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第1章 障がい者が安心して過ごせる場所が圧倒的に少ない…

はじめに「何か世の中のためになることをしたい」「自分(会社)の存在意義は『世の中の役に立つこと』であるべきではないか」多くの経営者がそのような思いを抱いているはずです。私も一人の経営者として長い間そう思い続けてきました。その思いが事業として結実したものが、今回この本で紹介する障がい者グループホームです。私はこのノウハウを世に出すことで、障がい者グループホームの実情を伝え、現在、絶対的に数が不足しているこの施設を増やすことで、障がいのある人とない人がともに自分らしく生きていける社会の実現を願っています。「障がい者グループホーム」という名前を初めて聞いたという方もいると思います。グループホームといえば、認知症のお年寄りが入居する施設としてよく知られており、お年寄りができるだけ自立した生活を送れるように支援しています。障がい者グループホームも同様で、障がい者が家族のもとを離れ、共同生活をしながら地域社会の一員として自立を目指す施設のことをいいます。これまで、障がいのある方々が入居するのは、「入所施設」と呼ばれる公営の大規模な施設が一般的でした。入所施設の多くは人里離れた場所にあり、一般社会から隔絶されていました。その体制を大きく変えたのは、2012(平成24)年の障害者総合支援法の制定です。障がいのある人を世間から隔絶された場所に閉じ込めるのではなく、地域住民として一般社会と分け隔てられることなく暮らしてもらう、という政策を国が打ち出したのです。それ以降は、従来の入所施設が徐々に縮小されるとともに、障がい者がグループホームのスタッフの手助けのもと自立した生活を送り、一人ひとりの能力を引き出す訓練に基点がおかれるようになりました。しかし、そういった流れがあってもなお、2021年現在も、政府が期待したほど障がい者グループホームの数は増えていません。2019(令和元)年の厚生労働省の発表では、障がい者の総数は全国で963万人いることが分かっています。一方、65歳以上の要支援・要介護者の数は2020(令和2)年2月の暫定値で660万人で、障がい者の数は要支援・要介護の高齢者の数を大きく上回っています。ところがこの人数に対する障がい者グループホームの供給率はわずか6%に過ぎません(国土交通省「高齢者住宅データから見た課題」2020年)。そこには障がい者を支援する事業所に市区町村から支給される報酬が低く、あまり利益が出せず事業として成り立ちにくいという背景があります。そのため、運営に着手する法人が少なく、需要があるにもかかわらず供給が追いついていない状態でした。これは誠に憂慮すべきことですが、現在では報酬単価が改定され、「日中サービス支援型」という新たな支援体制ができたことや、2019年全面施行の建築基準法の改正で使用できる物件が増えたことなどが追い風となり、障がい者グループホーム事業は始めやすくなっています。障がい者グループホームの運営に踏み出す事業者は、遊休地をもっている企業や、福祉作業所の運営者など、立場はさまざまです。企業は遊休地を活用して安定した家賃収入が得られ、福祉作業所は障がい者に住居を提供できるため、それぞれに利点があります。私は建設会社の経営者として、これまで多くの高齢者施設の建設に携わってきましたが、障がい者グループホームの数がまったく足りていない現状が分かった2015年からは、障がい者グループホームの建設にも関わるようになりました。建設を進めるにつれて障がい者グループホームの状況が分かるようになると、2019年頃には「うちの会社もグループホームづくりのお手伝いをするだけでなく、運営する側になってみよう」という意見が自社の社員から出るようになりました。その頃ちょうど会社が創業100年を迎えたこともあり、次の100年に向けた事業基盤の強化および社会貢献の一つとして、私たちも福祉業界の一翼を担おうということになりました。そして、グループ企業である福祉関連会社の運営によって、2022年春に障がい者グループホーム第1号をオープンすることとなったのです。この本には障がい者グループホーム建設に携わってきた実績と、建設業という異業種から福祉事業に参入するまでの実体験とノウハウを盛り込みました。真の共生社会の実現に向けて、一人でも多くの方に障がい者グループホームに関心をもっていただければ、これほどうれしいことはありません。

目次はじめに第1章障がい者が安心して過ごせる場所が圧倒的に少ない……障がい者の数は増え続けている障がいの種類障がい者の数が増えた理由障がい者はどこで生活している?障がい者を孤立させない取り組み障がい者グループホームの数は圧倒的に不足している

第2章障がい者の自立へ向けた第一歩を支援するグループホームとは

グループホームの定義障がい者グループホームにとって大切なのは「利益を出すこと」障がい者グループホームの設置基準障がい者グループホームの種類障害支援区分とは必要人員について障がい者グループホームの収益はどうなっている?

