まえがき──きのう、部下の報告書があまりひどいので少し厳しめに注意した。そのときは「はい」と素直に答えていたのに、きょう会社にきてみると、SNSに自分のことがパワハラ上司と書き込まれていると言われた。どうしたらよいのだろう。──うちの会社にはモンスター部下がいる。何か指示してもぶつぶつ文句を言うし、叱るとキレて自分に怒鳴ってくる。これは逆パワハラじゃないのか。──サラリーマン川柳2020の応募作から選ばれた優秀100句の中に、「これセーフ?部下への言葉ググる日々」というのがあった。本当にこのとおりだ。部下にどう言って指示すればいいんだろう。2020年6月1日からパワハラ防止法が施行された(厳密には、労働施策総合推進法の改正法であるが、本書では通称のとおりパワハラ防止法とする。またパワー・ハラスメントは略称のパワハラで記す)。この法律が施行されるにあたって、多くの新聞やネットで法律の内容を解説する記事が出た。ただそれらの記事を見ていると、ちょうど日本中が新型コロナの対応で精一杯だったこともあってか、大雑把な解説であったり、新型コロナ対応で広がったテレワークや在宅勤務に関するハラスメントのことだけだったりして、肝心のこの法律で何がどう変わっていくのかについて掘り下げた記事は残念ながら見当たらなかった。法律が施行されたといっても、パワハラについて雇用管理上必要な措置を義務付けられたのは大企業だけで、中小企業については当面、努力義務とされた。多くの大企業では会社としての対応体制は整えたようである。しかし現場で上司としてパワハラ対応の最前線にいる管理職にとって、パワハラ防止法ができて何が変わったのか、何がパワハラになるかの判断基準はどうなったのか、テレワークや在宅勤務が広がっている今、この法律の下でどういうことに気を付けなければならないかなど、わからないことだらけではないだろうか。ここでいう大企業とは、資本金が3億円(小売業またはサービス業では5000万円、卸売業では1億円)を超え、かつ常時使用する労働者が300人(小売業では50人、卸売業またはサービス業では100人)を超える会社が該当する。大企業を対象に施行されたといっても、全国約359万社の会社のうち、大企業に該当する会社は約1万1000社(0・3%)しかない。その他の中小企業は約357万8000社(99・7%)もある(2020年版中小企業白書)。中小企業も、2年後の2022年4月1日からは、大企業と同じように措置が義務付けられる。
この中小企業の経営者には、商店街の肉屋、魚屋、ラーメン店の店主も含まれる。これらの経営者にとっても、この法律は自分たちにどういう影響があるのかなど、よくわからないままではないだろうか。またあまり言われていないが、今の時点でも、中小企業の事業主がパワハラ相談をした社員などに対し不利益な取り扱いをしてはならないという義務は大企業と同じようにかかっている。この法律の対象はまだ大企業だけだと安心してはいけないのである。もうひとつ大きな出来事があった。2020年6月1日からパワハラ防止に関する人事院規則が施行されたことである。あわせてパワハラの懲戒処分の指針も定められた。これによってわが国の約59万人の国家公務員のパワハラ対応は大きく変わる。地方公務員も変わる。これもあまり知られていないが、わが国の約274万人の地方公務員は、民間企業と同様にパワハラ防止法の対象であり、パワハラの定義、事業主の雇用管理上の措置などの規定が適用される。したがってこの法律の施行によって、都道府県知事や市町村長はパワハラ防止法の事業主としての義務があり、地方公務員の管理職はパワハラ防止の責務がある。これに加えて地方公務員は、公務職場で働く者として人事院規則の内容も関係する。パワハラ防止法と人事院規則とは「官民格差」と言われるようにパワハラの定義からして違っている。どこがどう違うのかも知っておかなくてはならない。私は、これまで20年以上、ハラスメント問題を専門の一つとする弁護士として、会社や大学などで問題解決に当たってきた。ただ弁護士が相談を受けるのは問題が深刻化してからがほとんどだ。病気で言えば症状が進んでから病院に駆け込むのと同じである。病気と同じように大事なことは予防だ。日頃から問題が起きても初期のうちに解決できるように備えておけば、わざわざ弁護士事務所に駆け込むこともない。そのためには問題発生に備えて基本的な知識を身に付けておくことが必要である。この本は特に、民間企業や公務職場の管理職と、2022年に本格施行される中小企業の経営者のために、パワハラ防止法や人事院規則のポイントのほか、ハラスメントについて最小限知っておいてほしいこと、パワハラ防止のために経営者や管理職として心得てもらいたいことを基本から書いた。もちろん部下に当たる一般社員も、ふだんの上司への対応方法としてこの本に書かれていることはぜひ知っておいてほしい。パワハラがもめて法廷に持ち込まれることも非常に多くなっている。特にこの1、2年の判決には現場で参考になるものが多い。今の裁判所の考え方を知ることも重要である。巻末に最新の判決例を紹介しポイントも付けたので参照してほしい。
