要な損です。
前述のとおり、普段しっかり利益が出ているから必要な損ができます。
赤字は「事業承継」の千載一遇のチャンスもうひとつ、赤字には効用があります。
赤字になれば自社株の評価額が下がって、事業承継しやすくなります。
会社は株主のものです。
オーナー社長が会長に退いて子どもを社長にしても、株主が親なら会社はやはり親のもの。
いずれは株を子どもに譲渡して、名実ともに子どもをオーナー社長にしたいものです。
事業が好調なときの株の譲渡は、株の評価額が高いために莫大な資金と税金がかかりますし、銀行からの借入れも発生します。
借入れは会社を守ったり成長させたりするために行うべきで、単に税金を払うために借りるのはもったいない。
ならば、赤字で株の評価額が下がったタイミングでやればいい。
赤字は事業承継の千載一遇のチャンスです。
武蔵野は第45期のとき、持ち株会社をつくり、私が持っていた株の2分の1を娘に譲渡しました。
株の評価額は1円。
娘は半分の10万株、10万円で持ち株会社の筆頭株主になった。
株の評価額は、計画的に下げました。
3期前に大きく黒字を出して銀行から多額の借入れを行い、その後、2年半かけて業績を意図的に赤字にした。
戦略的に評価額が1円になるように、P/LやB/Sを変えていった。
事前に銀行から資金を調達したので、運転資金は問題ありません。
税務署は「継続性の原則」で判断し、3期連続債務超過なら、租税回避にならない。
無事に事業承継の一歩を踏み出しました。
その後、法律が変わり、私は黄金株の存在を知ります。
その際、残りの株式を持ち株会社に譲渡したが、業績がよかったから、5億円を要した。
じつは、私は株主総会の議決を拒否できる黄金株を1株だけ持っている。
これがあるから、娘は父ちゃんをクビにできない。
親子げんかしても大丈夫です(笑)。
短期間で事業承継できたのは、株式の評価が瞬時にわかるプログラムを開発した保険サービスシステム株式会社(東京都、保険媒介代理業)の橋本卓也社長に依頼したからです。
事業承継には何十も手法があります。
このプログラムを使って私に最適ルートを教えてくれたので、私も「正しく」かつ「早く」決断できました。
なぜ、新規事業は赤字期にやってはいけないのか?一方、会社が赤字のときに絶対にやってはいけないことがあります。
新規事業です。
赤字事業は撤退もしくは縮小させて、黒字事業に人やお金を振り替えるのが経営の基本です。
では、すべての事業が赤字で、人やお金を投入できる黒字事業がないときはどうするか。
ダメな社長は、新規事業をスタートさせて人やお金の受け皿をつくろうとします。
しかし、これが会社を危機に陥れます。
中小企業の新規事業は社長が直接見るか、エース級の幹部社員を投入するケースがほとんどでしょう。
しかし、赤字の現業から社長が目を離したり、エース級がいなくなったりすれば、赤字はますます拡大します。
一方、新規事業が単月で黒字になるまでは早くても数か月かかる。
会社全体としても赤字が膨らみ、倒産にどんどん近づいていきます。
新規事業をやりたいなら黒字のときに限ります。
しかも、社長やエース級社員が1か月いなくても、業績が下がらない体制が整っていることが条件です。
武蔵野が経営サポート事業を始めたのも、ダスキン事業が好調な時期でした。
ダスキン事業からK常務(現在退職)、佐藤義昭、中嶋博記といった優秀な幹部社員を引き抜いて経営サポートに投入したが、ダスキン事業は利益を出す仕組みができていてビクともしなかった。
ダスキン事業があったから、経営サポートに思い切った投資ができた。
よりどころになる柱がしっかりしていると、新しい投資に踏み切れます。
なかには、こう考える人もいるかもしれません。
現業はエース級社員に引き続き支えさせて、新規事業は外部からヘッドハンティングして担当させてはどうか。
これはうまくいきません。
外からきた人が成功すると、元からいたエース級社員は立つ瀬がない。
だから新規事業を応援しないし、場合によっては社長の見えないところで足を引っ張る。
逆に、エース級の幹部を新規事業に投入するとどうなるか。
現業の部長がいなくなると、課長が新部長に、一般社員が新課長に昇進します。
新しい部長や課長は、新規事業が失敗して幹部が戻ってくることが一番怖い。
もともと自分より優秀な幹部が出戻りになれば、再び課長や一般社員に降格させられる恐れがあるからです。
自分のいまのポジションを守るため、現業の社員は新規事業を必死に応援します。
現業のお客様のなかに新規事業を利用できそうなお客様がいれば紹介する。
こうすれば、社内から協力を得られ、新規事業が軌道に乗る確率も高まります。
現業が赤字だとエース社員を出せないので、このような流れができません。
新規事業は黒字のときに限ります。
新規事業に踏み切るサインはこう見抜く現業が黒字でも、本当に新規事業が必要かどうか、よく見極める必要があります。
「人口減少で市場は縮小する。
いまのうちに新規事業を立ち上げないとまずい」このように考えて新規事業を立ち上げる社長もいますが、本当でしょうか?じつは人口減による市場縮小をそれほど怖がる必要はありません。
下がるのは、売上だけではないからです。
原価や経費が下がらずに売上だけが下がったら利益が減ります。
しかし、人口減少時代は社員の数が減って人件費総額も下がります。
そもそも市場が小さくなれば、ライバル会社も減る。
人口減少に合わせてすべてがダウンサイズするので、取り立てて慌てる必要はない。
そのことに気づかずに新規事業をやるとどうなるか。
新しく目をつけた市場も客数が減るので、条件は変わりません。
新規参入時は経験やノウハウがないから、むしろ不利です。
経験やノウハウがある自分の庭で戦えばいいのに、わざわざいばらの道を歩むから、失敗する確率は高い。
新規事業が必要なのは、現業の市場が人口減でなく、テクノロジーの進歩などの理由で縮小するときです。
ガラケーの利用者が減るスピードは、人口減少のスピードより速い。
こういうときは新しい市場を見つけないと危ない。
現業が利益を出しているうちに新規事業に乗り出して軌道に乗せるべきです。
売上増は「客数」アップから?それとも「客単価」アップから?売上を増やす方法は2つあります。
客数を増やすか、客単価を上げるかです。
では、社長はどちらを選ぶべきでしょうか。
私なら、まず客数を増やすことを優先させます。
理由は単純。
客単価を上げるより客数を増やすほうが簡単だからです。
1000円の昼定食があります。
調理の手間をかけておいしくすれば、2000円で売れますか?まず売れません。
サラリーマンの小遣いは決まっています。
奥さんがお小遣いを倍にしてくれない限り、サラリーマンは2000円の定食を食べられない。
どうしても食べさせたいなら、翌日のお昼は水で我慢してもいいと思えるほどおいしい定食にしなくてはいけませんが、そんなことは無理です。
一方、ランチに1000円使えるサラリーマンはたくさんいます。
狙うなら、客数増です。
1000円のわりにおいしいと評判になれば、行列ができる。
サラリーマンに一食抜かせるより、こちらのほうがずっと簡単です。
この本だってそうです。
1500円の本を3000円にしても売れません。
私の本は3000円どころかもっと大きな利益を読者にもたらすが、市場の相場があるため、実際に3000円にしたら手に取ってもらえなくなる。
それより2万部が4万部になるように内容を磨いたほうが、ずっと現実味があります。
ところが、自分でモノを売った経験がない社長は、机上の空論で「客数増と客単価増、どっちだって同じじゃないか」と考えてしまう。
挙句の果てに、付加価値を高めずに無理な値上げをして、客離れを引き起こす。
客単価が上がっても、その分以上に客数が減ると売上は伸びません。
これでは本末転倒です。
客数が増えて売上が伸びるのは〝成長〟です。
一方、無理して客単価を上げて売上を増やすのは〝膨張〟と言う。
膨張は、ちょっとしたほころびですぐ破裂します。
売上増を客単価アップで実現させようとするのは無謀かつ危険です。
客単価を上げるのは、新規開拓で客数を増やして、既存客がリピーターになったあとです。
いつもきてくれるお客様に追加でデザートを勧めて、1200円にするのはいい。
断られても1000円は確保できます。
しかし、最初に客単価を上げる戦略を取ると、そもそも店に足を運んでもらえなくなる。
売上を増やしたいなら、この順番を間違えてはダメです。
営業マンの訪問回数、滞在時間が長いと売上もアップ高橋ソース株式会社(埼玉県、ソース製造)の高橋亮人社長が、競合商品を使っている会社に営業に行きました。
