第二章なぜ必要なのか?
•「ネガティブな情報」を伝えられて、嬉しい人は滅多にいません。
•「ネガティブな情報」を伝えるのが、嬉しい人も滅多にいません。
※稀に「嬉しくて仕方ない」という上司がいても、それを受け取る部下が納得して行動変容していなければ、独りよがりでパワハラのリスクがあります。
部下も上司も嬉しくない活動なのに、なぜ経営者や人事は我々のような外部コンサルタントにお金を払ってまで実行しようとするのでしょうか?ネガティブフィードバックが必要な理由は、下記4つです。
1【組織のため】2【相手のため】3【周囲のため】4【自分のため】
以後、それぞれ解説していきます。
21【組織のため】
会社などの組織は「社会や顧客に価値を提供し、対価として利益を得る」等、何らかの目的で設立・構成されています。構成員は組織に所属する以上、その目的に合致した行動や貢献を求められます。
•ただ、全員が目的や期待を上回る行動や貢献ができるとは限りません。行動や貢献にギャップがある場合、ギャップを解消してもらう必要があります。
※綺麗ごと抜きで言えば、適切な行動や貢献をしてくれないなら、組織に所属してもらう意味がありません。
■ギャップを解消する方法は複数の選択肢があります。
- 「本人の行動や能力を向上させる」
- 「組織の目的や期待を理解させる」
- 「目標や役割自体を変える」
- 「組織から離れてもらう」
等いずれの場合でも、本人に対してギャップが生じている旨を伝え、解消や改善に向けた解決策・選択肢に関して合意を得る必要があります。
その際に、本人が自覚している・いないに関わらず、不足している点や改善が必要な点等、本人の耳に痛いことを伝えることになります。
•「本人の行動や能力は昔と変わらないが、変革が必要な場合」もあります。
外部環境が変化することで、「社会や顧客のニーズ」「価値提供の方法・ツール」や「働き方・役割」が変化し、本人が気付かないうちにギャップが生じるケースもあります。
※最近の変化では、新型コロナウィルス、テレワーク化、働き方改革、法改正、国際情勢などが挙げられます(図を参照)。
VUCAと呼ばれる複雑で変化が大きい現在、組織が環境変化に対応しながら社会や顧客へ価値提供し続ける為には、構成員にも変化やアップデートが必要になります。
言わなくても気付きアップデートや改善を繰り返す人もいますが、気付かずに変化に取り残されそうな人には、今までの行動では不十分であることを伝えることになります。
22【相手のため】
ネガティブフィードバックの大前提は組織が存在目的を遂行するためですが、相手本人のためでもあります。
•「厳しいことが言えない」や逆に「言い方に愛情が無く部下と揉める」上司は、この観点が抜けているケースが多いです。
■フィードバックとは「対象者の行動について、何かしらの反応や評価を対象者に戻す・伝える行為」です。
ネガティブ(叱責・注意)だけでなく、ポジティブ(賞賛・承認)、ニュートラル(確認・うなづく)なフィードバックもあります。
心理学的に表現すると、フィードバックは本人の行動に対する『外発的動機付け』です。
※叱責も賞賛も確認も、行動に何らかの影響を与える動機付けになります。
•人が最も動機付けられないのは、やってもやらなくても「何もフィードバック(刺激・反応)が無い/変わらない」場合です。
※ギャンブルやゲームに中毒的に熱中する人が多いのは、「自分の行動によって、フィードバック(勝敗/結果)が大きく異なる」「フィードバックとして、報酬(金銭・スコア・賞賛・刺激)が得られる」ためです。
本人の行動に対して「プラスでもマイナスでもニュートラルでも、フィードバックしてあげること」自体が、今後の行動を推進したり制限したり変更したりするトリガー(引き金)になります。
■特にネガティブフィードバックは、下記の機会提供になります。
【気付きの機会】『不足やギャップがある点を気付かせる』【成長の機会】『成長や改善に向けて意欲を喚起する』上司が対立や面倒を敬遠して不足している点を伝えないことは、本人の気付きや成長の機会を奪うことになります。それは、部下育成の役割を担う上司の怠慢であり職務放棄です。
※実際、中高年の低業績者に踏み込んだフィードバックを行うと、「ここ数年、周囲から指摘を受ける機会が無く気付かなかった」「薄々分かっていたが、改めて指摘されて行動するきっかけになった」等のコメントが出て感謝されることもあります。
23【周囲のため】
「フィードバックは外発的動機付け」という説明をしましたが、フィードバック有無は本人だけでなく、周囲にもプラスまたはマイナスの影響を与えます。
「やってもやらなくても、上司のフィードバック(評価やメッセージ)が変わらない」状態が続くと、成果を出している社員ほど、真面目に業務をすることが馬鹿らしくなる可能性があります。
※労力や工数などのインプットを減らして、少ないフィードバックとの釣り合いを取ろうとします。
