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第3章 「儲けパワー」を高めるには、どうしたらいいんですか?

黒字になるか、赤字になるかの分岐点僕の会社を黒字にするために、税理士さんは話をしてくれていますが、今、僕がはっきりと理解できているのは「儲けパワーを高めること」。

たしかにそうなのかもしれないのですが、いったい、どうすれば儲かるのかはまだ見えてきていません。

損益分岐点で、儲かるかどうかのボーダーラインがわかる「どうしたら儲かるのか?」とばかり考えていたら、僕は心の声を思わず税理士さんにこぼしていました。

「どうしたら儲かるか?そうですね……。

損益分岐点売上高って、わかりますか?」「損と益の分岐だから、黒字になるか赤字になるかの分かれ目の数字ですか?」「なんとなくは理解しているようですが、正しい説明をしておきますね。

損益分岐点売上高は、利益がゼロになっている状態の売上のことをいいます。

損益トントンの状態です。

もっというと、最低でもここまでやらないと赤字だよねっという売上でもあります」「ということは、最低限やるべき売上ということですか?で、どうやって計算するんですか?また難しい計算があるんですか?」「ふつうの計算のやり方だと、次の公式を使います」

「うお!なんだこれ!分数のなかに分数が入っているじゃないですか。

こんなの計算できないですよ」「はははは。

一般的な公式だと、とても難しいですよね。

でも、さきほどの限界利益率があれば、とても簡単に出せるんです。

こうです」損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率「え?これでいいんですか?」「はい。

これだけで計算できます。

限界利益率がわかっていると、あらゆる計算が一気にシンプルになってくれるんですよ」「ちょっと魔法みたいですね」「だから『魔法のメガネ』なんですよ」この税理士さんは、あながち間違ったことを言っているわけではないと思えてきました。

ただ、「魔法のメガネ」「儲けパワー」という言葉を聞いて、怪しく感じたのは僕だけじゃない気がします。

「僕でもできそうな気がしてきましたが、固定費の金額がわからないです」「では、決算書の損益計算書のなかの『販売費及び一般管理費』の部分を見てください。

さきほど、限界利益額を出すために、変動費の金額を出したじゃないですか?それ以外は固定費として分類しますので、単純に引き算すれば固定費の金額が出るんですよ」「えーっと、さっき計算した変動費の金額が3500万円でした。

だから、これを引けばいいんですか?」「売上原価は別の項目(科目)ですから除きます。

売上原価を除いた変動費はいくらですか?」「えーっと、全部の変動費3500万円から売上原価2500万円を引くと変動費は1000万円です」「では、『販売費及び一般管理費』の金額はいくらになってますか?」

「2200万円です」「では、そこから変動費の1000万円を引くと?」「1200万円です」「固定費が出ましたね。

では、公式にあてはめて計算してみましょう。

22・2%は小数でいうと、0・222ですから、小数に直して計算してもいいです」損益分岐点売上高:固定費1200万円÷限界利益率22・2%=5405万4054・1円(小数点第2位を四捨五入)「5405万4054円ですか?」「そうです!5405万円が損益分岐点売上高です。

これは限界利益率22・2%を守って売り上げた場合で、固定費が年間で1200万円であることが条件になります。

だから、今以上に値下げをして売上を上げた場合には、変動費が増えるため限界利益率が下がってしまうので、損益分岐点売上高はもっと高くなってしまいます」「僕の理解が正しければ、値下げをすることで、儲けるために必要な売上のハードルが上がってしまったわけですか?」これまで僕は、セールで値下げをして売上が上がると喜んでいたわけですが、ひょっとして、これもまずかったのかもしれないです。

「素晴らしい理解です!たとえば新しく人を雇ったり、広告費をさらに使ったりすれば、固定費が増えて、損益分岐点売上高は上がっていってしまいます」税理士さんは、僕が理解しつつあることがよっぽどうれしかったらしく、思わず拍手をしました。

損益分岐点は、条件によって変わる僕は、損益分岐点というのは、条件によって変わることに気づきました。

あとから冷静に考えてみれば当たり前のことですが、すごい発見をしたかのごとく税理士さんに言いました。

「損益分岐点って、条件が変わるとどんどん変わっていくんですか!」「計算というのは、ある条件のときにどうなるのかを表すだけですので、こんなときにはどうなるかなどは、そのつど計算をします。