3回訪問したものの、色よい返事はもらえなかった。
「営業のやり方がまずいんですかね。
どうしたらいいんでしょう?」私は即座に答えました。
「自社のお得意さんのところに競合が営業にきて、3回で奪えると思いますか?普通はひっくり返らない。
最低でも10回、普通なら30回。
それで、高橋社長はお客様のところに何回行ったの?」営業成績が振るわない人は、うまくいかない原因をトークの技術や商品の質、価格などに求めます。
たしかに、それらに問題がある場合もあります。
しかし、よく話を聞くと、そもそも量が足りていない人が圧倒的に多い。
量が足りなければ、どんなにトークの技術があってもダメ。
やり方以前の問題です。
営業は、質より量——。
そのことはデータで裏づけられています。
武蔵野は「マイページPlus」という自社ソフトを使って、営業活動をすべて記録しています。
営業履歴はお客様ごとで、いつ、誰が、何分訪問したのかまでデータを取っています。
このソフトで訪問回数順にお客様をソートすると、売上額順に並べた場合と順位がほぼ重なります。
滞在時間順にソートしても同じ傾向が見て取れます。
営業マンの訪問回数が多く、かつ滞在時間の合計が長いほうが売上も多い。
とてもシンプルな法則です。
葬儀用品、住宅メーカーでは「量」をどうやって管理しているか量が大切だとわかれば、社長が見るべき数字もわかります。
前にも登場した株式会社イガラシの五十嵐啓二社長は、「マイページPlus」を使って営業マンごとに訪問回数を管理しています。
目安は1日6〜8件。
それより少ない営業マンは、やはり営業成績が悪い。
さらにユニークなのは、移動時間を記録していることです。
「社員には、担当地域に集中して回れ、と指導しています。
しかし、お客様の反応を見てすぐあきらめる社員は、逃げるようにしてほかの地域に行ってしまう。
そうなると移動時間が長くなるので、一目瞭然でさぼっているかがわかる。
商談時間と移動時間は4対6が目安。
2対8くらいで移動時間が長い社員は、成績もよくない」(五十嵐社長)一方、営業プロセスを細かく分解して管理しているのが、ALLAGI株式会社(大阪府、住宅メーカー)の谷上元朗社長です。
住宅営業は、資料請求してきた見込客に電話をかけて、展示場にきてもらい、次回のアポにつなげる流れで行われます。
谷上社長は、営業マンごとに電話をかけた件数を記録。
足りていなければ指導が入ります。
ココから先がおもしろい。
電話した見込客のうち何人来場してもらえたか、来場者のうち名前を書いてもらえたか、そのうち着座につながる一手が何人に対して有効だったか、そのうち何人説明を聞くために着座したか、そのうち何人1時間以上話したかまで、営業プロセスごとに件数を記録して可視化。
さらに次のプロセスへの移行率に目標設定して管理している。
着座した見込客のうち、1時間以上話す次のプロセスへの移行は69・2%、そこから次回アポを取るのは38・5%といった具合です(→図表9)。
「もし次回アポへの移行率が低い営業マンがいれば、トークに問題があるとわかる。
移行率が低い社員に対しては、ロールプレイングさせるなどしてスキルを磨かせます」(谷上社長)スキルを磨いて営業の質を高めれば、次のプロセスへの移行率は高まります。
ただ、いくら移行率を高めても、最初に電話する件数が少ないとどうにもならない。
あくまでも、量があっての質です。
谷上社長もそのことがわかっているので、電話を何件かけたかを含めて営業活動を毎日メールで報告させて、量を管理しています。
手間やお金をかけずに「量」を増やす方法営業は量次第です。
ところが、そのことに気づいている人でも量を増やすことに躊躇します。
量を追求すると、働く時間が長くなってきついと思っているからです。
たしかに、単純に量を増やせば負担も増えます。
しかし、そこは頭の使いよう。
いくらでも工夫の余地はあります。
私は妻を口説くときも量を重視しました。
毎日1枚ずつ、30日にわたってハガキでラブレターを送った。
妻は、私が毎日机に向かってハガキを書いたと思った。
自分のためにそんなに手間をかけてくれるなんて情熱的ね、というわけです。
じつは違います。
私は30日分をまとめて書いて、毎日1枚ずつ投函した。
まとめて書けば、労力はさほどかからない。
作戦勝ちです。
営業も同じです。
手間やお金をかけずに量を増やす方法はいろいろあります。
〝穴熊社長〟が現場に出たら、楽しくて仕方がない客数を増やす特効薬があります。
社長の直接営業です。
株式会社マキノ祭典(東京都、葬祭業)の牧野昌克社長は、自分で営業に行かない、本社にこもりっぱなしの〝穴熊社長〟でした。
しかし、尻をたたいて社長自ら営業したところ、いきなり受注件数が過去最高になった。
どうして社長の営業が効果的なのか。
社長の肩書を持った人が訪ねてくれば門前払いしにくく、決裁権を持つ職責上位の人と会える確率も高いからです。
株式会社三洋(山形県、農業資材)の石田伸社長は、若いころに営業経験があったものの、社長になってからはさぼってばかりで、社員に任せきりでした。
新規開拓のため九州に飛んで自ら営業することになったので、わが社の久保田将敬部長をインストラクターとして同行させました。
石田社長は当初、「こんにちは。
株式会社三洋です」と挨拶していました。
しかし、この程度の挨拶では社長営業のアドバンテージを活かせません。
久保田は「社長が直接営業しているのだから、社長だとはっきり名乗りましょう」とダメ出しした。
「社長だと自らアピールするのは恥ずかしくて抵抗がありました。
でも、勇気を出して『山形からまいりました、株式会社三洋社長の石田です』と切り込んだら、受付を簡単に突破できるようになった。
最初は九州に行くのが億劫でしたが、いまはよく売れて楽しくて仕方がない」(石田社長)前述の株式会社三井開発の三井隆司社長個人による2017年1〜9月のお客様訪問回数は4189回。
売上も順調に伸びています。
全社員による会社別の訪問回数トップは105回のD社、2位は92回のT社です。
三井社長は毎週1回、営業マンに自分のかばん持ちをさせ、自ら「水質分析サービス」の新規の飛び込みをしながら、従来のお客様も訪問し、市内を10軒ほど回ります。
社長に同行する社員は絶対にさぼれません。
営業マンではなかなか会えない会社で、「工場長はいらっしゃいますか?」とダメもとの質問をしたところ、工場長が出てきた。
社長の名刺は強い。
9000万円の営業赤字から500万円の黒字にV字回復社長自ら営業するメリットがもうひとつあります。
新しい市場を切り拓かなければ、会社は継続的に成長しないと肌で理解できることです。
阪神佐藤興産株式会社(兵庫県、大規模改修・塗装)の佐藤祐一郎社長は、MG(マネジメントゲーム)のインストラクター資格を持っています。
MGは会社経営を体験できるシミュレーションゲームで、武蔵野でも社員研修に取り入れています。
ただ、佐藤社長はMGにのめり込みすぎて、現実との区別がつかなくなっていた。
MGでは最初から売れる市場が用意されています。
しかし、現実は違う。
市場でお客様を自分でつくらなければなりません。
市場が成長しているときは、そのことを忘れていても大丈夫です。
しかし、市場が縮小し始めると、もうお手上げです。
「ビル・マンションの大規模改修市場は、いまも成長しています。
しかし、成長しているがゆえに新規参入が相次ぎ、競争が激化。
仕事が激減するとともに発注者であるゼネコンにも買いたたかれて、13億円あった売上が7億円に減りました。
小山さんが『MGばかりやっていると、市場がずっとあると勘違いしてしまうぞ』と言った意味がやっとわかりました」(佐藤社長)慌てた佐藤社長は、自ら直接営業をスタート。
新規開拓のターゲット80社を選んで訪問した。
「ゼネコンの下請けでは未来がない。
大規模改修を直接請け負うために、これまで接点がなかった介護施設にアプローチしました。
おかげで介護施設の仕事が取れたり、ほかの不動産を紹介してもらえたりするようになった。
自ら営業に出て、市場をつくる大切さを痛感しているところです」阪神佐藤興産は、2015年度は9000万円の営業赤字でした。
しかし、社長が営業に出て、今期(2017年度)は営業利益が500万円の黒字にV字回復した。
社長の営業は、業績に大きなインパクトを与えるのです。
お客様は数字で〝区別〟しても〝差別〟せず経営サポート事業部から社長の小山に月初に届くのは、会員の方々が武蔵野に支払った受講料ランキングの一覧です。
受講料順に上から並んでいるのは、お客様を〝区別〟するためです。
お客様は受講料によって5色に分けられます。
色は上から黒、青、緑、黄、赤。
