問題解決あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術
はじめに問題解決とは世の中は問題であふれている。
人生は煎じつめれば「目のまえにある問題をどう解決するか」に尽きるだろう。
誰もが問題を解決しようと頭を悩ませているが、なかなかうまくいかない。
それもそのはず。
多くの人が、自分で正しいと思っているやり方で、あるいはその場の思いつきで対処しているからだ。
だから、あるときは運よく解決できるかもしれないが、いつも解決できるわけではない。
また、一つの問題を解決しても、さらに多くの問題が次々と現れてくるのだ。
「問題解決」というと、難しい分析や特殊な考え方など、専門的な内容を想像されるかもしれない。
しかし、本当にそうなのだろうか。
実は「問題解決」とは、すべてのビジネスの現場で日々必要とされる普遍的な「仕事の進め方」である。
たとえば、トヨタ自動車では、過去40年以上にわたり、部門を問わずすべての社員にTBP(トヨタ・ビジネス・プラクティス)というトヨタ流の問題解決手法を実践させているという。
しかもトヨタに限った話でもなければ、メーカーに限った話でもない。
私たちは現在、金融・商社・製造・流通・通信・サービスなどあらゆる業種で100社を超える企業に対し研修をおこなっているが、多くのリーディングカンパニーでは「問題解決」が社員全員にとって必須のスキルであると認識しはじめている。
ビジネスは日々、問題解決の連続である。
にもかかわらず、その考え方を知らないがゆえに、どれほど多くの人々が「目先のモグラ叩き」を繰り返していることか。
本書は、ビジネスの現場からこうした無駄をなくし、すべてのビジネスパーソンが効率的・効果的に仕事を進めるための「手順」を明らかにしたものである。
内容は、ビジネスパーソンが価値の高い仕事を遂行していくうえで必須となる「仕事の進め方」、すなわち問題解決の手順と、そこで求められる思考スキルのすべてを整理している。
とはいえ、「問題解決の書籍なんて、他にもたくさんある」と言う人がいるかもしれない。
だが、ビジネスの現場で真に実用にたえる「問題解決の教科書」など、ほとんどないのが実状だ。
事実、私の会社で研修をおこなう際、問題解決のテキストに使える本は一冊もない。
どの本も、ある著者の限られた経験から語るならばそのとおりなのだが、あらゆる業種にあてはまるほどの普遍性を意識しながら、ビジネスの現場で実践することを意識してまでは書かれていない。
多くの人が「問題解決は特殊なスキルだ」「自分の会社にはあてはまらない」と考えてしまう理由がここにある。
そこで、デファクトスタンダードではないが「定番教科書」として使える本を自前でつくることにした。
私たちの講師陣が100社を超える企業での登壇経験を活かし、議論に議論を重ねて書き下ろした本、それが本書だ。
内容には、大きな特長が二つある。
一つは、「わかる」ではなく、「できる」を目指していること。
もう一つは、「課題設定型」まで言及したことである。
すなわち、「あたりまえの状態」を目指すのではなく、高い問題意識に基づき「よりよい〈あるべき姿〉」を描き、自ら課題設定するための方法論を紹介していることである。
図0‐1を見ていただきたい。
これはビジネスパーソンに求められるスキルをマッピングしたものだ。
前著『ロジカル・プレゼンテーション』(高田貴久著、英治出版、二〇〇四年)では、このなかの1~4を書き下ろしたが、本書は5~7、すなわち「分析力」「問題解決」「戦略立案」といったスキルについて10年間、煮詰めて書き下ろした。
本書が目指すのは、単なる知識の付与ではない。
読者の方が一連のスキルを身につけることで問題や課題を正しく認識し、その解決策を考え実行することで、人が動き、企業が動き、ビジネスが円滑に進むことを目指している。
そして最終的に、企業が、社会が、世界がよくなっていくことを私たちは願ってやまない。
本書の構成次に本書の全体構成を説明しよう。
本書は、図0‐2のように、第1~7章までの合計七つの章で構成されている。
問題解決の手順はPDCAサイクルで整理されるが、第1~5章までが「P(計画)」の部分、第6章が「D(実行)」、第7章が「C、A(評価と定着化)」に対応している。
また「P」の部分については、第1~3章が基本的な問題解決である「問題発生型」の内容を、第4章が応用的な問題解決である「課題設定型」の内容を、第5章が双方に共通する内容を説明している。
また、各章は、「ストーリー」「解説」「まとめ(ポイント)」という構成になっている。
「ストーリー」は、架空のビジネスストーリーで、現場のリアルなイメージをつかみ、問題解決の手順を実感していただくために配した。
主人公の戸崎は、京都にある上賀茂製作所というメーカーの経営企画部に勤務している。
前著の『ロジカル・プレゼンテーション』にも登場した戸崎が、コンサルティング会社時代のクライアント企業であった上賀茂製作所に転職し、社長から業績が低迷している事業部の立て直しを命じられるところから物語は始まる。
「解説」は、ストーリーのなかで起こる出来事なども題材にしながら、問題解決の手順を詳しく解説している。
「まとめ(ポイント)」は、解説のなかで最も重要なポイントを要約したものである。
次に、各章について概略を解説しよう。
第1章問題解決の手順…問題に直面したとき、どう考えるべきかを解説第2章問題の特定………どこに問題があるのかを絞り込む方法を解説第3章原因の追究………なぜ問題が発生するのか、広く深く検討する方法を解説第4章課題の設定………高い問題意識をもって〈あるべき姿〉を構築する方法を解説第5章対策の立案………発生した問題、設定した課題について、対策の立て方を解説第6章対策の実行………着実に立案した対策を推進するうえでのポイントを解説第7章評価と定着化……対策実行後に結果を評価し定着させる方法を解説「問題解決」は誰に、どう役立つのかさて、実際に本書は「誰に対して」「どのような局面で」役に立つのだろうか。
本書の特徴を整理してみよう。
①若手ビジネスパーソン上司からさまざまな仕事を与えられ、現場で遂行しなければならない若手ビジネスパーソンにまず役立つのは、第6章の「対策の実行」である。
ただ、指示された対策をこなしているだけでは成長は望めない。
与えられた問題に対して自ら深く原因を考え、よりよい対策を生み出すには第3章の「原因の追究」、第5章の「対策の立案」も重要になってくる。
②中堅ビジネスパーソンビジネスの最前線で最も多くの「問題」を抱え、日々奮闘しているのが中堅ビジネスパーソンである。
ほぼ全章が役に立つが、第2章の「問題の特定」が最も参考になるだろう。
中堅の方々は、若手に比べると格段に「大きな問題」に立ち向かうことが多い。
その際、どこに問題があるのかきちんと特定できないと、無駄な原因を考え、無駄な対策を立案し、疲弊してしまう可能性が高い。
第1章の「問題解決の手順」をしっかり理解したうえで、効率的・効果的に仕事をこなしていく方法を身につけてほしい。
③管理職層、経営者層この層の方々で最も重要なのは、第4章の「課題の設定」、および第7章の「評価と定着化」である。
目のまえで起こっている問題を特定し、原因を考え、対策をおこなうといった能力はすでに備えた階層といえよう。
重要なのは「誰が見てもわかる」という次元の問題ではなく、「高いレベルの〈あるべき姿〉に基づいて自ら設定する」というレベルの課題を解決していくことだ。
また一度かぎりの対策実行では、組織の永続的発展は望めない。
実行された対策をいかに振り返り、結果を評価し、再現性のある形で組織に落とし込んでいくかが求められている。
この層の方々は「わかって当然、できて当然」であるがゆえに、部下にも同じレベルを求める。
その結果、問題の所在や原因の究明を頭のなかで即座におこない、「対策だけ」を部下に指示しがちである。
そうなると部下が、言われたことしか「できなくなる」「やらなくなる」のは時間の問題だ。
問題解決をスムーズに実践する組織をいかにつくりあげるかが、この層には求められている。
④新入社員、就職活動学生企業に勤めるビジネスパーソンだけでなく、就職活動中の学生の方々や、入社早々の新入社員の方々にもぜひ本書を読んでいただきたい。
この方々は「頭ではわかるが、感覚的にわからない」という状況に陥ることが多い。
問題解決の手順は、頭では理解できる。
しかし、実際に企業内で働き、問題に突きあたり、悩み、苦労した経験がないので「実際の仕事ではどうなのか」がつかめない場合が多い。
本書は、私の実体験を元にした「ストーリー」を読むことで、ビジネス現場のイメージが膨らむように工夫されている。
ぜひ「ビジネスの現場」を想像しながら、実務感を持って読み進めてもらいたい。
そもそも、就職活動中の学生あるいは新入社員といえども、「問題がない」ことなどありえない。
身近な問題、自分の問題に対しても、問題解決の手順は適用できるので、学んだ成果を実践して、役立てていただきたい。
以上のように、本書は幅広い読者層の方に役立つと考えている。
また、読者の方の立場によって、それにふさわしい内容を読み取っていただけるものと確信している。
なぜ「問題解決」というテーマを取り上げたか以上、本書の全体を概観した。
ここで、私が二作目として、また弊社が初作として、なぜ「問題解決」というテーマを取り上げたのか、その想いを述べてみたい。
私は、そもそも「問題解決」という学問ジャンルが存在していることさえ知らなかった。
大学でも習わなかったし、MBAの科目でも目にしなかった言葉である。
しかしコンサルティングファームや事業会社でさまざまな仕事を経験していくうちに、ある想いが芽生えてきた。
それは「どんな仕事であっても、仕事の仕方は、実は共通なのではないか」ということである。
私はこれまでの仕事のなかで、「頑張っているが成果が出ていない人」を多数目にしてきた。
本人は汗水流して必死でやっている。
だが成果がまったく出な
い。
もちろん周囲からも評価されない。
無駄な努力をつづけ、疲弊し、やがて、やる気をなくしてしまう……そんな状況に、あなたも遭遇したことはないだろうか。
こうした状況を何とかしたい、何とかしなければならないと考えていくうちに、本書の内容の原形となる「WHERE・WHY・HOW」という概念にたどりついた。
そもそも、どこに問題があるのか。
それは、なぜなのか。
だから、どうするのか。
この手順を追って考えないことには、思いつきの対策をいくら連打しても、成果が得られる可能性は低い。
これを私は「HOW思考の落とし穴」と名づけ、日本中の多くの企業でビジネスパーソンが陥っている大きな落とし穴だと考えた。
私は今でも研修の場で必ず「〈HOW思考の落とし穴〉という言葉は死ぬまで覚えていてください。
そのくらい重要です」と力説している。
無駄なHOWをおこなって疲弊している人が、どれほど多いことか。
現在の会社を設立して2年目に、幸運にもトヨタ自動車と「問題解決」に関する社員育成教材の共同開発と社内トレーナーの育成をおこなうという機会に恵まれた。
そこでの議論を経て、私の思いは「確信」に変わった。
米国系コンサルティングファーム出身の私が熟考のすえにたどりついた「問題解決」の方法論と、まったくルーツが異なる、日本を代表する優良企業のトヨタ自動車の考える「問題解決」の方法論が、実にそっくりだったのである。
たとえば、トヨタ自動車にも「〈闇夜の鉄砲〉をしていないか?」という、いましめの言葉があるようだ。
暗闇で標的を見定めずに鉄砲を撃っても、なかなかあたらない。
「そういう無駄な仕事の仕方をするな」という意味なのだが、その言葉の根底には「財閥企業でも国策企業でもない、体力のない小さな三河の工場が、自分たちの手で自動車をつくるためには、一つしかない的をしっかりと見定めて着実に打ち抜いていく必要がある」という創業以来つづく思想があるらしい。
