【PART1】CORPORATESTRATEGY 強い会社は、自社の「立ち位置」が見えている《企業戦略》
持続的に企業を成長させるための「企業戦略」の立て方どの事業領域で経営を展開すべきか企業戦略は「経営資源の配分」、事業戦略は「経営資源の活用」企業戦略は5ステップで考える
ステップ①企業理念社会にどのような価値を提供するのか企業としての「価値観」を明確にする「同じ業界」にいても「競合」とは限らないステップ②現状分析企業を取り巻く大きな変化は何かマクロな視点での環境分析が求められるステップ③企業目標計画期間内にどこを目指すのか経営は「サイエンス」と「アート」の融合「目標設定」の意味合いは状況によって変わるステップ④事業領域どのような顧客に、どのようなソリューションを提供するか製品・市場マトリックスで事業領域が見える事業領域はどのような状況にあるか市場開発・製品開発・多角化グローバル展開は「2段階スクリーニング」で考える事例:Nestleのグローバル展開評価項目の選別方法ステップ⑤資源配分ヒト・モノ・カネをどう配分するか企業戦略の締めくくりが「資源配分」「製品」ではなく「SBU」を単位とするボストン・コンサルティングが開発したPPMの4象限Y軸とX軸を比較するPPMに対する批判COLUMN2経営戦略にも条件適合的なアプローチが必要
CORPORATESTRATEGY持続的に企業を成長させるための「企業戦略」の立て方≫どの事業領域で経営を展開すべきか経営戦略という言葉を聞くと、特定事業における収益向上のためのビジネスモデルを考えたり、競合他社とどのように競争するかという具体的な施策を考えることというイメージをお持ちの方も多いでしょう。もし、みなさんの会社が一事業のみの専業メーカーや比較的規模の小さいベンチャーのような会社だったら、まさに経営戦略とは特定事業の戦略を検討することを意味します。しかし、みなさんの会社が複数の事業から構成されている場合は、各事業の具体策を考える前に、それぞれの事業にどのようにヒト・モノ・カネという経営資源を配分すべきかを考えなくてはなりません。持続的に企業を成長させるために、どのような事業領域で経営を展開すべきかを考えておく必要があります。このように企業全体を単位に成長領域の選択とその領域間での資源配分をテーマとする経営戦略を企業戦略(corporatestrategy)と呼ぶのに対して、企業に含まれる特定の事業の競争優位性と収益性の拡大をテーマにした経営戦略を事業戦略(businessstrategy)といいます。まずは、企業戦略と事業戦略の関係を本質的な視点で考えてみましょう。≫企業戦略は「経営資源の配分」、事業戦略は「経営資源の活用」企業戦略とは、企業の置かれた経営環境(environment)と自社がそれまでに構築してきた経営資源(assets)をベースに、企業が社会に提供する価値や社会的役割としての企業理念(corporatemission)を認識し、中長期的に達成しようとしている目標(goal)やそれを実現していくための大まかな成長方向としての事業領域(domain)とそこに含まれる戦略立案の単位となる事業(SBU)を定義すること、そして、そのうえでSBUに資源を最適配分しながら経営資源を拡大していくプロセスと考えられます。ここでのSBU07とは特有の競合と顧客が存在しており、独自の戦略を立案する必要のある、単一もしくは、複数の事業の集合体と考えてください。07SBU:StrategicBusinessUnit。特有の競合と顧客が存在しており、そのため独自の戦略と責任者を擁している、他の事業単位から比較的独立した単一もしくは、複数の事業の集合体。この企業戦略に対して事業戦略は、投入された経営資源(assets)を事業(business)ごとに展開して、競争優位の構築と市場における需要の充足(顧客に対する問題解決)を果たしながら、収益、利益を実現し、究極的には、経営資源を拡大していくプロセスと考えられます。単純に表現すると企業戦略が「経営資源の配分」であるのに対して、事業戦略は「経営資源の活用」です。≫企業戦略は5ステップで考える企業戦略は、時として成長戦略とも呼ばれます。企業の成長とは、成長する事業に積極的に経営資源を配分することにより、「経営資源のさらなる充実を図るプロセス」と考えることができます。これを経営の立場で表現すると、まず、自身の経営理念、企業の置かれた経営環境、そして自社の経営資源を基に、企業としての理念を定義し、中長期的に達成しようとしている目標(goal)、そしてそれを実現していく大まかな成長方向としての事業領域(domain)と、そこに含まれる戦略立案の単位となる事業(SBU)を決めます。さらに、各SBUの状況をふまえSBU間での経営資源配分を行うわけです。