それはシミュレーションともいえます。

今の状態であれば、現在4500万円の売上を906万円アップさせて5406万円以上になれば、赤字脱出ということになりますね」「あと906万円も売り伸ばさないといけないのか。

やっぱりウチの会社は黒字にならないです。

だって、すぐに906万円も伸ばせるわけがないじゃないですか。

机上の空論ですよ、会計なんて。

結局そういうことですか……」損益分岐点の話を聞いて、黒字にするのは無理だと思いました。

今の売上を上げることですら精一杯なのに、さらに906万円も売上を伸ばさなくてはいけないとは。

しかも、そこまでやって利益はまだゼロです。

それにしても、黒字にするには、もっと売上を伸ばさなくてはならないなんて……。

「こうしたら、こうなる」というシミュレーション自分がやってきたことがことごとく否定されて意気消沈しました。

でも、中途半端な理解でこのまま会社を潰すのはイヤだという気持ちも大きくなってきました。

それに数字が苦手な僕でも、「こうしたら、こうなる」というシミュレーションをしてみると、その結果の違いはわかります。

我慢して聞いてみることにしました。

黒字と赤字は紙一重最初は、税理士さんの怪しい雰囲気から、僕は少し斜に構えて話を聞いていましたが、このままでは聞けることは聞かないと終われなくなってきました。

「限界利益にまつわるさまざまなことがわかったら、まず売上至上主義を捨ててください。

そのためには、さらにシミュレーションしてみましょう」「こうなったら、どうなるかは見たくなってきました!」「仮に値上げをして、売れ筋の商品がもっと限界利益率の高い商品になったとしましょう。

それで、限界利益率が5%上がって、27%になったとします。

その場合、損益分岐点売上高がどれくらい下がるか計算してみませんか?」「どれくらい下がるんでしょうか?」損益分岐点売上高:固定費1200万円÷限界利益率27%=4444万4444・4円(小数点第2位を四捨五入)「4444万4444円。

今の売上でも損益分岐点売上高を超えてしまいますよ。

たった5%改善するだけで、黒字になります」「え?これ本当なんですか?たった5%でこんなに変わるんですか?」限界利益率が5%上がっただけで黒字になるとは、ちょっとしたマジックです。

あっ、だから「魔法のメガネ」と名づけたのだと思いました。

「そうなんです。

黒字とか赤字って、紙一重のことが多くて、たった5%がとても重く大きな数字となってくることが多いんです。

5%の値引きだからどうってことないやと思って値引きをしていると、知らないうちに赤字になってしまったりするんですね」「5%……あなどれないですね」「5%の改善で、ここまで変わるのは、珍しいことではないんです。

そういう意味では、たったの5%かもしれませんが、もし5%だけ値上げしても売れ行きはさほど変わらないとしたら、どうでしょう?」「おお。

すごい。

なんだか活路が見えてきました!」税理士さんにも、僕がやる気になったことが伝わったようで、なんだかいつも以上に教えるのが楽しそうです。

「では、1か月ぶんに落とし込んで計算してみましょう。

たとえば、今月の損益分岐点売上高がどうなっているかとか、知りたくないですか?」「知りたいです」「少し強引かもしれませんが、年間の固定費を12か月で割ってみれば、1か月ぶんの固定費になりますよね?月によって固定費は変わるので、月間の平均の固定費を把握しているのがいちばんなんですが、まずはざっくりとやってみましょう。

年間の固定費1200万円を12で割ると100万円ですね。

それを公式にあてはめてみてください」今月の損益分岐点売上高:今月の固定費100万円÷限界利益率22・2%=450万4504・5円(小数点第2位を四捨五入)「450万円くらいですか?」「そうですね。