第3章グループホーム経営を成功させる収支パターンと建設プラン

「福祉で金儲けなんて……」は何も生まない入居者3人の介護包括型グループホームの収支を見てみよう新築物件で定員が10人に増えると、収益は10倍以上になる!日中サービス支援型で定員20人だと、利益は包括型の4・2倍になる!グループホーム事業のスキーム建物は木造でOK!介護包括型グループホームは1ユニット5戸・2ユニットが望ましい日中サービス支援型グループホームグループホームに必要な消防設備障がい者グループホーム投資のメリットそれぞれの事業収支を見る障がい者グループホーム建設はどう進行する?

第4章財務体質を健全化できる福祉施設経営──地方企業が生き残るために

それは「会社としての意思決定」から始まった事業計画書を作り、金融機関に融資打診をする行政に事前相談会社設立と図面作成採用活動着工の事前準備町内会長への挨拶と近隣説明会地鎮祭・着工~内装・食事決め入居者募集開始とホームページ作成、就業規則づくり

第5章すべての人が輝き活躍できる社会を実現したい──企業が果たすべき使命

次の100年を見据えてコンサルタント会社の力を借りる社員の発想力を大事にして、任せる本業とのシナジー効果若手社員インタビュー社員の働きに応えられるような組織づくりを目指すおわりに

障がい者の数は増え続けている「障がい者施設」と聞いたときに具体的なイメージがわかないという方がほとんどだと思います。「高齢者施設」については、お年寄りが集まって暮らしているというイメージをどなたももっているはずです。これは何を意味するかというと、私は日本人一般が障がい者と高齢者に対してもっている意識をそのまま映し出しているのではないかと思っています。福祉の分野で代表的なのは大きく「高齢者福祉」と「障がい者福祉」に分かれます。つまり障がい者施設も高齢者施設もどちらも「福祉」という枠でくくられるものであるにもかかわらず、両者に対する認識の度合いには大きな隔たりがあるように感じられてならないのです。その原因は端的にいうと、障がいのある方に接する機会がないという人が多いからだと考えられます。私たちの目にお年寄りの姿はよく入ってきます。自分の親や親戚が高齢になっていくところを目のあたりにしていますし、地方に行けば行くほど、人口に対するお年寄りの割合は増えていきます。では障がい者の方を日常的に見かけたり、接したりする機会についてはどうかといえば、身内や親しい友人に障がいのある方がいたり、自身が障がい者福祉関係の仕事に携わっていたりしていない限り、接する機会はないという方が多いと思います。そして地方へ行けば行くほど、障がいのある方をお見かけする機会は少なくなっていきます。都市部に比べると地方は情報が少ないため、障がいに対する理解が浅い面があったり、障がいのある方が外出する環境が整っていなかったりということがその一因になっていると予想されます。そのため、一般の方は高齢者人口が増えていることは実感できていても、障がい者の数の増減についてはなんらイメージをもつことができないというのが実情だと考えられます。しかしここが非常に重要なのですが、多くの人が意識してはいないものの、障がいのある人の数は増え続けているのです。ではここで、高齢者の数と障がいのある人の数がどう変化しているかを見てみましょう。高齢社会白書によると、65歳以上の要支援・要介護者の数は右肩上がりで増え続けており、平成27年度の調査でその数は600万人に達しています。次に障がいのある人の数の推移を見ていきます。

次の表は障がい認定を受けている方の数を表したものです。その総数は平成28年時点でおよそ936万人となっています。前回平成23年の推計(約788万人)よりも約148万人増加し、日本の全人口に占める割合も約6・2%から約7・4%へと増えました。