まさに私がビジネスのなかで感じていた「HOW思考の落とし穴に陥るな」と同じ考え方であった。
時代も国も業種も、関係ない。
「問題解決の方法は一つしかない」と私は確信した。
もちろん、枝葉の部分では業種業態による特徴や、階層別に求められる違いなど、細かな差が出てくる。
弊社の研修では、そうした細部の違いにも配慮している。
しかし「問題解決の手順」の根幹は、日本中、世界中のビジネスパーソンに求められる「共通手順」であると考え、これをより多くの人たちに知っていただくことが重要であると痛感した。
考え方の手順が違えばコミュニケーションは成り立たない。
「これは私の経験上、こういうものなんです」と言われたら、「そうですか」と納得するしかなく、議論が成り立たない。
しかし考え方の手順が同じなら、「問題は本当にそこなのですか?」「原因の掘り下げが不足していませんか?」「他の対策は考えられないのですか?」というふうに、詳しい内容がわからなくても、お互いに議論ができるのだ。
つまり、コミュニケーションの効率も向上するし、それによって質も格段に高まる。
これほどすばらしいことはない。
すべてのビジネスパーソンが問題解決の仕方を身につけ、効率的・効果的に仕事をおこない、その成果が組織に定着化していけば、日本や世界の発展にどれほど貢献できることだろう。
本書がその一助となれば幸いである。
本書の出版にあたり、多くの方々のご協力をいただいた。
まず、弊社の創業期である2007年に「問題解決」の教材開発以外にもさまざまな面でご支援をいただいた、トヨタ自動車の教育部署の総本山である元トヨタインスティテュート第二人材育成グループのグループマネジャーである柴山英昭様、荒井邦彦様、小野崇晃様、大多和明様に、心よりお礼を申しあげます。
また、本書の出版を快く引きうけていただいた英治出版・代表取締役の原田英治氏、原稿の完成に向けて根気強くお力添えをいただいた編集担当の杉崎真名氏、高野達成氏、編集協力のガイア・オペレーションズ・和田文夫氏、さらには、ご尽力いただいたすべての方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。
最後に、本書の共同執筆者である岩澤智之に、また、前職の経験を活かして執筆に協力してくれた元マーサージャパンの岡安建司、元・日本経営システムの北原孝英、元アクセンチュアの木村知百合に、さらに前職の貴重な経験をもとにアドバイスをしてくれた元マッキンゼー・アンド・カンパニーの荻野裕規、元コーポレートディレクションの鈴木宏尚に、そして挿絵を描いてくれた谷口果純、スケジュールを管理してくれた村田友美に感謝したい。
そして、長年にわたり、業務で多忙をきわめるなか、執筆時間を捻出できるよう、家庭を支えてくれた最愛の妻に、この場を借りて感謝の言葉を伝えたい。
2013年11月1日株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ創業者CEO高田貴久
目次はじめに第1章問題解決の手順STORY1問題を見失った人たち問題解決の手順とは?HOW思考の落とし穴に気をつける問題解決の手順を仕事に活かすよりよい問題解決をおこなうために
STORY1問題を見失った人たち晴れない心なぜこんなにも、売上の下落に歯止めがかからないんだろう。
いったい、どこに問題があるというのか……。
さわやかに晴れわたる、上賀茂の早朝の青空とは裏腹に、ハンドルを握る戸崎の心は晴れなかった。
上賀茂製作所はコンピュータの周辺機器などを中心とした、ハードウェア(電子回路や周辺機器など)を製造しているメーカーである。
本社は京都市北区の賀茂川のほとりに位置し、かつて京都の町工場で設計技術者として働いていた宮里社長が独立してつくったオーナー企業である。
これまで順調に売上を伸ばしてきたが、2002年に過去最高の2200億円を記録してからは微減に転じ、2005年の売上は2094億円となっていた。
全社売上の8割近くは磁性材料や磁気部品を手がける「機能デバイス事業本部」が稼ぎ出しており、それ以外に「マルチメディア事業部」「ネットワーク事業部」「ハードウェアソリューション事業部」の三つの事業があった(図1‐1)。
機能デバイス事業本部とネットワーク事業部は、ともに日本経済全体の失速に伴い、売上は毎年1~3%ほど減少していたが、利益率は10~12%程度で安定していた。
ハードウェアソリューション事業は2002年にビデオ・CD・DVDレンタル大手のタリックス社との提携をきっかけに飛躍的な成長をつづけ、売上は年間30%近い勢いで成長し、利益率も当時の3倍の15%にまで高まっていた。
そんな状況のなかで戸崎を悩ませているのが、マルチメディア事業部だった。
マルチメディア事業部は、ビデオ・カセットなどの磁気テープ、フロッピーディスクやMOなどの磁気・光磁気ディスク、CD‐RやDVD‐Rなどの光ディスクといった、ストレージ(データ保存)用メディアのOEM製造(客先ブランド製品の製造)を手がける部門である。
1980年代前半、当時は中堅営業担当として音響市場を担当していた高橋(現事業部長)が立ちあげた事業だ。
音響家電が大きく成長した時代であり、伸びる市場需要にあわせてカセットテープやビデオテープなどの磁気メディアを製造販売して業績を伸ばしてきた。
90年代にCDが登場してカセットテープの売上が減少すると、今度はCDなどの光メディアの製造を手がけた。
さらに90年代後半にはDVDの製造に転じるなど、次々と「伸びる市場」に参入することで事業を拡大してきた。
2002年のピーク時には売上286億円、営業利益31億円を記録したが、その後の3年間で業績は激減し、2005年時点では売上は220億円、営業利益はついに11億円の赤字に転落した。
2002年から2005年で全社の営業利益は15億円下落しているが、マルチメディア事業部の利益減少が他事業部の伸びをすべて帳消しにしているという深刻な状況だった(図1‐2)。
「大谷君、戸崎君、ちょっとええか?」宮里社長から直々に電話で呼び出されたのは先週のことだった。
「マルチメディア事業部のことなんやけどな。
ここの事業部は最近どうなっとるんや?これまでは高橋君にずっと任せきりでやってきたんやけど、そろそろ限界とちゃうかな。
うちの製造現場はしっかりしとるさかい、コスト削減はやっとるはずや。
ただ売上が3年で2割も落ちとったら話にならん。
高橋君たちとも力をあわせながら、経営企画部で一度ちゃんと方針立ててくれるか」戸崎はいま、上賀茂製作所で「社長付兼経営企画部」に勤務している。
五年前はプレセナ・コンサルティングに在席していたが、上賀茂製作所とタリックス社との事業提携をまとめた功績を買われて引き抜かれたのだ。
社内では最年少の管理職であり、経営企画部の大谷部長の右腕として幅広い業務を任されているが、今回、マルチメディア事業部の立て直しは最重要ミッションとして位置づけられていた。
戸崎の戸惑い駐車場からオフィスへ向かいながら、戸崎はしきりに首をかしげていた。
まったく原因がつかめない。
ここ3年で2割以上も売上が減少しているなんて……。
その日は朝からマルチメディア事業部へのヒアリングが予定されていた。
経営企画部に入ると大谷部長から声をかけられた。
「戸崎君、早いじゃないか」「はい、今日は8時半からマルチメディア事業部へのヒアリングがありまして」「そうか……そうだったな。
先方は誰が来るんだ?」「高橋事業部長と安達課長、あとは浪江さんだと思います」「いつものメンバーか。
話が通じるといいんだが」大谷部長が意味ありげに苦笑した。
「ええまあ。
洗いざらい話してもらうつもりですが……」高橋事業部長とはコンサル会社にいたときから面識があるが、安達課長や中堅リーダーの浪江とは、たまに事業部会議で顔を合わせる程度である。
ちゃんと話をしてくれるか、戸崎は少し不安な気持ちを抱えながら会議室へ向かった。
マルチメディア事業部は経営企画部と同じ4階フロアの反対側にあった。
まだ時間が早いのでフロアの人影もまばらだ。
会議室のドアをあけると、高橋事業部長をはじめ、営業部営業企画課の安達課長、浪江剛、そして山辺麻由美の4人がいっせいに戸崎のほうへ顔を向けた。
間髪おかずに戸崎は口をひらいた。
「朝っぱらから、すみません。
本日お時間をいただいたのは……」戸崎は宮里社長から呼び出され、マルチメディア事業部の状況をヒアリングするよう言われた旨を伝えた。
「社長が直々に気にかけてくれるなんて光栄だね。
俺がこの事業を立ちあげたときは、誰も見向きもしなかったからな」にやりと笑いながら高橋が言った。
「安達君、戸崎君にちょっと状況を説明してやってくれ」「わかりました」とうなずき、安達が話しはじめた。
「戸崎さん、マルチメディア事業部はここ3年ほど本当に困っています。
市場は活況を呈していて、私たちもあれこれ忙しく働いておりますが、売上は年々減少しています。
それに付随して利益もどんどん下がり、今期はついに赤字に転落しました。
どうしていいか私たちも途方にくれています」「なるほど、厳しい状況ですね……」戸崎が相づちを打つと、安達がつづけた。
「技術部、購買部、工場など、あらゆる関係部署にコストダウンのお願いをする毎日です。
それでも、お客様からの値引き要望に応えられず、競合にシェアを奪われているのが現実なんです。
この世界は、とにかくコスト競争が熾烈なので」戸崎は軽く質問してみた。
「具体的には、どういう案件を他社に取られているんですか?」浪江が威勢よく割って入った。
「そんなのもう、あちこちで多発してるから、よくわからんよ。
毎日のように、営業担当が〈取った、取られた〉をやってるからね」安達が付け加えた。
「きちんと分析したわけではありませんが、安定的に商売がつづいているお客様はほとんどなくて、つねにコンペをやっているような印象を持っています」戸崎はさらに質問してみた。
「競合というのは、具体的にどんな会社なんですか?」「ケースバイケースだけど」浪江が答えた。
「でも、だいたいは台湾系や香港系が多いかな。
最近では中国地場の企業も増えてきてるし。
あとは、お客さんが自社で内製しちゃうパターンもある」「なるほど」と言ったものの、戸崎は考え込んでしまった。
わかったような、わからないような漠然とした話だな……。
戸崎は、とにかく黙って話を聞くことにした。
つのる疑問浪江が話し終わると、安達が引きついだ。
「そうした状況ですから、最近はマルチメディア事業部としても、さまざまな取り組みをしております。
まず、顧客訪問の強化ですね。
具体的には、営業担当ごとに顧客訪問回数の月間目標を定めて、きちんと訪問できたかどうかの確認をおこなっています。
さらに、社内のイントラネットに〈情報箱〉というのをつくりまして、訪問で入手した情報を共有化するようにしました」黙っているつもりだった戸崎は、つい口を挟んでしまった。
「いったい、どんな情報を共有化するんですか?」「広範囲にわたるものです。
お客様の状況や競合他社の情報など、あるゆるものを情報箱に入れるようにしました」それまで黙っていた高橋事業部長が口をひらいた。
「事業部としての取り組みは、まあそんなところかな……そうだ安達君、シェア表の整備もやってるだろ」「シェア表というのは何ですか?」戸崎がたずねると、山辺が答えた。
「シェア表というのはその名のとおり、お客様における当社のシェアの割合を調査した表です。
つまり、お客様にヒアリングをし、それぞれの商品で、うちのシ
STORY1問題を見失った人たち晴れない心なぜこんなにも、売上の下落に歯止めがかからないんだろう。
いったい、どこに問題があるというのか……。