私は、企業戦略を策定する際、次の5つのステップで考えるようにしています。ステップ①:企業が社会に提供する価値や社会的役割としての企業理念を確認する。ステップ②:企業の置かれた経営環境と自社がこれまでに構築してきた経営資源を分析する。ステップ③:企業理念と現状分析を基に、中長期的に達成しようとしている成長目標を確認する。
ステップ④:企業理念や成長目標を実現していくための活動領域である事業領域と、そこに含まれる戦略立案の単位となる事業(SBU)を設定する。ステップ⑤:事業領域に含まれる事業(SBU)に適切に資源配分する。これから、それぞれのステップごとに、留意点を中心にコメントしていきます。
ステップ①企業理念CORPORATESTRATEGY社会にどのような価値を提供するのか≫企業としての「価値観」を明確にする企業理念とは社会に対して提供する価値であり、今後とも守っていくべき社会的役割、企業としての「価値観」と考えられます。そもそもなぜ、経営戦略の立案は、企業の理念の確認からスタートすべきなのでしょうか?それは、企業としての価値観がはっきりしていないと、次のステップで行うべき経営戦略の構成要素の選択がブレてしまうからなのです。例えば現状分析ひとつをとってみても、理念がはっきりしていないと、調査対象に関する境界線が非常にあいまいになってしまいます。ご参考までに、比較的みなさんにとってもなじみのある企業の「価値観」を凝縮したメッセージを下記に列挙してみました。“InspiretheNext”(Hitachi)“BeMoved”(Sony)“Orchestratingabrighterworld”(NEC)“ThePowerofDreams”(Honda)“EmotionalEngineering”(BMW)“ZoomZoom”(Mazda)“InnovativeandPracticalSolutions”(3M)“InnovationforCustomers”(NittoDenko)≫「同じ業界」にいても「競合」とは限らない例えばソニーの“BeMoved”には、「人々が夢中になれる感動を生み出したいという願い」が込められているそうです。日立のメッセージは、“InspiretheNext”であり、これは、「次なる世代の社会インフラにイノベーションの息吹を与えていく」と解釈できるのではないかと思います。また、NECの場合は、「インテグレーターとして、いろいろなパートナーや顧客と“協奏”しながら、明るい世界を実現していく」という意味で、事業領域はICT08やDXの世界展開です。08ICT:InformationandCommunicationTechnology(情報通信技術)。テクノロジー業界にいる上記3社ですが、目指すべき方向性はかなり異なります。したがって競合分析の対象も異なってきます。まず、ソニーの場合は、「夢中になれる感動の創出」がミッションですので、ベンチマーク調査の対象としては、間違いなく任天堂や、マイクロソフトのXboxなどのゲーム機メーカーが含まれると考えられます。それに対して“InspiretheNext”の日立の場合は、業界で最先端のテクノロジー開発をしている企業が競合分析の対象になるのではないかと思います。情報社会を土俵とするNECにとっては、直接競争する戦略を採用するかどうかは別として、IBMやアクセンチュアが競合分析の対象になるでしょう。ベンチマークとして選択した競合と直接競争する戦略を採るかどうかは、また次元の違う判断です。要は、企業としての価値観が不明確なまま現状分析をしようと思っても、調査対象とすべき顧客や市場、競合や業界の線引きができず、そのため分析もあいまいなものにならざるをえないということです。
ステップ②現状分析CORPORATESTRATEGY企業を取り巻く大きな変化は何か≫マクロな視点での環境分析が求められる企業戦略におけるアウトプットは、前述の通り、事業領域を定義して、そこに含まれる戦略立案の単位となる事業(SBU)を明確にし、そのうえで事業間での適切な資源配分を行うことです。企業戦略立案に際して求められる現状分析は、顧客市場の今後の成長性、競合他社との比較による自社の相対的な優位性、市場の成長に影響を与えるマクロ環境などです。また、現状分析に関する留意点として、過去(past)から現在(present)、そして現在から将来(future)の3つの時点での変化を考えることが重要です。大きな分析の枠組みは、事業戦略で求められる顧客・市場(customers)、競合・業界(competitors)、自社資源(company)、そしてマクロ環境(context)の4つのC分析と同じです。