まえがき本書は 、 2 0 0 5年 1 1月に上梓された 『 [新版 ] M B Aクリティカル ・シンキング 』をベ ースに加筆修正を加えた改訂 3版である 。旧版の発売は 2 0 0 1年 3月であるから 、 1 0年余りの間 、この 『 M B Aクリティカル ・シンキング 』は 、日本のビジネスパ ーソンの間で読み継がれてきたことになる 。新版と旧版あわせて 2 6刷を重ね 、およそ 2 0万人に読まれたベストセラ ーである 。元来 、我々グロ ービスで提供するクラスの中で 「クリティカル ・シンキング 」が生まれたきっかけは 、経営教育を実践していく中で多くのビジネスパ ーソンに共通する弱点があるという問題意識であった 。グロ ービスでは 、 1 9 9 2年の創立以降 、スク ールや企業研修を通じて 、 「マ ーケティング 」 「アカウンティング 」 「ファイナンス 」といったマネジメントに必要な知識体系を学ぶ機会を提供してきている 。クラスでは 、ある企業が実際に置かれた状況を書いた 「ケ ース 」を題材とし 、受講者が 「自分がマネジメントならどうするか 。それはなぜか 」をディスカッションしながら学ぶ 「ケ ース ・メソッド 」という学習方法を主に採用している 。ここで有効な議論を行い 、学びの効果を最大化するには 、単に理論や事例に関する知識を持つだけでなく 、状況を的確に把握し 、問題の本質を見つけ出す論理的思考力が重要になる 。また 、そうした思考の結果や過程を他人にわかりやすく伝える力や 、自分と異なる意見に接したときにその違いがどこから生じたのか客観的に見分ける力も重要である 。しかし 、暗記を中心とした日本の学校教育の影響からか 、優秀なビジネスパ ーソンであっても上記で述べた思考力を弱点としている人が非常に多いことが 、クラスを運営していく中で如実に感じられた 。こうした問題意識から 、 「ビジネスパ ーソンに必要な 、ビジネスの現場で本当に役に立つ思考力とは何か 」を模索し 、開発を進めてきたのが 「クリティカル ・シンキング 」である 。コンピュ ータにたとえると 、 「マ ーケティング 」 「ファイナンス 」といった通常の M B Aカリキュラムの知識は 、ビジネスリ ーダ ーとして活躍するうえでの O S (オペレ ーティング ・システム )にあたる 。しかし 、いかに優れた O Sを搭載していても 、それを動かす C P U (中央演算装置 )のパワ ーがなければ高いパフォ ーマンスをあげることはできない 。その C P Uにあたるのがクリティカル ・シンキングだ 。ビジネスにおいて 、知識 、理論を学ぶことももちろん重要だが 、学んだ知識 、理論を現実の個別具体的な状況にどのように適用するかについては 、自分自身の頭で考え判断するしかない 。我々は 、クリティカル ・シンキングのクラスに対する衰えぬニ ーズからも 、 「考える力 」の重要性を痛切に実感している 。今回の改訂にあたっては 、こうしたニ ーズの強さに応えるために 、ビジネスパ ーソンが日々直面するさまざまな場面において 、より実践的なものとなることを心がけた 。 『 [新版 ] M B Aクリティカル ・シンキング 』に寄せられた読者の声や 、大学院 、企業研修における受講者の意見 、反応も 、参考にさせていただいた 。主な改訂点は 、従来の版から章立てを入れ替え 、大きく 「論理の構造化 」と 「分析 」の 2部構成とした点だ 。第 1部の 「思考をまとめ 、メッセ ージをつくる 」では 、あるイシュ ーに対してどういう意見を持っているか 、一定の筋道とまとまりを持って組み立てるための考え方について解説している 。第 1章 「大きな論理の構造をつくる 」で考え方の全体像を示し 、第 2章 「論理展開 」では適切な論理展開とはどういうものかについて述べている 。第 1章内のピラミッド ・ストラクチャ ーに関する部分や第 2章は 、新版の内容を踏襲しているが 、第 1章の 「何を考えるべきか :イシュ ーと枠組み 」は 、今回大幅に加筆した部分である 。第 2部の 「状況を分析する 」では 、自らを取り巻く現実について 、一面的 、表面的になることなく 、背景までも含めて的確に把握し 、深い洞察を得るための考え方について解説している 。第 3章 「現状を把握する 」では現実のありようをいかに把握し解釈するか 、第 4章 「因果関係 」ではその現実をもたらした背後関係も含めていかに構造的に把握するかについて 、基本となる考え方を示している 。特に第 3章は 、新版でも触れられていた 「 M E C E 」の考え方に加え 、 「どういう視点で分解するか 」 「分解したものをどういう点に着目して解釈するか 」について新たに加筆している 。