さわやかに晴れわたる、上賀茂の早朝の青空とは裏腹に、ハンドルを握る戸崎の心は晴れなかった。
上賀茂製作所はコンピュータの周辺機器などを中心とした、ハードウェア(電子回路や周辺機器など)を製造しているメーカーである。
本社は京都市北区の賀茂川のほとりに位置し、かつて京都の町工場で設計技術者として働いていた宮里社長が独立してつくったオーナー企業である。
これまで順調に売上を伸ばしてきたが、2002年に過去最高の2200億円を記録してからは微減に転じ、2005年の売上は2094億円となっていた。
全社売上の8割近くは磁性材料や磁気部品を手がける「機能デバイス事業本部」が稼ぎ出しており、それ以外に「マルチメディア事業部」「ネットワーク事業部」「ハードウェアソリューション事業部」の三つの事業があった(図1‐1)。
機能デバイス事業本部とネットワーク事業部は、ともに日本経済全体の失速に伴い、売上は毎年1~3%ほど減少していたが、利益率は10~12%程度で安定していた。
ハードウェアソリューション事業は2002年にビデオ・CD・DVDレンタル大手のタリックス社との提携をきっかけに飛躍的な成長をつづけ、売上は年間30%近い勢いで成長し、利益率も当時の3倍の15%にまで高まっていた。
そんな状況のなかで戸崎を悩ませているのが、マルチメディア事業部だった。
マルチメディア事業部は、ビデオ・カセットなどの磁気テープ、フロッピーディスクやMOなどの磁気・光磁気ディスク、CD‐RやDVD‐Rなどの光ディスクといった、ストレージ(データ保存)用メディアのOEM製造(客先ブランド製品の製造)を手がける部門である。
1980年代前半、当時は中堅営業担当として音響市場を担当していた高橋(現事業部長)が立ちあげた事業だ。
音響家電が大きく成長した時代であり、伸びる市場需要にあわせてカセットテープやビデオテープなどの磁気メディアを製造販売して業績を伸ばしてきた。
90年代にCDが登場してカセットテープの売上が減少すると、今度はCDなどの光メディアの製造を手がけた。
さらに90年代後半にはDVDの製造に転じるなど、次々と「伸びる市場」に参入することで事業を拡大してきた。
2002年のピーク時には売上286億円、営業利益31億円を記録したが、その後の3年間で業績は激減し、2005年時点では売上は220億円、営業利益はついに11億円の赤字に転落した。
2002年から2005年で全社の営業利益は15億円下落しているが、マルチメディア事業部の利益減少が他事業部の伸びをすべて帳消しにしているという深刻な状況だった(図1‐2)。
問題解決あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術
はじめに問題解決とは世の中は問題であふれている。
人生は煎じつめれば「目のまえにある問題をどう解決するか」に尽きるだろう。
誰もが問題を解決しようと頭を悩ませているが、なかなかうまくいかない。
それもそのはず。
多くの人が、自分で正しいと思っているやり方で、あるいはその場の思いつきで対処しているからだ。
だから、あるときは運よく解決できるかもしれないが、いつも解決できるわけではない。
また、一つの問題を解決しても、さらに多くの問題が次々と現れてくるのだ。
「問題解決」というと、難しい分析や特殊な考え方など、専門的な内容を想像されるかもしれない。
しかし、本当にそうなのだろうか。
実は「問題解決」とは、すべてのビジネスの現場で日々必要とされる普遍的な「仕事の進め方」である。
たとえば、トヨタ自動車では、過去40年以上にわたり、部門を問わずすべての社員にTBP(トヨタ・ビジネス・プラクティス)というトヨタ流の問題解決手法を実践させているという。
しかもトヨタに限った話でもなければ、メーカーに限った話でもない。
私たちは現在、金融・商社・製造・流通・通信・サービスなどあらゆる業種で100社を超える企業に対し研修をおこなっているが、多くのリーディングカンパニーでは「問題解決」が社員全員にとって必須のスキルであると認識しはじめている。
ビジネスは日々、問題解決の連続である。
にもかかわらず、その考え方を知らないがゆえに、どれほど多くの人々が「目先のモグラ叩き」を繰り返していることか。
本書は、ビジネスの現場からこうした無駄をなくし、すべてのビジネスパーソンが効率的・効果的に仕事を進めるための「手順」を明らかにしたものである。
内容は、ビジネスパーソンが価値の高い仕事を遂行していくうえで必須となる「仕事の進め方」、すなわち問題解決の手順と、そこで求められる思考スキルのすべてを整理している。
とはいえ、「問題解決の書籍なんて、他にもたくさんある」と言う人がいるかもしれない。
だが、ビジネスの現場で真に実用にたえる「問題解決の教科書」など、ほとんどないのが実状だ。
事実、私の会社で研修をおこなう際、問題解決のテキストに使える本は一冊もない。
どの本も、ある著者の限られた経験から語るならばそのとおりなのだが、あらゆる業種にあてはまるほどの普遍性を意識しながら、ビジネスの現場で実践することを意識してまでは書かれていない。
多くの人が「問題解決は特殊なスキルだ」「自分の会社にはあてはまらない」と考えてしまう理由がここにある。
そこで、デファクトスタンダードではないが「定番教科書」として使える本を自前でつくることにした。
私たちの講師陣が100社を超える企業での登壇経験を活かし、議論に議論を重ねて書き下ろした本、それが本書だ。
内容には、大きな特長が二つある。
一つは、「わかる」ではなく、「できる」を目指していること。
もう一つは、「課題設定型」まで言及したことである。
すなわち、「あたりまえの状態」を目指すのではなく、高い問題意識に基づき「よりよい〈あるべき姿〉」を描き、自ら課題設定するための方法論を紹介していることである。
図0‐1を見ていただきたい。
これはビジネスパーソンに求められるスキルをマッピングしたものだ。
前著『ロジカル・プレゼンテーション』(高田貴久著、英治出版、二〇〇四年)では、このなかの1~4を書き下ろしたが、本書は5~7、すなわち「分析力」「問題解決」「戦略立案」といったスキルについて10年間、煮詰めて書き下ろした。
本書が目指すのは、単なる知識の付与ではない。
読者の方が一連のスキルを身につけることで問題や課題を正しく認識し、その解決策を考え実行することで、人が動き、企業が動き、ビジネスが円滑に進むことを目指している。
そして最終的に、企業が、社会が、世界がよくなっていくことを私たちは願ってやまない。
本書の構成次に本書の全体構成を説明しよう。
本書は、図0‐2のように、第1~7章までの合計七つの章で構成されている。
問題解決の手順はPDCAサイクルで整理されるが、第1~5章までが「P(計画)」の部分、第6章が「D(実行)」、第7章が「C、A(評価と定着化)」に対応している。
また「P」の部分については、第1~3章が基本的な問題解決である「問題発生型」の内容を、第4章が応用的な問題解決である「課題設定型」の内容を、第5章が双方に共通する内容を説明している。
また、各章は、「ストーリー」「解説」「まとめ(ポイント)」という構成になっている。
「ストーリー」は、架空のビジネスストーリーで、現場のリアルなイメージをつかみ、問題解決の手順を実感していただくために配した。
主人公の戸崎は、京都にある上賀茂製作所というメーカーの経営企画部に勤務している。
前著の『ロジカル・プレゼンテーション』にも登場した戸崎が、コンサルティング会社時代のクライアント企業であった上賀茂製作所に転職し、社長から業績が低迷している事業部の立て直しを命じられるところから物語は始まる。
「解説」は、ストーリーのなかで起こる出来事なども題材にしながら、問題解決の手順を詳しく解説している。
「まとめ(ポイント)」は、解説のなかで最も重要なポイントを要約したものである。
次に、各章について概略を解説しよう。
第1章問題解決の手順…問題に直面したとき、どう考えるべきかを解説第2章問題の特定………どこに問題があるのかを絞り込む方法を解説第3章原因の追究………なぜ問題が発生するのか、広く深く検討する方法を解説第4章課題の設定………高い問題意識をもって〈あるべき姿〉を構築する方法を解説第5章対策の立案………発生した問題、設定した課題について、対策の立て方を解説第6章対策の実行………着実に立案した対策を推進するうえでのポイントを解説第7章評価と定着化……対策実行後に結果を評価し定着させる方法を解説「問題解決」は誰に、どう役立つのかさて、実際に本書は「誰に対して」「どのような局面で」役に立つのだろうか。
本書の特徴を整理してみよう。
①若手ビジネスパーソン上司からさまざまな仕事を与えられ、現場で遂行しなければならない若手ビジネスパーソンにまず役立つのは、第6章の「対策の実行」である。
ただ、指示された対策をこなしているだけでは成長は望めない。
与えられた問題に対して自ら深く原因を考え、よりよい対策を生み出すには第3章の「原因の追究」、第5章の「対策の立案」も重要になってくる。
②中堅ビジネスパーソンビジネスの最前線で最も多くの「問題」を抱え、日々奮闘しているのが中堅ビジネスパーソンである。
ほぼ全章が役に立つが、第2章の「問題の特定」が最も参考になるだろう。
中堅の方々は、若手に比べると格段に「大きな問題」に立ち向かうことが多い。
その際、どこに問題があるのかきちんと特定できないと、無駄な原因を考え、無駄な対策を立案し、疲弊してしまう可能性が高い。
第1章の「問題解決の手順」をしっかり理解したうえで、効率的・効果的に仕事をこなしていく方法を身につけてほしい。
③管理職層、経営者層この層の方々で最も重要なのは、第4章の「課題の設定」、および第7章の「評価と定着化」である。
目のまえで起こっている問題を特定し、原因を考え、対策をおこなうといった能力はすでに備えた階層といえよう。
重要なのは「誰が見てもわかる」という次元の問題ではなく、「高いレベルの〈あるべき姿〉に基づいて自ら設定する」というレベルの課題を解決していくことだ。
また一度かぎりの対策実行では、組織の永続的発展は望めない。
実行された対策をいかに振り返り、結果を評価し、再現性のある形で組織に落とし込んでいくかが求められている。
この層の方々は「わかって当然、できて当然」であるがゆえに、部下にも同じレベルを求める。
その結果、問題の所在や原因の究明を頭のなかで即座におこない、「対策だけ」を部下に指示しがちである。
そうなると部下が、言われたことしか「できなくなる」「やらなくなる」のは時間の問題だ。
問題解決をスムーズに実践する組織をいかにつくりあげるかが、この層には求められている。
④新入社員、就職活動学生企業に勤めるビジネスパーソンだけでなく、就職活動中の学生の方々や、入社早々の新入社員の方々にもぜひ本書を読んでいただきたい。
この方々は「頭ではわかるが、感覚的にわからない」という状況に陥ることが多い。
問題解決の手順は、頭では理解できる。
しかし、実際に企業内で働き、問題に突きあたり、悩み、苦労した経験がないので「実際の仕事ではどうなのか」がつかめない場合が多い。
本書は、私の実体験を元にした「ストーリー」を読むことで、ビジネス現場のイメージが膨らむように工夫されている。
ぜひ「ビジネスの現場」を想像しながら、実務感を持って読み進めてもらいたい。
そもそも、就職活動中の学生あるいは新入社員といえども、「問題がない」ことなどありえない。
身近な問題、自分の問題に対しても、問題解決の手順は適用できるので、学んだ成果を実践して、役立てていただきたい。
以上のように、本書は幅広い読者層の方に役立つと考えている。
また、読者の方の立場によって、それにふさわしい内容を読み取っていただけるものと確信している。