しかし、事業戦略では、競合他社に対する具体的な優位性の維持・拡大、顧客市場に対するソリューションの提供を検討する必要があり、分析のレベルという点では、より詳細なものが求められます。ちなみに、マクロ環境分析には、政治(politics)、経済(economy)、文化・社会(society/culture)、技術(technology)、環境(environment/ecology)、法律(law/regulations)が含まれます。一般的には英語の頭文字をとって、PESTELと呼ばれています。これらは、社会の根底に流れる大事な要素として、context(文脈)と呼ばれます。マクロ環境分析=context=PESTELです。分析の流れとしては、4C分析を行ったあとで、コントロール可能で+(プラス)に作用する要素としてS(強み/Strengths)、コントロール可能で−(マイナス)に作用する要素としてW(弱み/Weaknesses)、コントロールが不可能で+に作用する要素としてO(機会/Opportunities)、コントロールが不可能で−に作用する要素としてT(脅威/Threats)の4つのカテゴリーにまとめる、いわゆるSWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析を行います。4C分析の詳細については、後ほど2章で解説する現状分析のフレームワーク〔*〕をご参照ください。
ステップ③企業目標CORPORATESTRATEGY計画期間内にどこを目指すのか〔*〕
≫経営は「サイエンス」と「アート」の融合SWOT分析の実施により、計画期間内における企業目標(現実的で、かつ、具体的なレベル)の設定が可能になります。市場の規模と成長性がある程度把握でき、競合他社に対する自社の相対的優位性が、分析結果から明らかになっています。企業理念や各事業から上がってくる計画目標なども参考にしながら、企業目標を設定します。目標は、売上高、利益額、市場シェア等の数字で測定可能な指標で設定してください。同時に目標は明確であればあるほど、やる気がわいてくるというものです。また、もちろん、達成可能なレベルでないといけませんが、「そう簡単ではないけれど、やってできないというレベルではない。やってやろうじゃないか!」と感じられるレベルが理想です。このあたりは、経営がサイエンスとアートの融合と言われるゆえんだと思います。≫「目標設定」の意味合いは状況によって変わる企業を取り巻く経営環境が安定しており、今後の将来予測が比較的容易で、かつ企業側の積極的な働きかけによって市場、競合、制度や法律などを比較的容易に変えられるような状況において戦略を検討する場合と、環境変化が激しく、予測可能性が低く、かつ、企業側の働きかけによって市場や競合等に影響を及ぼすことのできる余地がほとんどないような場合では、目標をはじめとする戦略構成要素を事前に策定することの意味合いが大きく異なってきます。
将来を予測することが容易で、対環境相互作用性が高い場合には、目標は、経営を実践していくためのガイドラインであり、守るべきものであり、統制のベースになるものとしての役割が期待されます。
環境予測可能性が低く、対環境相互作用性も低いような場合は、目標は試行錯誤しながら仮説を検証していくためのひとつの指標という意味合いで設定されるべきです。守ることよりも、環境の変化に柔軟に対応することを最優先に考えて、当初のアイデアを修正して、より良い戦略にしていくためのたたき台的に捉える必要があります。〔*〕コラム「経営戦略にも条件適合的なアプローチが必要」もご参照ください。ステップ④事業領域CORPORATESTRATEGYどのような顧客に、どのようなソリューションを提供するか≫製品・市場マトリックスで事業領域が見えるさて、達成すべき目標が明確になったところで、今度はそれを達成するための土俵である、事業領域を設定します。事業領域は、どのような顧客や市場に対して、どのような製品やソリューションを提供するかという2軸で定義することができます。一般的には、製品・市場マトリックスを使って表現します。図10製品・市場マトリックス〔*〕
通常、横軸(X軸)に市場(お客様の集合体)、縦軸(Y軸)に製品(ソリューション)をとって現在の事業領域を表現します。セルのひとつずつが、事業ユニット(BU)ですが、このBUが単独で、もしくは複数統合されて戦略立案のベースになったものを戦略事業単位(SBU)と呼びます。≫事業領域はどのような状況にあるか図10では、A、B、Cの3つの戦略事業単位が存在していることが理解されます。この事業のポテンシャルを検討する際には、各SBUに含まれる個々のBU(製品・市場から構成される最小の事業単位)の市場規模を円の大きさで、各事業の市場の成長性を矢印の傾きで、そして、自社のシェア09をくさびで表現して評価することになります。09シェア:製品やサービスの市場占有率。実際のシェアがデータとして入手できない場合は、競合に対する自社の相対的優位性から推定。
