第三章なぜ出来ないのか?
前章では「なぜネガティブフィードバックが必要なのか?」を考察しました。
本章では「必要なのはわかるが、なぜ出来ないのか?」を考察します。
組織・相手・周囲・自分が望ましい状態に近づくために、耳に痛くても伝えることが有効だと分かっていても「言うは易く行うは難し」。実行は困難です。
コンサルティングの現場でヒアリングを行うと、「分かってはいるけど出来ない」理由として、色んな意見が出てきます。
■部下が、自分より社歴も年齢も上なので厳しいことを言いにくい
■上司が、自分やチームの意見に耳を貸してくれない
■現場の上司と部下が、お互いに率直なコミュニケーションが取れていない、等上記の例を追加で深掘りすると、こんな回答が出てきます。
□年上部下なので、やんわりと伝えているけど、なかなか伝わらない
□あの上司には言うだけ無駄。部下やチームの意見を上司自ら聞くべき
□人事としては、現場がモチベーションを落とすのが怖く
口出しできない•実は「思っていることを、相手に伝えていない」ことが多いです。
※言うべきことを伝えていない場合、はっきり言えば伝える側の怠慢です。
「ハッキリ言わずに察して欲しい」「自分は言えないから、誰かに言って欲しい」で相手が変わることはありません。
•相手は何か目的/経緯/メリットがあって現在の行動を選択しており、周囲の刺激(フィードバック)がない限り変化する可能性は低いです。
この後は、「出来ない」を「出来る」に変えるプロセスを紹介します。
31【出来ない理由】を考える
ネガティブフィードバックが出来ない理由は色々あります。出来ない状態を変えるには、まず「なぜ出来ないのか」を把握します。
【出来ない理由】を箇条書きで書いてみる。
「嫌われるのが怖い、面倒、嫌だ」「ブーメランを食らうのが怖い、嫌だ」「ハラスメントになると大変」「余計な仕事を増やしたくない」「波風を立てたくない」「更にモチベーションが落ちるかもしれない」「たぶん、言っても変わらない」等•管理職の場合は特に、多くの【出来ない理由】があります。
•パワーハラスメント(どう言えば良いか分からない)
•働き方改革(労働時間の制約があり、強い指示がしにくい)
•テレワーク(直接顔が見えないので、面談が難しい)
•年上部下(役職定年や定年再雇用で、元上司が部下になる場合も)
•風評リスク(SNS等にフィードバックの様子が流出・拡散する危険)
•人手不足(もし辞められてしまうと、業務が回らない)等。
経営者や人事の立場からすると、「管理職なんだから、当然やってくれ」「組織のためにやるべき」と言いたくなりますが、管理職も機械でなく人間です。
理論上は「やるべき」でも、「出来ない」「やりたくない」と思っている状態だと、効果的な実行は期待できません。
もう少し【出来ない理由】を掘り下げる必要があります。
32【やらない目的】を考える
【やらない目的】というのも変な表現ですが、出来ない(=やらない)ことには何らかの目的が存在します。
前述した通り【出来ない理由】は色々あります。
放置していると、いつまでもネガティブフィードバックは出来ないままですそこで「出来ない」という状態を違う角度から検討します。
『嫌われる勇気(岸見一郎著ダイヤモンド社)』で紹介されているアドラー心理学「目的論」によると、行動や感情には原因ではなく目的があります。
•ネガティブフィードバックが「出来ない」のではなく「何かの目的があり、やらない選択をしている」と考えるとヒントが見つかります。
■例「元上司で年上部下なので、厳しいフィードバックが出来ない」→「数年で定年なので、面倒を避けて定年退職を待ちたい(だから、フィードバックしない)→「元上司なのだから、自分で気付くべきだし気付いて欲しい」(だから、フィードバックしない)→「フィードバックに必要な労力と時間に比べ、得られる改善効果および反発が割に合わない」(その結果、フィードバックしない方が得と考えた)等(その目的や推論が合っているかは別として)自分が何かの目的があって「出来ない」ではなく「やらない」選択をしているという事実が分かると、「出来ない」という思考停止から脱却して「やるか」「やらないか」にフォーカスできるようになります。
•自分が「フィードバックをしないことで、何を得たいのか?何が得られると考えているのか?」を立ち止まって掘り下げてみましょう。
33【やらないとどうなるのか?】を考える
ネガティブフィードバック実施を選択する最終ステップとして「やらないとどうなるのか?」を真剣に検討します。
「相手の耳に痛いことを伝える」ネガティブフィードバックは(相手の反応や効果を気にしなければ)、言葉が喋れれば誰にでもできるはずです。
•まずは、自分が「出来ない」ではなく「やらない」ことを(何らかの目的で)選択している事実を受け入れましょう。
•そのうえで、「やらなければいけない」という前提条件を一旦捨て、「やらない選択肢」もある中で【やらないとどうなるのか?】【やるとどうなるのか?】を様々な角度で問いを立てて考えます。
■例「入力ミスが多いが、注意をすると言い訳が多く面倒くさい」•問い:フィードバックしない場合どうなるのか?「同じミスを繰り返す可能性が高い→その結果、周囲の業務に支障が出る→本人の評価や処遇も上がらない」•問い:フィードバックをする場合どうなるのか?「言い訳が多く変わらないかもしれない」「ミスを減らせる場合もある→周囲の業務負荷が減る→ミスが減ると本人の評価や処遇も高まる→組織のパフォーマンスが向上する」フィードバックは万能ではなく「伝えたら必ず改善する」ものではありません。
現実的には「改善される可能性がある」レベルです。
「聴きたくないことを言われる」ので、反発や反感を抱かれる可能性もあります。
一方、(特に同じミスや問題行動を繰り返す人は)フィードバックしないと「高確率で同じミスや問題行動を繰り返す」「改善するかは運任せ(本人が、たまたま何かの拍子に気付く可能性を待つ)」となります。
※前章でお伝えしましたが、フィードバックをしないことは、相手の「成長機会」「気付きの機会」を奪う行為でもあります。
■また、「やらないとどうなるのか?」に関しては、メタ認知で視点のレンジを色々変えてみることも有効です(相手の立場・時間軸・レイヤーなど)。
「今期は良いが、来期以降はどうなるのか?」「今伝えてあげないと、この人が60歳になった時にどうなるのか?」「自分が本人なら、言われた方が良いか?言われない方が良いか?」「自分が尊敬する人なら、こういう時に言うか?言わないか?」「言わない選択は、お客様や他の社員にどんな影響を与えるのか?」「言わない選択をした自分を、未来の自分はどう思うのか?」等•自分の役割として、「不作為(なすべきことを知りながらしない)の結果および感情」が許容範囲なのかを真剣に検討し、ネガティブフィードバックを実施するか自分で決断します。
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