なぜ「問題解決」というテーマを取り上げたか以上、本書の全体を概観した。
ここで、私が二作目として、また弊社が初作として、なぜ「問題解決」というテーマを取り上げたのか、その想いを述べてみたい。
私は、そもそも「問題解決」という学問ジャンルが存在していることさえ知らなかった。
大学でも習わなかったし、MBAの科目でも目にしなかった言葉である。
しかしコンサルティングファームや事業会社でさまざまな仕事を経験していくうちに、ある想いが芽生えてきた。
それは「どんな仕事であっても、仕事の仕方は、実は共通なのではないか」ということである。
私はこれまでの仕事のなかで、「頑張っているが成果が出ていない人」を多数目にしてきた。
本人は汗水流して必死でやっている。
だが成果がまったく出な
い。
もちろん周囲からも評価されない。
無駄な努力をつづけ、疲弊し、やがて、やる気をなくしてしまう……そんな状況に、あなたも遭遇したことはないだろうか。
こうした状況を何とかしたい、何とかしなければならないと考えていくうちに、本書の内容の原形となる「WHERE・WHY・HOW」という概念にたどりついた。
そもそも、どこに問題があるのか。
それは、なぜなのか。
だから、どうするのか。
この手順を追って考えないことには、思いつきの対策をいくら連打しても、成果が得られる可能性は低い。
これを私は「HOW思考の落とし穴」と名づけ、日本中の多くの企業でビジネスパーソンが陥っている大きな落とし穴だと考えた。
私は今でも研修の場で必ず「〈HOW思考の落とし穴〉という言葉は死ぬまで覚えていてください。
そのくらい重要です」と力説している。
無駄なHOWをおこなって疲弊している人が、どれほど多いことか。
現在の会社を設立して2年目に、幸運にもトヨタ自動車と「問題解決」に関する社員育成教材の共同開発と社内トレーナーの育成をおこなうという機会に恵まれた。
そこでの議論を経て、私の思いは「確信」に変わった。
米国系コンサルティングファーム出身の私が熟考のすえにたどりついた「問題解決」の方法論と、まったくルーツが異なる、日本を代表する優良企業のトヨタ自動車の考える「問題解決」の方法論が、実にそっくりだったのである。
たとえば、トヨタ自動車にも「〈闇夜の鉄砲〉をしていないか?」という、いましめの言葉があるようだ。
暗闇で標的を見定めずに鉄砲を撃っても、なかなかあたらない。
「そういう無駄な仕事の仕方をするな」という意味なのだが、その言葉の根底には「財閥企業でも国策企業でもない、体力のない小さな三河の工場が、自分たちの手で自動車をつくるためには、一つしかない的をしっかりと見定めて着実に打ち抜いていく必要がある」という創業以来つづく思想があるらしい。
まさに私がビジネスのなかで感じていた「HOW思考の落とし穴に陥るな」と同じ考え方であった。
時代も国も業種も、関係ない。
「問題解決の方法は一つしかない」と私は確信した。
もちろん、枝葉の部分では業種業態による特徴や、階層別に求められる違いなど、細かな差が出てくる。
弊社の研修では、そうした細部の違いにも配慮している。
しかし「問題解決の手順」の根幹は、日本中、世界中のビジネスパーソンに求められる「共通手順」であると考え、これをより多くの人たちに知っていただくことが重要であると痛感した。
考え方の手順が違えばコミュニケーションは成り立たない。
「これは私の経験上、こういうものなんです」と言われたら、「そうですか」と納得するしかなく、議論が成り立たない。
しかし考え方の手順が同じなら、「問題は本当にそこなのですか?」「原因の掘り下げが不足していませんか?」「他の対策は考えられないのですか?」というふうに、詳しい内容がわからなくても、お互いに議論ができるのだ。
つまり、コミュニケーションの効率も向上するし、それによって質も格段に高まる。
これほどすばらしいことはない。
すべてのビジネスパーソンが問題解決の仕方を身につけ、効率的・効果的に仕事をおこない、その成果が組織に定着化していけば、日本や世界の発展にどれほど貢献できることだろう。
本書がその一助となれば幸いである。
本書の出版にあたり、多くの方々のご協力をいただいた。
まず、弊社の創業期である2007年に「問題解決」の教材開発以外にもさまざまな面でご支援をいただいた、トヨタ自動車の教育部署の総本山である元トヨタインスティテュート第二人材育成グループのグループマネジャーである柴山英昭様、荒井邦彦様、小野崇晃様、大多和明様に、心よりお礼を申しあげます。
また、本書の出版を快く引きうけていただいた英治出版・代表取締役の原田英治氏、原稿の完成に向けて根気強くお力添えをいただいた編集担当の杉崎真名氏、高野達成氏、編集協力のガイア・オペレーションズ・和田文夫氏、さらには、ご尽力いただいたすべての方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。
最後に、本書の共同執筆者である岩澤智之に、また、前職の経験を活かして執筆に協力してくれた元マーサージャパンの岡安建司、元・日本経営システムの北原孝英、元アクセンチュアの木村知百合に、さらに前職の貴重な経験をもとにアドバイスをしてくれた元マッキンゼー・アンド・カンパニーの荻野裕規、元コーポレートディレクションの鈴木宏尚に、そして挿絵を描いてくれた谷口果純、スケジュールを管理してくれた村田友美に感謝したい。
そして、長年にわたり、業務で多忙をきわめるなか、執筆時間を捻出できるよう、家庭を支えてくれた最愛の妻に、この場を借りて感謝の言葉を伝えたい。
2013年11月1日株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ創業者CEO高田貴久
目次はじめに第1章問題解決の手順STORY1問題を見失った人たち問題解決の手順とは?HOW思考の落とし穴に気をつける問題解決の手順を仕事に活かすよりよい問題解決をおこなうために
第2章問題を特定する
STORY2問題をさがす人たち問題を特定する意義を再確認しよう問題の全体を正しくとらえる問題を適切に絞り込む論拠をつけて問題を特定する
第4章あるべき姿を設定するSTORY4あるべき姿を考える人たち「発生型」と「設定型」の違い〈あるべき姿〉を定める課題を設定し、問題解決をおこなう環境分析をおこなう
第6章対策を実行する
STORY6対策を実行する人たちすばやく着実にやりぬくタスクを見える化する対策の実行をモニタリングする
第7章結果を評価し、定着化させる
STORY7結果を評価し、定着化させる人たち実行結果を評価する組織に根づかせ、次の問題解決に結びつける本書の詳細目次
ェアは何%か、残りはどこの競合が入っているか、また、それぞれの競合が何%のシェアを占めているか、それを調べて表にしたものです。
最近は競合対策として、このシェア表のアップデートに力を入れています」戸崎はうなずくだけで黙っていた。
これも、よくわからないな……いったい、これらは何のための対策なんだろう。
戸崎の疑問は、つのる一方だった。
あっというまに2時間が経過し、マルチメディア事業部へのヒアリングは終了した。
戸崎が資料をまとめて席を立つと、高橋が声をかけた。
「戸崎君、マルチメディア事業部が八方手を尽くして施策に取り組んでいることが、これで君にもよくわかっただろう。
社長にも、マルチメディア事業部はちゃんとやっていると伝えておいてくれよな。
経営企画部から言ってもらえば、社長も安心するだろうし」「ええ……そうですね。
いずれにしても、今日はいろいろ情報をいただいたので、私自身まだ整理しきれていないようです。
一度、経営企画部でも状況を整理してみるので、また後日、お話をさせていただけますか」「もちろんだよ。
こうやってうちの事業部の話題が全社で議論されるってことは、今までなかったからな。
我々もいろいろと悩んでいるので、ぜひ力を貸してもらいたい」会議室を出ると、人影がまばらだったフロアは打って変わって賑やかになっていた。
少し元気を取りもどし、戸崎は自分のオフィスへ向かいながらヒアリングの内容を反芻していた。
いろいろな話が出たが、どうも判然としないようだ。
いったい、マルチメディア事業部は何をしたいのだろう。
彼らの施策には意味があるのだろうか。
あまり必要のないことをしているようにも見える。
それ以前に、そもそも、どこに問題があるのか突きとめる必要があるのではないか。
戸崎は、まず、そこから考えてみることにした。
第1章問題解決の手順問題解決の手順とは?HOW思考の落とし穴に気をつける問題解決の手順を仕事に活かすよりよい問題解決をおこなうために■問題解決の手順とは?解決すべき問題は、あらゆる場面で遭遇する企業の現場でよく耳にするのは、こんな声である。
「問題解決なんて、そんな壮大な話は自分には求められていませんから」「私は上から指示されたことをひとまずやる立場なので」「問題解決をするのは、企画部の仕事ではないでしょうか」「毎日忙しくて、問題解決なんか腰を据えてやっている場合じゃないですよ」あなたも、似たような考えを持ったことがあるかもしれない。
果たして、本当にそうなのだろうか。
たしかに問題解決というと、経営コンサルタントや弁護士など特定業種の人や、企業のトップ、企画部門など特定の立場の人を思い浮かべることが多いだろう。
しかし、問題解決はそれらの人だけができればよいというわけではない。
先ほどのストーリーでも、戸崎がマルチメディア事業部の売上低迷という問題に直面しているように、企業内にはさまざまな問題があるはずだ。
よく考えてみると、あなたも日頃いろいろな問題に直面している。
たとえば、「営業成績が上がらない」「部下が言うことを聞いてくれない」「残業時間が長い」といった業務上の問題はもちろん、もっと身近な例でも「貯金が増えない」「友人とうまくやっていけない」など枚挙にいとまがない。
多くの人は、日々、山積する問題解決の連続のなかで悪戦苦闘している。
それにもかかわらず、「問題解決」を的確におこなうためには手順が存在するという事実はあまり知られていない。
実際、私たちが研修のなかで受講者に対し「これまで問題解決の能力を鍛えるために、本を読んだり研修を受けたりしたことがありますか」と問うと、ほとんどの人が「ない」と答える。
つまり、確固たる方法を知らないまま、問題に適当に対処している人がいかに多いことか。
勘と経験で、あるいは他人のアドバイスを鵜呑みにして、問題に対処している。
実際、ビジネスの現場では、「やり方がよくわからなかったので」「経験がないから対処できない」「昔からそうやっている」「この問題が起こるのは仕方ないと思う」などの言い訳をしている人をよく目にする。
問題解決の手順を知らないと、適当に対処してしまったり、無駄に多くの時間を費やしたり、考えることが難しくてあきらめてしまったりと、よい結果にはならない。
そうこうしているうちに、いつしか問題が大きくなり、手に負えなくなってしまう。
そうなれば、もうお手上げだ。
問題解決の手順とは、あなたが直面するあらゆる問題の解決策を考え、実行するための手順である。
問題に直面するすべての人、すなわち誰にとっても役立つものであり、これを身につけることでビジネスはもちろん、日常生活の問題についても解決策を導くことができるのだ。
問題解決の手順は共通である「問題解決は一つ」、つまり、いつの時代、どんな地域、どんな仕事でも、問題解決の手順は共通していると先に述べたが、もう少し詳しく説明しよう。
私の会社には、さまざまな日系・外資系コンサルティングファームの出身者がいるが、出身ファームが違っていても、問題解決の考え方がほぼ同じだったことに驚いた。
コンサルティングの対象が大企業だろうが中小企業だろうが関係ない。