以下のチャートでこの企業の事業領域の状況を考察してみてください。規模はおそらく十分あるものの、今後この領域で大幅に市場が成長するという期待はできません。しかし、あくまでも、現在の製品・市場領域でのシェアアップを図る戦略(これを市場浸透=marketpenetrationと言います)を推進するとしたら、どのような打ち手が考えられるでしょうか。競合企業の顧客を奪い取る戦略とか、現在の顧客が使用している製品の使用頻度アップや、一回あたりの使用量の拡大、さらには、既存市場の中でまだ使った経験のない非ユーザーの発掘等を実施していくことが必要になります。≫市場開発・製品開発・多角化一方、既存製品を新たな市場に投入することによって成長を試みる戦略を市場開発(marketdevelopment)と呼びます。例えば、いまある製品を今後成長が期待されるアジア新興国、南米、ロシア、アフリカ市場等に投入する戦略です。ここでの市場開発とは、地理的に新しい市場に打って出ることだけではなく、対象市場を、大企業、中小・零細企業、または、家庭にまで広げるような展開も含まれます。これに対して、既存市場に対して新製品を投入することによって成長を達成しようとする方向性を製品開発(productdevelopment)と呼びます。物理的な製品のみの販売に加えて、デザイン、サービス、コンサルティング等のソフトも加えて展開するという戦略も製品開発戦略と考えていただいて結構です。最後に、製品も市場も同時に新しくする、いわゆる多角化(diversification)です。多角化したからと言って、その市場でビジネスがすぐ軌道に乗るわけでもありませんし、当然、魅力的な市場であればあるほど、そこではより厳しい競争が想定されます。また、不確実性が
多いこともあり、多角化戦略が一番リスクの高い選択でもあります。市場浸透の事業を進めながらも、企業は成長を求めて市場開発、製品開発、多角化というさまざまな可能性を探索しながら実際の展開を図ることになります。事業はそれぞれ役割、リターン、リスクが異なるため、ヒト・モノ・カネといった資源配分も違ったものになってきます。よって、数に限りのある経営資源を複数の事業間でどのように配分すべきなのかということが次のテーマになります。
≫グローバル展開は「2段階スクリーニング」で考える図10〔*〕の製品・市場マトリックスを活用して海外市場での可能性を探索するとしたら、どのようになるのでしょうか。初めから全世界市場を対象に可能性を検討することは、あまり合理的な方法ではありません。私は、グローバル展開を検討する際には、2段階スクリーニング(絞り込み)をお勧めしています。まず、みなさんが提供したいと考えている製品やソリューションの普及率に強い相関関係のある指標を選び、その指標を用いて魅力のありそうな市場を5~10地域選択し、そのあとで詳細な評価項目で最終的な対象地域を選んでいくという方法です。一般的には以下のような評価の視点で海外市場の選択が行われると思いますが、みなさんはこれらの指標をどのように感じますか?①経済的富裕度②人口増加率③経済インフラ
④文化的類似性⑤地理的近接性⑥政治的リスクこうした指標はまとはずれということではないのですが、当たらずとも遠からず感があります。ひとつの事例をご紹介しましょう。≫事例:Nestleのグローバル展開ネスレは以前、インスタントコーヒー事業をグローバル市場で展開する際に、一人あたりのコーヒー消費量と全コーヒー消費に占める家庭用インスタントコーヒーのシェアを用いて、市場をいくつかのグループに分けてグローバル展開を考えていました。この手法によって、少なくとも、一人あたりのGDPなどの経済指標よりも格段に、当該事業に関する市場性を適切に評価できると思います。すなわち、対象となる製品やソリューションといかに相関の強い指標を選択するかが市場を検討するうえで重要となる、ということです。
≫評価項目の選別方法さて、もしみなさんの会社が食洗機のメーカーだとして、自社の製品を海外展開する際は、どのような指標で第一次スクリーニングをしたら良いと思いますか。私たちの調査では、少なくともGDPの伸び率や人口の伸長率などよりも、女性の就業率や世帯規模等の変数のほうが食洗機の普及率という目的変数には説明力が高い、という結果が出ています。このような要素をグローバル市場に関する評価指標として使い、効率的にポテンシャルの高い海外市場を絞り込んでいきます。ご参考までに、第一次スクリーニングで抽出された地域市場の中から、やや詳細な第二次スクリーニングを行う際に使う評価項目(例)を載せておきます〔*〕。