パワハラ問題アウトの基準から対策まで──目次まえがき第1章まず基礎知識から法律ができても急増するハラスメント言葉の定着被害者はすぐには声が出せないいつ加害者・被害者になるかわからないパワハラという言葉に要注意職場のハラスメント相手が不快というだけではセクハラは不快性だけでさまざまなハラスメント①ジェンダー・ハラスメント②マタニティ・ハラスメントとパタニティ・ハラスメント③SOGIハラスメント④カスタマー・ハラスメント⑤就活ハラスメント⑥アカデミック・ハラスメントとスクール・ハラスメント⑦ソーシャル・ハラスメント⑧レイシャル・ハラスメント⑨その他のハラスメント
第2章ウィズコロナ時代のハラスメント
新型コロナ感染についてのハラスメントテレワークと在宅勤務の広がりテレワークには限界がある新たなハラスメント「テレハラ」なぜテレハラが出てくるのか経営者と管理職は何に注意すればよいのか
第3章アウトとセーフの事例を理解する
6つの行為類型
どんなことがアウトなのか①暴力行為②威圧的言動③人格否定発言④仕事に無関係な言動⑤長時間にわたる叱責⑥他の社員のいる場所での叱責どういうときがセーフなのか民事上の責任は損害賠償責任刑事責任を問われることも会社の責任は経営者や管理職の責任は被害申出者が責任を問われるとき
第4章パワハラ防止法の徹底解剖
法律の中味を簡単にまとめると社員間のパワハラだけを対象に指針はマニュアルではない法律の基準と会社の基準は違う法律のパワハラ3要件「事業主が雇用する労働者」「職場において行われる」「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」「ものにより」「労働者の就業環境が害される」判断基準は平均的労働者の感じ方会社の定義は予防的に会社の定義としてのパワハラ3要件法律で何が変わるか
第5章国家公務員と地方公務員の職場はどうなるか
公務員の種類と数公務職場のパワハラも増えている管理職はこわがって指導を躊躇知事や市町村長は事業主人事院規則の制定パワハラの定義の違い
官民格差もうひとつの官民格差カスハラはどうなったか懲戒処分の基準も定められた
第6章経営者と管理職は何をすればよいのか
事業主の措置義務とは違反はブラック企業として公表経営者は就業規則と方針を相談窓口と言われても管理職は何をすればよいのか部下から相談を受けたときの三大禁句
第7章パワハラ経営者、管理職にならないために
いくつかの傾向タイプ①瞬間湯沸かし器型②鬼コーチ型③オレが一番型④好き嫌い型⑤ストレスはけ口型⑥会社ぐるみ型傾向タイプはどうすれば意図的パワハラと無意識パワハラ本当にこわいのは無意識パワハラメンタル不調の部下には発達障害の疑いのある部下には部下に言ってよい言葉・悪い言葉パワハラ経営者、管理職にならないための5つの心得
第8章グレーゾーンをこわがらない方法
グレーゾーンとパワハラの境界線グレーゾーンのときの判断基準業務の適正な範囲の判断はこの2要素で言動の態様とは平均的労働者基準とはグレーゾーンはフォローが大事教育指導のときの線引きはどこに叱責のときの線引きはどこに
部下の叱り方5原則部下が喜んで過大な業務をするとき部下との共通認識良好な人間関係とコミュニケーションの意味
第9章問題化した場合のリカバリー
どう見ても黒ならどう見ても白なら全く身に覚えがないときはヒアリングと事実調査はどうなる言った言わないの世界メールとICレコーダーは強力な証拠懲戒処分はどうなる刑事事件になると裁判になると
第10章管理職が被害者になるとき
管理職が被害者になることは多いモンスター部下にはネット中傷へは即時対応を削除請求と発信者情報の開示請求の実際メンタルに影響があるときパワハラと労災請求
第11章問題集:あなたならどう動くか
ケース1【なぜオレがパワハラ上司に】ケース2【一生懸命指導しているのに】ケース3【グレーの場合】ケース4【無意識パワハラ】ケース5【内容証明が来た】ケース6【パワハラを見たとき】ケース7【カスタマー・パワハラ】ケース8【最悪の結果】現場で役立つ最新パワハラ判決30選1パワハラを認めた判決例①退職勧奨が違法に②部下に対する暴行の慰謝料は
③手帳の記載に信用性があるか④社員に配付した文書が名誉毀損に⑤パワハラをした社員への訓戒処分は相当⑥老人介護施設長の職員に対する暴言⑦校長の教諭に対するパワハラ⑧会社代表者による社員への暴行⑨丸刈りにされ花火を発射され土下座までさせられた社員⑩被害者の個人的素因で損害額が減額されるか⑪部下の席の周りをパーテーションで仕切った上司⑫声を荒らげての退職勧奨⑬上司からの執拗な注意と叱責の責任⑭パワハラに加担した上司は共同責任を負う⑮パワハラはあったが適応障害との因果関係は否定⑯店長は部下が自殺することを予見できたか2パワハラを認めなかった判決例①工場でのミスの多い社員の担当の変更②暴力があったといっても病院に行っていないのは③業務改善確認書へ署名させたことの是非④体調不良の部下との面談での配慮⑤支店長の営業目標の設定は過大か⑥先輩職員らは無視して返事もしなかったか⑦パワハラを理由とする労災保険給付の要件は⑧パワハラ相談担当者やコンプライアンス担当者も被告に⑨上司が人事面談を無断録音したのは⑩147通の手紙を手書きで⑪社員の言い争い⑫派遣先の会社でのパワハラは⑬叱責がパワハラにならないのは⑭プレゼンの指導が1時間になってもあとがき主要な参考文献専門家による相談窓口