受講料1000万円以上は黒。
あとは信号と同じです。
新入会の社長はこなくなる危険があるので赤です。
ランクによって待遇も異なります。
まず、セミナーの申込順が違います。
また、受けられるプログラムも違います。
全国の社長が私のかばんを持つ「1日36万円のかばん持ち」プログラムを受けられるのは会員のなかでも限られています。
2017年11月現在、70人・1年3か月待ちの人気で、1回目は年間受講料750万円以上でできます。
2回目以降は年間受講料1000万円以上でなければできません。
年間受講料950万円の社長はもう一度「かばん持ち」をするために、わざわざ追加でセミナーを申し込む。
さらに、「プレミアムかばん持ち」は1日50万円。
これは、入会後、受講料累計1億円以上が条件で、資格がある会社は23社しかない。
受講料による区別は大きい。
受講料で待遇を変えるのは〝差別〟だと受け止める方もいるでしょう。
しかし、それは間違いです。
ダスキン事業のクリーンサービスのお客様単価は平均2500円。
一方、経営サポート事業のお客様単価は500万円。
経営サポート会員の社長をダスキン事業のお客様と同じに遇したら、社長から間違いなく不満が出ます。
受講料が違えば待遇が異なるのも当然です。
〝差別〟とは、数字という客観的なモノサシを使わず扱いに差をつけることを言います。
日本の官僚で出世できるのは、一流大学を卒業した人だけです。
そもそも中卒や高卒は国家公務員採用総合職試験(昔の国家公務員Ⅰ種)の受験資格すらない。
これが差別です。
武蔵野に差別はありません。
役員だった故Nは、高校を1年で自主的に卒業した〝超エリート〟。
官僚なら受験資格をもらえませんが、事業責任者として結果を出し、学歴に関係なく出世した。
担当事業の業績は客観的に測れます。
それで地位や給料に差をつけるのは、差別ではなく〝区別〟です。
お客様を受講料で分けるのも同じ。
私が気分でお客様に差をつければ差別ですが、受講料で差をつけるのは〝区別〟です。
重点的に攻めるべきお客様をどう見抜くかさて、なぜお客様を受講料順に区別するのでしょうか。
既存客を区別することで戦略的な営業ができるからです。
営業のリソースには限りがあります。
すべてのお客様に量で営業をかけるのは難しい。
売上を伸ばすためには、優先順位を決めてアプローチする必要があります。
では、どのようなお客様を重点的に訪問すべきか。
売上上位のお客様です。
いま売れている商品とそうでない商品なら、売れている商品に力を入れたほうが全体の売上が伸びます。
お客様に対しても同じ。
よく買ってくれるお客様とあまり買ってくれないお客様がいるなら、よく買ってくれるお客様にアプローチしたほうが売上は伸びます。
ただ、お客様を整頓していないと、どこにアプローチすればいいのかわかりません。
そこで訪問すべきお客様を一目で把握できるように売上順に並べる〝お客様情報の環境整備〟が必要です。
優先順位を決めるときは、売上順に加えて拡販余地も考慮します。
売上が1000万円あるお客様でも、教育研修費の予算が年間1000万円なら追加でセミナーに申し込んでくれる可能性は低い。
逆に売上300万円でも、年間予算が2000万円ならいいお客様になる可能性がある。
ただ、拡販余地は売上のようにはっきり計測できません。
だから営業履歴にプラスアルファで「定性情報」を残す必要がある。
武蔵野は、訪問後、お客様先で交わした会話を「マイページPlus」に書き込ませています。
社員が自分の都合のいいように作文しないように、お客様が言ったことをそのまま「」(カギカッコ)で記録させる。
会話のなかに「ほかにこんなところでセミナーを受けている」と出てくれば、おおよその予算がわかる。
部長や課長は売上額にそれらの定性情報を加味して、重点的に訪問するお客様を決めていく。
これで効果的な営業が可能になります。
「増分売上」で客単価を上げるには売上は「客数×客単価」で決まります。
新規開拓で客数を増やしたら、次は客単価を上げる戦略を同時進行させます。
狙うのは「増分売上」です。
増分売上とは、人件費などの内部費用をかけずに増やす売上のこと。
わかりやすいのは、ファミリーレストランのレジ横に置かれたおもちゃでしょう。
お客様はおもちゃを買いにレストランにきたわけではありません。
しかし、子どもがせがむからつい親が買ってしまう。
これで親子4人の会計が4000円から4500円になる。
立派な客単価アップです。
このとき追加費用として発生しているのは、おもちゃの仕入代だけです。
おもちゃのために新たに人を雇うわけではありません。
このように内部費用を増やさずに追加で増やせる売上が「増分売上」です。
「増分売上」を狙う理由は、営業利益への貢献が大きいからです。
図表10を見てください。
「増分売上」で利益率の低い売上を増やします。
増分費用は宣伝費だけで人件費は変わらないので、粗利益の増加分がそのまま営業利益に反映されます。
このケースで、「増分売上」が増えただけで営業利益が約3倍になります。
これを狙わない手はない。
増分売上をつくる方法はいろいろあります。
先日、ある回転寿司店に行きました。
その店には、食べた皿を5枚入れると景品が当たるゲームがある。
4皿食べると、「あと1皿!」と、景品ほしさに追加で皿を取ってしまう。
これが「増分売上」の考え方です。
飲食店でよく見かける「利き酒セット」もそうです。
単品なら頼まないお酒も、「少量で飲み比べできるなら」と手が伸びてしまう。
のんべいの心理をよく理解した作戦です。
「増分売上」は、追加でモノを売る以外の方法でも増やせます。
福島県の新白河でセミナーをやるときは、駅前のおそば屋さん「茅の器」でランチをします。
ココを営んでいるのは、経営サポート会員である有限会社そのべ(飲食業)の園部幸平社長です。
空いている時間にランチをしたいので、私たちは多い日は100名で11時半に入店する。
食事が終わって店を出る時間は12時少しすぎでした。
店を出ると、行列ができていました。
忙しいランチタイムは、行列を見て別の店に行ってしまう人も多い。
そこで次回から、仕入価格が高く利益率が低く提供スピードが速い「親子丼」や「うな重」を頼むことにした。
12時ちょうどに店を出るから、回転率がよくなります。
行列を見てあきらめていたお客様が入れば「増分売上」です。
園部社長は気づかなかったが(笑)、私たちが10分前倒しして以降、売上は増えています。
新たに人を増やすとなればためらう社長も、人を増やさなくていい「増分売上」ならトライしやすい。
ぜひ、ひと工夫してください。
なぜ、ラブストーリーをつけると高く売れるのか客単価は追加で売るだけでなく、値上げをすることでも上がります。
ただ、値上げをすれば普通は客数が減ります。
その減り方が激しいと、かえって売上は下がる。
値上げをするなら、お客様が納得する付加価値をつける形でやるべきです。
客数を減らすことなくうまく値上げできたら、値上げ分が「増分売上」になって利益に大きく貢献します。
では、どうやってお客様に納得してもらうか。
大切なのは、ラブストーリーをつけることです。
何の変哲もない白いハンカチが1000円で売っています。
このハンカチが世界的スターが汗を拭いた現物なら、20倍の2万円で売れるかもしれません。
ビールよりワインが高く売れるのは、「どこどこの畑のブドウを使った」というラブストーリーがついているからです。
サバやアジ、イカもそう。
同じ海域で獲れたサバやアジでも、四国側でなく大分県の佐賀関で水揚げすれば「関サバ」「関アジ」になって全国から注文がくる。
九州北岸の玄界灘で獲れたイカは、福岡や長崎でなく佐賀県唐津市呼子町で水揚げすれば、「呼子のイカ」となって高く売れる。
こうしたブランドも一種のラブストーリーです。
ピアノを専門で運ぶ池田ピアノ運送株式会社(神奈川県、池田輝男社長)は、じつはピアノの運送(売上の15%)よりも精密機械の運送で業績を伸ばしています。
あの重たくて壊れやすいピアノを正確に安全に運ぶというイメージが、精密機械メーカーに受け入れられています。
「荷扱いが丁寧で、早くて、スタッフのマナーがよい」と多くのお客様の声が届いている。
私は、いつも「ちょっとだけピアノ」と言っています(笑)。
愛に原価は関係ありません。
原価は同じでも、お客様の心をくすぐるストーリーがつけば、向こうから身を乗り出して高いお金を払ってくれる。
これがラブストーリーの力です。
〝爆成長〟している整骨院の一石二鳥戦略株式会社ケイズグループ(千葉県、整骨院)の小林博文社長は、それまで500円でやっていた矯正メニューを3780円に値上げした。