これって、今月達成できそうですか?」「いえ、無理だと思います。

こんなに売上はいかないと思います」「それならば、損益分岐点売上高を下げることもできますよ」「え?そんなことが可能なんですか?」「さっきみたいに、もしも、毎月の限界利益率が5%上がったらどうなるか、シミュレーションしてみましょうか」「はい」今月の損益分岐点売上高:今月の固定費100万円÷限界利益率27%=370万3703・7円(小数点第2位を四捨五入)「うわ!80万円も変わった!たった5%なのに、こんなに変わるんですね。

10%変わったら、ものすごく変わってしまうんじゃないですか?」数字が苦手なのは変わらないけれど、数字のマジックを見ていると、数字とはもうちょっと仲よくしたほうがいいと思えてきました。

数字1つで黒字に変わる計算はそれなりに手間だけれど、結果を見るのが面白くなってきました。

「限界利益率が22%から10%上がったらどうなるか見てみましょう」「どうなるんですかね?」今月の損益分岐点売上高:今月の固定費100万円÷限界利益率32%=312万5000円「312万5000円。

450万円と比べたらとんでもなく下がりましたね」「そうですね。

138万円も下がりましたね。

それだけ、限界利益率を上げていくと、損益分岐点売上高は下がっていくということになりますね」「そりゃ限界利益率は高いほうがいいんでしょうけど、何をもって高いのかは、会社ごとによって違う気がしました」「鋭い!それが『限界利益率は単に高いか低いかではなく、あくまで会社の指標』という理由です。

たとえば、値上げをして限界利益率を高めたとします。

でも、いくら自分が儲けたいからといって、値上げし過ぎた場合には、商品が売れなくなる可能性もあります。

価格は、その商品の価値に釣り合っているかどうかも大切になってきますよね」「たしかに……」「限界利益率は高いに越したことはありません。

でも、販売数が大幅に減ってしまうと限界利益額も下がってしまいます。

限界利益率のバランスをとっていくのが価格設定の醍醐味です。

『値決めこそ経営』と言う人もいます」「奥が深いですね。

でも、実際にどうやって価格を調整すればいいかわかりません」「あ、ちょっと待ってください!」税理士さんは、自分の腕時計に目をやると、少しあわて出しました。

「どうしたんですか?」「もう16時なんで、今日のところはこれで帰ります。

あ、それと、今日やったこと、とくに計算の復習をしておいてください。

それが今回の宿題です。

じゃ、また来週、同じ時間におうかがいします」予定があるのならしかたがないけれど、せっかくいいところだったのに。

しかも、時間切れになったら宿題とは。

「また宿題ですかあ?僕そういうの好きじゃないんですけど」「学んだら即実践。

努力はウソをつきませんよ」計算1つで黒字になってしまう。

この「魔法のメガネ」をかけることで、見える数字が変わる。

もしかしたら、会社を黒字にすることができるかもしれません。

価格を少し上げるだけで黒字に転換するというのは、赤字と黒字は紙一重なんだと、気づかされました。

しかし、最後に税理士さんが残した「学んだら、即実践」という言葉、何かの本で読んだことあったような……。

「値上げ」によって、限界利益率はどう変わる?理屈はわかりましたが、実際にどう価格を調整していけばいいのかはわかりません。

ただ、これも「魔法のメガネ」をかけると、見えるんでしょうか?いずれにせよ、何が原因で儲からなかったのかは少しずつわかってきました。

病気も原因がわからなかったら、治療のしようがありません。

しかし、僕の会社の「赤字体質」という名の病気の原因は、会計によって明らかになりつつあります。

そして会計を学んで、とにかく赤字体質から脱却したい、何がなんでも黒字にしたいという想いはどんどん強くなっていきます。

今回は宿題にされていた復習も、前よりは真面目に取り組んだところ、自分で損益分岐点売上高や限界利益率を出せるようになりました。

「値上げ」をするだけで、黒字になる!?税理士さんは、今日も楽しそうです。

この前、帰り際にわさわさしていたので、宿題のことは忘れているかもしれません。

「古屋さん、宿題やりました?」僕は、宿題ができたことで少し自信がついたのか、税理士さんの質問に思わず笑みがこぼれそうになりました。

しかし、まだ儲かる話をすべて聞いた感じはしていないので、そんなに簡単に心を許すものかと顔を一瞬で引き締めました。

「まあ自分なりには。

今日こそ、もっと儲かる方法を教えてくださいね」「まあ、そうあせらずに」出た、またこの言葉。

「そうやって、いつももったいぶるんでよすね」「そう言わずに。

では早速、始めましょうか。

月間や年間の限界利益率は、商品1つひとつの積み重ねで、でき上がっているのはわかりましたか?前回、計算した観葉植物の価格設定の見直しを含めて、シミュレーションをしてみませんか?」「僕の返事に関係なく、どうせシミュレーションするんですよね……」税理士さんのマイペースな進め方には、さすがに僕も慣れてきました。