第1章まず基礎知識から法律ができてもかねてから法制化の必要が叫ばれ、2019年5月29日に成立したパワハラ防止法は、2020年6月1日から施行された。施行前の同年1月には、この法律で事業主に義務付けられる雇用管理上の措置について、行政上の基準となる指針(以下、指針)が厚生労働省(以下、厚労省)から示された。ようやく職場におけるパワハラの法制化が実現した。さてこれでパワハラはなくなっていくだろうか。私は、裁判官をやめて弁護士になったあと、たまたまセクシャル・ハラスメント(以下、セクハラ)被害の相談を受けたことからセクハラ問題に関わるようになった。ここ数年はパワハラ問題にも関わるようになって、ハラスメント問題にはもう20年以上の経験がある。ハラスメント相談もこれまで大小合わせて1000件を超えている。会社や大学でのハラスメント研修の講師や事実調査委員会の委員になることも多い。私は、かつてセクハラが大きな問題として取り上げられたときのことをよく覚えている。そのときに男性の多くから「相手がセクハラと感じたらセクハラになるのか。そんなことを言っていたら女性とまともに話ができない」という声をよく聞いた。これが誤解だと言ってもなかなかわかってもらえなかった。その後、職場でのセクハラについては、男女雇用機会均等法などでさまざまな防止対策がとられた。しかしセクハラの理解と対策は進んでいない。そのことは次々と報道されるセクハラ事件で明らかだ。つい最近も、ある政党の大会で市議が、参加者の女性に、「銀座のクラブのママみたいだね」と発言したのをセクハラと指摘されたことに対し、「なんでもかんでもセクハラって、一体なんなんだよ。じゃあ女とは一言も話せないね」と言ったという(「毎日新聞」2020年3月10日付朝刊)。パワハラについても、「部下が不快と言えばパワハラになるのか。それでは部下を叱ることもできない」という声が聞こえる。これも誤解である。ではこうした誤解は、法律ができ、会社で防止対策がとられればなくなっていくだろうか。そう簡単にはいかない。今のままではセクハラと同じような道をたどるのではないか。つまり、トラブルやその認知件数は増えていくのに、当事者たちの意識や対策が追い付いていかない。これが心配だ。急増するハラスメントここ数年、スポーツ界や芸能界のパワハラ事件を新聞や週刊誌で目にすることが多い。
職場でも、神戸の小学校教諭が同僚から暴力や暴言を繰り返された事件や、トヨタの社員の自殺がパワハラとして労災認定された事件などがひんぱんに報道されている。最近では、大学4年生の男子学生が就職の内定している会社の人事課長からパワハラを受け、入社2か月前に自殺したとして遺族の代理人弁護士らが記者会見した(「朝日新聞」2020年4月10日付朝刊)。教育現場も例外ではない。北海道大学は総長がパワハラを理由として文部科学大臣より解任されたと発表した(北海道大学HP・2020年7月1日)。職場でのハラスメントが増えていることは全国の労働相談の件数からもわかる。全国の都道府県労働局や労働基準監督署などには総合労働相談コーナーが全部で380か所設置されていて労働相談を受けている。図1のように、この労働相談での職場のいじめ・嫌がらせの件数は、2012年度にすべての労働相談の中でトップになり、その後も8年連続で最多である。件数は、2019年度では前年比で5・8%増加し8万7570件にもなった。
また2016年度に厚労省が委託した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(以下、2016年度実態調査)は、全国約4600の企業と、1万人の従業員(公務員、自営業者、経営者、役員を除く、正社員6650人・正社員以外3350人)から回答を得た大規模な調査であるが、それによると過去3年間にパワハラを受けたと感じたことがあるとした回答者は32・5%に上り、2012年度の同様の調査結果である25・3%から増加している。この調査では、約3人に1人はパワハラを受けたと感じたことがあるということになる。また自分がパワハラをしたと感じたり、パワハラをしたと指摘されたという回答者は11・7%と、これも増えている(図2)。言葉の定着日本でハラスメントという言葉が使われだしたのはセクハラからだった。1970年ころにアメリカで生まれたセクハラという考え方が80年代になって日本でも広がった。1990年代になって福岡セクハラ訴訟をはじめとする裁判が社会の注目を集めた。これらのことがきっかけとなって、日本でもセクハラという言葉が定着した。その後、会社や大学ではセクハラについての規程や防止対策がとられるようになった。セクハラによる懲戒処分や裁判も急に増えた。
