神話▼シングルタスクは、手が届かない贅沢品だ。
現実▼シングルタスクは、生活必需品だ。
山積みの用事を片づける最も手っ取り早い方法は、一度に1つずつ取り組むことだ。
——サミュエル・スミスみなさんはいま初めて「一点集中術」を学んでいるわけではない。
学びなおしているだけだ。
シングルタスクの歴史は、人類が誕生した時代にまでさかのぼる。
初期の狩猟採集民は一度に1つの作業に専心していた。
人類はそうやって生き延びてきたのだ。
よって本書は、最新流行の生き方を紹介するわけではない。
私たちが生来もっている心のあり方を取り戻そうと訴えているだけなのだ。
シングルタスクとは、「『いまここ』にいること」「一度に1つの作業に没頭すること」を意味する。
じゃあ、マルチタスクってなんだっけ?そう思ったあなたに、もう一度、お教えする。
マルチタスクとは、絶え間なく気が散っている状態を意味する。
120分間「鋭い集中力」を維持できるでは、現実にシングルタスクに励んだ人たちの実例を紹介しよう。
2014年、サッカーのアメリカ代表チームはワールドカップブラジル大会の出場権を獲得し、アメリカ国内では熱狂的なサッカーブームが起こった。
開催地サンパウロで、アメリカは決勝トーナメントに進出。
ベスト8を賭けてベルギー戦に臨み、延長戦のすえ、1対2で敗北を喫した。
この熱戦のヒーローは、アメリカのゴールキーパー、ティム・ハワードだった。
ハワードは好セーブを連発し、1試合16セーブという記録を樹立。
その見事なプレーを伝える動画は世界各地で繰り返し再生された。
彼はサッカー選手として、アメリカ合衆国が簡単に屈しないことをだれよりも強く示したが、試合後、いいプレーができたのはチームメイトのおかげだと高潔に述べた。
大会前、アメリカチームの下馬評は低かった。
ハワードが「世界一流の選手が揃った世界一流のチーム」と表現したチームは、ワールドカップではまず通用しないだろうと考えられていたのである。
あるコメンテーターがハワードに「120分ものあいだ一瞬も気を抜くことなく、どうやって剃刀のような鋭い集中力を維持したのですか?」と尋ねた。
「傍から見ていると、まるで忘我の境に入っているようでしたが」するとハワードは、とてつもないプレッシャーに打ち勝ち、数万ものサッカーファンの歓声が聞こえてくるなかで集中力を維持した方法を説明した。
「ゾーンに入るんだよ。
いったんホイッスルが鳴ったら、ほかのことはなにもかも消えてしまうんだ」すなわち彼は、一点集中術を実践していたのである。
「エネルギー」×「集中力」を生みだすあなたもハワードのように集中することができる。
ハワードは試合に負けはしたものの、堂々と帰国した。
そして、いかにもチャンピオンらしい控えめな誇りを漂わせつつ、「ぼくたちに、あれ以上のプレーができたとは思えない」と述べた。
ハワードが身をもって示したように、シングルタスクはぐずぐずと怠けてすごしたり、漫然と仕事をしたりすることを意味しない。
オフィスのシュレッダーに書類を1枚ずつ入れる行為を指すわけでもない。
シングルタスクには「強いエネルギー」と「鋭い集中力」という特徴がともなう。
シングルタスクにより見事な成果をあげれば、敬意を得ることもできる。
あなたは自分の選択に100パーセントの責任をもち、最後までやりとげなければならない。
目の前の作業に没頭するのだ。
シングルタスクをするには、いまという瞬間、ほかの要求にいっさい応じることなく、1つの作業だけに取り組むことが求められる。
次の作業に着手できるのは、いま取り組んでいる作業を終えてからだ。
とはいえ、なにも目の前の作業をかならず完了しなければいけないわけではない。
「この時刻までは、この作業に専念する」と決めた時刻がくるまで、集中すればいい。
かたや恣意的にタスク・スイッチングをしていると、それぞれのタスクに時間が余計にかかってしまう。
「空白の時間」に考えていることを意識する過去を思い起こしてふくれっ面をしたり、未来を案じてヤキモキしたりしていても、情け容赦なく時間はすぎる。
こうした「時間泥棒」を暗躍させてしまうと、シングルタスクをする権利が奪われる。
私たちはつい、あの失敗さえなければうまくいったのにと後悔したり、起こりそうにないことを案じたりしてしまう。
だが、どちらも時間の浪費にすぎない。
とくに、飽きもせずに同じことを繰り返し不安に思うのは、大いなる「時間の無駄遣い」にほかならない。
また、周囲の人をあれこれ批判してばかりいると、当然、能率は下がる。
本来であれば自分の目標を達成するために使える時間を、人の短所や欠点をあげつらうことに費やしていれば、弁解の余地なく、時間もエネルギーも無駄になる。
おまけに、そんな真似をしていれば、自分の能力を最大限に発揮することもできなくなる。
こうした事態を打開する第1のステップは「意識すること」だ。
通勤中やミーティングの前の空き時間、何かの列に並んでいるとき、眠りにつくときなど、あなたはどんなことを考えているだろう。