従業員教育に力を入れてスタッフのスキルは年々上がっていますが、それにしたって揉み方が7倍うまくなるわけはない。
なぜ値上げできたか。
整体師による「マッサージ」ではなく、柔道整復師(以下、柔整師)による「治療」を打ち出したからです。
整体師は民間資格で誰でもなれるため有資格者がゴロゴロいるが、柔整師は国家資格で、整骨院では、柔整師が施術をすることで一部保険も使える。
治療ならお客様は高くても納得する。
また、30分いくらのマッサージのように時間に縛られることなく、短時間で施術して回転を上げることもできる。
一石二鳥です。
小林社長はラブストーリーをよく理解していますが、逆にまだよくわかっていない社長もいます。
2017年夏、私は妻と世界遺産の知床に行きました。
宿泊は、経営サポート会員でもある有限会社しれとこ村(北海道、旅館業)。
いい宿ですが、桂田精一社長は有名百貨店で個展を行うほどの元陶芸家で、突然ホテル経営を任され、右も左もわからないド素人。
運よく何もわからないから、小山にアドバイスされたことは「はい」「YES」「喜んで」ですぐ実行した。
知床観光船が売り出されたとき、私は「値切ってはダメ!言い値で買いなさい」と指導した。
世界遺産のなかにあるホテルが売り出されたときも、「買いなさい。
自然に溶け込む外壁にしなさい」と指示した。
すると、赤字の会社があっというまに黒字に変わった。
ただ、社長はラブストーリーの効果を知らないので、ところどころでもったいないところがあった。
当時の旅館の名前「国民宿舎桂田」も無味乾燥で、お客様がラブストーリーを感じない。
「夕映えの宿」と知床らしい名前に変えるべきとアドバイスした。
知床の冬は寒すぎて客数が減りますが、それなら寒さを逆手に取って、外にテントでも張ってマイナス20度の世界を体験できるプランを販売すればいい。
ハイボールも、普通の氷の代わりに氷柱(自然の氷柱は保健所が許可しないので人工でつくった氷柱)を使えば、倍の値段で売れます。
私は観光で行ったはずなのに、結局、経営指導して帰ってきました(笑)。
「昇進5回、降格4回」と書かれた名刺に釘づけ商品の付加価値を直接高めることが難しければ、売り方や売る人にラブストーリーをつけます。
経営サポート事業の「社員塾」は受講料ひとり30万円と、決して安くありません。
それでも人気なのは、受講者にこう伝えているからです。
「みなさん、会社に帰ったら『研修に行かせてくれてありがとうございました』と社長に言ってください。
このひと言で社長はニコニコですから!」最初から30万円以上の価値のある研修ですが、そこに社員に感謝されるオマケがつくから、社長は喜んで社員を送り込んでくれます。
経営サポート事業部の八木澤学課長は、これまで昇進を5回、降格を4回経験した。
めずらしいキャリアなので、名刺の肩書の下に「昇進5回、降格4回」と書き入れている。
名刺を受け取った人は十中八九、「降格4回って、何をやらかしたのですか!?」と八木澤に関心を持ってくれる。
営業マンにラブストーリーをつけたわけです。
お客様の心をくすぐるラブストーリーは、いたるところに転がっています。
うまく活用すれば、高く売っても客数減を防げます。
値上げのインパクトを減らすテクニック値上げにふさわしいラブストーリーがないなら、値上げのインパクトを弱める工夫も可能です。
10個入り1000円の商品を、パッケージを変えて9個入りにする。
1個あたり111円で11%の値上げなのに、値段が据え置きなのでお客様は値上げだと感じません。
あるいは逆に、「1個増量」とデカデカと書いて1200円にしてもいい。
これは1個あたり109円(9%の値上げ)で、お客様は「1個増えたから仕方がない」と納得しやすい。
経営サポート事業の人気プログラム「プレミアム箱根合宿」は、3泊4日で150万円でした。
内容が濃いので、「3泊4日ではボリュームが多すぎて消化しきれない。
2泊3日くらいでいい」と株式会社小田島組(岩手県、建設業)の小田島直樹社長がアンケートに書いた。
そのことを新卒の佐藤有紗が教えてくれた。
武蔵野は自社都合ではなくお客様都合で考えます。
研修日を1日短縮して2泊3日にした。
それで料金をどうしたか。
普通は1日短縮した分、料金を下げます。
しかし、私は150万円に据え置いた。
それにもかかわらず、相変わらずの人気で、毎回キャンセル待ちが数人います。
なぜ、実質値上げなのに、客数が減らなかったのか。
まず定員15名を12名に変更して、ひとりあたりの指導時間を濃くした。
その分、お客様満足度は高まっていて文句は出ない。
日数が減った分、開催数は増えているので売上は上がった。
「実践経営塾」は内容が濃く、10回以上受講する社長が多い。
そこでリピーターのために、180万円のセミナー料金を2回目は162万円、3回目以降は1回目の半額の90万円という料金設定にしました。
値下げになるので、社長はお得に感じます。
しかし、実際は値上げをしています。
じつは3回目になると、社長はすべてのカリキュラムを受けるのではなく、理解できていないところだけを選んで受講します。
受講回数が10回以上の勉強熱心な社長になると、一度にできないと知り、カリキュラムの4分の1くらいしか受講しません。
半額にして受講数が4分の1なら、1コマあたりの単価は値上げになります。
ところが、お客様は値上げのインパクトを感じておらず、人によってはむしろ得をしたと思っている。
このように値上げと同時にほかの要素を変えることで、お客様に与える印象は変えられます。
値上げは、売れる商品と売れない商品を見極める絶好のチャンス値上げのインパクトを弱めるために、消費税率引き上げのタイミングで値上げするという方法もあります。
前述したネットカフェなどを展開するタイムス株式会社が運営するリサイクルショップは、もともと内税方式で商品を販売していました。
しかし、2014年4月に消費税が8%になったとき、高畠章弘社長は頭を悩ませた。
リサイクルショップは、この古着はいくら、このDVDはいくらと、1点ごとに値段がつきます。
内税方式では税率引き上げに合わせて1点ずつ値札を貼り替える必要があり、とても対応できそうにありませんでした。
「どうしようかと悩んでいたとき、小山さんの声がたまたま聞こえてきました。
小山さんはほかの社長に『内税を外税にして、値札をそのままにすれば儲かるのに』と悪魔のささやきをしていた。
これだと思って、さっそくパクりました(笑)」(高畠社長)消費税5%の内税方式だと、100円の値札の商品は税抜96円です。
値札そのままで消費税8%・外税方式になれば、お客様は108円払って、税抜価格が100円に。
お客様が支払う価格は8%の値上げ。
税抜価格で4%の値上げです。
単純計算なら売上は8%伸びて、粗利益は4%増える。
リサイクル部門は年商5億円で、4000万円の「増分売上」です。
もちろん、値上げをすれば販売数量は減る。
しかし、消費税率の引き上げと本体価格の値上げを2度に分けて行うより、一緒にやったほうが減り方は小さい。
いずれ値上げを考えているなら、こうしたチャンスは逃さないほうがいい。
一気に値上げして、売れなくなった商品が出てきたら?値上げして売れなくなる商品は、そもそもニーズが低い商品です。
そのことが明確になったのだから、もう仕入をやめればいい。
値上げは、売れる商品とそうでない商品を見極める絶好のチャンスです。
スーパーを経営している有限会社中央市場(秋田県)の金沢正隆相談役も、消費税増税で苦しんだひとりです。
私の消費税の外税方式のアドバイスを聞かずに、幹部に押し切られて内税方式でスタートしたが、業績はダウン。
そして、半年後に外税方式に変えると、業績は急回復しました。
「売上上位」ではなく「粗利益上位」のお客様を大切に値上げの決断は、社長にしかできません。
幹部や社員に任せると、売上を少しでも増やしたくて、利益率が悪くなるのもおかまいなしに値引きします。
その結果、赤字になっても、どこ吹く風で仕事をしています。
ダスキン事業では、かつて私がお中元・お歳暮の季節に売上上位のお客様へ挨拶に伺っていました。
ところが、あるお客様に胡蝶蘭を持っていったら、「こんなものはいらない。
もっと商品を安くしろ」と言われ、おかしいと思った。
じつは、このお客様には、社員が仕入価格を下回る価格で販売していました。
私が「売上、売上」と言って粗利益額のチェックを怠っていたからです。
そこで翌年、訪問基準を「売上」から「粗利益」に変更しました。
社員は売上第一で、利益率が下がって赤字になるリスクに関心がありません。
だから赤字のお客様のところに私を連れていっても、何も疑問に感じません。