コンサルティングのテーマが戦略だろうが業務プロセス改革だろうが人事制度設計だろうが関係ない。
考える手順は、ほぼ同じといっていい。
これだけなら「コンサルティングファームでは同じやり方だ」と言っているにすぎないかもしれない。
だが驚いたのは、お客様と話をしていても同じだということだ。
トヨタ自動車を筆頭に、問題解決の教材開発で、さまざまな企業と議論を重ねてきた。
産業材メーカーもあれば消費財メーカーもあり、商社もあれば金融機関、電力通信などのインフラ企業もあり、多種多様だ。
しかし、そこで求められる考え方は枝葉の違いはあれど、各企業で共通しているのである。
トヨタ自動車では、エンジン設計であろうが、海外営業であろうが、広報であろうが、先行開発であろうが、全員に共通の問題解決手順を教えている。
職種による違いもほとんど関係ないのだ。
他の事例として、研修における「自業務の課題」を取り上げた議論についても紹介しておこう。
ある総合商社では、グループ各社の次世代幹部育成で「課題設定型問題解決」を取り入れた研修をおこなっており、受講者はそれぞれ自分が業務上抱える課題について解決策を検討し発表をおこなう。
たとえば、ある受講者は、財務経理系の関連会社に勤務しており、「連結決算の書類を作成するためのデータに不備がある」という問題解決について発表する。
別の受講者は、弁当容器の包装資材などを扱う専門商社に勤務し、「コンビニ向けの取り扱いが伸びない」という問題解決について発表する。
さらに別の企業の人事部所属の受講者が、「残業実態と申請状況に乖離がある」という問題解決について発表する、といった具合だ。
業務内容も部署もまったく異なる受講者同士でテーマは千差万別だが、共通の問題解決の手順があれば建設的な議論が繰り広げられ、相互理解が進み、業務上有用なフィードバックが得られるのである。
このように、本書で紹介する内容は、どんな企業で、どんな立場で働く方々にとっても、またどんな問題に対しても使える、きわめて普遍的・汎用的な考え方である。
この「基本の手順」を身につけることで、効率的・効果的に仕事を進めることができるだろう。
問題解決の手順とは?では、問題解決の手順を具体的に見ていこう。
まず、簡単な例で考えてみよう。
あなたが友人から、「体調が悪いんだけど、どうしたらいい?」と相談されたら、どう答えるか。
この問いに対する回答は、大きく四つに分類される。
(1)問題解決につながらない回答まずは、「大丈夫?」「大変だね」「そうなんだ」「つらいね」など、相手を気遣ったり同情したりする回答である。
これらは人間関係を円滑にするという意味で非常に重要だが、残念ながら問題解決にはつながらない。
「大丈夫?」「大変だね」と返しても、あなたの友人の体調の悪さを改善する方法は見えてこないだろう。
日常のコミュニケーションとしては大切な回答だが、問題解決という観点ではあまり役には立たない。
(2)HOW──対策をアドバイスする回答次に、「医者にいったら」「薬を飲んだらいいよ」「少し寝なさい」などの回答が考えられる。
これらは、友人に対して具体的な行動、すなわち対策を提案している。
私たちはこれを「どのようにするか」という意味で「HOW」と呼んでいる。
一見、これらの対策を実行すれば友人の体調はよくなりそうに思えるが、本当だろうか。
その対策は本当に必要なのだろうか。
(3)WHY──原因を探る回答たとえば、寝不足であれば、薬を飲んでも体調はよくならないだろう。
二日酔いであれば、医者に行かなくても治るだろう。
つまり「HOW」を考えるまえに、「なぜそうなったのか」という原因、すなわち「WHY」を考えなければならない。
原因を探る回答としては、過去に関する問いかけ、すなわち「夜は眠れている?」「昨日、飲み過ぎたんじゃないの?」などが考えられる。
なるほど「HOW」を考えるより先に「WHY」を考えることには意味がありそうだ。
とはいえ、いきなり「飲み過ぎたんじゃないか」といった具合に、「WHY」から考えてよいものだろうか。
(4)WHERE──問題の所在を特定する回答もし友人が「背中が痛い」というなら、おそらく原因は飲み過ぎではないだろう。
ここで最後に出てくるのが、「どこが悪いの?」「頭が痛い?」「お腹が痛い?」といった回答(質問)だ。
これらは、問題はいまどこにあるのか、つまり「WHERE」を特定しようとしている回答である。
頭が痛いのであれば原因は二日酔いかもしれないし、お腹が痛いのであれば食べ過ぎかもしれない。
「WHERE」を特定することで、より的確な「WHY」を見いだし、「HOW」につなげようという発想の回答である。
問題解決は、ここから考えることが重要なのだ。
以上の流れを図1‐3にまとめてみよう。
なぜWHEREから考えることが重要なのか。
勘のよい読者の方は、すでにお気づきのことだろう。
WHYがわからないと、HOWが有効かどうかがわからない。
簡単な問題、小さな問題ならWHY・HOWでも十分に有効である。
企業研修で、新人や若手の課題であればWHY・HOWでも十分な回答が出るケースも珍しくない。
しかし問題が複雑に広範囲になればなるほど、問題に対するWHYが膨大に出てくる。
たとえば、売上高が数兆円規模の総合電機メーカーで「全社の売上が上がらない」という問題についてWHYを検討しはじめたら、どれほど膨大なWHYが出てくるかは想像に難くないだろう。
この場合、「売上が上がらない」といっても、それは具体的に「どこ」の話をしているのか。
WHEREを端的に絞り込んでからでないと、WHYが多すぎて検討不能に陥ってしまう。
問題解決の3ステップこれまでの説明をまとめると、問題解決の手順とは、(1)WHERE…問題がどこにあるのか(2)WHY……その問題の原因は何か(3)HOW……ではどうすればよいかの3ステップで考えるということである(図1‐4)。
それぞれの手順の詳細については次章以降で説明していくが、まずは大きな流れを整理しておこう。
(1)WHERE──問題を絞り込み、合意を取りつけるまず、どこが問題なのかを考え、問題を絞り込んで特定する必要がある。
漠然とした問題のままであれば、その問題を引き起こす原因も多数考えられ、それに対応する対策もさらに多数考えられるため、検討が膨大になってしまうからだ。
どこに問題があるのかを広く探り特定する考え方ということから「どこどこ分析」と呼ぶこともある。
問題は必ず最初に「絞り込む」ということを肝に銘じてほしい。
たとえば、あるカフェチェーン店で売上が下がっている問題に対して、検討は次のようになる。
といった具合に絞り込んでいくのである。
「あちこちに問題があるのに、絞り込んでしまうと一部の問題解決にしかならないが、それでよいのか」という質問を受けることがある。
的を射た疑問だが、絞り込んでよい。
なぜなら「細分化した問題の着実な解決を何度も繰り返す」のが問題解決の定石だからだ。
くれぐれも「絞り込めていない漠然とした問題に漫然と立ち向かわない」ように注意してもらいたい。
補足すると、自分一人の問題や、関係者の少ない問題など、「小さな問題」「すでに絞り込まれている問題」については、この手順を簡単に済ませることもある。
しかしこのような状況は稀で、ふつう、企業における問題解決には多数の関係者が存在し、さまざまな範囲に影響を及ぼしている問題が多いため、最初に問題を「絞り込む」ことは重要な手順であると覚えておこう。
問題を絞り込んだあとは、「ここが問題だ」という合意をきちんと取りつけておくことも忘れてはならない。
企業の問題解決がうまく進まない理由として、「あとになってから〈私はそこが問題だと思っていなかった〉と話を差し戻されてしまった」というケースが多い。
問題認識がずれてしまえば、当然、原因や対策も認識がずれ、結果として問題解決が進まない。
現在の問題を俯瞰的に見て、そのなかのどこが問題なのか、どこを最優先に取り組むべきなのかをしっかり考えたうえで、問題を絞り込んだあとには必ず「合意を取りつけておく」ことを忘れてはならない。
(2)WHY──広く深く原因を掘り下げる次に、絞り込んだ問題がなぜ起きたのかを考える。
「どこどこ分析」に対して、「なぜなぜ分析」と呼ぶものだ。
たとえば、先ほどのカフェチェーン店の例で考えてみよう。
というように深掘りしていくのである。
WHYのポイントも詳細はあとで述べるが、ここでは「広く深く掘り下げる」ということを覚えておいていただきたい。
トヨタ自動車には「なぜなぜ5回」という言葉があるが、「なぜ」を5回くらい繰り返して「深く」掘り下げることで、初めて根本原因が見えてくる。
特に「5」という数字にこだわっているわけではないが、「なぜ」を1回や2回考えただけでは、まだ表面的な原因しか見えてこないのだ。
物事の本質に迫るという意味を込めて「なぜなぜ5回」と表現しているようだ。
また、「広く」いろいろな可能性を探ることも大切である。
WHYを検討するうえでありがちなのが「思い込みによる決めつけ」だ。
WHYは原因、つまりは過去の話であることが多い。
そこで、確固たる証拠が残っていない場合、自分の思い込みで「これが原因だろう」と決めつけてしまうことがある。
先にHOW思考の落とし穴について触れたが、過去の勘と経験に基づいて「これが原因だ」と決めつけてしまうと、それまで論理的に考えてきたことが無意味になってしまう。
情報に基づき、広くさまざまな可能性を検討しながら、「本当の原因はなぜなのか?」を究明する姿勢が大切である。
(3)HOW──原因に対する効果的な策を打つ最後に、HOWを考える。
WHYで広く深く掘り下げて特定した原因に対して、それを解消するためのさまざまな対策を検討するのである。
カフェチェーン店の例で見てみよう。
といった具合である。
ここで気をつけたいのは、「最後の最後でHOW思考」になってはいけないということだ。
たとえば、「首都圏のビジネスマンが来ていないなら、女性アイドルを呼んでキャンペーンを張ろう」といった具合に、思いつきの対策に飛びついてしまうと、「それは、君がそのアイドルを好きなだけじゃないか」と誰も納得してくれない。
思いつきの対策を提示するだけでは、それが本当に問題の解決に有効かどうかわからないのだ。
先の例で、原因は「(首都圏の30代男性が再来店したいと思うような)アイデアが出せない」であった。
したがって、その原因に対する対策を複数考えたうえで、最も効果が高く、費用が安く、時間的にも速くできるもの、などを優先的に選んでいく必要がある。
「最後の最後でHOW思考」というパターンは非常に多い。
最後に油断してしまうということもあるが、私たちは「HOW思考に陥りがちである」としっかり認識し、慎重に対策を考えることが大切である。
■HOW思考の落とし穴に気をつける多くの人に見られるHOW思考では、実際に問題に直面したとき、私たちは何を考えるか。
たとえば「貯金が少ない。
お金を貯めるにはどうすればよいか?」を考えたとしよう。
すぐに「節約をすればよい」というアイデアが思い浮かぶかもしれない。
しかし、このHOWが本当に有効なのか、もう少し慎重に考えたほうがいい。
はたして「節約をすれば」思いどおりにお金は貯まっていくだろうか。
ぜいたくな暮らしをしているなら節約は有効だろう。
しかし質素な生活をしているのにお金が貯まっていないなら、いま以上の「節約」が対策として本当に有効なのかといえば疑問が残る。
問題に直面すると、ほとんどの人は、まず対策案、すなわち「HOW」を出したがる。
冒頭のストーリーでも、マルチメディア事業部の高橋事業部長は売上を回復させるために、「営業担当の訪問強化」「社内イントラネットでの情報共有強化」「シェア表の整備」など、さまざまな対策を実施していると、自信を持って説明していた。
しかし、思いついた対策案が本当に有効かというと、そうでもない場合が多い。