特に「やらない社員の方が社歴も長く報酬も高い」場合、ギャップを埋める姿勢を上司や組織が示さないことへ周囲の不満が顕著になります。
■内発的動機付けが高い社員は「仕事の報酬は仕事」という状態なので、外発的動機付け有無や周囲に関係なく仕事に熱中してくれる場合もあります。
ただし、そういう社員は組織を見極める観点もシビアなので、より動機づけされる組織へ流出(転職・独立)するリスクを高めることになります。
■本人だけではなく、チーム全体の規律や士気を維持するためにも、『貢献している社員の言動にはポジティブなフィードバック』『貢献していない社員の言動にはネガティブなフィードバック』を公平に行うことが重要です。
「成績優秀なら勤怠不良や会議欠席でもお咎めなし」「成績不振なら些細なことでも叱責」等、人によって評価基準を変えることはNGです。
ダブルスタンダード(二重規範)が蔓延すると、社員は「何を頑張ればよいのか」という行動基準や価値判断が不明瞭になり、モラルやパフォーマンスが低下していきます(学習性無力感)。
•「人」ではなく、組織が求める「行動」「言動」を基準にフィードバックを行います。
24【自分のため】
フィードバックは基本的に、組織の目標達成および相手の成長や改善を願って行う利他的な行為です。
ただ、ネガティブフィードバックは実施する側には気が重い行為なので、「自分のメリット」もないとやる気になれません。
「ネガティブフィードバックを行う自分のメリット」を考察します。
【自分の価値観・スタンスを明確にできる】フィードバックは「こういう行動は歓迎する」「こういう行動は歓迎しない」という周囲へのメッセージになります。
•あなたが上司であれば、(良くも悪くも)部下の行動や発言の方向性を決めていくことになります。
•あなたが部下であれば、上司や同僚の関わり方に影響が出ます。
一回では大きな変化は出ませんが、「あの人はこういう行動は必ず喜ぶor嫌がる」という積み重ねが、徐々に周囲の行動や関わり方に影響を与えます。
結果として、自分にとって望ましい状況を獲得できる可能性が高くなります。ただし、価値観を明確にすることは諸刃の剣です。
「あの人は、こういう情報や行動は喜ばない」と分かると、そういう情報は入らなくなります(ネットで言うフィルターバブル状態)。
その結果、「イエスマン集団に囲まれた上司」「不都合な情報が入らない裸の王様」になる危険も常に存在します。
『自分自身を俯瞰して軌道修正する視点(メタ認知)』と、『ネガティブな情報も冷静に受け止める謙虚さ』が無いと、知らず知らずのうちに周囲から人が遠ざかる可能性もあります。
【ストレスが溜まりにくくなる】「言いたいことを言えない」状態はストレスが溜まります。
「言いたいこと」「言ってあげた方がよいこと」は、過剰に恐れずに伝える方が、結果的には自分にも相手にも健全です。
※相手も「本当はそう思われていたが言われなかった」という状態は、後で知った際に不愉快になります。
■フィードバックは「自分の感情を投げつける」ことではなく「相手の行動改善を願って伝える」双方向のコミュニケーションです。
適切なフィードバックが出来るようになると、言いたいことを我慢することなく、お互いに望ましい状況が明らかになり、双方の環境が改善していきます。
※フィードバックをしない場合、「言いたいけど言えない」と感じるとコントロールできない状態と認識してストレスが溜まります。
「言えない」ではなく「自分の意思で言わない選択をしている」と捉え方を変えること(リフレーミング)をお勧めします。
【自分の自律と成長に繋がる】相手に厳しいフィードバックをする際には、我が身にブーメランがはね返る可能性もあり、勇気がいります。
「お前が言うな」と思われると、フィードバックは効きません。
「何を言うか」も大事ですが「誰が言うか」はより大事です。
他人へフィードバックを行う際には、「他人に求める行動を自分は出来ているか」「なぜ、自分はフィードバックをしたいのか」を意識することになり、自分自身の振り返りや成長にも繋がります。
■また、組織全体や顧客を考えながら、冷静にフィードバックが出来る人材は、組織にとって貴重かつ希少な存在で、心ある同僚や上司から信頼を得られます(全員ではありませんが)。
※冷静に自分を律しながら、相手や組織の為に真摯なフィードバックを行っても味方や賛同が得られない場合、「自分の伝え方が間違っている」か「所属している組織が間違っている」可能性があります。
•その際は、「自分の言動を変える」か「自分が属する組織を変える」選択も必要な場合があります。
健全なフィードバックが実行できない組織は、変化の激しい時代に適応できなくなる可能性があります。
自分の能力や言動に理解を得られる組織を自分で選ぶ自律性(キャリアオーナーシップ)や対等な雇用関係も、今後は重要です。
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