「では、値上げした場合と、値下げした場合を見ていきましょう」「これまで必死に値下げをして売ってきたので、どうなるか知りたいです」「まずは、販売価格と変動費を書き出してみてください」「こんな感じでいいですか?」販売価格:送料込で2000円仕入原価:1000円バスケット代:100円箱代:100円送料:400円「はい、OKです。

では仮に、10%値上げをした場合をシミュレーションしてみます。

限界利益額と限界利益率の公式を覚えてますか?」「こうでしたっけ?」限界利益額:販売価格-変動費限界利益率:限界利益額÷販売価格×100「宿題の成果が出てますね。

では、実際に計算してみてください」「えーっと、限界利益額は400円。

限界利益率は20%です」「では、販売価格を10%値上げした2200円で計算してみましょう」販売価格:送料込で2200円(10%値上げ)仕入原価:1000円バスケット代:100円箱代:100円送料:400円限界利益額:2200円-1600円=600円限界利益率:600円÷2200円×100=27・3%(小数点第2位を四捨五入)「うわ!限界利益率が27・3%!限界利益額も200円アップです」「一気に限界利益率が上がりましたね。

この前の損益分岐点売上高が下がったのを思い出してみてください。

限界利益率はこのままで販売数が変わらなければ、一気に黒字になりますね」「ホントですね!」たった10%の値上げで一気に黒字になってしまうというのは、ちょっと信じられません。

やっぱり魔法のようでした。

「魔法のメガネ」と名づける理由も納得できます。

たかが1%、されど1%税理士さんの話がだんだん面白く感じてきました。

税理士さんにもそれが伝わっているのか、「もっと面白がらせよう」という雰囲気がぷんぷん漂ってきます。

僕の顔を見ながらニヤニヤと考えごとをしているので、そうに違いありません。

「ところで、1%の利益率の違いって大きいと思いますか?」「1%なんて誤差みたいなものですよね?」「それが、会計の視点で見ていくと、とても大きな違いになるんです」「へ~え」僕は心のなかでは「まったくおおげさなんだから」と思いながら、とりあえず相づち程度のリアクションをしました。

「とくに小売業の場合、仮に全商品を1%値上げをして、販売数が変わらなければ、営業利益率が20%以上アップすることもあるんですよ」「えっ?たった1%価格を上がるだけで?たとえば、1000円の商品が1010円になっただけですよね」

「そうなんです。

実際に古屋さんの会社の決算書を使って計算してみましょう」「はあ、まあいいですけど」税理士さんのこれまでの話には驚いたことも多いけれど、これはちょっと言い過ぎな気がします。

「売上が4500万円だとして、仮に全商品を1%値上げをしても、販売数が変わらなければ、単純に売上4500万円の1%である45万円の利益が増えたことになりますよね」「そこまではわかります」「では、この45万円の違いで、営業利益は何%アップしたと思いますか?」「すぐにわからないです……」「結論からいうと、じつは22・5%も改善したということになるんです。

計算式だと、「アップした営業利益額÷もともとの営業利益額」という計算式になるのですが。

古屋さんの会社は営業利益が△(マイナス)200万でしたよね。

だから、45÷200で0・225になるので、パーセントにすると22・5%。

もとの営業利益額から比べると、22・5%アップしたということになります」「えっ!?1%しか変わっていないのに、22・5%も」「どうです?1%って大きいでしょう?これは、全商品を1%値上げして、販売数が変わらないという条件ですが、1%ってバカにできないでしょ?」「たしかに……」「たかが1%、されど1%。