2006年には男女雇用機会均等法で、事業主に対してセクハラ防止のための雇用管理上必要な措置を義務付ける規定が設けられ、職場でのセクハラについての措置義務化が実現した。ではその後のセクハラ対策が十分かというとそうではない。財務省の次官によるセクハラ事件やジャーナリストによるセクハラ裁判など、職場でのセクハラ事件は後を絶たない。最近では、こともあろうに内閣府男女共同参画会議議員のアパレル会社社長がセクハラ事件を起こしていたと報じられた(「週刊新潮」2020年3月12日号)。セクハラ根絶のための対策はいつまでたっても進まない。被害者はすぐには声が出せない会社はなぜハラスメント被害に対して相談窓口を作ってまで対応しなければならないのだろうか。ある人が道を歩いていたとき、向こうからきた人にいきなり突き飛ばされたとする。その人はすぐに110番するだろう。では、ある社員が上司から仕事のミスで叱責されて突き飛ばされたとする。その社員はすぐに110番をするだろうか。どちらも暴行罪に当たる。しかし上司から突き飛ばされた社員がすぐに110番することはまずないだろう。見知らぬ相手から受けた暴力には声は出せるが、会社で受けた上司からの暴力にはすぐに声を出せない。それは会社の場合はその後の人間関係などを考えるからである。このように職場での被害にはすぐには声が出せない。かといって会社内で暴力を放置してよいはずがない。そのため会社はハラスメントの相談窓口を作って対応しなくてはならないのである。これは単に社会正義云々の問題ではない。ビジネスの観点から見ても、そのような問題を放置することは、決してプラスにはならない。会社のイメージ悪化、社員のモラルハザード等、いくらでもマイナス点は挙げられる。ハラスメントの被害は一般に思われている以上に深刻である。私の経験では、ハラスメントの法律相談に来た被害者が、被害のことを話しているときに過呼吸になって倒れたことがあった。被害が深刻な場合は、何年も経ってからフラッシュバックすることもある。上司から言われて傷付いた言葉がいつまでも脳裏から離れないことは決してまれなことではない。ケースによっては、被害者が自らの命を絶つという絶対にあってはならないことが起きてしまう。テレビ番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さんがネット中傷を受けて自殺したと報道されている。この事件はSNSを使った悪質なハラスメントが生んだ悲劇である。いつ加害者・被害者になるかわからないもうひとつの特徴は、誰もがいつ何時ハラスメントの加害者になるかもしれず、また被害者になるかもしれないということだ。管理職として部下に普通に指示指導していても、ある日突然、部下から、「それってパワハラじゃないですか」と言われる。しかしそう言われても、なぜそれがパワハラになる
か全く理解できない。かといってパワハラに当たらないことを説明できない。こうしていつ何時加害者とされるかわからない。自分としては部下に対していじめや嫌がらせをする意図もないし、特に大変な仕事を任せたつもりでもない。部下は喜んで仕事をしてくれた。しかし結果としてパワハラになることがある。自分ではそのつもりはなくてもパワハラをしていることも起こる。こうしていつ何時加害者になるかわからない。このような無意識ハラスメントが起きてしまうことがある。逆に管理職が被害者になることもある。ふだんは普通に仕事をしていたのに、新しい上司が来てその上司からいじめや嫌がらせを受けて会社にも行けなくなるほどの深刻な心の病を抱えてしまう。本人も自分がここまでメンタル不調になるとは思えないほどのことが起こる。このように、いつ加害者になり被害者になるかがわからないのがハラスメントのこわさである。パワハラという言葉に要注意パワハラという言葉は、2001年ころから、職場での優位性を背景とするハラスメントについて広く使われるようになった和製英語である。問題は、この言葉が職場におけるハラスメントをすべてカバーしているのではなく、あくまでパワー(優位性)に基づくハラスメントしか対象にしていないことである。パワハラという言葉自体が悪いわけではない。しかし一般には、この言葉で職場のハラスメントをすべてカバーしているように間違って理解している人が多い。職場のハラスメント外国では、職場でのいじめ・嫌がらせは、職場のハラスメントとして統一的にとらえ、パワーという限定はつけていない。例えば、フランスの労働法では、「いかなる労働者も、その権利及び尊厳を侵害し、身体的若しくは精神的健康を損なわしめ、又はその職業的将来を危うくさせるおそれのある、労働条件の毀損を目的とし、又はそのような結果をもたらす精神的ハラスメントの反復した行為を受けてはならない」(石井保雄「フランス法における「精神的ハラスメント」とは何か──その概念理解について」『季刊労働法』218号・2007年)とされている。ここにパワーという限定はない。国際的にもやはりパワーという限定はない。2019年6月に国際労働機関(ILO)で採択された「職場の暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」も、条約の名称はViolenceandHarassmentConventionであり、ここにpowerという言葉はない。この条約での職場のハラスメントの定義も、「一回限りのものであるか反復するものであるかを問わず、身体的、心理的、性的又は経済的損害を目的とし、又はこれらの損害をもたらし、若しくはもたらすおそれのある一定の容認することができない行動及び慣行又はこれらの脅威をいい、ジェンダーに基づく暴