代わりに 、新版には記述のあった 、経営学で出てくる各種フレ ームワ ーク 、ロジックツリ ー 、問題解決のステップといった点は 、他分野の書籍でも詳述されており 、多くのビジネスパ ーソンにとってはすぐ明日から使わなくてはならないわけではない等の理由で 、省略するか 、あるいはわずかな記述にとどめた 。また 、今回新たに 「補論 」として 「仮説と検証 」に関する解説を追加した 。これも 、より実践的にビジネスシ ーンで求められる頻度の高い思考という趣旨で 、別途 1章を設けて論じたものである 。このような構成面の変更だけでなく 、本文中で使用しているケ ース 、事例 、演習について 、話題が古くなったものはより現代の感覚に添うものに差し替えている 。特に各章冒頭のケ ースおよび各章最後の演習問題は 、すべて新しいものに書き換えた 。最後に 、本改訂版を執筆するにあたってご協力いただいた方々に感謝を述べたい 。本書の内容は 、日夜 、スク ールや研修で開催されるクリティカル ・シンキングのクラスでの真剣な議論の上に磨かれたものである 。これまで関与された全ての講師 、受講生 、運営スタッフの方々に感謝したい 。また 、ダイヤモンド社の D i a m o n dハ ーバ ード ・ビジネス ・レビュ ー編集部の木山政行副編集長には 、全般にわたって様々なアドバイスをいただいた 。この場を借りて改めて感謝を申し上げる 。本書が 、 1人でも多くの方に読まれ 、実際に参考にしていただけたら 、著者としてこれ以上の喜びはない 。グロ ービス経営大学院
目次グロ ービス M B Aクリティカル ・シンキング [改訂 3版 ]まえがき目次序章クリティカル ・シンキングの要素と考える基本姿勢クリティカル ・シンキングとは 1考えることの重要性考え方を振り返る 2クリティカル ・シンキングとは何かクリティカル ・シンキングの重要性クリティカル ・シンキングでチャンスをつかむ C o l u m n :クリティカル ・シンキングとロジカル ・シンキング 3クリティカル ・シンキングの 3つの基本姿勢 4クリティカル ・シンキングの 3つの方法論第 1部思考をまとめ 、メッセ ージをつくる第 1部のはじめに第 1章大きな論理の構造をつくる ( 1 )大きな論理の構造 1大きな論理の構造とは 2論理の構造をつくるためのステップと 「ピラミッド ・ストラクチャ ー 」ピラミッド ・ストラクチャ ーを用いて 「論理の構造 」をつくるメリット ( 2 )何を考えるべきか :イシュ ーと枠組み 1 「イシュ ー 」を考え 、特定するイシュ ーはなぜ重要かイシュ ーを押さえ続けるイシュ ーは具体的に考える C o l u m n :イシュ ーを適切に設定する 2 「枠組み 」を考える枠組みはなぜ重要か 「抜け漏れ 」がない枠組みを考えるイシュ ーにダイレクトな枠組みを考えるコミュニケ ーションの場面では 、相手の関心に沿った枠組みにする ( 3 )論理的に考えるための道具 :ピラミッド ・ストラクチャ ー 1論理を構造化する手法 :ピラミッド ・ストラクチャ ーピラミッド ・ストラクチャ ーと文章 2論理をピラミッド型に構造化するステップステップ ❶ :イシュ ーを特定するステップ ❷ :論理の枠組みを考えるステップ ❸ 1 : S o w h a t ? (だから何 ? )を問いかけ 、メッセ ージを抽出するステップ ❸ 2 : W h y ? T r u e ?を問いかけ 、論理が成立しているかチェックする 3ピラミッド ・ストラクチャ ーの文章化 4大きな論理の構造をつくるための 「要諦 」言葉の定義を明確にする手と目を動かして 、何度もつくり直しながら考える
( 4 )演習問題第 1章のまとめ第 2章論理展開 ( 1 )演繹的思考 ・帰納的思考 1論理展開のパタ ーン論理展開を正しく行うことのメリット 2演繹法結論を導き出す :演繹法 C o l u m n :包含関係と必要条件 ・十分条件 3帰納法結論を導き出す :帰納法 4演繹的思考と帰納的思考の関係 5論理展開を分析する ( 2 )論理展開のチェックポイント 1間違った情報 2隠れた前提 3論理の飛躍 4ル ールとケ ースのミスマッチ 5軽率な一般化 C o l u m n : 「抽象的 」の罠 6不適切なサンプリング C o l u m n :論理展開のクセ ( 3 )演習問題第 2章のまとめ第 2部状況を分析する第 2部のはじめに第 3章現状を把握する ( 1 )現状を把握するとは何か C o l u m n :アウトプットからインプットをさかのぼる ( 2 )現状を把握する際の基本動作 1基本動作 ❶ :構成要素に分解する M E C E :モレなくダブりなく C o l u m n :さまざまな切り口の考え方切り口と切り方切り方を考える際の注意点 2基本動作 ❷ :分析対象を多面的にとらえる C o l u m n :感度のよい切り口 ・切り方 3全体と構成要素それぞれの特徴 ・傾向をつかむための視点視点 ❶ :全体の構成と 、構成要素のバラつき度合いを把握する視点 ❷ :インパクトの大きさを考える視点 ❸ :比較して 、差分を見つける視点 ❹ :法則性と特異点 ・変曲点を見つける C o l u m n :分析思考と統合思考 ( 3 )演習問題第 3章のまとめ第 4章因果関係 ( 1 )因果関係の把握 1因果関係を把握する 2因果関係とは何か因果関係と言える条件因果関係を見極める——推量 ・類推の重要性 3因果関係を考えるステップステップ ❶ :考えられる要因を具体的に洗い出す