ヒト・モノ・カネをどう配分するか≫企業戦略の締めくくりが「資源配分」いよいよ企業戦略の締めくくり段階です。すでに製品・市場マトリックスによって、自社の土俵としての事業領域が定められています。その次にくる資源配分のステップでは、すでに明確になっている事業領域の中のどの事業(SBU)にどの程度のヒト・モノ・カネという有限で貴重な経営資源を配分したら良いかを決めることがテーマになります。固い表現をすると、個々のSBUに対する適切な投資水準を決定することとなります。それはすなわち、どのSBUへの資源供給を抑制し、どのSBUへ資源供給を促進するかを決定することと言っても良いかと思います。≫「製品」ではなく「SBU」を単位とするこのステージで使われるツールがPPM(いわゆる「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」、直訳すると「製品を組み合わせて管理する」)です。「製品」と言いましたが、原則、単位は独立した事業としてのSBUと考えてください。一定の資源を裁量下に置き、利益センター10として、利益を追求する単位でないと意味がありません。10利益センター:プロフィット・センター利益(収益-費用)を最大化することを求められている部門。いかにコストを抑えつつ良いパフォーマンスを出すかということについて責任を持つ。直接利益を生み出さない部門(コスト・センター)と区別される。資源を配分することがテーマですので、例えば、営業パーソンが複数の製品を担当しているような場合は、製品からすると営業パーソンという経営資源を共有していることになり、その状態で製品を単位に資源配分しても意味がないことは言うまでもありません。この資源配分はSBU間で行われることに注意してください。≫ボストン・コンサルティングが開発したPPMの4象限資源配分に使われるツールがプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)です。代表的なものにBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が開発したマトリックスがあります。これは、Y軸で市場の成長率を示し、X軸で事業の相対的シェア(自社のシェア÷最大の競争業者のシェア)を対数目盛りで表現し、この2軸の上にSBUをプロットするものです。SBUは以下の4つに分類されます。①問題児(ProblemChildren/QuestionMarks)相対的シェアを拡大するためにキャッシュの投入が必要となるSBU②花形(Stars)市場シェアが大きい分、キャッシュを生み出すが、市場の成長率も高いため、競争のコストもかかるSBU③金のなる木(CashCows)市場シェアが高く市場が成熟化しているため、安定した収益源となるSBU④負け犬(Dogs)すでに市場は成熟し、シェアも獲得できなかったSBUこのポートフォリオ・モデルは、金のなる木が生み出すキャッシュと負け犬を整理して得たキャッシュを、問題児のSBUに投入し、それを花形、さらには金のなる木に成長させるための投資決定を支援するものです。
≫Y軸とX軸を比較するビジネス・ポートフォリオには、定量的なBCGのモデルの他に、定性的なGE(ゼネラル・エレクトリック)のモデル、Y軸をプロダクト・ライフ・サイクル11(導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階)で表現するモデル等があります。11プロダクト・ライフ・サイクル:PLC。製品の発展やその製品を活用する市場にも、人間の生涯と同じようにサイクルがあることに着目して、ステージごとに製品の売り手や買い手の動向を整理した理論。製品が販売開始されてから販売終了に至るまで、導入期、成長期、成熟期、衰退期の段階を経ると考えられており、その間の製品に対す
る需要量はS字のカーブで変化するとされている。導入期:新しい製品を販売した直後は認知度が低く、単価も高いため、需要量は低い。革新的な買い手を対象とした高価格戦略が採られることが多い。成長期:一度認知され成長期に入ると需要量は急激に増加し、市場に参入する売り手が増加する。成熟期:需要量は頭打ちとなるものの、市場参入業者は多いままなので競争が激化する。衰退期:技術革新などのために衰退期に入ると需要量は減少し、売り手の数は急激に減少する。