私がバカだったと気づきました。
「売価」と「仕入値」は、社長が決めなさいじつは仕入値についても同じことが言えます。
仕入担当者は、業者の担当者にいい顔をしたい。
だから、つい高い価格でOKする。
結果、粗利益率が悪化して赤字に近づいてしまう。
じつに危険です。
具体的に数字で見てみましょう。
図表11は、売上高8億3060万円、仕入が3億6710万円で、粗利益率55・8%、経常利益が3000万円の会社のP/Lです。
もし仕入担当者が業者に〝仲よし負け〟して、1・0%高い価格で仕入れたらどうなるか。
試算1では、粗利益率は1・0%下がるだけですが、経常利益は2170万円まで下がります。
仕入担当者が甘いと、利益がじつに830万円もふっ飛びます。
〝仲よし負け〟がひどくて、3・6%の値上げを飲まされたらどうでしょう。
試算2では、経常利益はなんとゼロ……。
恐ろしいですね。
もちろん逆に粗利益率を高めれば、経常利益はグンと増えます。
試算3では、仕入で3・6%の値引きに成功したら、経常利益は2倍の6000万円になります。
粗利益率の管理次第で経常利益がゼロになることもあれば、2倍に膨らむこともあります。
これほど大切なものを社員に一任していてはいけません。
売値も、仕入値も、社長が決めるべき。
業者との交渉は社員に任せるとしても、最終的に社長自身がチェックしてください。
協電機工株式会社(熊本県、建設業)の藤本将行社長は、経営計画作成合宿で私から受けた指導を守り、1年間で計画値よりも粗利益率を4%上げた。
私の指示は「原価を下げるために、仕入に社長がメスを入れろ。
チェックを強化せよ」でした。
藤本社長が今期(2017年度)に入って実行したのは、1000万円以上の大工事はすべて社長直轄にしたことです。
外注と資材の仕入については3社見積りをルール化し、原則、実行予算書で3社見積りが出ていないものは発注させない仕組みとした。
そのことで決裁前発注を激減させ、締日10日後の現金支払いを会社の強みとすることを社員に繰り返し教育しました。
仕入値は「とにかく安ければいい」は大間違い仕入担当に「あーしろこうしろ」と言うと、ふてくされます。
ですから、おかしいと思ったら、「なんで」「なんで」と聞く。
社長が数字を見ていることがわかると、仕事の仕方が変わります。
社員は高く仕入れて安く売るのが正しい。
仕入先、お客様に喜ばれ、仕事もラクです。
しかし、社長が「なんで」「なんで」と聞くと、仕入値が1%下がり、経常利益が1670万円増加する(→図表11)。
そうしたら、この担当者を呼んで、「おまえはわが社の宝だ」と言ってください。
言うのはタダですが、社員は舞い上がります。
ただし、仕入値は、とにかく安ければいいわけではない点に注意です。
ここ数年、イカが不漁で仕入価格が高騰し、イカの加工業者が悲鳴を上げています。
まるか食品株式会社(広島県、加工業)の川原一展社長は、イカの仕入価格が高騰しても1年分を仕入れた。
このことで「イカ天瀬戸内れもん味」を安定的にお客様に供給でき、大人気です。
仕入値は1円でも安いことが正しいと思っている社長は、こうした経営判断ができません。
高く仕入れることも含めて総合的に判断するべきです。
往路はヤマト、復路は違う会社でコストダウン地方でセミナーを行うときは、必要な機材を東京から会場に宅配便で送ります。
万一、遅配が起きると大変なので、運送業者は最も信頼性が高いといわれるヤマト運輸に依頼しています。
ところが、わが社の社員は何も考えていない。
セミナーが終わって機材を東京に送り返すときもヤマト運輸を使っていた。
私はそのことを知り、すぐに「帰りは次から料金の安いA社を使え」と指示しました。
帰りは1〜2日の遅配が起きても困りません。
確実に着くが料金も業界トップクラスのヤマト運輸より、到着日は遅くなるが料金が低いほかの業者で十分に用が足ります。
社員はどうしてムダに気づかなかったのか?仕事が〝風景〟になっていたからです。
正しいやり方でも、同じことを繰り返しているうちに「その仕事は何のためにあるのか」を忘れて、手順どおりにこなすだけになる。
目的と手段が逆転する。
仕事を取り巻く環境は常に変化します。
かつては最適だったやり方も、いまは違うかもしれない。
本来は、そうした視点で仕事をときどき見直す必要があります。
ところが、仕事が風景になっている人はそこに気づかず、ムダにコストを発生させてしまう。
ムダなコストは経費増につながり、営業利益を圧迫します。
仕事が風景になっていると、P/Lも悪化する。
社員は、仕事を風景にするのが大得意です。
政策勉強会で、誰も使っていないピンマイクが置いてありました。
「これは何?」と聞いたら、「去年、借りたので、とりあえず今年も借りました」経営サポート事業でも、こんなことがありました。
セミナー会場から懇親会会場への移動にタクシーを予約した。
ところが、呼んだタクシーのうち7台が余っている。
きてもらうだけでお金はかかるのでムダな経費です。
なぜ使わないタクシーを呼んだのか。
担当者に原因を聞くと、「セミナーだけ参加して懇親会にこないお客様がいたから」セミナーには80人参加し、1台4人として計20台呼んだものの、結局、懇親会に参加するのは13台分の人数だったからでした。
いまはタクシーを予約する前に、セミナー参加者に懇親会への出欠を確認します。
仕事が風景になると、こんな簡単なことにも気づかなくなります。
私自身も仕事が〝風景〟になっていた偉そうに言っていますが、じつは私自身も仕事が風景化していました。
この夏まで、地方出張は原則日帰りにしていました。
インバウンドの影響でビジネスホテルの料金が上がっていたからです。
いまは一時より落ち着いていますが、私はそのことに気づかず、原則日帰りのルールを見直さなかった。
おかしいと気づいたのは、P/Lをチェックして営業利益が減っていることがわかってから。
売上と粗利益が増えて営業利益が減るのは、経費増が原因です。
そこで経費を洗い出したところ、交通費が異様に増えていて、原則日帰りが間違いと気づきました。
現在はルールを変えました。
大阪で月曜と水曜に仕事があれば、月曜から水曜まで行きっぱなしでいい。
この場合、交通費は1万5000円×1往復で3万円。
宿泊費が1泊1万円×2泊で2万円。
経費は5万円です。
以前は宿泊費がゼロですが、交通費が2往復で6万円かかった。
ルールを見直したことで経費が1万円減りました。
ムダがなくなったのは経費だけではありません。
移動が1往復なくなれば、片道3時間×2で6時間分が浮きます。
その浮いた時間を大阪にいて好きなことに使えばいい。
間の火曜も合わせて、遊んでいてもOKです。
実際は、私が「遊べ」と言っても社員は仕事をします。
武蔵野は積極的にシステム投資をして、東京にいなくても仕事ができる環境を整えている。
ぽっかりできた時間を使って事務仕事の処理だけでなく、自分の成績を上げようと大阪のお客様のところに営業に行く。
そこは社員の自主性に任せています。
2017年10月からは、出張時のチケット購入のルールも変更しました。
100キロ以上離れた都市に出張する場合(複数都市への出張は除く)は、実費ではなく正規料金による定額精算にしました。
新幹線で東京・新大阪間を往復で購入すると、片道ずつ買うより乗車券が少し割安になります。
JR東海の「EX予約サービス」を使うとさらに割引になる。
正規料金との差
額は個人のお小遣いです。
帰りの新幹線で、缶ビールがもう1本増える(笑)。
人件費を減らすには、ムダな仕事を減らすのが一番経費のなかで最も大きいのは人件費です。
利益を増やすために給料を減らしてはいけない。
給料を削れば、社員の士気に影響が出て、売上が下がりかねません。
人件費を抑えたければ、ムダな仕事を減らすのが一番です。
その結果、残業がなくなれば、社長も社員もうれしい。
株式会社末吉ネームプレート製作所(東京都、印刷・同関連業)の沼上昌範社長も、仕事が風景になっていたひとりでした。
同社の製造形態は、朝一番に製造部門への手配を行うことになっていました。
製造部門の最終工程は、パートがあがる午後4時以降になるため、ほぼ社員だけでつくっていました。
数少ない社員数のため、毎日残業代が発生して、経費を押し上げていました。
しかし、よくよく話を聞いてみると、製造部門への手配はすべて朝一番である必要はなかったのです。
モノによっては製造部門への手配を午後一番で行い、最終工程が終わる時間を午後4時までに持ってくれば、前日に残業して製造しておく必要はない。
パートが出勤してからみんなで一斉につくれば間に合うし、そのほうが短時間でできます。