さらに特筆すべきは、この数があくまで「障がい認定を受けている人の数」だということです。障がいはあっても障がい認定を受けていない人を含んでいません。潜在的な障がいのある人を含めると、この割合はもっと高くなります。一方、要支援・要介護の高齢者数約600万人ですから、日本の人口を1億2500万人とすると、人口に占める割合は約4・8%。数を比較すると障がい者数936万人要支援・要介護高齢者600万人=1・56となり、障がいのある人の数が、要支援・要介護の高齢者の数の1・56倍であることが分かりました。「うちの母親が認知症で」とか「○○さんの家ではお父さんが認知症で大変らしいよ」という話はよく耳に入ってきます。そのため支援や介護の必要なお年寄りの数が増えていることは、誰もが感じていることだと思います。しかしその数を1・5倍も上回るほどに、今、障がいのある人の数が増えているのです。これほど多くの障がい者がいることを、ほとんどの人が認識できていないというのが日本の現状です。障がいの種類では具体的に「障がい」というのはどういう心身の状態をいうのでしょうか。まずは障がいの種類についてご説明していきます。障がい者対策の基本理念を示す法律として「障害者基本法」があります。この法律では障がい者について「身体障害、知的障害または精神障害があるため、長期にわたり日常生活、または社会生活に相当な制限を受ける者」と定義しています。障がいは身体障がい知的障がい精神障がいの3種類に分類されます。1身体障がいとは身体障がいについては「身体障害者福祉法」の中で「身体機能の一部に不自由があり、日常生活に制限がある状態のこと」と定義しています。身体障がいは次の5種類に分類されます。視覚障がい聴覚・平衡機能障がい音声・言語・そしゃく機能障がい肢体不自由内臓機能などの疾患による内部障がい2知的障がいとは知的障がいについては「知的障害者福祉法」の中で「日常生活で読み書き計算などを行う際の知的行動に支障がある状態のこと」と定義し、知的行動の遅滞の基準として次の3要件を挙げています。発達期において遅滞が生じること遅滞が明らかであること遅滞により適応行動が困難であることちなみに「発達期」というのはおおむね18歳までを指します。そのため、成人になってからの事故や病気、認知症などによって知的機能が低下したケースは、この法律で定めるところの「知的障がい」には該当しません。3精神障がいとは精神障がいについては「精神保健福祉法」で「脳および心の機能や器質の障害によって起きる精神疾患によって、日常生活に制約がある状態のこと」と定義されています。精神保健福祉法で定められている精神障がいは次のとおりです。統合失調症精神作用物質(薬物やアルコール)による急性中毒又はその依存症知的障がい(18歳を過ぎてからの事故や病気、認知症などによる知的機能の低下)精神病質その他の精神疾患また、2004年に制定された発達障害者支援法により、次の疾患も精神障がいとして扱うこととなりました。自閉症アスペルガー症候群うつ病、そううつ病などの気分障がいてんかん高次脳機能障害とこれに類する脳機能障害で、その症状が低年齢に発現する発達障害発達障がい(自閉症、学習障がい〈LD〉、注意欠陥多動性障がい〈ADHD〉等)その他の精神疾患(ストレス関連障がい等)障がい者の数が増えた理由障がいに対する社会的認知の広まりなぜ、障がいのある方たちの数が増加しているのか、その最も注目すべき要因は、障がいに対する社会的認知度が高まったことです。特に発達障がいについて知られるようになったことが、大きく関与しています。つい20年ほど前までは「発達障がい」という言葉が世の中であまり理解されることはありませんでした。