このわずかな差が大きな差となって自分に返ってくることを忘れないでください。

1滴1滴の岩を伝う水が、小さな沢の流れになり、いつしかそれは川の流れとなり、最後には海となるようにです」「うまいこと言った感じになっていますが、そのたとえよりも、さっきの1%による改善の数字のほうがインパクトがあったような……」税理士さんはだんだん自分の話に酔ってきて、いつも以上に饒舌になったことはさておき、1%、恐るべし。

1%なんて誤差の範囲だと思っていたのですが、改善の割合は、僕の想像をはるかに超えていました。

「1円を笑う者は、1円に泣く」という言葉がありますが、僕は今まで1%をバカにしていたから、1%をはるかに超える赤字で泣いていたのかもしれません。

「値下げ」によって、限界利益率はどう変わる?10%の値上げで黒字になるという話を聞いた僕は俄然やる気になってきました。

これで一気に業績を回復させることができるかも!?じゃあ、逆に値下げした場合はどうなるんだろう?値下げはこれまでセールをして何度もやってきたけれど、シミュレーションするとどんな結果になるんだろう?「10%オフ」だけで、赤字に直結する!?ここまでくると、値下げした結果も、もちろん知りたくなります。

「では、値下げした場合もシミュレーションしてみましょう。

たとえばセールで10%オフとかやったりするじゃないですか?それを想定して、販売価格2000円の10%オフで計算してみましょう」「わかりました。

こんなふうになります」販売価格:送料込み1800円(10%オフの価格)仕入原価:1000円バスケット代:100円箱代:100円送料:400円限界利益額:1800円-1600円=200円限界利益率:200円÷1800円×100=11・1%(小数点第2位を四捨五入)出てきた数字を見ると、限界利益率は半分近くになっています。

これは、僕の計算ミスなのかもしれません。

「これ、何かの間違いじゃないですか?10%しか値下げしていないんですよ?」「これは間違いではありません。

1個売っても200円しか限界利益は出ないんです。

そして、限界利益率もたったの11・1%です」「えっ!本当に数字はウソをつかないのかなあ……」「数字はウソをつきませんよ」「これ間違いじゃないんですか?」困惑する僕を尻目に、税理士さんはなんだかうれしそうです。

数字でわかる「セール」の怖さまず値引きの割合と、限界利益率の割合が必ずしもイコールではないことがわかりました。

「10%値下げしたら、限界利益率も10%下がるわけではないんですね。

これなら値引きしても意外と利益は残るのではないでしょうか?」「そこが落とし穴なんですよ。

わずか約9%のダウンだと思ってしまう方が多いんですが、値引きした際の穴埋めを販売個数で考えて見てみるとわかりやすいですよ」「10%値引きした場合は、販売個数が10%伸びれば同じくらいの利益を確保できると思っていたんですが、そうではないんですか?」「残念ながら、そうではないんですね。

値下げする前の販売価格での限界利益額は400円でしたね。

仮に1日10個売れていたとします。

その場合は、1日の限界利益額は4000円です」「そうなりますね」「10%値下げした場合は1個売ったときの限界利益額は200円になりますから、21個売ってやっと通常時の限界利益額を上回ります。

21個販売しないとセールをした意味がないんです」「えー!そんな……。

ってことは、セールして売上個数が2倍以上にならないと、いつも通り売っていたほうが、利益が出てるってことですか?」自分がこれまでやってきたことが間違いだったと、ここまで論理的に説明されると、悔しいという気持ちよりも、頭をガツンと殴られたような感じで、言葉が出ません。

「だんだんわかってきましたね。

その通りです!仮に20%オフにした場合には一生利益は出ません」「えっ!?どうしてですか?」「結論から言うと、限界利益がゼロになります。

10%オフ、20%オフと簡単に値引きしてしまいがちですが、値引きは大幅に販売数が伸びることが前提でないと成立しない売り方の1つなんです。

さらに言うと、知らず知らずのうちに赤字を垂れ流します」「えー……」「2倍だとトントンだから、10%オフをして3倍の数を売るためには、セールをどんどんやったほうがいいかもしれません。