それまでかかっていた残業代は不要になり、ムダな人件費を使わずにすみます。
これだけで利益が2500万円アップ!?ムダな仕事といえば、移動もそうです。
移動中は何も生産できないので、短ければ短いほどいい。
私は常々、「中小企業は商圏をむやみに広げず、地域で圧倒的ナンバー1を目指せ」と指導していますが、商圏をコンパクトにすれば移動時間が短くなることも理由のひとつです。
ところが、株式会社低温(奈良県、運送業)の川村信幸社長はそのことがわかっていなかった。
低温は奈良県内で冷蔵運送を行っていますが、顧客からの要請で、和歌山にも1台車を出して運ばざるを得なかった。
川村社長は自社の社員に和歌山ルートを任せ、その分、手薄になった県内の配送の一部を外注業者に出しました。
これは大間違いです。
外注業者は決まった仕事しかしませんが、社員は臨機応変に仕事ができる。
時間あたりの生産性が高いのは社員のほうです。
それなのに、社員を和歌山まで長距離移動させ、移動が短時間ですむ県内を外注業者に任せた。
人件費を考えるなら、逆が正しい。
そのことを指摘したら、素直な川村社長は社員と外注業者の大半の担当を入れ替えた。
これだけで利益が年間2500万円増えました。
仕事のやり方を見直せば、その仕事に張りついている人件費をスリム化できます。
社員をリストラしなくても、人件費は減らせます。
なぜ、月500万円のJR新宿ミライナタワーを借りたのか?経費を削れば利益は増えますが、経費は「投資」の側面もあります。
ムダな経費を削ることは大切ですが、攻めの経費をケチると売上が落ちます。
この経費は攻めなのか守りなのか、その見極めが肝心です。
武蔵野は2017年2月、JR新宿ミライナタワー10階にセミナールームをオープンしました。
ミライナタワーはJR新宿駅直結のオフィスビルで、ミライナタワー改札からわずか徒歩15秒。
便利なだけに賃料は高く、月500万円もします。
じつは社員が「ミライナタワーを借りたい」と稟議をあげてきたとき、さすがの私も却下しました。
当時、武蔵野には営業所が23拠点あり、賃料は月1500万円でした。
ミライナタワーを借りる場合、新宿近辺のセミナー会場を全部閉めて1か所に集約する計画でしたが、新宿近辺の会場費は月350万円。
ミライナタワーに移したら、月150万円、年間1800万円の経費増になる。
さすがにこれには私も腰が引けた。
しかし、1か月後、社員が2回目の稟議をあげてきたとき、私はOKを出しました。
採用のための〝攻めの経費〟になると踏んだからです。
学生はブランド力のある会社が大好きです。
働き始めれば都下の営業所に配属されますが、就活中はまだわからない。
職場が駅近の最先端オフィスなら、それだけでいいイメージを抱いてくれます。
会社説明会やその後の選定プロセスで武蔵野のリアルな姿を理解してもらいますが、その機会をつくるためにも、最初はいいイメージを打ち出す必要がある。
ミライナタワーは、そのイメージづくりに一役買うと考えました。
実際、ミライナタワーを借りたあと、会社説明会の人数が激増しました。
採用担当の浅岡広季課長は毎回、来場者数を予測して準備をします。
少なく見積もったわけではありませんが、今年はすべて予測を上回る人数がきました。
セミナールームは最大150席ですが、159人きて、入れずに学生が帰った回もありました。
想像以上の効果です。
その後の選考プロセスの参加率もいい。
浅岡は10階にあるセミナールームのブラインドをわざと上げて、東京スカイツリーが見えるようにしている(じつは神宮外苑の花火大会もココで見られるので、社員の福利厚生にも役立っている)。
小さな工夫ですが、これが効きます。
効果があったのは採用面だけではありません。
社長と幹部が合宿する「夢に数字を入れる」セミナーは、これまで東小金井セミナールームで開催していました。
東小金井は4社しか入りませんが、新宿なら15社入る。
最初は埋まらないのではないかと心配しましたが、「終わってから歌舞伎町に直行!」と期待する幹部が社長の背中を押すので、すぐに埋まった。
結果、このセミナーの売上は3倍になり、ミライナタワーを借りたあとの売上は現在の予約分も含めて2億円に達しました。
賃料の増加分は、もう数年先まで元が取れています。
売上24億で経常利益7億!開院予定がなくても物件を押さえる整骨院前にも触れた千葉を中心に整骨院を展開するケイズグループの小林博文社長は、賃料については私以上にアグレッシブです。
小林社長は、整骨院を開くのにいい物件を見つけたら、開院予定がなくてもとりあえずお金を払って物件を押さえます。
すぐに開院しないのは、スタッフの施術レベルを一定水準以上にキープするため。
ケイズグループはスタッフの技術研修に力を入れていますが、一定レベルに達する前に現場に出すと悪評が立って顧客離れが起こる。
開院するのは、お客様に満足してもらえる技術を確実に身につけてからです。
「開院までの間、物件の家賃は払い続けることになります。
人によってはムダな経費と思うかもしれません。
立地がよくて、スタッフのスキルが一定水準を満たしていれば、100%黒字にする自信がある。
立地のいい物件を押さえるのは攻めの経費です」(小林社長)この戦略が正しいことは、ケイズグループの経常利益を見ればわかります。
同社は24億円の売上に対して経常利益が7億円です。
これは尋常でない数字!利益率が異様に高いのは、積極的に経費を使っても、それ以上の売上になって返ってきている証拠です。
「2人1組」は立派な社員教育経費として大きい人件費にも、攻めの感覚は必要です。
武蔵野は営業担当を可能な限り2人1組でお客様先に向かわせます。
人件費を抑えることを考えたら、ひとりで行かせて、もうひとりに別の仕事をやらせたほうがいい?それは違います。
社長はひとりずつのほうが効率的だと考えますが、社員は監視する人がいないので効率よくさぼる(笑)。
社員のほうが一枚上手です。
2人1組のメリットは、社員がさぼれないことだけではありません。
2人1組だと、デキない社員はデキる社員から営業のスキルを学ぶことができます。
逆にデキる社員もデキない社員に教えることで復習ができる。
2人1組は、社員教育も兼ねている。
そう考えると、2人1組で重複する人件費は、教育研修費として考える。
まさに攻めの経費です。
利益を出すためにムダな経費を省くことは大切です。
しかし、目先の利益ほしさに攻めの経費まで削ると、あとで痛い目に遭います。
くれぐれも注意してください。
「そうに違いない」が招いた美容サロンの危機一髪ダメな社長には、ある共通点があります。
経営に〝〜のはず〟が多いこと。
こんな工夫をしたから、売上が上がっているはず——。
業務のムダを見直したから、生産性が高まっているはず——。
このように結果を確かめもせず、「そうに違いない」という思い込みだけで経営をする。
これが間違いのもとです。
株式会社ビューマインド(東京都、美容サロン)の高松和愛社長もそうでした。
同社のサロンでは、まつげエクステを施術するほか、美容グッズも販売しています。
施術は、半個室の空間。
美容グッズを説明するPOPは正面に貼ってありました。
正面ならお客様は見やすいという思い込みからです。
ところが、これが間違いでした。
「お客様はリクライニングシートにお座りになります。
シートを倒すと、正面からはかなり距離があります。
それに気づかなくて、ずっと正面に貼っていました。
試しにお客様の右側に移動させたら、とたんにそのグッズの売上が伸びました。
お客様の多くは右手が利き手。
右を向く機会が多く、POPが近い距離で自然に目に入るようです」(高松社長)高松社長の「はず」は、ほかにもあります。
POPには、商品説明と料金が書いてあります。
以前はお得であることを強調するために、料金を目立たせたデザインにしていました。
「安さをアピールすればお客様に喜んでいただけるはず」と考えていたからです。
これも試しに商品説明が目立つデザインに変更したところ、反応がガラリと変わりました。
それまで販売数が1か月で56個だった商品が、翌月には134個売れた。
サロンにやってくるお客様は、安さよりもきれいになることに関心がある。
高松社長はそのことがわかっていなかった。
高松社長の「はず」はもうひとつあります。
まつげエクステは、ワゴンに載せた道具で行います。
ひとつのサロンには7〜8個のワゴンがあって、道具の置き方はそれぞれスタッフに任せていた。
使いやすい置き方はひとりひとり異なるので、本人に任せることがサービスレベルの向上につながるはずと考えていた。
しかし、整理整頓を軸とした環境整備をやって、それが間違っていたことが判明しました。