たとえば、「世の中が電力不足だ」「自販機の電源を切ろう」というような考えであるが、自販機の電源を切っても電力不足の問題は解決しない。
ここで電力が足りないというのは、電力消費がピークになる夏の平日の午後2時から4時のことであり、すでに1990年代からピーク時の電力を節電するような仕様になっている自動販売機の電源を落としたところで、電力消費量の削減にはそれほど寄与しないはずだ。
別の例をあげれば、「営業成績が上がらない」「もっと営業電話をかけよう」などもそうだ。
もちろん営業電話の本数を増やして営業活動をすることが無駄だとは言わないが、もしかすると「電話の本数を増やす」のではなく「電話でのトーク内容を改善」したり、「訪問した際に渡す提案書の作り込み」をしたほうが営業成績は上がるかもしれない。
このように、深く考えずに目先の対策に飛びついてしまう思考特性のことを、私たちは「HOW思考」と呼んでいる(図1‐5)。
文字どおり、HOW(どうすれば?)から先に考えてしまうことを指す。
「HOW思考」に陥ると、過去からの惰性や思いつきで、あれこれ対策を連打してしまうことになる。
「HOW思考の落とし穴」に気をつける問題解決の手順を踏まず、いきなり目先の対策に飛びついてしまう「HOW思考」だが、これには大きな落とし穴がある。
それは、(1)解決に寄与しない無駄な対策を打ってしまう(2)問題が解決しなかったときに、代案を思いつかないといった状況に陥ってしまうことだ。
「HOW思考の落とし穴」に落ちると、悪循環から抜け出せなくなり、もがき苦しむことになるのだ。
誤解しないでいただきたいが、私はHOWが重要でないと言っているのではない。
ビジネスを推進していくうえでは、適切なHOWを検討し実行する必要があり、HOWはきわめて重要である。
ただ行きすぎてしまうと「HOW思考の落とし穴」に陥ると言いたいのである。
では「HOW思考の落とし穴」の具体例をあげてみよう。
たとえば、上司から「英語ができないので勉強しろ」と言われたあなたは、とりあえず必死でTOEICを勉強することにした。
数カ月後、なんとか目標のスコアをクリアしたものの、海外からの電話にうまく対応できず、上司に「君は、いつまで経っても英語ができないな」と言われてしまう。
焦ったあなたは英会話教室に通って勉強し、電話レベルの会話はなんとかこなせるようになった。
ところが、今度は上司に「英文レターを書いてくれ」と依頼され、英文ビジネス文書の書き方がまったくわからず四苦八苦。
そのうち上司から「君はもういい」と「英語ができない人」の烙印を押されてしまう……。
まさに「HOW思考の落とし穴」の(1)であげた、無駄な対策を一所懸命やってしまう典型例だ。
そもそも、上司はあなたのどこを見て「英語ができない」と思っていたのか。
リーディング、ライティング、スピーキング、リスニングの、どこなのか。
ライティングなら、メールなのか、ビジネス文書なのか、仕様書なのか。
そこをきちんと把握していない、つまり「解くべき問題がはっきりしていない」がゆえに、いくら対策を打っても「闇夜の鉄砲」状態で、いつまで経っても上司の問題意識にはヒットしないのである。
もうひとつ例をあげてみよう。
(2)であげた、「代案を思いつかない」例だ。
あるお客がホームセンターで「直径1ミリのドリルはないか」と質問した。
たまたま売り切れだったため、店員は「申しわけありませんが、売り切れです」と答え、お客はあきらめて帰っていく。
よくある日常の光景だが、これもある意味で「HOW思考の落とし穴」といえよう。
お客はどこに問題を抱えており、原因は何で、なぜ「直径1ミリのドリル」を求めているのか考えてみてほしい。
たとえば、お客は壁に画鋲で額縁を固定しようとして、うまく吊り下げられなかったとする。
原因は額縁が重すぎたからだ。
そこで対策としてネジ止めを考え、ネジを入れるために壁に下穴をあけようと思い「直径1ミリのドリルをください」というHOWとなった。
ここまでわかれば、ホームセンターで提供できるHOWとして、「額縁が重い」に手を打ち、「画鋲でも吊り下げられる軽い額縁を勧める」という対策も考えられる。
お客が重い額縁を気に入っているなら「画鋲だと抜けてしまう」原因に手を打ち、「強力な接着剤を勧める」という対策もあるだろう。
また下穴をあけるための道具なら、ドリルではなくて「キリ」や「ポンチ」でもいいかもしれない。
あるいは下穴をあけずに使える「タッピングネジ」も考えられる。
お客がどこに問題を抱えていて「原因が何か」がわかれば、代替手段を提示できる。
それが見えていないと、言われたHOWができなければ「できません、すみません」で終わりとなってしまうのだ。
あなたの身の回りを振り返っていただきたい。
言われたことをそのとおりに杓子定規にとらえて「できませんでした」という人もいれば、相手が直面している問題まで遡って考えたうえで、相手が提示したHOWに対する「代替案」をしっかりと提示する人もいる。
つまり、「できませんでした」という人は「気が利かない」のではなく、「HOW思考の落とし穴に陥っている」かもしれないのである。
企業では、まさにHOW思考が横行しており、私たちがおこなう研修のなかでも、今後の課題として「HOW思考の撲滅」をあげる受講者がいるくらいである。
HOW思考で出た対策を連打すれば、いつかは問題が解決するかもしれないが、そんな「闇夜の鉄砲」のような仕事の仕方をしていては、タマがいくつあっても足りない。
ビジネスにおいてはもちろん、日常生活でもリソースは無限ではない。
お金の無駄、時間の無駄、労力の無駄が発生してからでは遅いのである。
まずは自分が「HOW思考の落とし穴」に落ちないこと。
そして、周囲の人にもしっかりと「WHERE・WHY・HOW」を伝えることで、周囲の人たちを「HOW思考」に引きずり込まないこと。
これが企業において問題解決を実行していくうえで最も大切なことである。
HOW思考の落とし穴に陥る三つの理由ここで、人はなぜHOW思考に陥ってしまうのか考えてみよう。
理由は、いろいろだ。
まず根本にあるのは、企業は利益を追求する存在だということだ。
企業で働くかぎり、「売上を上げる」「コストを下げる」といった目に見える成果を出さねばならない。
今の日本で、成果を出さずに居座れる企業などほとんどないだろう。
成果を求められれば「どうしよう」、つまりHOWを考えがちだ。
企業勤めが長くなればなるほど、私たちの発想はHOWに寄っていく。
これは、ビジネスパーソンである以上、ある意味仕方のないことかもしれない。
しかしHOW思考の落とし穴に陥る理由はそれだけではない。
主な理由を三つあげておこう。
(1)勘と経験による思い込みまずあげられるのが「勘と経験による思い込み」だ。
自分の仕事で、WHEREやWHYがわかっていないという人はまずいない。
「自分の仕事では、ここに問題があり、これが原因で、だからこうするに決まっているだろう」と、頭のなかにシナリオがあるはずだ。
これがあたっているうちは「勘と経験」に頼って仕事をするほうが効率的である。
しかし、「環境が変わったとき」などに弊害が出やすい。
自分がこれまで認識していたWHERE、WHYと現実がずれているのに、それに気づかず、「HOWはこれに決まっているだろう」と同じ対策をつづけ、結
果としてHOW思考の落とし穴に陥ってしまう。
右肩上がりの成長を経験した企業幹部などに多く見られるパターンなのだが、「勘と経験」はすべてではないと肝に銘じておくべきだ。
(2)無責任・無関心次によくあるのが「無責任・無関心」だ。
WHEREとWHYは誰かが、たとえば「上司や企画部門の担当者が考えてくれるだろう。
だから言われたHOWだけをやればいい」という意識の低さでHOW思考の落とし穴に陥っているパターンだ。
企業における問題は、ほぼ全社的に発生しているのが常である。
ある部署で発生している問題の原因を掘り下げていくと、原因が別の部署にあったりすることも珍しくない。
つまり、社員全員が他の部署や他人の仕事にしっかりと関心を持って「自分事」として考えなければ、企業全体での問題解決はできないのである。
「無責任・無関心」は企業全体の非効率を生み、生産性の低下につながり、めぐりめぐって顧客への製品サービスの低下や、ひいては自分たちの給料の低下にもつながる。
そこまで視野に入れ、高い意識をもって、広い範囲を眺めることが大切だ。
(3)HOW指示最後に重要なのが、「HOW指示」である。
企業においては、これが最も大きな害悪かもしれない。
管理職によく見られる現象ともいえよう。
WHEREやWHYをまったく説明しないまま、「とにかくやれ」とHOWで指示してしまうというパターンだ。
忙しいから、面倒だからと、とにかくHOW指示だけが飛び交っている企業が多すぎる。
たしかにHOW指示のほうが速いこともあるが、それだと部下は考えなくなるし、いつまで経っても企業全体で問題解決ができるようにならない。
「HOW指示」は短期的には仕方がないときもあるが、中長期的には必ず、WHERE指示で「ここに問題がある。
原因は君が考えてみろ」、WHY指示で「ここに問題があり、原因はこうだ。
対策は君が考えてみろ」といった具合に、部下のレベルアップにつながるような指示を出していくことが重要なのである。
大事なのは立ちどまり、冷静に考えることこれまで私たちがいかにHOW思考に陥りがちかを見てきた。
しかし、どんなにHOW思考の人でも、時と場合によっては、問題解決アプローチを実践している場合もある。
たとえば、急にお腹が痛くなったとしよう。
ここで一瞬でも「昨日何を食べたかな」と考えた人は、「WHY」を考える素養を持っているということだ。
「何を食べたか」をまったく気にせず、ひたすら薬を飲んだり医者にいったりするような人は、残念ながら真性のHOW思考である……が、そんな人はそう多くないはずである。
肝に銘じてほしいのは、日常でもビジネスでも、追い詰められて焦っているときほど、しっかりと立ちどまり、「ちょっと待てよ、WHEREとWHYは何だ」と考えることだ。
お腹が痛いときに「何を食べたか」と考えるのと同じで、いきなり対策に飛びつかないでもらいたい。
言い古された言葉だが「急がば回れ」だ。
焦れば焦るほど、HOW思考の落とし穴に陥る。
そして余計に時間を浪費して、落とし穴から抜けられなくなる。
企業単位で丸ごと、HOW思考の落とし穴に陥っている会社も珍しくない。
業績が低迷する。
経営者が焦って現場に号令をかける。
現場は走り回るが原因をとらえていない対策であるため成果が出ない。
そのうえコストばかり増えて業績を圧迫する。
そうすると経営者は、さらに焦って現場に号令をかける……。
「まさにうちの会社だな」と思った方は、ぜひ心を鬼にして、あえて立ちどまって問題解決をしてもらいたい。
そのほうが絶対に近道である。
どこかで頑張って悪循環を断ち切らなければ、HOW思考の落とし穴からは抜け出せないのだ。
■問題解決の手順を仕事に活かすあなたは何思考?六つの思考特性問題解決の基本手順は、「WHERE・WHY・HOW」の3ステップであると述べた。
しかし業種や立場によって、WHERE・WHY・HOWのどこができていて、どこができていないかで、特徴的な六つの思考特性が現れる場合がある。
そこで、これまでのあなたを振り返って、「自分は、どの思考特性にあてはまるか」を考えてみてほしい。
(1)HOW思考とにかく、対策案のアイデアが次から次へと出てくるタイプである。
問題の所在や原因などおかまいなしに、あれをやればいい、これをやればいい、とどんどん対策案が出てくる。
業種で言えばベンチャー企業や販売会社、広告代理店などに多い思考特性である。