言葉の遅れや人とのコミュニケーションがうまく取れないといった特性が幼少期に発現しやすいことから、自閉症のお子さんの存在は認知されるようになってはいたものの、その原因として「親の育て方が悪かったから」など見当違いな見解が寄せられることもあり、当事者の方々は非常に胸を痛めていたと思います。しかも、自閉症以外の発達障がいについては、ほとんど知られていませんでした。しかし昔から、何度注意してもじっと自分の席に座っていられずウロウロと歩き回ってしまう人、極端に片づけが苦手な人、話がかみ合わず人とうまくコミュニケーションが取れない人など、いわゆる一般の人ができることができずに、社会生活に支障をきたす人は一定割合存在していました。こうした人たちは「空気が読めない人」「変わった人」などと呼ばれ、かといって知的障がいとは考えられていなかったことから法制度のはざまで取り残されていました。現実には学校や職場、あるいは就労そのものが難しいなど、さまざまな場面で困難を抱えているにもかかわらず、支援が受けられない状態が長く続いていたのです。「発達障害者支援法」の登場その壁を打ち破り、新たな時代を拓くきっかけとなったのが2004年(平成16年)に制定された「発達障害者支援法」です。この法律によって、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障がい(ADHD)、学習障がい(LD)、トゥレット症候群(運動性チックと音性チックが1年以上続く症状)、吃音などが「発達障がい」と総称され、それぞれがもつ障がい特性や個々人のライフステージに応じた支援が受けられることとなりました。発達障害者支援法の柱は次の3つです。発達障害者に対する障害の定義と発達障害への理解の促進発達障害者の自立・社会参加のための生活全般にわたる支援の促進発達障害者支援を担当する部局相互の緊密な連携の確保、関係機関との協力体制の整備障がいの原因は「社会」にあるさらに、2016年の法改正で、発達障害者支援法の基本理念として「社会的障壁の除去」という文言が追加されました。これによって発達障がいのある人が社会生活をするうえで直面する不利益は、本人の責任ではなく社会の責任であるということが明確に示されたのです。以前の障がいに対する考え方は「障がいは個人の心身や機能の障がいによるもの」とする「医学モデル」と呼ばれるものでした。それを「障がいを障がいたらしめるのは社会のあり方にあり、個人の責任ではない」ととらえる「社会モデル」へと移行させる考えを示したのです。また発達障がいの早期発見とともに、乳幼児期から高齢期まで切れ目のない支援を行うことも明記されたほか、各都道府県と人口50万人以上の都市には発達障がいのある人への総合的な支援を行う「発達障害者支援センター」の設置が義務付けられました。【改正のポイント】発達障がい者の支援は「社会的障壁」を除去するために行う乳幼児期から高齢期まで、切れ目なく支援。医療、福祉、教育、労働などが緊密に連携司法手続きで意思疎通の手段を確保国、都道府県は就労の定着を支援教育現場での個別の支援計画や指導計画の作成を推進発達障害者支援センターの増設都道府県に関係機関による協議会を設置これを機に発達障がいに対する社会の認知度が高まった結果、支援の対象からこぼれ落ちていた人たちが「自分も発達障がいなのではないか」と気づきやすくなり、関係機関に相談するなどして障がい認定を受けるようになったのです。発達障害者支援法は、発達障がいのある人が自分自身の障がいを認識しやすくなったという点、そして必要な支援を受けやすくなったという点で、果たした役割は非常に大きいものといえます。高齢者人口の増加また、障がい者人口が増加していることの要因として、高齢者の人口が増えていることも考えられます。というのも高齢になると身体機能が低下するため、身体の不自由を感じる人が増えていくからです。また認知症の発症により、精神障がいが認められるケースも増えてきています。

高齢者人口は今後も増えていくことが予想されるため、それに伴って障がい者数も増加していくと考えられます。富山県の状況ちなみに、私たちの事業拠点である富山県における障害者手帳の交付を受けている人の数は、平成29年時点で総人口数約104・5万人に対して約6万3000人。5・9%と全国平均よりは低めです。