すべてのワゴンで道具の置き方を統一したところ、急に指名客数が増えた。
「いままではスタッフが自分専用のワゴンを使うため、指名いただいたお客様のところにいちいち自分のワゴンを移動させる必要がありました。
しかし、統一後は移動にかかる時間がなくなり、お客様をすぐご案内できるように。
また、どのワゴンも同じ配置で、道具が見つからなくてお客様をお待たせすることもなくなりました。
スタッフは施術と接客に集中できて、お客様満足度が高まりました。
ある店舗では、月間の指名客数が3485人から3734人と107%に。
自分がいかに想像だけで経営をしていたのか、思い知らされました」かつての高松社長のように、勝手に思い込みだけで経営している社長は少なくありません。
時には思い込みが正しいこともあるでしょう。
しかし、思い込みが外れたら、本来なら増えたはずの売上や利益を逃してしまう。
高松社長は途中で気づき、事なきを得ましたが、下手をすれば販売ロスを延々と続けていた可能性があった。
じつに恐ろしいことです。
4年で40億円売上アップした新潟の住宅メーカーでは、社長の勝手な思い込みをなくすにはどうすればいいか。
必要なのは、数字による検証です。
社長がいくら「論理的に正しい」「過去の経験からいって正しい」と思っていても、数字がついてこないなら思い込みと判断していい。
数字はウソをつきません。
結果がついてこないのは、数字ではなく、論理や経験が間違っているからです。
数字で検証すれば、売上や利益を増やす方法を見つけることは難しくない。
ハーバーハウス株式会社(新潟県、住宅メーカー)の石村良明社長は、もともと別の会社の経営に失敗して多額の借金を抱えていました。
ゼロどころかマイナスからの再スタートです。
当初は銀行からお金を借りられず、自ら梅雨の時期に傘を差しながらチラシをポスティングしていたと言います。
石村社長が立派だったのは、ポスティングの効果を見える化して数字で管理していた点です。
チラシを撒いたあとの問合せ数が少なければ、次はキャッチコピーや色、撒く時間を変えてみる。
そうやってカイゼンを重ねて、反応率の高いチラシをつくった。
さらに、その延長線上でホームページも改良を加えました。
その結果、お客様からどんどん資料請求がくるホームページになった。
仕組みができたことで、売上は15億円(2012年度)から55億円(2016年度)に。
数字による検証を続けることで、会社は急成長しました。
何の裏づけもない思い込みで、一か八かの経営を続けるのか。
それとも、数字による検証で効果を見極め、カイゼンを重ねるのか。
どちらが会社のためになるのか、考えるまでもないでしょう。
「暗黙知」が仮説検証より強い理由会社には様々なデータがあります。
売上や利益などの基幹データをはじめ、客数、リピート率、ダイレクトメールの開封率、工場のリードタイム——。
これらのデータは、まさしく宝の山。
分析することで、会社を成長させるヒントが見つかります。
しかし、これまで数字に無頓着でデータなんて取っていなかった。
あるいはデータを取り始めたばかりで量が足りない社長も多いでしょう。
こんな場合は、どうすればいいか。
答えは、「データ量が溜まるのを待たずに、いま手元にあるデータで考える」です。
スキル10の人が、いまデータを100持っています。
1か月待てばデータは500になります。
ならば1か月後のほうが正しい判断ができると思いますか?違います。
スキル10の人は、データが倍になってもスキル10の判断しかできません。
判断の結果が同じなら、データが溜まるのを待つ意味はない。
まず、いま手元にあるデータで判断すればいい。
スキル10では、最初は判断を間違えます。
しかし、間違えた経験から学習して、スキルがほんのちょっと上がる。
これを繰り返すうち、1か月後にはスキルが20になるかもしれない。
そのころにはデータが500になっていて、豊富なデータを活かせるようになっているでしょう。
世の中では、仮説検証のPDCA(PlanDoCheckAction)サイクルがもてはやされています。
もちろん、何も考えない行き当たりばったりの経営より、仮説検証のほうが数段上です。
しかし、多くの人は最初に仮説を立てる段階に時間をかけて、第一歩が遅れてしまう。
ビジネスでは、その遅れが命取りになることもある。
だからまず「Do」から始める。
理屈をこねるより、とにかくやってみることが優先です。
データ分析も同じです。
データを溜めてから分析して仮説を立てるプロセスではスピードが遅すぎます。
理屈がはっきりしていなくても、これまでの経験(手持ちのデータ)
から判断する知恵のことを「暗黙知」と言いますが、まず暗黙知で判断して動きます。
その行動を追いかけるようにさらにデータを溜め、結果を検証して、そこから次のPDCAサイクルにつなげていけばいい。
暗黙知は仮説検証より強い。
仮説検証と暗黙知の違いは、「演繹法」と「帰納法」の違いと言ってもいい。
演繹法は、まず理論で結果を導き出して、あとから事実で理屈の正しさを証明する考え方です。
一方、帰納法は、まず事実を並べて共通する法則性を見つけ、あとはなぜそうなるのかという理屈づけをします。
仮説検証は演繹法ですが、理屈にこだわるあまり、事実を都合のいいように解釈してしまいがちになる。
つまり思い込みが発生しやすい。
それに対して、帰納法は暗黙知で、まず事実ありき。
先入観なく素直にデータを見られるから、正しい答えを導けます。
これも仮説検証より暗黙知がすぐれている点です。
データ分析は、いまあるデータでとにかく始めてみることが正しい。
これまで何もデータを取っていなかった会社でも、決算のために経理が売上や粗利益などの基幹データを持っています。
まずはそのデータを並べて、何か読み取れないか考えてください。
「売上が急に増えた月が2回あったけど、その月はいつもと違うことをしたのか?」「1店舗あたりの粗利益額が、半年前から減り始めている。
半年前に人事を変えたせいだろうか?」こうしてデータと事実を突き合わせて法則性を導き、そこから検証のプロセスに入ります。
このほうが仮説検証よりずっと早くて正確です。
スイミングクラブのV字ならぬ〝バケツ回復〟はどうやって実現した?手持ちのデータで分析を始める一方、将来に向けて、業務にまつわる様々なデータを記録して、いつでも使えるようにしておくことが大事です。
記録しておくデータはいろいろありますが、なかでも重要なのは顧客データです。
どのようなお客様が、いつ何をどれだけ買ったのか。
このデータがないと、まともな営業戦略は立てられません。
水泳教室を運営する株式会社太陽コミュニケーションズ(山口県、スイミングクラブ)では、少子化の影響を受けて生徒数が年々減り続けていました。
ピーク時に2億1000万円あった売上は、1億8000万円に。
経常利益も赤字が数年続きました。
会社には顧客データがありました。
しかし、2代目の岡生子社長は、その活かし方を知らなかった。
「お客様のデータをどう使っていいのかわからず、ただ溜めているだけでした。
当時の営業活動は、データと無関係。
とにかく生徒さんを増やしたくて、スタッフ総出でお子さんがいそうな家を一軒一軒訪問するスタイルでした。
戸別訪問は労力がかかるわりに入会に結びつかず、営業でヘトヘトになったスタッフからも、『授業に支障が出る』と不満の声が出る始末。
八方ふさがりでした」(岡社長)データを活かせるようになったのは、「社長の営業プログラム」で訪問先を絞り込むことを教えられたことがきっかけでした。
顧客データを改めて見ると、保育園や幼稚園を通して入会した子どもたちが多い。
ただ、保育園や幼稚園経由で入会した子どもたちは、卒園と同時にほとんどが退会していた。
新規開拓に労力をかけるより、子どもたちが継続するための策を打つほうが賢明です。
「戸別訪問をやめて、保育園や幼稚園への営業に集中して園でチラシを配ることにしました。
また、園と連携して水泳教室で卒業式を実施。
プールで練習をしている写真とコーチからのコメントを添えた卒業証書を手渡しました。
お子さんが成長した姿を見て、涙を流す保護者の方もいました。
『せっかくだからもう少し続けてみようかしら』と言ってくださって、継続率がグンと上昇しました」これまで卒園後も継続する人は200人中7〜8人にすぎなかったが、独自に卒業式をやり始めてから60〜70人に。
業績も一気に向上して、現在はピーク時と同じ2億1000万円の売上になった。
低迷期間が長かったので、V字ならぬ〝バケツ回復〟です。
岡社長が〝バケツ回復〟を成し遂げたのも、わからないなりに顧客データを記録していたからです。