そのほうが儲かります。

でも、3倍の仕事も同時に降ってきます。

すると、どうなりますか?」「新たなスタッフを雇う必要性が出てくるかもしれないです」「そう、スタッフさんたちの負担を考えれば、新しい人を雇ったりしますよね。

そうすれば人件費として固定費が必然的に上がります。

その場合も考えて損益分岐点売上を計算していく必要があるんです」「単にセールをやれば売れると考えていたのが、いかに愚かだったか……」「セールをすること自体は悪ではありませんが……」「そうか!これか!」「どうしたんです?急にテンションが上がって」「セールしないと売れないんだから、今のお給料でスタッフにもっとがんばってもらったらいいんだ!」「スタッフは道具ではありませんよ。

古屋さんと同じ、人格を持った1人の人間です。

業務的なことでいえば、忙し過ぎて離職率も上がってしまいます。

いわゆるブラック企業化してしまうんです」「ああ……」「やりがいを持ってスタッフに働いてもらうためにも、限界利益率は高めたほうがいいです。

経営の方向性や、固定費の金額も考えると、小さな会社は限界利益率を高めていく方向性のほうが、私は賢明だと思っています」「セールをやって、限界利益率が下がるというのは、なんだかまさに骨折り損のくたびれ儲けってことですね。

30%オフなんてしたら、なかなか回収できないどころか大赤字ですね……。

恐ろしい」「これはセールが悪いのではなく、価格設定の問題です。

セールをする前にきちんと限界利益率などを計算したうえで、価格を下げるシミュレーションを行うことです。

実質どれくらいの数が売れればいいのかを事前にわかっていれば、セールで利益が上げられるのかどうかをチェックすることができます」「では、在庫処分で破格のセールをしたら、大赤字になってしまうなんてことも……」「そうです。

在庫は処分できても、仕入額や資材などの変動費のぶん、マイナスになることもあります。

だから、在庫処分をして原価くらいは回収したいというときは、全部売り切った場合にどの程度回収できるのかというシミュレーションをしておくといいでしょう」「今まで適当にやっていたので、心しておきます」悲しいかな、僕が今までやっていた、安売りしてでも売上を上げようというやり方では、儲からない理由がわかりました。

そして、スタッフを道具として見ていたかもしれないというのは、認めたくないけれど、心に突き刺さりました。

だから僕の会社の離職率が高かったのかもしれません。

何より、やりがいを持って働ける職場を作るためにも「小さな会社は限界利益率を高めていく方向性のほうが賢明」という税理士さんの言葉は、まだぼんやりとした理解ですが、心に残りました。

「商売」とは、誰かに喜んでいただいて、その対価を得ること税理士さんに教わった限界利益の話をもとに、さっそく値上げをしようと思いました。

ただ、何か引っかかるものがあったんです。

やっぱり値上げは怖い。

もしも、値上げをして売れなくなったらどうしよう。

値上げをして、売れなくなったらどうしよう?値上げに対する不安な気持ちが大きくなってきて、たまらず税理士さんに電話をかけました。

「もしもし、ちょっと相談したいことがありまして。

今大丈夫ですか?」「はい。

大丈夫ですよ。

どうされました?」「値上げするのが怖いんです。

値上げして、売れなくなったらどうしようと不安なんです」「でしょうね」「どうやったら、お客さんにバレずに値上げできますか?ちょっとずつ、こっそり値上げしたらバレませんか?」「それって、お客さんにはとても失礼なことですよ!」「えっ?失礼!?」「はい。

こそこそ値上げをするのではなく、お客さんが何に困っているかを理解して、その困りごとを解決して差し上げれば、値段はあまり関係ないんです」「どういうことですか?意味がよくわからないんですが……」電話越しの税理士さんは、理解していない僕にどう言えばいいか考えているようで、しばらく沈黙していました。

高くても、お客さんがお金を払ってくれるには?税理士さんは、電話越しでぶつぶつと何かひとり言を言っていたと思ったら、「これならわかるかもしれない」とつぶやき、話し始めました。

「いきなりですが、富士山の山頂で販売されている缶コーヒーの値段っていくらか知っていますか?」以前、僕は登山をしたとき、山頂にあった山小屋の自販機を思い出しました。