その理由としては地方特有の「世間の目」を気にする傾向が強く、家族に障がいがあることを認めたくない、障害者手帳の交付を受けていることを知られたくないという思惑が働いていることが考えられます。とはいえ、日本のほかの地域同様、年々数は増えてきているので、今後、障がい者福祉に対する認識が変化していくにつれて増加していくことは間違いありません。障がい者はどこで生活している?障がいの程度にもよりますが、一般的に障がいのある人はない人に比べて経済的な面や心理的・身体的側面からも自立して生活していくことが難しい場合があります。では障がいのある人はどこでどのように暮らしているのでしょうか。平成21・23年の調査結果に基づく少々古いデータになりますが、平成28年1月25日に厚生労働省から発表された「障害者の住まいの場の確保に関する施策について」というレポートからその実態が分かります。この調査によると、身体障がい者(児)のうち在宅者は98・1%・施設入所者1・9%、知的障がい者(児)の在宅者83・9%・施設入所者16・1%、精神障害者の在宅者89・9%・入院者10・1%となっています。平均すると在宅者が約90・6%、施設入所者が約9・4%と圧倒的にそれぞれの家庭で生活している人が多いことが分かります。以下、少々長くなりますが、「ノーマライゼーション障害者の福祉」2016年2月号に掲載された土屋葉氏(社会学者、愛知大学文学部教授)の「いま、障害のある人と家族は」から、この調査を含む厚生労働省発表のデータに関する分析をご紹介します。・・・前略・・・厚生労働省の調査によれば、65歳未満では、知的障害のある人は年齢層が比較的若い世代に偏ってはいるが、同居者がいる人の実に90・7%は親と暮らしている。また、精神障害のある人はやや高い世代に偏っているものの、65・7%が親と暮らしている。身体障害のある人は高年齢層に偏っており、59・7%は夫婦で生活しているが、40・7%は親と(も)、35・5%は子どもと(も)生活をしている。一方で、精神障害のある人で入院患者の割合は10・1%、知的障害のある人で施設入所者の割合は16・1%となっており、無視できる数値ではない。グループホームで暮らす人は増加傾向にはあるものの、知的障害のある人の11・5%、身体障害のある人の4・2%、精神障害のある人の3・5%にすぎない。また地域による差も大きい。たしかに重い障害のある人が単身で、またはグループホームで暮らしている例もある。しかしこれらのほとんどは大都市圏での話である。・・・・中略・・・・まとめよう。とりわけ先天的な障害のある人、あるいは比較的年齢が若いうちに障害をもった人は、年齢を重ねても未婚のまま親やきょうだいと暮らしている。収入は、地域で独立の生計を営むには十分なものではない人が多く、そうした場合は、生活費・治療費を含めた金銭的支援を家族が担っている。単身で、あるいはグループホーム等で暮らす人は決して多いとはいえず、かつてと比べ本人に対するサービス体制が整えられてはいるものの、家族に依存する生活を送る人が多い。・・・・後略・・・・障がいのある人の生活は家族頼みであり、特に親が重い責任を担わざるを得ないのが現状です。特に地方では、障がいのあるお子さんが好奇の目にさらされるのではないかという思いが強いあまり、家の中だけで大事に守り育てる傾向が強く見られます。私たちのホームである富山県も例外でなく、障がい者施設の方から「ご両親が亡くなって初めて障がいのあるお子さんが見つかるというケースが少なくない」と聞いたことがあります。福祉関係の方が初めて知るくらいですから、障害者手帳を持つことも障害年金を受給することもなく、なんの福祉サービスを受けることもないまま、両親が亡くなるまで家庭の中でひっそりと暮らしてきたと考えられます。まさにすべてが親頼みだったわけです。それだけ親御さんがお子さんを大切にいつくしんできたともいえますが、見方を変えれば「障がいのあるこの子は、家で静かに過ごす以外のことはできないだろう」というあきらめが先に立ち、お子さんの素質や可能性について考えが及ぶことはなかったともいえるのです。「8050問題」は障がい者のいる家庭では今に始まったことではない今、「8050(はちまるごまる)問題」が話題になっています。8050問題とは「80代の高齢の親が50代の仕事に就いていない引きこもりの子どもと一緒に暮らし、経済的な面も含めて支援している状態」を表すものです。「健康で働ける50代が家に引きこもり、老いた親の年金をあてにして暮らすのは問題だ」という論調で語られることが多く、いずれ親が亡くなったあと、経済的なことを含め生活全般が立ち行かなくなることは目に見えているので、社会的な支援による解決が必要だと認知されるようになりました。しかし障がいのあるお子さんのいる家庭では、8050問題が取り沙汰されるはるか昔から、老いた親御さんがお子さんの面倒を見続けるという状況が当たり前のように続けられてきました。福祉関係の方に寄せられる相談も「自分が死んだらこの子はどうなるのか、行く末が心配でたまらない」というものが多いそうです。障がい者を孤立させない取り組み富山県の障がい福祉関係者の話によれば、障がいのある人の中には早期に訓練を受けることである程度の就労ができるレベルまで到達する可能性の高い人が多いそうです。早い段階で生活訓練のための施設に入って他者との共同生活に慣れ、作業所に通うなどすれば、ある程度のスキルと社会性を身につけることができるはずです。また、親御さんにとってもお子さんの行き先が決まるということは、非常に安心なことだと思います。先の福祉関係者の話では、もっと早くから訓練を始めていればよかったのにと思われるケースが散見できるとのことでした。親御さんが亡くなって施設に入所したとき数を数えるのもおぼつかないまま50歳になっているケースもあるそうです。健常者にも教育が欠かせないのと同様、障がいのある人にも教育は不可欠です。教育(生活訓練)を受けることによって、親御さんが亡くなったあとも社会に溶け込んで生きることができるからです。そして、障がい者を孤立させないための取り組みのひとつが、この本のテーマである障がい者グループホームなのです。障がい者グループホームとは家庭では世話をすることが困難な重度の障がいがあったり、親御さんが亡くなったあと保護者がいなかったりする方々が暮らす施設は、かつて「入所施設」と