それぞれのY軸とX軸の比較によって、PPMの本質がよく理解できます。どのモデルでもY軸は市場の魅力度を表現しています。具体的には、上にプロットされるSBUは基本的に魅力的な市場であり、したがって競争も激しく、投資が必要という解釈であり、下にプロットされるSBUは、市場の魅力度は低く、競争はマイルドになり、投資は控えて別の事業をサポートするという方向感になります。X軸については、左に位置づけられるということは、競争優位性が高い、シェアが高い、つまり規模の経済12や経験曲線効果13でコストが下がり利益を出しやすいということになります。右に位置づけられるということは、その逆で、競争優位性が低く、シェアが低いため、規模の経済や経験曲線効果が働かず、コストが高く利益を出しにくい状態になっていると考えます。たった2つの軸ですが、企業がポートフォリオとして手がけている事業の位置づけと役割を明確に方向づけることができます。12規模の経済:生産高が増えることにより固定費が分散されて、単位あたりのコストが下がるというメカニズムを指す。13経験曲線効果:経験と効率との間の関係を示す経験則である。単に経験効果とも呼ばれる。一般に個人や組織が特定の課題について経験を蓄積するにつれて、より効率的にその課題をこなせるようになることを指す。また累積生産量の増加に伴って、製品数量ごとの間接費を含めた総コストが予測可能な一定の割合で低下していくことを指す。作成テクニックとしては、まず、相対的なシェアの出し方に注意してください。相対的マーケット・シェアは、自社が1位の場合は「自社シェア÷2位企業シェア」で計算します。自社が2位以下の場合は、「自社シェア÷1位企業シェア」で求めることができます。さらに、相対的マーケット・シェアの軸は対数軸で表します。中央を1として、左端が10で、右端が0.1になります。次にY軸の中点ですが、各事業の平均成長率、成長率の最大値から最小値を引いて2で割って算出した数字や、資本調達平均コスト14を用います。最後に、その事業の現在の事業規模(売上)は、円の大きさで表現します。14資本調達平均コスト:企業の資金調達に伴うコストの平均。資金の調達には、銀行借入による負債と株式発行による資本の2つの形態がある。資本調達平均コストは加重平均資本コストであるので、仮にある会社の資本の構成が、負債100億円、株主資本200億円、資本総額300億円で、その負債コスト(金利)が1%、株主資本コスト(配当)が5%だと仮定すると、計算式は下記の通りとなる。(100÷300)×1%+(200÷300)×5%=3.67%実際には次のようなワークシートを活用することをお勧めします。
≫PPMに対する批判このPPMにはいくつかの批判も従来から寄せられています。例えば、次の通りです。・単純すぎて現実に則していない(事業の魅力度は成長率だけではない、競争優位性も市場占有率だけでは不十分)・新規事業開発が無視される・事業の相互関連性が見逃される・象限の呼び名が誤解をまねく・経営管理過程に組み込むには時間がかかる・経営計画部門において多大な陣容と権力の集中が起こる・PLCが必ずしも正しいとは限らず、時として企業努力によって市場を成長させることができる・低コスト化は経験曲線効果だけではなく、オープン・イノベーションなどによっても可能である・各事業間でのシナジー効果が配慮されていない中には言いがかりと感じられるような問題の指摘もありますが、資源配分の本質(つまり、どの程度のリターンが各SBUから得られるのかということですが)を考えて、有効に活用していただきたいと思います。例えば、市場の魅力度は一般的には規模、成長率、競争状況などで構成されますが、あまりにも市場規模にこだわりすぎると、いまの顧客や用途には使えなくても、まったく新しい顧客や用途には革新的な効用をもたらす技術を使うような事業が過小評価されてしまうという可能性もあります。その結果、大きな成長可能性を秘めた市場への参入が遅れてしまうことのないよう、大企業は特に注意しなければなりません。GoProのようなケースがこれにあたります。これは、探検の際の撮影向けのウェアラブル・カメラですが、おそらく最初は、カメラとしての性能や市場規模はたいしたものではなかったと思われます。しかし、実際はサーフィン、サバイバルゲーム、パラグライダー、スキー、ヨット、登山、ダイビングなど活用できるシーンは数多く、SNSの普及と相まって、とどまることを知らない勢いで普及しました。データ至上主義では真に魅力ある事業の選択はできません。むしろ、データの入手ができない事業だからこそ、市場のポテンシャルは大きいのです。見通しを持てるビジョナリーなプロジェクト責任者が望まれるところです。市場の将来性までをふまえると、事業領域の定義と資源の配分は決して容易なことではありません。しかし、少なくとも、「全部の事業をすべからく全力で死守して、攻めて攻めて攻めまくる!」などというメッセージを出さないようにしていただきたいと願っています。もし主張していただくとしたら、「絞り込んで、集中せよ!攻める、守る、捨てる!をはっきりさせよ」です。