「まあ、高くても200円くらいじゃないですか?」「じつは400円なんです」「そんなに高いんですか!」「よく考えてみてください。

車で運べる場所ではないので、人が運んでいるんですよ。

その人たちの労力も、もちろんですが、自販機のメンテナンスのコストもかかります」「たしかにコストはかかりますよね」「そして、夏でも寒い富士山の山頂で、寒い思いをする人に対して、温かい飲み物でほっとひと息ついてもらおうと自販機を設置しています。

これって、足もとを見ているのではなくて、山頂で凍える人に対しての思いやりではないでしょうか?」「儲かるからやっているのではないんですか?」「儲けだけを考えたら、ふつうに人通りの多い場所に設置したほうが効率がいいじゃないですか」「あっ、たしかに。

わざわざ、富士山に登って補充しに行くんですもんね」僕は重い荷物を背負って運ぶ人を想像しました(実際に富士山の山頂にそうやって運んでいるかどうかはさておき)。

「商売って、誰かに喜んでもらうことで、正当な対価をいただくことなんです」「誰かに喜んでもらう?正当な対価?」「そうです。

お客さんに喜んでもらうことが、商売そのものなんです」「お客さんは、高くても、その価格が正当だと思ってくれるんでしょうか?」「提供している商品の価値自体に、その値打ちがあれば、喜んで支払ってくれますよ」「提供している価値自体に、その値打ちがあれば」。

この言葉を聞いて、僕は何も言えなくなってしまいました。

今まで、お客さんに喜んでもらおうという一心で、安売りを継続してきました。

でも、高くても喜んでもらうことができるものなのか?そもそも、僕の会社で取り扱っている商品が、お客さんの困りごとを解決できるんだろうか?お客さんが困っていることって何だろう?税理士さんは困っていることを解決できるのであれば、値上げをしても、しっかりと売れるって言っていました。

セールで値段を下げて売るのではなく、値上げしても売れるには、どうすればいいんだろう?「商売って、誰かに喜んでもらうことで、正当な対価をいただくことなんです」という税理士さんの言葉を、僕は頭のなかで反芻していました。

第3章を読み終えた読者へ世の中には競馬が好きな人と、そうでない人がいます。

え!?競馬は会計に関係ないんじゃないかって?それがそうでもないのです。

この章の内容に大きく関係するのです。

競馬好きの人は、競馬新聞を見ながらレースの展開をさまざまにシミュレーションします。

もちろん、馬がどれだけ走るかはゲートが開いてみないとわかりません。

それでも馬券を当てたい人間は、一生懸命シミュレーションを繰り返すのです。

管理会計を理解した彼は、競馬好きの人と同じように売上・コスト・利益のシミュレーションを税理士さんと一緒に始めました。

馬よりはマシですが(?)、商売においてもお客さんの行動をすべて支配することはできず、「どれだけ売上が上がるか」はフタを開けてみないとわかりません。

しかし管理会計を学んだ彼は、「売上がこう動くと、限界利益はこうなる」というシミュレーションができるようになりました。

管理会計のメリットは、まさにこの「利益のシミュレーション」にあります。

決算書だけではできなかった「利益のシミュレーション」が可能になる、これが管理会計の長所です。

固定費と変動費を区分した利益のシミュレーションは、「一次方程式で商売を見る」ようなものです。

私たちが中学校の数学で習った「y=aχ+b」でいえば、χがお客さんへの販売数、それに比例してかかるのがaχの変動費、さらに固定費bを加えたものが総コストy。

管理会計のシミュレーションは、中学生レベルの数学で十分です。

慣れれば決して難しいものではありません。

数字嫌いの彼も、やっとここまできました。

彼は損益分岐点売上高のシミュレーションから始めて、10%値上げ・10%値下げをしたら数字がどう動くかの計算をしていきます。

これによって、いよいよ彼は「売上の呪縛」から解き放たれ、「値上げ」に向けて決意を固めます。

おそらくふつうのビジネス小説なら、この先、値上げをしてハッピーエンドになることでしょう。

しかし事実は小説より奇なり。

このときの彼は、髪の毛が真っ白になるほど苦労することになるとは、知るよしもありません。

 

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