力及びハラスメントを含む」(ILO駐日事務所)となっていて、ここにもパワーという言葉はない。大和田敢太・滋賀大学名誉教授はEUの例を示してこう言う。「EUでは、交通機関における乗客による暴力、医療機関における患者からの暴力、教育現場における生徒・保護者からの暴力・クレームなども「外部的ハラスメント」としてハラスメントに位置づけられ、規制の適用範囲に含まれる。パワハラ概念では、第三者によるハラスメントは対象範囲から逃れてしまい、職場におけるハラスメントの全体を包含できなくなっているのである」(大和田敢太『職場のハラスメント』中公新書・2018年)このように、海外では、職場のハラスメントは、パワーによるものに限定することなく、職場外の者からのものも含め広く労働者の安全という観点から定義されている。相手が不快というだけでは相手が不快に感じればパワハラだと言われることがある。しかしこれは誤解である。そうではなく、上司からの指示や指導が業務上必要かつ相当な範囲であれば、たとえ部下が不快に思ってもパワハラにはならない。しかしパワハラはそうであっても、セクハラは違う。相手が不快と感じたときはセクハラになる。それは定義を比べてみるとわかる。パワハラ防止法では、後でも述べるが、パワハラの定義は、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」となっている。他方、セクハラの定義として、例えば人事院規則では、「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」(人事院規則10‐10)となっている。この両者の定義を比べてまず気がつくことは、パワハラには「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」という要件があるが、セクハラにはこの要件がないことである。ということは、定義上、セクハラは相手を不快にさせればセクハラになるが、パワハラは上司の言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えなければ、たとえ相手が不快になってもパワハラにはならないということである。仕事で部下に指示をしたとき不快になる部下はいくらでもいる。もし相手が不快になればパワハラになるとすると、仕事を指示して部下が不快になればそのたびに上司はパワハラをしていることになってしまう。そうなると、上司は部下のごきげんをうかがって、部下が不快にならないように気を使った指示しかできない。そのようなことは日常業務では不可能である。このような定義の違いを頭に入れておかないと上司は必要以上におびえることになる。セクハラは不快性だけでなぜセクハラは不快性だけで成立するのだろうか。その理由のひとつは業務との関連性
にある。相手を不快にさせるような性的な言動は業務とは何の関係もない。というより業務に入ってきてはいけないものである。そのため、とにかく相手が不快と感じたらストップをかけて水際で侵入を防いでいるのである。ここでよくある疑問が出てくるだろう。先に挙げた「なんでもかんでもセクハラって、一体なんなんだよ。じゃあ女とは一言も話せないね」という市議の発言である。この疑問は、セクハラの成立とセクハラの責任とを分けて考えないことからくる誤解である。つまり相手が不快になればセクハラになるとしても、その言動をしたことでどこまで責任を負うかは別だということである。この責任というのは具体的には会社が懲戒処分などを科すことを言う。セクハラの責任は、職場での平均的労働者がその言動で不快と感じるかどうかで判断される。もし平均的労働者が不快になるとは言えない場合はセクハラの責任までは負わない。市議の「銀座のクラブのママ」発言はどうだろう。この市議の発言は、もちろん状況によるが、平均的な基準で見たとき、言われた相手は不快に感じるだろう。となればその発言はセクハラとして責任があることになる。例えば上司が女性の部下に、「その服、似合ってるね」と言ったが、その女性はとにかく服装のことを言われること自体が不快だとする。このときにはその女性にとってこの上司の発言はセクハラであるが、上司にセクハラの責任まではないだろう。こう言われて喜ぶ女性もいるからである。もし上司が、女性が不快に感じたことを知ったときには、「そうだったのか申し訳ない。不快とは知らずに言ってしまった。これからは言わないようにする」と言えば、ひとまずはよいだろう。ただ相手が不快に感じたことを知った以上は、同じような言動をしてはいけない。その場合は、平均的労働者が不快と感じない言動であっても、相手がやめてほしいということを知った上での言動なので責任が生じる。パワハラとセクハラにはもうひとつ定義に違いがある。それは、セクハラには優位性つまりパワーという言葉が入っていないことである。先にも書いたように、そもそも職場のハラスメントは、パワーのある場合に限定されていない。セクハラも職場のハラスメントのひとつなので、パワーのある場合に限定されていないのである。ただ、職場のハラスメントの中で、パワハラとしてパワーをともなうハラスメントを対象にしたために、パワハラには優位性つまりパワーという言葉が入ってきたのである。もっとも、セクハラではパワーを利用したセクハラもある。例えば上司の立場を利用して部下に性的関係を迫るというのが典型例である。このような場合には上司がその立場を利用したということから責任が重くなる。このように、パワーはパワハラの成立要件であるが、セクハラでは責任加重要件になるということになる。