「なぜかという原因を考えようとしても前例がない」「できる対策が決まっており、工夫できる範囲が限られている」「人の気持ちなどを扱っており、原因を究明してもよくわからない」「問題の所在も原因も、どう見ても自明」といった場合には、「考えても仕方ない」「やってみないとわからない」「どうせこれしかできない」「さっさとやったほうが速い」といった風潮となり、HOW思考に陥りやすい。
たしかに仕事上、そういう性質のものもあるだろうが、すべてHOW思考で進めればよいというわけでもない。
冷静にWHEREやWHYを振り返ることが重要である。
(2)コインの裏返しWHEREとHOWが強いタイプ、言い換えればWHYが抜けるタイプである。
たとえば、「カップル向け売上が減っているので、カップル向けキャンペーンをやろう」といった安直な発想である。
なぜカップル向けの売上が減っているのかという原因を深く考えず、「カップル向けの売上が減った」「キャンペーンをやれば売上が増えるだろう」と短絡的に考えてしまうのだ。
表面的な問題をそのまま裏返して答えにしてしまうという意味で「コインの裏返し」と呼んでいる。
このタイプが多いのは、業種でいえば金融・商社。
立場でいえば企画部門や管理者に多い思考特性である。
WHEREというのは「広く見る」能力であり、ここは身についている。
しかし、現場に降りて深く原因を究明するという姿勢が希薄で、大きな対策方針だけを立てて「あとは現場でやってくれ」となってしまうのがこの思考特性である。
金融・商社の場合、投資判断などで広く見る目は養われているが、事業の詳細は事業会社側にお任せということが多いため、この思考になりがちだ。
企画部門、管理職についても同じで、全体を俯瞰する能力は高いが、現場の詳細はお任せで、方向性のみ指示するという動き方が身についている方が多い。
業務の性質
上、こうした傾向になるのは仕方ないかもしれないが、WHYをしっかりと考え、HOW思考に陥らないように注意してもらいたい。
(3)原因決め打ちWHEREを飛ばしていきなりWHYから入ってしまう思考タイプである。
つまり、問題が発生したときに、「まず原因は何か」から検討しはじめるタイプだ。
職種でいえばメーカーの技術者やシステムインテグレーターなど、立場で言えば若手社員、経理や人事といった専門系の機能組織に多く見られる思考形態である。
「自分の専門領域や担当範囲が定まっている」「過去の蓄積、過去からの改善によって業務が成り立っている」といった場合、自分の見ている狭い範囲で考えてしまう癖がついており、広く問題を見て絞り込むという手順を経ずにいきなり原因分析をしてしまう。
問題が小さいうちは、いきなりWHYから入ってもさほど外すこともないのだが、大きな問題を扱うようになると、せっかくWHYから検討しても「そもそも問題認識が違う」となりかねないので注意が必要だ。
(4)分析屋WHERE、WHYが強いタイプ。
逆にいえばHOWが弱いタイプである。
どこで問題が起きていて、それがなぜ起きているのか、を調査分析するのには長けているが、いざ対策となるとアイデアも出ず、実行もうまくいかないタイプだ。
業種で多いのは官公庁職員、コンサルタント、金融機関など。
立場でいえば企画部門に多い思考特性である。
時間切れで「HOWまで考えつかなかった」ならまだしも、「問題意識だけ提示して、あとはよろしく」という姿勢はあまりよろしくない。
しかるべき情報を集め、発想を膨らませ、実効的なHOWまでを考えて提示していくことが必要である。
(5)ぶつ切りWHERE、WHY、HOWをすべて考えているが、それぞれを別々に考えてしまっているため、WHEREで特定した問題にHOWが効かなかったり、せっかく考えた問題の発生原因とまったく関係のないHOWを提案してしまったりするタイプである。
「木を見て森を見ず」とでも言おうか、小さな論理に固執するあまり、全体の不整合に気づかない。
これは業種や職種による特徴はあまり出ないが、やはり若手社員や技術系・経理系など専門性の高い組織に多い傾向がある。
問題解決を中途半端に学ぶと、この思考に陥りやすい。
つながりがないため、結局、問題が解消せず、せっかく学んだ問題解決アプローチを「使えない」と捨ててしまったりする。
本書でもこれから、「WHERE・WHY・HOW」の三つのステップを学んでいくが、決してぶつ切り思考にならないよう注意してほしい。
(6)問題解決思考WHERE・WHY・HOWのすべてがしっかりとつながり、検討できている状態である。
あなたは、ぜひここを目指してほしい。
以上で六つのタイプを説明してきたが、図1‐6にまとめたので、あなたはどのタイプか、参考にしてほしい。
苦手な部分は特に気をつけて学習し、弱点を補ってもらいたい。
お互いに補完しあう全員が自分でしっかりと問題解決できるのが理想だが、個々人による得手不得手はどうしても出てくる。
そのときは、ぜひ組織のなかでうまく補完しあってもらいたい。
たとえば、WHERE・WHYの分析に強い社員と、HOWが強く、たくさんのアイデアが出せる社員がいたとしよう。
この2名が組織内で補完しあうことにより、組織としてよりよい成果をあげることが可能となる。
まず分析が強い社員がきちんと情報分析をおこない、WHEREを特定し、WHYの深掘りをおこなう。
そのままHOWまで考えるとアイデアが出なくて苦しむ可能性があるが、ここでHOWが得意な社員が検討に加わり、多くのアイデアを出して補完する。
分析の結果とアイデア出しの結果をもとに、チームとしてどの対策が一番よいかを考えることで、個々人の成果を超える「組織の成果」が出せるのだ。
企業で問題解決をおこなう場合、独力で取り組まなければならない局面は少ない。
チームで成果を出すことができればよいのだ。
そのためにも、ぜひ「六つの思考特性」をうまく活用してもらいたい。
共通言語化する「問題解決は、WHERE、WHY、HOWの手順で考える」という方針を企業内の共通言語として全員に浸透させることは非常に重要である。
先の例でいえば、もし「WHERE・WHYの強い社員」と「HOWの強い社員」のあいだで問題解決の手順についての共通認識がなかったら、どうなっていたか。
HOWの強い社員はいきなりHOWを語り出す。
WHERE・WHYの強い社員は、分析が終わるまで、なかなか先に進まない。
両者のコミュニケーションがとれていなければ、何の成果もあがらない。
実際に多くの企業で、問題解決の手順が共通言語化されていないために非効率を生んでいるケースをよく見かける。
逆に、共通言語化を徹底化した結果、非常に効率的・効果的な仕事の進め方をしている企業もある。
先ほども紹介したトヨタ自動車では、TBPというトヨタ流の問題解決手法の一種として「トヨタ8ステップ」と呼ばれる問題解決の方法論が社内の隅々まで浸透していることにより、きわめて効率的・効果的に仕事が進められている。
本書でいうWHERE、WHY、HOWはそれぞれ、トヨタ8ステップのステップ2、4、5にあたり、「ステップ2ができていない」「まずステップ5を考えるまえにステップ4だろう」といったように、この共通言語を介して業務や、部下へのフィードバックがおこなわれている。
実際、新入社員から中堅、幹部にいたるすべての階層、開発から生産、営業、財務経理、広報などすべての部門にわたる社員が「トヨタ8ステップ」を学んでいる。
また現在(2013年)、トヨタ自動車の社長である豊田章男氏も、新入社員として入社したときから問題解決の考え方を学んでいるという。
企業全体で何十年もの長きにわたり、経営トップから新入社員にいたるすべての社員の考え方がそろっているため、きわめて効率的・効果的に業務が進んでいるのではないだろうか。
■よりよい問題解決をおこなうために手順だけでなく、「論理と情報」にもこだわるここで、よりよい問題解決をおこなうために、少し補足説明をしておこう。
これまで問題解決の手順について述べてきたが、いきなりHOWから考えるよりは、WHERE・WHYと順を追って考えたほうがよりよい成果が出ることは理解いただけたと思う。
さらに大きな成果をあげるためには、「論理と情報にもこだわる」必要があることを覚えておいてほしい。
図1‐7を見てもらいたい。
まず、問題解決の流れのなかに「丸と線」が入っていることに注目してほしい。
この図では丸が「情報」、線が「論理」を表している。
「ファクト」と「ロジック」と表現したりもするが、いわば数学における数字と数式のようなものである。
問題解決の手順に則って考えるうえで、本当にそこに問題があるのか、本当にそこが原因なのか、本当にその対策で効果が出るのかについて、しっかりと情報を集め、論理を構築して検討すれば、より精緻な問題解決ができるということだ。
情報と論理でしっかりと考えていれば、自分でも「きっとそうにちがいない」と確信できるだけでなく、「周囲に説明がつく」ことにもなる。
企業における問題解決は一人ではできないものがほとんどであるため、情報と論理でしっかりと周囲を納得させることも、問題解決を進めていくうえでは大切なのだ。
また図の下に「情報収集」という矢羽根を入れたが、「問題を特定するために必要」となる情報と、「原因を究明するために必要」となる情報と、「対策を立案するために必要」となる情報では、それぞれ内容が異なる。
ひとことで「情報を収集する」といっても、問題解決の検討状況に応じて段階を追って収集していく必要がある。
たとえば、先ほど例示したカフェチェーン店の「売上が下がっている」という問題で説明すれば、広く社内のさまざまな部署や、全国の店舗から売上関連の情報を出してもらい、まずは「どこか」を特定する必要がある。
「どこか」が「首都圏の30代男性の売上」だと特定されたなら、今度は首都圏の状況を分析したり、30代男性の購買特性を調べたり、実際の来店顧客にアンケートを取ったりと、原因を究明するための異なる情報が必要になってくる。
また「具体的なアイデアが出せない」ことが原因だとわかったら、商品化やプロモーションなどについてのアイデアを持っている会社がないか、また社内でアイデアを募集するよいやり方はないかといった対策を立案するため、さらに異なる情報収集が必要になってくる。
問題解決の手順でしっかり考えておかないと、いきなり「売上を上げるために女性のファッション雑誌に広告を出そう。
どんな雑誌があるか調べてくれ」といった、まったく的外れな情報収集をするおそれもあるので注意が必要だ。
本書のなかでも「論理」と「情報」の使い方については折りにふれて解説していきたい。
上級者は仮説思考で「変幻自在」に最後に、問題解決の上級者について触れておこう。
上級者は、より効率的に検討をおこなうために「変幻自在」に検討してもかまわない、と補足しておく。
ここまでは基本に忠実に、問題解決は「WHEREWHYHOW」の順番で考えようと述べてきた。
しかし慣れてくると、あちこちから検討をおこない、最後につなげるといったやり方のほうが、現実のビジネスでは効率的であることが多い。
たとえば、直感的に「この対策が効くのではないか?」と思ったとしよう。
これをそのまま実行するなら、単なるHOW思考であり、やってはいけない。
しかし、HOW思考のまえでいったん立ちどまり、「この対策は、本当に原因に効いているのか?」と逆から考える。
さらに「この原因は、いま自分が抱えている問題につながっているのか?」と、さかのぼって考える。
その結果、「間違いない」と確信したら、その対策を実行に移せばいい。
この手順はHOWからさかのぼったが、WHYを思いついたあとに、まえのWHEREと後ろのHOWを同時に考えてもかまわない。
しっかりと、問題解決の3ステップがつながっていることが確認できさえすれば、考えはじめる糸口はどこからでもかまわないということだ。