<COLUMN2>経営戦略にも条件適合的なアプローチが必要〔*〕私は、専門が産業財マーケティングということもあり、重電、自動車、エレクトロニクス、精密、ハイテク、ICT等の業界の企業のみなさんとのお付き合いが多いのですが、最近は従来のような請負型の伝統的なコンサルティングが減少し、マーケティング・リサーチや海外プロジェクトに関するコンサルティング、そしてコンサルティングと研修のハイブリッドのようなアクション・ベースド・ラーニングのプロジェクトが増えています。アクション・ベースド・ラーニングのプロジェクトでは、部長、本部長クラスの方に、ご自身が担当している事業ユニットに関してビジネス・プランを書いていただくのですが、高業績を上げている事業ユニットのトップが作るプレゼン資料と、そうでない部門の方の資料の間には明らかな違いがある印象を受けています。苦労されている事業部の部長さんのプランは、傾向として、何でもかんでも、てんこ盛り感満載の資料なのです。これでもかという感じで分析フォームを作って、すべての事業や製品に関してがんばる!という感じが濃厚なプレゼンなのに対して、成果を出している部長さんのプレゼンは、攻めるところと守るところ、捨てるところがはっきりしています。また、事業の置かれた環境、つまり将来の予測が可能な事業かどうかで、計画の細かさを使い分けている感じがするプレゼンなのです。予測可能な公共セクターの業務に関するプレゼンには、市場予測をきっちり入れて、そこでのシェアをしっかり確保するための、個々の顧客への価値提案とアプローチが明確に記載されています。予測ができないような新事業に関しては、ミッションとシンプルな戦略仮説(顧客になりそうな企業のリストと、それに対するソリューションのプロトタイプ程度の記載)で、あとは仮説のあてが外れた際のオプションが簡単に説明されている程度のシンプルな提案書なのです。〔*1〕のコラムに書かせていただきましたが、戦略の本質に関する考え方は、実に多岐にわたっています。考え方の違いは、事業に関する環境予測可能性と対環境相互作用性の2つから生じているというのが私の考えです。環境予測可能性とは、市場、競合、マクロ環境の変化をどの程度予測できるかということであり、対環境相互作用性とは、市場や競合等にどの程度影響を行使できるかということを意味します。次ページ右図の第1象限は予測可能性が低く、でも対環境相互作用性が高い業界です。まだ業界が確立されておらず、参入障壁は低く、需要も競合の動向も想定しにくいのですが、こちらの動き次第で業界の構造を大きく変えることができる余地が多くある、例えば、ICTや先端医療機器のような業界です。第2象限は、環境予測可能性、対環境相互作用性ともに高く、企業側が将来ビジョンを主体的に実現していけるような業界、例えば航空業界、防衛業界などです。第3象限は、環境予測可能性が高く安定していますが、こちらから働きかけて市場とか競合に影響を及ぼすことが直接的にできないような業界です。例えば、自動車業界、物流業界などです。最後が予測可能性も対環境相互作用性も低い業界、例えば電子デバイスや建材業界などです。ミンツバーグは、戦略には、将来のことを定める計画(plan)としての側面と、環境が変化するたびに学習を繰り返して適切と考えられる戦略オプションを考え、選択し、実行するという創発的に形成される側面があると指摘しています。創発的に形成されたものが傾向を伴うときにパターン(pattern)として認識されるわけです。さらに、戦略はパースペクティブ、つまり企業ビジョンとしての視点をふまえて検討するという側面と、市場に提供する価値をX軸とY軸で表現した、いわゆるポジショニング・マップ上で自社の製品を位置づけること、つまり、顧客市場に対する提供価値を明確にするという側面があるともコメントしています。戦略とはあらかじめ計画的に定められると同時に創発的に形成されるわけですが、計画性と創発性のどちらを重視するか、経営戦略の策定スタイルをどのように考えるかは、戦略策定の対象としての事業特性に依拠すると考えます。経営戦略策定のスタイルは、事業環境に対して条件適合(コンティンジェンシー)的でなければならないのです。
コメント