ステップ ❷ :原因をさらに問い続けるステップ ❸ :因果の構造をとらえる因果の構造化の留意点 4好循環と悪循環悪循環を好循環に変える C o l u m n : 5回の 「なぜ ? 」を繰り返せ C o l u m n :因果関係を構造的にとらえることの難しさ ( 2 )因果関係を正しく紐解くためのポイント 1直感による判断 2第 3因子の見落とし 3因果の取り違え 4最後の藁スキ ーマ——4つの錯覚に共通する要因目的と手段とは 5真の目的が共有されない 6手段の目的化 7予期せぬ副作用 C o l u m n :因果関係を証明する難しさ ( 3 )演習問題第 4章のまとめ補論仮説と検証 1仮説とは仮説の定義論理構造 ・分析における仮説の位置付け 2仮説を立てる仮説 ・検証のステップ考えるうえで仮説を立てることの効果 3よい仮説をつくるために何が必要か 「よい仮説 」とは 「よい仮説 」をつくるために 「よい仮説 」をつくる環境をいかに整えるか 4検証の注意点 C o l u m n :仮説検証と企業戦略第 3部ケ ーススタディ (総合演習 )あとがき参考文献
C A S E N S社という中堅のオフィス機器販売会社で 、営業部長会議が開催されていた 。会議の議長は取締役執行役員営業本部長の芹田宗治 。出席者は 3つの地域別営業部長 (東日本 、中部 、西日本 )各 1名 、および本部営業サポ ート部長 1名の計 5名である 。今日の議題は 、 「新年度の営業戦略 」である 。 3年前に訪問件数を増やすことを経営判断し 、昨年まで対前年比 2 0 %増 、それに伴い業績も順調に進展してきたが 、今年は訪問件数が昨年から 5 %程度しか増えておらず 、業績もほぼ横這いであるため 、新年度にどうテコ入れを図るか具体的施策を議論することが主題であった 。業績が思うように伸びないこともあって 、出席者同士の挨拶もそこそこに 、重苦しい雰囲気のなか 、会議が始まった 。まず口火を切ったのは中部営業部長の小林久恵である 。 「うちの管轄での訪問件数の状況は順調で 、だいたい昨年対比で 2 0 %増えています 。ほかの地域を見ると相当苦戦しているようですが 、何が難しいのでしょう ? 」若干の苛立ちを見せながら 、東日本営業部長の平山俊哉が口を開いた 。 「中部以外は苦戦しているんだよ 。打開策を議論する必要があるんだ 」平山に被せる形で 、西日本営業部長の森本剛も話し始めた 。 「営業訪問先での滞在時間が長いのが問題だ 。 1社ずつの面談時間を短くできるようにすることがカギなのでは … … 」 「面談効率を高めるのに賛成だね 。若手のほうが実は訪問件数を伸ばしている 。一方で 、シニアの営業部員の実績は概ね横這いだ 。このあたりに何らかの解決の糸口があるように思うのだが … … 」 2人にペ ースを握られてはならないと 、小林も負けずに応じた 。 「うちの部では 、むしろ難易度の高い案件でのシニアの活躍が目立ちます 。一概に若手のほうがよいというのは若干乱暴なのでは ? 」森本は理解のあるところを見せて 、こう返した 。 「なるほど 。では 、面談時間短縮を図るために提案内容を事前にしっかり固めておくことと 、難易度に応じた担当設定 、といったところかな 。この 2つは間違いなく訪問件数を伸ばすのに効きそうだね 」その後も出席者の主体的な議論が行われたが 、その最中 、営業本部長の芹田は難しい表情で腕組みをしていた 。ひとしきりの議論が終わった後 、こう呟いた 。 「で 、君たちの議論の結果は 、面談効率を高めるための提案内容の高度化 、それから 、難易度に応じた担当設定の 2つ 、ということでいいのかな ? 」 「うちの管轄でもその 2点に注力していますので 、ほぼ問題ないかと 」 「地域ごとの特性を踏まえてよりきめ細かい対応をすべきとは思いますが 、基本的には提案内容をしっかり考えてから訪問することで 1件当たり面談時間を短縮することと 、担当者設定の工夫の 2点を共通課題としてとらえてよいのではないでしょうか 」 「積極的な議論は素晴らしいが 、いずれも担当者の工夫レベルの話だ 。営業部長の君たちが主体となって議論すべき点はもっとほかにあるのではないかな 。本来の目的を考えれば 、たとえば 1社当たりの受注金額を伸ばせるのか 、といった点もポイントになるだろう 」
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