さまざまなハラスメントある人が数えたら、ハラスメントと言われているものは50以上あるということだが、一般にハラスメントとされているものをいくつか取り上げてみよう。①ジェンダー・ハラスメントジェンダー・ハラスメントとは、固定的な性別役割分担意識に基づくハラスメントのことである。男はこうだ女はこうだと決めつけるハラスメントと言ってもよい。女性社員にお茶くみをさせたり、宴会でお酒を注がせたりするというのが典型例である。「女性は早く結婚した方がいい」とか「女には仕事を任せられない」といった発言や、男性社員に対して、「男のくせに根性がない」とか「お前それでも男か」と言うのもこの例である。それ以外に、女性をちゃん付けで呼ぶとか、「ウチの女の子」や「おばさん」と言うこともハラスメントになる。逆に女性が男性に、「僕ちゃん」とか「じじい」と言ったり書いたりするのも相手を不快にさせるだろう。このハラスメントは日常的に意識のないままに起きるためついつい見過ごされがちであるが、軽く見てはならない。言った側は軽口のつもりでも、言われた側の不快感は言った側の予測を超えることが多い。また、ジェンダー意識が欠けている経営者や管理職は大きなセクハラ事件を起こしてしまう可能性もある。昔ながらの男女観で生活し教育を受けてきた経営者や管理職はくれぐれも注意すべきである。②マタニティ・ハラスメントとパタニティ・ハラスメントマタニティ・ハラスメント(マタハラ)とは、職場での妊娠や出産に関するハラスメントを言う。マタハラとして問題になる言動については、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正によって、事業主に対し、職場におけるマタハラにより就業環境を害することがないよう防止措置が義務付けられている。パタニティ・ハラスメント(パタハラ)は、男性社員が育児休業などを申し出たり、取ったりすることに対するハラスメントである。日本では、男性が育児休業などをまだまだ当たり前のようには取れない雰囲気がある。ここでも、男は仕事、女は出産育児という固定観念が抜けない経営者と管理職は要注意である。親の介護などについての同様のことはケア・ハラスメント(ケアハラ)と言われることがある。③SOGIハラスメント性的指向・性自認についてのハラスメントを言う。SOGIというのは英語の性的指向・性自認の頭文字を取った言い方である。今まではレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取ってLGBTハラスメントと言われることが多かっ
たが、最近ではSOGIハラスメントと言われることが多い。SOGIハラスメントには、「ホモ」「レズ」などと言って相手を侮蔑するLGBTに対するハラスメントだけでなく、「あいつホモじゃないか」というようなLGBTの憶測なども含まれる。また他人が本人の同意なくSOGIを暴露する行為(アウティング)もハラスメントとなる。最近の例では、2017年末に東京都国立市がアウティングを禁止する条例を制定し、2020年6月に三重県がアウティングを禁止する条例を制定する方針を表明するなどの動きも広がっている。SOGIハラスメントについては、2016年に男女雇用機会均等法のセクハラ防止指針が改正され、LGBT社員の意に反する性的な言動がセクハラに含まれることが明記された。またパワハラ防止法の指針でも、パワハラの例として「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと」などが挙げられた。これらによって事業主はSOGIハラスメントの防止と対応が義務付けられている。④カスタマー・ハラスメントカスタマー・ハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先からのハラスメントのことである。クレーマー・ハラスメントと言うこともある。これには、カスタマー・パワハラとカスタマー・セクハラがある。カスタマー・ハラスメントと言われるのは、顧客や取引先という優位性(パワー)を背景にした言動によって受け手に大きな精神的苦痛を与えるからである。顧客については、飲食店や販売店などでは日常的に被害がある。駅員が乗客から怒鳴られているのを見た人も多いだろう。公務員が住民や政治家から無理な要求をされることも少なくない。また取引先については、相手が取引先であるがゆえに、会社は「取引先を怒らせてはいけない」との一言で対応しないことが多い。それどころか「怒らせたお前が悪い」となることもある。そのため被害者は行き場をなくし、時にはメンタル不調で苦しむ。取引先との懇親会などで取引先の社員から女性社員がセクハラを受けるケースも少なくない。女性社員は上司から「それくらい我慢しろ」と言われてさらに傷付く。中小企業の経営者も被害者になることがある。取引先の会社の担当者から怒鳴られたり、下請けとして過剰な取引条件を受けるように強要されたりして大きな精神的苦痛を受けるのがパワハラになることがある。最近の例で言えば、新型コロナによる強引な取引の打ち切りに伴う言動がパワハラに当たる例も少なくないだろう。このような顧客や取引先からの被害は経営者、管理職も含めあらゆる社員に及ぶ。中でも管理職は責任者として事態を収拾せよと言われて、部下を守らなくてはならず、しかし顧客や取引先を怒らせてはならずと大きなストレスを抱え込むことが多い。カスハラの被害は深刻である。2019年度の精神障害による労災申請で、「顧客や取引先から無理な注文を受けた」「顧客や取引先からクレームを受けた」という理由で労災支給決定を受けた件数は9件であったが、そのうち4件は自殺例(未遂を含む)であった。