呼ばれていました。入所施設の多くは人里離れた辺鄙な場所にあることが多く、そこに入所している人は地域社会から隔絶された状態で生活することを余儀なくされていました。そこで厚生労働省は障がい者を隔離するのではなく、健常者とともに地域生活を営むためのグループホームの数を増やし、そこで障がい者の方たちに暮らしてもらう「地域包括ケア」の方針を打ち出したのです。これが障害者総合支援法に基づく「地域移行支援事業」で、2013年(平成25年)4月から実施されています。当初は重度の障がいのある人が入所するのはケアホーム、障がいの程度が中軽度の人が入所するのはグループホームという区分けがありましたが、平成26年4月にいずれも「グループホーム」に一本化されました。障がい者グループホームは「共同生活援助事業」として地域移行支援事業の中核をなすものです。グループホームに入所する障がいのある人に対しては、入浴、排せつや食事の介助、調理、洗濯、掃除などの日常生活全般をサポートする福祉サービスが提供されます。グループホームで生活することそのものが、障がいのある人たちにとっては自立訓練につながります。また、グループホームに入所している人のなかには就労している人も大勢います。障がいの程度によりますが、就労支援を行う福祉事業所に通所して仕事をすることができるようになれば、経済的な基盤をより盤石なものにすることが可能になります。障がいのあるお子さんを親御さんが抱え込んでしまい、身動きが取れなくなっているケースが多いとお話ししましたが、そうなってしまうのは、今どんな障がい者福祉サービスがあり、どうすれば利用できるかを知らないからです。お子さんにとってもグループホームから仕事に通い、規則正しい生活をすることが、いつまでも親の庇護のもとで暮らすよりもプラスに働く面が多いのではないかと思います。障がい者グループホームの数は圧倒的に不足している障がいのある人の新たな生活の場として期待されているグループホームですが、障がい者の数に対して数が圧倒的に足りないという現状があります。

2019年末における全国の障がいのある人の数に対するグループホームの供給率は、わずか6%でした。富山県に至っては、グループホームの総数1017戸で供給率はわずか1・63%というありさまです。障がいのある人の仕事場である福祉事業所の関係者の方から「障がいのあるお子さんをもつ親御さんから『私たちがいなくなったあと、この子の行く末が心配だ。お宅で障がいのある人たちが暮らす施設をつくってくれないか』と言われることが増えてきました」という話をよく聞きます。しかし、需要に対して供給がまったく追いついていないのが実情です。その切実な要望に応えていくことが、社会的に求められているのが今なのです。

 

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