過去のいやなできごとを思い返したりはしていないだろうか?あるいは、これから自分の人生はどうなるのだろうと、つい心配してしまう癖はないだろうか?過去についてくよくよと考えるのも不安な将来を思い描くのも、無益なだけでなく、怠惰にすぎない。
そうした行為は、「いま」という瞬間を「ここ」で生きる邪魔をする。
私たちには過去を変えることも、未来を予言することも、他人を意のままに動かすこともできない。
ただ、いまという瞬間、シングルタスクに集中し、自分の人生、仕事、周囲で渦巻いている世界を、よりよい方向に向けることだけが可能なのだ。
相手の「集中度」を確認する人に声をかける前に、私はよく確認することがある。
「いまお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?それとも、しばらく待つほうがいいですか?」と尋ね、相手がいま対応できる状態にあるのか、それともなにかの作業に集中しているのかどうかを確認するのだ。
するとたいてい、「どうぞ、かまいませんよ」という返答が返ってくる。
実際には、いかにも難儀そうに、目の前の作業に取り組んでいるにもかかわらず。
相手がなにかに集中していることを察したら、私はすぐに「いえ、少しお待ちします」と言うことにしている。
なにかに没頭している相手に話しかけたところで、うまくいくはずがない。
それなのに多くの人が、根拠もなく、2つの作業を同時にこなせるほど自分は能率がよいと思い込み、有害な結果を招いている。
最近、ミーティングに出席したときのことを思いだしてもらいたい。
あなたもまた心ここにあらずの状態だったのでは?こんどミーティングに出席したら「いまここ」にいる練習をしよう。
心と肉体を同じ場所に存在させるのだ。
出席する(bepresent)とは、「いま、この瞬間に意識を向ける」(bepresent)ことなのだから。
ときには、どれほど無関係なことを考え、うわの空になっているかが自覚できない場合もあるだろう。
次の〈「シングルタスク度」自己評価表〉で、自分が目の前のタスクにどれほど集中できているかを判定してもらいたい。
あなたの「シングルタスク度」を測定するあなたの平均的な1週間を思い浮かべてほしい。
そして、以下の質問に対し、0〜5まで、あてはまるスコア(頻度)を選んでほしい。
0から5までのスコアは、次の頻度を参考にすること。
0=まったくない、1=ごくたまに(年に1〜4回)、2=たまに(年に5〜8回)、3=ときどき(月に1〜3回)、4=しばしば(週に1〜2回)、5=よくある(週に3回以上)「シングルタスク度」自己評価表1.運転中に携帯電話などのデバイスを使いますか?2.紹介されたばかりの人の名前を、すぐに思いだせなくなることがありますか?3.会議やミーティングの最中に、メッセージの返信をすることがありますか?4.話を聞き流していて、「きみはどう思う?」と意見を求められたとき、答えられないことがありますか?5.歩きながら、携帯電話などのデバイスをいじりますか?6.同僚や仲間と一緒にいるときにも、スマートフォンをいじりますか?7.仕事や作業を進めようと思っていたのに、横道にそれ、ついほかのことをしてしまうことがありますか?8.約束の時刻や場所を間違えてしまうことがありますか?9.ノートパソコンで記録をとるふりをしながら、ほかのこと(ネットサーフィン、メールのチェック、メッセージの送信など)をすることがありますか?10.ほかのことに気をとられていて、エレベーターで目的とは違う階で降りてしまうことがありますか?11.集中していなかったため、一度読んだ文章やデータを読みなおさなければならなくなることがありますか?12.一緒にいる相手に意識を100パーセント向けていないことがありますか?13.食事中もテーブルに携帯電話などのデバイスを置き、しょっちゅう確認しますか?14.仕事関係の連絡がきたら、たとえ勤務時間外であろうと、すぐに返信しなくてはいけないような気がしますか?15.重要なメモをその辺にある紙切れに書き留め、そのあとどこにいったかわからなくなることがありますか?16.1日の仕事を終えるときに「満足のいく仕事ができなかった」「仕事がはかどらなかった」と感じることがありますか?17.メディアの情報に気をとられ、考え事に集中できないことがありますか?18.「よくほかのことをしている」「気が散りやすい」と人に言われることがありますか?19.人と電話で話している最中でも、ネットを眺めたり、SNSをしたり、メッセージに応じたりしますか?20.忙しくすごしているにもかかわらず、充足感を覚えることができず、能率が上がらないと感じることがありますか?「スコア」を評価する各問の答えをすべて足し、スコアを算出しよう。
このスコアから、あなたが日常生活でどの程度、シングルタスクを実践できているかがわかる。
・スコア0〜25の人〈レベル1〉シングルタスク上級者こんなに低いスコアになるとは、すばらしい。
あなたは立派なシングルタスク上級者だ。
あなたは、まさに「いま」という瞬間を生きている。