最近は、直接の言動ではなく、ネットでの誹謗中傷などの被害も起きている。顧客が、応対した従業員をネットで誹謗中傷するのである。誤った情報でも、ネットではあっという間に情報が拡散し、書き込んだ側の主張が正しいと思い込まれてしまう。こうなれば事態は非常に深刻である。介護の現場での利用者によるハラスメントも深刻な問題になっている。2019年3月の調査報告書(三菱総研「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」)によれば、これまでに、介護サービスのうち、利用者からハラスメントを受けたという割合が最も多いのは介護老人福祉施設で、70・7%にも及んでいる。このように被害が深刻化しているにもかかわらず、パワハラ防止法はカスタマー・パワハラを事業主に対する措置の義務付けの対象にせず、指針において、単に雇用管理上の配慮が望ましいとしかしなかった。その理由は、顧客のクレームは、どこからが迷惑行為に当たるかの判断が難しいからという(2019年4月19日衆議院厚生労働委員会・根本匠厚労大臣答弁)。しかしクレームとして明らかに不当だとの判断ができないわけではないから根拠としては十分ではない。法律が事業主に対して措置を義務付けなかったとしても、第3章の会社の責任で述べるように会社には安全配慮義務といって社員の安全を守るべき義務がある。会社はカスタマー・パワハラの加害者に対しては毅然と対応し、社員の安全を守らなくてはならない。カスタマー・セクハラについて男女雇用機会均等法は、事業主に自社の社員が顧客や取引先からセクハラ被害を受けたときの雇用管理上必要な措置を義務付けている。つまり、他社の社員から受けた自社の社員のセクハラ被害には、他社に対して調査を求めるなど必要な措置をとらなければならない。また2019年5月の男女雇用機会均等法の改正で、事業主は自社の社員が他社の社員にセクハラをしたときには、他社が行う雇用管理上必要な措置に協力すべき努力義務も規定された。つまり、自社の社員が他社の社員に対してセクハラをしたときには、他社の調査などに協力しなければならないのである。なお巻末の判決例1‐⑦は、小学校の教諭が保護者から受けたクレームへの校長の対応が教諭に対するパワハラとされたケースである。⑤就活ハラスメント就活ハラスメントとは、主に学生の就職活動において、採用する側の会社の社員が、優位性(パワー)を背景にした言動によって学生に対して身体的・精神的苦痛を与えることである。就活ハラスメントは、社員が社員以外の相手にハラスメントをする場合である。このような社員以外の相手に対する例は他にも多くある。取引先の社員やフリーランスなどに暴言や威圧的なことを言う場合も相手は社員以外なので同じである。前述のカスタマー・ハラスメントは、加害者側の会社から見ると、社員以外の相手に対するハラスメントである。就活ハラスメントにも、就活セクハラと就活パワハラがある。就活ハラスメントにも悪質なものが多い。2019年2月には、大手ゼネコンの社員が
OB訪問に来た女子学生にわいせつ行為をしたとして逮捕されたという事件があった。これは犯罪なので論外であるが、面接時に、「彼氏はいるか」とか「結婚、出産したときはやめるのか」などの質問をするというのも就活セクハラとしてアウトである。就活については、内定先から就活をやめるように強要されるという終われハラスメント(オワハラ)もある。このように就活ハラスメントについてはさまざまな被害例があるが、パワハラ防止法はこれも社員間のことではないとして就活パワハラを義務付けの対象からはずした。カスタマー・パワハラと同様、指針で、雇用管理上の配慮が望ましいとだけしかしなかったのである。就活ハラスメントやフリーランスに対するハラスメントの被害者は個人であり、会社に所属していない。このことで別の問題がある。それは、被害者が会社に所属する場合は、会社が前面に立って加害者が所属する会社に調査や処分を求めることができるが、就活生やフリーランスは企業に所属していないので個人でやるしかない。いわば孤軍奮闘しなければならないということだ。このような就活生やフリーランスのことを考えると、加害者が所属する会社に、被害者に対して必要な対応をするよう法的に義務付けなければ被害はいつまでたってもなくならないだろう。⑥アカデミック・ハラスメントとスクール・ハラスメントアカデミック・ハラスメント(アカハラ)とは、大学などの教育研究機関において、教員と学生間などの教育あるいは研究において優位な立場にある者によるハラスメントを言う(井口博・吉武清實『アカデミック・ハラスメント対策の本格展開』高等教育情報センター・2012年)。