使わないからと捨ててしまったら、浮上のきっかけをつかめずにバケツの底が完全に抜けていたでしょう。
担当者ごとではなく、顧客ごとにデータを顧客データを記録するコツについても触れておきましょう。
顧客データは、お客様ごとに情報を整理します。
あたりまえに聞こえますが、営業履歴まで含めて、あたりまえのことができていない会社が多い。
いつ営業マンが訪問して、いつ契約が成立したのか。
その後のアフターケアがいつ行われたのか。
こういった情報を、営業マン単位の日報に記録している会社がほとんどです。
顧客データが人に張りついていると、人が異動したときやチームでアプローチしていくときに困ります。
お客様情報が複数の人に分散しているため、いざ分析しようとしても分析ができません。
売上金額は営業マンのお客様先での滞在時間に比例していると指摘しました。
この分析ができたのも、滞在時間を日報ではなく〝顧客ごと〟にデータ記録したからです。
ココを間違えると、せっかく記録したデータが宝の持ち腐れになってしまう。
注意してください。
ラーメン店の割引クーポン付きハガキは、攻めの経費お客様に関係するデータのなかでもとくに重要なのは、お客様の声です。
満足度は、どの程度なのか。
どのような広告媒体を見て自社のことを知ってくれたのか。
リピートする意志はあるのか。
知りたい情報は山ほどあります。
ただし、お客様は必ずしもアンケートにすべて答えてくれるとは限りません。
たとえ答えても、本音を書くとは限らない。
お客様の声を〝使えるデータ〟にするには、アンケートの取り方をひと工夫する必要があります。
前にも紹介した九州でラーメン店などを展開するゴールドプランニング株式会社の吉岩拓弥社長は、アンケートに答えて生年月日まで書いてくれたお客様の誕生日に、割引クーポン付きハガキを送っています。
対象はお子さんだけですが、クーポン目当てでアンケートを書いてくれるお客様が増えた。
吉岩社長は、クーポンの回収率までデータを取っていました。
回収率が低ければお客様にとって魅力的なクーポンではなく、結果としてアンケートも書かれなくなる。
当初は低かったアンケート回収率も、ハガキの色やデザイン、内容を試行錯誤して改善したところ、45%になった。
つまりアンケートを書いてくれたお客様のうち半分近くがリピーターになった。
リピーターになっても、割引しているから儲けは少ない?そこは吉岩社長も抜け目がない。
クーポンの対象はお子さんだけです。
子どもはひとりでラーメンを食べにこない。
一家4人で来店したら3人は定価だから、「増分利益」が出る。
さらにつけ加えると、クーポンで損をしてもいい。
そもそもクーポンをつけるのは、お客様にアンケートを書いてもらうため。
もしクーポンをつけて儲けが減っても、それは攻めの経費です。
経費をかけた分、アンケートの回収率が高まれば何も問題はない。
10個あった質問項目を2つ変更して出た成果もっとも、アンケートを取ること自体が目的になってはいけません。
お客様がアンケートに答えても、建前やおざなりの声では分析するだけムダ。
アンケートを業務改善に結びつけるには、本音の声が条件です。
その点は武蔵野も甘かった。
昔は、現地見学会(武蔵野の取り組みを生で見てもらう会)に参加したお客様へのアンケートで、「社員の態度はどうでしたか」とトンチンカンな質問をしていました。
アンケートを集計するのは社員です。
記名式のアンケートで、本人が読むとわかっているのに低い点数はつけづらい。
担当者の自己満足だけのムダな質問でした。
アンケートは、自社都合でなくお客様都合で設計します。
反省した私は、10個あった質問を「差し支えなければ御社の経営課題などを記入してください」「興味がある項目にチェックをお願いいたします(複数選択可)」と2つ質問を入れ替えました。
社員は、「会社の情報なんて教えてくれるはずがない」と反対しました。
しかし、実際は違った。
人間は本人を目の前にすると悪口を言いづらいが、本人に知られないと思うと、むしろ進んで不満をぶちまけます。
お客様も、会社のいたらない点を包み隠さず書いてくれた。
お客様の声を反面教師として自社の業務改善に活かしているから、武蔵野の現地見学会は評判がいい(笑)。
現地見学会の過去16年間の売上累計は12億円です。
〝真実の瞬間〟は、お客様がお金を払ったあとにでは、自社への評価を直接聞きたいときはどうすればいいのか。
〝真実の瞬間〟がやってくるのは、お客様がお金を払ったあとです。
お金を払う前だと、お客様は「下手なことを言うと、それをきっかけに何か売りつけられるかもしれない」と警戒して、本音を明かしません。
お客様が腹を割って話すのは、お金を払って取引が完了したあと。
そのままサヨナラしても問題ない状況になって初めてお客様は真実を告げます。
株式会社松尾モータース(兵庫県、自動車販売)の松尾章弘社長は、お客様に納車をするとき、店の前に車を置いていました。
これはもったいない。
お客様が車を引き取りにくるのは、契約が成立したあと。
真実を話してもらいやすい状況だから、営業マンはお客様とできるだけ長くコミュニケーションを取り、本音を引き出すべきです。
ところが、車を店頭に置いていたら、お客様はすぐ帰る。
私は、松尾社長に次の指導をした。
車はあえて奥に停めておく。
「すぐに車をご用意いたします。
お待ちくださいませ」と言って、ほかのスタッフに車を取りに行かせて(見えないところは牛歩、見えるところはかけ足で!)、その間、オフィスでじっくり話を聞きます。
アンケートを取るのも同じです。
お金を払ってもらったあとに工夫して時間を確保し、質問にゆっくり向き合ってもらったほうがいい。
お客様の声は最強のデータのひとつですが、建前か本音かで毒にも薬にもなる。
アンケートは、〝真実の瞬間〟を逃さないように意識してください。
面倒くさいことを社員にやらせる2つの方法データを集めるのに立ちはだかるのが、社員の壁です。
営業活動の効果を分析するためにお客様先の滞在時間を集計したいが、社員が面倒くさがってシステムに数字を入力しない。
このように現場の抵抗にあって必要なデータが揃わないことはめずらしくありません。
社員は基本的に、ラクをして高い給料がほしいと思っています。
だから面倒くさいことはやりたくないのがあたりまえ。
そもそも社員は「やれ」と言ったらやらないし、「やめろ」と言ったらやり続けます。
言うことを聞かない社員が普通で、「入力しろ」と言葉だけで何とかしようと考えること自体間違っています。
面倒くさいことを社員にやらせる方法は2つ。
お金で釣るか、やらないと本人が困る仕組みにするかのどちらかです。
武蔵野が使っている「マイページPlus」にデータが蓄積できるのは、必要な情報を登録しないと日当を支払わない仕組みに変更したからです。
社員はイヤイヤながら仕方なく実行します。
なんと〝現金〟な社員です(笑)。
社員に「100回帳」のスタンプカードを持たせています。
社員やアルバイト・パートが勉強会に参加すると、スタンプを1個押してもらえる。
スタンプが100個溜まれば5万円の旅行券です。
旅行券といっても、奥さんにそのまま渡すほど殊勝な社員はほとんどいない。
もらったら金券ショップにかけ込んで秘密のお小遣いにします。
だから自主的に勉強会に出る。
お金で釣るのが「飴と鞭」の飴なら、入力しないと困る仕組みにするのは鞭です。
経理を電子化したときは、「今後、紙による申請を受け付けない」と宣言しました。
申請を受け付けてもらえないと交通費の精算ができないので、みんなブツブツ文句を言いながらもシステムに入力する。
2週間後には新しいシステムにすっかり慣れて、文句が出なくなった。
ヤワな社員ばかりではありません。
経営サポート事業部の志村明男本部長は42万円の精算を怠っているのに気づいた。
奥さんが管理する給料口座に交通費の振込を伝えると、私に懇願して指定の精算を完了させた。
分析に必要なデータを社員に入力させる必要がある場合も、これらの応用でいい。
入力することに対価を払うか、入力しないと仕事ができずに自分が損をするシステムにします。
仕組みを変えれば、すぐにデータが集まると勘違いしてはダメです。
経営はオセロゲームではない。
仕組みを変えても、黒が白へとバタバタバタとひっくり返るようにはいきません。
データがほしければ、駒を1枚ずつ手でひっくり返すくらいの地道な働きかけが必要です。
社長自身がラクをして儲けたいと思ってはいけない。
手間をかけないと、ほしいものは手に入らないと心得ておきましょう。
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