・スコア26〜50の人〈レベル2〉いい線いっていますあなたは、本書をうなずきながら読んでくださっているはずだ。
あなたは1つの作業に没頭しやすいタイプかもしれないし、ふだんの生活で意識してシングル
タスクを実践しているのかもしれない。
いずれにしろ、あなたは正しい道を進んでいる。
本書を読み進めば、「いまここ」にいようとする探求の旅を、もっと遠くまで続けることができるだろう。
・スコア51〜75の人〈レベル3〉希望をもって努力しよう仕事の面でも生活の面でも、やり方を変え、生産性を上げる方法はたくさんある!このまま読み進み、いまの自分を変えていこう。
・スコア76〜100の人〈レベル4〉急ブレーキを踏む必要あり!本書との出会いは、あなたにとって有意義な一歩となるはずだ。
仕事の進め方と対人関係を、これから大幅に改善していこう。
そして、大きな成果をあげられるようにしよう。
「自己評価表」からなにがわかるか?自己評価表のスコアは、自分のシングルタスクの度合いを可視化してくれる。
次の図の矢印の線上のどのあたりに自分は位置するのか、一度確認してほしい。
「完全なマルチタスカー」あるいは「完全なシングルタスカー」という人はほとんどいないが、私たちにはたいていどちらかの傾向がある。
また、その日——あるいはその週——に感じるストレスや、周囲の状況、同時発生した仕事や用事の数などにより、マルチタスクを試みる度合いが変わってくる場合もある。
では、ついマルチタスクをしようとしてしまうのは、いったいどんなときだろう?さきほど紹介した〈「シングルタスク度」自己評価表〉の質問と似たような質問を、30種もの多様な職業に就く200人に尋ねたところ、次の表のような結果を得た。
上から3つめまでの質問にイエスと答えた人の割合は、驚くほど高い。
そのうえ、ほかの質問にも約半数の人がイエスと答えている。
タスク・スイッチングの誘惑はこれほど強いのだ。
だが、そんなふうに注意散漫な状態を続けていると、あなたのキャリア、コミュニケーション、信頼性に悪影響が及んでしまう。
日常に潜む脅威を「一覧化」するかつて産業革命は、テクノロジー時代への劇的な変化をもたらした。
電信と電話が普及するようになると、突然、人びとはいつでも連絡を取れるようになった。
テクノロジーが日常生活になだれ込み、目の前のできごとや一緒にいる人たちからべつの方向に注意を向けるよう、私たちを誘惑しはじめた。
こうして、シングルタスクを継続するのはいっそう困難になった。
分析心理学の創始者であるカール・ユングは、1925年にアフリカを訪れたとき、こう記している。
「(同行者と私は)アフリカなる世界を経験する幸運に恵まれた。
われわれのキャンプ生活は、私の生涯のもっとも素晴らしい時の一つとなった。
私はなお原始時代にある国の『神の平和』を享受した。
(中略)私と、すべての悪魔の母であるヨーロッパとの間には、幾千マイルもの距りがあった。
悪魔はここにいる私にまでは手を伸ばすことはできないのであって、——電報も、電話も、手紙も訪問客もなかった。
私の解放された精神力は喜び勇んで原始世界の広がりへと逆流した」ユングは、20世紀初頭ヨーロッパのテクノロジーという「悪魔」から解放された状態を「神の平和」と描写した。
そして、電報や電話のない生活を心から慈しんだ。
さて、それからたった90年しか経過していない現在、電報や電話といった基本的な通信手段は、プライバシーや心の平穏をおびやかすほどのものではなくなった。
では、あなたにとってテクノロジーという「悪魔」の現代版とは、いったいなんだろう?その答えとして頭に浮かんだものを、すべてリストにして書きだそう。
それはスマートフォンなどのデバイスかもしれないし、ソーシャルメディアのプラットフォームかもしれない。
2〜3分程度で、ノートなどにリストを書きだしてみてほしい。
一覧化して意識することが、その脅威と距離を置く第一歩になるはずだ。
現代の私たちは生身の肉体をもち目の前に存在している人の話をろくに聞かず、ここにいない人たちともっぱら電気を通して会話している。
だが、一点集中術を実践すれば「いまここ」に立ち戻り、対人関係を立てなおし、本物の交流を取り戻すことができる。
ようこそ、わが友よ、シングルタスクの明るくさわやかな世界へ。
さあ、本腰をいれてもらいたい。
これから、あなたと脳との関係を少々、説明する。
どこへ行くにせよ、あなたは自分の脳と行動をともにしているのだから。
Point「いまここ」に集中し、「1つ」だけに没頭する「いまここにいること」「一度に1つの作業をすること」を徹底する。
シングルタスクに専心することで「ゾーン」に入ることができる。
シングルタスクは「エネルギー」×「集中力」を生みだす。
空白の時間に「繰り返し同じ悩みを考えること」が無駄に時間を奪っている。
ミーティングの最中は、心と肉体を同じ場所に存在させる。
〈「シングルタスク度」自己評価表〉で自分を知り、改善点を検討する。
SNSや電話の相手より、「目の前にいる相手」をつねに優先する。
コメント