パワハラは職場における優位性であるのに対し、アカデミック・ハラスメントは教育研究における優位性であることに違いがある。このアカデミック・ハラスメントも大学などが規程を作ってその防止体制を整えているが、なかなか対策が進まない。とりわけ学生が被害者の場合には、声を上げると就職に不利になるとか、4年間辛抱すればよいなど、職場とは違う心理が働くことが対策を遅らせる原因のひとつとなっている。スクール・ハラスメント(スクハラ)は、主に小学校、中学校、高校などの教員による児童や生徒に対するハラスメントを言う。スクール・セクハラの現状と対策については、私も寄稿している内海﨑貴子ほか『スクール・セクシュアル・ハラスメント』(八千代出版・2019年)に詳しい。部活動などでスポーツ指導者や先輩による体罰などのパワハラもたびたび起きており、その都度大きな社会問題として取り上げられている。この背景には部活動での勝利至上主義や旧態依然とした先輩後輩の序列主義がある。この種のハラスメントは学校関係者らがこのような背景を主体的に変えていこうとしない限り減ることはないだろう(山田ゆかり『子どもとスポーツのイイ関係』大月書店・2019年)。
⑦ソーシャル・ハラスメントSNSなどのソーシャル・メディアを使った誹謗中傷などのハラスメントをソーシャル・ハラスメント(ソーハラ)と言う。いわゆるネット中傷である。ネット中傷として特にSNSによる被害が増えており、前述の木村花さんの事件をきっかけにSNSによるネット中傷についての対策がとられようとしている。しかしネット中傷に対しての被害回復の方法は簡単ではない(詳しくは第10章参照)。ネット中傷には、部下から管理職への中傷だけでなく、顧客からの中傷も少なくない。これは先に述べたカスハラのひとつである。ネット中傷のもうひとつの特徴は、会社が標的になることが多いことである。その意味では会社も被害者となるハラスメントと言ってよいだろう。私はネット中傷の法律相談を受けることも多い。相談内容としては発信者の特定を依頼されることが多いが、特定手続以前に、その書き込みが違法かどうかという判断に迷うことも少なくない。医師から相談を受けたケースで、以前診察をした患者が、「医師の対応が不親切だった」とネットに書き込んでいるが、事実無根だという相談だった。しかし対応が不親切かどうかというのは、レストランの料理がおいしかったかどうかと同じように、その人の感じ方に関わることなので、その書き込みを事実無根と断定することは難しい。私はその医師に、名誉毀損と言えるかは微妙であることを伝えて発信者の特定手続はとらなかった。ただこのような書き込みには書き込まれた側の反論を掲載するのが公平と言うべきだろう。ネット関連では、上司から部下へフェイスブックでの友達申請の承認を強要するといったハラスメントもある。⑧レイシャル・ハラスメントレイシャル・ハラスメント(レイハラ)とは、人種、民族、国籍などを理由とするハラスメントを言う。肌の色やルーツについての差別的な言動も含まれる。欧米はこの差別問題に非常に敏感である。2017年に法務省が発表した在留外国人を対象とした「外国人住民調査報告書」によると、過去5年間に差別的なことを言われた経験が「よくある」「たまにある」と回答した人が29・8%もいて、言われた相手は「見知らぬ人」が53・3%であるが、「職場の上司や同僚・部下、取引先」も38%あった。日本でも最近は外国人労働者の受入れが多くなっている。外国人の文化や風習についての理解がないと、このハラスメントは防げない。これからの経営者や管理職は特に、多様な文化、習慣の理解と認識が必要となってくる。⑨その他のハラスメントこれら以外には、モラハラ、テクハラ、アルハラ、ハラハラなどがある。モラハラ(モラル・ハラスメント)は、会社や家庭などでの主に言葉による精神的な暴
力のことを指す。会社ではパワハラに含まれることが多い。家庭内では夫婦間での乱暴な言動、無視などが代表例である。テクハラ(テクノロジー・ハラスメント)は、パソコンやスマホなどのITの知識のない相手に対してわざと使い方を教えなかったり嘲笑したりするハラスメントである。例えば上司がパソコンの使い方をよく知らない部下に、「こんなことも大学で教わらなかったのか」と言ったり、逆に部下がITにうとい上司に、リモート会議のやり方をわざと教えなかったりするのがこれに当たる。アルハラ(アルコール・ハラスメント)は飲酒の強要である。会社の新入社員歓迎会や懇親会などで起こることがある。無理な飲酒が急性アルコール中毒を引き起こし死亡することもあるので、このようなことは決してしてはならない。これら以外にもハラスメントと名付けられたものが多くある。ただ、中には単なるマナー違反をハラスメントと名付けているだけのものもある。何でもかんでもハラスメントとして主張することをハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)と言う。何でもハラスメントとするのは、かえって相手とのコミュニケーションを取りづらくしてしまう。嫌なことをとにかくハラスメントと名付ければよいということではない。
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