詳しくは、前著『ロジカル・プレゼンテーション』の「第3章仮説検証力」を参照してもらいたいが、これはいわゆる「仮説思考」という考え方である。
順を追って、「WHEREWHYHOW」と考えるのではなく、最初に「仮説」で「HOW」や「WHY」を決め、そのあとに、それが本当に正しかったかどうかを「検証」するというやり方だ。
仮説思考は、物事を効率的に検討するうえで非常に有効なアプローチであるため、上級者が効率よく問題解決を遂行するための優れた方法といえよう。
最後に繰り返しとなるが、くれぐれも「HOW思考の落とし穴に陥らない」ように注意してもらいたい。
「仮説を検証しないまま実行する」、つまり「WHERE・WHYとのつながりを吟味しないままに、思いついたHOWを実行する」ことだけは絶対に避けなければならない。
これは、どれだけ問題解決に慣れても、絶対にしてはならないと肝に銘じていただきたい。
STORY2問題をさがす人たちどこから手をつければいいのか?戸崎は、さらに2回ほどマルチメディア事業部から状況のヒアリングを実施した。
しかし、出てくるのは「現在おこなっている対策」の話ばかりで、結局「どこが問題なのか」「原因はなぜか」はわからずじまいだった。
このままでは埒があかないと思った戸崎は、大谷部長に相談することにした。
「例のマルチメディア事業部の件ですが、あれこれヒアリングはしてみたものの、状況がはっきりしないんです。
いわゆるHOW思考といいますか、対策の話ばかりで……。
彼らに任せていたのでは状況を打開できないので、経営企画部と共同検討チームをつくりたいのですが……」大谷は高橋事業部長に打診すると請け合い、その日の夕方、戸崎に結果を伝えた。
「高橋さんからOKをもらったよ。
事業部の若手と共同検討チームをつくって、ぜひ彼らを経営企画的な視点から鍛えあげてくれということだ」戸崎は安心し、礼を言った。
翌朝、戸崎は経営企画に配属されて2年目の星田千絵をつれて、マルチメディア事業部を訪れた。
事業部からは、安達課長、浪江剛、山辺麻由美の3名が参加することになった。
とりあえず、マルチメディア事業部の問題を洗い出す共同検討チームは5名でスタートすることになった。
問題と原因は、どう違う?戸崎はさっそく会議を開き、冒頭で問題解決の3ステップを示した。
「WHERE=どこに問題があるのか」「WHY=その原因はなぜか」「HOW=だからどうするのか」という流れで検討したいと説明したうえで、まず「WHERE=どこに問題があるのか」から始めることにした。
まず安達が口を開いた。
「やはり問題は、お客様からの値引き要請が限度を超えているからだと推測しています。
最も熾烈な例では、四半期で5%もの値引きを要請しています。
少しは我が社のことも考えてほしいものです」山辺がそれにつづいた。
「私はシェア表の数字をここ2年間、取りまとめていますが、中国地場の競合が出現していることも問題だと思っています。
最近では製品の品質も向上して、うちの製品とくらべても遜色なく使えるとお客様がおっしゃっています」そこで戸崎が割って入った。
「ちょっと待ってください。
今は、どこに問題があるかを突きとめようとしていますが、ここでいう問題とは、マルチメディア事業部の売上のどこに問題があるのか、ということです。
値引き要請や中国地場競合の出現は、売上低下の原因ですよね?」戸崎はかみくだいて説明したつもりだったが、安達も山辺もポカンとしていたので、さらに説明を加えた。
「たとえば、サニー社向けの製品の売上が下がっているとか、CD‐Rの売上が落ち込んでいるとか、まずは、どこの売上が下がっているのかを検討したいんです。
中国地場競合と価格勝負になったということなら、中国地場競合の出現は〈問題〉ではなく〈原因〉といえるでしょう。
いきなり原因の議論をするのではなく、どこに問題があるのかをはっきりさせたいんです」「要するに」浪江が答えた。
「ちゃんと数字を分析して、いろんな角度から売上が下がっている製品は何なのかをあぶり出せってことだろ?」「そのとおりです」結局、その日は手もとに数字のデータが揃っていなかったので、マルチメディア事業部がさまざまな切り口でのデータを持ってくることを宿題にして会議は終了した。
抜け漏れだらけの分析翌週、2度目の会議が開かれた。
宿題になっていた数字データを見ながら「どこに問題があるのか」を検討することが会議の目的だ。
安達が説明を始めた。
「気になるデータがあったのでお持ちしました。
図2‐1をごらんください。
この表は、主な顧客の製品別取引価格の下落状況を1年にわたってまとめたものです。
この下がり具合は異常だと思いませんか?」
「なるほど、そうですね……」とは答えたものの、戸崎は困惑を隠せなかった。
「安達さん、お客様はこの3社ですべてですか?」「いや、そういうわけでもありません。
この3社以外にも、大口では、藤田フイルムさんとかJVDさんなどもありますし」「なるほど……では、この3社で全体の何割くらいを占めてますか?」「そうすねえ……概算ですが6割ほどでしょうか」「では、この表で売上の6割はカバーしているということですね」戸崎は念をおした。
「いや、そうともいえません……3社向けの売上をすべて合計すれば6割に達するとは思いますが、ここに出ている商品は全部ではないので、そこまで多くはないはずです」事業部の売上のどこに問題があるのかを分析しているのに、こうも抜け漏れが多い情報だと、問題の見落としがあるにちがいない。
そこで戸崎は提案した。
「安達さん、WHEREの議論をする際には問題を見落とさないため、抜け漏れなくすべてを洗い出して議論することが大切です。
まずは、事業部全体の売上データを見ながら話しましょう」山辺が事業部全体のデータをまとめていたので、それを見ながら議論することになった。
見えない切り口「まず、顧客別の売上高推移を分析したのが図2‐2です」山辺が説明を始めた。
「さらに製品カテゴリ別で売上高推移を分析したものが図2‐3です」
安達の図と見た目は似ているが、縦軸方向は「すべて」が網羅されており、見落としはないようだ。
しかし、DVDが伸びている以外は、すべての数字がほぼ同じくらい下落しているように見える。
これでは、どこに問題があるのか、切り口がまったく見えてこない。
「DVDが伸びているのはわかりますが、それ以外は顧客別で見ても製品別で見ても、すべて同じくらい下がってますね。
いったい、どこに問題があるんでしょう?」戸崎が質問したが、みな黙っているので話をつづけた。
「これだと、残念ながら問題は絞り込めそうにありません。
こういう分析をした際、ある部分は下がっていなくて、ある部分だけが極端に下がっているのが見つかれば、そこに問題があることがはっきりします。
せっかく分析してもらいましたが、顧客別や製品別という切り口では、どこに問題があるか見えてこないようです」飲み込みの早い山辺はすぐに戸崎の真意を理解し、「たしかに、これでは問題が見えてこないわ」と考え込んでしまった。
我々があぶり出したいのは何か?会議時間も残り少なくなり、戸崎はひとつの提案をした。
「今回はいろいろ情報をいただきましたが、どこに問題があるかを絞り込むには、もう一工夫ほしいところです。
次回に向けて分析を進めるために、どんな切り口が考えられるか、洗い出してみませんか」「切り口って……」山辺が応じた。
「たとえば、顧客別とか製品別とか、そういうことかしら?」「そうです。
どういう見方をすれば、利益が下がっているところがあぶり出せるか、その見方を考えるということです」そこで全員が、さまざまな切り口を洗い出した。
営業的な観点では、顧客別、製品別、民生用・業務用などの用途別、日本向け・欧州向け・米国向けなどの仕向地別など。
生産的な観点からは、工場別、生産ライン別など。
技術的な観点からは、メディアの追記型・書換別、記録容量別、使っている材料の種類別など。
あらゆる視点から切り口を洗い出し、次回はこれらの切り口で分析をおこなうことを確認した。
戸崎はさらに付け加えた。
「それから、どういう論拠で問題を特定するかも考えてみましょう。
具体的には、〈何と比べてどうだから問題だ〉のように特定するんです。
今回の分析では、過去と比べてDVDは伸びているから問題なさそうだ、それ以外は同じくらい下がっているから同じくらい問題だ、となっています。
しかし、DVDの市場が急速に拡大しているのを考えると、もし市場が猛烈に成長していたら……」戸崎が一呼吸おくと、すかさず山辺がつづけた。
「この程度の伸びでは、実はシェアは下がっていて問題なのかもしれませんね。
また、カセットテープやFDDの市場は明らかに衰退していますが、CDの市場はそこまで衰退してはいないはずです。
同じ下落率だとしたら、むしろCDのほうが問題かもしれません」一同がうなずくと戸崎が言った。
「市場の成長率や市場シェアなども計算してみると、問題の絞り込みに役立つと思いますよ」「では、私のほうでちょっと調べてみます」山辺が答え、そこで会議はお開きとなった。
やっと光が見えてきた前回の会議から2週間ほど経った水曜日、浪江と山辺が経営企画部に顔を見せた。
「戸崎さん、やっと見えました!とても手間のかかる作業でしたが」山辺の声が弾んでいる。
戸崎にもその興奮が伝わってきた。
山辺は、戸崎に資料を手渡した。
「まず、図2‐4をごらんください。
CDとDVDについては〈追記型のR〉と〈書換型のRW〉で区分し、ビデオテープについては〈家庭用〉と〈業務用〉で区分してデータを取ってみました」
「なるほど」うなずきながら戸崎が言った。
「縦方向に売上項目を整理し、横方向にはいろいろな分析の数字を入れたわけですね。
これで、どこに問題が見えましたか?」戸崎が質問すると、山辺は新たな資料を差しだして説明した。
「図2‐5を見てください。
前回の会議で教えていただいたとおり、縦横〈もれなくだぶりなく〉事業を切り分け、そのなかに数字を入れてみました。
売上構成比率の高い事業は重要ですから、まずそれを分析しましたが、CD‐R、CD‐RW、DVD‐R、業務用ビデオテープの4事業が選ばれました。
次に、売上が下がっているものを突きとめようと、2002~05年までの売上の伸長率を計算しましたが、CD‐R、FDD、MO他、カセット、家庭用ビデオテープ、業務用ビデオテープという6事業が選ばれたんです。
最後に、市場が成長している割にはうちの伸びが悪いという観点で、2002~05年までの〈市場の成長率〉と〈うちの売上の伸長率〉の差分を計算してみました。
結果は、DVD‐Rと業務用ビデオテープが〈市場が成長しているのに、ウチでは大きく売上を落としている〉ことが判明しました。
そこで、以上の分析をまとめてみますと……」山辺は、新たな資料を戸崎に差しだし、うながすように浪江の顔を見た。
浪江は億劫そうに口を開いた。
「図2‐6を見てくれ。
最終的に問題となりそうなのは三つの事業で、一つ目は、構成比率が高くて落ち込んでいるCD‐R。
二つ目は、構成比率が高く、伸びてはいるけど、市場の伸びに追いついていないDVD‐R。
三つ目は、構成比率が高く、落ち込んでいて、しかも市場の伸びにも追いついていない業務用ビデオテープ。
こんな結果になったんだ」
戸崎は満面の笑みをうかべて声を上げた。
「すごいじゃないですか!問題が一目瞭然となりましたね。
これで問題の所在がかなりはっきりしました。
ここまで絞り込めれば、安心して次のステップに進めますね。
これをもとに、次の会議では原因について深掘りしていきましょう」「経営企画部にそんなに褒められると、こっぱずかしいな!まあ、僕たちにも、ちょっとは分析力がついてきたってことかな」浪江と山辺は満足した面持ちで経営企画部をあとにした。
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